◆第拾弐章 暗雲を吹き払え
貴女のお名前を教えてください
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〜359【呑まれる】〜
彼女から恋人同士である事を公表しようかと提案された炭治郎は、自分の不甲斐無さに激しく自己嫌悪しつつも、これで救われると安堵した。
これで、堂々と日向子さんの肩を抱いて歩ける...。
「ごめんな。でも日向子さん...隊士達に物凄く人気なんだ。彼女にしたいって人もたくさんいる。嫌だよ、俺..せっかく貴女と恋仲になれたんだ。他の人の所になんか行かせないからな」
「っ!」
炭治郎はぐぐっと日向子の体を押し倒し、上から覆い被さりながらぎゅうぎゅうと華奢な彼女の体を抱き締める。ちょっとやそっとじゃ抜け出せないような体制から、彼の独占欲の強さが見て取れた。
普通なら、愛が重いとか束縛が鬱陶しいとか、そんな事を思うのかもしれない。
しかし日向子は、そういった感情とは正反対の気持ちが芽生える。
ーこんなにも求めてくれる彼が、可愛らしくて..愛おしいー
「ねぇ炭治郎、私が好きなのは貴方だけだよ。他の人はただの仲間。大好きなのは貴方ただ一人。だからあまり不安にならないでよ。私の気持ち、もしかしてあんまり伝わってないかな?さっきの口吸いじゃ、物足りない?」
とんとんと彼の背中を叩くと、炭治郎は埋めていた顔をゆっくりと上げていった。切なそうに眉を寄せてはいたが、それは悲しみや辛さからではないようで日向子はほっとする。
ただ代わりに、前に体を重ねた時のような、切羽詰まった情欲の色が滲み出ていた。
酒を飲み酔っているせいなのか、触れたそうにしきりにうずうずしていた。
「...ちゃんと伝わってるよ、大丈夫だ。ただ...口吸いはちょっと物足りない。今度は俺がしたい。」
互いに誘うような眼差しを交わし合い、その距離は縮まっていった。彼の唇を受け入れると、すぐにぬるりと熱い舌が入り込んでくる。ほんのりアルコールの匂いが鼻を抜けていった。
「は...っ..お酒の匂い」
「ぁ...うんっ..私もわりと飲んだから」
「知ってる。ずっと見てたから..」
「そうだったの?」
「貴女は俺の事あんまり見てくれてなかったようだけど」
「あー..ごめんてば。そんなつもりじゃなかったの。許して?」
「いいよ..その代わり、もっと触れさせてくれたらな」
「っ..!」
突然乳房に手を添えられ、そのままやわやわと隊服の上から揉まれる。しかし服の感触が邪魔だったのか、彼は手早く上着のボタンを外しにかかる。
「暑いだろう、お酒で火照った体..冷まそうな?」
彼は笑顔でそう語ると彼女の隊服を呆気なくはぎ取った。
ーーーーー
〜360【囁やかな惚気】〜
昨夜の一件を経て炭治郎の様子はがらりと変化した。今まで遠慮していた分の反動だろうか?彼はもう他人の目を気にする事もなく、稽古中以外は日向子の元からくっついて離れなくなった。
あまりにも姉弟にしては近しい距離感に、不信感や疑問を抱く者も少なくはなく、冗談半分で恋仲みたいだと茶化してきた一人の隊員に対し、炭治郎は堂々と言い放つ。
「はい、そうですよ!日向子さんの恋人は俺です。今まで諸事情で言うのは控えてまして、すみません」
「ぇ...まじ?」
一人に言えば噂が広まるのにそう時間は掛からない。まさに人の口に戸は立てられぬとはこう言う事を指すのだろう。
聞くところによると、ここに居る隊員達の殆どが二人は実は血のつながりのない義理関係という事さえ知らなかったらしい。色んな意味で驚きに声を上げる彼等を見ると、日向子は気恥ずかしさに顔が熱くなる。
しかし予想通り、それから彼女が男性から声をかけられる事はなくなった。
と言うより、炭治郎が容赦なく目を光らせている、と言ったほうが正しいのかもしれない。関係性を公開したのは効果絶大だった。
ー例えば今も...ー
「ねぇねぇ日向子ちゃん!それで炭治郎君のどこを好きになったんですか?いつから好きだったんですか?告白されたのはいつ?!」
ぐいぐいと迫る勢いで質問攻めしてきたのは須磨。今は風呂で汗も綺麗さっぱり洗い流した後で、日向子は偶然出くわした宇随の嫁達に囲まれているところだ。特に須磨はこういう類に興味津々の性質があるらしい。日向子はしどろもどろになりながら答える。
「えっと、告白されたのも自覚したのも、最近と言えば最近で..」
それと、彼のどこが好きなのか?
他人に言うのは初めてで物凄く恥ずかしいが、白状するまで解放してくれそうになかった為、観念した。
「1番は、努力家で頑張り屋なところですかね。そういう姿を見てると、私も頑張らなきゃって思います。あとは..」
「あとは?」
「一等優しいところです。凄く大切にしてくれます炭治郎は..昔から」
幼い頃から共に育った彼との思い出を改めて振り返ると、穏やかなで無邪気な笑顔や優しい温もりばかりが思い浮かぶ。真っ直ぐな彼の想いにいつの間にか心打たれていて...
「そう...日向子ちゃんとっても幸せそう。だそうよ炭治郎君。良かったわね?」
雛鶴は日向子の背後に向かって呼びかける。どきりとして振り返ると、ぽかんと口を開け赤面したまま固まっている炭治郎の姿があった。
ーーーーー
〜361【逆効果】〜
彼の格好を見ると、どうやら風呂に行く途中だったが偶然この場に出会したといったところだろう。
そして、その表情を見るに一部始終を聞かれていたのは間違いない。
ただでさえ気まずいにもかかわらず、雛鶴達は後は若いお二人でとでも言いたげにそそくさと去って行ってしまった。
「...」
「...」
僅かに沈黙が流れた後、炭治郎はゆっくりと日向子の元へと近づいていく。
羞恥に顔を俯かせていた彼女へと、言葉が投げかけられた。
「日向子さんは、俺のそういうところに惚れてくれたんだな。嬉しい...。貴女の口から好意の言葉をちゃんと聞けたのがもの凄く嬉しいです。」
そっと顔を上げれば、炭治郎は心底幸せそうなはにかんだ笑顔を浮かべていた。思えばいつも言葉にして伝えてくれていたのは炭治郎ばかりで、日向子からはなかなか照れ臭く言えずじまいだったのだ。
しかし、それがこの間の一件のようなすれ違いを生んでしまうのなら正さなければと反省した。
ー私の心の声を、正直に炭治郎へ...ー
「...私、さっき言ったことも勿論嘘じゃないけど、それだけじゃないよ。貴方の好きなところはまだまだたくさんある。」
「..っ」
「炭治郎が思ってる以上に私は貴方の事が大好きだからね。あまり不安にならないでいいよ。確かに、他の異性と話してたりしたら嫌だよね。ごめん。私も、炭治郎が他の女の子と楽しく話してたら嫌だもの。私の炭治郎なのにって、嫉妬しちゃうと思う。だから...もうこの前みたいにお酒飲み過ぎたり無茶しないでね?貴方の体が心配だから」
「..ぅぅ....日向子さんッ..」
彼は感極まったように顔を歪めると、小脇に抱えていた手拭いを放り出して、ひしと日向子に抱き付いた。
「好きです。好き好きッ...大好きです!」
「っ//!...炭治郎、誰か来ちゃうかもしれないから」
「ごめんなさい。でもッ...止まらないです。もう少しだけ、この溢れた気持ちを吐き出させて」
日向子はふぅと息を吐いて、彼の背中をぽんぽんとあやすように叩いた。感情が昂ったりした時に、昔から炭治郎にしてやる行為だった。
これをすると安心するのか、徐々に体の力が弛緩していき落ち着きを取り戻す。筈だったのだが...
急にばっと体を離し距離をとる炭治郎。若干前屈みになっているため少し上目遣い気味に日向子を見るその眼は、遠い昔の記憶とは存外かけ離れたものだった。
「それ..駄目だ、逆効果だよ日向子さん.」
落ち着くどころか、止まらなくなりそう
ーーーーー
〜362【形勢逆転】〜
ー鼻腔を擽る大好きな人の匂い、清らかな石けんの匂い、優しい温もりと癒し、意外にもストレートな言葉と彼女らしい気遣いー
それが合わさっただけでもう、好きの感情が溢れ出て止まらない。ぐわっと体の内側から別の何かが突出した瞬間、これはまずいと自ら彼女から体を引き離した。
それは、自分の体全体から放たれるオーラが、相手を捕らえんとするかのように蠢 くようで、少しの吐息や動作にまで敏感に反応してしまう。まるでぎゅっと鷲掴みにされたまま激しく心臓が鳴り響くような辛さ。本能的に分かる。
ーこれが暫く続いた時、いつも自制が効かなくなるからー
「急にごめん。今のこの状況で体に触れられると、抑えが効かなくなりそうで...」
「あ...ううん。ふふ..っ」
「?何で笑ってるんだ」
「いや、ごめんごめん。反応が可愛いなぁって思って。私、貴方のこういう所も好きなんだよね。真っ赤になって照れちゃうところとかさ、可愛いなぁって」
日向子がわざとらしくそう弄ると、炭治郎はむすっとした表情で睨みつけてきた。
「か、可愛くないぞ別に。はぁ...日向子さんは何でそんなにいつも余裕なんだろう。必死な俺が馬鹿みたいだ」
「....それは、炭治郎が可愛いから」
「っ!...わかった。可愛いだけじゃないってところ見せてやる」
そんなに言うならと、パシッと彼女の腕を掴んですぐ後ろにある壁に押し付けた。逃げられぬよう股の間に足を入れ込み、身長差からわずかに見下げる形で、炭治郎は日向子の目を至近距離で見つめる。今度は日向子が驚く番で、赤面したままただただ硬直していた。そんな様子に、彼は満足げに口角を上げる。
形勢逆転。ひとたび優勢になれば男の顔に早変わりする。彼女を誘惑する事も容易い...。
「前々から思ってたけど、日向子さんは俺が歳下だからって少し無防備が過ぎるな。力じゃ貴方に負けないって言うのに。貴女さえその気なら、このまま口吸いする事だって容易だ。この間みたいに、体中に痕を残す事だって..出来てしまうぞ?」
耳元で甘くそう囁けば、日向子は身震いし慌ててこう言い放った。
「ご、ごめんなさい私が悪かったから..っ。それに、これ以上痕は勘弁して?さっきだってお風呂で、雛鶴さん達に見つかって大変だったわ。貴方何個も付けたでしょ?」
「あー、あの夜は酔ってたのもあってつい。すまない」
そう言った炭治郎は全く悪気があるようには見えなかった。
ーーーーー
彼女から恋人同士である事を公表しようかと提案された炭治郎は、自分の不甲斐無さに激しく自己嫌悪しつつも、これで救われると安堵した。
これで、堂々と日向子さんの肩を抱いて歩ける...。
「ごめんな。でも日向子さん...隊士達に物凄く人気なんだ。彼女にしたいって人もたくさんいる。嫌だよ、俺..せっかく貴女と恋仲になれたんだ。他の人の所になんか行かせないからな」
「っ!」
炭治郎はぐぐっと日向子の体を押し倒し、上から覆い被さりながらぎゅうぎゅうと華奢な彼女の体を抱き締める。ちょっとやそっとじゃ抜け出せないような体制から、彼の独占欲の強さが見て取れた。
普通なら、愛が重いとか束縛が鬱陶しいとか、そんな事を思うのかもしれない。
しかし日向子は、そういった感情とは正反対の気持ちが芽生える。
ーこんなにも求めてくれる彼が、可愛らしくて..愛おしいー
「ねぇ炭治郎、私が好きなのは貴方だけだよ。他の人はただの仲間。大好きなのは貴方ただ一人。だからあまり不安にならないでよ。私の気持ち、もしかしてあんまり伝わってないかな?さっきの口吸いじゃ、物足りない?」
とんとんと彼の背中を叩くと、炭治郎は埋めていた顔をゆっくりと上げていった。切なそうに眉を寄せてはいたが、それは悲しみや辛さからではないようで日向子はほっとする。
ただ代わりに、前に体を重ねた時のような、切羽詰まった情欲の色が滲み出ていた。
酒を飲み酔っているせいなのか、触れたそうにしきりにうずうずしていた。
「...ちゃんと伝わってるよ、大丈夫だ。ただ...口吸いはちょっと物足りない。今度は俺がしたい。」
互いに誘うような眼差しを交わし合い、その距離は縮まっていった。彼の唇を受け入れると、すぐにぬるりと熱い舌が入り込んでくる。ほんのりアルコールの匂いが鼻を抜けていった。
「は...っ..お酒の匂い」
「ぁ...うんっ..私もわりと飲んだから」
「知ってる。ずっと見てたから..」
「そうだったの?」
「貴女は俺の事あんまり見てくれてなかったようだけど」
「あー..ごめんてば。そんなつもりじゃなかったの。許して?」
「いいよ..その代わり、もっと触れさせてくれたらな」
「っ..!」
突然乳房に手を添えられ、そのままやわやわと隊服の上から揉まれる。しかし服の感触が邪魔だったのか、彼は手早く上着のボタンを外しにかかる。
「暑いだろう、お酒で火照った体..冷まそうな?」
彼は笑顔でそう語ると彼女の隊服を呆気なくはぎ取った。
ーーーーー
〜360【囁やかな惚気】〜
昨夜の一件を経て炭治郎の様子はがらりと変化した。今まで遠慮していた分の反動だろうか?彼はもう他人の目を気にする事もなく、稽古中以外は日向子の元からくっついて離れなくなった。
あまりにも姉弟にしては近しい距離感に、不信感や疑問を抱く者も少なくはなく、冗談半分で恋仲みたいだと茶化してきた一人の隊員に対し、炭治郎は堂々と言い放つ。
「はい、そうですよ!日向子さんの恋人は俺です。今まで諸事情で言うのは控えてまして、すみません」
「ぇ...まじ?」
一人に言えば噂が広まるのにそう時間は掛からない。まさに人の口に戸は立てられぬとはこう言う事を指すのだろう。
聞くところによると、ここに居る隊員達の殆どが二人は実は血のつながりのない義理関係という事さえ知らなかったらしい。色んな意味で驚きに声を上げる彼等を見ると、日向子は気恥ずかしさに顔が熱くなる。
しかし予想通り、それから彼女が男性から声をかけられる事はなくなった。
と言うより、炭治郎が容赦なく目を光らせている、と言ったほうが正しいのかもしれない。関係性を公開したのは効果絶大だった。
ー例えば今も...ー
「ねぇねぇ日向子ちゃん!それで炭治郎君のどこを好きになったんですか?いつから好きだったんですか?告白されたのはいつ?!」
ぐいぐいと迫る勢いで質問攻めしてきたのは須磨。今は風呂で汗も綺麗さっぱり洗い流した後で、日向子は偶然出くわした宇随の嫁達に囲まれているところだ。特に須磨はこういう類に興味津々の性質があるらしい。日向子はしどろもどろになりながら答える。
「えっと、告白されたのも自覚したのも、最近と言えば最近で..」
それと、彼のどこが好きなのか?
他人に言うのは初めてで物凄く恥ずかしいが、白状するまで解放してくれそうになかった為、観念した。
「1番は、努力家で頑張り屋なところですかね。そういう姿を見てると、私も頑張らなきゃって思います。あとは..」
「あとは?」
「一等優しいところです。凄く大切にしてくれます炭治郎は..昔から」
幼い頃から共に育った彼との思い出を改めて振り返ると、穏やかなで無邪気な笑顔や優しい温もりばかりが思い浮かぶ。真っ直ぐな彼の想いにいつの間にか心打たれていて...
「そう...日向子ちゃんとっても幸せそう。だそうよ炭治郎君。良かったわね?」
雛鶴は日向子の背後に向かって呼びかける。どきりとして振り返ると、ぽかんと口を開け赤面したまま固まっている炭治郎の姿があった。
ーーーーー
〜361【逆効果】〜
彼の格好を見ると、どうやら風呂に行く途中だったが偶然この場に出会したといったところだろう。
そして、その表情を見るに一部始終を聞かれていたのは間違いない。
ただでさえ気まずいにもかかわらず、雛鶴達は後は若いお二人でとでも言いたげにそそくさと去って行ってしまった。
「...」
「...」
僅かに沈黙が流れた後、炭治郎はゆっくりと日向子の元へと近づいていく。
羞恥に顔を俯かせていた彼女へと、言葉が投げかけられた。
「日向子さんは、俺のそういうところに惚れてくれたんだな。嬉しい...。貴女の口から好意の言葉をちゃんと聞けたのがもの凄く嬉しいです。」
そっと顔を上げれば、炭治郎は心底幸せそうなはにかんだ笑顔を浮かべていた。思えばいつも言葉にして伝えてくれていたのは炭治郎ばかりで、日向子からはなかなか照れ臭く言えずじまいだったのだ。
しかし、それがこの間の一件のようなすれ違いを生んでしまうのなら正さなければと反省した。
ー私の心の声を、正直に炭治郎へ...ー
「...私、さっき言ったことも勿論嘘じゃないけど、それだけじゃないよ。貴方の好きなところはまだまだたくさんある。」
「..っ」
「炭治郎が思ってる以上に私は貴方の事が大好きだからね。あまり不安にならないでいいよ。確かに、他の異性と話してたりしたら嫌だよね。ごめん。私も、炭治郎が他の女の子と楽しく話してたら嫌だもの。私の炭治郎なのにって、嫉妬しちゃうと思う。だから...もうこの前みたいにお酒飲み過ぎたり無茶しないでね?貴方の体が心配だから」
「..ぅぅ....日向子さんッ..」
彼は感極まったように顔を歪めると、小脇に抱えていた手拭いを放り出して、ひしと日向子に抱き付いた。
「好きです。好き好きッ...大好きです!」
「っ//!...炭治郎、誰か来ちゃうかもしれないから」
「ごめんなさい。でもッ...止まらないです。もう少しだけ、この溢れた気持ちを吐き出させて」
日向子はふぅと息を吐いて、彼の背中をぽんぽんとあやすように叩いた。感情が昂ったりした時に、昔から炭治郎にしてやる行為だった。
これをすると安心するのか、徐々に体の力が弛緩していき落ち着きを取り戻す。筈だったのだが...
急にばっと体を離し距離をとる炭治郎。若干前屈みになっているため少し上目遣い気味に日向子を見るその眼は、遠い昔の記憶とは存外かけ離れたものだった。
「それ..駄目だ、逆効果だよ日向子さん.」
落ち着くどころか、止まらなくなりそう
ーーーーー
〜362【形勢逆転】〜
ー鼻腔を擽る大好きな人の匂い、清らかな石けんの匂い、優しい温もりと癒し、意外にもストレートな言葉と彼女らしい気遣いー
それが合わさっただけでもう、好きの感情が溢れ出て止まらない。ぐわっと体の内側から別の何かが突出した瞬間、これはまずいと自ら彼女から体を引き離した。
それは、自分の体全体から放たれるオーラが、相手を捕らえんとするかのように
ーこれが暫く続いた時、いつも自制が効かなくなるからー
「急にごめん。今のこの状況で体に触れられると、抑えが効かなくなりそうで...」
「あ...ううん。ふふ..っ」
「?何で笑ってるんだ」
「いや、ごめんごめん。反応が可愛いなぁって思って。私、貴方のこういう所も好きなんだよね。真っ赤になって照れちゃうところとかさ、可愛いなぁって」
日向子がわざとらしくそう弄ると、炭治郎はむすっとした表情で睨みつけてきた。
「か、可愛くないぞ別に。はぁ...日向子さんは何でそんなにいつも余裕なんだろう。必死な俺が馬鹿みたいだ」
「....それは、炭治郎が可愛いから」
「っ!...わかった。可愛いだけじゃないってところ見せてやる」
そんなに言うならと、パシッと彼女の腕を掴んですぐ後ろにある壁に押し付けた。逃げられぬよう股の間に足を入れ込み、身長差からわずかに見下げる形で、炭治郎は日向子の目を至近距離で見つめる。今度は日向子が驚く番で、赤面したままただただ硬直していた。そんな様子に、彼は満足げに口角を上げる。
形勢逆転。ひとたび優勢になれば男の顔に早変わりする。彼女を誘惑する事も容易い...。
「前々から思ってたけど、日向子さんは俺が歳下だからって少し無防備が過ぎるな。力じゃ貴方に負けないって言うのに。貴女さえその気なら、このまま口吸いする事だって容易だ。この間みたいに、体中に痕を残す事だって..出来てしまうぞ?」
耳元で甘くそう囁けば、日向子は身震いし慌ててこう言い放った。
「ご、ごめんなさい私が悪かったから..っ。それに、これ以上痕は勘弁して?さっきだってお風呂で、雛鶴さん達に見つかって大変だったわ。貴方何個も付けたでしょ?」
「あー、あの夜は酔ってたのもあってつい。すまない」
そう言った炭治郎は全く悪気があるようには見えなかった。
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