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幾光年恋したひ
貴女のお名前を教えてください
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〜17【無い物強請り】〜
普通、いくら弟でも実の姉に対してこんな表情するものだろうか?...
明らかに動揺してるのが見て取れる。彼女の仕草を目の当たりにした途端耳まで真っ赤にして、ベーカリートレイとトングを奥から持ってくる際も、慌てていたのか思いきりテーブルに腰をぶつけてた。
「やだ、ちょっと大丈夫?」
「っ大丈夫だ!すまない..今袋に詰めるから、ごめんね時透君」
炭治郎さんは気恥ずかしそうな顔で僕に謝り、ちくわパンと焼きたてのメロンパンを数個袋に詰めてくれた。
本当にお代は結構だからと、親切にも2人共そう言ってくれたので、無一郎はお言葉に甘える事にしたのだった。
「ありがとうございました。また来ますね」
そう言ってぺこりと頭を下げると、彼女はまた来てねと言ってくれて、隣の彼もにこやかな笑みを浮かべ頷いてくれた。
うん...今は【普通】の姉弟 だ。
さっきの違和感は何だったのだろう?
帰りしな、手に持っている袋からいい匂いがしきりに漂ってきて、ちょうど小腹の空いていた無一郎は近くの公園に立ち寄ると、手頃なベンチに腰掛けた。
ーあ...ちゃんとそれぞれ2つずつ入れてくれている。
気を使ってくれたのだろうか。僕に兄さんが居ること、彼女が炭治郎さんに話したのかな?....ー
比較的サイズが小さめだったちくわパンの方を手に取り、何気なく口に運んだ。
味噌だれの甘辛さと、小麦の風味が絶妙にマッチしていて、ちくわの魚介の風味も負けてない。咀嚼 する度に全ての旨味が口の中で弾けるようだった。
「...美味しい」
今まで食べたどのパンよりも、ここのが一番美味しかった。
あっという間に食べ終わってしまったけど、ふとさっきの彼女の言葉を思い出す。
【炭治郎と試行錯誤して作ったから、味は保証するわ】
それはつまり...
2人で仲良く肩を並べて、共同作業しながら作ったという意味で、話を聞いた限り新作を作る時そういった事は日常茶飯事なのだと悟る。
家族なのだから、彼らにとってみれば当たり前なのだろうが、僕はこうして会いに行かない限り日向子さんと会話する事さえままならなくなってしまった。
ー炭治郎さんが、とても羨ましい..ー
あの立場に変わりたい。そしたら毎日挨拶も出来るし、話したい時にいつでも話せるし、あの癒される笑顔も間近にたくさん見れるのに...
「っ..」
無一郎は空になったビニールをくしゃりと丸めると、道すがらゴミ箱へと投げ捨てた。
ーーーーー
〜18【特権】〜
ー炭治郎sideー
休日の店は特に大忙しだ。父と共に、俺はほぼ裏に篭りっきりでパンを捏ねては焼いての繰り返しで、レジ打ちやパンの陳列は母と日向子姉さん、禰豆子の3人が手分けしてやってくれている。
ひっきりなしに客が出入りしていたピーク時を過ぎて、ようやく少し落ち着いて来た昼過ぎ。姉さん達がちょうど休憩中だった為、来客を常に気にしていた炭治郎は、聞き慣れたドアのベルの音に反応し表に顔を出した。
「いらっしゃいませー!」
ちょうど焼き上がったばかりのメロンパンを勧めると、そのお客さんは吃驚したように炭治郎を見た。
翡翠色の瞳と、男子にしては長めのふわっとした髪の毛。あどけない顔はかなり整っていて同性から見てもさぞかしモテるんだろうなぁと炭治郎はぼんやり思った。
にしても、どこかで見た事があるような顔だ...どこだったろうか?
「君、日向子さんの弟さん?」
そう言われ、今度は炭治郎が目を丸くする番だった。
彼女の事を知っている..?
まじまじと彼の顔を観察していたら唐突に思い出した。
確かこの前、将棋界を沸かせている期待の新人がいるとテレビで特集されていた。それを居間で見ていたら、日向子姉さんが興奮したようにテレビに釘付けとなっていた。その人物にそっくりだったのだ。
「わぁ!凄いテレビに出てるわ。」
「....誰?」
「彼ね、よくうちのバイト先に来てくれる常連さんで、しかも将棋界ではかなり名前が知られているんだって、まだ中学生なのに凄いわよね。」
彼女は目を輝かせてそう炭治郎に語った。何となく面白くなかったけれど、その場で顔には出さず、さも興味があるかのように相槌を打ったのを覚えている。
ー名前は....確か【時透】ー
日向子姉さんの知り合いならば無我には出来ないと思った。お得意の人当たりの良さで接すれば、最初彼から発せられていたぎくしゃくした匂いも段々と柔らかくなっていった。
そして不意に彼は、あるパンの側に寄って美味しそうだと溢した。
「あぁ、それ考案したのは」
炭治郎が自慢げに日向子の名前を出そうとした時、奥からちょうど張本人が戻ってきて、2人の間にひょっこりと顔を出す。
彼女が考案したのは自分だが、俺と2人で作ったものだと言ったのを聞いて、つい嬉しくなった。
何故なら、新作のパン作りは主に炭治郎と日向子の二人三脚で行う事が多い。それは言うなれば
ー日向子姉さんを独占出来る俺の特権なのだー
ーーーーー
〜19【同じ意味】〜
それに日向子姉さんは人を立てるのが上手い。
自分のアイデアで生み出されたパンが好まれているのは素直に嬉しい筈だが、ちゃんとその制作の裏には俺が居ることもごく自然に伝えてくれるし、味の保証はすると言ってくれたのも凄く嬉しい。
ー日向子姉さんのこういう所が本当に好きなんだー
そう彼女の魅力を1人実感していた時、不意に日向子の顔がずいっと目の前に現れた。突然詰められた距離感にあからさまに反応する。
「ねぇ炭治郎、今日はお代貰わないであげて?いつもバイト先に来てくれてたからお礼がしたいの」
そう言うと彼女は、ぱっと両手の平を合わせ可愛らしく首を傾げおねだりポーズをした。その瞬間、炭治郎の思考は呆気なくショートする。
日向子姉さんがこんなあざと可愛い仕草をする事も普段無ければ、そもそも俺にお願いをする事自体が珍しい。
その姿に完全に絆 された炭治郎は、二つ返事で了承するとトレーとトングを取りに奥へと移動した。その途中ガンと腰をテーブルに打ち付けてしまって、痛みよりも恥ずかしさの方が上回り、思わず顔から火が出そうになった。
ほら...時透君もびっくりしてるよ
【日向子姉さんがあんな可愛い仕草するから、いけない...】
動揺していたものの、袋詰めの工程はさすがに体に染み付いているもので難なくこなすことは出来た。
はいと彼にそれを渡すと、やっぱりただで貰うのは忍びないと言い始めは遠慮していたが、彼女の押しもあり、やがて丁寧に礼を述べて受け取ってくれた。
ー礼儀正しい子だなぁ..ー
無一郎の印象は実際炭治郎にもかなり好ましく写った。親の教育が行き届いてるのか、或いは大人社会に揉まれて培われてきた経験故なのかもしれない。
日向子がまた来てねと笑顔で手を振る横で、炭治郎もまた彼に手を振った。
すると時透君はにこりと笑って手を振り返し店を後にした。
「ね、可愛い子でしょう?炭治郎もまた学園で会う機会があるかもしれないね」
「..あぁ...そうだな。」
...確かに凄くいい子そうだけど。
ただ一つ、【日向子姉さんと仲が良くて気に入られている男の子】その点だけはあまり好ましくない。
会話の様子を節々に聞いていたが、かなり親しげで戸惑った。
それに、これは俺の感だけれど..
ー時透君もまた、【俺と同じ意味の好意】を彼女に寄せているような、そんな気がしたのだー
ーーーーー
普通、いくら弟でも実の姉に対してこんな表情するものだろうか?...
明らかに動揺してるのが見て取れる。彼女の仕草を目の当たりにした途端耳まで真っ赤にして、ベーカリートレイとトングを奥から持ってくる際も、慌てていたのか思いきりテーブルに腰をぶつけてた。
「やだ、ちょっと大丈夫?」
「っ大丈夫だ!すまない..今袋に詰めるから、ごめんね時透君」
炭治郎さんは気恥ずかしそうな顔で僕に謝り、ちくわパンと焼きたてのメロンパンを数個袋に詰めてくれた。
本当にお代は結構だからと、親切にも2人共そう言ってくれたので、無一郎はお言葉に甘える事にしたのだった。
「ありがとうございました。また来ますね」
そう言ってぺこりと頭を下げると、彼女はまた来てねと言ってくれて、隣の彼もにこやかな笑みを浮かべ頷いてくれた。
うん...今は【普通】の
さっきの違和感は何だったのだろう?
帰りしな、手に持っている袋からいい匂いがしきりに漂ってきて、ちょうど小腹の空いていた無一郎は近くの公園に立ち寄ると、手頃なベンチに腰掛けた。
ーあ...ちゃんとそれぞれ2つずつ入れてくれている。
気を使ってくれたのだろうか。僕に兄さんが居ること、彼女が炭治郎さんに話したのかな?....ー
比較的サイズが小さめだったちくわパンの方を手に取り、何気なく口に運んだ。
味噌だれの甘辛さと、小麦の風味が絶妙にマッチしていて、ちくわの魚介の風味も負けてない。
「...美味しい」
今まで食べたどのパンよりも、ここのが一番美味しかった。
あっという間に食べ終わってしまったけど、ふとさっきの彼女の言葉を思い出す。
【炭治郎と試行錯誤して作ったから、味は保証するわ】
それはつまり...
2人で仲良く肩を並べて、共同作業しながら作ったという意味で、話を聞いた限り新作を作る時そういった事は日常茶飯事なのだと悟る。
家族なのだから、彼らにとってみれば当たり前なのだろうが、僕はこうして会いに行かない限り日向子さんと会話する事さえままならなくなってしまった。
ー炭治郎さんが、とても羨ましい..ー
あの立場に変わりたい。そしたら毎日挨拶も出来るし、話したい時にいつでも話せるし、あの癒される笑顔も間近にたくさん見れるのに...
「っ..」
無一郎は空になったビニールをくしゃりと丸めると、道すがらゴミ箱へと投げ捨てた。
ーーーーー
〜18【特権】〜
ー炭治郎sideー
休日の店は特に大忙しだ。父と共に、俺はほぼ裏に篭りっきりでパンを捏ねては焼いての繰り返しで、レジ打ちやパンの陳列は母と日向子姉さん、禰豆子の3人が手分けしてやってくれている。
ひっきりなしに客が出入りしていたピーク時を過ぎて、ようやく少し落ち着いて来た昼過ぎ。姉さん達がちょうど休憩中だった為、来客を常に気にしていた炭治郎は、聞き慣れたドアのベルの音に反応し表に顔を出した。
「いらっしゃいませー!」
ちょうど焼き上がったばかりのメロンパンを勧めると、そのお客さんは吃驚したように炭治郎を見た。
翡翠色の瞳と、男子にしては長めのふわっとした髪の毛。あどけない顔はかなり整っていて同性から見てもさぞかしモテるんだろうなぁと炭治郎はぼんやり思った。
にしても、どこかで見た事があるような顔だ...どこだったろうか?
「君、日向子さんの弟さん?」
そう言われ、今度は炭治郎が目を丸くする番だった。
彼女の事を知っている..?
まじまじと彼の顔を観察していたら唐突に思い出した。
確かこの前、将棋界を沸かせている期待の新人がいるとテレビで特集されていた。それを居間で見ていたら、日向子姉さんが興奮したようにテレビに釘付けとなっていた。その人物にそっくりだったのだ。
「わぁ!凄いテレビに出てるわ。」
「....誰?」
「彼ね、よくうちのバイト先に来てくれる常連さんで、しかも将棋界ではかなり名前が知られているんだって、まだ中学生なのに凄いわよね。」
彼女は目を輝かせてそう炭治郎に語った。何となく面白くなかったけれど、その場で顔には出さず、さも興味があるかのように相槌を打ったのを覚えている。
ー名前は....確か【時透】ー
日向子姉さんの知り合いならば無我には出来ないと思った。お得意の人当たりの良さで接すれば、最初彼から発せられていたぎくしゃくした匂いも段々と柔らかくなっていった。
そして不意に彼は、あるパンの側に寄って美味しそうだと溢した。
「あぁ、それ考案したのは」
炭治郎が自慢げに日向子の名前を出そうとした時、奥からちょうど張本人が戻ってきて、2人の間にひょっこりと顔を出す。
彼女が考案したのは自分だが、俺と2人で作ったものだと言ったのを聞いて、つい嬉しくなった。
何故なら、新作のパン作りは主に炭治郎と日向子の二人三脚で行う事が多い。それは言うなれば
ー日向子姉さんを独占出来る俺の特権なのだー
ーーーーー
〜19【同じ意味】〜
それに日向子姉さんは人を立てるのが上手い。
自分のアイデアで生み出されたパンが好まれているのは素直に嬉しい筈だが、ちゃんとその制作の裏には俺が居ることもごく自然に伝えてくれるし、味の保証はすると言ってくれたのも凄く嬉しい。
ー日向子姉さんのこういう所が本当に好きなんだー
そう彼女の魅力を1人実感していた時、不意に日向子の顔がずいっと目の前に現れた。突然詰められた距離感にあからさまに反応する。
「ねぇ炭治郎、今日はお代貰わないであげて?いつもバイト先に来てくれてたからお礼がしたいの」
そう言うと彼女は、ぱっと両手の平を合わせ可愛らしく首を傾げおねだりポーズをした。その瞬間、炭治郎の思考は呆気なくショートする。
日向子姉さんがこんなあざと可愛い仕草をする事も普段無ければ、そもそも俺にお願いをする事自体が珍しい。
その姿に完全に
ほら...時透君もびっくりしてるよ
【日向子姉さんがあんな可愛い仕草するから、いけない...】
動揺していたものの、袋詰めの工程はさすがに体に染み付いているもので難なくこなすことは出来た。
はいと彼にそれを渡すと、やっぱりただで貰うのは忍びないと言い始めは遠慮していたが、彼女の押しもあり、やがて丁寧に礼を述べて受け取ってくれた。
ー礼儀正しい子だなぁ..ー
無一郎の印象は実際炭治郎にもかなり好ましく写った。親の教育が行き届いてるのか、或いは大人社会に揉まれて培われてきた経験故なのかもしれない。
日向子がまた来てねと笑顔で手を振る横で、炭治郎もまた彼に手を振った。
すると時透君はにこりと笑って手を振り返し店を後にした。
「ね、可愛い子でしょう?炭治郎もまた学園で会う機会があるかもしれないね」
「..あぁ...そうだな。」
...確かに凄くいい子そうだけど。
ただ一つ、【日向子姉さんと仲が良くて気に入られている男の子】その点だけはあまり好ましくない。
会話の様子を節々に聞いていたが、かなり親しげで戸惑った。
それに、これは俺の感だけれど..
ー時透君もまた、【俺と同じ意味の好意】を彼女に寄せているような、そんな気がしたのだー
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