星詠み【side story】
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「っい....」
「
「大丈夫、ありがとうアオイちゃん。」
日向子さんはにこりと笑ってそう言ったが、痩せ我慢だろうなというのは容易に想像がついた。上弦の肆との戦いで負傷したという彼女の腹部の切創は、内臓まで達していなかったのが幸いしたものの、しのぶの見立てだとかなり深い物らしい。
今も、消毒と塗り薬の処置を施しているが、酷く滲みるらしく、見ていて本当に痛々しい。
ー女性でこんな大怪我負って帰る隊士は、そうそういないわ..ー
それは、日向子がかなり無茶な戦い方をせざるを得ない状況であった事に他ならない。
特に最近、炭治郎さん達は下弦や上弦など格上の鬼と対峙する事が多かった為、瀕死の状態で運ばれてきた事もままあった。
【このまま彼等が息絶えて、目の前から居なくなるのではないか...】
そう思う度に、鬼を前にしたあの時と同様手足が震えそうになったが、それでもアオイは懸命に治療に当たった。
彼等が目覚めて、少しずつ日常動作ができるようになり、やがてまた次の任務へと旅立っていく。
正直言えば、行かないでくれと隊服の袖を思い切り掴みたいけれど、それでも彼等はめげずに前を見続ける。
だから、私が彼等にしてやれる事はただ一つ
ーまた彼等が、万全の状態で刀が触れるように身体を癒してやる事ー
「私が作った薬ですので、しのぶ様には遠く及びませんが、効能はお墨付きです。あと数日すれば傷口は塞がると思います。もう暫く辛抱なさってください。」
「え、この薬アオイちゃんが作ったの?へぇ...凄いわ器用なのね」
日向子は驚いたようにアオイを見て、凄いと褒め称えた。けれど彼女は、あまり嬉しそうにはせず顔をしかめる。
「いいえ、そんな良く言って貰える代物ではありません。傷口は塞がりますが、その...傷痕は...」
その先を言いづらそうにしているアオイを見て、日向子は一瞬きょとんとするが、すぐに目元を緩めこう返した。
「それなら胡蝶様から聞いたわ。痕は残ってしまうだろうって...でもいいのよ。もうそんな事いちいち気にしてないから。私、本当にアオイちゃん達には感謝してるの。命を繋いでくれるお陰で、私は今を生きられるから」
日向子は蔓延の笑みでそう語った。彼女は優しいからそう言ってくれる。その言葉にどんなに救われた事だろう...。
こんな深い傷を負わされても、実の両親を鬼に殺された事実を知っても、育ての家族が目の前で惨殺されても、どんなに残酷な運命に打ちのめされようとも、彼女はこうして穏やかに笑い、信念を胸にまた戦いに向かうのだ。
優しく、強く、気高い人。
でも..
きっと【そう見える】だけで、弱みを他人に見せようとしないだけで、多くを抱えているに違いない。
人間なら誰しもがそうだ。どんなに強気に見せても、折れる事のない心なんてないから。
「日向子さん。歳下の私が言うのも何ですが、何か悩みがありましたら私に話してください。何でも構いません。貴女は結構、気づかぬ間に内に色々溜め込む性分でしょう。」
もっと寄り添うように柔らかい言い方が出来ればいいのに、こんなきびきびとした物言いしか出来ないアオイも大概不器用な性分だ。
こんなんでは素直に日向子も悩みを打ち明けるどころではないだろう。
ー失敗したな..ー
そう落ち込みながら彼女を見てぎょっとした。
「え、日向子さん?!」
見ると、ぽろぽろと両目から涙を溢していた。
自分でも驚いているらしく、あれ..おかしいなと袖で涙を拭うも瞳からは後から後から透明な雫が湧き出てくる。その光景を見てアオイは悟った。
ーとうに..彼女の心は悲鳴を上げていたのだとー
「日向子さん..」
「っ....う...ごめ、アオイちゃ...」
あやすように背中を繰り返し撫でてやると、彼女はようやく徐々に落ち着きを取り戻した。
背丈も自分と同じ程で、歳上の日向子が不思議と幼子のように見えた。まるで自分が姉であり、妹を慰めているような気分になった。
その時、唐突に思い出したのだ。
私は今頃、【姉】という立場であった事を
鬼殺隊を志した理由。それは隊士ならばありふれた理由。私にも家族を鬼に殺された過去がある。そしてその母親のお腹の中には、やがて産まれてくる筈だった妹が居た。
鬼さえこの世に存在しなければ、今頃家族4人で仲睦まじく暮らしていただろうし、私はきっとここには居なかった。日向子さん達の手当てをする事も、食事の支度や洗濯をはたくこともなかった。
幸せな日々であったろう。けど...
「大丈夫。今は私が..私達が側に居ます。だから泣かないで?」
私達は弱いんじゃない、可哀想なんじゃない。
どんな運命であろうと立ち向かわなければいけない。
1人では折れてしまう心でも、手を差し伸べてくれる人がいれば、必ずまた日を仰ぐ事が出来ると私は信じている
「...ありがとう。何だかアオイちゃんの方がお姉さんみたい。これじゃどっちが歳上かわからないね」
何かが吹っ切れた様な晴れやかな顔で彼女はそう言った。彼女の心を少しでも軽くしてあげられたならそれでいいのだが、これだけは言わなくてはという事がある。
「歳上だからこうでなきゃいけないとか、私はないと思います。困った時や辛い時は皆、お互い様なんです。だから人は、絆を深め合って生きていくんですから。」
「....」
彼女はハッとしたようにアオイを見つめた。
「前に、炭治郎にも同じ事を言われたような気がする。そっか、そうだね..アオイちゃんの言う通りだ」
彼女はきっと甘えたり頼ったりする事があまり得意じゃない。ある意味不器用な人だけど、日向子さんには自然と万物を惹きつける力がある。
いつもしのぶやカナヲが、美しく舞う蝶をその身に惹きつけるように、彼女からも不思議な陽のオーラを感じる。放っておけない人なのだ。
ー特に、先ほど彼女が名前を出した炭治郎さんは...ー
彼女の側にいる時、水に焦がれた
実は、ほんの少し心の内を曝け出すと、私は炭治郎さんに特別な思いを抱きかけた事があるのだが、きっとそれも本能的なものなのだろうと思う。
【多くの星があまねく銀河の中で、太陽という星が生まれ、地球が生まれ、そして私達人間を含めた生き物が誕生した】
その自然の摂理が、歴史の流れが...私達の体の奥底に刻み込まれているのだとしたら、自ずと全てが納得出来るような気がする。
ーそんな私もまた、日向子さんという存在が特別なのだから....ー
「日向子さーん!今日は皆でお外にっ...あ」
「ごめんなさい!処置中でしたか?」
きよ達と禰豆子さんがとたとたと部屋に駆け込んできた。どうやら彼女に久々外の空気を吸わせたいと外出の誘いに来たらしい。いつもなら無理させたら駄目だと注意するところだが
「大丈夫だよ、お外行こうか?」
わーいと嬉しそうに飛び跳ねる彼女達を見ては何も言えなくなってしまった。
ーまぁ、日向子さんがいいなら..ー
「アオイちゃん」
「っ!」
「一緒に行こう?」
日向子さんはふわりと笑って手を差し出す。自然と取った彼女の手は、とても暖かかった。
あぁ...
この