星詠み【side story】
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日向子姉さんが誠一郎さんから簪 を貰った事をきっかけに彼女への恋慕を自覚した炭治郎は、常々こんな事を考えるようになった。
ー俺だって..何か日向子姉さんに贈り物をしたいなぁー
勿論、いつかはあの人のよりも綺麗で日向子姉さんにうんと似合う簪を贈るんだというのは炭治郎の夢であるが、今はとてもじゃないがそれは叶わない。
もっと大人になって..稼げるようにならないと。
そんな劣等感からだろうか、別の物でもいいから日向子姉さんに贈り物をして喜んで貰いたいと、誰でもない俺が渡した物で笑って欲しいのだと、そんな事を考える毎日だ。
存外俺は、嫉妬深い方なのだなとこの一件で気付かされたのだった。
それにしても、日向子姉さんは一体何をあげたら喜んでくれるのだろう?
さり気なく聞いてみた事はあるが、そんな事気にしなくていいのよとか、私はいいよとか、禰豆子もそうだがうちの女性陣は謙虚過ぎて、情報収集にはなかなか難儀した。
姉さんも年頃の女の子だから、お洒落に憧れはあると思うのだけど、きっと家計の事を考えて遠慮してるに違いない。ましてや日向子姉さんは俺達年下の家族に甘えたり弱みを見せたりしないたちなのだ。
余計に難しい。残念ながら俺も、お世辞にも女心に敏感な方ではないから...
そんな頃、何気ない日常会話を耳にした。
「あれー..お姉ちゃん!」
「なぁに禰豆子」
洗濯物を取り込んできた禰豆子は一目散に日向子の元へと駆け込み、ずいっと手に握り締めていた物を見せた。
「お姉ちゃんの髪紐、もうこんなにボロボロよ。次洗濯したら切れちゃうよきっと」
「あー..そうね。傷んできてるのは気付いてたんだけど、新しいの繕うかなぁ」
そう言って布の端切れをごそごそと探し始めたが、彼女の長い髪を結えそうな手頃なものはどうやら見つからなかったらしく、小さく項垂れていた。
「仕方ないわ。まだ縫えば使えそうだし大丈夫!気にしてくれてありがとうね禰豆子」
そんな姉と妹の会話を小耳にして、炭治郎はピンと閃いた。
ーそうだ、日向子姉さんに新しい髪紐かリボンを贈ってあげようー
それなら炭治郎でも手に入れられそうだった。所詮素材は布なのだから、手が届かない程高価でもないだろうと踏んだのだ。
【そうと決まればさっそく明日町に炭を売りに行った時に、日向子姉さんに似合いそうな物を探そう!!】
炭治郎はそう意気込んだのだった。
「行ってきます!」
意気揚々と家を飛び出した炭治郎は、心なしか軽快な足取りで山を下って行った。
昨夜、炭治郎は夢を見た。自分が選んで買ってきたリボンを、日向子姉さんが早速つけてくれて無邪気に笑っている姿。そして、優しい笑みを浮かべながらそっと炭治郎の額に口付けを落としてくれた。
そんな幸せ過ぎる夢だった。
あぁ...思い出しただけで顔がにやけてしまいそうだ。
ー日向子姉さんに似合うのがあるといいなぁ...ー
まだ挨拶もおはようございますが通用する時間帯だったが、炭治郎は町の入り口へと辿り着く。
声がかかった人へ次々と炭を売っていき、合間に立ち寄った雑貨屋の暖簾 をくぐった。
「こんにちはー!」
「あらぁ炭治郎ちゃんこんにちは。この店に立ち寄ってくれるなんて珍しい事もあるものねぇ。さては女の子に贈り物かい?」
店の女将さんに鋭い所を突かれ、炭治郎はドキッとする。嘘がつけない炭治郎はあたふたしながら口をパクパクさせていたが、それ以上は突っ込んで聞いては来なかった。
なるほど、さすがあしらいが慣れている。こんな初心な客を相手にするのはしょっちゅうなのだろう。
「えっと..少し店内を見てもいいですか?」
「えぇどうぞ」
炭治郎は邪魔にならない死角に籠を下ろすと、目当ての髪紐や髪飾りが陳列されている区画に足を向ける。和風なものからハイカラなものまで所狭しと並べられており、どれも可愛らしかった。
その中で、百合の柄が描かれた絹糸で編まれたリボンを片手に取った。こういう純真無垢な色合いは彼女にぴったりかもしれない。
さて勘定を済ませようと値札を見た途端、唖然とした。
「っな!....こんなにするのか?」
その値札に書かれていた漢数字は、炭治郎の持ち合わせをゆうに超えた額だった。とてもじゃないが、払い切れない。
そっと手に持っていたリボンを棚に戻すと、奥の女将さんにまた来ますと一言伝え、やむなく店を後にした
。
また来ますと言っても、まさかこんな贅沢品とは知らなかった。日向子姉さんの事だから、それなら皆に米や肉をたらふく食べさせてやった方が喜ぶかもしれない。
何にせよ、今の炭治郎が手を伸ばすには時期尚早な代物だったようだ。
溜息が止まらなかった。町民は皆いつもと様子が違う炭治郎を心配したが、何でもないと気丈になるしかなかった。
ごめんな日向子姉さん、貴女の喜ぶ顔が見れると思ったのに..
炭は今日も全部売れた。いつもなら気持ちは晴れ晴れする筈なのに、やっぱり先程の一件があってか心は重く沈んだままだった。
炭を売った最後の家を出て、トボトボとした足取りで帰路に向かう途中、不意に左側へ目を向けると其処は昔から馴染みのある庶民向けの呉服屋だった。
店頭には意外にも、素朴な色合いの麻布から比較的鮮やかな色の綿布まで色んな素材の物が並んでいた。
その隅に(端切れ売ります)と簡素な筆文字で書かれているのを見つけたので、興味本位で近寄ってみた。
その中で、一際鮮やかな赤が目立つ綿布の端切れに目が止まり、炭治郎はじっとそれを見つめる。
「それがいいのかい?」
「っ!」
突然女将さんに話しかけられた炭治郎は咄嗟に声のした奥の方を見た。にこにこと笑みを浮かべた老女がゆっくりとこちらに近づいて来る。
「それはちゃんと昔ながらの製法で作った布だよ。紅花を太陽の下で干して、色を凝縮して出した天然の赤さ。最近は異国から化学染料とかも入ってきてるようだけど、天然の色合いが一番さねぇ」
「なるほど..そうやって染められてるんですね、布って。俺知らなかったです。とてもいい色合いですね。」
この布を見たとき、ふと思い出したのだ。
父さんは昔から、【赤の色は自分達を守ってくれる色】だと、そう言っていた。
鮮やかで情熱的な色。
俺の髪や眼も生まれつき赤みがかっている事もあり、赤色は炭治郎にとって、とても馴染みがあり親近感の湧く色なのだ。
最初は、日向子姉さんには白基調の無垢な色が似合うだろうと思っていた。
実際彼女のイメージはそんな感じだった。けど..
これを贈る事で、何だか俺の色に染まるような気がして、それはそれで独占欲が満たされるような気がした。
「女将さんこれください。これがいいです。いくらでしょうか?」
迷わず炭治郎はその端切れを手に取り、女将さんに値段を伺う。
すると彼女はふるふると首を横に振ってお金はいいから貰っておやりと言った。
「え、いやいやいや!そんな、タダでなんて頂けません!売り物なら払います!」
「いいから貰っておやり」
「でもっ..」
「いつも良質な炭を売ってくれるほんの礼さね。炭治郎ちゃんまだ小さいのに頑張っとるからねぇ。遠慮はいらんて。」
そこまで言われては何も言い返せなかった。純粋に労ってくれた店の女将さんの言葉に、じんわりと涙が滲む。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます!」
昼間とは打って変わって上機嫌に炭治郎は山を登った。ごそごそと取り出した赤い端切れ布を掲げると、太陽の光に照らされて鮮やかに光っているように見えた。
何て綺麗な赤だろう..。
ー日向子姉さん、喜んでくれるといいなぁー
本当は既製品のを買ってやれたら彼女の手を煩わせなくて済んだのだけど、これが今の炭治郎に出来る精一杯だ。それでも優しい彼女はきっと、ありがとうと微笑んでくれるに違いない。
「ただいまー!」
「あ!兄ちゃんお帰りぃ!」
パタパタと弟妹達が駆け寄って来る。土産の草餅を取り出してやると皆大喜びで小躍りし、母さんは父さんを祀っている神棚にそれをお供えした。
「母さん、日向子姉さんは?」
「あぁ、日向子なら外の納屋にいるんじゃないかしら?」
そう言われたので、炭治郎は胸元にしまってある例の物をしっかり確認すると、足早に家の裏手へと回った。そこにはちょうど納屋から適当な薪を手にした彼女の姿があった。
「あら炭治郎!お帰りなさい」
にこりと笑って彼女はこちらに歩み寄ってきた。外仕事で邪魔だったのだろう。いつも身につけている髪紐でどうにかまとめてはいたが、糸がほつれていたので明らかにそれは年季が入っているのがわかる。
よし...
緊張した面持ちでいるのが何となく伝わってしまったらしく、彼女はキョトンとした顔で炭治郎を見つめて来る。意を決して彼は懐から例の物を取って差し出した。
「ぇ..これ。」
「日向子姉さん、髪紐がボロボロで困ってたから。その...ごめん。本当は既製品を探したんだが、なかなか高価で手が出せなくて。だから、代わりにと言ってはなんだが、呉服屋の女将さんが親切にただで端切れをくれたんだ。日向子姉さんの手を煩わせてしまうのは申し訳ないんだが、この布で新しく髪紐を..」
不意に訪れた暖かい温もりに炭治郎は息を飲んだ。
「ありがとう炭治郎。貴方は本当に優しい子ね。」
耳元で穏やか声色が響く。日溜りの匂いに包み込まれ、体の力が抜けるように絆されていくのがわかる。
今、俺...日向子姉さんに抱き締められてる。
そう頭が理解した途端、胸が高鳴り、顔はみるみるうちに火照り固まった。
「綺麗な赤色...とっても気に入ったわ。よーし!うんと可愛いリボン作ろう!」
そう言って彼女は蔓延の笑みで布を広げて見せた。
それを見た炭治郎は、じんわり心が満たされていくのを感じた。
ー喜んでくれたみたいだ...良かったなぁー
ー俺だって..何か日向子姉さんに贈り物をしたいなぁー
勿論、いつかはあの人のよりも綺麗で日向子姉さんにうんと似合う簪を贈るんだというのは炭治郎の夢であるが、今はとてもじゃないがそれは叶わない。
もっと大人になって..稼げるようにならないと。
そんな劣等感からだろうか、別の物でもいいから日向子姉さんに贈り物をして喜んで貰いたいと、誰でもない俺が渡した物で笑って欲しいのだと、そんな事を考える毎日だ。
存外俺は、嫉妬深い方なのだなとこの一件で気付かされたのだった。
それにしても、日向子姉さんは一体何をあげたら喜んでくれるのだろう?
さり気なく聞いてみた事はあるが、そんな事気にしなくていいのよとか、私はいいよとか、禰豆子もそうだがうちの女性陣は謙虚過ぎて、情報収集にはなかなか難儀した。
姉さんも年頃の女の子だから、お洒落に憧れはあると思うのだけど、きっと家計の事を考えて遠慮してるに違いない。ましてや日向子姉さんは俺達年下の家族に甘えたり弱みを見せたりしないたちなのだ。
余計に難しい。残念ながら俺も、お世辞にも女心に敏感な方ではないから...
そんな頃、何気ない日常会話を耳にした。
「あれー..お姉ちゃん!」
「なぁに禰豆子」
洗濯物を取り込んできた禰豆子は一目散に日向子の元へと駆け込み、ずいっと手に握り締めていた物を見せた。
「お姉ちゃんの髪紐、もうこんなにボロボロよ。次洗濯したら切れちゃうよきっと」
「あー..そうね。傷んできてるのは気付いてたんだけど、新しいの繕うかなぁ」
そう言って布の端切れをごそごそと探し始めたが、彼女の長い髪を結えそうな手頃なものはどうやら見つからなかったらしく、小さく項垂れていた。
「仕方ないわ。まだ縫えば使えそうだし大丈夫!気にしてくれてありがとうね禰豆子」
そんな姉と妹の会話を小耳にして、炭治郎はピンと閃いた。
ーそうだ、日向子姉さんに新しい髪紐かリボンを贈ってあげようー
それなら炭治郎でも手に入れられそうだった。所詮素材は布なのだから、手が届かない程高価でもないだろうと踏んだのだ。
【そうと決まればさっそく明日町に炭を売りに行った時に、日向子姉さんに似合いそうな物を探そう!!】
炭治郎はそう意気込んだのだった。
「行ってきます!」
意気揚々と家を飛び出した炭治郎は、心なしか軽快な足取りで山を下って行った。
昨夜、炭治郎は夢を見た。自分が選んで買ってきたリボンを、日向子姉さんが早速つけてくれて無邪気に笑っている姿。そして、優しい笑みを浮かべながらそっと炭治郎の額に口付けを落としてくれた。
そんな幸せ過ぎる夢だった。
あぁ...思い出しただけで顔がにやけてしまいそうだ。
ー日向子姉さんに似合うのがあるといいなぁ...ー
まだ挨拶もおはようございますが通用する時間帯だったが、炭治郎は町の入り口へと辿り着く。
声がかかった人へ次々と炭を売っていき、合間に立ち寄った雑貨屋の
「こんにちはー!」
「あらぁ炭治郎ちゃんこんにちは。この店に立ち寄ってくれるなんて珍しい事もあるものねぇ。さては女の子に贈り物かい?」
店の女将さんに鋭い所を突かれ、炭治郎はドキッとする。嘘がつけない炭治郎はあたふたしながら口をパクパクさせていたが、それ以上は突っ込んで聞いては来なかった。
なるほど、さすがあしらいが慣れている。こんな初心な客を相手にするのはしょっちゅうなのだろう。
「えっと..少し店内を見てもいいですか?」
「えぇどうぞ」
炭治郎は邪魔にならない死角に籠を下ろすと、目当ての髪紐や髪飾りが陳列されている区画に足を向ける。和風なものからハイカラなものまで所狭しと並べられており、どれも可愛らしかった。
その中で、百合の柄が描かれた絹糸で編まれたリボンを片手に取った。こういう純真無垢な色合いは彼女にぴったりかもしれない。
さて勘定を済ませようと値札を見た途端、唖然とした。
「っな!....こんなにするのか?」
その値札に書かれていた漢数字は、炭治郎の持ち合わせをゆうに超えた額だった。とてもじゃないが、払い切れない。
そっと手に持っていたリボンを棚に戻すと、奥の女将さんにまた来ますと一言伝え、やむなく店を後にした
。
また来ますと言っても、まさかこんな贅沢品とは知らなかった。日向子姉さんの事だから、それなら皆に米や肉をたらふく食べさせてやった方が喜ぶかもしれない。
何にせよ、今の炭治郎が手を伸ばすには時期尚早な代物だったようだ。
溜息が止まらなかった。町民は皆いつもと様子が違う炭治郎を心配したが、何でもないと気丈になるしかなかった。
ごめんな日向子姉さん、貴女の喜ぶ顔が見れると思ったのに..
炭は今日も全部売れた。いつもなら気持ちは晴れ晴れする筈なのに、やっぱり先程の一件があってか心は重く沈んだままだった。
炭を売った最後の家を出て、トボトボとした足取りで帰路に向かう途中、不意に左側へ目を向けると其処は昔から馴染みのある庶民向けの呉服屋だった。
店頭には意外にも、素朴な色合いの麻布から比較的鮮やかな色の綿布まで色んな素材の物が並んでいた。
その隅に(端切れ売ります)と簡素な筆文字で書かれているのを見つけたので、興味本位で近寄ってみた。
その中で、一際鮮やかな赤が目立つ綿布の端切れに目が止まり、炭治郎はじっとそれを見つめる。
「それがいいのかい?」
「っ!」
突然女将さんに話しかけられた炭治郎は咄嗟に声のした奥の方を見た。にこにこと笑みを浮かべた老女がゆっくりとこちらに近づいて来る。
「それはちゃんと昔ながらの製法で作った布だよ。紅花を太陽の下で干して、色を凝縮して出した天然の赤さ。最近は異国から化学染料とかも入ってきてるようだけど、天然の色合いが一番さねぇ」
「なるほど..そうやって染められてるんですね、布って。俺知らなかったです。とてもいい色合いですね。」
この布を見たとき、ふと思い出したのだ。
父さんは昔から、【赤の色は自分達を守ってくれる色】だと、そう言っていた。
鮮やかで情熱的な色。
俺の髪や眼も生まれつき赤みがかっている事もあり、赤色は炭治郎にとって、とても馴染みがあり親近感の湧く色なのだ。
最初は、日向子姉さんには白基調の無垢な色が似合うだろうと思っていた。
実際彼女のイメージはそんな感じだった。けど..
これを贈る事で、何だか俺の色に染まるような気がして、それはそれで独占欲が満たされるような気がした。
「女将さんこれください。これがいいです。いくらでしょうか?」
迷わず炭治郎はその端切れを手に取り、女将さんに値段を伺う。
すると彼女はふるふると首を横に振ってお金はいいから貰っておやりと言った。
「え、いやいやいや!そんな、タダでなんて頂けません!売り物なら払います!」
「いいから貰っておやり」
「でもっ..」
「いつも良質な炭を売ってくれるほんの礼さね。炭治郎ちゃんまだ小さいのに頑張っとるからねぇ。遠慮はいらんて。」
そこまで言われては何も言い返せなかった。純粋に労ってくれた店の女将さんの言葉に、じんわりと涙が滲む。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます!」
昼間とは打って変わって上機嫌に炭治郎は山を登った。ごそごそと取り出した赤い端切れ布を掲げると、太陽の光に照らされて鮮やかに光っているように見えた。
何て綺麗な赤だろう..。
ー日向子姉さん、喜んでくれるといいなぁー
本当は既製品のを買ってやれたら彼女の手を煩わせなくて済んだのだけど、これが今の炭治郎に出来る精一杯だ。それでも優しい彼女はきっと、ありがとうと微笑んでくれるに違いない。
「ただいまー!」
「あ!兄ちゃんお帰りぃ!」
パタパタと弟妹達が駆け寄って来る。土産の草餅を取り出してやると皆大喜びで小躍りし、母さんは父さんを祀っている神棚にそれをお供えした。
「母さん、日向子姉さんは?」
「あぁ、日向子なら外の納屋にいるんじゃないかしら?」
そう言われたので、炭治郎は胸元にしまってある例の物をしっかり確認すると、足早に家の裏手へと回った。そこにはちょうど納屋から適当な薪を手にした彼女の姿があった。
「あら炭治郎!お帰りなさい」
にこりと笑って彼女はこちらに歩み寄ってきた。外仕事で邪魔だったのだろう。いつも身につけている髪紐でどうにかまとめてはいたが、糸がほつれていたので明らかにそれは年季が入っているのがわかる。
よし...
緊張した面持ちでいるのが何となく伝わってしまったらしく、彼女はキョトンとした顔で炭治郎を見つめて来る。意を決して彼は懐から例の物を取って差し出した。
「ぇ..これ。」
「日向子姉さん、髪紐がボロボロで困ってたから。その...ごめん。本当は既製品を探したんだが、なかなか高価で手が出せなくて。だから、代わりにと言ってはなんだが、呉服屋の女将さんが親切にただで端切れをくれたんだ。日向子姉さんの手を煩わせてしまうのは申し訳ないんだが、この布で新しく髪紐を..」
不意に訪れた暖かい温もりに炭治郎は息を飲んだ。
「ありがとう炭治郎。貴方は本当に優しい子ね。」
耳元で穏やか声色が響く。日溜りの匂いに包み込まれ、体の力が抜けるように絆されていくのがわかる。
今、俺...日向子姉さんに抱き締められてる。
そう頭が理解した途端、胸が高鳴り、顔はみるみるうちに火照り固まった。
「綺麗な赤色...とっても気に入ったわ。よーし!うんと可愛いリボン作ろう!」
そう言って彼女は蔓延の笑みで布を広げて見せた。
それを見た炭治郎は、じんわり心が満たされていくのを感じた。
ー喜んでくれたみたいだ...良かったなぁー