◆第拾弐章 暗雲を吹き払え
貴女のお名前を教えてください
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〜355【浮気者】〜
何故彼がこのような状態になってしまったのか。近くにいた男性隊士に問うと、申し訳なさそうに事の発端を説明し始めた。
「俺がいけなかったんだ。お前に酒は早いって少し煽ってしまったというか...尋常じゃない速さで飲むもんだから止めはしたが..聞かなくて」
なるほど...状況は把握出来た。その隊士を責めるつもりも毛頭ない。炭治郎はその程度で頭に来るような子じゃない。相当日向子が孤独感を感じさせてしまっていたという事。苦手な酒を意地で煽り続けさせるくらい...
ーまた、私が鈍感過ぎるばかりに彼を傷付けてしまったのか..ー
「先輩のせいじゃないです。炭治郎がこうなったの、私の責任で..」
例の隊士に向き直りそう告げると、炭治郎はぐいと日向子の体を自分側に向ける。泣きそうな顔を歪めて彼は必死で彼女に縋り付いた。
「何で余所見するんだこっち見てくれ」
「っ、」
「......恋人らのに...」
俯き加減で炭治郎はぼそりとそう呟いた。周りに聞こえたか聞こえないかの声量だったが、日向子はハッとして炭治郎の口を押さえようとした。しかし、その手はたしっと阻まれる。ばっと顔を上げ炭治郎は大きく口を開いた。
「日向子さんの浮気者!貴女は俺のッー!!ー..」
「!」
その瞬間、炭治郎は力なく日向子の肩に被さる。宇随が手刀で炭治郎の首を叩いた為であった。やれやれといった様子で額を拭う動作をする彼と、何が起きたのかちんぷんかんぷんな妻と隊士達。
日向子はただ茫然と宇随を見上げた。
「宇随様...」
「日向子、部屋案内してやるからこいつ介抱してやれ。お前らは気にせず続けろー」
ぱんぱんと手を叩きその場を収めると、ここは任せたと雛鶴に告げ宇随は炭治郎を抱き上げた。
促されるままに日向子は広間を出て彼の後に着いていく。ガヤガヤとした場から離れた所で彼は口を開いた。
「日向子。お前炭治郎と恋仲になったんだろう」
「!知ってらしたんですか...」
「あぁ、こいつは喋ってねぇぞ?俺の感だ感。それでだ...この先の付き合い方で少し口出させて貰うけどな。あんまりやきもちは焼かせてやるなよ。勿論こいつの執着が異常なのはわかる。けど、目の前で彼女が他の男に優しくしてるの見りゃ誰だってムカつくだろうよ」
「....」
「これからお前ら二人には柱稽古中も行動共にして貰う事になる。色恋が御法度とは言わない。ただ、雑念はここで片付けておけ」
気の済むまで話し合えと、彼は個室へ二人を放り込んだ。
ーーーーー
〜356【付き合い方】〜
スタンと障子が閉じられた数秒後、日向子は未だに気絶している炭治郎の体をよっと抱え上げる。ちらりと部屋の奥へ目線を移すと、ご丁寧に布団が一式ひいてあるのが目に入った。日向子は思わず溜息を吐く。
「宇随様ったら...確信犯だったんだわ」
こうなる未来が彼には見えていたのだろうか。やはり色んな意味で一枚も二枚も上手だ。ここで雑念を片付けていけと言われたからには、何とか打開しなければ。
日向子は炭治郎の体を布団へ横たえると、さらりと髪の毛を攫い撫ぜた。うすら目元に涙の跡が残っているのに気付くと、申し訳なさでいっぱいになった。
ー(日向子さんの浮気者!..)ー
そう言われたことは、正直ショックだった。炭治郎の事は心から好いているし、他に目移りするつもりもない。日向子としては蔑ろにしたつもりもなかった。けど、彼が寂しいと感じたのならそれが全て。反省しなきゃいけない。
今思えば、炭治郎の目の前で他の男の人に話しかけにいったり、談笑したりしたのは一度や二度ではなかった。自分の中で深い意味は無いにしても、炭治郎は違う。少し考えればわかった筈なのに...
彼はとても嫉妬深くて、独占欲が強い子だ。それは日向子が幼い頃からずっと家族として彼の側に居た影響もあるだろう。
恋仲になった今、その想いが加速しているのを何となく肌で感じる。
ただ...炭治郎がそんな自分自身に嫌気が差しているのも日向子は気付いていた。もっと余裕が持てるようになりたいと、いつの日か溢していたあの言葉は本音だろう。だから我慢を重ねてしまう。
きっと彼のこの想いも..時が経てば徐々に落ち着いていくだろうが、それまでは
ー上手い付き合い方をしないと..本当に彼の心が壊れてしまいそうでならないし、鬼殺や周りの人間に悪影響が及びかねないー
「ん...」
水を注いで戻ってきた直後、ようやく炭治郎は意識を取り戻し徐々に目をあけていった。
ここが何処だかわからず最初は混乱していたようだったが、日向子の姿に気付くやいなやガバッと状態を起こす。
「いっ!...」
「無理しないで?あれだけお酒飲んでたのだから、頭痛がするのも無理ないわ。お水、飲める?」
「っ..ありがとう」
背中をさすりながら見守ってると、彼は急にしゅんとして顔を俯かせてしまった。どうやら先程の宴会の記憶は残っているらしく、彼はぽつりとこう呟いた。
「ごめん..日向子さん。俺、貴女に酷い事言ってしまった。」
ーーーーー
〜357【話をしよう】〜
「浮気者だなんて...失礼な事言ってごめんな。貴女に下心がない事はわかってるのに、俺が...気にしすぎなんです。」
あぁ、またそうして自身を責めてしまう。
俺が...決まってそう言ってしまうのは炭治郎の口癖だ。彼が自分を責める必要はない。
だって、炭治郎のせいじゃないのだから。悪い事なんてこれっぽっちもしてないのだから。
こうして嫉妬してくれるのは、正直言うと嬉しいものだ。それだけ好きでいてくれてると思うと、とても愛らしく思う。
けれど...これは少なくとも炭治郎にとっては、悪い影響でしかない。愛憎は人の身も心も滅ぼす。
ー私は、彼より優位に立ちたいわけでもなければ、支配したい訳でもない。
ただ...緩やかで幸せなひと時を、彼の隣で一緒に過ごせたらいいなと思うだけだ。彼の辛そうな顔は見たくない。心から笑った顔が一番好きなのは、私も同じだー
だから...
「炭治郎」
「?..ッえ、ちょっ」
ぎゅっと彼の体を包み込むように真正面から抱き締める。顔を真っ赤にしてあたふたする炭治郎を射止めるように見つめると、やがて少しずつ顔と顔の距離が縮まっていく。反射的に目を瞑った炭治郎の唇を掠めるように捕らえ、はむはむと啄むような口付けを交わす。
予想だにしなかった彼女の行動に炭治郎はされるがままとなり体を硬直させながらも、懸命に日向子から施される行為に応えようとする。
次第に、とろんと目尻は下がり顔や体の筋も比例し緩んでいく。気持ちよさそうな吐息を漏らす。
「っふ...ぁ..」
「.....っ」
永遠に続くかと思われた口吸いも、日向子が唇を離した事によりようやく終わりを告げた。しかし炭治郎の方は、まだし足りないとばかりに名残惜しそうな瞳を向けてくる。
「....ぅ...あの、日向子姉さん」
「ねぇ炭治郎。少し話がしたいの」
「?はい..」
「やっぱり...私達が恋仲にある事、皆に話そうか」
唐突なその提案に炭治郎はポカンと口をあけたまま固まっていた。そして数秒後、ようやく意味を理解すると彼はぐっと口を噤む。
「本当は周りにも色々と影響するかもって、全てが終わるまでは内密にしておこうと思ってたけど。貴方が不安な気持ちを抱えたり、辛い思いをするくらいなら。炭治郎もその方が安心するでしょう?」
日向子がそう提案すると、炭治郎はしばらく考え込んだ後こう語り始めた。
「うん。気使わせてごめんな...貴女が俺のだって堂々と言えたなら、多分こんなに辛くないと思う」
ーーーーー
〜358【制御不可】〜
ー炭治郎sideー
この内緒の関係を隠していようと提案したのは、元は炭治郎からだった。メリハリを付けたがる彼女は、元々色恋沙汰は全て終わってからというのを望んでいたし、特に禰豆子には後ろめたいような思いが少なからず残っているようだ。
彼女の事だから、どうせ禰豆子から俺を取り上げてしまったという申し訳なさや、周りを差し置いてというのを気にしているのだろう。
色々考え始めてしまった日向子さんを見て、俺は少し焦っていた。
恋仲になってくれという願いに対し、とにかく首を縦に振って欲しかったから、条件として【この関係を公にしない】という選択をしたのだ。
実際あの時は、皆には内緒の関係という背徳感に興奮を覚えたのも確かだったが...
ーそれがどうだろうか....ー
周りに彼女とお付き合いしている事を伏せるという事は、彼女に恋人はいない体になるという事で。それは即ち気のある輩は近づき放題だという事。
今まではお館様の計らいか、お互い合同任務や単独任務が多かった為忘れていたが、日向子さんは昔からよく男性に言い寄られていた。
それがここのところかなり顕著だったから、余裕が持てなかったのだ。
彼女に近づく虫を祓おうにも、俺が日向子さんの恋人である事を伏せている以上は、なかなか思うようにいかない。
それなのに、元来優しい日向子さんは辛そうな隊員を見れば手を差し伸べていたし、話しかけられれば笑顔で応対し愛想を振りまく。
彼女に下心も無ければ悪気もないということくらい、匂いでわかってはいたが。
ー【辛過ぎる...】ー
日向子さんに優しくされて鼻の下を伸ばしている男達を見ると虫唾が走り、柱稽古に参加している殆どの隊員が彼女に夢中になっているのかもしれないという妙な錯覚に陥った。
俺の彼女なのに...その笑顔も温もりも全部俺のものなのに....そんな身勝手な独占欲に支配され、自分の感情を上手くコントロール出来ない。
ここにいる人達は大半が俺よりも歳上の人達だ。もしかしたら子供じみた俺なんかよりも、本当は宇随さん達のように歳上の余裕があるような男性の方が、日向子さんも素が出せるのかな、とか。嫌な想像に掻き立てられる。
そんな心理状態だったから、彼女に構って欲しいあまり自分で苦手だと分かっている酒をやけになって煽り、結果的に酷い潰れ方をするという情け無い状況になって今に至る。
ーーーーー
何故彼がこのような状態になってしまったのか。近くにいた男性隊士に問うと、申し訳なさそうに事の発端を説明し始めた。
「俺がいけなかったんだ。お前に酒は早いって少し煽ってしまったというか...尋常じゃない速さで飲むもんだから止めはしたが..聞かなくて」
なるほど...状況は把握出来た。その隊士を責めるつもりも毛頭ない。炭治郎はその程度で頭に来るような子じゃない。相当日向子が孤独感を感じさせてしまっていたという事。苦手な酒を意地で煽り続けさせるくらい...
ーまた、私が鈍感過ぎるばかりに彼を傷付けてしまったのか..ー
「先輩のせいじゃないです。炭治郎がこうなったの、私の責任で..」
例の隊士に向き直りそう告げると、炭治郎はぐいと日向子の体を自分側に向ける。泣きそうな顔を歪めて彼は必死で彼女に縋り付いた。
「何で余所見するんだこっち見てくれ」
「っ、」
「......恋人らのに...」
俯き加減で炭治郎はぼそりとそう呟いた。周りに聞こえたか聞こえないかの声量だったが、日向子はハッとして炭治郎の口を押さえようとした。しかし、その手はたしっと阻まれる。ばっと顔を上げ炭治郎は大きく口を開いた。
「日向子さんの浮気者!貴女は俺のッー!!ー..」
「!」
その瞬間、炭治郎は力なく日向子の肩に被さる。宇随が手刀で炭治郎の首を叩いた為であった。やれやれといった様子で額を拭う動作をする彼と、何が起きたのかちんぷんかんぷんな妻と隊士達。
日向子はただ茫然と宇随を見上げた。
「宇随様...」
「日向子、部屋案内してやるからこいつ介抱してやれ。お前らは気にせず続けろー」
ぱんぱんと手を叩きその場を収めると、ここは任せたと雛鶴に告げ宇随は炭治郎を抱き上げた。
促されるままに日向子は広間を出て彼の後に着いていく。ガヤガヤとした場から離れた所で彼は口を開いた。
「日向子。お前炭治郎と恋仲になったんだろう」
「!知ってらしたんですか...」
「あぁ、こいつは喋ってねぇぞ?俺の感だ感。それでだ...この先の付き合い方で少し口出させて貰うけどな。あんまりやきもちは焼かせてやるなよ。勿論こいつの執着が異常なのはわかる。けど、目の前で彼女が他の男に優しくしてるの見りゃ誰だってムカつくだろうよ」
「....」
「これからお前ら二人には柱稽古中も行動共にして貰う事になる。色恋が御法度とは言わない。ただ、雑念はここで片付けておけ」
気の済むまで話し合えと、彼は個室へ二人を放り込んだ。
ーーーーー
〜356【付き合い方】〜
スタンと障子が閉じられた数秒後、日向子は未だに気絶している炭治郎の体をよっと抱え上げる。ちらりと部屋の奥へ目線を移すと、ご丁寧に布団が一式ひいてあるのが目に入った。日向子は思わず溜息を吐く。
「宇随様ったら...確信犯だったんだわ」
こうなる未来が彼には見えていたのだろうか。やはり色んな意味で一枚も二枚も上手だ。ここで雑念を片付けていけと言われたからには、何とか打開しなければ。
日向子は炭治郎の体を布団へ横たえると、さらりと髪の毛を攫い撫ぜた。うすら目元に涙の跡が残っているのに気付くと、申し訳なさでいっぱいになった。
ー(日向子さんの浮気者!..)ー
そう言われたことは、正直ショックだった。炭治郎の事は心から好いているし、他に目移りするつもりもない。日向子としては蔑ろにしたつもりもなかった。けど、彼が寂しいと感じたのならそれが全て。反省しなきゃいけない。
今思えば、炭治郎の目の前で他の男の人に話しかけにいったり、談笑したりしたのは一度や二度ではなかった。自分の中で深い意味は無いにしても、炭治郎は違う。少し考えればわかった筈なのに...
彼はとても嫉妬深くて、独占欲が強い子だ。それは日向子が幼い頃からずっと家族として彼の側に居た影響もあるだろう。
恋仲になった今、その想いが加速しているのを何となく肌で感じる。
ただ...炭治郎がそんな自分自身に嫌気が差しているのも日向子は気付いていた。もっと余裕が持てるようになりたいと、いつの日か溢していたあの言葉は本音だろう。だから我慢を重ねてしまう。
きっと彼のこの想いも..時が経てば徐々に落ち着いていくだろうが、それまでは
ー上手い付き合い方をしないと..本当に彼の心が壊れてしまいそうでならないし、鬼殺や周りの人間に悪影響が及びかねないー
「ん...」
水を注いで戻ってきた直後、ようやく炭治郎は意識を取り戻し徐々に目をあけていった。
ここが何処だかわからず最初は混乱していたようだったが、日向子の姿に気付くやいなやガバッと状態を起こす。
「いっ!...」
「無理しないで?あれだけお酒飲んでたのだから、頭痛がするのも無理ないわ。お水、飲める?」
「っ..ありがとう」
背中をさすりながら見守ってると、彼は急にしゅんとして顔を俯かせてしまった。どうやら先程の宴会の記憶は残っているらしく、彼はぽつりとこう呟いた。
「ごめん..日向子さん。俺、貴女に酷い事言ってしまった。」
ーーーーー
〜357【話をしよう】〜
「浮気者だなんて...失礼な事言ってごめんな。貴女に下心がない事はわかってるのに、俺が...気にしすぎなんです。」
あぁ、またそうして自身を責めてしまう。
俺が...決まってそう言ってしまうのは炭治郎の口癖だ。彼が自分を責める必要はない。
だって、炭治郎のせいじゃないのだから。悪い事なんてこれっぽっちもしてないのだから。
こうして嫉妬してくれるのは、正直言うと嬉しいものだ。それだけ好きでいてくれてると思うと、とても愛らしく思う。
けれど...これは少なくとも炭治郎にとっては、悪い影響でしかない。愛憎は人の身も心も滅ぼす。
ー私は、彼より優位に立ちたいわけでもなければ、支配したい訳でもない。
ただ...緩やかで幸せなひと時を、彼の隣で一緒に過ごせたらいいなと思うだけだ。彼の辛そうな顔は見たくない。心から笑った顔が一番好きなのは、私も同じだー
だから...
「炭治郎」
「?..ッえ、ちょっ」
ぎゅっと彼の体を包み込むように真正面から抱き締める。顔を真っ赤にしてあたふたする炭治郎を射止めるように見つめると、やがて少しずつ顔と顔の距離が縮まっていく。反射的に目を瞑った炭治郎の唇を掠めるように捕らえ、はむはむと啄むような口付けを交わす。
予想だにしなかった彼女の行動に炭治郎はされるがままとなり体を硬直させながらも、懸命に日向子から施される行為に応えようとする。
次第に、とろんと目尻は下がり顔や体の筋も比例し緩んでいく。気持ちよさそうな吐息を漏らす。
「っふ...ぁ..」
「.....っ」
永遠に続くかと思われた口吸いも、日向子が唇を離した事によりようやく終わりを告げた。しかし炭治郎の方は、まだし足りないとばかりに名残惜しそうな瞳を向けてくる。
「....ぅ...あの、日向子姉さん」
「ねぇ炭治郎。少し話がしたいの」
「?はい..」
「やっぱり...私達が恋仲にある事、皆に話そうか」
唐突なその提案に炭治郎はポカンと口をあけたまま固まっていた。そして数秒後、ようやく意味を理解すると彼はぐっと口を噤む。
「本当は周りにも色々と影響するかもって、全てが終わるまでは内密にしておこうと思ってたけど。貴方が不安な気持ちを抱えたり、辛い思いをするくらいなら。炭治郎もその方が安心するでしょう?」
日向子がそう提案すると、炭治郎はしばらく考え込んだ後こう語り始めた。
「うん。気使わせてごめんな...貴女が俺のだって堂々と言えたなら、多分こんなに辛くないと思う」
ーーーーー
〜358【制御不可】〜
ー炭治郎sideー
この内緒の関係を隠していようと提案したのは、元は炭治郎からだった。メリハリを付けたがる彼女は、元々色恋沙汰は全て終わってからというのを望んでいたし、特に禰豆子には後ろめたいような思いが少なからず残っているようだ。
彼女の事だから、どうせ禰豆子から俺を取り上げてしまったという申し訳なさや、周りを差し置いてというのを気にしているのだろう。
色々考え始めてしまった日向子さんを見て、俺は少し焦っていた。
恋仲になってくれという願いに対し、とにかく首を縦に振って欲しかったから、条件として【この関係を公にしない】という選択をしたのだ。
実際あの時は、皆には内緒の関係という背徳感に興奮を覚えたのも確かだったが...
ーそれがどうだろうか....ー
周りに彼女とお付き合いしている事を伏せるという事は、彼女に恋人はいない体になるという事で。それは即ち気のある輩は近づき放題だという事。
今まではお館様の計らいか、お互い合同任務や単独任務が多かった為忘れていたが、日向子さんは昔からよく男性に言い寄られていた。
それがここのところかなり顕著だったから、余裕が持てなかったのだ。
彼女に近づく虫を祓おうにも、俺が日向子さんの恋人である事を伏せている以上は、なかなか思うようにいかない。
それなのに、元来優しい日向子さんは辛そうな隊員を見れば手を差し伸べていたし、話しかけられれば笑顔で応対し愛想を振りまく。
彼女に下心も無ければ悪気もないということくらい、匂いでわかってはいたが。
ー【辛過ぎる...】ー
日向子さんに優しくされて鼻の下を伸ばしている男達を見ると虫唾が走り、柱稽古に参加している殆どの隊員が彼女に夢中になっているのかもしれないという妙な錯覚に陥った。
俺の彼女なのに...その笑顔も温もりも全部俺のものなのに....そんな身勝手な独占欲に支配され、自分の感情を上手くコントロール出来ない。
ここにいる人達は大半が俺よりも歳上の人達だ。もしかしたら子供じみた俺なんかよりも、本当は宇随さん達のように歳上の余裕があるような男性の方が、日向子さんも素が出せるのかな、とか。嫌な想像に掻き立てられる。
そんな心理状態だったから、彼女に構って欲しいあまり自分で苦手だと分かっている酒をやけになって煽り、結果的に酷い潰れ方をするという情け無い状況になって今に至る。
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