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幾光年恋したひ
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〜44【ついてないな】〜
ー無一郎sideー
日向子さんが目的で半ば強引に兄さんの手を引いてこのクラスにやってきたのは十分程前。
僕達がカフェを模した教室の店内に入ると、テレビでやってた?時透兄弟じゃない?二人揃って並んでるの結構レアだよね?と所々からざわついた声が聞こえて来るが、そんな事など気にもせず一目散に目当ての彼女に向かって歩いていった。
「あの!日向子さん」
「?..あ!無一郎君!来てくれたのね、ありがとう」
にこりと微笑んだ彼女は惚れた欲目か或いは服装のせいか、とても可愛らしくて無意識にぼーっと見つめていたら、隣に立っていた兄さんに肘で小突かれた。
「あれ?貴方もしかして..」
「無一郎の兄の有一郎です。はじめまして日向子先輩。貴女の事はこいつからよーく聞いてます。いつも弟が世話になってます。」
意味ありげにそう言った兄さんは、明らかに僕を揶揄 うつもりで言葉を選んだのだと思うと、憎たらしくてつい横目に睨みつける。
ー日向子さんに変に思われたらどう責任とってくれるつもりなんだ、馬鹿兄さんめー
「あぁ、やっぱり!初めまして、私は竈門日向子です。こちらこそ、無一郎君にはいつもバイト先にお客様として来てもらってて、親しくさせて貰ってたんですよ。どうぞ、案内しますね」
可愛らしいフリルエプロンを翻し、彼女は窓側の席へ二人を案内してくれた。
席につくと日向子さんは手に持っていた手作りらしいメニューを目の前に差し出す。僕は注文する品を悩むふりをして、性懲りも無くちらりと彼女を盗み見る。
ー可愛いなぁ..。こんなに可愛いと、きっとたくさんの男子達を虜にしているんだろうなー
そう思うと、ずきりと胸が軋んだ。
僕はただでさえ彼女と歳が離れてて、高等部の先輩達には到底敵わないだろう。
彼女を想う一人の男に変わりはないのだが、それでも彼女にとって僕がそういう対象になる可能性は低い気がする。
兄さんはそんなに好きならとにかく当たりまくれと言うけど、そう簡単なものじゃないんだ..。
そんな事を思っていた時だった。
何やら小さい子供がきゃっきゃと嬉しそうに騒ぐ声が入口から聞こえ、ふと視線を向けると日向子さんの家族の姿が見えた。
申し訳ないが、このタイミングかと落胆した。僕の予想は的中し、せっかく彼女付きのテーブルに座った意味も無くなってしまったのだ。
「...はは..ついてないなお前」
そんな兄さんの同情のため息が酷く耳に残った。
ーーーーー
〜45【渡さない】〜
「ねぇねぇ、今日15時から野外であれやるんでしょ?」
「ん?あぁ、告白大会のこと?」
「そうそれ!」
花子と禰豆子がきゃいきゃいと騒いでいるのを、オムライスを頬張りながら炭治郎はそっと聞き耳を立てる。女の子は本当にこういう話題に敏感だなと思うけど、決して呆れているわけではない。寧ろ炭治郎自身も興味津々の話題であった。
この野外イベントは、高等部生徒会長のクラスが主催している。概要はシンプルで、前もってエントリーしている生徒が意中の相手に告白するというもの。
要するに公開告白イベントだ。
エントリーしている生徒、もとよりその告白相手も司会者に名前を呼ばれるその瞬間まで、一般生徒には情報が漏れないように徹底されている。
ー誰が誰に告白するのか...ー
気にならないわけがない。
日向子姉さん...
視線の先で忙しなく動き訪れた客に笑顔を振りまく彼女を、嫉妬がましく見つめる。
告白する側の可能性は低いけれど、される側としては大いにあり得る。
ただそれだけが怖くて、朝からそわそわしているのはそのせいもあった。
俺はとてもじゃないけど、イベントで姉さんに告白なんて無理だ。側から見たら、姉弟。
だからこそ...黙って指を咥えて見ていなければならない状況だけは、避けたいけど。
【どうしろって言うんだ、どうしようも無い...】
「お兄ちゃんこの後クラスの出し物行かなきゃなんだよね?野外イベントでれるの?」
「え?あぁ、14時30分には一旦クラスの出し物はストップして全校生徒校庭に集まるのが慣わしだから。俺もいけるよ」
「そっか、なら良かったぁ!お兄ちゃんもお姉ちゃん達も学校でモテるみたいだから、ひょっとして誰かと付き合う事になったりしてねー」
何故か花子が得意げににんまり笑って最後の一口をぱくりと口に入れた。
やめてくれ...こればかりは頼むから。
ー俺と日向子姉さんの間に入らないでくれ、誰も。今の関係さえ崩されたら俺は、きっと平常な精神状態じゃいられな...ー
「炭治郎ー」
「っ!?!?」
急に頬に冷たい何かが張り付き、心臓が飛び出そうな勢いで跳ねる。見上げると日向子姉さんがにっこりと笑みを浮かべながらクリームソーダの入ったグラスを持っていた。
「そんなにしかめっ面してどうしたの?らしくないわよ」
「ひな姉!僕の僕のー!」
「はい六太お待たせー」
あぁ...
【絶対に渡さない、貴女だけは絶対に】
ーーーーー
〜46【吉報】〜
「あれ?お兄ちゃんもうこんな時間!」
「本当だ!じゃあ俺行くよ。六太達もまた後でな」
禰豆子が腕時計を見て時刻を知らせてくれると、思ったより長く居座ってしまってた事に気付く。炭治郎は慌てて椅子を引き立ち上がると、末っ子の頭を一撫でする。
六太は着いていきたそうに眉を下げて兄を見上げていたが、やはりお化け屋敷という所が引っかかるらしい。
「本当は私も炭兄の所行きたいけど..鬼怖いんだもん」
拗ねたように口を尖らせた妹の背を禰豆子がよしよしと撫で下ろす。
炭治郎達のクラス、お化け屋敷の設定を実は以前に兄から話は聞いていた。
内容はこうだ。【人食い鬼が巣食う夜の山中を歩き、最終的に太陽の神様を復活させて鬼を滅し平和を取り戻す】というもの。
誰が考えたのか、何ともストーリー性のある設定だが、下の子達はどうもこの人食い鬼が怖いらしく断固として行きたがらない。
「私はちょっと気になるなぁ」
「ひな姉?お兄ちゃんのクラス行きたいの?」
「まぁね。怖いけど、逆に怖いもの見たさというか?何となく。誰も行かないの?」
いつの間にかメイド服から制服に着替えてきていた日向子姉さんがテーブルにやってきて、横からひょいと頭を出してきた。下の子達はうーんとだんまりであったが、禰豆子がそれじゃあとこう提案する。
「私、実はこれから善逸さんと一緒に回らないかって誘われてるんだけど、お兄ちゃんのクラスも行くからお姉ちゃんも一緒にどう?」
「え、それはちょっと...」
「なんで?私は全然構わないよ?」
「禰豆子が気にしなくても、善逸君が気にするでしょうが。」
さすがに二人の邪魔をするのは悪いと、日向子姉さんは遠慮していた。それなら俺が!とすかさず立候補したい所だが、残念ながら俺は休憩上がりだ
♪~♪♪~
「お兄ちゃん携帯鳴ってるよ」
「あぁ」
発信相手を見るとクラスの友達からだった。何事かと電話に出てみると、その内容は炭治郎にとって吉報と言えるものであった。
「本当か?!あぁ、あぁ勿論!わかった、俺もその方がありがたい。うん、じゃあまた」
何やら嬉しそうな兄を見て皆首を傾げていると、炭治郎はハッとして照れたように頬を掻いた。そして真っ先に日向子に向かってこう告げる。
「クラスの友達が都合で明日の当番と変わって欲しいって、だから今日は一日フリーになったんだ。それで、その..」
ー姉さん、よければ俺と一緒にお化け屋敷行かないか?ー
ーーーーー
〜47【気持ちの温度差】〜
姉さんさえ良ければと、やや緊張した面持ちでそう誘えば、彼女はぱあっと嬉しそうな笑みを浮かべ礼を述べた。
「ありがとう炭治郎、じゃあ一緒に行こうか」
かくして、午後は炭治郎と日向子、禰豆子、他の家族はそれぞれ別行動をする事で話が落ち着いた。
思いがけない好機で、代わってくれた友達に心の底から両手を合わせて感謝した。
まさか日向子姉さんと二人きりで文化祭を回れるとは思っても見なかった...
ー後夜祭は誘えなかったが...今年はツキがあるかもしれないなー
皆と別れた後、炭治郎は柄にもなく有頂天になりながら廊下を並んで歩き始めた。
あのクラスクオリティ高いねとか、このクラスは後で行ってみたいんだよだとか、パンフレットを見てはしゃいでいる彼女を炭治郎は愛おしげに横目に見つめた。
普段淑 やかな彼女が、こうして無邪気にウキウキしている様子を見ると胸がきゅんと疼く。
いつまででも眺めていたい...
「ねぇ炭治郎」
「?」
「炭治郎はさ、こういうの例の好きな人を誘わないの?」
へ.....
思いがけない突然の問いに一瞬頭が真っ白になり、ガヤガヤとした周りの音が遠のく。
無意識に歩みを止め、ゆっくりと彼女の方へ顔を向けた。
日向子姉さんの瞳は、いつもと変わらぬ美しい星空の色をしていたが、その問いの真意は全くわからなかった。
人よりいくらか利く鼻で彼女の心情を探ろうと試みるも、これといって際立った感情の揺れを嗅ぎ取る事は出来なかった。
それは即ち、彼女にとってはこの問いに深い意味を持たない事を示していた。これは、何気ない会話の一つに過ぎない。
手が小刻みに震える。
こんなに、こんなにも気持ちに温度差があるのかと、改めて突きつけられた気がして、心が急激に乾いていくのを感じた。
「...俺は....」
言えない
言えないよ、日向子姉さん
だって俺の本音を伝えたところで、貴女は...
「私はね、炭治郎が誰を好きでもいいと思けど、ただ、貴方が後悔しない道を選んで欲しいの。」
彼女は穏やかに微笑みながらそれだけ言うと、目を見開いて突っ立ったままの炭治郎の手を取った。
「行こうか?」
彼女と触れ合っている部分が温かい。俺は本当に単純だ。この想いを伝えられる余地がある。彼女にそれを許された気がしただけで、こんなにも心が凪ぐ。
【それは、貴女を好きと伝えてもいいって事ですか?日向子姉さん】
ーーーーー
ー無一郎sideー
日向子さんが目的で半ば強引に兄さんの手を引いてこのクラスにやってきたのは十分程前。
僕達がカフェを模した教室の店内に入ると、テレビでやってた?時透兄弟じゃない?二人揃って並んでるの結構レアだよね?と所々からざわついた声が聞こえて来るが、そんな事など気にもせず一目散に目当ての彼女に向かって歩いていった。
「あの!日向子さん」
「?..あ!無一郎君!来てくれたのね、ありがとう」
にこりと微笑んだ彼女は惚れた欲目か或いは服装のせいか、とても可愛らしくて無意識にぼーっと見つめていたら、隣に立っていた兄さんに肘で小突かれた。
「あれ?貴方もしかして..」
「無一郎の兄の有一郎です。はじめまして日向子先輩。貴女の事はこいつからよーく聞いてます。いつも弟が世話になってます。」
意味ありげにそう言った兄さんは、明らかに僕を
ー日向子さんに変に思われたらどう責任とってくれるつもりなんだ、馬鹿兄さんめー
「あぁ、やっぱり!初めまして、私は竈門日向子です。こちらこそ、無一郎君にはいつもバイト先にお客様として来てもらってて、親しくさせて貰ってたんですよ。どうぞ、案内しますね」
可愛らしいフリルエプロンを翻し、彼女は窓側の席へ二人を案内してくれた。
席につくと日向子さんは手に持っていた手作りらしいメニューを目の前に差し出す。僕は注文する品を悩むふりをして、性懲りも無くちらりと彼女を盗み見る。
ー可愛いなぁ..。こんなに可愛いと、きっとたくさんの男子達を虜にしているんだろうなー
そう思うと、ずきりと胸が軋んだ。
僕はただでさえ彼女と歳が離れてて、高等部の先輩達には到底敵わないだろう。
彼女を想う一人の男に変わりはないのだが、それでも彼女にとって僕がそういう対象になる可能性は低い気がする。
兄さんはそんなに好きならとにかく当たりまくれと言うけど、そう簡単なものじゃないんだ..。
そんな事を思っていた時だった。
何やら小さい子供がきゃっきゃと嬉しそうに騒ぐ声が入口から聞こえ、ふと視線を向けると日向子さんの家族の姿が見えた。
申し訳ないが、このタイミングかと落胆した。僕の予想は的中し、せっかく彼女付きのテーブルに座った意味も無くなってしまったのだ。
「...はは..ついてないなお前」
そんな兄さんの同情のため息が酷く耳に残った。
ーーーーー
〜45【渡さない】〜
「ねぇねぇ、今日15時から野外であれやるんでしょ?」
「ん?あぁ、告白大会のこと?」
「そうそれ!」
花子と禰豆子がきゃいきゃいと騒いでいるのを、オムライスを頬張りながら炭治郎はそっと聞き耳を立てる。女の子は本当にこういう話題に敏感だなと思うけど、決して呆れているわけではない。寧ろ炭治郎自身も興味津々の話題であった。
この野外イベントは、高等部生徒会長のクラスが主催している。概要はシンプルで、前もってエントリーしている生徒が意中の相手に告白するというもの。
要するに公開告白イベントだ。
エントリーしている生徒、もとよりその告白相手も司会者に名前を呼ばれるその瞬間まで、一般生徒には情報が漏れないように徹底されている。
ー誰が誰に告白するのか...ー
気にならないわけがない。
日向子姉さん...
視線の先で忙しなく動き訪れた客に笑顔を振りまく彼女を、嫉妬がましく見つめる。
告白する側の可能性は低いけれど、される側としては大いにあり得る。
ただそれだけが怖くて、朝からそわそわしているのはそのせいもあった。
俺はとてもじゃないけど、イベントで姉さんに告白なんて無理だ。側から見たら、姉弟。
だからこそ...黙って指を咥えて見ていなければならない状況だけは、避けたいけど。
【どうしろって言うんだ、どうしようも無い...】
「お兄ちゃんこの後クラスの出し物行かなきゃなんだよね?野外イベントでれるの?」
「え?あぁ、14時30分には一旦クラスの出し物はストップして全校生徒校庭に集まるのが慣わしだから。俺もいけるよ」
「そっか、なら良かったぁ!お兄ちゃんもお姉ちゃん達も学校でモテるみたいだから、ひょっとして誰かと付き合う事になったりしてねー」
何故か花子が得意げににんまり笑って最後の一口をぱくりと口に入れた。
やめてくれ...こればかりは頼むから。
ー俺と日向子姉さんの間に入らないでくれ、誰も。今の関係さえ崩されたら俺は、きっと平常な精神状態じゃいられな...ー
「炭治郎ー」
「っ!?!?」
急に頬に冷たい何かが張り付き、心臓が飛び出そうな勢いで跳ねる。見上げると日向子姉さんがにっこりと笑みを浮かべながらクリームソーダの入ったグラスを持っていた。
「そんなにしかめっ面してどうしたの?らしくないわよ」
「ひな姉!僕の僕のー!」
「はい六太お待たせー」
あぁ...
【絶対に渡さない、貴女だけは絶対に】
ーーーーー
〜46【吉報】〜
「あれ?お兄ちゃんもうこんな時間!」
「本当だ!じゃあ俺行くよ。六太達もまた後でな」
禰豆子が腕時計を見て時刻を知らせてくれると、思ったより長く居座ってしまってた事に気付く。炭治郎は慌てて椅子を引き立ち上がると、末っ子の頭を一撫でする。
六太は着いていきたそうに眉を下げて兄を見上げていたが、やはりお化け屋敷という所が引っかかるらしい。
「本当は私も炭兄の所行きたいけど..鬼怖いんだもん」
拗ねたように口を尖らせた妹の背を禰豆子がよしよしと撫で下ろす。
炭治郎達のクラス、お化け屋敷の設定を実は以前に兄から話は聞いていた。
内容はこうだ。【人食い鬼が巣食う夜の山中を歩き、最終的に太陽の神様を復活させて鬼を滅し平和を取り戻す】というもの。
誰が考えたのか、何ともストーリー性のある設定だが、下の子達はどうもこの人食い鬼が怖いらしく断固として行きたがらない。
「私はちょっと気になるなぁ」
「ひな姉?お兄ちゃんのクラス行きたいの?」
「まぁね。怖いけど、逆に怖いもの見たさというか?何となく。誰も行かないの?」
いつの間にかメイド服から制服に着替えてきていた日向子姉さんがテーブルにやってきて、横からひょいと頭を出してきた。下の子達はうーんとだんまりであったが、禰豆子がそれじゃあとこう提案する。
「私、実はこれから善逸さんと一緒に回らないかって誘われてるんだけど、お兄ちゃんのクラスも行くからお姉ちゃんも一緒にどう?」
「え、それはちょっと...」
「なんで?私は全然構わないよ?」
「禰豆子が気にしなくても、善逸君が気にするでしょうが。」
さすがに二人の邪魔をするのは悪いと、日向子姉さんは遠慮していた。それなら俺が!とすかさず立候補したい所だが、残念ながら俺は休憩上がりだ
♪~♪♪~
「お兄ちゃん携帯鳴ってるよ」
「あぁ」
発信相手を見るとクラスの友達からだった。何事かと電話に出てみると、その内容は炭治郎にとって吉報と言えるものであった。
「本当か?!あぁ、あぁ勿論!わかった、俺もその方がありがたい。うん、じゃあまた」
何やら嬉しそうな兄を見て皆首を傾げていると、炭治郎はハッとして照れたように頬を掻いた。そして真っ先に日向子に向かってこう告げる。
「クラスの友達が都合で明日の当番と変わって欲しいって、だから今日は一日フリーになったんだ。それで、その..」
ー姉さん、よければ俺と一緒にお化け屋敷行かないか?ー
ーーーーー
〜47【気持ちの温度差】〜
姉さんさえ良ければと、やや緊張した面持ちでそう誘えば、彼女はぱあっと嬉しそうな笑みを浮かべ礼を述べた。
「ありがとう炭治郎、じゃあ一緒に行こうか」
かくして、午後は炭治郎と日向子、禰豆子、他の家族はそれぞれ別行動をする事で話が落ち着いた。
思いがけない好機で、代わってくれた友達に心の底から両手を合わせて感謝した。
まさか日向子姉さんと二人きりで文化祭を回れるとは思っても見なかった...
ー後夜祭は誘えなかったが...今年はツキがあるかもしれないなー
皆と別れた後、炭治郎は柄にもなく有頂天になりながら廊下を並んで歩き始めた。
あのクラスクオリティ高いねとか、このクラスは後で行ってみたいんだよだとか、パンフレットを見てはしゃいでいる彼女を炭治郎は愛おしげに横目に見つめた。
普段
いつまででも眺めていたい...
「ねぇ炭治郎」
「?」
「炭治郎はさ、こういうの例の好きな人を誘わないの?」
へ.....
思いがけない突然の問いに一瞬頭が真っ白になり、ガヤガヤとした周りの音が遠のく。
無意識に歩みを止め、ゆっくりと彼女の方へ顔を向けた。
日向子姉さんの瞳は、いつもと変わらぬ美しい星空の色をしていたが、その問いの真意は全くわからなかった。
人よりいくらか利く鼻で彼女の心情を探ろうと試みるも、これといって際立った感情の揺れを嗅ぎ取る事は出来なかった。
それは即ち、彼女にとってはこの問いに深い意味を持たない事を示していた。これは、何気ない会話の一つに過ぎない。
手が小刻みに震える。
こんなに、こんなにも気持ちに温度差があるのかと、改めて突きつけられた気がして、心が急激に乾いていくのを感じた。
「...俺は....」
言えない
言えないよ、日向子姉さん
だって俺の本音を伝えたところで、貴女は...
「私はね、炭治郎が誰を好きでもいいと思けど、ただ、貴方が後悔しない道を選んで欲しいの。」
彼女は穏やかに微笑みながらそれだけ言うと、目を見開いて突っ立ったままの炭治郎の手を取った。
「行こうか?」
彼女と触れ合っている部分が温かい。俺は本当に単純だ。この想いを伝えられる余地がある。彼女にそれを許された気がしただけで、こんなにも心が凪ぐ。
【それは、貴女を好きと伝えてもいいって事ですか?日向子姉さん】
ーーーーー