◆第拾弐章 暗雲を吹き払え
貴女のお名前を教えてください
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〜340【年若き故】〜
ー翌朝ー
ふと意識が目覚め、まだ眠い瞼を擦り上げる。
目の前で静かにまだ眠っている彼女を見た時、思わず頬が緩んだ。
そうだ...昨日はあのまま日向子さんと一緒に寝たんだ。
(それにしても本当に..気持ちよさそうに寝てるな)
そっと相手の頬を指でなぞった。
いつ見ても、彼女の寝顔は無垢で愛らしい。
とても無防備で、少しいたずらしてしまいたくなる衝動に駆られたけれど、ここは我慢だ。
こんなに気持ちよさそうなのに、起こすのはしのびない。
前にも一度、不可抗力ながら一晩を同じ布団の中で二人きり、共に過ごした事がある。
何時間も一緒に、しかも同じ布団で過ごすと、翌朝には彼女の匂いでいっぱいになれる。
俺の匂いは彼女に染みつき、彼女の匂いは俺に染みつく、一身一体となれたような感じがする。
ーそれがたまらなく幸せなんだ...ー
「ん...」
「っ!」
匂いをいっぱい吸い込むために、つい衝動的に彼女の胸元に顔を押し付けていたら、日向子さんが身じろいだ。薄ら開いた瞳が炭治郎の視線とかち合うと、彼女はふにゃりと笑う。
「おはよう炭治郎」
「っあ、おはよう!..」
朝っぱらからせわしなく鳴り響く心の臓。無理もないと思う。
朝方特有の、少々掠れた声色がなんとも色っぽく、加えてぼんやりとした眼差し。笑みはあどけなさが残っている。その妖艶さにあてられ、熱が集まる。
「ごめん!起こすつもりじゃ無かったんだが...」
「ううん、いいのよ。もう準備していくの?」
「あぁ、遅れた分態度で示さないと。気を引き締めなきゃ宇随さんにどやされるよ」
彼女の乱れた衣服や髪の毛からなるべく意識を逸らしつつ、あははと戯けて見せた。
そうでもしなければ、また妙な気を起こしてしまいそうだったから。
「そっか..偉いね。私もあと数日したら柱稽古に参加出来るから。そしたら頑張って追いつくからね」
ーお互い頑張ろうー
日向子が炭治郎を激励するように片腕を上げると、もう片方の肩から浴衣が下がり、完全に肩胸が露出した。ごく自然な流れで、彼の視線は(名前)の胸元に吸い寄せられる。
「っわ//す、すまないっ!」
「わ、私の方こそごめんっ//」
ぶわっと顔を赤く染め、光の速さで顔を下げた炭治郎と、慌てて浴衣を引き上げた日向子。思い返せば、昨日はお互い無我夢中だっただけで、やはり破廉恥な行為であった事に変わりはない。
初心な上に年若い子供達には、些か早すぎた経験だったのだ。
ーーーーー
〜341【伝え続けるから】〜
この事がきっかけで昨夜の出来事がいかに突飛したものであったか思い知らされる。
先日恋人となったばかりの未熟な、婚姻の契りすら交わしていない未成年の自分達が..
最後まで致していないとは言え、とても人前で大っぴらに出来ぬような逢瀬の時間を共にした。
例えお互いが望んでした事だとしても、理性的に考えるならば、決して正しい形とは言い難かった。
「ぁッ....その...すみませんでした昨日は!!」
炭治郎はたまらずその場で跪き、両の手を揃えて勢いよく頭を床につける。
彼女欲しさに、手段を選ばない程に必死だった昨日までの自分を呪いたい。
ーどれだけ余裕が無かったんだ俺は...情けないー
日向子さんがその気なのを良い事に、まんまと丸め込んで甘い誘い文句で手を引いて、男として失格だ。
例え女性側が受け入れていたとしても、
【あそこまで】してしまうのはさすがにいけなかった。
そう思うのに、結局どう足掻いても欲望には抗えない。
人と言うのは本当に欲張りな生き物で、一つ手に入れば十が欲しくなり、それ以上を欲するようにもなる。
目の前にご馳走が置かれれば、空腹を思い出し手掴みでもがっついてしまう。理性より欲求が優勢な時がどうしても
とかく日向子さんの事になると、それが顕著で....
「...顔を上げてよ炭治郎」
「っ...」
そう言われ恐る恐る顔を上げると、彼女は穏やかな笑みを讃えて炭治郎を見つめていた。
僅かにカーテンから差し込む柔らかい朝日も相まって、あまりにも幻想的なその姿にどきりと胸が高鳴る。
きっと..この世に女神という概念が存在するなら、こんな姿をしているに違いないと、ぼんやり思った。
「私も...私も貴方が欲しかったの。だから気にしなくていいよ昨日の事は。確かに結婚の約束もしてない男女としては、しちゃいけない事だったかもしれないけど。貴方は私の我儘も聞いてくれて、ちゃんと配慮してくれたし。凄く幸せだったよ」
ーそれって、それだけ愛してくれてるんだって、思っても良いんだよねー
そう照れ臭そうに微笑んだ彼女がとても可愛らしくて、勢いのまま力一杯抱き締めた。
「勿論です..愛してます。たくさんたくさん愛してます。きっとこの想いを一挙に伝える術は、無いです。
だから...これからもずっと目一杯貴女を愛させてくださいね」
何度だって、それはもう考えつく範囲の全てをもって、貴女に愛を伝え続けるから。
ーーーーー
〜242【吐露】〜
名残惜しくも彼女と別れた炭治郎は、屋敷の廊下をてくてくと歩いていた。
秋も段々と深くなり、朝は空気がひやりとしていて足先が冷たい。
睡眠時間は数時間程度だったけど、日向子姉さんの側で抱かれて眠っていたら、どうやらかなり熟睡していたらしく思ったより頭はすっきりしていた。
「あ..」
通りがけに台所を覗くと、既にアオイさんが朝食作りに取り掛かっていた。背を向けてトントンと規則正しいリズムで包丁を叩いている。
「おはようございます。アオイさん」
「おはようございます炭治郎さん。今日から柱稽古に参加されるんですね。朝食は貴方の分は先に取り分けて置きましたので、どうぞ召し上がってください。白米は今よそいますから」
彼女は割烹着の端で手を拭うと、台の上に置いてあるお盆を指さした後、釜の方へと移動した。
「ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げた後、しばらくアオイの方を見つめる。彼女は何を聞いてくるでもなく、黙々と作業していた。
ー昨日俺が日向子さんの部屋に行ってたのは..バレてなさそうだなー
少しだけ、それが気にはなっていた。
一晩中俺が不在だったのが誰かにバレていたら、まず間違いなく居場所を探されていたろうから。
言うなれば夜這いのようなものだ。今更ながら気恥ずかしくなってくる。
だが、アオイの反応を見るとそれは杞憂と判断してよいだろうと思う。最も、知らぬフリをされていたらわからないけれど..
とにかく、何も踏み込んで来ないのは助かる。
「あの、部屋で食べてきてもいいですか?行儀が悪くてすみません。でも禰豆子と一緒にいられるの、今日までなので。柱稽古に参加したらしばらくは会えないと思うから」
ダメ元でお願いしたら案外あっさり了承してくれた。
炭治郎は再度礼を述べると、湯気のたつお盆を持って足早に禰豆子の待つ部屋へと向かう。
中へ入ると禰豆子はまだベッドで夢の中だった。太陽を克服してから、朝日が差す場所にもいれるようになった。
だから、最近の禰豆子のお気に入りは専ら陽溜まりの中だ。すやすやと眠る妹を見ていると、心が安らぐ。
「ただいま禰豆子。昨夜は一人にしてごめんな。」
未だ彼女が目を覚さないのをいいことに、炭治郎は朝食を頬張り、ポツリポツリと話し始めた。
「聴こえてなくても構わない。理解出来なくてもいいから、お前に聞いて欲しい事があるんだ禰豆子。兄ちゃんな、日向子姉さんの事が好きなんだ」
ーーーーー
〜343【強くなる理由】〜
さらりと炭治郎が述べた【好き】という単語。
しかし禰豆子はまだ眠り込んでいる。
炭治郎が発した言葉に、どういう色合いが乗せられているかなんてきっと今の彼女にはわからないだろう。
意味があるかないかと言われたら、ないのかもしれない。寝ているところを見計らい伝えるなんて、相当俺は臆病だ。
そもそも、人間に戻ってから伝えたいと思っていたのに、日向子さんとの時間を経て、俺の気が変わってしまった。
その理由は...
「兄ちゃんの好きって言うのはな、皆と同じ家族愛じゃなくて。一人の女の子として好きって意味だ。これからも側で、日向子姉さんを守りたくて支えていきたい。それでな、禰豆子」
炭治郎は箸を置き、すっと背筋を正すと禰豆子の方へ向き直る。
「俺は...姉さんの誕生日に結婚を申し込もうと思うんだ」
それは、婚約の契りを交わしたいという意思に他ならなかった。
昨夜、彼女に結婚の約束さえしていないうちにこんな事をするのは、本来はいけない事だときっぱり言われた。
それでも俺をあそこまで受け入れてくれたのは、ただ日向子さん個人が許してくれただけで、道理は通らない。
男で16歳の俺はまだ結婚は出来ない。
そもそも鬼狩りなんてしている今の状況で、祝言などあげられはしない。
それは分かっているから、【ある条件付き】の約束を考えている。
「..黙っててごめんな。でも、きっとこの先も彼女以外の女性を愛する事はないと思う。この前ようやく気持ちが通じ合って、恋人になれたよ。勿論俺はまだ刀を握り続けるし、お前を人間に戻す目的も変わらない。だからどうか..許してくれ。禰豆子」
むくり..
「ッ‼」
どきりとした。
禰豆子はパチリと目を開いて体を起こすと、兄の顔をじっと見つめる。
寝惚けてる風も無く、実は結構前から起きていたのかもしれない。となると、少なくとも炭治郎の声は彼女に届いていた。
「...禰豆子。起きてたのか?ひょっとして。俺の言葉聞こえてた?」
そう問いかけると、彼女はにこりと微笑んだ。
「おに、ちゃ..」
撫で撫でと炭治郎の頭をしきりに撫でる禰豆子。その表情、動作を見て、何となく...いいよと言ってくれてるような気がした。
「...ありがとう、禰豆子。兄ちゃん頑張るからな」
日向子さんに返事はすぐに求めるつもりはない。貰うときは、全てが終わった時だ。
約束を守る為には
ー俺は生きなければ..そして彼女の事も、生かす為に俺は強くなるんだー
ーーーーー
ー翌朝ー
ふと意識が目覚め、まだ眠い瞼を擦り上げる。
目の前で静かにまだ眠っている彼女を見た時、思わず頬が緩んだ。
そうだ...昨日はあのまま日向子さんと一緒に寝たんだ。
(それにしても本当に..気持ちよさそうに寝てるな)
そっと相手の頬を指でなぞった。
いつ見ても、彼女の寝顔は無垢で愛らしい。
とても無防備で、少しいたずらしてしまいたくなる衝動に駆られたけれど、ここは我慢だ。
こんなに気持ちよさそうなのに、起こすのはしのびない。
前にも一度、不可抗力ながら一晩を同じ布団の中で二人きり、共に過ごした事がある。
何時間も一緒に、しかも同じ布団で過ごすと、翌朝には彼女の匂いでいっぱいになれる。
俺の匂いは彼女に染みつき、彼女の匂いは俺に染みつく、一身一体となれたような感じがする。
ーそれがたまらなく幸せなんだ...ー
「ん...」
「っ!」
匂いをいっぱい吸い込むために、つい衝動的に彼女の胸元に顔を押し付けていたら、日向子さんが身じろいだ。薄ら開いた瞳が炭治郎の視線とかち合うと、彼女はふにゃりと笑う。
「おはよう炭治郎」
「っあ、おはよう!..」
朝っぱらからせわしなく鳴り響く心の臓。無理もないと思う。
朝方特有の、少々掠れた声色がなんとも色っぽく、加えてぼんやりとした眼差し。笑みはあどけなさが残っている。その妖艶さにあてられ、熱が集まる。
「ごめん!起こすつもりじゃ無かったんだが...」
「ううん、いいのよ。もう準備していくの?」
「あぁ、遅れた分態度で示さないと。気を引き締めなきゃ宇随さんにどやされるよ」
彼女の乱れた衣服や髪の毛からなるべく意識を逸らしつつ、あははと戯けて見せた。
そうでもしなければ、また妙な気を起こしてしまいそうだったから。
「そっか..偉いね。私もあと数日したら柱稽古に参加出来るから。そしたら頑張って追いつくからね」
ーお互い頑張ろうー
日向子が炭治郎を激励するように片腕を上げると、もう片方の肩から浴衣が下がり、完全に肩胸が露出した。ごく自然な流れで、彼の視線は(名前)の胸元に吸い寄せられる。
「っわ//す、すまないっ!」
「わ、私の方こそごめんっ//」
ぶわっと顔を赤く染め、光の速さで顔を下げた炭治郎と、慌てて浴衣を引き上げた日向子。思い返せば、昨日はお互い無我夢中だっただけで、やはり破廉恥な行為であった事に変わりはない。
初心な上に年若い子供達には、些か早すぎた経験だったのだ。
ーーーーー
〜341【伝え続けるから】〜
この事がきっかけで昨夜の出来事がいかに突飛したものであったか思い知らされる。
先日恋人となったばかりの未熟な、婚姻の契りすら交わしていない未成年の自分達が..
最後まで致していないとは言え、とても人前で大っぴらに出来ぬような逢瀬の時間を共にした。
例えお互いが望んでした事だとしても、理性的に考えるならば、決して正しい形とは言い難かった。
「ぁッ....その...すみませんでした昨日は!!」
炭治郎はたまらずその場で跪き、両の手を揃えて勢いよく頭を床につける。
彼女欲しさに、手段を選ばない程に必死だった昨日までの自分を呪いたい。
ーどれだけ余裕が無かったんだ俺は...情けないー
日向子さんがその気なのを良い事に、まんまと丸め込んで甘い誘い文句で手を引いて、男として失格だ。
例え女性側が受け入れていたとしても、
【あそこまで】してしまうのはさすがにいけなかった。
そう思うのに、結局どう足掻いても欲望には抗えない。
人と言うのは本当に欲張りな生き物で、一つ手に入れば十が欲しくなり、それ以上を欲するようにもなる。
目の前にご馳走が置かれれば、空腹を思い出し手掴みでもがっついてしまう。理性より欲求が優勢な時がどうしても
とかく日向子さんの事になると、それが顕著で....
「...顔を上げてよ炭治郎」
「っ...」
そう言われ恐る恐る顔を上げると、彼女は穏やかな笑みを讃えて炭治郎を見つめていた。
僅かにカーテンから差し込む柔らかい朝日も相まって、あまりにも幻想的なその姿にどきりと胸が高鳴る。
きっと..この世に女神という概念が存在するなら、こんな姿をしているに違いないと、ぼんやり思った。
「私も...私も貴方が欲しかったの。だから気にしなくていいよ昨日の事は。確かに結婚の約束もしてない男女としては、しちゃいけない事だったかもしれないけど。貴方は私の我儘も聞いてくれて、ちゃんと配慮してくれたし。凄く幸せだったよ」
ーそれって、それだけ愛してくれてるんだって、思っても良いんだよねー
そう照れ臭そうに微笑んだ彼女がとても可愛らしくて、勢いのまま力一杯抱き締めた。
「勿論です..愛してます。たくさんたくさん愛してます。きっとこの想いを一挙に伝える術は、無いです。
だから...これからもずっと目一杯貴女を愛させてくださいね」
何度だって、それはもう考えつく範囲の全てをもって、貴女に愛を伝え続けるから。
ーーーーー
〜242【吐露】〜
名残惜しくも彼女と別れた炭治郎は、屋敷の廊下をてくてくと歩いていた。
秋も段々と深くなり、朝は空気がひやりとしていて足先が冷たい。
睡眠時間は数時間程度だったけど、日向子姉さんの側で抱かれて眠っていたら、どうやらかなり熟睡していたらしく思ったより頭はすっきりしていた。
「あ..」
通りがけに台所を覗くと、既にアオイさんが朝食作りに取り掛かっていた。背を向けてトントンと規則正しいリズムで包丁を叩いている。
「おはようございます。アオイさん」
「おはようございます炭治郎さん。今日から柱稽古に参加されるんですね。朝食は貴方の分は先に取り分けて置きましたので、どうぞ召し上がってください。白米は今よそいますから」
彼女は割烹着の端で手を拭うと、台の上に置いてあるお盆を指さした後、釜の方へと移動した。
「ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げた後、しばらくアオイの方を見つめる。彼女は何を聞いてくるでもなく、黙々と作業していた。
ー昨日俺が日向子さんの部屋に行ってたのは..バレてなさそうだなー
少しだけ、それが気にはなっていた。
一晩中俺が不在だったのが誰かにバレていたら、まず間違いなく居場所を探されていたろうから。
言うなれば夜這いのようなものだ。今更ながら気恥ずかしくなってくる。
だが、アオイの反応を見るとそれは杞憂と判断してよいだろうと思う。最も、知らぬフリをされていたらわからないけれど..
とにかく、何も踏み込んで来ないのは助かる。
「あの、部屋で食べてきてもいいですか?行儀が悪くてすみません。でも禰豆子と一緒にいられるの、今日までなので。柱稽古に参加したらしばらくは会えないと思うから」
ダメ元でお願いしたら案外あっさり了承してくれた。
炭治郎は再度礼を述べると、湯気のたつお盆を持って足早に禰豆子の待つ部屋へと向かう。
中へ入ると禰豆子はまだベッドで夢の中だった。太陽を克服してから、朝日が差す場所にもいれるようになった。
だから、最近の禰豆子のお気に入りは専ら陽溜まりの中だ。すやすやと眠る妹を見ていると、心が安らぐ。
「ただいま禰豆子。昨夜は一人にしてごめんな。」
未だ彼女が目を覚さないのをいいことに、炭治郎は朝食を頬張り、ポツリポツリと話し始めた。
「聴こえてなくても構わない。理解出来なくてもいいから、お前に聞いて欲しい事があるんだ禰豆子。兄ちゃんな、日向子姉さんの事が好きなんだ」
ーーーーー
〜343【強くなる理由】〜
さらりと炭治郎が述べた【好き】という単語。
しかし禰豆子はまだ眠り込んでいる。
炭治郎が発した言葉に、どういう色合いが乗せられているかなんてきっと今の彼女にはわからないだろう。
意味があるかないかと言われたら、ないのかもしれない。寝ているところを見計らい伝えるなんて、相当俺は臆病だ。
そもそも、人間に戻ってから伝えたいと思っていたのに、日向子さんとの時間を経て、俺の気が変わってしまった。
その理由は...
「兄ちゃんの好きって言うのはな、皆と同じ家族愛じゃなくて。一人の女の子として好きって意味だ。これからも側で、日向子姉さんを守りたくて支えていきたい。それでな、禰豆子」
炭治郎は箸を置き、すっと背筋を正すと禰豆子の方へ向き直る。
「俺は...姉さんの誕生日に結婚を申し込もうと思うんだ」
それは、婚約の契りを交わしたいという意思に他ならなかった。
昨夜、彼女に結婚の約束さえしていないうちにこんな事をするのは、本来はいけない事だときっぱり言われた。
それでも俺をあそこまで受け入れてくれたのは、ただ日向子さん個人が許してくれただけで、道理は通らない。
男で16歳の俺はまだ結婚は出来ない。
そもそも鬼狩りなんてしている今の状況で、祝言などあげられはしない。
それは分かっているから、【ある条件付き】の約束を考えている。
「..黙っててごめんな。でも、きっとこの先も彼女以外の女性を愛する事はないと思う。この前ようやく気持ちが通じ合って、恋人になれたよ。勿論俺はまだ刀を握り続けるし、お前を人間に戻す目的も変わらない。だからどうか..許してくれ。禰豆子」
むくり..
「ッ‼」
どきりとした。
禰豆子はパチリと目を開いて体を起こすと、兄の顔をじっと見つめる。
寝惚けてる風も無く、実は結構前から起きていたのかもしれない。となると、少なくとも炭治郎の声は彼女に届いていた。
「...禰豆子。起きてたのか?ひょっとして。俺の言葉聞こえてた?」
そう問いかけると、彼女はにこりと微笑んだ。
「おに、ちゃ..」
撫で撫でと炭治郎の頭をしきりに撫でる禰豆子。その表情、動作を見て、何となく...いいよと言ってくれてるような気がした。
「...ありがとう、禰豆子。兄ちゃん頑張るからな」
日向子さんに返事はすぐに求めるつもりはない。貰うときは、全てが終わった時だ。
約束を守る為には
ー俺は生きなければ..そして彼女の事も、生かす為に俺は強くなるんだー
ーーーーー