◆第拾弐章 暗雲を吹き払え
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜351【柱稽古のとある苦難】〜
ー翌日ー
「きゃあー日向子ちゃんいらっしゃいー!」
「ちょっと須磨!会って早々抱きつかないの!彼女困ってるでしょう?!」
ぎゃんぎゃん泣きながら日向子の腕に絡みつく須磨を制するまきを。お決まりのような展開に日向子はふふと笑いを溢した。
「よぅ!ようやく来たな日向子。待ってたぜ」
「宇随様、ご健在で何よりです。遅れをとってしまいましたが今日から宜しくお願いします」
「あぁ、ここに来たからには容赦はしねぇからな!覚悟しとけよ?」
「っはい!」
皆と対等な立場で鍛えてくれるということで、日向子は目を輝かせ勢いの良い返事を返した。そこに炭治郎が我先にと駆け出してくる。
「日向子姉さん!!」
「炭治郎!元気にしてた?」
当たり前のようによしよしと彼の頭を撫でる日向子と、ふにゃりとした笑顔を浮かべる炭治郎。当人達にとってはいたって自然な触れ合いだったが、周りから見た時、仲のいい姉弟という枠に収めるにしては些か度が過ぎるようにも思えた。大体がこの二人の世界に入り込む余地はなかったが、一部の隊員には待ちに待った日向子の登場に声をかけずにはいられない者もいた。
「あの、貴女が炭治郎のお姉さんの..」
「?はい。竈門日向子と申します。今日からお世話になります」
彼女がにこりと微笑むと、何人かは頬を染めて見惚れていた。その様子が当然面白くない炭治郎は、あからさまにむすりとして彼女の腕をぐいっと引っ張る。
「日向子姉さん!準備運動がてら少し俺と走ろう。宇随さんの稽古はひたすら持久力の底上げだから、体ならなさないとキツいから」
「ぁ、うん!」
有無を言わさず日向子を連れて行く炭治郎の背中を見て、宇随は密かに苦笑いを浮かべていた。
ーーーーー
そしてひたすら走り抜き訓練。全集中常中を会得している日向子は、他の男性隊員と比べても体力は抜きん出ている。炭治郎は虫除けさながらに彼女と並走していた。そんな時、前方を走る男性隊員が限界だと木の幹に手をついてぜぇぜぇ息を吐いているのを見た日向子は駆け寄って彼の背をさする。
「ッ!..日向子さん.っ」
「大丈夫?もうすぐだから一緒に頑張りましょう」
彼からしたら天使のように見えただろう。日向子の手を取り再び走り出した。その様子を見た炭治郎はギリっと唇を噛んだが、宇随にぽんと肩へ手を置かれる。
「公私混同するなよ。気持ちはわかるが日向子に他意は無いだろう。それと、お前はもっとペース上げて走れ。」
ーーーーー
〜352【大宴会】〜
「ッ....はい、すみません」
そう指摘を受けた炭治郎は素直に謝ると、日向子達を追い越していった。いくら恋人が他の男を気遣っていても、目を離したくなくても、これは柱稽古。遊び半分で参加するようなものではない。
少々目に余ると判断した宇随は、ややキツめの口調で炭治郎を叱咤した。
本当なら、炭治郎と日向子は同じ空間で稽古を受けるべきではないと思うが...
「お館様..アマネ様のご命令とあれば致し方ねぇしな」
この二人は、常に互いの呼吸を意識出来るような距離感で鍛錬させよと、柱の面々は仰せ使っている。
理由は、炭治郎が日の呼吸の使い手である可能性が色濃い事から、巫一族である日向子の側に控えさせ、更なる相乗効果を生み出すという目的があるからだ。
ー赫く爆ぜる日輪刀。七色に耀く日輪刀。巫一族の異能の覚醒...ー
少なくとも、鬼殺隊の勝利に大いに影響する異例の現象が二人によってもたらされている事は確かだった為、特に異議を唱えるものはいなかった。
ただこの姉弟には、想定していなかった後付けの複雑な事情がある。
それが【柱稽古に支障が出る程のもの】ならここで早々に対処してやらねばならないが....
ー仕方ねぇ..一肌脱いでやるかー
ーーーーー
その日の夜、へろへろにくたびれた隊員達に向けて、宇随から思い掛けない労いの催しが開催された。
「お前ら!今夜は無礼講だ!酒とつまみはたんと用意したから遠慮なく食えよー」
そこかしこから歓喜の声が上がる。音屋敷の大広間には酒瓶と嫁達によってせっせと作られたつまみの数々がテーブルに並べられていた。
炭治郎と日向子など未成年の隊員達も呼ばれ、驚きに目を見開いている。
「こんな豪華な宴会に、宜しいんでしょうか?」
「無礼講だって言ったろ?堅苦しいのは抜きだ。他の柱はもっと厳しい稽古を行う者もいるからな。今のうちにここで息抜きしていけ」
ドンと背中を叩かれそう言われれば、素直に首を縦に振るしかない。お言葉に甘えて二人は並んで腰を下ろそうとしたが、嫁達は日向子にはこっちのテーブルにおいでと手招きする。
「女の子一人じゃ心細いでしょう?日向子ちゃんはこちらにいらっしゃい」
「え...でも」
「いいんじゃねぇか?なぁ」
話を振られた炭治郎はやや思案する。
ー彼女の近くには居たいけど、ここより雛鶴さん達の側に居させた方が、日向子さん狙いの男避けにはうってつけか..ー
「そうですね、宜しくお願いします」
ーーーーー
〜353【子供じゃない】〜
そう思い至り炭治郎はぺこりと頭を下げた。
彼女達(元柱の嫁)の集いの中には、よっぽどの命知らずでない限り一般隊士は入り込めないだろうと踏んだ。そんな裏事情を知ってか知らずか、日向子は須磨に背中を押されるがままに離れていく。
「竈門!お前はこっち来いよー!」
「っわ、はい!」
先輩隊士達数人が、炭治郎の肩を組み反対のテーブルに引きずっていく。
席に着かされるや否や、飲め飲めとおちょこに日本酒が注がれていた。
この時代はまだ未成年だろうと祝いの席やめでたい席で酒を飲む事は主流であったが、炭治郎は鼻が効き過ぎる体質の為苦手意識があった。
父は病弱だったし、母も特別酒好きというわけでもなかったので竈門家では甘酒程度しか縁がなかったが、以前遊郭に潜入した際初めて口にした辛口の日本酒には、終始むせかえる程の衝撃があった事は記憶に新しい。
「いや..俺は酒あんまり」
やんわりと断りを告げると、彼等は無理に飲ませることもなく引いてくれたので有り難かった。それから、他愛のない話で宴会は盛り上がりをみせつつあったが、やはり恋人が座っているテーブルにはちらちらと目が行ってしまう。
宇随の嫁達と楽しく酒を飲み談笑している彼女の姿を見ると、微笑ましくもあったが、少しだけ寂しいような気持ちも覚えた。
ー日向子さんは、俺以外とでも楽しい時間を過ごしてる...。社交的で良いことだけどー
自分がいないところでも変わらず楽しそうに微笑んでる彼女に、少しだけやきもきしてしまう。この前もそうだ。彼女は誰にでも分け隔てなく接する優しい人だから、色んな人に手を差し伸べたりする。百歩譲って自分が居ないところでならある程度...けどあの時は俺が見てたのわかってた筈なのに他の男に話しかけに行くなんて...ちょっと酷かった。
「おーい竈門!飲んでるかー?」
隣のテーブルから別の隊士が酒瓶を持ってやって来た。かなりのペースで飲んでいたのだろう、既にかなり酔いが回っているのが見て取れた。
「あー、こいつ酒駄目なんだってさ」
「は?そうなのか?勿体ねぇなぁこんなに美味いのに、まぁ酒は大人の飲み物だからな!子供のお前には早いか!」
そう言われてカチンと来てしまった俺は、後から思えば本当に子供だったと思う。日向子さんやこの人達が飲める物を俺が飲めないのはなんだか癪だ。そう感じてしまった。
「お...俺だって飲めます!!」
不安定な心を洗い流すように炭治郎は勢いよく酒を煽った。
ーーーーー
〜354【強情】〜
ー日向子sideー
須磨さんに手を引かれながらやってきたテーブルには、まきをさんと雛鶴さんが既に着席していて歓迎してくれた。
「日向子ちゃんはお酒飲める?」
「あ、はい!大丈夫です」
「そうこなくっちゃね!まぁ色々積もる話もあるでしょし、天元様もああ言ってくれたから今夜くらい楽しみましょう!」
何故急遽このような宴会を催してくれたのか、ずっと疑問だった日向子は雛鶴に理由を問う。すると彼女はうーんと考えてこう口にした。
「隊士の息抜きにって天元様の図らいよ。ただ、私はなんか別の理由があるような気もするけどねー..。あぁ、それより炭治郎君と離しちゃってごめんなさいね。」
「日向子ちゃんみたいな可愛い子があんなところにいたら襲われちゃいますからね!男は狼ですから、怖いですよ~?」
「須磨、あんたもう酔ってるでしょ?」
それから彼女達とわちゃわちゃ楽しくお酒を飲んでいると、確かに日頃の疲れも吹っ飛んだし息抜きが出来たような気がする。程よくお酒も回って来て、純粋に楽しい宴会だった。
ー炭治郎も楽しんでるかな?..ー
そう思いちらりと向こうを見た時、ちょうど同じタイミングでがしゃんと皿が揺れる音がした。何やらざわざわ慌てた様子が見受けられ、何事かと目を凝らす。
すると、炭治郎が思い切りテーブルに突っ伏している姿が目に入った。右手にはあつかんをぎゅっと握りしめている。
彼はあまりお酒が得意ではないのに..まさか
「ちょ、ちょっとすみません!」
雛鶴達にそう声をかけた日向子はすぐさま炭治郎の元に駆け寄る。
「大丈夫?炭治郎..お酒飲んだの?」
彼の背中を上から下に優しく撫でながらそう問いかけると、炭治郎はゆっくりと顔を上げて日向子を見つめ返した。顔はアルコールで真っ赤になっているし、明らかに泥酔しているようなとろんとした眼差し。
「日向子しゃ...やっと来れくれた...」
「っ!」
ぎゅーっと力いっぱい日向子を抱きしめる炭治郎。突然の甘えたモードに日向子も周りの隊士も驚きに目をぱちくりさせていた。
さすがに周りの目がある為、彼女は懸命に炭治郎を引き剥がそうと試みるが全く解けない。それどころか、離すもんかと彼の力はどんどん強くなっているし、舌足らずな話し方でしきりに心の声を訴えてきた。
「おれ..貴女が気付いれくれるまで飲んでやろって、れも雛鶴しゃんたちとずっと楽しそうにはな、話してて。姉さん俺らん...俺なんて、気にもしてないんら!」
ーーーーー
ー翌日ー
「きゃあー日向子ちゃんいらっしゃいー!」
「ちょっと須磨!会って早々抱きつかないの!彼女困ってるでしょう?!」
ぎゃんぎゃん泣きながら日向子の腕に絡みつく須磨を制するまきを。お決まりのような展開に日向子はふふと笑いを溢した。
「よぅ!ようやく来たな日向子。待ってたぜ」
「宇随様、ご健在で何よりです。遅れをとってしまいましたが今日から宜しくお願いします」
「あぁ、ここに来たからには容赦はしねぇからな!覚悟しとけよ?」
「っはい!」
皆と対等な立場で鍛えてくれるということで、日向子は目を輝かせ勢いの良い返事を返した。そこに炭治郎が我先にと駆け出してくる。
「日向子姉さん!!」
「炭治郎!元気にしてた?」
当たり前のようによしよしと彼の頭を撫でる日向子と、ふにゃりとした笑顔を浮かべる炭治郎。当人達にとってはいたって自然な触れ合いだったが、周りから見た時、仲のいい姉弟という枠に収めるにしては些か度が過ぎるようにも思えた。大体がこの二人の世界に入り込む余地はなかったが、一部の隊員には待ちに待った日向子の登場に声をかけずにはいられない者もいた。
「あの、貴女が炭治郎のお姉さんの..」
「?はい。竈門日向子と申します。今日からお世話になります」
彼女がにこりと微笑むと、何人かは頬を染めて見惚れていた。その様子が当然面白くない炭治郎は、あからさまにむすりとして彼女の腕をぐいっと引っ張る。
「日向子姉さん!準備運動がてら少し俺と走ろう。宇随さんの稽古はひたすら持久力の底上げだから、体ならなさないとキツいから」
「ぁ、うん!」
有無を言わさず日向子を連れて行く炭治郎の背中を見て、宇随は密かに苦笑いを浮かべていた。
ーーーーー
そしてひたすら走り抜き訓練。全集中常中を会得している日向子は、他の男性隊員と比べても体力は抜きん出ている。炭治郎は虫除けさながらに彼女と並走していた。そんな時、前方を走る男性隊員が限界だと木の幹に手をついてぜぇぜぇ息を吐いているのを見た日向子は駆け寄って彼の背をさする。
「ッ!..日向子さん.っ」
「大丈夫?もうすぐだから一緒に頑張りましょう」
彼からしたら天使のように見えただろう。日向子の手を取り再び走り出した。その様子を見た炭治郎はギリっと唇を噛んだが、宇随にぽんと肩へ手を置かれる。
「公私混同するなよ。気持ちはわかるが日向子に他意は無いだろう。それと、お前はもっとペース上げて走れ。」
ーーーーー
〜352【大宴会】〜
「ッ....はい、すみません」
そう指摘を受けた炭治郎は素直に謝ると、日向子達を追い越していった。いくら恋人が他の男を気遣っていても、目を離したくなくても、これは柱稽古。遊び半分で参加するようなものではない。
少々目に余ると判断した宇随は、ややキツめの口調で炭治郎を叱咤した。
本当なら、炭治郎と日向子は同じ空間で稽古を受けるべきではないと思うが...
「お館様..アマネ様のご命令とあれば致し方ねぇしな」
この二人は、常に互いの呼吸を意識出来るような距離感で鍛錬させよと、柱の面々は仰せ使っている。
理由は、炭治郎が日の呼吸の使い手である可能性が色濃い事から、巫一族である日向子の側に控えさせ、更なる相乗効果を生み出すという目的があるからだ。
ー赫く爆ぜる日輪刀。七色に耀く日輪刀。巫一族の異能の覚醒...ー
少なくとも、鬼殺隊の勝利に大いに影響する異例の現象が二人によってもたらされている事は確かだった為、特に異議を唱えるものはいなかった。
ただこの姉弟には、想定していなかった後付けの複雑な事情がある。
それが【柱稽古に支障が出る程のもの】ならここで早々に対処してやらねばならないが....
ー仕方ねぇ..一肌脱いでやるかー
ーーーーー
その日の夜、へろへろにくたびれた隊員達に向けて、宇随から思い掛けない労いの催しが開催された。
「お前ら!今夜は無礼講だ!酒とつまみはたんと用意したから遠慮なく食えよー」
そこかしこから歓喜の声が上がる。音屋敷の大広間には酒瓶と嫁達によってせっせと作られたつまみの数々がテーブルに並べられていた。
炭治郎と日向子など未成年の隊員達も呼ばれ、驚きに目を見開いている。
「こんな豪華な宴会に、宜しいんでしょうか?」
「無礼講だって言ったろ?堅苦しいのは抜きだ。他の柱はもっと厳しい稽古を行う者もいるからな。今のうちにここで息抜きしていけ」
ドンと背中を叩かれそう言われれば、素直に首を縦に振るしかない。お言葉に甘えて二人は並んで腰を下ろそうとしたが、嫁達は日向子にはこっちのテーブルにおいでと手招きする。
「女の子一人じゃ心細いでしょう?日向子ちゃんはこちらにいらっしゃい」
「え...でも」
「いいんじゃねぇか?なぁ」
話を振られた炭治郎はやや思案する。
ー彼女の近くには居たいけど、ここより雛鶴さん達の側に居させた方が、日向子さん狙いの男避けにはうってつけか..ー
「そうですね、宜しくお願いします」
ーーーーー
〜353【子供じゃない】〜
そう思い至り炭治郎はぺこりと頭を下げた。
彼女達(元柱の嫁)の集いの中には、よっぽどの命知らずでない限り一般隊士は入り込めないだろうと踏んだ。そんな裏事情を知ってか知らずか、日向子は須磨に背中を押されるがままに離れていく。
「竈門!お前はこっち来いよー!」
「っわ、はい!」
先輩隊士達数人が、炭治郎の肩を組み反対のテーブルに引きずっていく。
席に着かされるや否や、飲め飲めとおちょこに日本酒が注がれていた。
この時代はまだ未成年だろうと祝いの席やめでたい席で酒を飲む事は主流であったが、炭治郎は鼻が効き過ぎる体質の為苦手意識があった。
父は病弱だったし、母も特別酒好きというわけでもなかったので竈門家では甘酒程度しか縁がなかったが、以前遊郭に潜入した際初めて口にした辛口の日本酒には、終始むせかえる程の衝撃があった事は記憶に新しい。
「いや..俺は酒あんまり」
やんわりと断りを告げると、彼等は無理に飲ませることもなく引いてくれたので有り難かった。それから、他愛のない話で宴会は盛り上がりをみせつつあったが、やはり恋人が座っているテーブルにはちらちらと目が行ってしまう。
宇随の嫁達と楽しく酒を飲み談笑している彼女の姿を見ると、微笑ましくもあったが、少しだけ寂しいような気持ちも覚えた。
ー日向子さんは、俺以外とでも楽しい時間を過ごしてる...。社交的で良いことだけどー
自分がいないところでも変わらず楽しそうに微笑んでる彼女に、少しだけやきもきしてしまう。この前もそうだ。彼女は誰にでも分け隔てなく接する優しい人だから、色んな人に手を差し伸べたりする。百歩譲って自分が居ないところでならある程度...けどあの時は俺が見てたのわかってた筈なのに他の男に話しかけに行くなんて...ちょっと酷かった。
「おーい竈門!飲んでるかー?」
隣のテーブルから別の隊士が酒瓶を持ってやって来た。かなりのペースで飲んでいたのだろう、既にかなり酔いが回っているのが見て取れた。
「あー、こいつ酒駄目なんだってさ」
「は?そうなのか?勿体ねぇなぁこんなに美味いのに、まぁ酒は大人の飲み物だからな!子供のお前には早いか!」
そう言われてカチンと来てしまった俺は、後から思えば本当に子供だったと思う。日向子さんやこの人達が飲める物を俺が飲めないのはなんだか癪だ。そう感じてしまった。
「お...俺だって飲めます!!」
不安定な心を洗い流すように炭治郎は勢いよく酒を煽った。
ーーーーー
〜354【強情】〜
ー日向子sideー
須磨さんに手を引かれながらやってきたテーブルには、まきをさんと雛鶴さんが既に着席していて歓迎してくれた。
「日向子ちゃんはお酒飲める?」
「あ、はい!大丈夫です」
「そうこなくっちゃね!まぁ色々積もる話もあるでしょし、天元様もああ言ってくれたから今夜くらい楽しみましょう!」
何故急遽このような宴会を催してくれたのか、ずっと疑問だった日向子は雛鶴に理由を問う。すると彼女はうーんと考えてこう口にした。
「隊士の息抜きにって天元様の図らいよ。ただ、私はなんか別の理由があるような気もするけどねー..。あぁ、それより炭治郎君と離しちゃってごめんなさいね。」
「日向子ちゃんみたいな可愛い子があんなところにいたら襲われちゃいますからね!男は狼ですから、怖いですよ~?」
「須磨、あんたもう酔ってるでしょ?」
それから彼女達とわちゃわちゃ楽しくお酒を飲んでいると、確かに日頃の疲れも吹っ飛んだし息抜きが出来たような気がする。程よくお酒も回って来て、純粋に楽しい宴会だった。
ー炭治郎も楽しんでるかな?..ー
そう思いちらりと向こうを見た時、ちょうど同じタイミングでがしゃんと皿が揺れる音がした。何やらざわざわ慌てた様子が見受けられ、何事かと目を凝らす。
すると、炭治郎が思い切りテーブルに突っ伏している姿が目に入った。右手にはあつかんをぎゅっと握りしめている。
彼はあまりお酒が得意ではないのに..まさか
「ちょ、ちょっとすみません!」
雛鶴達にそう声をかけた日向子はすぐさま炭治郎の元に駆け寄る。
「大丈夫?炭治郎..お酒飲んだの?」
彼の背中を上から下に優しく撫でながらそう問いかけると、炭治郎はゆっくりと顔を上げて日向子を見つめ返した。顔はアルコールで真っ赤になっているし、明らかに泥酔しているようなとろんとした眼差し。
「日向子しゃ...やっと来れくれた...」
「っ!」
ぎゅーっと力いっぱい日向子を抱きしめる炭治郎。突然の甘えたモードに日向子も周りの隊士も驚きに目をぱちくりさせていた。
さすがに周りの目がある為、彼女は懸命に炭治郎を引き剥がそうと試みるが全く解けない。それどころか、離すもんかと彼の力はどんどん強くなっているし、舌足らずな話し方でしきりに心の声を訴えてきた。
「おれ..貴女が気付いれくれるまで飲んでやろって、れも雛鶴しゃんたちとずっと楽しそうにはな、話してて。姉さん俺らん...俺なんて、気にもしてないんら!」
ーーーーー