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幾光年恋したひ
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〜1【春の日溜り】〜
この星の....いや、この宇宙 のどこかではきっと、日がな新たな生命が誕生しては失われ、多くの物語が生まれては風化していく。
それは果てしない【幾光年 先の世界】で起きたことかもしれないし、或いは今もなお起きているかもしれない。
過去か未来か、はたまた次元さえも異なる世界か、結びつける術もなく、それは誰にもわからないけれど。
もしもまた、愛しい人々に再び巡り会えたのだとしたら、きっと今度こそは、幸せになりなさいという神様のお導きなのだと思う...
ーーーーー
「行ってきます!」
にこやかに声を張り上げて真新しい革靴に足を踏み入れる少年。その背中に慌てた様子で声をかけたのは竈門家の長女、日向子であった。
「待って炭治郎!こっち向いて」
鈴の音のような愛しい声と日溜りの香りが炭治郎をくすぐる。振り向くと彼女は炭治郎の胸元に手を伸ばし、慣れた手つきで制服のネクタイを整えてくれた。
せっかくの晴れの日に恥ずかしい失態を犯すところだったらしい。
「っありがとう日向子姉さん。」
内心ドギマギしながらそう礼を述べると、彼女はふわりとした笑みを浮かべて、どういたしましてと返してくれた。
その柔らかい笑顔を見て不覚にも赤面してしまったが、半開きになっていた玄関から春特有の一際強い風が吹き込んできてくれたお陰で、彼女の気を逸らすことが出来た。
「わぁ..凄い風、もう春真っ盛りね。炭治郎もついに今日から私と同じ高等部への進学かぁ」
「あぁ。これからは学校でももう少し接する機会があるかな?日向子姉さん。慣れない事たくさんあると思うけど、宜しくお願いします。」
炭治郎が丁寧に頭を下げると、彼女は任せといて!と嬉しそうに胸を叩いた。
頼られて上機嫌な姿が、とても可愛らしくて思わずニヤけてしまいそうになる。
炭治郎はこの高等部入学の日を誰よりも心待ちにしていた。何故なら、日向子姉さんと一緒の校舎に通えるし、同じ高校生になったという事実が、一歩また彼女に追いつけたと思わせてくれた。
同じ一つ屋根の下で共に暮らしてはいるけれど、歳上であり、ましてや今までは中等部と高等部で学年は勿論校舎は別々。いくら学園と言えども、日中は彼女と接する機会はほぼ皆無に等しかった。
これからはもっと、彼女の近くに居ることができる。
それは、彼女に淡い恋心を抱いている炭治郎としては、何よりも嬉しい事であった。
ーーーーー
〜2【高嶺の花】〜
これからはもっと日向子姉さんの近くにいれる!
そう有頂天になっていたのが正直な所だった。
高等部に進学して、確かに彼女の姿を見る機会は格段に増えたけれど、炭治郎にとってそれが全て喜びに変わるかと言われると、実はそうとも限らなかった。
理由はこれだ。
たまたま善逸達と渡り廊下を歩いていた時、向こうに彼女の姿を見つけた。
先生に頼まれたのだろうか、少し重そうな教材を両手に抱えて歩いているので、これはチャンスだと思い声を掛けようとしたその時だった。
「竈門さん、それ重そうだね?俺持つよ。」
「っ!あ...ありがとう」
見知らぬ男が横から出てきて彼女が抱えていた荷物をひょいと奪った。
元々日向子姉さんは優しくて礼儀正しい性格なので、他人からの好意は決してむげにはしない。
案の定いつもの柔らかい笑みをその男に向けていて、相手も満更でも無く照れ臭そうに頬をかいていた。
その光景を見て無性に腹が立ち、隣にいた善逸にもギョッとした視線を向けられてしまった。
「...おい。凄い顔してるぞお前。大丈夫?」
「....む....大丈夫だ」
口ではそう言ったけど、内心穏やかではないのは一目瞭然だった。
彼女はどうやら高等部ではかなりモテるらしく、炭治郎達が入学するまでは高等部三代美女と言われる女子の1人だった。
入学してすぐ、女の子好きの善逸は興奮したように日向子姉さんの事を可愛い、綺麗、愛くるしいだとか毎日のように叫んでたけど、いつしか炭治郎の好意に気づいてからというものぱたりとそれは無くなった。
多分俺がすぐに顔に出るタイプだったというのもあるが、善逸は生まれつき音に敏感な体質だったのが主な理由だろう。
だから、今も単純に心配で声をかけてくれたのだと思う。
人当たりの良い彼女は、女子にも男子にも人気があり常に人の輪の中にいる、日溜りの中心にいるようなそんな人だったから、弟の炭治郎でさえも迂闊に近づけない。
こんな筈ではなかったのに...。百歩譲って女子はいい、けど、男子は許せない。何故なら大半が彼女に
対して下心を持っているのが見え見えだからだ。
ー俺の方が、ずっと前から彼女の事を好きなのにっー
恐らく、表向きには俺と彼女は同じ竈門家。血が繋がっている家族と思われている。
だから、喉まで出かかったその思いは、ぐっと飲み込むしかないのだ。
ギリっと唇を噛む日々が、これからずっと続くのかと思うと気が滅入ってしまいそうだ。
ーーーーー
〜3【出逢い】〜
日向子姉さんと出会ったのは、俺が5歳の頃だった。
ここからは、俺もまだ幼かったので聞いた話だけれど、彼女の両親は天文学者とジャーナリストで、主には日本で仕事をしていたらしいが、学者である母親が未確認だった恒星を見つけ出した事で、一躍時の人となった。
世界中からインタビューや記者会見のオファーが舞い込み、夫の支えもあり度々外国に赴く事も多くなったと聞いている。
一人娘で幼い日向子姉さんも、なるべく両親と共に行動を共にしていたようだが、
その時は違った。
本当にたまたまだった。とんぼ返りになる忙しいスケジュールだからという理由で、親同士の交流が盛んだった竈門家の元へと日向子姉さんは預けられた。
「初めまして、巫 日向子と言います。しばらくの間こちらでお世話になります!」
両親の影響で海外や地方を飛び回っている経験が豊富な彼女は、年齢の割にとても礼儀正しくて、明るい笑顔が特徴的な女の子だった。
俺はその桃の花のように愛くるしい笑顔を見た時、何とも言えない衝撃を受け、同時に懐かしい記憶を思い出したような気がした。
初めて会った筈なのに、初めて会った気がしない。不思議な出会いだった。
自然と意気投合した俺達は、毎日のように遊び回り、禰豆子と竹雄もすぐに彼女に懐いた。
まるで新しいお姉ちゃんが出来たように、数日経った頃にはすっかり竈門家に馴染んでいたのだ。
星空が綺麗な晴れた夜。近所の公園で天体観測をした。
「皆見てごらん!あれはね、シリウスって言って太陽の次に明るいお星様なのよ?」
「お星様って明るさがそれぞれ違うの?」
禰豆子が疑問に思った事を問いかけると日向子姉さんはこくりと頷いた。
「お星様は大きさも違うし、頑張って自分で輝いてるものや、照らしてもらって輝くものと色々なの。
不思議だねぇ。全部違う光を放っているから、こんなに素敵な夜空になるんだよ」
へぇーと感慨深く禰豆子は夜空を見上げる。
皆が夢中で夜空を見上げている中、自分だけは無意識のうちに日向子姉さんを見つめていた。
その横顔がとても綺麗で、またもあの切ない疼きに襲われる。
【誰か】の記憶の中に、その身が吸い込まれるような感覚。俺はやっぱり...どこかで
炭治郎の視線に気づいたらしい彼女がふとこちらに目線を流す。ドキリとして慌てて顔を皆と同じ方向に向けた。
どこかでこんな美しい星空を、彼女と見た気が...
そんな訳はないのに
ーーーーー
〜4【幼心の決意】〜
「ねぇねぇ日向子ちゃん、お父さんとお母さん明日帰ってくるの?そしたら、またしばらく会えないの?」
禰豆子が寂しそうな顔でそう日向子姉さんに問いかける。すると彼女は、そうだねと少し申し訳なさそうに答えた。
嫌だ嫌だ、もうちょっとうちに居てよーと駄々をこねる禰豆子とそれが伝染したように泣きじゃくる竹雄を見て、オロオロしたように狼狽る。
あんまり日向子ちゃんを困らせないのよと諭した母さんのお陰で、ようやくぐずるのをやめた二人は、いつでも遊びに来てねと指切りげんまんしていた。
そんな光景を見ていた炭治郎は、ぐっと拳を握りしめる。
長男である手前何も言えなかったが、炭治郎も内心は彼女と別れるのが嫌だった。
嫌なんてものじゃない。日向子姉さんと別れる、離れ離れになる。それがもはや堪え難かった。
でも炭治郎までもがそんな我儘を言えば、きっと困り果てるだろうから...。
困らせたくないんだ、彼女を。
その時、プルルルルと家のリビングに着信音が鳴り響いた。誰かしらと首を傾げながら駆けていく母の背中を何気なく追った。
そして、電話を取った母はしばらく無言で言葉を発さなかった。
いつもなら、明るい声色で応対する母にしてはとても珍しく、微かな違和感を覚える。
「母ちゃん?」
恐る恐るそう母の背中に声を掛けると、ようやくゆっくりと振り向いた。
その表情は、絶望を示していた。
「日向子ちゃん。お父さんとお母さんが....」
それからしばらくの事は、申し訳ないがあまり詳しくは語りたくない。
今でこそ明るい太陽のような笑顔を取り戻している日向子姉さんだけど、あの時の彼女は見るに耐えないものだった。
彼女の涙を見る度に、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
大切な家族を失うという事は....
とても悲しくて、苦しくて、激しい慟哭 をあげたくなる。世界が反転したように、一気に暗い色を帯びていく。
そういうものである事が、何となく炭治郎にもわかる。
彼女の悲しみは俺が全て払拭して見せよう。
こんなに柔らかい笑みを浮かべる人が、不幸になっていい筈がないのだから。
彼女の笑顔は、俺が取り戻す。
俺が...日向子姉さんを側で支えて、守り通すんだ。
幼いながらにも、炭治郎はそう心に決意を固めた。
悲しみの雲など吹き飛ばし、眩いばかりの幸せを照らし出す太陽。
俺は彼女にとっての、そんな存在になりたいと思った。
ーーーーー
この星の....いや、この
それは果てしない【
過去か未来か、はたまた次元さえも異なる世界か、結びつける術もなく、それは誰にもわからないけれど。
もしもまた、愛しい人々に再び巡り会えたのだとしたら、きっと今度こそは、幸せになりなさいという神様のお導きなのだと思う...
ーーーーー
「行ってきます!」
にこやかに声を張り上げて真新しい革靴に足を踏み入れる少年。その背中に慌てた様子で声をかけたのは竈門家の長女、日向子であった。
「待って炭治郎!こっち向いて」
鈴の音のような愛しい声と日溜りの香りが炭治郎をくすぐる。振り向くと彼女は炭治郎の胸元に手を伸ばし、慣れた手つきで制服のネクタイを整えてくれた。
せっかくの晴れの日に恥ずかしい失態を犯すところだったらしい。
「っありがとう日向子姉さん。」
内心ドギマギしながらそう礼を述べると、彼女はふわりとした笑みを浮かべて、どういたしましてと返してくれた。
その柔らかい笑顔を見て不覚にも赤面してしまったが、半開きになっていた玄関から春特有の一際強い風が吹き込んできてくれたお陰で、彼女の気を逸らすことが出来た。
「わぁ..凄い風、もう春真っ盛りね。炭治郎もついに今日から私と同じ高等部への進学かぁ」
「あぁ。これからは学校でももう少し接する機会があるかな?日向子姉さん。慣れない事たくさんあると思うけど、宜しくお願いします。」
炭治郎が丁寧に頭を下げると、彼女は任せといて!と嬉しそうに胸を叩いた。
頼られて上機嫌な姿が、とても可愛らしくて思わずニヤけてしまいそうになる。
炭治郎はこの高等部入学の日を誰よりも心待ちにしていた。何故なら、日向子姉さんと一緒の校舎に通えるし、同じ高校生になったという事実が、一歩また彼女に追いつけたと思わせてくれた。
同じ一つ屋根の下で共に暮らしてはいるけれど、歳上であり、ましてや今までは中等部と高等部で学年は勿論校舎は別々。いくら学園と言えども、日中は彼女と接する機会はほぼ皆無に等しかった。
これからはもっと、彼女の近くに居ることができる。
それは、彼女に淡い恋心を抱いている炭治郎としては、何よりも嬉しい事であった。
ーーーーー
〜2【高嶺の花】〜
これからはもっと日向子姉さんの近くにいれる!
そう有頂天になっていたのが正直な所だった。
高等部に進学して、確かに彼女の姿を見る機会は格段に増えたけれど、炭治郎にとってそれが全て喜びに変わるかと言われると、実はそうとも限らなかった。
理由はこれだ。
たまたま善逸達と渡り廊下を歩いていた時、向こうに彼女の姿を見つけた。
先生に頼まれたのだろうか、少し重そうな教材を両手に抱えて歩いているので、これはチャンスだと思い声を掛けようとしたその時だった。
「竈門さん、それ重そうだね?俺持つよ。」
「っ!あ...ありがとう」
見知らぬ男が横から出てきて彼女が抱えていた荷物をひょいと奪った。
元々日向子姉さんは優しくて礼儀正しい性格なので、他人からの好意は決してむげにはしない。
案の定いつもの柔らかい笑みをその男に向けていて、相手も満更でも無く照れ臭そうに頬をかいていた。
その光景を見て無性に腹が立ち、隣にいた善逸にもギョッとした視線を向けられてしまった。
「...おい。凄い顔してるぞお前。大丈夫?」
「....む....大丈夫だ」
口ではそう言ったけど、内心穏やかではないのは一目瞭然だった。
彼女はどうやら高等部ではかなりモテるらしく、炭治郎達が入学するまでは高等部三代美女と言われる女子の1人だった。
入学してすぐ、女の子好きの善逸は興奮したように日向子姉さんの事を可愛い、綺麗、愛くるしいだとか毎日のように叫んでたけど、いつしか炭治郎の好意に気づいてからというものぱたりとそれは無くなった。
多分俺がすぐに顔に出るタイプだったというのもあるが、善逸は生まれつき音に敏感な体質だったのが主な理由だろう。
だから、今も単純に心配で声をかけてくれたのだと思う。
人当たりの良い彼女は、女子にも男子にも人気があり常に人の輪の中にいる、日溜りの中心にいるようなそんな人だったから、弟の炭治郎でさえも迂闊に近づけない。
こんな筈ではなかったのに...。百歩譲って女子はいい、けど、男子は許せない。何故なら大半が彼女に
対して下心を持っているのが見え見えだからだ。
ー俺の方が、ずっと前から彼女の事を好きなのにっー
恐らく、表向きには俺と彼女は同じ竈門家。血が繋がっている家族と思われている。
だから、喉まで出かかったその思いは、ぐっと飲み込むしかないのだ。
ギリっと唇を噛む日々が、これからずっと続くのかと思うと気が滅入ってしまいそうだ。
ーーーーー
〜3【出逢い】〜
日向子姉さんと出会ったのは、俺が5歳の頃だった。
ここからは、俺もまだ幼かったので聞いた話だけれど、彼女の両親は天文学者とジャーナリストで、主には日本で仕事をしていたらしいが、学者である母親が未確認だった恒星を見つけ出した事で、一躍時の人となった。
世界中からインタビューや記者会見のオファーが舞い込み、夫の支えもあり度々外国に赴く事も多くなったと聞いている。
一人娘で幼い日向子姉さんも、なるべく両親と共に行動を共にしていたようだが、
その時は違った。
本当にたまたまだった。とんぼ返りになる忙しいスケジュールだからという理由で、親同士の交流が盛んだった竈門家の元へと日向子姉さんは預けられた。
「初めまして、
両親の影響で海外や地方を飛び回っている経験が豊富な彼女は、年齢の割にとても礼儀正しくて、明るい笑顔が特徴的な女の子だった。
俺はその桃の花のように愛くるしい笑顔を見た時、何とも言えない衝撃を受け、同時に懐かしい記憶を思い出したような気がした。
初めて会った筈なのに、初めて会った気がしない。不思議な出会いだった。
自然と意気投合した俺達は、毎日のように遊び回り、禰豆子と竹雄もすぐに彼女に懐いた。
まるで新しいお姉ちゃんが出来たように、数日経った頃にはすっかり竈門家に馴染んでいたのだ。
星空が綺麗な晴れた夜。近所の公園で天体観測をした。
「皆見てごらん!あれはね、シリウスって言って太陽の次に明るいお星様なのよ?」
「お星様って明るさがそれぞれ違うの?」
禰豆子が疑問に思った事を問いかけると日向子姉さんはこくりと頷いた。
「お星様は大きさも違うし、頑張って自分で輝いてるものや、照らしてもらって輝くものと色々なの。
不思議だねぇ。全部違う光を放っているから、こんなに素敵な夜空になるんだよ」
へぇーと感慨深く禰豆子は夜空を見上げる。
皆が夢中で夜空を見上げている中、自分だけは無意識のうちに日向子姉さんを見つめていた。
その横顔がとても綺麗で、またもあの切ない疼きに襲われる。
【誰か】の記憶の中に、その身が吸い込まれるような感覚。俺はやっぱり...どこかで
炭治郎の視線に気づいたらしい彼女がふとこちらに目線を流す。ドキリとして慌てて顔を皆と同じ方向に向けた。
どこかでこんな美しい星空を、彼女と見た気が...
そんな訳はないのに
ーーーーー
〜4【幼心の決意】〜
「ねぇねぇ日向子ちゃん、お父さんとお母さん明日帰ってくるの?そしたら、またしばらく会えないの?」
禰豆子が寂しそうな顔でそう日向子姉さんに問いかける。すると彼女は、そうだねと少し申し訳なさそうに答えた。
嫌だ嫌だ、もうちょっとうちに居てよーと駄々をこねる禰豆子とそれが伝染したように泣きじゃくる竹雄を見て、オロオロしたように狼狽る。
あんまり日向子ちゃんを困らせないのよと諭した母さんのお陰で、ようやくぐずるのをやめた二人は、いつでも遊びに来てねと指切りげんまんしていた。
そんな光景を見ていた炭治郎は、ぐっと拳を握りしめる。
長男である手前何も言えなかったが、炭治郎も内心は彼女と別れるのが嫌だった。
嫌なんてものじゃない。日向子姉さんと別れる、離れ離れになる。それがもはや堪え難かった。
でも炭治郎までもがそんな我儘を言えば、きっと困り果てるだろうから...。
困らせたくないんだ、彼女を。
その時、プルルルルと家のリビングに着信音が鳴り響いた。誰かしらと首を傾げながら駆けていく母の背中を何気なく追った。
そして、電話を取った母はしばらく無言で言葉を発さなかった。
いつもなら、明るい声色で応対する母にしてはとても珍しく、微かな違和感を覚える。
「母ちゃん?」
恐る恐るそう母の背中に声を掛けると、ようやくゆっくりと振り向いた。
その表情は、絶望を示していた。
「日向子ちゃん。お父さんとお母さんが....」
それからしばらくの事は、申し訳ないがあまり詳しくは語りたくない。
今でこそ明るい太陽のような笑顔を取り戻している日向子姉さんだけど、あの時の彼女は見るに耐えないものだった。
彼女の涙を見る度に、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
大切な家族を失うという事は....
とても悲しくて、苦しくて、激しい
そういうものである事が、何となく炭治郎にもわかる。
彼女の悲しみは俺が全て払拭して見せよう。
こんなに柔らかい笑みを浮かべる人が、不幸になっていい筈がないのだから。
彼女の笑顔は、俺が取り戻す。
俺が...日向子姉さんを側で支えて、守り通すんだ。
幼いながらにも、炭治郎はそう心に決意を固めた。
悲しみの雲など吹き飛ばし、眩いばかりの幸せを照らし出す太陽。
俺は彼女にとっての、そんな存在になりたいと思った。
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