星詠み【side story】
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就寝時刻が近く誰かが見廻りに来る可能性がある事を彼女はかなり気にしていたので、名残惜しい気持ちを抱えながらも元の部屋に引き返して来た。
真っ暗な部屋では、俺の事を気遣ってくれたのか既に玄弥は寝息を立てて、壁側に体を向けている。
炭治郎は自分にあてがわれたベッドにそのまま潜り込み横になると、しばらくの間天井を見つめていた。夢見心地な頭はなかなか現実に追いつかず、【先程の出来事】が夢なんじゃないかと思ってしまう。
ー日向子さんと俺が...両想いー
「ッ~...」
自覚するように心の中でそう呟き返せば、嬉しさのあまり身悶えする。
信じられない...あぁ、夢みたいだ。でも、紛れもない現実で、確かに彼女の口から好きという言葉を聞いたし、匂いも確認した。
あれほど頑なに炭治郎の想いに応えようとしていなかった彼女が、何のきっかけで心変わりしたのか、或いは自覚したのかまでは、この短時間では聞けなかった。
だがとにかく、彼女の好きが炭治郎と同じ恋慕である事に違いはないのだ。
ーこの瞬間を、ずっと待ち望んでいたー
俺は物心がついてから、日向子さんただ一人だけを見てきた。
途中何があろうとも、彼女への想いだけは褪せたことはない。それどころか昨日より...今日より明日と、濃く強く身に刻まれていく想いに戸惑う日々。
こんなに誰かを好きになる事に、ある種の恐怖さえ感じた。一度は待つと言いながら、結局自分が我慢出来ずに泣いて縋ってしまった事もあった。
どうしても、彼女にも自分と同種の想いを抱いて欲しかった。
弟扱いは耐えきれない。家族愛では飽き足らない。
もっと...もっともっと、重く濃い切ない想いを一身に与えてくれなければ、強硬手段に出てしまいそうなくらいにはいよいよ耐えかねていた。
「はぁ...日向子さん、日向子さんッ..」
膨れ上がる気持ちを分散させようと、体は無意識に彼女の名を呼ぶ。不完全燃焼の心をどうにかこうにか鎮める方法を思案した。
本当はもっと色々な話がしたかったし、口吸いもあんな軽いもので終わらせるつもりなんてなかった。
痕を付けた胸元も、凄く綺麗だったな。いい匂いがした。
もっと...堪能したかった..
本当に、人間とは欲深くあさましい生き物だと思う。
何かが手に入れば、今度はもっと別のものを、或いはその先を欲するようになってしまうのだから
好きな人の色んな姿が見たい。
日向子さんの...そうだな。もっと照れた顔が見たい。いつも穏やかだけど、一杯一杯になるとたじたじになるから可愛い。だからつい構いたくなってしまうんだ。
あとは、着飾った晴れ着姿とか、女学生みたいな袴姿も見たいな。きっと上品な佇まいで、どこぞのお嬢様の様に見えるに違いない。
お酒に酔ったりしたらどうなるんだろう?普段は真面目でしっかりしてるけど、甘えたになったりするんだろうか....
ーあぁっどうしよう可愛い!ー
側から見たら非常に怪しい人物だが、堪らず炭治郎は枕に顔面を押し付けた。心臓が脈打つのが止まらない。
彼女は滅多に甘えて来ないから、普段と違うそんな一面を見た日には、呆気なく理性を手放す自信がある。
健全な想像から、次第に
あれは上弦の肆と戦闘を行なっている時、禰豆子か里人の命か、どちらを優先するかの選択が迫られていた。
あの時の切羽詰まった気持ちは、あまり思い出したくないから、すっかり頭から抜けていたけれど....
ー「お兄ちゃん」ー
あの時日向子さんは俺の袖をぎゅっと掴み、向日葵のような笑みを向け微かにそう呼んだ。
中身が禰豆子だった事はわかってる、わかってるのだが...
今思い返してみるとあの光景は...くるものがある。
あどけない無垢な笑顔。鈴がふるりと震えるような声音。お兄ちゃんだなんて、彼女が絶対に口にしない呼び名だ。
聖女のように清らかで神聖な空気感を放つ人だから、このギャップに炭治郎は完全に心を撃ち抜かれた。
「...可愛かったなぁ..」
(別に、そういう【
多分俺は、日向子さんに甘えて欲しいんだと思う。
普段、全部を抱え込んで頑張ろうとする人だから、辛い素振りも寂しい顔も決して見せようとしない人だから、そんな彼女が甘えてくれたらそりゃあ嬉しいにきまってる。
俺の前では自然体で居て欲しいと思うし、寧ろ少しくらい我儘を言ってくれた方が安心するというものだ。
美しい硝子細工のように、きっと脆く儚い。ちょっとした衝撃で欠けたり壊れてしまうかもしれない。
それがもの凄く怖い。
だから、俺が守るんだ。日向子さんの為なら俺は盾にでも何でもなれる。
(それだけ、大切な人なのだ)