星詠み【side story】
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1月××日
日向子姉さんへ
貴女への初めての文が、離別してからになるとは思いもしませんでした。悔しくて悲しくて、これが現実だとはとてもまだ思えない。今もこの文を書いている手が震えて止まりません。でも俺は、貴女がきっと何処かで生きていてくれてると信じてるから、だから前を向くよ。
完全な俺の独白となってしまうが、これから定期的に貴女へ文を送ろうと思うので、宜しくお願いします。
ーーー
3月××日
日向子姉さんへ
最近ようやく春の風になって来ましたね。
季節の変わり目なので体に気を付けて下さい。俺はやっと修行が板についてきました。明日からは刀を持って山を下る修行に入ります。禰豆子を人間に戻す為、そして日向子姉さんの行方を知るきっかけを得る為に、明日もそれ以降も頑張ります。早く貴女に会いたいです。
ーーー
5月××日
日向子姉さんへ
最近は暑い日が増えてきましたね。日が長くなって来たので、冬の時期よりも多く修行が出来て嬉しいです。まだまだ鱗滝さんから一本取るには程遠いけれど、俺には努力しか出来ないのだから頑張るしかない。修行の難易度は上がって何度も死にそうになるけど、その度に貴女の顔を思い出します。俺を奮い立たせてくれてありがとう。俺にとって日向子姉さんは、とても特別で、かけがえのない存在です。
ーーー
7月××日
日向子姉さんへ
貴女は今何処におられるのでしょうか?もう半年以上も顔を見ていなくて、声も聞いていない。いい加減どうにかなりそうです。
禰豆子も未だに目を醒まさないんだ。もしかしたらこのまま目を開けないんじゃないかと思うと、怖くて仕方ない。
俺は今月で十四歳になります。でも何だかあまり嬉しくない。あれだけ早く貴女に追いつきたいと願っていた年齢なのに、まるで俺だけが時を刻んでいるみたいで、それが凄く辛い。
ごめん。少し最近の俺はおかしいみたいだ。もう少し前向きでいないと貴女に呆れられてしまう。
ーーー
8月××日
日向子姉さんへ
禰豆子はやっぱり目を醒しません。医者に診せたら、生きてはいるけど原因がわからないと言われました。朝になる度に呼吸の有無を確認し、そして安堵します。そう言えば、日向子姉さんに編んでもらった首巻きだけど、最近はすっかり貴女の匂いが褪せてきてしまって悲しい。俺この匂いがとても好きだったんだ。落ち着くし安心する。あぁ、早く捜しに行きたい。何処かで生きているのだとしても、俺が会いに行かないと。
ーーー
11月××日
日向子姉さんへ
肌寒い季節が近づいて来ました。どうにも憂鬱になってしまっていけない。最近、夢を見るんです。それもあまりいい夢とは言えない。いつも夢の中の俺はあの日を繰り返す。嫌なのに、貴女の手を解き山を下ってしまう。
時を巻き戻す事も、やり直す事も不可能なのだという現実を突き付けられる。
守ってあげられなくてごめんなさい。俺が弱いせいで、間が悪いせいで本当にすまない。大好きな貴女から、そんな蔑んだ眼差しを向けられるのが、例え夢だとわかっても、辛い。
ーーー
12月××日
日向子姉さんへ
もう貴女と離れて一年が経とうとしています。俺はずっと貴女に伝えたい事がありました。
本当はいつか、直接日向子姉さんの目を見て伝えたかった事。でももしかしたら、それが叶わないかもしれないと最近思ってしまうんです。もはや内に秘めてるだけなのは気が狂いそうになってしまうので、せめてこの想いを文にしたためます。
俺は、日向子姉さんの事が一人の女の子として好きです。その想いは会えなくなった今でも全く変わりません。貴女は気付いてたかわからないけれど、その優しい眼差しも笑顔も、温もりも匂いも、思いやりのある心も気高い信念も、ちょっと抜けてる可愛らしい所も、全部全部俺を虜にしてやまなかった。
たくさんしてあげたい事があった。いつか綺麗な着物や簪を贈りたかった。沢山美味しいものを食べさせてあげたかった。行った事ない都会や海なんかも連れて行ってやりたかった。
あの夜さえ来なければ、いつかこれらが現実になっていたかもしれないと思うと後悔してもしきれない。
本当に、貴女は今何処にいるのだろう。時が経てばこの想いは薄らぐのかと思った事もあるけど、全くその気配がないんです。伝えたいのにそれが叶わない。それがこんなに苦しいものだとは思わなかった。
日向子姉さん好きです。大好きです。思い切り抱き締めたい。貴女の温もりに触れさせてくれ。またあの優しい声が聴きたい。日溜りの匂いを嗅ぎたい。もう記憶の中でそれらを思い浮かべるだけじゃ辛抱出来ません。出来ない..
ーーー
1月××日
日向子姉さんへ
日向子姉さん、あれから文が書けなくなってしまってごめんなさい。昨日、修行の合間に鱗滝さんが息抜きに外に連れ出してくれました。ここ最近ずっと鍛錬に必死になってるか、夜は家族の事で思い詰めてしまう日々が続いてたから、そんな俺を鱗滝さんが気遣ってくれたのかもしれない。
川べりで魚を釣ったり、丘の上で流れる雲をひたすら見つめたり、鳥のさえずりに耳をすましたりしてました。何だか久々、いや、もしかしたら初めてそんなゆったりとした時間を一日中過ごした気がします。
少しだけ気持ちが落ち着いたから、改めてまた今日から文を書きますね。
豊かな自然の中に身を置いていると、ちょっと隣を見たら貴女が座っているような気がするんです。
居る訳がないのだけど、日向子姉さんに包まれてるような錯覚を覚えるから不思議だ。弱腰の俺を励まそうとしてくれていたのかな?だとしたら嬉しい。
今日、これでお前に何も教える事はないと鱗滝さんに言われました。明日からはまた別の場所で鍛錬するそうです。あと少し、認めて貰うまでもう挫けません。
日向子姉さん、改めて言います。貴女が何処にいても俺の気持ちは変わらない。
愛しています。
竈門炭治郎
ーーー
時に数枚に及ぶ藁半紙 の文を久々に手に取った炭治郎は、内容を見返すやいなやその内容に、羞恥心から口を押さえ一人顔を真っ赤にしていた。
禰豆子に向けての日記と一緒に、ごく自然と書き始めたものだったから、あの時は無意識だったけど...
今思えばこれはまさしく【恋文】であり、まさかまた再会出来るとはこの時は思わなかった時期だったから、本当に自分の心の内がありありと書かれていたので尚更恥ずかしくなった。
時折涙の痕が滲んでいて、自分の事なのだけど、相当参っていたのがわかる。
ー恥ずかしいこんなもの...他の人には絶対見せられない。
無論だが、日向子姉さん本人にだって...ー
送るつもりがないなら、再会が果たせた今捨てたって構わない筈なのに、何故かずっと大事に仕舞い込んでいた。
一箇所に身を置くことが難しいから、いつか何かの拍子で誰かに見られたらと考えるとたまったものではない。
「...処分するか」
正直名残惜しいけど、彼女への気持ちは面と向かって言おうと思えば言えるから。
炭治郎は数十枚にもなる束をまとめて、道中誰にも会わない事を祈り戸を開けた。しかし、部屋を出てすぐ右に曲がった時、誰かと鉢合わせし体がぶつかる。
「っ!すみませ...」
「ごめん!大丈夫?」
その拍子にとさりと紙束が床に落ち、相手はつられて視線を床に落とす。
「それ何?」
「これはっ!なんでもないっ!」
慌てて炭治郎は物を拾い上げた。
最悪だ...まさか文を宛てた本人と遭遇するだなんて
炭治郎の慌てっぷりと赤面っぷりを見て、彼がこんなに必死になって隠そうとするそれが何なのか、つい好奇心が湧いてしまった。日向子は顔を寄せて炭治郎が持つ紙束を指差す。
「気になるなぁ、どうしても見せてくれないの?」
「っ駄目だ!これだけは、これだけはいくら日向子姉さんでも」
日向子姉さん【だからこそ..】
本当に勘弁してくれとばかりに頭 を垂れる炭治郎を見て、ここまでされたら無理に暴露させるのも可哀想だと思った。
この子は嘘をつけないから、安易な事は言わないし言葉巧みにはぐらかす事もしない。そんな彼が頑なに口を閉ざすのだから、相当ばれたくないのだ。
彼も年頃だ、日向子に知られたくない事の一つや二つくらいあるだろう。
「わかった、ごめんね?ただ、そんなに必死になるからついつい気になっちゃって。もう意地悪しないから」
「っ...」
炭治郎は複雑そうな表情で日向子を見上げたが、すまないと一言謝罪し、羽織りの内側へとそれをしまい込んだ。
「日向子姉さん、俺の部屋に何か用だった?」
「ぁ、そうだ!師範からこれ大事なものだろうって送られてきたんだけど」
「..文?」
「うん、そう。炭治郎と禰豆子に会えなかった時期に、私が書いたものなの。ちょっと恥ずかしいんだけど、せっかく書いたから、良かったら貰ってくれないかしら?」
はにかみながら手渡されたそれを受けとって、ぱらりと開く。そこに書かれた文字を目で追うにつれ、感極まって胸の奥がじんわりと熱くなった。
「日向子姉さん..これ」
「全然大袈裟な内容じゃないんだけど、私の貴方達への感謝の気持ち。こうやって何かきっかけでもないと、なかなか言えないk」
彼女の言葉が不自然に止まる。炭治郎が日向子に抱き着いたからだ。まるで久々に再会したあの藤襲山の夜のように、彼はぐりぐりと頭を押し付けて、絶対に離すもんかと腕に力を込める。
そんな様子に、彼女は数度目をぱちくりさせていたが、やがて愛おしそうに口元を緩め炭治郎の頭をよしよしと撫でる。
「大丈夫よ、私はここにいるから。」
「うん...」
「あらあら、そんなに感動するような手紙だったかなぁ。嬉しいけどね」
「うんっありがとう。一生大事にする。まさか姉さんも文書いてくれてたなんて..」
「姉さんも?」
「あ」
違うのだと慌てふためく彼を見て、ついに笑いを吹き出してしまった。何となく察したのだ。
「ありがとうね、炭治郎」
ーーー
炭治郎と禰豆子へ
お元気でしょうか?この短期間で色々な事があり過ぎたけれど、二人が生き残っている事を知り私は安心しています。
本当はすぐにでも二人を捜しに行きたいけれど、私は鬼殺隊に入る為に修行をする事に決めました。私には、成し遂げなければいけない使命があるから。でも必ず貴方達を迎えに行くから、それまで少し待っていて下さい。
そして再会出来たら、竈門家の家族皆がいたから今の私が在ること、その感謝を伝えたいです。こんな至らない私を、慕ってくれてありがとう。
竈門家での幸せな日々は、私にとって宝物の記憶です。だからせめて、この先の幸せは誰にも奪わせない。
力不足なばかりに、皆の事は守ってやる事が出来なくてごめんなさい。でもその分、炭治郎と禰豆子の事は何があっても守るって決めたから、私頑張るね。
ちゃんとご飯食べて、休む時はしっかり休んで、体に気を付けてください。二人は特に頑張り屋だったから、少しだけそれが心配です。どうか無事で。
貴方達の顔は方時も忘れません。また元気に逢える日を祈っています。
竈門日向子
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1月××日
日向子姉さんへ
貴女への初めての文が、離別してからになるとは思いもしませんでした。悔しくて悲しくて、これが現実だとはとてもまだ思えない。今もこの文を書いている手が震えて止まりません。でも俺は、貴女がきっと何処かで生きていてくれてると信じてるから、だから前を向くよ。
完全な俺の独白となってしまうが、これから定期的に貴女へ文を送ろうと思うので、宜しくお願いします。
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3月××日
日向子姉さんへ
最近ようやく春の風になって来ましたね。
季節の変わり目なので体に気を付けて下さい。俺はやっと修行が板についてきました。明日からは刀を持って山を下る修行に入ります。禰豆子を人間に戻す為、そして日向子姉さんの行方を知るきっかけを得る為に、明日もそれ以降も頑張ります。早く貴女に会いたいです。
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5月××日
日向子姉さんへ
最近は暑い日が増えてきましたね。日が長くなって来たので、冬の時期よりも多く修行が出来て嬉しいです。まだまだ鱗滝さんから一本取るには程遠いけれど、俺には努力しか出来ないのだから頑張るしかない。修行の難易度は上がって何度も死にそうになるけど、その度に貴女の顔を思い出します。俺を奮い立たせてくれてありがとう。俺にとって日向子姉さんは、とても特別で、かけがえのない存在です。
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7月××日
日向子姉さんへ
貴女は今何処におられるのでしょうか?もう半年以上も顔を見ていなくて、声も聞いていない。いい加減どうにかなりそうです。
禰豆子も未だに目を醒まさないんだ。もしかしたらこのまま目を開けないんじゃないかと思うと、怖くて仕方ない。
俺は今月で十四歳になります。でも何だかあまり嬉しくない。あれだけ早く貴女に追いつきたいと願っていた年齢なのに、まるで俺だけが時を刻んでいるみたいで、それが凄く辛い。
ごめん。少し最近の俺はおかしいみたいだ。もう少し前向きでいないと貴女に呆れられてしまう。
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8月××日
日向子姉さんへ
禰豆子はやっぱり目を醒しません。医者に診せたら、生きてはいるけど原因がわからないと言われました。朝になる度に呼吸の有無を確認し、そして安堵します。そう言えば、日向子姉さんに編んでもらった首巻きだけど、最近はすっかり貴女の匂いが褪せてきてしまって悲しい。俺この匂いがとても好きだったんだ。落ち着くし安心する。あぁ、早く捜しに行きたい。何処かで生きているのだとしても、俺が会いに行かないと。
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11月××日
日向子姉さんへ
肌寒い季節が近づいて来ました。どうにも憂鬱になってしまっていけない。最近、夢を見るんです。それもあまりいい夢とは言えない。いつも夢の中の俺はあの日を繰り返す。嫌なのに、貴女の手を解き山を下ってしまう。
時を巻き戻す事も、やり直す事も不可能なのだという現実を突き付けられる。
守ってあげられなくてごめんなさい。俺が弱いせいで、間が悪いせいで本当にすまない。大好きな貴女から、そんな蔑んだ眼差しを向けられるのが、例え夢だとわかっても、辛い。
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12月××日
日向子姉さんへ
もう貴女と離れて一年が経とうとしています。俺はずっと貴女に伝えたい事がありました。
本当はいつか、直接日向子姉さんの目を見て伝えたかった事。でももしかしたら、それが叶わないかもしれないと最近思ってしまうんです。もはや内に秘めてるだけなのは気が狂いそうになってしまうので、せめてこの想いを文にしたためます。
俺は、日向子姉さんの事が一人の女の子として好きです。その想いは会えなくなった今でも全く変わりません。貴女は気付いてたかわからないけれど、その優しい眼差しも笑顔も、温もりも匂いも、思いやりのある心も気高い信念も、ちょっと抜けてる可愛らしい所も、全部全部俺を虜にしてやまなかった。
たくさんしてあげたい事があった。いつか綺麗な着物や簪を贈りたかった。沢山美味しいものを食べさせてあげたかった。行った事ない都会や海なんかも連れて行ってやりたかった。
あの夜さえ来なければ、いつかこれらが現実になっていたかもしれないと思うと後悔してもしきれない。
本当に、貴女は今何処にいるのだろう。時が経てばこの想いは薄らぐのかと思った事もあるけど、全くその気配がないんです。伝えたいのにそれが叶わない。それがこんなに苦しいものだとは思わなかった。
日向子姉さん好きです。大好きです。思い切り抱き締めたい。貴女の温もりに触れさせてくれ。またあの優しい声が聴きたい。日溜りの匂いを嗅ぎたい。もう記憶の中でそれらを思い浮かべるだけじゃ辛抱出来ません。出来ない..
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1月××日
日向子姉さんへ
日向子姉さん、あれから文が書けなくなってしまってごめんなさい。昨日、修行の合間に鱗滝さんが息抜きに外に連れ出してくれました。ここ最近ずっと鍛錬に必死になってるか、夜は家族の事で思い詰めてしまう日々が続いてたから、そんな俺を鱗滝さんが気遣ってくれたのかもしれない。
川べりで魚を釣ったり、丘の上で流れる雲をひたすら見つめたり、鳥のさえずりに耳をすましたりしてました。何だか久々、いや、もしかしたら初めてそんなゆったりとした時間を一日中過ごした気がします。
少しだけ気持ちが落ち着いたから、改めてまた今日から文を書きますね。
豊かな自然の中に身を置いていると、ちょっと隣を見たら貴女が座っているような気がするんです。
居る訳がないのだけど、日向子姉さんに包まれてるような錯覚を覚えるから不思議だ。弱腰の俺を励まそうとしてくれていたのかな?だとしたら嬉しい。
今日、これでお前に何も教える事はないと鱗滝さんに言われました。明日からはまた別の場所で鍛錬するそうです。あと少し、認めて貰うまでもう挫けません。
日向子姉さん、改めて言います。貴女が何処にいても俺の気持ちは変わらない。
愛しています。
竈門炭治郎
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時に数枚に及ぶ
禰豆子に向けての日記と一緒に、ごく自然と書き始めたものだったから、あの時は無意識だったけど...
今思えばこれはまさしく【恋文】であり、まさかまた再会出来るとはこの時は思わなかった時期だったから、本当に自分の心の内がありありと書かれていたので尚更恥ずかしくなった。
時折涙の痕が滲んでいて、自分の事なのだけど、相当参っていたのがわかる。
ー恥ずかしいこんなもの...他の人には絶対見せられない。
無論だが、日向子姉さん本人にだって...ー
送るつもりがないなら、再会が果たせた今捨てたって構わない筈なのに、何故かずっと大事に仕舞い込んでいた。
一箇所に身を置くことが難しいから、いつか何かの拍子で誰かに見られたらと考えるとたまったものではない。
「...処分するか」
正直名残惜しいけど、彼女への気持ちは面と向かって言おうと思えば言えるから。
炭治郎は数十枚にもなる束をまとめて、道中誰にも会わない事を祈り戸を開けた。しかし、部屋を出てすぐ右に曲がった時、誰かと鉢合わせし体がぶつかる。
「っ!すみませ...」
「ごめん!大丈夫?」
その拍子にとさりと紙束が床に落ち、相手はつられて視線を床に落とす。
「それ何?」
「これはっ!なんでもないっ!」
慌てて炭治郎は物を拾い上げた。
最悪だ...まさか文を宛てた本人と遭遇するだなんて
炭治郎の慌てっぷりと赤面っぷりを見て、彼がこんなに必死になって隠そうとするそれが何なのか、つい好奇心が湧いてしまった。日向子は顔を寄せて炭治郎が持つ紙束を指差す。
「気になるなぁ、どうしても見せてくれないの?」
「っ駄目だ!これだけは、これだけはいくら日向子姉さんでも」
日向子姉さん【だからこそ..】
本当に勘弁してくれとばかりに
この子は嘘をつけないから、安易な事は言わないし言葉巧みにはぐらかす事もしない。そんな彼が頑なに口を閉ざすのだから、相当ばれたくないのだ。
彼も年頃だ、日向子に知られたくない事の一つや二つくらいあるだろう。
「わかった、ごめんね?ただ、そんなに必死になるからついつい気になっちゃって。もう意地悪しないから」
「っ...」
炭治郎は複雑そうな表情で日向子を見上げたが、すまないと一言謝罪し、羽織りの内側へとそれをしまい込んだ。
「日向子姉さん、俺の部屋に何か用だった?」
「ぁ、そうだ!師範からこれ大事なものだろうって送られてきたんだけど」
「..文?」
「うん、そう。炭治郎と禰豆子に会えなかった時期に、私が書いたものなの。ちょっと恥ずかしいんだけど、せっかく書いたから、良かったら貰ってくれないかしら?」
はにかみながら手渡されたそれを受けとって、ぱらりと開く。そこに書かれた文字を目で追うにつれ、感極まって胸の奥がじんわりと熱くなった。
「日向子姉さん..これ」
「全然大袈裟な内容じゃないんだけど、私の貴方達への感謝の気持ち。こうやって何かきっかけでもないと、なかなか言えないk」
彼女の言葉が不自然に止まる。炭治郎が日向子に抱き着いたからだ。まるで久々に再会したあの藤襲山の夜のように、彼はぐりぐりと頭を押し付けて、絶対に離すもんかと腕に力を込める。
そんな様子に、彼女は数度目をぱちくりさせていたが、やがて愛おしそうに口元を緩め炭治郎の頭をよしよしと撫でる。
「大丈夫よ、私はここにいるから。」
「うん...」
「あらあら、そんなに感動するような手紙だったかなぁ。嬉しいけどね」
「うんっありがとう。一生大事にする。まさか姉さんも文書いてくれてたなんて..」
「姉さんも?」
「あ」
違うのだと慌てふためく彼を見て、ついに笑いを吹き出してしまった。何となく察したのだ。
「ありがとうね、炭治郎」
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炭治郎と禰豆子へ
お元気でしょうか?この短期間で色々な事があり過ぎたけれど、二人が生き残っている事を知り私は安心しています。
本当はすぐにでも二人を捜しに行きたいけれど、私は鬼殺隊に入る為に修行をする事に決めました。私には、成し遂げなければいけない使命があるから。でも必ず貴方達を迎えに行くから、それまで少し待っていて下さい。
そして再会出来たら、竈門家の家族皆がいたから今の私が在ること、その感謝を伝えたいです。こんな至らない私を、慕ってくれてありがとう。
竈門家での幸せな日々は、私にとって宝物の記憶です。だからせめて、この先の幸せは誰にも奪わせない。
力不足なばかりに、皆の事は守ってやる事が出来なくてごめんなさい。でもその分、炭治郎と禰豆子の事は何があっても守るって決めたから、私頑張るね。
ちゃんとご飯食べて、休む時はしっかり休んで、体に気を付けてください。二人は特に頑張り屋だったから、少しだけそれが心配です。どうか無事で。
貴方達の顔は方時も忘れません。また元気に逢える日を祈っています。
竈門日向子
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