◆第拾壱章 吊り合いゆく天秤
貴女のお名前を教えてください
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〜336【好きだから】〜
その夜は本当に幸せだった..。
何もかもが初めての事で、お互い戸惑い辿々 しい手付きでの触れ合いだった。
それでも、相手を癒してあげたい、気持ち良いと思って貰いたい、共に溺れたい...。
互いがそんな想いを込めて抱き合えば、経験や場数なんて関係なかった。
ー【愛されていると感じた】ー
その気持ちが大いに双方の心を満たした。朝まで共に過ごそうと彼女から誘えば、炭治郎はそれはそれは嬉しそうに頷いた。
(まだ、炭治郎と一緒に居たかった)
すぐ側に置かれていた彼の指を絡めて遊びながら、正直にそう気持ちを伝えれば、突然彼は左胸を押さえ顔を俯かせた。
「あんまり可愛い事言わないでくれ..心臓がもたない」
ほんの少し顔を上げそう訴えた炭治郎は、顔も耳も真っ赤に染まっていた。
みるみるうちに、押し倒される前のような切羽詰まった表情にかわっていくものだから、慌てて日向子は今日はもう本当に寝るだけだと伝える。
すると、炭治郎はわかってると渋々返した。
多分...日向子が止めなければそのまま突入していたかもしれないが、そこは彼も理性で何とか踏みとどまってくれた。
その代わり、日向子を丁寧に横たえると彼女の華奢 な体をすっぽり包み込むように抱きしめる。
乱れた衣服はそのままに、ちょっぴり汗ばんだ二人の肌同士が密着し合う。
ーー温かい..ーー
朝方と夜は冷え込むようになった季節。
熱を持っていた情事の際の体温が、少しずつ冷めゆくにつれ、心地よい眠気が訪れた。
「炭治郎の体...とてもあったかいね。何でだろう..男の子だからかな?」
「そうか..?自分ではよくわからないけど。貴女が気に入ってくれたならそれでいいや。日向子さんは..指先だけ少し冷たいね。女の子はあまり冷やしたらいけない。体の方は寒くない?大丈夫か?」
炭治郎は彼女の手を包み込み、しきりに擦って温めてくれた。甲斐甲斐しく労ってくれる様に、大切にしてくれてると感じ思わずじんと来た。
「大丈夫..ありがとう。本当に優しいね炭治郎は」
日向子がそう言うと、炭治郎は儚げに笑った。
「日向子さんに対しては、特別だよ。俺、別に誰にでもここまで優しいわけじゃない。俺が意図的に優しくするのは、他でもない貴女だから」
ー好きな女の子に優しくしたいって思うのは、何もおかしいことじゃないだろう?ー
彼は照れ臭そうにそう言った。
ーーーーー
〜337【切っ掛け】〜
ーそっか、ありがとう...ー
いつものようにそう軽く返せたのならどんなに良かったか。
日向子は炭治郎の言葉を間に受け、無意識に顔を赤らめた。
少し前の自分なら軽く受け流せていた台詞も、彼を好きだと自覚してからはどうにも思うように感情のコントロールが効かない。
いつからか、存外ストレートに気持ちをぶつけてくるようになった炭治郎。多分自分が、あまりにも彼の想いに応え無さ過ぎた為に、痺れを切らした結果なのかもしれないが、それが今は、効き目が効きすぎるくらいの効果をもたらしているのだ。
そんな日向子の心境は既に彼にはバレてしまっているようで、嬉しそうに口元は弧を描いている。
「照れてる、可愛い」
「や、やめてよ..見ないで。可愛くなんてないからっ」
「っ..あぁ、もう。そういう所が可愛いんだよ」
炭治郎のツボは今でもいまいちわからない。
年長者気質の癖が定着して、私は禰豆子達のように素直に他人に甘えられない。
どちらかと言うと、照れ隠しからツンケンした態度をとってしまう事もしばしばなのに、彼はそこがどうしようもなく可愛いと、そう言ってくれるのだ。
「いつも俺達の為に頑張ってくれてる、しっかり者の貴女が、たまに気を抜いてくれたり、余裕が無くなったりする所を見るとね、たまらなく可愛いなぁって思うんだ。」
ー日向子さんの可愛いところ全部、俺だけが知っていたいなぁー
どこで覚えてきたかわからないが、甘い...甘えたな台詞をやたらと吐かれるので、正直心臓がもたない。
恥ずかしながらそう伝えると、それなら俺だってそうだぞと、ぷくり頬を膨らませて炭治郎は言った。
「俺なんて、もうずっと前からそうだよ。日向子さんだって無自覚に、誘ってるのかと思うくらいの言葉、俺に言ってる。まぁ、あの頃は無意識なんだろうなぁとは思っていたけど...」
炭治郎は感慨深そうに瞳を揺らした。
「ねぇ、日向子さんは何がきっかけで恋愛感情を自覚してくれたんだ?実は、両想いって分かった時からずっと気になってたんだ」
今まであくまで家族としての愛情のみだった彼女が、心変わりした理由があるのなら知りたいと、彼はそう言った。日向子は炭治郎への想いを自覚した時の事を思い返す。しばらく考え込み、やがてこう口にした。
「きっかけは...禰豆子かな」
「禰豆子?」
どうやら意外な答えだったらしく、彼は驚きに目を瞬かせていた。
ーーーーー
〜338【空白の時を経て】〜
「うん、禰豆子に聞かれたんだ。お兄ちゃんの事好きなのかって。その時に、家族というよりも異性として好きなんだって事に気付かされて」
「そんな事を禰豆子が....え..待って!それっていつ?」
「上弦の肆を倒した朝だよ。禰豆子が鬼になって初めて喋った日。そう言えば、炭治郎は気を失っていたから分からなかったかも。カタコトだったけどね、確かにそう聞いてきたわ」
一連の流れを聞き終わると、彼はそうか..と呟く。どうやら一応納得はいったようだが、気がかりな点はまだ残ってる風だった。
「どうしたの?」
「あ、いや。禰豆子は...日向子さんや俺の気持ちに、気付いてたのかなぁって、ふと思っただけだ。」
「...どうだろう。あの子も感がいいから、もしかしたら人間だった頃から気付いてたのかもしれない。私達以上に、ひょっとしたらね。ちなみに私は結構前から貴方の気持ちには気付いてたんだけど。」
「うっ..!やっぱりそうか」
「あははっ、炭治郎はわかりやすかったからね」
彼が向ける視線、触れ方、優しい声色、異常なまでの嫉妬と独占欲。
色恋には疎かった日向子でも、何となくそれが家族愛以上の特別な感情だということは分かっていた。
ただお互い、気付かないフリをしていただけなのだ。
あの頃の日向子は、申し訳ないと思いつつ、それまでの関係性が壊れてしまうくらいなら、背け続ける事もまた正であると思っていた。しかしいよいよ耐えかねたのは炭治郎の方。それからの猛アピールに根負けしたのもあるが、一番はやはり彼のイメージががらりと日向子の中で変わったのが要因だろう。幸か不幸か、突然の別れと空白の二年間が、彼らをそう変えたのだ。
「日向子さん..」
「?」
「改めて、俺を好きになってくれてありがとう。これからもっと過酷な闘いが待ち受けていると思うけど、貴女が側に居てくれさえすれば、俺頑張れるから。その..俺も貴女の、そんな存在に...」
すっと日向子の指が炭治郎のこめかみを撫でる。
目の前の彼女は、普段見せる微笑ではなく、咲き誇る向日葵のような満開の笑顔を綻ばせていた。
「っ...」
「私も全く同じ気持ちだよ。禰豆子を人間に戻すのも、家族や仲間の仇を取るのも、脅威のない平和な世の中にするのも、大丈夫、私達ならきっと出来るよ。だから一緒に頑張ろうね?」
「っ!..うん」
炭治郎は感極まった表情を浮かべながら、彼女の体をひしと抱き締めた。
ーーーーー
〜339【おやすみ】〜
「さ...明日も早いし今日はもう寝ようか?」
「あぁ、そうだな。」
「ベッド一人用の大きさだから、ちょっと狭くてごめんだけど」
「大丈夫..くっついて寝れば問題ないよ。こうやって」
そう言って炭治郎は、溶け合うんじゃないかというくらい体を密着させて、でも寝苦しくない程度に力を調整してくれた。
炭治郎に抱き締められるのはとても心地が良かった。
まるで暖かく大きな日輪の光に抱かれているような感覚だ。目をとじると、どこまでも晴れ渡る澄んだ青空が思い浮かぶような気がした。
いつの日か見た事があるような...懐かしい景色。
「日向子さんとこうしてると本当に心穏やかになれる。心地いい...。俺が惚れてるってのもあるだろうけど、元からきっと貴女は、人を癒す力を持ってるんだろうなぁ。出逢うモノ皆を..惹きつけてやまない」
「ふふ...ねぇ、そこ嫉妬するところなの?」
「っ!だって..しょうがないだろ。日向子さんの魅力は俺だけが知ってたいし、気付きたいんだ。誰にも譲るもんか。本当に..誰にもだ」
甘えるようにぐいぐい首元に顔を押し付けてくる。そんな恋人がたまらなく愛しくなって、日向子はよしよしと彼の頭を撫でた。
「可愛い子」
ついそう溢れてしまった言葉は、どうやら炭治郎にとっては複雑なものだったらしく何とも言えない表情を浮かべていた。
「可愛いって言われるのは、貴女にならそりゃ嬉しいけど..でもやっぱり複雑だよ。日向子さんは俺が可愛くて好きになってくれたのか?それとも別の理由?かっこいい...とかは思ってくれないのか」
「んー、勿論可愛いとこもかっこいいところも、全部だよ。昔は正直、可愛いなぁとしか思ってなかったけど、成長した炭治郎を見て...やっぱり男の子なんだなって思って、思えばその頃から意識してたのかなぁ..うん、きっとそう」
きっと私は、だいぶ前から惹かれていたのだろう。
昔は同じくらいだった背がいつの間にか越されてて、顔付きも精悍になって、何より目の色が変わっていた。目指すものがはっきりした迷いのない眼差し。自らが成し遂げるのだと、守り切るのだという真っ直ぐな姿に..
ーいつからか私は..目を逸らせないでいたからー
「そうか..嬉しい。ありがとう」
「うん。ほら!本当にもう寝なきゃ。名残惜しいけど今日はもう終わりね」
「ぅぅ...わかった。また明日ね、お休みなさい。いい夢を」
炭治郎は最後に軽い口付けを落とすと、掛け布団を引き上げた。
ーーーーー
その夜は本当に幸せだった..。
何もかもが初めての事で、お互い戸惑い
それでも、相手を癒してあげたい、気持ち良いと思って貰いたい、共に溺れたい...。
互いがそんな想いを込めて抱き合えば、経験や場数なんて関係なかった。
ー【愛されていると感じた】ー
その気持ちが大いに双方の心を満たした。朝まで共に過ごそうと彼女から誘えば、炭治郎はそれはそれは嬉しそうに頷いた。
(まだ、炭治郎と一緒に居たかった)
すぐ側に置かれていた彼の指を絡めて遊びながら、正直にそう気持ちを伝えれば、突然彼は左胸を押さえ顔を俯かせた。
「あんまり可愛い事言わないでくれ..心臓がもたない」
ほんの少し顔を上げそう訴えた炭治郎は、顔も耳も真っ赤に染まっていた。
みるみるうちに、押し倒される前のような切羽詰まった表情にかわっていくものだから、慌てて日向子は今日はもう本当に寝るだけだと伝える。
すると、炭治郎はわかってると渋々返した。
多分...日向子が止めなければそのまま突入していたかもしれないが、そこは彼も理性で何とか踏みとどまってくれた。
その代わり、日向子を丁寧に横たえると彼女の
乱れた衣服はそのままに、ちょっぴり汗ばんだ二人の肌同士が密着し合う。
ーー温かい..ーー
朝方と夜は冷え込むようになった季節。
熱を持っていた情事の際の体温が、少しずつ冷めゆくにつれ、心地よい眠気が訪れた。
「炭治郎の体...とてもあったかいね。何でだろう..男の子だからかな?」
「そうか..?自分ではよくわからないけど。貴女が気に入ってくれたならそれでいいや。日向子さんは..指先だけ少し冷たいね。女の子はあまり冷やしたらいけない。体の方は寒くない?大丈夫か?」
炭治郎は彼女の手を包み込み、しきりに擦って温めてくれた。甲斐甲斐しく労ってくれる様に、大切にしてくれてると感じ思わずじんと来た。
「大丈夫..ありがとう。本当に優しいね炭治郎は」
日向子がそう言うと、炭治郎は儚げに笑った。
「日向子さんに対しては、特別だよ。俺、別に誰にでもここまで優しいわけじゃない。俺が意図的に優しくするのは、他でもない貴女だから」
ー好きな女の子に優しくしたいって思うのは、何もおかしいことじゃないだろう?ー
彼は照れ臭そうにそう言った。
ーーーーー
〜337【切っ掛け】〜
ーそっか、ありがとう...ー
いつものようにそう軽く返せたのならどんなに良かったか。
日向子は炭治郎の言葉を間に受け、無意識に顔を赤らめた。
少し前の自分なら軽く受け流せていた台詞も、彼を好きだと自覚してからはどうにも思うように感情のコントロールが効かない。
いつからか、存外ストレートに気持ちをぶつけてくるようになった炭治郎。多分自分が、あまりにも彼の想いに応え無さ過ぎた為に、痺れを切らした結果なのかもしれないが、それが今は、効き目が効きすぎるくらいの効果をもたらしているのだ。
そんな日向子の心境は既に彼にはバレてしまっているようで、嬉しそうに口元は弧を描いている。
「照れてる、可愛い」
「や、やめてよ..見ないで。可愛くなんてないからっ」
「っ..あぁ、もう。そういう所が可愛いんだよ」
炭治郎のツボは今でもいまいちわからない。
年長者気質の癖が定着して、私は禰豆子達のように素直に他人に甘えられない。
どちらかと言うと、照れ隠しからツンケンした態度をとってしまう事もしばしばなのに、彼はそこがどうしようもなく可愛いと、そう言ってくれるのだ。
「いつも俺達の為に頑張ってくれてる、しっかり者の貴女が、たまに気を抜いてくれたり、余裕が無くなったりする所を見るとね、たまらなく可愛いなぁって思うんだ。」
ー日向子さんの可愛いところ全部、俺だけが知っていたいなぁー
どこで覚えてきたかわからないが、甘い...甘えたな台詞をやたらと吐かれるので、正直心臓がもたない。
恥ずかしながらそう伝えると、それなら俺だってそうだぞと、ぷくり頬を膨らませて炭治郎は言った。
「俺なんて、もうずっと前からそうだよ。日向子さんだって無自覚に、誘ってるのかと思うくらいの言葉、俺に言ってる。まぁ、あの頃は無意識なんだろうなぁとは思っていたけど...」
炭治郎は感慨深そうに瞳を揺らした。
「ねぇ、日向子さんは何がきっかけで恋愛感情を自覚してくれたんだ?実は、両想いって分かった時からずっと気になってたんだ」
今まであくまで家族としての愛情のみだった彼女が、心変わりした理由があるのなら知りたいと、彼はそう言った。日向子は炭治郎への想いを自覚した時の事を思い返す。しばらく考え込み、やがてこう口にした。
「きっかけは...禰豆子かな」
「禰豆子?」
どうやら意外な答えだったらしく、彼は驚きに目を瞬かせていた。
ーーーーー
〜338【空白の時を経て】〜
「うん、禰豆子に聞かれたんだ。お兄ちゃんの事好きなのかって。その時に、家族というよりも異性として好きなんだって事に気付かされて」
「そんな事を禰豆子が....え..待って!それっていつ?」
「上弦の肆を倒した朝だよ。禰豆子が鬼になって初めて喋った日。そう言えば、炭治郎は気を失っていたから分からなかったかも。カタコトだったけどね、確かにそう聞いてきたわ」
一連の流れを聞き終わると、彼はそうか..と呟く。どうやら一応納得はいったようだが、気がかりな点はまだ残ってる風だった。
「どうしたの?」
「あ、いや。禰豆子は...日向子さんや俺の気持ちに、気付いてたのかなぁって、ふと思っただけだ。」
「...どうだろう。あの子も感がいいから、もしかしたら人間だった頃から気付いてたのかもしれない。私達以上に、ひょっとしたらね。ちなみに私は結構前から貴方の気持ちには気付いてたんだけど。」
「うっ..!やっぱりそうか」
「あははっ、炭治郎はわかりやすかったからね」
彼が向ける視線、触れ方、優しい声色、異常なまでの嫉妬と独占欲。
色恋には疎かった日向子でも、何となくそれが家族愛以上の特別な感情だということは分かっていた。
ただお互い、気付かないフリをしていただけなのだ。
あの頃の日向子は、申し訳ないと思いつつ、それまでの関係性が壊れてしまうくらいなら、背け続ける事もまた正であると思っていた。しかしいよいよ耐えかねたのは炭治郎の方。それからの猛アピールに根負けしたのもあるが、一番はやはり彼のイメージががらりと日向子の中で変わったのが要因だろう。幸か不幸か、突然の別れと空白の二年間が、彼らをそう変えたのだ。
「日向子さん..」
「?」
「改めて、俺を好きになってくれてありがとう。これからもっと過酷な闘いが待ち受けていると思うけど、貴女が側に居てくれさえすれば、俺頑張れるから。その..俺も貴女の、そんな存在に...」
すっと日向子の指が炭治郎のこめかみを撫でる。
目の前の彼女は、普段見せる微笑ではなく、咲き誇る向日葵のような満開の笑顔を綻ばせていた。
「っ...」
「私も全く同じ気持ちだよ。禰豆子を人間に戻すのも、家族や仲間の仇を取るのも、脅威のない平和な世の中にするのも、大丈夫、私達ならきっと出来るよ。だから一緒に頑張ろうね?」
「っ!..うん」
炭治郎は感極まった表情を浮かべながら、彼女の体をひしと抱き締めた。
ーーーーー
〜339【おやすみ】〜
「さ...明日も早いし今日はもう寝ようか?」
「あぁ、そうだな。」
「ベッド一人用の大きさだから、ちょっと狭くてごめんだけど」
「大丈夫..くっついて寝れば問題ないよ。こうやって」
そう言って炭治郎は、溶け合うんじゃないかというくらい体を密着させて、でも寝苦しくない程度に力を調整してくれた。
炭治郎に抱き締められるのはとても心地が良かった。
まるで暖かく大きな日輪の光に抱かれているような感覚だ。目をとじると、どこまでも晴れ渡る澄んだ青空が思い浮かぶような気がした。
いつの日か見た事があるような...懐かしい景色。
「日向子さんとこうしてると本当に心穏やかになれる。心地いい...。俺が惚れてるってのもあるだろうけど、元からきっと貴女は、人を癒す力を持ってるんだろうなぁ。出逢うモノ皆を..惹きつけてやまない」
「ふふ...ねぇ、そこ嫉妬するところなの?」
「っ!だって..しょうがないだろ。日向子さんの魅力は俺だけが知ってたいし、気付きたいんだ。誰にも譲るもんか。本当に..誰にもだ」
甘えるようにぐいぐい首元に顔を押し付けてくる。そんな恋人がたまらなく愛しくなって、日向子はよしよしと彼の頭を撫でた。
「可愛い子」
ついそう溢れてしまった言葉は、どうやら炭治郎にとっては複雑なものだったらしく何とも言えない表情を浮かべていた。
「可愛いって言われるのは、貴女にならそりゃ嬉しいけど..でもやっぱり複雑だよ。日向子さんは俺が可愛くて好きになってくれたのか?それとも別の理由?かっこいい...とかは思ってくれないのか」
「んー、勿論可愛いとこもかっこいいところも、全部だよ。昔は正直、可愛いなぁとしか思ってなかったけど、成長した炭治郎を見て...やっぱり男の子なんだなって思って、思えばその頃から意識してたのかなぁ..うん、きっとそう」
きっと私は、だいぶ前から惹かれていたのだろう。
昔は同じくらいだった背がいつの間にか越されてて、顔付きも精悍になって、何より目の色が変わっていた。目指すものがはっきりした迷いのない眼差し。自らが成し遂げるのだと、守り切るのだという真っ直ぐな姿に..
ーいつからか私は..目を逸らせないでいたからー
「そうか..嬉しい。ありがとう」
「うん。ほら!本当にもう寝なきゃ。名残惜しいけど今日はもう終わりね」
「ぅぅ...わかった。また明日ね、お休みなさい。いい夢を」
炭治郎は最後に軽い口付けを落とすと、掛け布団を引き上げた。
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