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幾光年恋したひ
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〜59【出し抜かれた屈辱】〜
受諾したわけではなくとも、周りはすっかりお祝いムードで、栗花落先輩もまたほっと安堵したかのように緊張を解いた風に見えた。
そそくさとステージから降りた彼女に胡蝶先輩達が駆け寄っていくのが見える。多分後押しされたのだろう。
周りからは羨みの声が聞こえて来るが、正直炭治郎は複雑な気持ちだった。
ー何で、俺なんだろう...ー
気持ちが迷惑、とかそういうんじゃない。けれど、栗花落先輩の事を狙ってる男子はたくさんいるわけで、その何十人といる中の一人では無く、よりにもよって俺だなんて。【傷付く人が増えてしまう】
ー「そんな助け方したらさ!惚れるでしょ!罪な奴だよ本当お前は!!」ー
いつしかの善逸の言葉を思い返す。俺が無自覚にしている事が、結局は誰かを振り回し、誰かを泣かせる事に繋がってしまうのなら、善逸の言う通り俺は罪な奴なのかもしれない....
そんな事を悶々と考えているうちにも、催しは進行されていく。いよいよ最後のエントリー者が発表された時、炭治郎の心臓はどくんと嫌な音を立てた。
ステージ上に優雅に現れたのは、炭治郎が最も警戒していた人物だった。
「さーて!告白大会を締め括るに相応しい人物に登場していただきました!まさか皆様、高等部生徒会長がエントリーしてくださるなんて夢にも思わなかった事でしょう!でも果たして、その意中のお相手が誰なのか?大変気になりますね!」
大物の登場に会場のボルテージが最高潮に達する。皆が興味津々でステージ上に釘付け、盛り上がりを見せている。
しかし、炭治郎の心の中は全く正反対だった。
動揺、恐怖、それらの感情にみるみるうちに支配されていくのがわかる。
ー【やられた】ー
咄嗟にそう思った。
彼が想いを寄せる相手なんてわかりきっている。きっと日向子姉さんだ...彼女に、告白する気なんだ。
「それでは!恐縮ながら相手のお名前を私の方から「ちょっと待って。その子の名前は僕から言いたいんだ。」
司会者をやんわり制し、マイクを口に近づけたまま彼は観客の方へと視線を移す。
ぐるりと一望すると、こちらの方で視線はぴたりと止まった。恐らくは、日向子姉さんを見つめているのだろうが...
何故だろうか。不意に一瞬目が合ったような気がした。そしてそれは勘違いなんかではないと炭治郎は悟る。
「!」
ー【悪・い・ね】ー
遠目だったから確かではない。けれど
彼の唇はこう動いたような気がした。
ーーーーー
〜57【優しい子】〜
ー誠一郎sideー
彼女との出会いは、何のことはない普通の学生生活の中だった。あれは中等部の頃だったか。テストの成績表が張り出される度に目についた名前があった。
「竈門...日向子」
この時初めて彼女の名前を発した僕は、実は少し落胆していた。今まで常に表示された名前の1番上に自分の名前があったというのに、この日初めて2位に落ちてしまったんだ。代わりに一位になったのがその子。実はこの時、僕は彼女の事を何も知らなかった。
ー余程の勤勉少女か、英才教育が施されるくらいのお嬢様か...ー
なんとなく彼女に対してそんなイメージを持っていた。しかしその想像が勝手な先入観だったと気付けたのは、それから間も無くの事だった。何気なく図書館に立ち寄った時、大声で喋っている男子生徒の声がしたので仕方なく足を向けた。
するとある女生徒が彼らに向かってこう言い放ったのだ。
「先輩方、ここは図書館なので喋るなら外へ出てください。周りの子達が迷惑してますよ」
ー!ー
衝撃的過ぎて開いた口が塞がらなかった。いくら正義感があっても、あんな一回りも大きい男子に向かって、無鉄砲もいいところだ。
案の定気に入らなかったらしい相手は、ぎろりと睨むと彼女が抱えていた教科書をひょいと奪い所属と名前を確認する。
「はーん、竈門日向子って言うのかあんた。駄目だろう?か弱い中等部のお嬢ちゃんなら相手は選ばなくちゃ。」
その名前を聞いた瞬間ハッとした僕は、それ以上彼女が口を開く前に間に滑り込んだ。
「すみません、その辺にしてあげてください。あまり事を荒立てたくはないので、僕らはもう行きます。ただ...あなた方も場所を移された方が賢明かと思いますが」
そこでようやく周りの生徒達の蔑んだ眼差しに気づいたらしい彼等は、ぐっと足止まると覚えてろとばかりに舌打ちをし去って行った。彼女の教科書はその場に落としたまま。
正直、ああいう連中に虫唾が走るのは僕も同じだったが、これもまた賢明な判断だったろうと思う。僕は落ちている教科書を拾い彼女に手渡した。
「はい。君、あまり無茶はしない方がいいよ。気持ちはわかるが、時に自分を守る選択をしないと」
そう伝えると、彼女は笑ってこう言ったのだ。
「ありがとうございます。でも、困ってる人がいたら誰かが訴える役を買って出ないと。状況はいつまでも変わらないから」
その時理解した。彼女は、【人の為に自分を犠牲に出来る優しい子】なのだと。
ーーーーー
58【彼もまたきっと...】〜
それからというもの、もっと彼女の事が知りたいという単純な理由で、自ら接点を持ちかける事が多くなった。高等部に上がると、運良く一年目で同じクラスになる事も出来て、色々と話していくうちに彼女の色んな一面を知る事が叶った。
まず、日向子さんの家はパン屋で、ごく普通の一般家庭の長女らしい。
どうやら弟妹がたくさんいるらしく、面倒見が良く器量良しなのはそこで納得がいった。
そして彼女は、友人が多いわりに放課後には一目散に一人で下校する。理由を伺うと、忙しい両親の代わりに末っ子の保育園の迎えや途中にあるスーパーで買い物をしてから帰るなど、とても今時の女子高生とは思えない生活をこなしていた。
知れば知るほど、彼女は強く逞しく、それでいて家庭的で優しい少女だった。
ー僕はいつしか、そんな彼女に強く惹かれていたんだー
華の女子高生で遊びたい盛りだろうに、家の事を優先して疲れなど微塵も見せない日向子さん。家族も多く決して裕福な家庭というわけではないだろうが、それでも笑顔を絶やさない彼女の事を、側で守りたいと強く思った。
そんなある日、帰りに一人で重そうなスーパーの袋を抱えて歩いていた彼女を車で見かけた。
すぐに運転士に停めるように伝え、家まで送ると声をかけると、最初は遠慮がちだったが素直に首を縦に振ってくれた。
「ありがとう誠一郎さん。飲み物と醤油が結構重くてね、助かったわ」
まるで主婦のような色気の無いセリフでも、僕にとっては健気で思いやりのある可愛らしい少女のそれに聞こえるのだから不思議だ。惚れた欲目と言われればそうなのかもしれないが、きっと恋なんてそんなものだろうと思う。
しばらく車を走らせ彼女の家の前に停めると、ちょうど家の中から一人の少年が出てきた。恐らく彼女の弟さんだろう、予想通り彼は日向子さんの事を姉さんと呼んだ。
「荷物が多いって聞いたから、でも...誰かに乗せて来て貰ったのか?その人は?」
「手伝ってくれようとしたの?ありがとう炭治郎。彼は私のクラスメイトでちょうど車で通りがかってくれたの。見かねて家まで送ってくれたんだ。」
「クラスメイト...」
炭治郎と呼ばれた彼は、ぺこりと頭を下げて僕に礼を述べた。けれど...彼からは警戒されているような、そんな眼差しを感じた。
それから数年が経ったがようやく合点がいった。あの眼差しの意味、彼もまたきっと同じなんだ。
ー彼女に想いを寄せる、一人の男だー
ーーーーー
〜59【閉ざされた唇】〜
本当の姉弟か否かはデリケートな話題なので聞くに聞けなかった。いや、例え血縁関係にあると仮定したとしても、炭治郎君は日向子さんを特別視している。
それはもはや、シスコンの域を越えているように思えた。ただ姉を取られそうになって駄々を捏ねたり、ぶすくれる子供のような可愛らしいものじゃない。
ー彼が僕を見るその目は、【邪魔者を見る目そのもの】ー
自分と彼女の間に入る事の一切を許さないと言わんばかりの鋭い眼光を投げつけてくる。
僕にはわかる。
彼は日向子さんに対し、【恋愛感情に似た情】を抱いているんだ....
僕だって日向子さんを取られたくはない。何故かわからないが、彼には強い焦燥感を覚えるのだ。
このままでは状況が悪化する事はあっても好転する事はないと、本能が危機感を持てと告げてくる。
だから...
僕は今日、満を持して強硬手段に出る。
手段は選ばない、簡単な話だ。
ー先に彼女の手を取ってしまえばいいのだからー
ーーーーー
誠一郎に制された司会者は、打ち合わせと異なる展開に目をぱちくりさせつつも、素直に一歩引いた。
誠一郎は目当ての彼女の姿を見つけると、スゥっと息を吸い上げ澄み渡る声色で告白を始めた。
「高等部三年蓬組、竈門日向子さん。ずっと前から君の事が好きでした。今君にその気がなくても構わない。これから少しずつ知ってもらえればそれでいい。なので、僕と付き合ってください。宜しくお願いします」
その場にいた者たちは、これが成功すればキメツ学園きってのビッグカップルの誕生だと大いに騒ぎ立てた。中には指笛を吹く者や歓声をあげる者までいた。
告白された張本人である日向子は、そんな状況に驚きつつ、頬を染めたまま固まっている。
「凄いよひな姉!生徒会長から告白されるなんて!」
「どうするの?早く返事しないと!」
妹達に袖を揺すられようやくはっと我に帰った日向子。えっと..と声を漏らしながら、不意に炭治郎の方を見た。
彼は、今にも泣き出しそうな顔で日向子を見つめ返す。微かに震えている唇は、何か言い出そうとしてる風だったが、ついに音が発せられる事は無く固く閉ざされてしまった。
その様子を見た日向子は愕然とする。
この時の日向子は、何故長男の顔色を伺ったのかわからなかった。いついかなる時も、自分の事を気にかけてくれていた存在だからだろうか?それとも彼に、何か言って欲しいと期待していたのだろうか?
ー【何で】ー
私は....
ーーーーー
受諾したわけではなくとも、周りはすっかりお祝いムードで、栗花落先輩もまたほっと安堵したかのように緊張を解いた風に見えた。
そそくさとステージから降りた彼女に胡蝶先輩達が駆け寄っていくのが見える。多分後押しされたのだろう。
周りからは羨みの声が聞こえて来るが、正直炭治郎は複雑な気持ちだった。
ー何で、俺なんだろう...ー
気持ちが迷惑、とかそういうんじゃない。けれど、栗花落先輩の事を狙ってる男子はたくさんいるわけで、その何十人といる中の一人では無く、よりにもよって俺だなんて。【傷付く人が増えてしまう】
ー「そんな助け方したらさ!惚れるでしょ!罪な奴だよ本当お前は!!」ー
いつしかの善逸の言葉を思い返す。俺が無自覚にしている事が、結局は誰かを振り回し、誰かを泣かせる事に繋がってしまうのなら、善逸の言う通り俺は罪な奴なのかもしれない....
そんな事を悶々と考えているうちにも、催しは進行されていく。いよいよ最後のエントリー者が発表された時、炭治郎の心臓はどくんと嫌な音を立てた。
ステージ上に優雅に現れたのは、炭治郎が最も警戒していた人物だった。
「さーて!告白大会を締め括るに相応しい人物に登場していただきました!まさか皆様、高等部生徒会長がエントリーしてくださるなんて夢にも思わなかった事でしょう!でも果たして、その意中のお相手が誰なのか?大変気になりますね!」
大物の登場に会場のボルテージが最高潮に達する。皆が興味津々でステージ上に釘付け、盛り上がりを見せている。
しかし、炭治郎の心の中は全く正反対だった。
動揺、恐怖、それらの感情にみるみるうちに支配されていくのがわかる。
ー【やられた】ー
咄嗟にそう思った。
彼が想いを寄せる相手なんてわかりきっている。きっと日向子姉さんだ...彼女に、告白する気なんだ。
「それでは!恐縮ながら相手のお名前を私の方から「ちょっと待って。その子の名前は僕から言いたいんだ。」
司会者をやんわり制し、マイクを口に近づけたまま彼は観客の方へと視線を移す。
ぐるりと一望すると、こちらの方で視線はぴたりと止まった。恐らくは、日向子姉さんを見つめているのだろうが...
何故だろうか。不意に一瞬目が合ったような気がした。そしてそれは勘違いなんかではないと炭治郎は悟る。
「!」
ー【悪・い・ね】ー
遠目だったから確かではない。けれど
彼の唇はこう動いたような気がした。
ーーーーー
〜57【優しい子】〜
ー誠一郎sideー
彼女との出会いは、何のことはない普通の学生生活の中だった。あれは中等部の頃だったか。テストの成績表が張り出される度に目についた名前があった。
「竈門...日向子」
この時初めて彼女の名前を発した僕は、実は少し落胆していた。今まで常に表示された名前の1番上に自分の名前があったというのに、この日初めて2位に落ちてしまったんだ。代わりに一位になったのがその子。実はこの時、僕は彼女の事を何も知らなかった。
ー余程の勤勉少女か、英才教育が施されるくらいのお嬢様か...ー
なんとなく彼女に対してそんなイメージを持っていた。しかしその想像が勝手な先入観だったと気付けたのは、それから間も無くの事だった。何気なく図書館に立ち寄った時、大声で喋っている男子生徒の声がしたので仕方なく足を向けた。
するとある女生徒が彼らに向かってこう言い放ったのだ。
「先輩方、ここは図書館なので喋るなら外へ出てください。周りの子達が迷惑してますよ」
ー!ー
衝撃的過ぎて開いた口が塞がらなかった。いくら正義感があっても、あんな一回りも大きい男子に向かって、無鉄砲もいいところだ。
案の定気に入らなかったらしい相手は、ぎろりと睨むと彼女が抱えていた教科書をひょいと奪い所属と名前を確認する。
「はーん、竈門日向子って言うのかあんた。駄目だろう?か弱い中等部のお嬢ちゃんなら相手は選ばなくちゃ。」
その名前を聞いた瞬間ハッとした僕は、それ以上彼女が口を開く前に間に滑り込んだ。
「すみません、その辺にしてあげてください。あまり事を荒立てたくはないので、僕らはもう行きます。ただ...あなた方も場所を移された方が賢明かと思いますが」
そこでようやく周りの生徒達の蔑んだ眼差しに気づいたらしい彼等は、ぐっと足止まると覚えてろとばかりに舌打ちをし去って行った。彼女の教科書はその場に落としたまま。
正直、ああいう連中に虫唾が走るのは僕も同じだったが、これもまた賢明な判断だったろうと思う。僕は落ちている教科書を拾い彼女に手渡した。
「はい。君、あまり無茶はしない方がいいよ。気持ちはわかるが、時に自分を守る選択をしないと」
そう伝えると、彼女は笑ってこう言ったのだ。
「ありがとうございます。でも、困ってる人がいたら誰かが訴える役を買って出ないと。状況はいつまでも変わらないから」
その時理解した。彼女は、【人の為に自分を犠牲に出来る優しい子】なのだと。
ーーーーー
58【彼もまたきっと...】〜
それからというもの、もっと彼女の事が知りたいという単純な理由で、自ら接点を持ちかける事が多くなった。高等部に上がると、運良く一年目で同じクラスになる事も出来て、色々と話していくうちに彼女の色んな一面を知る事が叶った。
まず、日向子さんの家はパン屋で、ごく普通の一般家庭の長女らしい。
どうやら弟妹がたくさんいるらしく、面倒見が良く器量良しなのはそこで納得がいった。
そして彼女は、友人が多いわりに放課後には一目散に一人で下校する。理由を伺うと、忙しい両親の代わりに末っ子の保育園の迎えや途中にあるスーパーで買い物をしてから帰るなど、とても今時の女子高生とは思えない生活をこなしていた。
知れば知るほど、彼女は強く逞しく、それでいて家庭的で優しい少女だった。
ー僕はいつしか、そんな彼女に強く惹かれていたんだー
華の女子高生で遊びたい盛りだろうに、家の事を優先して疲れなど微塵も見せない日向子さん。家族も多く決して裕福な家庭というわけではないだろうが、それでも笑顔を絶やさない彼女の事を、側で守りたいと強く思った。
そんなある日、帰りに一人で重そうなスーパーの袋を抱えて歩いていた彼女を車で見かけた。
すぐに運転士に停めるように伝え、家まで送ると声をかけると、最初は遠慮がちだったが素直に首を縦に振ってくれた。
「ありがとう誠一郎さん。飲み物と醤油が結構重くてね、助かったわ」
まるで主婦のような色気の無いセリフでも、僕にとっては健気で思いやりのある可愛らしい少女のそれに聞こえるのだから不思議だ。惚れた欲目と言われればそうなのかもしれないが、きっと恋なんてそんなものだろうと思う。
しばらく車を走らせ彼女の家の前に停めると、ちょうど家の中から一人の少年が出てきた。恐らく彼女の弟さんだろう、予想通り彼は日向子さんの事を姉さんと呼んだ。
「荷物が多いって聞いたから、でも...誰かに乗せて来て貰ったのか?その人は?」
「手伝ってくれようとしたの?ありがとう炭治郎。彼は私のクラスメイトでちょうど車で通りがかってくれたの。見かねて家まで送ってくれたんだ。」
「クラスメイト...」
炭治郎と呼ばれた彼は、ぺこりと頭を下げて僕に礼を述べた。けれど...彼からは警戒されているような、そんな眼差しを感じた。
それから数年が経ったがようやく合点がいった。あの眼差しの意味、彼もまたきっと同じなんだ。
ー彼女に想いを寄せる、一人の男だー
ーーーーー
〜59【閉ざされた唇】〜
本当の姉弟か否かはデリケートな話題なので聞くに聞けなかった。いや、例え血縁関係にあると仮定したとしても、炭治郎君は日向子さんを特別視している。
それはもはや、シスコンの域を越えているように思えた。ただ姉を取られそうになって駄々を捏ねたり、ぶすくれる子供のような可愛らしいものじゃない。
ー彼が僕を見るその目は、【邪魔者を見る目そのもの】ー
自分と彼女の間に入る事の一切を許さないと言わんばかりの鋭い眼光を投げつけてくる。
僕にはわかる。
彼は日向子さんに対し、【恋愛感情に似た情】を抱いているんだ....
僕だって日向子さんを取られたくはない。何故かわからないが、彼には強い焦燥感を覚えるのだ。
このままでは状況が悪化する事はあっても好転する事はないと、本能が危機感を持てと告げてくる。
だから...
僕は今日、満を持して強硬手段に出る。
手段は選ばない、簡単な話だ。
ー先に彼女の手を取ってしまえばいいのだからー
ーーーーー
誠一郎に制された司会者は、打ち合わせと異なる展開に目をぱちくりさせつつも、素直に一歩引いた。
誠一郎は目当ての彼女の姿を見つけると、スゥっと息を吸い上げ澄み渡る声色で告白を始めた。
「高等部三年蓬組、竈門日向子さん。ずっと前から君の事が好きでした。今君にその気がなくても構わない。これから少しずつ知ってもらえればそれでいい。なので、僕と付き合ってください。宜しくお願いします」
その場にいた者たちは、これが成功すればキメツ学園きってのビッグカップルの誕生だと大いに騒ぎ立てた。中には指笛を吹く者や歓声をあげる者までいた。
告白された張本人である日向子は、そんな状況に驚きつつ、頬を染めたまま固まっている。
「凄いよひな姉!生徒会長から告白されるなんて!」
「どうするの?早く返事しないと!」
妹達に袖を揺すられようやくはっと我に帰った日向子。えっと..と声を漏らしながら、不意に炭治郎の方を見た。
彼は、今にも泣き出しそうな顔で日向子を見つめ返す。微かに震えている唇は、何か言い出そうとしてる風だったが、ついに音が発せられる事は無く固く閉ざされてしまった。
その様子を見た日向子は愕然とする。
この時の日向子は、何故長男の顔色を伺ったのかわからなかった。いついかなる時も、自分の事を気にかけてくれていた存在だからだろうか?それとも彼に、何か言って欲しいと期待していたのだろうか?
ー【何で】ー
私は....
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