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幾光年恋したひ
貴女のお名前を教えてください
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〜20【風変わりは罪か】〜
私は、よく世間から変わった子だと言われる。でもちっとも悲しくなんかない。そんな動じない私はどうやら周りから好まれない傾向があるらしい。
突飛した存在を忌み嫌い、特に自分に無いものを持つ者を羨み憎む習慣は、本当にしょうもないと思う。
別に私は孤独じゃ無いし、カナエ姉さんやしのぶ姉さんも側に居てくれる。だから
ー(本当に悲しくなんてないもの)ー
「ちょっといいかしら栗花落さん」
「何?」
横から話しかけて来た子は、このクラスのトップに君臨する女子とその取り巻きだった。何か厄介ごとに巻き込まれそうな気はしたが、とりあえず話を聞くことにする。(人の話にはしっかりと耳を傾けること)それがしのぶ姉さんの教えだ。
「文化祭の買い出し頼まれてくれない?勿論私達も一緒に行くからさー。帰りは荷物持ち多い方がいいでしょう?人助けだと思ってさぁ」
甘ったるい間延びした言葉使いの内容を暫し考えた末、カナヲはこくりと頷いた。
(人助けになる事をしなさい)それも姉さん達の教えだ。
「わかった。手伝う」
女子高生特有の沸き立ったテンションでありがとうと喜ぶ彼女達。感謝の言葉を言われ、悪い気はしなかった。先程まで感じていた嫌な予感を完全に忘れ、カナヲはボストンバッグを持ち上げる。
暫く道なりを皆で歩いていたが、カナヲは全く彼女達の会話の中に入れない。そもそも話力もテンションも及ばない私を、何故わざわざ付き合わせたのか?今更になって疑問には思った。
ークラスの出し物だから...仕方ないー
そう思いながらテクテク後をついていくと、不意に彼女達が足を止めた。振り返った皆は、心なしか少し不敵な笑みを浮かべている。
周りを見渡すと、人気のない公園の一角に差し掛かっていた。
【騙された】
そう考え着くのに時間はかからなかった。黙ってジッと彼女達を見つめていると、リーダー格の子がおかしそうに吹いた。
「あはは!まさかこんなにあっさり付いてくるなんてさぁ、もっと警戒心持った方がいいんじゃない?あなた。そういう鈍臭いところもイラつくのよねー」
「もう気付いてると思うけど、文化祭の買い出しなんて嘘だからね?呼び出したかったの栗花落さんを」
じりじりと距離を詰めてくる彼女らは、次第に苛々を募らせていく。
「ちょっと見た目が良くて文武両道だからって調子乗ってんなよ?そのニコニコ顔見てるとムカつくんだよ。その化けの皮剥がしてあげる」
ーーーーー
〜21【花開く心】〜
人が変わったような荒っぽい言葉遣いで彼女はカナヲへと迫った。周りの女の子達もニヤニヤ笑みを浮かべてグルになってる。
どんな時でも女の子は笑顔を絶やさない事とカナエ姉さんに言われてたからそうしてるだけで、別に彼女達を馬鹿にしてるわけでもないのだが、どうやらマイナスに捉えられていたらしい。
そんなつもりじゃなかったのに...
「ごめんなさい」
「はぁ?それ何に対してのごめんなの?馬鹿にしてるの?」
嫌な思いをさせたならと謝罪の言葉を述べるも、結局火に油を注ぐだけだった。
人間関係って本当に難しい..。姉さん達はとても優しいけど、世間はそういう人達ばかりじゃない。不器用な私では、上手くいかない事の方が多い。
思えば私は、誰かに教えられた事しか出来ない。臨機応変という言葉は知ってるけど、それを自分の物に出来るかどうかは別で、ステレオタイプに囚われてばかりだから、きっと自分は彼女達を苛つかせる。
ー...どうしたら、上手くいくのだろうー
「何黙ってんだよ...これだけ言われて表情変えないのどうかしてるんじゃないの?気持ち悪いんだよ!」
色々頭の中でパターンを思案していた為反応が遅れた。ハッとした時にはもう遅く、リーダー格の女子の平手が目の前に迫り、ドンッと体を押される。
ー倒れる..ー
他人事のようにぼんやりそう思った。地面に倒れ込む寸前、後ろから何かに支えられる感触がした。
【痛くない...。誰かに助けられた?】
明らかに困惑顔を浮かべている彼女達、ゆっくりと後ろの存在を確認すると、険しく眉を吊り上げている見知らぬ男子生徒の姿があった。
彼は真っ直ぐ彼女達を見据えて、ハキハキとした口調でこう述べた。
「危ないじゃないですか。彼女危うく倒れる所でしたよ?何があったか部外者の俺にはわかりませんので、とやかく言える立場ではないですけど、暴力はいけないと思います。」
「っ!...いくわよ..」
「う、うん..」
罰が悪い状況に彼女達は尻尾を巻いてその場から去っていった。彼ははぁと溜息を吐いて、カナヲに向き直る。
「すみません、勝手な事しました。でも、黙って見ていられなくて..女の子って色々あって大変だと思いますけど、辛かったり悲しかったりしたら、すぐに周りを頼ってくださいね。心が折れちゃったらそこで何もかも終わっちゃいますから。」
ーもし俺が次見かけたら、また助けますからー
その彼の笑顔と言葉が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
ーーーーー
〜22【真珠のブレスレット】〜
「じゃあ俺はこれで」
ぺこりと頭を下げて去って行こうとする彼を、無意識のうちに呼び止めた。
きょとんとした顔で振り返る彼に対し、これだけは確認しておきたいと、カナヲは消え入りそうな声で尋ねる。
「あの..貴方の名前は?」
「俺は、竈門炭治郎といいます。貴女は、栗花落先輩ですね?」
「どうして私の名前」
「あー..俺の親友が美人に目がないもので、栗花落先輩の事もよく噂で聞いてたので知ってました。」
炭治郎と名乗った男子生徒は、あははと照れ臭そうにそう言った。どきりと胸が高鳴る。
彼に名前を知られていた事も、自分が美人という枠で扱われていた事も、何故だか嬉しいと感じた。
今までは、家族以外はどうでもよく無関心でしかなかったのに...自分の反応が自身でも不思議でならなかった。
私は..一体どうしてしまったのだろうか
「あ、もうこんな時間だ!俺帰らないとっすみません!じゃあ、また学園で」
彼はスマートフォンで時刻を確認するやいなや、大急ぎで帰って行った。
カナヲは彼の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くし続けた。
まだ胸の高鳴りは治らない。不思議な感覚だが、嫌な感じはしなくて寧ろ心地がいい。
「竈門..炭治郎..」
先輩と呼ばれたあたりを見ると、恐らく彼は後輩。制服は同じ学園の高等部なので一年生なのだろう。
でも、とても歳下とは思えない程しっかりとしていたし、自分より何倍も心が強い子のような気がした。
あんな風に言ってくれる人は、周りに今まで居なかった..。優しくて、正義感があって、迷走していた自分の心をいとも簡単に救い出してくれた。暖かい心の持ち主だった。
ーまた会えたら、いいなぁー
ふわふわと舞い上がるような気持ちの中、ふと地面を見るとミサンガのようなものが落ちているのが目に入った。
興味本位で拾い上げると、真ん中にパールのようなものがついているブレスレットのような形状のアクセサリーであることがわかった。
ーもしかして、彼が落として行ったのか?..ー
定かではないけど、もしそうなら返してあげないといけないだろう。ひょっとしたら彼にとって大切なものかもしれない。
それに...彼女にとってはとても好都合だった。
これが口実で、彼を見かけたら今度は自分から話掛けられる、そう思ったのだ。
カナヲは大事そうにそれをバッグへしまうと、どこか軽快な足取りで帰路についたのだった。
ーーーーー
〜23【疑いの眼差し】〜
ー禰豆子sideー
「あ..あれっ?」
「どうしたの?お兄ちゃん」
ゴソゴソとバッグの中やら制服のポケットやらをひっくり返して何やら焦った様子の兄を見て、不思議に思った禰豆子は首を傾げてどうしたのかと問いかけた。すると、兄は泣きそうな顔で縋り付いてきた。
「なぁ禰豆子!俺のブレスレット見なかったか?肌身離さずつけてた筈なんだが、どこにもなくて..」
「え!そうなの?..」
兄の言うブレスレットとは、昔ひな姉がくれたお守りの事を指しているのだろう。
かつて、ひな姉の実のお母さんが、趣味で天然石をたくさん収集していたらしい。その遺品の一つ一つを用い、手芸が趣味の姉が家族それぞれの星座石でマクラメブレスレットのお守りを作ってくれた。
六太と茂はまだ幼いので母が保管してるけど、他の家族は皆各々大事にしまってたり、アクセサリーとしてつけたりしていたのだ。
兄はそのブレスレットをもの凄く大事に扱っていたから、この項垂れ様、青冷め様は納得のいく反応だった。まさかどこかに落としたのか..もしかしたら、あの時...とぶつぶつ独り言を言い始め、突拍子もない行動を宣言した。
「俺ちょっと元来た道探してくる!」
「え!もう外暗くなってるよ?危ないし見つかるものも見つからないよ」
「いやでも!あれだけは俺失くすわけにはいかないよ。今ならまだ間に合うかもしれない。見つけないと、じゃないと日向子姉さんに合わせる顔無い」
そう言いながら急いで身軽な私服に着替えて玄関に向かう兄をこれ以上止める事は出来なかった。せっかく姉が作ってくれたもの。それが彼女にとって大事な物の一つを使用して作っているとなれば、兄の気持ちも痛い程わかるから。
スマホだけ片手にスニーカーに履き替えた兄が玄関のドアノブに手をかけた時、ちょうど同じタイミングで扉が外側へ開いた。
「ただいまー。って..あれ、炭治郎?もう外暗いのに今から何処か行くの?」
「!...あ、いや」
まさかこのタイミングで姉が帰ってくるとは..。兄も完全にしどろもどろになっている。ここは妹の私が助け舟を出さなければ
「お帰りひな姉!お兄ちゃんちょっとコンビニ行って来るって」
「コンビニ?」
助かったという兄の眼差しを受け、仮一だよと密かにウインクして見せた。上手く行ったようだ。
すぐ帰ってくると言い残し兄は外へ駆け出した。残された私に姉は少し疑いの眼差しを向けたが、何も言わずに二階に上がった。
ーーーーー
私は、よく世間から変わった子だと言われる。でもちっとも悲しくなんかない。そんな動じない私はどうやら周りから好まれない傾向があるらしい。
突飛した存在を忌み嫌い、特に自分に無いものを持つ者を羨み憎む習慣は、本当にしょうもないと思う。
別に私は孤独じゃ無いし、カナエ姉さんやしのぶ姉さんも側に居てくれる。だから
ー(本当に悲しくなんてないもの)ー
「ちょっといいかしら栗花落さん」
「何?」
横から話しかけて来た子は、このクラスのトップに君臨する女子とその取り巻きだった。何か厄介ごとに巻き込まれそうな気はしたが、とりあえず話を聞くことにする。(人の話にはしっかりと耳を傾けること)それがしのぶ姉さんの教えだ。
「文化祭の買い出し頼まれてくれない?勿論私達も一緒に行くからさー。帰りは荷物持ち多い方がいいでしょう?人助けだと思ってさぁ」
甘ったるい間延びした言葉使いの内容を暫し考えた末、カナヲはこくりと頷いた。
(人助けになる事をしなさい)それも姉さん達の教えだ。
「わかった。手伝う」
女子高生特有の沸き立ったテンションでありがとうと喜ぶ彼女達。感謝の言葉を言われ、悪い気はしなかった。先程まで感じていた嫌な予感を完全に忘れ、カナヲはボストンバッグを持ち上げる。
暫く道なりを皆で歩いていたが、カナヲは全く彼女達の会話の中に入れない。そもそも話力もテンションも及ばない私を、何故わざわざ付き合わせたのか?今更になって疑問には思った。
ークラスの出し物だから...仕方ないー
そう思いながらテクテク後をついていくと、不意に彼女達が足を止めた。振り返った皆は、心なしか少し不敵な笑みを浮かべている。
周りを見渡すと、人気のない公園の一角に差し掛かっていた。
【騙された】
そう考え着くのに時間はかからなかった。黙ってジッと彼女達を見つめていると、リーダー格の子がおかしそうに吹いた。
「あはは!まさかこんなにあっさり付いてくるなんてさぁ、もっと警戒心持った方がいいんじゃない?あなた。そういう鈍臭いところもイラつくのよねー」
「もう気付いてると思うけど、文化祭の買い出しなんて嘘だからね?呼び出したかったの栗花落さんを」
じりじりと距離を詰めてくる彼女らは、次第に苛々を募らせていく。
「ちょっと見た目が良くて文武両道だからって調子乗ってんなよ?そのニコニコ顔見てるとムカつくんだよ。その化けの皮剥がしてあげる」
ーーーーー
〜21【花開く心】〜
人が変わったような荒っぽい言葉遣いで彼女はカナヲへと迫った。周りの女の子達もニヤニヤ笑みを浮かべてグルになってる。
どんな時でも女の子は笑顔を絶やさない事とカナエ姉さんに言われてたからそうしてるだけで、別に彼女達を馬鹿にしてるわけでもないのだが、どうやらマイナスに捉えられていたらしい。
そんなつもりじゃなかったのに...
「ごめんなさい」
「はぁ?それ何に対してのごめんなの?馬鹿にしてるの?」
嫌な思いをさせたならと謝罪の言葉を述べるも、結局火に油を注ぐだけだった。
人間関係って本当に難しい..。姉さん達はとても優しいけど、世間はそういう人達ばかりじゃない。不器用な私では、上手くいかない事の方が多い。
思えば私は、誰かに教えられた事しか出来ない。臨機応変という言葉は知ってるけど、それを自分の物に出来るかどうかは別で、ステレオタイプに囚われてばかりだから、きっと自分は彼女達を苛つかせる。
ー...どうしたら、上手くいくのだろうー
「何黙ってんだよ...これだけ言われて表情変えないのどうかしてるんじゃないの?気持ち悪いんだよ!」
色々頭の中でパターンを思案していた為反応が遅れた。ハッとした時にはもう遅く、リーダー格の女子の平手が目の前に迫り、ドンッと体を押される。
ー倒れる..ー
他人事のようにぼんやりそう思った。地面に倒れ込む寸前、後ろから何かに支えられる感触がした。
【痛くない...。誰かに助けられた?】
明らかに困惑顔を浮かべている彼女達、ゆっくりと後ろの存在を確認すると、険しく眉を吊り上げている見知らぬ男子生徒の姿があった。
彼は真っ直ぐ彼女達を見据えて、ハキハキとした口調でこう述べた。
「危ないじゃないですか。彼女危うく倒れる所でしたよ?何があったか部外者の俺にはわかりませんので、とやかく言える立場ではないですけど、暴力はいけないと思います。」
「っ!...いくわよ..」
「う、うん..」
罰が悪い状況に彼女達は尻尾を巻いてその場から去っていった。彼ははぁと溜息を吐いて、カナヲに向き直る。
「すみません、勝手な事しました。でも、黙って見ていられなくて..女の子って色々あって大変だと思いますけど、辛かったり悲しかったりしたら、すぐに周りを頼ってくださいね。心が折れちゃったらそこで何もかも終わっちゃいますから。」
ーもし俺が次見かけたら、また助けますからー
その彼の笑顔と言葉が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
ーーーーー
〜22【真珠のブレスレット】〜
「じゃあ俺はこれで」
ぺこりと頭を下げて去って行こうとする彼を、無意識のうちに呼び止めた。
きょとんとした顔で振り返る彼に対し、これだけは確認しておきたいと、カナヲは消え入りそうな声で尋ねる。
「あの..貴方の名前は?」
「俺は、竈門炭治郎といいます。貴女は、栗花落先輩ですね?」
「どうして私の名前」
「あー..俺の親友が美人に目がないもので、栗花落先輩の事もよく噂で聞いてたので知ってました。」
炭治郎と名乗った男子生徒は、あははと照れ臭そうにそう言った。どきりと胸が高鳴る。
彼に名前を知られていた事も、自分が美人という枠で扱われていた事も、何故だか嬉しいと感じた。
今までは、家族以外はどうでもよく無関心でしかなかったのに...自分の反応が自身でも不思議でならなかった。
私は..一体どうしてしまったのだろうか
「あ、もうこんな時間だ!俺帰らないとっすみません!じゃあ、また学園で」
彼はスマートフォンで時刻を確認するやいなや、大急ぎで帰って行った。
カナヲは彼の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くし続けた。
まだ胸の高鳴りは治らない。不思議な感覚だが、嫌な感じはしなくて寧ろ心地がいい。
「竈門..炭治郎..」
先輩と呼ばれたあたりを見ると、恐らく彼は後輩。制服は同じ学園の高等部なので一年生なのだろう。
でも、とても歳下とは思えない程しっかりとしていたし、自分より何倍も心が強い子のような気がした。
あんな風に言ってくれる人は、周りに今まで居なかった..。優しくて、正義感があって、迷走していた自分の心をいとも簡単に救い出してくれた。暖かい心の持ち主だった。
ーまた会えたら、いいなぁー
ふわふわと舞い上がるような気持ちの中、ふと地面を見るとミサンガのようなものが落ちているのが目に入った。
興味本位で拾い上げると、真ん中にパールのようなものがついているブレスレットのような形状のアクセサリーであることがわかった。
ーもしかして、彼が落として行ったのか?..ー
定かではないけど、もしそうなら返してあげないといけないだろう。ひょっとしたら彼にとって大切なものかもしれない。
それに...彼女にとってはとても好都合だった。
これが口実で、彼を見かけたら今度は自分から話掛けられる、そう思ったのだ。
カナヲは大事そうにそれをバッグへしまうと、どこか軽快な足取りで帰路についたのだった。
ーーーーー
〜23【疑いの眼差し】〜
ー禰豆子sideー
「あ..あれっ?」
「どうしたの?お兄ちゃん」
ゴソゴソとバッグの中やら制服のポケットやらをひっくり返して何やら焦った様子の兄を見て、不思議に思った禰豆子は首を傾げてどうしたのかと問いかけた。すると、兄は泣きそうな顔で縋り付いてきた。
「なぁ禰豆子!俺のブレスレット見なかったか?肌身離さずつけてた筈なんだが、どこにもなくて..」
「え!そうなの?..」
兄の言うブレスレットとは、昔ひな姉がくれたお守りの事を指しているのだろう。
かつて、ひな姉の実のお母さんが、趣味で天然石をたくさん収集していたらしい。その遺品の一つ一つを用い、手芸が趣味の姉が家族それぞれの星座石でマクラメブレスレットのお守りを作ってくれた。
六太と茂はまだ幼いので母が保管してるけど、他の家族は皆各々大事にしまってたり、アクセサリーとしてつけたりしていたのだ。
兄はそのブレスレットをもの凄く大事に扱っていたから、この項垂れ様、青冷め様は納得のいく反応だった。まさかどこかに落としたのか..もしかしたら、あの時...とぶつぶつ独り言を言い始め、突拍子もない行動を宣言した。
「俺ちょっと元来た道探してくる!」
「え!もう外暗くなってるよ?危ないし見つかるものも見つからないよ」
「いやでも!あれだけは俺失くすわけにはいかないよ。今ならまだ間に合うかもしれない。見つけないと、じゃないと日向子姉さんに合わせる顔無い」
そう言いながら急いで身軽な私服に着替えて玄関に向かう兄をこれ以上止める事は出来なかった。せっかく姉が作ってくれたもの。それが彼女にとって大事な物の一つを使用して作っているとなれば、兄の気持ちも痛い程わかるから。
スマホだけ片手にスニーカーに履き替えた兄が玄関のドアノブに手をかけた時、ちょうど同じタイミングで扉が外側へ開いた。
「ただいまー。って..あれ、炭治郎?もう外暗いのに今から何処か行くの?」
「!...あ、いや」
まさかこのタイミングで姉が帰ってくるとは..。兄も完全にしどろもどろになっている。ここは妹の私が助け舟を出さなければ
「お帰りひな姉!お兄ちゃんちょっとコンビニ行って来るって」
「コンビニ?」
助かったという兄の眼差しを受け、仮一だよと密かにウインクして見せた。上手く行ったようだ。
すぐ帰ってくると言い残し兄は外へ駆け出した。残された私に姉は少し疑いの眼差しを向けたが、何も言わずに二階に上がった。
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