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幾光年恋したひ
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〜9【絹糸のように美しく】〜
あの時の俺はどうかしてたんだろうか..
今は楽しい筈の煉獄先生の授業中にもかかわらず、炭治郎は窓の外に釘付けだった。
ちょうど日向子姉さんのクラスが外で体力テストをしている最中で、彼女の姿も目視できる。
普段はハーフアップにしている長い髪の毛も、運動中はポニーテールにしており、走るたびに左右に揺れるそれがとても愛らしい。
昨日、無我夢中であんな事を連ねてしまったけど、多分変に思われたよな。
家に帰ってからも何であんな言葉を彼女に言ってしまったのか。自分でもわからずに頭を抱え込んでしまった。
けど、何故だか彼女が、より一層儚く脆い女性 のように思えてしまったのだ。
別に、今の平和なご時勢よっぽどの事がない限りは、トラブルに巻き込まれるなんてないはずなのに。
あの時...
日向子姉さんが痛ましい姿で笑ってる顔が目に浮かんだ気がしたのだ。
そのヴィジョンを見たら、胸が張り裂けそうになって堪らなくて、俺は
....ぃ.....おい...
「おい炭治郎」
「っ!」
バッと隣を振り向くと、善逸が呆れ顔でこちらを見ていた。
「お前、日向子さん見過ぎ。いい加減にしないといくら煉獄先生でも怒られるぞ?」
善逸はシャーペンでくいと前の方を刺す。
咄嗟に教壇の方を見れば、じっとこちらを凝視している煉獄先生と目が合った。
やばい...
炭治郎はかぁっと顔を熱くさせ身を縮こませる。そんなに俺、外見てたのか。
気付かなかった。
「何かあるなら相談乗るからさ。俺が言うのもなんだけど、メリハリは付けろよな。お前らしくないよ」
「...すまない。ありがとう善逸」
そう言うと、彼はふっと笑みを溢したのだった。
彼は炭治郎の想いを知ってくれている数少ない人物の一人だった。
だからこそ、善逸には色々と素を曝け出す事が出来る。とてもありがたい。
日向子姉さんの体裁もあるから、そもそも俺達姉弟が血縁関係にない家族というのを知る人物も片指数える程度なので、善逸はある意味特別だ。
最も、彼は感が鋭いのでバレてしまったと言った方が正しいのか。
ふと再度窓に目をやった時
ちょうど彼女が高飛びで助走をつけている途中だった。さすがは日向子姉さんだ、運動神経が良...
息を、飲んだ
バッと飛び上がった瞬間に大きく上体を反らした。
彼女の絹糸状の髪の毛がなびいて...
とても、美しかった。
ーーーーー
〜10【額の痛み】〜
見惚れていられたのも束の間で、突然刺すような痛みがこめかみに走った。
断続的に続くようなそれに、思わず眉根を寄せ押さえつけていると、異変に気付いた善逸は吃驚した様子で慌てて声をかけてきた。
「おい、いきなりどうした?大丈夫かよ」
「大丈夫..少しすれば、治る」
一体どうしたというのか。
日向子姉さんのあの姿を見た瞬間、突然頭の中が情報過多に陥ったような感覚になった。その癖それが何の記憶か何一つわからない。
そんな矛盾している状況さえも、この痛みに拍車をかけているような気がした。
いよいよ冷や汗が噴き出てきた彼を、見るに見かねた善逸はその場でサッと手をあげる。
「煉獄先生、竈門君が体調悪そうなんですけど」
煉獄先生は彼を一瞥するや否や、事態を察してくれたようで、ただちに医務室に行くよう指示をした。
「大丈夫か?誰か付き添わせた方がいいか?」
ハキハキとした口調で煉獄先生はそう気遣ってくれたが、炭治郎は一人で大丈夫ですと返し、シンと静まり返る廊下を歩き出した。
何とか医務室まで辿り着きガラリと戸を開けると、薬品棚の前に立っていた珠世先生がこちらを振り返る。
「あら、体調不良ですか?」
「すみません..急に歴史の授業中に頭痛が酷くなってしまって。」
あらまぁ大変と口元を手で覆うと、すぐさま炭治郎をあいてるベッドへと誘導した。
「吐き気はないですか?」
「はい、それは大丈夫です。」
「じゃあ少し横になって休みましょうね。次の授業は何ですか?」
冨岡先生の体育だと伝えると、それは厳しいわねと言い、彼には私から休ませると伝えておきますと言ってくれた。
冨岡先生には申し訳ないが、体調不良の状態で駄々をこねても珠世先生は有無を言わさぬ人なので、ここは大人しく言う事を聞く事にした。
...
しばらくしてふと目が覚めた頃には、すっかり痛みは引いていて、あの頭痛は何だったのかと首を傾げる程だった。
教卓に座っている珠世先生に、お陰様で治ったので戻りますと伝えると、彼女は炭治郎を呼び止めてこう話した。
「あんまり無茶はしないでね。炭治郎さんの事だから疲れが溜まっていたんでしょう。あ、そうだわ。先程日向子さんが来てましたよ。」
「!..彼女が、何で」
「ちょうど冨岡先生に報告しに行った時たまたまあの子が居合わせたのです。心配そうにしてましたから、後で声をかけてあげてね。」
珠世先生は優しい笑みを向けてそう話した。
ーーーーー
〜11【邪な感情】〜
その後は特に体調の変化もなく残りの授業を受けて、炭治郎は帰路に就いた。
善逸や伊之助と別れて自宅に向かって歩いていると、ちょうど後ろから六太の声が響いてきた。
「兄ちゃん!兄ちゃーん!」
勢い余って抱きついてきた幼い弟を優しく受け止め、炭治郎は目線を合わせるようにしゃがんで頭を撫でる。
六太がいるということは...
「炭治郎!」
その数メートル後ろから日向子姉さんの声がする。
いつも六太が保育園の日は、家業で忙しい両親に代わって、学校終わりの日向子姉さんが迎えに行っているのだ。彼女は少し驚いたような、心配そうな表情で近づいて来た。
「頭痛はもう大丈夫なの?珍しいわね体調不良なんて、冨岡先生と珠世先生が話してるの聞いてびっくりしたのよ。」
「あぁ、もう大丈夫だ。俺も珠世先生から日向子姉さんが医務室まで来てくれてたって聞いて、心配かけてごめんな。ありがとう。」
炭治郎が申し訳ないと頭を下げると、いいのよそんな事気にしないでと手を忙しなく横に振った。
「きっと疲れが溜まってたのよ。いつも朝も早いのに、最近はテスト勉強で夜寝るのも遅いんでしょう?」
図星な為ぎくりと肩を強張らせると、炭治郎は分かりやすいからお見通しなのよと可愛らしく頬を膨らました。
彼女は普段必要以上に干渉はして来ないけれど、それでも見る所はちゃんと見てくれている。その距離感が炭治郎としてはちょうどよくて、何より自分の事を気にかけてくれているのだと知ると、嬉しくて思わず口元が緩んでしまう。
「こら、何笑ってるの。私は真面目に心配してるんだからね」
「ぅ...ごめんなさい、程々にします。」
そう言うと日向子姉さんは、そうしてくださいねと戯 けたように笑って見せた。
そんな無邪気な表情に不覚にもどきりと胸が高鳴り咄嗟に視線をそらした。
けど、彼女は既に六太の手を取って歩き出していたので、幸いこの赤くなった顔は誰にも見られずに済んだようだ。
「六太、今日は何食べたい?」
「えーとね、ハンバーグがいいなぁ!」
そんな姉と弟の何気ない会話を後ろから聞いていると、こんなに微笑ましい光景に恵まれている自分は幸せ者だなぁと思う。
そして、そんな純粋な気持ちとは裏腹な感情も見え隠れする。さらさらと歩く度に揺れる彼女の透き通るような髪を見つめていると、不意にこんな邪 な思いに駆られるのだ。
ー彼女の髪に、肌に、触れたいとー
ーーーーー
〜12【理性の範囲外】〜
「炭治郎、どうしたの?」
不意に歩みを止めた炭治郎を不思議に思ったらしい彼女がくるりと振り返った。
きょとんとした丸い目を見た瞬間、ハッと我に帰る。
「、何でもない。」
顔色を悟られないよう俯き加減で、ずんずんと進んでいく彼を、六太と日向子は首を傾げながら顔を見合わせた。
ー抑えろ、こんな事考えちゃいけないっー
この感覚は、数年前から炭治郎自身も自覚していた。
理性の範囲外で、勝手にひた走っていく感情。
日向子姉さんの事を、異性として好いているのだと気付いた頃より、思春期に突入してからと言うもの、ふとしたきっかけで湧き上がる欲求。
でも、俺はこの気持ちを発した事はおろか、悟らせた事もない。
と言うか、そんな事出来るわけがない。
いくら血縁関係にないとは言え、家族として一つ屋根の下共に生活している者からそんな想いを抱かれていると知れば、そんなの普通に気持ち悪がるだろう。
他の家族にバレればそれこそ....彼女にも家族にも、皆に迷惑がかかる。
俺は、今ようやく笑顔を取り戻した彼女を、困らせたくないし悲しませたくない。
考えなくても済む悩みは、増やすべきではない。
だから、この想いはひた隠しにしなければいけないのだ。
例え、自分の心が異常な渇きを訴えているとしても、徹底的に無視をきめこむ。
ーそうしないと、いけないんだ....ー
家路に着くと、いつものように帰宅している家族がわっと玄関まで出迎えてくれた。
「お帰りなさーい!」
「あ、三人一緒なんだね良かったぁ」
靴を脱ぐや否や下の子達が我先にと群がってくる。
炭兄ご飯出来るまで宿題教えてくれよーと竹雄が炭治郎の袖をくいと寄せるが、それを日向子がやんわりと制す。
「炭治郎今日学校で体調悪くなっちゃったから、皆あんまりおねだりしちゃ駄目よ?竹雄、夕飯の後で良ければ宿題なら私が見てあげるからそれでもいい?」
え、そうなの?と目を丸くした後、彼は心配そうに眉を引っ下げて炭治郎を労った。
「そっか、炭兄疲れてるんだな。ごめん。宿題はひな姉に見て貰うよ!」
それはそれは嬉しそうに顔を綻ばせる竹雄。そんな様子を見たら、咄嗟にこう口に出てしまった。
「大丈夫だ俺が見る!」
え?とぱちくりさせる日向子に構う事なく、日向子姉さんも忙しいんだと言って炭治郎は混乱している弟の背中をぐいっと押し込んだ。
あぁ、またやらかした
まさか、12歳の弟にまで嫉妬するだなんて..
ーーーーー
あの時の俺はどうかしてたんだろうか..
今は楽しい筈の煉獄先生の授業中にもかかわらず、炭治郎は窓の外に釘付けだった。
ちょうど日向子姉さんのクラスが外で体力テストをしている最中で、彼女の姿も目視できる。
普段はハーフアップにしている長い髪の毛も、運動中はポニーテールにしており、走るたびに左右に揺れるそれがとても愛らしい。
昨日、無我夢中であんな事を連ねてしまったけど、多分変に思われたよな。
家に帰ってからも何であんな言葉を彼女に言ってしまったのか。自分でもわからずに頭を抱え込んでしまった。
けど、何故だか彼女が、より一層儚く脆い
別に、今の平和なご時勢よっぽどの事がない限りは、トラブルに巻き込まれるなんてないはずなのに。
あの時...
日向子姉さんが痛ましい姿で笑ってる顔が目に浮かんだ気がしたのだ。
そのヴィジョンを見たら、胸が張り裂けそうになって堪らなくて、俺は
....ぃ.....おい...
「おい炭治郎」
「っ!」
バッと隣を振り向くと、善逸が呆れ顔でこちらを見ていた。
「お前、日向子さん見過ぎ。いい加減にしないといくら煉獄先生でも怒られるぞ?」
善逸はシャーペンでくいと前の方を刺す。
咄嗟に教壇の方を見れば、じっとこちらを凝視している煉獄先生と目が合った。
やばい...
炭治郎はかぁっと顔を熱くさせ身を縮こませる。そんなに俺、外見てたのか。
気付かなかった。
「何かあるなら相談乗るからさ。俺が言うのもなんだけど、メリハリは付けろよな。お前らしくないよ」
「...すまない。ありがとう善逸」
そう言うと、彼はふっと笑みを溢したのだった。
彼は炭治郎の想いを知ってくれている数少ない人物の一人だった。
だからこそ、善逸には色々と素を曝け出す事が出来る。とてもありがたい。
日向子姉さんの体裁もあるから、そもそも俺達姉弟が血縁関係にない家族というのを知る人物も片指数える程度なので、善逸はある意味特別だ。
最も、彼は感が鋭いのでバレてしまったと言った方が正しいのか。
ふと再度窓に目をやった時
ちょうど彼女が高飛びで助走をつけている途中だった。さすがは日向子姉さんだ、運動神経が良...
息を、飲んだ
バッと飛び上がった瞬間に大きく上体を反らした。
彼女の絹糸状の髪の毛がなびいて...
とても、美しかった。
ーーーーー
〜10【額の痛み】〜
見惚れていられたのも束の間で、突然刺すような痛みがこめかみに走った。
断続的に続くようなそれに、思わず眉根を寄せ押さえつけていると、異変に気付いた善逸は吃驚した様子で慌てて声をかけてきた。
「おい、いきなりどうした?大丈夫かよ」
「大丈夫..少しすれば、治る」
一体どうしたというのか。
日向子姉さんのあの姿を見た瞬間、突然頭の中が情報過多に陥ったような感覚になった。その癖それが何の記憶か何一つわからない。
そんな矛盾している状況さえも、この痛みに拍車をかけているような気がした。
いよいよ冷や汗が噴き出てきた彼を、見るに見かねた善逸はその場でサッと手をあげる。
「煉獄先生、竈門君が体調悪そうなんですけど」
煉獄先生は彼を一瞥するや否や、事態を察してくれたようで、ただちに医務室に行くよう指示をした。
「大丈夫か?誰か付き添わせた方がいいか?」
ハキハキとした口調で煉獄先生はそう気遣ってくれたが、炭治郎は一人で大丈夫ですと返し、シンと静まり返る廊下を歩き出した。
何とか医務室まで辿り着きガラリと戸を開けると、薬品棚の前に立っていた珠世先生がこちらを振り返る。
「あら、体調不良ですか?」
「すみません..急に歴史の授業中に頭痛が酷くなってしまって。」
あらまぁ大変と口元を手で覆うと、すぐさま炭治郎をあいてるベッドへと誘導した。
「吐き気はないですか?」
「はい、それは大丈夫です。」
「じゃあ少し横になって休みましょうね。次の授業は何ですか?」
冨岡先生の体育だと伝えると、それは厳しいわねと言い、彼には私から休ませると伝えておきますと言ってくれた。
冨岡先生には申し訳ないが、体調不良の状態で駄々をこねても珠世先生は有無を言わさぬ人なので、ここは大人しく言う事を聞く事にした。
...
しばらくしてふと目が覚めた頃には、すっかり痛みは引いていて、あの頭痛は何だったのかと首を傾げる程だった。
教卓に座っている珠世先生に、お陰様で治ったので戻りますと伝えると、彼女は炭治郎を呼び止めてこう話した。
「あんまり無茶はしないでね。炭治郎さんの事だから疲れが溜まっていたんでしょう。あ、そうだわ。先程日向子さんが来てましたよ。」
「!..彼女が、何で」
「ちょうど冨岡先生に報告しに行った時たまたまあの子が居合わせたのです。心配そうにしてましたから、後で声をかけてあげてね。」
珠世先生は優しい笑みを向けてそう話した。
ーーーーー
〜11【邪な感情】〜
その後は特に体調の変化もなく残りの授業を受けて、炭治郎は帰路に就いた。
善逸や伊之助と別れて自宅に向かって歩いていると、ちょうど後ろから六太の声が響いてきた。
「兄ちゃん!兄ちゃーん!」
勢い余って抱きついてきた幼い弟を優しく受け止め、炭治郎は目線を合わせるようにしゃがんで頭を撫でる。
六太がいるということは...
「炭治郎!」
その数メートル後ろから日向子姉さんの声がする。
いつも六太が保育園の日は、家業で忙しい両親に代わって、学校終わりの日向子姉さんが迎えに行っているのだ。彼女は少し驚いたような、心配そうな表情で近づいて来た。
「頭痛はもう大丈夫なの?珍しいわね体調不良なんて、冨岡先生と珠世先生が話してるの聞いてびっくりしたのよ。」
「あぁ、もう大丈夫だ。俺も珠世先生から日向子姉さんが医務室まで来てくれてたって聞いて、心配かけてごめんな。ありがとう。」
炭治郎が申し訳ないと頭を下げると、いいのよそんな事気にしないでと手を忙しなく横に振った。
「きっと疲れが溜まってたのよ。いつも朝も早いのに、最近はテスト勉強で夜寝るのも遅いんでしょう?」
図星な為ぎくりと肩を強張らせると、炭治郎は分かりやすいからお見通しなのよと可愛らしく頬を膨らました。
彼女は普段必要以上に干渉はして来ないけれど、それでも見る所はちゃんと見てくれている。その距離感が炭治郎としてはちょうどよくて、何より自分の事を気にかけてくれているのだと知ると、嬉しくて思わず口元が緩んでしまう。
「こら、何笑ってるの。私は真面目に心配してるんだからね」
「ぅ...ごめんなさい、程々にします。」
そう言うと日向子姉さんは、そうしてくださいねと
そんな無邪気な表情に不覚にもどきりと胸が高鳴り咄嗟に視線をそらした。
けど、彼女は既に六太の手を取って歩き出していたので、幸いこの赤くなった顔は誰にも見られずに済んだようだ。
「六太、今日は何食べたい?」
「えーとね、ハンバーグがいいなぁ!」
そんな姉と弟の何気ない会話を後ろから聞いていると、こんなに微笑ましい光景に恵まれている自分は幸せ者だなぁと思う。
そして、そんな純粋な気持ちとは裏腹な感情も見え隠れする。さらさらと歩く度に揺れる彼女の透き通るような髪を見つめていると、不意にこんな
ー彼女の髪に、肌に、触れたいとー
ーーーーー
〜12【理性の範囲外】〜
「炭治郎、どうしたの?」
不意に歩みを止めた炭治郎を不思議に思ったらしい彼女がくるりと振り返った。
きょとんとした丸い目を見た瞬間、ハッと我に帰る。
「、何でもない。」
顔色を悟られないよう俯き加減で、ずんずんと進んでいく彼を、六太と日向子は首を傾げながら顔を見合わせた。
ー抑えろ、こんな事考えちゃいけないっー
この感覚は、数年前から炭治郎自身も自覚していた。
理性の範囲外で、勝手にひた走っていく感情。
日向子姉さんの事を、異性として好いているのだと気付いた頃より、思春期に突入してからと言うもの、ふとしたきっかけで湧き上がる欲求。
でも、俺はこの気持ちを発した事はおろか、悟らせた事もない。
と言うか、そんな事出来るわけがない。
いくら血縁関係にないとは言え、家族として一つ屋根の下共に生活している者からそんな想いを抱かれていると知れば、そんなの普通に気持ち悪がるだろう。
他の家族にバレればそれこそ....彼女にも家族にも、皆に迷惑がかかる。
俺は、今ようやく笑顔を取り戻した彼女を、困らせたくないし悲しませたくない。
考えなくても済む悩みは、増やすべきではない。
だから、この想いはひた隠しにしなければいけないのだ。
例え、自分の心が異常な渇きを訴えているとしても、徹底的に無視をきめこむ。
ーそうしないと、いけないんだ....ー
家路に着くと、いつものように帰宅している家族がわっと玄関まで出迎えてくれた。
「お帰りなさーい!」
「あ、三人一緒なんだね良かったぁ」
靴を脱ぐや否や下の子達が我先にと群がってくる。
炭兄ご飯出来るまで宿題教えてくれよーと竹雄が炭治郎の袖をくいと寄せるが、それを日向子がやんわりと制す。
「炭治郎今日学校で体調悪くなっちゃったから、皆あんまりおねだりしちゃ駄目よ?竹雄、夕飯の後で良ければ宿題なら私が見てあげるからそれでもいい?」
え、そうなの?と目を丸くした後、彼は心配そうに眉を引っ下げて炭治郎を労った。
「そっか、炭兄疲れてるんだな。ごめん。宿題はひな姉に見て貰うよ!」
それはそれは嬉しそうに顔を綻ばせる竹雄。そんな様子を見たら、咄嗟にこう口に出てしまった。
「大丈夫だ俺が見る!」
え?とぱちくりさせる日向子に構う事なく、日向子姉さんも忙しいんだと言って炭治郎は混乱している弟の背中をぐいっと押し込んだ。
あぁ、またやらかした
まさか、12歳の弟にまで嫉妬するだなんて..
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