◆第拾弐章 暗雲を吹き払え
貴女のお名前を教えてください
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〜334【確信】〜
ー日向子sideー
数日が経過した朝、日向子は両脚でダンっと床を叩いた。
「よしっ!」
骨折した痛みは全くなく、体の動きも本調子だ。
これでようやく自分も柱稽古への参加許可がいただける。早く、早く皆に追いつかないとと急く気持ちを抑えつつ、日向子が身支度を整え足早に部屋を出た時だった。
「っ!」
日向子の出現を待ち受けていたかのように、バサっと鎹烏が肩に降り立つ。
見ると彼女の足には上品な和紙が括り付けられていた。
「...何かしら。誰から?」
丁寧に丸まっていた文を開き内容に目を通していくと、驚愕に目を見開いた。
そこには、柱稽古に参加する前に産屋敷邸に参じるように記されていた。差出人はもちろん、お館様の御名だ。
ーお館様直々に、一体自分に何をお話されるおつもりだろうか?ー
内容までは全く想像がつかないけれど、きっと何か重要なお考えがあっての事に違いなかった。
日向子はひとまず指示の通り、産屋敷邸に向かう事にする。
久々に訪れた産屋敷邸の庭。その中程まで足を踏み入れると、現れたのはお館様ではなく、奥方のアマネ様であった。
どういうわけかと混乱しながらも、#名前#はその場で跪き頭を下げる。アマネ様は目の前まで歩み寄ると、単刀直入にこう話し始めた。
「産屋敷耀哉の病状悪化により、代わりに私から貴女へお話をさせていただきます。竈門日向子様。柱稽古の前に貴女をここへ呼んだのは、今一度責務を改めていただき、ご協力願いたいからでございます。
現在、鬼の出現は小康状態にありますが、お館様によると鬼舞辻無惨の動きはいつ活発化するかもわからないとのことです。
要するに我々には時間がありません。故に、貴女の巫の能力には多大なる期待がかかっているのです。」
日向子はごくりと生唾を飲み込む。アマネ様は概ね二点程告げられた。
一つ目は、痣の出現及び巫の異能を常時使用できるようにする事を目指し、柱を始めとする鬼殺隊全体の戦闘力の底上げを図る事。
そして二つ目は、炭治郎の使用するヒノカミ神楽との共闘訓練を行うというものであった。
「日向子様。一つ、ご確認なのですが、炭治郎様が日の呼吸の使用者であるという確信をお持ちですか?貴女の、率直な考えを述べてください」
そう問いかけられた日向子は、しばらく考えた後、真っ直ぐにアマネを見据え、はっきりと答えた。
「はい。彼は間違いなく日の呼吸の使い手です」
ーーーーー
〜345【巫一族の舞】〜
日向子の躊躇いのないその言葉を聞いたアマネ様は、一族の悲願が達成出来たと言うように、僅かに口元を緩ませた。
「そうですか。日向子様がそう言うのなら、きっとそうなのでしょう。お答えいただきありがとうございます。炭治郎様もそうですが、一隊士の貴女にこのような酷な事をお願いせざるを得ない状況となってしまい、申し訳ございません」
「あ、いえそんな!」
慌ててばっと頭を下げる。アマネ様の微笑んだお姿はあまり見た事がなかったので、不覚にもどきりとしてしまった。お美しかった。お館様同様、妙に人を惹きつけるそんな魅力が彼女にはあった。
彼女は神職の出であると聞いた事がある....
話がこのまま終わってしまいそうだったので、日向子は烏滸 がましいのを承知で、とある自分の中の現象を打ち明ける事にした。
「アマネ様。少しお話したい事があります。宜しいでしょうか?」
「はい。構いません」
発言の許可をいただけた事に安堵すると、日向子は最近よく見る【夢】について語り始めた。
不可思議であり不確かなこの現象について、柱や師範はもとより、身近にいる炭治郎にすらまだ打ち明けてはいない内容だった。
しかし時間がないという今、もしもこれから先の最終決戦に向けて、何か飛躍的な進歩となる重大な意味を持つのだとしたら、公表しないわけにはいかないかもしれないと思ったのだ。
「上弦の肆と戦った後から、ある夢をよく見るんです。」
「どんな内容ですか?」
「巫一族だった私の先祖が、祭壇の前で舞を踊っていて、私はただただそれを側で見ています。向こうはこちらの存在に気付いてるようで、時折視線を向けるのです。でも体の動きは止めないし、話しかけられる事もない。私から干渉する事も出来ない。そんな夢をここ最近毎日のように見ていて..」
その光景は、何故か幼い頃に見ていた父のヒノカミ神楽と重なった。
父もまた、年の始めにひたすら竈門家代々に伝わる無病息災の舞を踊っていたから。
舞の手順や動きは全く違うけど..
「なるほど。それは、一種のお告げのような意味合いを持つ可能性もあります。日向子様の先祖は、今の貴女に何かを伝えたがっている。私も神職の家系でしたから、そういう類はよく目にしていました。
その巫一族の舞が、ひょんなところから救いの光明となるかもしれませんね。」
ー炭治郎様の【ヒノカミ神楽】と同じようにー
ーーーーー
〜346【神に仕えし巫女】〜
ーヒノカミ神楽...ー
日向子もかつてよく目にしていた。
強く記憶に刻まれているのは、ぐるりと円を描く様に揺らめく松明の炎と、その中心でひたすら舞を繰り返す竈門家男子達の姿だった。
父が亡くなってからは、竈門家の大黒柱となり、舞の手順を教えられていた長男の炭治郎がこの仕事を受け継いだ。
父亡き後、訪れた初めての年明け。
炭治郎は装束衣装を身にまとい神楽鈴を持ってあの場所に立っていた。
彼が数回深呼吸すると、辺りの空気は一気に静謐 な物に変わったのが肌でわかった。
日向子はごくりと息を飲む。
「今日初めて一人で踊るんだね。炭治郎、頑張って?」
堪らずそう声を掛けると、彼は炎と書かれた面布を片手で僅かに持ち上げた。
「!..」
その眼差しに不覚にもどきりとした。
奥にある優しげに弧を描いた赫い目が、日向子を見つめ返す。
「ありがとう日向子姉さん」
そこから彼は、十二あるヒノカミ神楽の舞をひたすら繰り返す。
時折シャン、シャンと響く神楽鈴の音が、神聖な儀式である事を示していた。
身体を軸に手足の末端まで洗練されたその一つ一つの動作に、息をするのも忘れてただ見惚れた。
母に呼ばれても、日向子はしばらくその場を動かずに彼を見つめていた。
いつまででも見つめていたい、見届けたい。
懐かしい遠い記憶を思い起こさせるその光景に、気付けば日向子は涙していた。
「あれ..何で...私」
「...日向子」
自分が何故泣いているのかわからず、ごしごしと袖で目元を拭う。母はそんな日向子を優しく抱き締めてくれた。
炭治郎は父に、ヒノカミ様になりきるのだと教えられていたらしい。
そうする事で、雪がしんしんと積もりゆく真冬の冷気などものともせずに、身体を動かし続ける事が出来ると言う。
確かに....
目の前で鮮やかに舞う人物は、炭治郎ではなかった。それは紛う事なき【ヒノカミ様の御姿】だった。
日向子は惹かれるように松明すれすれまで彼の側に近づいていくと、その場で両膝をついた。
雪が溶けてじんわりと着物に染みていくのを気にも止めず、深々と頭を下げる。
本能的にそうせずにはいられなかった。
ー【それは、巫女が神に仕える姿そのもの】ー
今思えば、あの時から私は薄々感じていた。
耳飾りを継承した炭治郎は、同時に神の器を受け継いだのだ。ヒノカミ様はきっと、私達を明るい未来へと導いてくださる。
ー彼の事も...きっと見守ってくださるー
ーーーーー
ー日向子sideー
数日が経過した朝、日向子は両脚でダンっと床を叩いた。
「よしっ!」
骨折した痛みは全くなく、体の動きも本調子だ。
これでようやく自分も柱稽古への参加許可がいただける。早く、早く皆に追いつかないとと急く気持ちを抑えつつ、日向子が身支度を整え足早に部屋を出た時だった。
「っ!」
日向子の出現を待ち受けていたかのように、バサっと鎹烏が肩に降り立つ。
見ると彼女の足には上品な和紙が括り付けられていた。
「...何かしら。誰から?」
丁寧に丸まっていた文を開き内容に目を通していくと、驚愕に目を見開いた。
そこには、柱稽古に参加する前に産屋敷邸に参じるように記されていた。差出人はもちろん、お館様の御名だ。
ーお館様直々に、一体自分に何をお話されるおつもりだろうか?ー
内容までは全く想像がつかないけれど、きっと何か重要なお考えがあっての事に違いなかった。
日向子はひとまず指示の通り、産屋敷邸に向かう事にする。
久々に訪れた産屋敷邸の庭。その中程まで足を踏み入れると、現れたのはお館様ではなく、奥方のアマネ様であった。
どういうわけかと混乱しながらも、#名前#はその場で跪き頭を下げる。アマネ様は目の前まで歩み寄ると、単刀直入にこう話し始めた。
「産屋敷耀哉の病状悪化により、代わりに私から貴女へお話をさせていただきます。竈門日向子様。柱稽古の前に貴女をここへ呼んだのは、今一度責務を改めていただき、ご協力願いたいからでございます。
現在、鬼の出現は小康状態にありますが、お館様によると鬼舞辻無惨の動きはいつ活発化するかもわからないとのことです。
要するに我々には時間がありません。故に、貴女の巫の能力には多大なる期待がかかっているのです。」
日向子はごくりと生唾を飲み込む。アマネ様は概ね二点程告げられた。
一つ目は、痣の出現及び巫の異能を常時使用できるようにする事を目指し、柱を始めとする鬼殺隊全体の戦闘力の底上げを図る事。
そして二つ目は、炭治郎の使用するヒノカミ神楽との共闘訓練を行うというものであった。
「日向子様。一つ、ご確認なのですが、炭治郎様が日の呼吸の使用者であるという確信をお持ちですか?貴女の、率直な考えを述べてください」
そう問いかけられた日向子は、しばらく考えた後、真っ直ぐにアマネを見据え、はっきりと答えた。
「はい。彼は間違いなく日の呼吸の使い手です」
ーーーーー
〜345【巫一族の舞】〜
日向子の躊躇いのないその言葉を聞いたアマネ様は、一族の悲願が達成出来たと言うように、僅かに口元を緩ませた。
「そうですか。日向子様がそう言うのなら、きっとそうなのでしょう。お答えいただきありがとうございます。炭治郎様もそうですが、一隊士の貴女にこのような酷な事をお願いせざるを得ない状況となってしまい、申し訳ございません」
「あ、いえそんな!」
慌ててばっと頭を下げる。アマネ様の微笑んだお姿はあまり見た事がなかったので、不覚にもどきりとしてしまった。お美しかった。お館様同様、妙に人を惹きつけるそんな魅力が彼女にはあった。
彼女は神職の出であると聞いた事がある....
話がこのまま終わってしまいそうだったので、日向子は
「アマネ様。少しお話したい事があります。宜しいでしょうか?」
「はい。構いません」
発言の許可をいただけた事に安堵すると、日向子は最近よく見る【夢】について語り始めた。
不可思議であり不確かなこの現象について、柱や師範はもとより、身近にいる炭治郎にすらまだ打ち明けてはいない内容だった。
しかし時間がないという今、もしもこれから先の最終決戦に向けて、何か飛躍的な進歩となる重大な意味を持つのだとしたら、公表しないわけにはいかないかもしれないと思ったのだ。
「上弦の肆と戦った後から、ある夢をよく見るんです。」
「どんな内容ですか?」
「巫一族だった私の先祖が、祭壇の前で舞を踊っていて、私はただただそれを側で見ています。向こうはこちらの存在に気付いてるようで、時折視線を向けるのです。でも体の動きは止めないし、話しかけられる事もない。私から干渉する事も出来ない。そんな夢をここ最近毎日のように見ていて..」
その光景は、何故か幼い頃に見ていた父のヒノカミ神楽と重なった。
父もまた、年の始めにひたすら竈門家代々に伝わる無病息災の舞を踊っていたから。
舞の手順や動きは全く違うけど..
「なるほど。それは、一種のお告げのような意味合いを持つ可能性もあります。日向子様の先祖は、今の貴女に何かを伝えたがっている。私も神職の家系でしたから、そういう類はよく目にしていました。
その巫一族の舞が、ひょんなところから救いの光明となるかもしれませんね。」
ー炭治郎様の【ヒノカミ神楽】と同じようにー
ーーーーー
〜346【神に仕えし巫女】〜
ーヒノカミ神楽...ー
日向子もかつてよく目にしていた。
強く記憶に刻まれているのは、ぐるりと円を描く様に揺らめく松明の炎と、その中心でひたすら舞を繰り返す竈門家男子達の姿だった。
父が亡くなってからは、竈門家の大黒柱となり、舞の手順を教えられていた長男の炭治郎がこの仕事を受け継いだ。
父亡き後、訪れた初めての年明け。
炭治郎は装束衣装を身にまとい神楽鈴を持ってあの場所に立っていた。
彼が数回深呼吸すると、辺りの空気は一気に
日向子はごくりと息を飲む。
「今日初めて一人で踊るんだね。炭治郎、頑張って?」
堪らずそう声を掛けると、彼は炎と書かれた面布を片手で僅かに持ち上げた。
「!..」
その眼差しに不覚にもどきりとした。
奥にある優しげに弧を描いた赫い目が、日向子を見つめ返す。
「ありがとう日向子姉さん」
そこから彼は、十二あるヒノカミ神楽の舞をひたすら繰り返す。
時折シャン、シャンと響く神楽鈴の音が、神聖な儀式である事を示していた。
身体を軸に手足の末端まで洗練されたその一つ一つの動作に、息をするのも忘れてただ見惚れた。
母に呼ばれても、日向子はしばらくその場を動かずに彼を見つめていた。
いつまででも見つめていたい、見届けたい。
懐かしい遠い記憶を思い起こさせるその光景に、気付けば日向子は涙していた。
「あれ..何で...私」
「...日向子」
自分が何故泣いているのかわからず、ごしごしと袖で目元を拭う。母はそんな日向子を優しく抱き締めてくれた。
炭治郎は父に、ヒノカミ様になりきるのだと教えられていたらしい。
そうする事で、雪がしんしんと積もりゆく真冬の冷気などものともせずに、身体を動かし続ける事が出来ると言う。
確かに....
目の前で鮮やかに舞う人物は、炭治郎ではなかった。それは紛う事なき【ヒノカミ様の御姿】だった。
日向子は惹かれるように松明すれすれまで彼の側に近づいていくと、その場で両膝をついた。
雪が溶けてじんわりと着物に染みていくのを気にも止めず、深々と頭を下げる。
本能的にそうせずにはいられなかった。
ー【それは、巫女が神に仕える姿そのもの】ー
今思えば、あの時から私は薄々感じていた。
耳飾りを継承した炭治郎は、同時に神の器を受け継いだのだ。ヒノカミ様はきっと、私達を明るい未来へと導いてくださる。
ー彼の事も...きっと見守ってくださるー
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