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幾光年恋したひ
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〜52【逸機】〜
「落ち着いて...炭治郎。ここ廊下だから」
「っ....」
ふと我に返り周りを見渡すと、不思議そうな様子で生徒や一般人が横を通り過ぎて行く。炭治郎はそっと掴んでいた手を彼女から離した。
「変な事突っ込んじゃってごめんね。さすがにちょっと...びっくりしちゃっただけ。あ、今度謝花さんに謝っておいてくれる?色々迷惑かけちゃったから」
彼女はへらりと笑ってそう言うと、再び歩き出そうとした。すかさず炭治郎はその腕を掴む。
「勝手に完結させないでくれ。まだ..俺は答えてない」
「....」
くるりと振り返った彼女の表情は、若干緊張気味に強張っていた。口を閉し、炭治郎の次の言葉を待ってくれている。
思えば、今までのらりくらりと彼女にはかわされてきた気がする。俺の気持ちに気付いているのか、いないのかはいまいちわからない。掴めない人だ。けれど、少なくともさっきの反応を見ると意識はされている。そう思えた。
だから....この機は逃せない。
ー貴女が好きだから、キスしようとしたのはわざとですー
そう伝えるなら、今っ..
「おーい!兄ちゃん!姉ちゃんー!」
「「!!」」
廊下の向こうにパタパタと走ってくる弟の竹雄と茂、そして後を追う父親の姿が見える。茫然と佇む兄の様子には全く気付かず、弟達は各々興奮気味に訴えかけてきた。
「姉ちゃん達もお化け屋敷入ったのか?!俺、侮ってたっていうか、結構...」
「怖かったよ兄ちゃん!俺鬼嫌いー!竹兄が大丈夫だって言うから..ぅぅ..」
「何だよ俺のせいかよー..」
弟達によって一変した空気。日向子はすっかりいつもの甲斐甲斐しい姉の姿に戻り弟達を宥めている。
「はいはい、もう喧嘩しない。それに、姉ちゃんもかなり怖かったよ?あれはなかなかクオリティ高かった。」
姉も同じ感想を得た事を聞いて、ほんの少し威厳が保てたようだ。思春期に差し掛かった男の子の心情とは、案外繊細なものだ。そんな中、父はふと炭治郎の様子がいつもと違う事に気付く。
「炭治郎、どうした?」
「!」
ハッとしたように炭治郎の方を向く日向子。完全に彼の話の腰を折った事に、しまったという顔をした彼女は慌てて炭治郎に声をかける。
「ごめん炭治郎!話、途中だった。」
しかし、炭治郎が言いたい事は、父と弟達を目の前にして言える言葉ではなかった。この状況では..
「いや、やっぱり何でもない。」
無理矢理にでも、そう答えるしかなかったのだ。
ーーーーー
〜53【どちらの立場で】〜
ー炭治郎sideー
(本当に最悪だ、ついてない...)
盛大に溜息を吐きたいくらいには落ち込んでいた。まさかのタイミングで竹雄達と遭遇したせいで、喉まで出かかった言葉は押し戻すしかなかった。彼女が気まずそうに眉を下げていたのがちらりと見えたが、正直今は面と向かって視線を交わす事が出来ない。中途半端に匂わすくらいなら、もっと場所や機会を考えるべきだったのが悔やまれる。
ーでも姉さんが、深い意味なんてない筈だと、単なる事故だって片付けようとするから、俺は居ても立ってもいられなくて、誤解を解こうとつい...ー
結局その後も彼女と二人きりで校内を回るという楽しみも叶わず、禰豆子達と合流して今は中庭の野外ステージの前にいる。周りも含めて、今か今かとステージの催しが始まる定刻を待ち続けている人の群れの中で、俺は一人浮かない顔のまま立ち尽くしていた。
「告白大会って青春って感じで素敵だよね!炭兄とひな姉とねず姉の三人のうち、誰かはもしかしたら告白されるんじゃないの?」
「うーん、どうかなぁ?今時こんな大勢の前でするなんてなかなか無いと思うけど。もしする人がいたらよっぽど自信のある人じゃない?」
禰豆子が笑いながら花子の問いかけに答える。
その通りだなとぼんやり思う。よほど脈ありでなければ、こんな公衆の面前で好きな人に告白なんて出来るものか。あの善逸でさえこう言っていた。
「告白大会?あっはは!ないない!大勢の人の前で告白して撃沈したらいくら俺だって立ち直れないって。」
普通の感覚ならそうだろう。或いは、寧ろ断りにくいこの状況を逆手に取って勝負に出る者.....
....
ーいや、だとしてもかなり勇気を振り絞らなければそれも恥をかくだけだ。到底俺には、無理だー
ちらりと想い人の横顔を垣間見る。
彼女は全くソワソワした素振りなど見せず、単純に催しを楽しみにしている風だ。
きっと複雑な俺の気持ちなど、気にも止めてないだろう。頼むから誰にも告白されないでくれ....そう多力本願で祈るしかできない自分が不甲斐ない。
ただ万が一、日向子姉さんが誰かに告白されてしまったら...
ー俺はどうするだろうか?そのまま唇を噛みしめながら見過ごすか?はたまた他人の目など構わず止めに入るだろうか?果たしてそれはどんな立場で....ー
【家族としてか、
それとも彼女を想う一人の男としてか】
ーーーーー
〜54【告白大会】〜
「さて!皆様大変長らくお待たせしました!これよりキメツ学園告白大会を開催いたしまーす!」
軽快な音楽と共に司会の女生徒が高らかにマイクを響かせると、中庭に集まっていた人々が一斉に沸きたった。さすが文化祭の目玉イベントとあって、熱狂度は尋常ではない。
流れは非常にシンプルで、事前に告白する側でエントリーしていた生徒がステージに登壇し、司会者が代わって告白される側の生徒の名前を呼ぶ。後は、各々の言葉で目当ての生徒に向かって告白の言葉を告げ、それに対し相手が返答をする。
返答は、OK、考えさせて、お断りの3つから行う事が許されている。
相手がこの場に居合わせて居ない場合も無くはないが、その場合は噂によると校内放送で呼び出されるらしい。
なかなかにぶっ飛んだ企画だが、学生らしい甘酸っぱいイベントとあり、賛成派多数によって催されるに至ったようだ。
「ではではー!さっそく始めて参りたいと思いまーす!エントリーNo.1番!」
次々に緊張した面持ちの生徒がステージ上に上がり、想い人に告白していく。もちろん相手にもよるが、大体はその場でOKを貰って周囲から盛大な祝いの拍手が送られていた。恐らく、(両片想いは確実)という面々ばかりだ。
ただ、謝花梅に告白している者も二人ほどいたが撃沈していた。
「無い」
との事だ。気の毒だが瞬殺だった。
そして、幸いにも日向子姉さんの名前が呼ばれる事も今のところない。
頼むからこのまま何事もなく終わってくれ...祈るような気持ちでそう願った。
「それではいよいよこの告白大会も佳境に差し迫って参りました!次のエントリーはこちらの方!キメツ学園高等部4大美女のお一人!2年菫組の栗花落カナヲさんです!」
周りが一層沸きたった。それもその筈だ。彼女はこの学園内でもかなり男子生徒から人気を集めていると評判の女生徒。そして炭治郎も、彼女とは少し前に接点があった事は記憶に新しい。
彼女は既に顔を真っ赤に染めながらゆっくり登壇する。早く相手の名前を言いたいのかウズウズとしている司会者が大きく口を開いた。
「さぁ!そんな大人気のカナヲちゃんが想いを寄せるお相手はー?
一体どんな接点が?!高等部1年筍組の竈門炭治郎君!いらっしゃいますかー?」
「...え...俺?!」
一瞬聞き間違えかと思ったが、周りや家族の反応を見るにそれは無さそうだった。花子達がビシッと手を上げて炭治郎がここにいる事を伝え、あれよといううちにマイクを握らされる。
ーーーーー
〜55【精一杯の返事】〜
「まじかよ炭治郎この野郎!やっぱり栗花落先輩惚れてたんじゃん!」
少し向こうで善逸が喚き散らしている声が聞こえた。家族の面々は驚きつつも、これでやっとお兄ちゃんにも春がとでも言いたげに感激していた。
栗花落さんからならOKするだろう。羨ましい奴だ。そんな声が所々から聞こえてくる。皆、告白を受けて当然だという当たり前の未来しか見えていない。
ーちょ..
ちょっと待ってくれッ俺は!ー
ふとステージ上を見ると、顔を赤らめている彼女とばちり目が合った。わかりやすいくらいにあたふたして顔を俯かせてしまったが、マイクを握る手にはぎゅっと力が込められていた。やがてマイク越しとは思えないほど消え入りそうな声量で、カナヲはこう発した。
「竈門炭治郎..君。前に公園で会ったこと覚えてますか?あの時、あなたに助けられてとても。とても...強い人だなって思いました。そんなあなたがいつの間にか、す......す...」
「カナヲ!頑張って!」
居ても立っても居られないとばかりに最前列を陣取っていた神崎先輩と胡蝶先輩がもう一押しだとエールを送っている。
そんな姉達に鼓舞されたカナヲは、バッと顔を上げて真っ直ぐに炭治郎を見据え声を張り上げた。
「あなたの事が好きになりましたッッ!!」
キーンとマイクが反響するほどの一大告白だった。まさか、本当に惚れられていたなんて思わなかったから驚きを隠しきれないでいた。
いや、この状況に呆気に取られている場合ではない。次は告白された側、つまり炭治郎が返事を返してやらねばならないのだ。
「炭兄どうするの?告白受けるの?」
心なしか目をキラキラ輝かせながら茂がくいくいと炭治郎の制服を引っ張る。
家族の顔を順々に、そして最後日向子の顔を垣間見る。彼女はじっとこちらを見つめていた。
この状況....
告白を受ける事は出来ない。俺が好きなのは昔からずっと変わらない、日向子姉さんただ一人だ。
でもだからと言って、こんな大勢の前で断る事も出来ない。そんな事したら栗花落先輩の面目丸潰れだ。可哀想で出来っこない。
それならもう、これしか...。
「..ありがとうございます栗花落先輩。気持ちとても嬉しいです。ただ、突然の事で俺もびっくりしました。返事は少し、考えさせてください」
炭治郎はにこりと笑いながら丁寧にそう返した。可もなく不可もなくな返事。狡いと言われればそれまでなのは百も承知だが、これは今の炭治郎に返せる精一杯だった。
ーーーーー
「落ち着いて...炭治郎。ここ廊下だから」
「っ....」
ふと我に返り周りを見渡すと、不思議そうな様子で生徒や一般人が横を通り過ぎて行く。炭治郎はそっと掴んでいた手を彼女から離した。
「変な事突っ込んじゃってごめんね。さすがにちょっと...びっくりしちゃっただけ。あ、今度謝花さんに謝っておいてくれる?色々迷惑かけちゃったから」
彼女はへらりと笑ってそう言うと、再び歩き出そうとした。すかさず炭治郎はその腕を掴む。
「勝手に完結させないでくれ。まだ..俺は答えてない」
「....」
くるりと振り返った彼女の表情は、若干緊張気味に強張っていた。口を閉し、炭治郎の次の言葉を待ってくれている。
思えば、今までのらりくらりと彼女にはかわされてきた気がする。俺の気持ちに気付いているのか、いないのかはいまいちわからない。掴めない人だ。けれど、少なくともさっきの反応を見ると意識はされている。そう思えた。
だから....この機は逃せない。
ー貴女が好きだから、キスしようとしたのはわざとですー
そう伝えるなら、今っ..
「おーい!兄ちゃん!姉ちゃんー!」
「「!!」」
廊下の向こうにパタパタと走ってくる弟の竹雄と茂、そして後を追う父親の姿が見える。茫然と佇む兄の様子には全く気付かず、弟達は各々興奮気味に訴えかけてきた。
「姉ちゃん達もお化け屋敷入ったのか?!俺、侮ってたっていうか、結構...」
「怖かったよ兄ちゃん!俺鬼嫌いー!竹兄が大丈夫だって言うから..ぅぅ..」
「何だよ俺のせいかよー..」
弟達によって一変した空気。日向子はすっかりいつもの甲斐甲斐しい姉の姿に戻り弟達を宥めている。
「はいはい、もう喧嘩しない。それに、姉ちゃんもかなり怖かったよ?あれはなかなかクオリティ高かった。」
姉も同じ感想を得た事を聞いて、ほんの少し威厳が保てたようだ。思春期に差し掛かった男の子の心情とは、案外繊細なものだ。そんな中、父はふと炭治郎の様子がいつもと違う事に気付く。
「炭治郎、どうした?」
「!」
ハッとしたように炭治郎の方を向く日向子。完全に彼の話の腰を折った事に、しまったという顔をした彼女は慌てて炭治郎に声をかける。
「ごめん炭治郎!話、途中だった。」
しかし、炭治郎が言いたい事は、父と弟達を目の前にして言える言葉ではなかった。この状況では..
「いや、やっぱり何でもない。」
無理矢理にでも、そう答えるしかなかったのだ。
ーーーーー
〜53【どちらの立場で】〜
ー炭治郎sideー
(本当に最悪だ、ついてない...)
盛大に溜息を吐きたいくらいには落ち込んでいた。まさかのタイミングで竹雄達と遭遇したせいで、喉まで出かかった言葉は押し戻すしかなかった。彼女が気まずそうに眉を下げていたのがちらりと見えたが、正直今は面と向かって視線を交わす事が出来ない。中途半端に匂わすくらいなら、もっと場所や機会を考えるべきだったのが悔やまれる。
ーでも姉さんが、深い意味なんてない筈だと、単なる事故だって片付けようとするから、俺は居ても立ってもいられなくて、誤解を解こうとつい...ー
結局その後も彼女と二人きりで校内を回るという楽しみも叶わず、禰豆子達と合流して今は中庭の野外ステージの前にいる。周りも含めて、今か今かとステージの催しが始まる定刻を待ち続けている人の群れの中で、俺は一人浮かない顔のまま立ち尽くしていた。
「告白大会って青春って感じで素敵だよね!炭兄とひな姉とねず姉の三人のうち、誰かはもしかしたら告白されるんじゃないの?」
「うーん、どうかなぁ?今時こんな大勢の前でするなんてなかなか無いと思うけど。もしする人がいたらよっぽど自信のある人じゃない?」
禰豆子が笑いながら花子の問いかけに答える。
その通りだなとぼんやり思う。よほど脈ありでなければ、こんな公衆の面前で好きな人に告白なんて出来るものか。あの善逸でさえこう言っていた。
「告白大会?あっはは!ないない!大勢の人の前で告白して撃沈したらいくら俺だって立ち直れないって。」
普通の感覚ならそうだろう。或いは、寧ろ断りにくいこの状況を逆手に取って勝負に出る者.....
....
ーいや、だとしてもかなり勇気を振り絞らなければそれも恥をかくだけだ。到底俺には、無理だー
ちらりと想い人の横顔を垣間見る。
彼女は全くソワソワした素振りなど見せず、単純に催しを楽しみにしている風だ。
きっと複雑な俺の気持ちなど、気にも止めてないだろう。頼むから誰にも告白されないでくれ....そう多力本願で祈るしかできない自分が不甲斐ない。
ただ万が一、日向子姉さんが誰かに告白されてしまったら...
ー俺はどうするだろうか?そのまま唇を噛みしめながら見過ごすか?はたまた他人の目など構わず止めに入るだろうか?果たしてそれはどんな立場で....ー
【家族としてか、
それとも彼女を想う一人の男としてか】
ーーーーー
〜54【告白大会】〜
「さて!皆様大変長らくお待たせしました!これよりキメツ学園告白大会を開催いたしまーす!」
軽快な音楽と共に司会の女生徒が高らかにマイクを響かせると、中庭に集まっていた人々が一斉に沸きたった。さすが文化祭の目玉イベントとあって、熱狂度は尋常ではない。
流れは非常にシンプルで、事前に告白する側でエントリーしていた生徒がステージに登壇し、司会者が代わって告白される側の生徒の名前を呼ぶ。後は、各々の言葉で目当ての生徒に向かって告白の言葉を告げ、それに対し相手が返答をする。
返答は、OK、考えさせて、お断りの3つから行う事が許されている。
相手がこの場に居合わせて居ない場合も無くはないが、その場合は噂によると校内放送で呼び出されるらしい。
なかなかにぶっ飛んだ企画だが、学生らしい甘酸っぱいイベントとあり、賛成派多数によって催されるに至ったようだ。
「ではではー!さっそく始めて参りたいと思いまーす!エントリーNo.1番!」
次々に緊張した面持ちの生徒がステージ上に上がり、想い人に告白していく。もちろん相手にもよるが、大体はその場でOKを貰って周囲から盛大な祝いの拍手が送られていた。恐らく、(両片想いは確実)という面々ばかりだ。
ただ、謝花梅に告白している者も二人ほどいたが撃沈していた。
「無い」
との事だ。気の毒だが瞬殺だった。
そして、幸いにも日向子姉さんの名前が呼ばれる事も今のところない。
頼むからこのまま何事もなく終わってくれ...祈るような気持ちでそう願った。
「それではいよいよこの告白大会も佳境に差し迫って参りました!次のエントリーはこちらの方!キメツ学園高等部4大美女のお一人!2年菫組の栗花落カナヲさんです!」
周りが一層沸きたった。それもその筈だ。彼女はこの学園内でもかなり男子生徒から人気を集めていると評判の女生徒。そして炭治郎も、彼女とは少し前に接点があった事は記憶に新しい。
彼女は既に顔を真っ赤に染めながらゆっくり登壇する。早く相手の名前を言いたいのかウズウズとしている司会者が大きく口を開いた。
「さぁ!そんな大人気のカナヲちゃんが想いを寄せるお相手はー?
一体どんな接点が?!高等部1年筍組の竈門炭治郎君!いらっしゃいますかー?」
「...え...俺?!」
一瞬聞き間違えかと思ったが、周りや家族の反応を見るにそれは無さそうだった。花子達がビシッと手を上げて炭治郎がここにいる事を伝え、あれよといううちにマイクを握らされる。
ーーーーー
〜55【精一杯の返事】〜
「まじかよ炭治郎この野郎!やっぱり栗花落先輩惚れてたんじゃん!」
少し向こうで善逸が喚き散らしている声が聞こえた。家族の面々は驚きつつも、これでやっとお兄ちゃんにも春がとでも言いたげに感激していた。
栗花落さんからならOKするだろう。羨ましい奴だ。そんな声が所々から聞こえてくる。皆、告白を受けて当然だという当たり前の未来しか見えていない。
ーちょ..
ちょっと待ってくれッ俺は!ー
ふとステージ上を見ると、顔を赤らめている彼女とばちり目が合った。わかりやすいくらいにあたふたして顔を俯かせてしまったが、マイクを握る手にはぎゅっと力が込められていた。やがてマイク越しとは思えないほど消え入りそうな声量で、カナヲはこう発した。
「竈門炭治郎..君。前に公園で会ったこと覚えてますか?あの時、あなたに助けられてとても。とても...強い人だなって思いました。そんなあなたがいつの間にか、す......す...」
「カナヲ!頑張って!」
居ても立っても居られないとばかりに最前列を陣取っていた神崎先輩と胡蝶先輩がもう一押しだとエールを送っている。
そんな姉達に鼓舞されたカナヲは、バッと顔を上げて真っ直ぐに炭治郎を見据え声を張り上げた。
「あなたの事が好きになりましたッッ!!」
キーンとマイクが反響するほどの一大告白だった。まさか、本当に惚れられていたなんて思わなかったから驚きを隠しきれないでいた。
いや、この状況に呆気に取られている場合ではない。次は告白された側、つまり炭治郎が返事を返してやらねばならないのだ。
「炭兄どうするの?告白受けるの?」
心なしか目をキラキラ輝かせながら茂がくいくいと炭治郎の制服を引っ張る。
家族の顔を順々に、そして最後日向子の顔を垣間見る。彼女はじっとこちらを見つめていた。
この状況....
告白を受ける事は出来ない。俺が好きなのは昔からずっと変わらない、日向子姉さんただ一人だ。
でもだからと言って、こんな大勢の前で断る事も出来ない。そんな事したら栗花落先輩の面目丸潰れだ。可哀想で出来っこない。
それならもう、これしか...。
「..ありがとうございます栗花落先輩。気持ちとても嬉しいです。ただ、突然の事で俺もびっくりしました。返事は少し、考えさせてください」
炭治郎はにこりと笑いながら丁寧にそう返した。可もなく不可もなくな返事。狡いと言われればそれまでなのは百も承知だが、これは今の炭治郎に返せる精一杯だった。
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