◆第拾弐章 暗雲を吹き払え
貴女のお名前を教えてください
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〜363【希望の光】〜
「炭治郎、日向子。お前らちゃんと話し合ってすっきりしたか?」
唐突に宇随にそう聞かれた二人は、その節は申し訳なかったと首を垂れた。妙な心のしがらみは解けて、お陰様で柱稽古に全力投球出来ている旨を伝えると、宇随はそれは何よりだと、世話を焼かせやがってと文句を垂れつつも笑って言った。
「よし!それじゃ、走り込みはそこいらで一旦終了だ。俺に着いてこい」
「「...?」」
唐突にそう言われ、不思議そうにお互い顔を見合わせながらも彼の背中を追いかけていくと、林の奥のやや開けたスペースに連れて来られる。風通りが良く木々がサワサワと騒めくような場所だった。宇随はくるりと振り返り二人にこう言い渡した。
「今からお前達二人には特別稽古に入ってもらう。目的は知らされているな?」
二人が揃ってこくりと頷いたのを確認し、彼は持っていた2本の竹刀を両者に投げ渡した。
「日向子は星の呼吸を、炭治郎はヒノカミ神楽を使用し、呼吸を合わせて俺に向かって来てもらう。この稽古は相手を打ち負かす事に意味は無い。1番の目的は互いの【呼吸の覚醒】だ。とにかく、相手の呼吸を感じ息を合わせること。二人で一人になった気でかかって来い」
ー呼吸の覚醒ー
それは遡ること数百年前。かつて始まりの呼吸の剣士と巫一族星の呼吸の剣士が共闘していた時代。鬼舞辻無惨を追い詰めた、その剣技の再現を追求する事を意味する。それぞれの呼吸の(本来の特性)を相互作用により引き出すのが、目下の目標だった。
とかく星の呼吸については未知だ。他の呼吸を無力化するも強化するも自由自在。呼吸の元素と言っても過言ではないこの呼吸をどう扱い、それが周りにどう影響するのかは、日向子次第...
巫一族の女児の生き残りが刀を取り、痣者が再び出現し、仮に日の呼吸が復活を遂げたのが事実であったのなら、これは紛れもなく革命なのだ。鬼殺隊が結成されて以来の大躍進であり、この永きに渡った闘いの終焉となり得る可能性を秘めた希望の光。
どんな運命の巡り合わせか。
星と太陽は家族として共に育ち、今は互いに特別な想いを寄せ合うようになった。
信頼と絆の深さは群を抜いている二人だ。
もしも、奇跡というものを起こせるのだとしたら...
「炭治郎、日向子。俺はな、お前達こそが鬼殺隊の要になるだろうと思っている。期待してるからな」
宇随がそう鼓舞すれば、二人は瞳に炎を灯し声を張り上げる。
「「はい!頑張ります!」」
ーーーーー
〜364【あなたを選んだ】〜
「あ...でも宇随さん。隻腕隻眼 の状態で、俺達二人が全力で向かって行っても大丈「はぁーーー?!」
お前何様だとばかりに腕を組んだ宇随は、聞き捨てならんとそれ以降の言葉を遮る。
「お前なぁ、俺を誰だと思ってやがる?現役を退いたとは言え柱の地位に居た男だぞ。遠慮はいらねぇよ!」
「ッ!!」
ガキィン!
容赦なく炭治郎に向かって振り下ろされた竹刀は間一髪のところで抑えられたものの、その力は片腕で放たれたものとは思えない程の威力を誇っていた。
炭治郎は、その衝撃でビリビリ痺れる腕を見て思わず冷や汗を垂らす。
それは一部始終を隣で見ていた日向子も同様であった。
「もう一度言うぞ。二人でとっととかかって来い」
ビッと指で挑発する宇随を見た炭治郎と日向子は、ごくり生唾を飲み両者竹刀を構え飛び出して行った。
炭治郎が先陣切って斬り込んだそのすぐ後、畳みかけるように日向子が続く。
息を合わせるというのは具体的にどうするべきなのか。実際二人は頭で理解しているわけではない。十二鬼月との戦闘において土壇場で繰り出してきただけ。それぞれの体が本能的に動いてきただけで物に出来ているわけではない。
ただ、これが鬼に対して効果絶大であった事は確かだった。全集中常中と同じで、いつ何時でも出来なければ意味はない。鬼舞辻に対抗するためにも...
記憶に新しいのは上弦の肆戦で、日向子が炭治郎の呼吸に合わせ両者の体の動きを同期させた時。あの時炭治郎はこう感じた。
ーまるで日向子姉さんの体が、幽体となって自分の中に入り込んだかのような感覚だった...ー
それは彼女曰くこういう事らしい。
星の呼吸は全ての呼吸の源の呼吸だけど、最初に生まれたのは日の呼吸。他は日の呼吸の派生。
要するに、【日の呼吸が最も星の呼吸に近い存在】であり、【同期させやすい呼吸でもある】と。
「(あれ)が出来る自信があるのは炭治郎だけかな。呼吸の特徴もそうなんだけど...貴方だから出来る気がするっていうか。ずっと側で育ってきた貴方だからこそ、一つになれるんだと思うの。それと、勘違いしないで聞いて欲しいんだけどね。貴方が日の呼吸の使い手でもそうで無くとも、私はきっと貴方を選んだ。」
そう照れ臭そうにはにかむ彼女がたまらなく愛おしかった。そして手を取ってくれた彼女の為にも、俺は俺の責務を果たしたい。
ー俺も貴女だから、出来ると思えた。貴女だけに...ー
ーーーー
〜365【特別である所以】〜
ー【俺はこの身を捧げるつもりでいます】ー
勿論、禰豆子や善逸達の事も大切だ。
でも彼女は、特別...
俺は元々月並みの人間だった。少し鼻が利いたくらいで、あとは平凡な能力値の人間だ。
そんな俺をここまで導いてくれたのは、彼女だった。
幼い頃から俺は、何をするにも日向子さんの後をついて回っていたらしい。今思えば、彼女はこの世に生を受けた瞬間から特別な導き手の力を秘めていたのかもしれない...
歩むべき方向を決して見失わない彼女は、側にいると不思議な安心感があった。
俺がこうして目指すべき未来を見据えていられるのは、心を折らずにいられたのは、日向子さんの存在があってこそ。
ー彼女を守りたいー
ー認められたいー
ー頼られたいー
ーうんと愛されたい..ー
俺の心の原動力は、彼女であったと言っても過言ではない。あの人から貰ったものは計り知れない。
だからこそ、俺は彼女に全身全霊をもって尽くしたいと思うのだ。
日向子さん...
貴女は星の導き手、多くの自然や生き物を統べるに値する存在。多くが彼女を求め還らんとする。
でも貴女は、その中で俺を選んでくれた。
こんなにも嬉しい事はない。
ーーー
昔、ある年の初めにヒノカミ様へ舞を捧げていた時、日向子さんは松明で囲われた円の際で腰を落とすと、自分に向かって深々と頭を垂れていた。
舞を踊っている最中その様子に気付いた俺は、
その直後、ある感覚を覚えた。
ヒノカミ神楽を舞っている最中は、当然寒さも感じない。けれど、それ以外の感覚も感じない筈だった。にもかかわらず、不思議と全身にじんわりとした暖かさを感じたのだ。それはまるで日溜りに身を置いている感覚に等しいものだった。
ー心地良い...ー
舞を捧げている最中は、決して何人も円環内に足を踏み入れてはならない。何故なら神聖なる神の領域であるから。
それはヒノカミ神楽を受け継いだ時、父から教えられた掟だったが、その掟を破って彼女を自分の元へと引き寄せたくなった衝動もしっかりと覚えている。
その時から明確に体に刻み込まれた願望こそが
【彼女と一つになりたい】というものだった。
...それは肉欲的な意味か、或いは霊的な意味でか
恐らく(俺にとって)はそのどちらも該当するだろう。
先にも話した通り、それが彼女が特別である所以だ。
今この瞬間も立ちはだかる壁は果てしない。それでも、自分が運命を共にしたいと思う人の側に居れる、それはとてつもなく幸せな事だった。
ーーーー
〜366【呼吸の波長】〜
「ッ‼」
こいつら...
宇随は二人の攻撃を受け流しているうち、ある事に気付く。初めはそれぞれの単調な打ち込みだった。
彼等が得意とする呼吸、星とヒノカミ神楽の呼吸はそもそも異なる呼吸であり【音】も違う。限り無く近しい呼吸であっても、呼吸の種類が異なれば全く別物なのだ。
しかし、徐々にその呼吸の波長が一寸の狂い無く一致し始めている。
それは脈拍、呼吸音、筋の動き一つ一つにおいてだ。
一人分の竹刀の重みが、二人分に重なり、一回の攻撃の重みは時としてそれ以上に感じる事もあった。
「ぐっ..」
炭治郎が上から竹刀を振り下ろせば、宇随は自ずとそれを跳ね返そうと力を込める。そしてすかさず日向子が掬い上げるようなしなやかな動きに転じると、炭治郎もそれに合わせる。
こちら側の呼吸が翻弄され、乱されるような立ち回り。押しと引きの連携が絶妙に取れている。
恐らく二人は互いの動作を先読みし、自分がどう動けば相手をサポートできるのか本能的にわかるのだ。
まるで...
逃げ場のない炎の渦に囲まれ、360度四方八方から攻撃が繰り出されているような気分だ。
【日の呼吸】
もし究極の完成形があるのだとしたら、まさしく炭治郎と日向子、二人の呼吸が合わさったものがそれだろう。これを極めればもしかすると、鬼舞辻無惨を追い詰めたと言われる継国一族の剣士に匹敵するやもしれない。
日向子が下から突き上げた刀を避けた際に、ほんの僅か、宇随の重心が後ろに傾いた。
その隙の糸を見逃さなかった炭治郎はカッと目を見開いて竹刀を突き刺す。
その矛先は、宇随の眼帯に一筋の亀裂を入れると、重力に従ってぼとりと落下した。
「....」
二人はその瞬間、長く水中で息を止めていたかのようにぷはっと大きく息を吸いあげた。
「はぁ...や..やったな...日向子さん!」
「はぁー...は...うんっ!...ぅッげほッ!けほっ」
「?!、だ、大丈夫か?!」
慌てた様子で彼女に駆け寄る炭治郎と、少し咳き込んだだけだと安心させるように微笑む日向子。
宇随は足元に落ちた眼帯を拾い上げると、そんな彼等をじっと見つめる。
ー(手を抜いたつもりも体が鈍ってたつもりも、無かったんだがな..)ー
これが今の彼等の紛れもない実力なのだと理解した宇随は、突然大声で笑い出した。
ビクリとそちらに意識を向けた二人は目をぱちぱちとさせている。そんな彼等にただ一言、彼はこう言い放った。
「合格だ!お前らは次の柱んところへ向かえ」
ーーーー
「炭治郎、日向子。お前らちゃんと話し合ってすっきりしたか?」
唐突に宇随にそう聞かれた二人は、その節は申し訳なかったと首を垂れた。妙な心のしがらみは解けて、お陰様で柱稽古に全力投球出来ている旨を伝えると、宇随はそれは何よりだと、世話を焼かせやがってと文句を垂れつつも笑って言った。
「よし!それじゃ、走り込みはそこいらで一旦終了だ。俺に着いてこい」
「「...?」」
唐突にそう言われ、不思議そうにお互い顔を見合わせながらも彼の背中を追いかけていくと、林の奥のやや開けたスペースに連れて来られる。風通りが良く木々がサワサワと騒めくような場所だった。宇随はくるりと振り返り二人にこう言い渡した。
「今からお前達二人には特別稽古に入ってもらう。目的は知らされているな?」
二人が揃ってこくりと頷いたのを確認し、彼は持っていた2本の竹刀を両者に投げ渡した。
「日向子は星の呼吸を、炭治郎はヒノカミ神楽を使用し、呼吸を合わせて俺に向かって来てもらう。この稽古は相手を打ち負かす事に意味は無い。1番の目的は互いの【呼吸の覚醒】だ。とにかく、相手の呼吸を感じ息を合わせること。二人で一人になった気でかかって来い」
ー呼吸の覚醒ー
それは遡ること数百年前。かつて始まりの呼吸の剣士と巫一族星の呼吸の剣士が共闘していた時代。鬼舞辻無惨を追い詰めた、その剣技の再現を追求する事を意味する。それぞれの呼吸の(本来の特性)を相互作用により引き出すのが、目下の目標だった。
とかく星の呼吸については未知だ。他の呼吸を無力化するも強化するも自由自在。呼吸の元素と言っても過言ではないこの呼吸をどう扱い、それが周りにどう影響するのかは、日向子次第...
巫一族の女児の生き残りが刀を取り、痣者が再び出現し、仮に日の呼吸が復活を遂げたのが事実であったのなら、これは紛れもなく革命なのだ。鬼殺隊が結成されて以来の大躍進であり、この永きに渡った闘いの終焉となり得る可能性を秘めた希望の光。
どんな運命の巡り合わせか。
星と太陽は家族として共に育ち、今は互いに特別な想いを寄せ合うようになった。
信頼と絆の深さは群を抜いている二人だ。
もしも、奇跡というものを起こせるのだとしたら...
「炭治郎、日向子。俺はな、お前達こそが鬼殺隊の要になるだろうと思っている。期待してるからな」
宇随がそう鼓舞すれば、二人は瞳に炎を灯し声を張り上げる。
「「はい!頑張ります!」」
ーーーーー
〜364【あなたを選んだ】〜
「あ...でも宇随さん。
お前何様だとばかりに腕を組んだ宇随は、聞き捨てならんとそれ以降の言葉を遮る。
「お前なぁ、俺を誰だと思ってやがる?現役を退いたとは言え柱の地位に居た男だぞ。遠慮はいらねぇよ!」
「ッ!!」
ガキィン!
容赦なく炭治郎に向かって振り下ろされた竹刀は間一髪のところで抑えられたものの、その力は片腕で放たれたものとは思えない程の威力を誇っていた。
炭治郎は、その衝撃でビリビリ痺れる腕を見て思わず冷や汗を垂らす。
それは一部始終を隣で見ていた日向子も同様であった。
「もう一度言うぞ。二人でとっととかかって来い」
ビッと指で挑発する宇随を見た炭治郎と日向子は、ごくり生唾を飲み両者竹刀を構え飛び出して行った。
炭治郎が先陣切って斬り込んだそのすぐ後、畳みかけるように日向子が続く。
息を合わせるというのは具体的にどうするべきなのか。実際二人は頭で理解しているわけではない。十二鬼月との戦闘において土壇場で繰り出してきただけ。それぞれの体が本能的に動いてきただけで物に出来ているわけではない。
ただ、これが鬼に対して効果絶大であった事は確かだった。全集中常中と同じで、いつ何時でも出来なければ意味はない。鬼舞辻に対抗するためにも...
記憶に新しいのは上弦の肆戦で、日向子が炭治郎の呼吸に合わせ両者の体の動きを同期させた時。あの時炭治郎はこう感じた。
ーまるで日向子姉さんの体が、幽体となって自分の中に入り込んだかのような感覚だった...ー
それは彼女曰くこういう事らしい。
星の呼吸は全ての呼吸の源の呼吸だけど、最初に生まれたのは日の呼吸。他は日の呼吸の派生。
要するに、【日の呼吸が最も星の呼吸に近い存在】であり、【同期させやすい呼吸でもある】と。
「(あれ)が出来る自信があるのは炭治郎だけかな。呼吸の特徴もそうなんだけど...貴方だから出来る気がするっていうか。ずっと側で育ってきた貴方だからこそ、一つになれるんだと思うの。それと、勘違いしないで聞いて欲しいんだけどね。貴方が日の呼吸の使い手でもそうで無くとも、私はきっと貴方を選んだ。」
そう照れ臭そうにはにかむ彼女がたまらなく愛おしかった。そして手を取ってくれた彼女の為にも、俺は俺の責務を果たしたい。
ー俺も貴女だから、出来ると思えた。貴女だけに...ー
ーーーー
〜365【特別である所以】〜
ー【俺はこの身を捧げるつもりでいます】ー
勿論、禰豆子や善逸達の事も大切だ。
でも彼女は、特別...
俺は元々月並みの人間だった。少し鼻が利いたくらいで、あとは平凡な能力値の人間だ。
そんな俺をここまで導いてくれたのは、彼女だった。
幼い頃から俺は、何をするにも日向子さんの後をついて回っていたらしい。今思えば、彼女はこの世に生を受けた瞬間から特別な導き手の力を秘めていたのかもしれない...
歩むべき方向を決して見失わない彼女は、側にいると不思議な安心感があった。
俺がこうして目指すべき未来を見据えていられるのは、心を折らずにいられたのは、日向子さんの存在があってこそ。
ー彼女を守りたいー
ー認められたいー
ー頼られたいー
ーうんと愛されたい..ー
俺の心の原動力は、彼女であったと言っても過言ではない。あの人から貰ったものは計り知れない。
だからこそ、俺は彼女に全身全霊をもって尽くしたいと思うのだ。
日向子さん...
貴女は星の導き手、多くの自然や生き物を統べるに値する存在。多くが彼女を求め還らんとする。
でも貴女は、その中で俺を選んでくれた。
こんなにも嬉しい事はない。
ーーー
昔、ある年の初めにヒノカミ様へ舞を捧げていた時、日向子さんは松明で囲われた円の際で腰を落とすと、自分に向かって深々と頭を垂れていた。
舞を踊っている最中その様子に気付いた俺は、
その直後、ある感覚を覚えた。
ヒノカミ神楽を舞っている最中は、当然寒さも感じない。けれど、それ以外の感覚も感じない筈だった。にもかかわらず、不思議と全身にじんわりとした暖かさを感じたのだ。それはまるで日溜りに身を置いている感覚に等しいものだった。
ー心地良い...ー
舞を捧げている最中は、決して何人も円環内に足を踏み入れてはならない。何故なら神聖なる神の領域であるから。
それはヒノカミ神楽を受け継いだ時、父から教えられた掟だったが、その掟を破って彼女を自分の元へと引き寄せたくなった衝動もしっかりと覚えている。
その時から明確に体に刻み込まれた願望こそが
【彼女と一つになりたい】というものだった。
...それは肉欲的な意味か、或いは霊的な意味でか
恐らく(俺にとって)はそのどちらも該当するだろう。
先にも話した通り、それが彼女が特別である所以だ。
今この瞬間も立ちはだかる壁は果てしない。それでも、自分が運命を共にしたいと思う人の側に居れる、それはとてつもなく幸せな事だった。
ーーーー
〜366【呼吸の波長】〜
「ッ‼」
こいつら...
宇随は二人の攻撃を受け流しているうち、ある事に気付く。初めはそれぞれの単調な打ち込みだった。
彼等が得意とする呼吸、星とヒノカミ神楽の呼吸はそもそも異なる呼吸であり【音】も違う。限り無く近しい呼吸であっても、呼吸の種類が異なれば全く別物なのだ。
しかし、徐々にその呼吸の波長が一寸の狂い無く一致し始めている。
それは脈拍、呼吸音、筋の動き一つ一つにおいてだ。
一人分の竹刀の重みが、二人分に重なり、一回の攻撃の重みは時としてそれ以上に感じる事もあった。
「ぐっ..」
炭治郎が上から竹刀を振り下ろせば、宇随は自ずとそれを跳ね返そうと力を込める。そしてすかさず日向子が掬い上げるようなしなやかな動きに転じると、炭治郎もそれに合わせる。
こちら側の呼吸が翻弄され、乱されるような立ち回り。押しと引きの連携が絶妙に取れている。
恐らく二人は互いの動作を先読みし、自分がどう動けば相手をサポートできるのか本能的にわかるのだ。
まるで...
逃げ場のない炎の渦に囲まれ、360度四方八方から攻撃が繰り出されているような気分だ。
【日の呼吸】
もし究極の完成形があるのだとしたら、まさしく炭治郎と日向子、二人の呼吸が合わさったものがそれだろう。これを極めればもしかすると、鬼舞辻無惨を追い詰めたと言われる継国一族の剣士に匹敵するやもしれない。
日向子が下から突き上げた刀を避けた際に、ほんの僅か、宇随の重心が後ろに傾いた。
その隙の糸を見逃さなかった炭治郎はカッと目を見開いて竹刀を突き刺す。
その矛先は、宇随の眼帯に一筋の亀裂を入れると、重力に従ってぼとりと落下した。
「....」
二人はその瞬間、長く水中で息を止めていたかのようにぷはっと大きく息を吸いあげた。
「はぁ...や..やったな...日向子さん!」
「はぁー...は...うんっ!...ぅッげほッ!けほっ」
「?!、だ、大丈夫か?!」
慌てた様子で彼女に駆け寄る炭治郎と、少し咳き込んだだけだと安心させるように微笑む日向子。
宇随は足元に落ちた眼帯を拾い上げると、そんな彼等をじっと見つめる。
ー(手を抜いたつもりも体が鈍ってたつもりも、無かったんだがな..)ー
これが今の彼等の紛れもない実力なのだと理解した宇随は、突然大声で笑い出した。
ビクリとそちらに意識を向けた二人は目をぱちぱちとさせている。そんな彼等にただ一言、彼はこう言い放った。
「合格だ!お前らは次の柱んところへ向かえ」
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