星詠み【side story】
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炭治郎は今、一つの部屋の前で悶々と立ち尽くしていた。あーでもないこーでもないと思案してかれこれ数分は経ったと思うが、未だにこの扉を叩く勇気が出ないでいる。
先日の、日向子姉さんに接吻しそうになった感覚を思い出す度、全身が熱を帯びて、彼女の顔すらまともに見れないのだから参ってしまう。
でも、いつまでもそんな状態ではいられない。
周りにも気を使わせるし、何よりこれ以上ぎごちなくなれば彼女にも変に思われてしまう。
だから、意を決してここへやって来たのだ。
ふうーと深呼吸して、ぱんっと両頬を叩く。
大丈夫だ、普通に接すればいいだけだ。
今までと、同じように..
コンコンと控え目にノックをする。しかし、いつまで経っても中から返事はない。もう一度戸を叩く。やはり結果は同じだった。
「居ないのかな」
キョロキョロと辺りを見回しながら屋敷内を歩き出し、縁側の方へ差し掛かった時、不意に彼女の香りを感じ取った。
前方を見ると、会いたかったその人はじっと夜空を見上げていた。
「日向子姉さん。ここに居たのか」
そう声を掛けると、彼女はくるりと首を回してにこりとこちらに微笑みかけた。
その表情を見てどきりと心臓が跳ねたけど、なるだけ平静を装って彼女に近づく。
「隣、座ってもいいか?」
「うん、勿論。」
お言葉に甘えてゆっくりと腰を下ろした。
隣をちらりと見やれば、彼女はやっぱり空を見上げていて、つられて炭治郎も上を見ると、満天の星空が広がっていた。思わず感嘆の吐息が漏れる。
「あれ、天の川かな。綺麗だなぁ..。」
「そうね。今日は七夕だから、晴れて良かったよね」
「そうか...今日7月7日だ。」
昔はよく、行事と言えばどんなにささやかでも家族で祝い事をしたものだが、最近はそれどころでは無かった事もあり、つい日付感覚を忘れてしまっていた。
何気ないそんな日常ですら、鬼狩りをしているとなかなか興じることも叶わない。
少し..物悲しい気分になる。
「炭治郎..」
「っ!」
ハッとした時には、日向子姉さんの顔がこちらを覗き見るような形で目の前にあった。
反射的にのけぞってしまったのは仕方がないと思う。
だって..近っ
「大丈夫?何だか、悲しそうな顔してたから」
「え...」
俺、そんな顔してたのか。
「ごめん、そんなつもりは無かったんだが。ただ..こんなに俺変わってしまったんだなぁって、少しショックだったんだ。」
炭治郎がそう言うと、日向子は何かを察したように息を詰める。
そして、おもむろに彼の肩を抱き寄せた。
まさかの行為に目を見開き、徐々に顔に熱が集まっていくのを感じた。
「な...あのっ日向子姉さんっ」
「..ごめん。何となくこうせずにはいられなくて。炭治郎、あの頃には確かに戻れないけど。でも、この先の人生はまだ色んな道があるから。だから、頑張って一緒に乗り越えていこうね」
柔らかい、それでいて確かに芯の通った声色で、彼女はそう発した。
暖かな温もりに包まれて、涙ぐみそうになるくらい心地良くて、炭治郎もまたそっと彼女の背中に手を回す。
「これから先の人生は、日向子姉さんと共に在りたい。一緒に居てください。..もう、二度と離れたくない」
そう伝えると、彼女は少し驚いたような表情を見せる。
「それは、極端じゃないかな?」
「何が?」
疑問に疑問で返すと、いよいよ日向子姉さんは頭を抱え込んでしまった。
ううん大丈夫と自己完結し始めたので、納得行かなくてしつこく理由をせがむと、観念したように彼女はこう呟いた。
「ずっと離れないのは無理でしょう?だって、炭治郎だっていつか好きな人と結婚して家族を作るんだもの。そしたら、その人と子供の事を1番に考えてあげなきゃいけないのよ?」
単純に、彼女は一般常識的にそう語ったのだと思う。
けれど今の言葉は、炭治郎にとっては酷く辛辣なものであった。
それは..まるで
ー日向子姉さんは、俺の事を所詮家族としか思ってないって事だ。
俺は、添い遂げる相手として認識されてないって事ー
そんな炭治郎の黒い感情を知ってか知らずか、彼女は呑気に七夕の伝説について語り始める。
織姫と彦星は会えたかな、とか
好き合ってるのに一年に一度しか会えないなんて可哀想だわ、とか普段なら可愛らしいと思う様子も、悪いけど今はそんな風に思える余裕がない。
俺は...二年以上貴女と会えなかった。
一度は永遠の決別さえ覚悟した。
織姫と彦星は好き合ってるんだろう、幸せに決まってる。
かたや俺はどうだ
俺はこんなにも日向子姉さんの事を愛し焦がれてやまないのに、そんな想いすら気付いていないのだろう貴女は。
俺の方がずっと可哀想だよ。
それでもこの胸の内をひた隠しにするのは、彼女を困らせたり傷つけるのが嫌だから。
欲を言えば、家族よりもっと親密な関係になりたいし、彼女の全てを暴きたくて仕方ないけれど。そうしたらきっと彼女は、俺を遠避けようとするだろうから。
どんなに辛くてもこの気持ちは曝け出せないんだ。
だから、微かな希望さえも簡単に打ち砕かれてしまうと...
俺は
【自分で自分を保てなくなってしまうよ】
「でも..ずっと会えなくても愛し合えるものなのかな。気持ちが途中で冷めたり、しないのかな」
炭治郎はどう思う?そう素知らぬ顔で聞いてきた彼女の肩をぐいと押し込んだ。
案の定重力に任せて身体は傾き、炭治郎の意のままに倒れ込んだ。
驚いたように目を見開く彼女に向かって、こう発した。
「本当にその人の事が好きなら、会えない期間なんて関係ない。その程度で冷める感情なら、その人の事を心の底から愛していたとは言えないだろ。」
「..炭治郎、怒ってるの?」
どうしようもなく苛ついた感情と深い悲しみの念は、隠しきれずにどうやら彼女にも伝わってしまってるらしかったが、
それはそれで好都合だと思う事にした。
だって、あんまりじゃないか。
俺ばっかりこんなに好きなんて...不公平だ。
少しの我儘くらい、訴えたってバチは当たらないだろう。
「日向子姉さんはわかってないんだ。何も..わかってない。ずるい、人だ」
せめて、線引しないで。
もう今更引けないんだ。諦められないんだ。だから、踏み込む事の許されない領域を作らないで欲しい。
俺がこじ開ける事が出来ないとわかってて、そうするんだ。
そんな炭治郎の思いが何となく伝わったのか。
やがて彼女は節目がちになり、優しく炭治郎の名を呼ぶ。
「ごめんね。辛い思いをさせて。ごめん..。もう少し、待てるかな」
その言葉を聞いて、炭治郎は唐突に気付いてしまった。
あぁ...彼女は、本当は【気付いている】のだと。
気付いているからこそ、先程のような言葉をは発したのだと。
それは、日向子姉さんの精一杯の譲歩であり、優しさであった。
炭治郎は徐々に彼女の腕を押さえつけていた力を抜いていく。
「俺の方こそごめん。感情的になり過ぎてしまった。腕、痛くしてごめんな。」
互いに互いの気持ちがわかっていても、想いはただただ流されてゆく。
それはとても繊細な脆さを伴う、複雑怪奇な感情だから、彼等が手を取り合うのはまだ先の話....
ーーーーー
先日の、日向子姉さんに接吻しそうになった感覚を思い出す度、全身が熱を帯びて、彼女の顔すらまともに見れないのだから参ってしまう。
でも、いつまでもそんな状態ではいられない。
周りにも気を使わせるし、何よりこれ以上ぎごちなくなれば彼女にも変に思われてしまう。
だから、意を決してここへやって来たのだ。
ふうーと深呼吸して、ぱんっと両頬を叩く。
大丈夫だ、普通に接すればいいだけだ。
今までと、同じように..
コンコンと控え目にノックをする。しかし、いつまで経っても中から返事はない。もう一度戸を叩く。やはり結果は同じだった。
「居ないのかな」
キョロキョロと辺りを見回しながら屋敷内を歩き出し、縁側の方へ差し掛かった時、不意に彼女の香りを感じ取った。
前方を見ると、会いたかったその人はじっと夜空を見上げていた。
「日向子姉さん。ここに居たのか」
そう声を掛けると、彼女はくるりと首を回してにこりとこちらに微笑みかけた。
その表情を見てどきりと心臓が跳ねたけど、なるだけ平静を装って彼女に近づく。
「隣、座ってもいいか?」
「うん、勿論。」
お言葉に甘えてゆっくりと腰を下ろした。
隣をちらりと見やれば、彼女はやっぱり空を見上げていて、つられて炭治郎も上を見ると、満天の星空が広がっていた。思わず感嘆の吐息が漏れる。
「あれ、天の川かな。綺麗だなぁ..。」
「そうね。今日は七夕だから、晴れて良かったよね」
「そうか...今日7月7日だ。」
昔はよく、行事と言えばどんなにささやかでも家族で祝い事をしたものだが、最近はそれどころでは無かった事もあり、つい日付感覚を忘れてしまっていた。
何気ないそんな日常ですら、鬼狩りをしているとなかなか興じることも叶わない。
少し..物悲しい気分になる。
「炭治郎..」
「っ!」
ハッとした時には、日向子姉さんの顔がこちらを覗き見るような形で目の前にあった。
反射的にのけぞってしまったのは仕方がないと思う。
だって..近っ
「大丈夫?何だか、悲しそうな顔してたから」
「え...」
俺、そんな顔してたのか。
「ごめん、そんなつもりは無かったんだが。ただ..こんなに俺変わってしまったんだなぁって、少しショックだったんだ。」
炭治郎がそう言うと、日向子は何かを察したように息を詰める。
そして、おもむろに彼の肩を抱き寄せた。
まさかの行為に目を見開き、徐々に顔に熱が集まっていくのを感じた。
「な...あのっ日向子姉さんっ」
「..ごめん。何となくこうせずにはいられなくて。炭治郎、あの頃には確かに戻れないけど。でも、この先の人生はまだ色んな道があるから。だから、頑張って一緒に乗り越えていこうね」
柔らかい、それでいて確かに芯の通った声色で、彼女はそう発した。
暖かな温もりに包まれて、涙ぐみそうになるくらい心地良くて、炭治郎もまたそっと彼女の背中に手を回す。
「これから先の人生は、日向子姉さんと共に在りたい。一緒に居てください。..もう、二度と離れたくない」
そう伝えると、彼女は少し驚いたような表情を見せる。
「それは、極端じゃないかな?」
「何が?」
疑問に疑問で返すと、いよいよ日向子姉さんは頭を抱え込んでしまった。
ううん大丈夫と自己完結し始めたので、納得行かなくてしつこく理由をせがむと、観念したように彼女はこう呟いた。
「ずっと離れないのは無理でしょう?だって、炭治郎だっていつか好きな人と結婚して家族を作るんだもの。そしたら、その人と子供の事を1番に考えてあげなきゃいけないのよ?」
単純に、彼女は一般常識的にそう語ったのだと思う。
けれど今の言葉は、炭治郎にとっては酷く辛辣なものであった。
それは..まるで
ー日向子姉さんは、俺の事を所詮家族としか思ってないって事だ。
俺は、添い遂げる相手として認識されてないって事ー
そんな炭治郎の黒い感情を知ってか知らずか、彼女は呑気に七夕の伝説について語り始める。
織姫と彦星は会えたかな、とか
好き合ってるのに一年に一度しか会えないなんて可哀想だわ、とか普段なら可愛らしいと思う様子も、悪いけど今はそんな風に思える余裕がない。
俺は...二年以上貴女と会えなかった。
一度は永遠の決別さえ覚悟した。
織姫と彦星は好き合ってるんだろう、幸せに決まってる。
かたや俺はどうだ
俺はこんなにも日向子姉さんの事を愛し焦がれてやまないのに、そんな想いすら気付いていないのだろう貴女は。
俺の方がずっと可哀想だよ。
それでもこの胸の内をひた隠しにするのは、彼女を困らせたり傷つけるのが嫌だから。
欲を言えば、家族よりもっと親密な関係になりたいし、彼女の全てを暴きたくて仕方ないけれど。そうしたらきっと彼女は、俺を遠避けようとするだろうから。
どんなに辛くてもこの気持ちは曝け出せないんだ。
だから、微かな希望さえも簡単に打ち砕かれてしまうと...
俺は
【自分で自分を保てなくなってしまうよ】
「でも..ずっと会えなくても愛し合えるものなのかな。気持ちが途中で冷めたり、しないのかな」
炭治郎はどう思う?そう素知らぬ顔で聞いてきた彼女の肩をぐいと押し込んだ。
案の定重力に任せて身体は傾き、炭治郎の意のままに倒れ込んだ。
驚いたように目を見開く彼女に向かって、こう発した。
「本当にその人の事が好きなら、会えない期間なんて関係ない。その程度で冷める感情なら、その人の事を心の底から愛していたとは言えないだろ。」
「..炭治郎、怒ってるの?」
どうしようもなく苛ついた感情と深い悲しみの念は、隠しきれずにどうやら彼女にも伝わってしまってるらしかったが、
それはそれで好都合だと思う事にした。
だって、あんまりじゃないか。
俺ばっかりこんなに好きなんて...不公平だ。
少しの我儘くらい、訴えたってバチは当たらないだろう。
「日向子姉さんはわかってないんだ。何も..わかってない。ずるい、人だ」
せめて、線引しないで。
もう今更引けないんだ。諦められないんだ。だから、踏み込む事の許されない領域を作らないで欲しい。
俺がこじ開ける事が出来ないとわかってて、そうするんだ。
そんな炭治郎の思いが何となく伝わったのか。
やがて彼女は節目がちになり、優しく炭治郎の名を呼ぶ。
「ごめんね。辛い思いをさせて。ごめん..。もう少し、待てるかな」
その言葉を聞いて、炭治郎は唐突に気付いてしまった。
あぁ...彼女は、本当は【気付いている】のだと。
気付いているからこそ、先程のような言葉をは発したのだと。
それは、日向子姉さんの精一杯の譲歩であり、優しさであった。
炭治郎は徐々に彼女の腕を押さえつけていた力を抜いていく。
「俺の方こそごめん。感情的になり過ぎてしまった。腕、痛くしてごめんな。」
互いに互いの気持ちがわかっていても、想いはただただ流されてゆく。
それはとても繊細な脆さを伴う、複雑怪奇な感情だから、彼等が手を取り合うのはまだ先の話....
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