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幾光年恋したひ
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〜5【彼女を知りたくて】〜
炭治郎は図書室のある一角で立ち止まった。
難しい法律関係の本が立ち並ぶ本棚、幸いまだ中間テストまで日があり、奥の死角であった為周りに人は見られない。
注意深く周囲に気を配りつつ、目的の本を探し出し手に取った。
【養子縁組に関する本】
こういうのは今のご時勢デリケートな話題である為、他人に聞く事や相談する事ははばかられてしまう。
両親が事故で亡くなってから、他に身寄りの居なかった日向子姉さんはそのまま竈門家の養子として迎えられた。
後から聞くと、様々な国の審査を潜り抜けてやっとこさ漕ぎ着けたらしい。父さんと母さんには本当に感謝だ。お陰で今も俺は彼女の側に居ることが出来ている。
ただ、そんないきなり環境の変わった彼女は、きっとたくさんの気苦労や悩みを抱えてきたに違いない。
家では笑顔を絶やさず、弱音一つ吐かない日向子姉さんだけど、人間そんなに強くはない。
俺が少しでも、彼女の辛さを分かち合ってあげたい。
そんな思いから、度々この区画を訪れては勉強していたのだ。
彼女の心を知るには、まずは立場を知らないと。
本のページをパラパラとめくっていくと、ふとある文言が目に止まった。
【養子と実子は結婚出来るのか?】
「!....っ」
この場合例えるなら、日向子姉さんと俺自身が将来的に結婚出来るのかという事だ。
一度気になってしまってはもう後には引けず、炭治郎は夢中で内容を読み漁 った。
そして、安堵 する。
結論から言うと、可能であると記されていたのだ。
血の繋がりさえなければ、今の日本でも婚姻は認められている。
「良かった...」
「何が良かったの?」
「わっ!!」
あまりの驚きで冗談抜きに心臓が止まりそうになった。
咄嗟に炭治郎は持っていた本を後ろ手に隠し、声の主に体を向ける。
日向子はきょとりとして炭治郎を見つめていた。
「日向子姉さんっ...な、何でこんなところに?!」
「ん?私はそろそろ中間テストだし、参考本を借りようと思って、まさか炭治郎と会えるなんて思わなかったよ」
そう微笑んだ彼女を見て衝撃を受けた。そろそろって..まだあと3週間はあるのに、なんて勉強熱心なのだろうか。
「一応今年受験生だしね。進路をどうするかはまだはっきり決めてないけど、やれる事はやっておきたいし。」
この様子だとどうやら炭治郎が何を見ていたのかはまで気付かれてないようで、ほっと胸を撫で下ろした。
ーーーーー
〜6【二人きりだけど】〜
「炭治郎も勉強?それとも何か本でも借りにきたの?」
「あー...俺は、興味深い本が無いかなって、時々ここに来るんだ。」
まさかこういった類の本を度々探し求めているとは口が裂けても言えないが、問いに対して苦し紛れにそう答える。
俺はどうも嘘をつけない性分らしいが、今言った事はあながち嘘ではない。どうにかバレずに切り抜けられたようだ。
「それなら、あの辺りの本とかおすすめだよ!私はしばらくここで勉強してるから、じゃあまたね」
彼女は炭治郎の目的を聞いて快くそう教えてくれたが、特にその後は淡泊な対応でその場を去ろうとするので、思わず彼女の腕を掴んでしまった。
「炭治郎?」
「...っ俺も一緒に居てもいいか?勉強の邪魔は絶対しないから。」
「うん、いいわよ」
そうお願いすれば、やはり日向子姉さんは笑顔で了承してくれた。
彼女の視線が外れたのを見計らって、先程背中に隠した本を返却済み本棚に押し込むと、タッと彼女の後を追う。
思い掛けない日向子姉さんとの2人きりの時間に、炭治郎はぐっと小さくガッツポーズをした。
学校で2人で会えないなら、じゃあ家があるじゃないと思われるかもしれないが、竈門家は大家族ゆえ下の子達の世話や家業で2人とも手一杯。
とてもじゃないが、2人きりになるどころか、自分達の時間を確保する事すらままならないのだ。
日向子姉さんの1日のルーチンはと言うと、主に学校が終わると買い物をし帰宅して、店の売り子か夕飯の支度などを手伝う。
店を閉めた後、食卓を皆で囲った後は、弟や妹達の宿題を見たり共に遊んだりしてる。
そして夜
ようやく落ち着いたかと思えば自室に入ってしまうから、話しかけるタイミングもなかなか掴めない。
彼女には両親の気遣いにより、特別に個室があてがわれている。
けれど...さすがにそこに突撃出来る程、俺も図々しくはなれない。
ーだから、こういうゆったりした2人きりの空間は、とても貴重なのだー
手頃なテーブルに向かい合うように腰掛ける。
俺は適当に手にした本を広げ、日向子姉さんは持ち込んできたらしい参考書とノートを取り出しひたすら机と睨めっこしている。
カチカチという時計の音だけが響く、静かな空間。
本を読むフリをして、炭治郎は時折、目の前の彼女に目線をチラつかせる。
だけど、こちらには一切目を向けない。きっと集中しているんだ。
少し...
寂しいなぁ、なんて思うのは
俺の我儘なんだろうか。
ーーーーー
〜7【苛まれた】〜
「わ、もうこんな時間だね!そろそろ帰らないと..」
日向子姉さんは腕時計を見るやいなや、慌てて帰り自宅をし始める。
炭治郎はと言うと、実は今が何時なのか把握はしていたのだが、
もう少し..もう少し彼女との時間を噛み締めていたい...
そう思って声をかけるタイミングを先延ばしにしていた。本当に駄目な弟だなとつくづく思う。
「今日は有り合わせの物を買って帰るしかないわね。この時間なら安くなってる惣菜 とかあるかもしれないし。炭治郎、悪いけど一緒に買い物付き合ってくれる?」
「あぁ、勿論!」
思わぬ彼女からの誘いに、炭治郎は間髪入れずに了承の意を示した。
意気揚々と図書館を出て行こうとしたその時だった。
「あれ、日向子さん?」
ちょうど出入り口の付近でばったりと出会った人物を見て、炭治郎は僅かに表情を曇らせた。
「あ、誠一郎さん。今までずっと生徒会の仕事だったの?大変ね」
「あぁー...まぁね。中間テストが終わったらすぐに文化祭があるし仕方ないけど。隣のその子は、もしかして弟の炭治郎君?」
「はい、初めまして、竈門炭治郎と言います。」
柔らかい笑みでそう問われた炭治郎は、ここは彼女の顔を立てるべく、笑顔を貼り付けて丁寧に挨拶を返す。
礼儀正しい子だねと褒められたが、多分社交辞令だと思う。正直あまり嬉しいとは思えなかった。
それに彼は..
「大丈夫かい?もう外も暗くなり始めているけど、2人とも帰るなら車で送らせようか?」
親切心でそう言ってくれているのはわかる、彼に悪気はないのだと思う。
でもどうしても、自分との圧倒的なレベルの差を感じてしまって、あまりいい気はしない。
彼はこの学園の高等部の生徒会長だ。
おまけに家柄もよく、男の炭治郎から見ても端正な顔立ちで、まるで漫画の世界から飛び出てきたようなスペック待ちの先輩だ。
彼は恐らく、日向子姉さんの事が好きなのだと思う。
日向子姉さんとの会話の中で、やたらに登場する人物だったので、炭治郎はよく彼の事を知っている。
ある時は生徒会に勧誘されたり、成績は上位一位二位を争うような仲であったり、たまに、本当に彼の家の車で送られてきた時もあった。
無防備な彼女を見て呆れる事もしばしば、
何の下心も無しに、男がそこまでするわけはないのに...
彼女はそんな高校での日常的な出来事を、楽しそうに家では家族に話す。
その度に炭治郎は嫉妬心に苛まれた。
ーーーーー
〜8【貴女の代わりに】〜
彼からそう誘いを受けた2人だったが、日向子は丁重に断った。
「ありがとう。でも、これから買い物して帰らなきゃいけないし、炭治郎もいるし大丈夫よ」
ね?と炭治郎に微笑みかける彼女を見たら、今まで胸の中で燻っていた黒い感情が浄化されていく気がした。
誠一郎さんより俺を優先してくれた事と、頼りにされてるなと思った事が、純粋に嬉しいと感じたのだ。
「はい、何があっても俺が彼女の事を守ります。だから、心配には及びません。」
誠一郎は目をぱちくりさせたが、そうか..それなら安心だなと呟くと、また明日と手を振り去って行った。
しばらく2人の間に無言の時間が続いた。
そして、ぷっと吹き出しあははと笑い出した彼女を見て、炭治郎はかぁっと顔を赤くさせる。
「日向子姉さんっ...そんなに笑わないでくれるか。は、恥ずかしいから..」
「ごめんごめん、ふふ..だって炭治郎。なんだか漫画の主人公みたいだったんだもの。」
確かにさっきのセリフは、かなりくさかったかなと思う。無論、本気の言葉ではあったが、無意識に出た言葉なだけに何とも居た堪れない気持ちになった。
ー日向子姉さんの事は俺が守るー
それは随分昔から、炭治郎が胸に秘めてきた覚悟だ。
けど、面と向かって言えばそれは引かれても仕方ないし..
あぁ、穴があったら入りたい。寧ろ記憶が無くなればいいのに。
そう悲観的になっていた時、日向子は炭治郎の頭を撫でた。
「っ..」
「ありがとうね。嬉しかったよ。炭治郎の事頼りにしてるね。」
彼女は柔らかい笑みを称えてそう告げる。
その笑顔と温もりを感じた瞬間、時が止まった感覚がした。
何だろう...この感じ。
じわりと涙が滲む。
さぁ、帰ろうかと歩みを進める日向子の背中に向かって炭治郎は叫んだ。
「日向子姉さんは!女の子だ!」
彼女はくるりと振り返り、そうだねと頷く。
「どうしたの?炭治郎。何だか今日は様子が変だわ」
心配そうな眼差しで炭治郎を見つめていた。
けど、当の本人は無我夢中でその先の言葉を続ける。
「だから、そんなにたくさん頑張らなくていいから!辛かったり苦しかったりしたら、すぐに俺に言ってくれ、頼ってくれ。日向子姉さんの心も体も、傷付けるものがあるなら許さない。俺....俺は」
炭治郎は拳をギリっと握り締める。
ーもしそんなものがあれば、
貴女の代わりに俺が全力で【闘う】からー
貴女の、代わりに...
ーーーーー
炭治郎は図書室のある一角で立ち止まった。
難しい法律関係の本が立ち並ぶ本棚、幸いまだ中間テストまで日があり、奥の死角であった為周りに人は見られない。
注意深く周囲に気を配りつつ、目的の本を探し出し手に取った。
【養子縁組に関する本】
こういうのは今のご時勢デリケートな話題である為、他人に聞く事や相談する事ははばかられてしまう。
両親が事故で亡くなってから、他に身寄りの居なかった日向子姉さんはそのまま竈門家の養子として迎えられた。
後から聞くと、様々な国の審査を潜り抜けてやっとこさ漕ぎ着けたらしい。父さんと母さんには本当に感謝だ。お陰で今も俺は彼女の側に居ることが出来ている。
ただ、そんないきなり環境の変わった彼女は、きっとたくさんの気苦労や悩みを抱えてきたに違いない。
家では笑顔を絶やさず、弱音一つ吐かない日向子姉さんだけど、人間そんなに強くはない。
俺が少しでも、彼女の辛さを分かち合ってあげたい。
そんな思いから、度々この区画を訪れては勉強していたのだ。
彼女の心を知るには、まずは立場を知らないと。
本のページをパラパラとめくっていくと、ふとある文言が目に止まった。
【養子と実子は結婚出来るのか?】
「!....っ」
この場合例えるなら、日向子姉さんと俺自身が将来的に結婚出来るのかという事だ。
一度気になってしまってはもう後には引けず、炭治郎は夢中で内容を読み
そして、
結論から言うと、可能であると記されていたのだ。
血の繋がりさえなければ、今の日本でも婚姻は認められている。
「良かった...」
「何が良かったの?」
「わっ!!」
あまりの驚きで冗談抜きに心臓が止まりそうになった。
咄嗟に炭治郎は持っていた本を後ろ手に隠し、声の主に体を向ける。
日向子はきょとりとして炭治郎を見つめていた。
「日向子姉さんっ...な、何でこんなところに?!」
「ん?私はそろそろ中間テストだし、参考本を借りようと思って、まさか炭治郎と会えるなんて思わなかったよ」
そう微笑んだ彼女を見て衝撃を受けた。そろそろって..まだあと3週間はあるのに、なんて勉強熱心なのだろうか。
「一応今年受験生だしね。進路をどうするかはまだはっきり決めてないけど、やれる事はやっておきたいし。」
この様子だとどうやら炭治郎が何を見ていたのかはまで気付かれてないようで、ほっと胸を撫で下ろした。
ーーーーー
〜6【二人きりだけど】〜
「炭治郎も勉強?それとも何か本でも借りにきたの?」
「あー...俺は、興味深い本が無いかなって、時々ここに来るんだ。」
まさかこういった類の本を度々探し求めているとは口が裂けても言えないが、問いに対して苦し紛れにそう答える。
俺はどうも嘘をつけない性分らしいが、今言った事はあながち嘘ではない。どうにかバレずに切り抜けられたようだ。
「それなら、あの辺りの本とかおすすめだよ!私はしばらくここで勉強してるから、じゃあまたね」
彼女は炭治郎の目的を聞いて快くそう教えてくれたが、特にその後は淡泊な対応でその場を去ろうとするので、思わず彼女の腕を掴んでしまった。
「炭治郎?」
「...っ俺も一緒に居てもいいか?勉強の邪魔は絶対しないから。」
「うん、いいわよ」
そうお願いすれば、やはり日向子姉さんは笑顔で了承してくれた。
彼女の視線が外れたのを見計らって、先程背中に隠した本を返却済み本棚に押し込むと、タッと彼女の後を追う。
思い掛けない日向子姉さんとの2人きりの時間に、炭治郎はぐっと小さくガッツポーズをした。
学校で2人で会えないなら、じゃあ家があるじゃないと思われるかもしれないが、竈門家は大家族ゆえ下の子達の世話や家業で2人とも手一杯。
とてもじゃないが、2人きりになるどころか、自分達の時間を確保する事すらままならないのだ。
日向子姉さんの1日のルーチンはと言うと、主に学校が終わると買い物をし帰宅して、店の売り子か夕飯の支度などを手伝う。
店を閉めた後、食卓を皆で囲った後は、弟や妹達の宿題を見たり共に遊んだりしてる。
そして夜
ようやく落ち着いたかと思えば自室に入ってしまうから、話しかけるタイミングもなかなか掴めない。
彼女には両親の気遣いにより、特別に個室があてがわれている。
けれど...さすがにそこに突撃出来る程、俺も図々しくはなれない。
ーだから、こういうゆったりした2人きりの空間は、とても貴重なのだー
手頃なテーブルに向かい合うように腰掛ける。
俺は適当に手にした本を広げ、日向子姉さんは持ち込んできたらしい参考書とノートを取り出しひたすら机と睨めっこしている。
カチカチという時計の音だけが響く、静かな空間。
本を読むフリをして、炭治郎は時折、目の前の彼女に目線をチラつかせる。
だけど、こちらには一切目を向けない。きっと集中しているんだ。
少し...
寂しいなぁ、なんて思うのは
俺の我儘なんだろうか。
ーーーーー
〜7【苛まれた】〜
「わ、もうこんな時間だね!そろそろ帰らないと..」
日向子姉さんは腕時計を見るやいなや、慌てて帰り自宅をし始める。
炭治郎はと言うと、実は今が何時なのか把握はしていたのだが、
もう少し..もう少し彼女との時間を噛み締めていたい...
そう思って声をかけるタイミングを先延ばしにしていた。本当に駄目な弟だなとつくづく思う。
「今日は有り合わせの物を買って帰るしかないわね。この時間なら安くなってる
「あぁ、勿論!」
思わぬ彼女からの誘いに、炭治郎は間髪入れずに了承の意を示した。
意気揚々と図書館を出て行こうとしたその時だった。
「あれ、日向子さん?」
ちょうど出入り口の付近でばったりと出会った人物を見て、炭治郎は僅かに表情を曇らせた。
「あ、誠一郎さん。今までずっと生徒会の仕事だったの?大変ね」
「あぁー...まぁね。中間テストが終わったらすぐに文化祭があるし仕方ないけど。隣のその子は、もしかして弟の炭治郎君?」
「はい、初めまして、竈門炭治郎と言います。」
柔らかい笑みでそう問われた炭治郎は、ここは彼女の顔を立てるべく、笑顔を貼り付けて丁寧に挨拶を返す。
礼儀正しい子だねと褒められたが、多分社交辞令だと思う。正直あまり嬉しいとは思えなかった。
それに彼は..
「大丈夫かい?もう外も暗くなり始めているけど、2人とも帰るなら車で送らせようか?」
親切心でそう言ってくれているのはわかる、彼に悪気はないのだと思う。
でもどうしても、自分との圧倒的なレベルの差を感じてしまって、あまりいい気はしない。
彼はこの学園の高等部の生徒会長だ。
おまけに家柄もよく、男の炭治郎から見ても端正な顔立ちで、まるで漫画の世界から飛び出てきたようなスペック待ちの先輩だ。
彼は恐らく、日向子姉さんの事が好きなのだと思う。
日向子姉さんとの会話の中で、やたらに登場する人物だったので、炭治郎はよく彼の事を知っている。
ある時は生徒会に勧誘されたり、成績は上位一位二位を争うような仲であったり、たまに、本当に彼の家の車で送られてきた時もあった。
無防備な彼女を見て呆れる事もしばしば、
何の下心も無しに、男がそこまでするわけはないのに...
彼女はそんな高校での日常的な出来事を、楽しそうに家では家族に話す。
その度に炭治郎は嫉妬心に苛まれた。
ーーーーー
〜8【貴女の代わりに】〜
彼からそう誘いを受けた2人だったが、日向子は丁重に断った。
「ありがとう。でも、これから買い物して帰らなきゃいけないし、炭治郎もいるし大丈夫よ」
ね?と炭治郎に微笑みかける彼女を見たら、今まで胸の中で燻っていた黒い感情が浄化されていく気がした。
誠一郎さんより俺を優先してくれた事と、頼りにされてるなと思った事が、純粋に嬉しいと感じたのだ。
「はい、何があっても俺が彼女の事を守ります。だから、心配には及びません。」
誠一郎は目をぱちくりさせたが、そうか..それなら安心だなと呟くと、また明日と手を振り去って行った。
しばらく2人の間に無言の時間が続いた。
そして、ぷっと吹き出しあははと笑い出した彼女を見て、炭治郎はかぁっと顔を赤くさせる。
「日向子姉さんっ...そんなに笑わないでくれるか。は、恥ずかしいから..」
「ごめんごめん、ふふ..だって炭治郎。なんだか漫画の主人公みたいだったんだもの。」
確かにさっきのセリフは、かなりくさかったかなと思う。無論、本気の言葉ではあったが、無意識に出た言葉なだけに何とも居た堪れない気持ちになった。
ー日向子姉さんの事は俺が守るー
それは随分昔から、炭治郎が胸に秘めてきた覚悟だ。
けど、面と向かって言えばそれは引かれても仕方ないし..
あぁ、穴があったら入りたい。寧ろ記憶が無くなればいいのに。
そう悲観的になっていた時、日向子は炭治郎の頭を撫でた。
「っ..」
「ありがとうね。嬉しかったよ。炭治郎の事頼りにしてるね。」
彼女は柔らかい笑みを称えてそう告げる。
その笑顔と温もりを感じた瞬間、時が止まった感覚がした。
何だろう...この感じ。
じわりと涙が滲む。
さぁ、帰ろうかと歩みを進める日向子の背中に向かって炭治郎は叫んだ。
「日向子姉さんは!女の子だ!」
彼女はくるりと振り返り、そうだねと頷く。
「どうしたの?炭治郎。何だか今日は様子が変だわ」
心配そうな眼差しで炭治郎を見つめていた。
けど、当の本人は無我夢中でその先の言葉を続ける。
「だから、そんなにたくさん頑張らなくていいから!辛かったり苦しかったりしたら、すぐに俺に言ってくれ、頼ってくれ。日向子姉さんの心も体も、傷付けるものがあるなら許さない。俺....俺は」
炭治郎は拳をギリっと握り締める。
ーもしそんなものがあれば、
貴女の代わりに俺が全力で【闘う】からー
貴女の、代わりに...
ーーーーー