◆第拾壱章 吊り合いゆく天秤
貴女のお名前を教えてください
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〜315【狡い】〜
辛うじて表情には出さないものの、心と頭の中はパニックだった。
そんな日向子の様子を知ってか知らずか、炭治郎は先程日向子が述べたどうぞという入室許可を受けて、部屋の中に体を滑り込ませてきた。
松葉杖片手に少しずつベッドの方へ近づいてくる炭治郎。
日向子は咄嗟に掛け布団を頭まですっぽりずり上げる。
ーだって...恥ずかしいものー
ずっと寝たきりだったから頭もボサボサだし、顔も浮腫 んでるだろうし。
足も未だに牽引してて情けない姿だし、最悪だ。
【こんな姿、炭治郎に見られたくない】
「ど、どうしたの炭治郎。まだ動き回れるくらい怪我治ってないって胡蝶様言ってたよ。大人しく寝てないと駄目じゃない..。怪我悪化するから、早く部屋に戻って?」
明らかに動揺しているのが自分でもわかり、開口一番に声が裏返ってしまって泣きそうになった。
その癖何故か口だけはべらべらと回り、何とか部屋に戻って貰おうとお願いするも、炭治郎は一向に了承の意を示さない。
「突然すまない。日向子姉さんが目覚めたって聞いて一刻も早く顔が見たかったんだ。勿論すぐ戻るけど...俺ずっと貴女の事、考えてて...心配で仕方なかった。大丈夫か?」
側でギィッと木椅子が軋む音が聞こえる。恐らく炭治郎が腰掛けた音。完全に長居する気じゃないか、と密かに心の中で突っ込んだ。
そして、恥ずかしげもなく殺し文句を言うものだから、日向子は布団の中で顔を真っ赤に染め上げてしまう。
あぁ...尚更、顔なんて出せなくなってしまった。
「ねぇ日向子姉さん。布団邪魔だ、顔見せてよ。」
「...嫌。」
「どうして?」
「....だって...ずっと寝てたから。顔とか浮腫んでるし」
ぼそぼそと篭った音でそう伝えると、炭治郎はくすりと笑いこう返した。
「恥ずかしがってるのか?嬉しいなぁ。日向子姉さんがそんな風に照れてくれるなんて、あんまりなかったから。でも、心配しなくても日向子姉さんはいつ見ても可愛らしいし、綺麗だよ。だから...顔見せてくれないか?」
「....っ」
「俺はずっと貴女に会いたかったんだけど、日向子姉さんは違うのか?」
あぁ、この聞き方はずるい。
そんなわけない、私だってずっと...
日向子は恐る恐る掛け布団から顔を出した。
思いの外炭治郎の顔が近くにあって、どきりとする。
彼は微笑んで、愛おしそうに日向子の前髪を繰り返し撫でた。
「ほら、日向子姉さんはやっぱり可愛い。」
ーーーーー
〜316【異性として】〜
何故かすっぽりと頭まで布団被ってしまった日向子。不思議な行動に炭治郎は僅かに違和感を覚える。
しかし、よくよく理由を伺ってみれば何とも可愛らしく、ギュンと心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
(照れてるんだ、可愛いなぁ...)
この掛け布団の下にはどんな表情が隠れているのかと思うと、今すぐにでもこの布を引き剥がしてしまいたい衝動に駆られたが、そんな無体はとても働けない。
その代わり、炭治郎はこれでもかと甘い誘い文句を彼女の横で囁いた。
するとしばらくして、ようやく日向子は自分から顔を彼の前に曝け出す。
その表情を見て、匂いを嗅いで、炭治郎は瞬時に固まる。
ふしゅうぅと音が立ちそうなくらいに赤くなった顔。
困ったように下がっている眉。
今まで彼女から感じた事のない、めまいがしそうな程の甘く立ち込めた匂い。
すぐに上弦の肆を倒したあの朝を思い出した。
あの時は、匂いを嗅がないでと手の平で抑えられてしまったからよくわからなかった。
けど...
【この匂い...まさか】
動揺した気持ちをひた隠して、炭治郎は日向子の前髪を優しく撫でる。びくりと体を反応させてますます赤くなる頬。ついにはぎゅっと目つむり、必死にこの時間を耐えるような仕草をする。
それは、完全に【異性を意識している女性の反応】だった。
期待に胸が膨らみ、乾いた喉がこくりと音を立てて上下した。
「日向子姉さん。前と少し、違わないか?」
「え...どういう意味?」
「その...匂いが全然違う。甘いんだ凄く。ねぇ、自覚してる?」
そう言った炭治郎の目は、いつの間にか獲物を捉えて逃がさない肉食動物のようになっていた。
彼は昔から、日向子から発せられる匂いを嗅ぎ分けようとする癖がある。
理由は単純、自分の言動に対してどう彼女が感じているのかが気になった。
あわよくば意識して欲しいので、鈍感な彼女に対し少し大胆に誘うような事を言ったりもした。
ただ、今の言葉に失礼がなかったか?嫌な思いをさせなかったか?その確認だけは、決して怠らなかった。好きな相手に嫌われたくない、好かれたいと思うのはごく当たり前の心理だ。
そんなわけで自分に対し発せられる彼女の匂いの傾向は、ずっと前から記憶されている。
その香りが、ここに来て一気に甘く芳しい物に変化した...
「前に尋ねた事、もう一度問うてもいいだろうか?貴女の今の気持ちが知りたい。俺の事、異性として意識してくれてますか?」
ーーーーー
〜317【積年の想い】〜
炭治郎は期待を込めてそう問いかけるが、日向子はただ黙って視線をうろうろとさせるばかり。
明らかに動揺はしているけれど、それが肯定か否定かまではよくわからない。
ー仕方ない...ー
「いいよ、自分で確かめるから」
「ぇ....きゃっ...」
こうなったら強硬手段だ。炭治郎はギシリと音を立てて彼女が横たわるベッドに乗りあげる。
逃げ出す事は許さないという圧力を遠回しにかける目的もあるが、この体制の方がある確認がしやすい。
ゆっくりと体の負担にならない程度に上体を下ろし、ベッドに散らばる日向子の髪の毛をさらりとよける。
耳にほんの僅か指先が触れただけでも、あからさまに反応するのだから堪らない。
ーもうここまで来たら、彼女の気持ちを確認するまでは引き下がれないー
炭治郎はぐっと鼻を彼女の首元、耳の裏側にと近付ける。彼女の匂いが強く香るこの場所を狙ったのは、僅かな感情の変化さえ逃さない為。
口で何と言おうが言うまいが、炭治郎には一切通用はしない。
全て....拾い上げてやるから。
「日向子姉さん」
「ッ....ぅ....そこで喋るのやめて..」
「!...」
思いの外可愛らしい反応をするので、一気に興奮が全身を駆け巡る。息が乱れそうになるのを炭治郎は必死に堪えた。
まるで襲ってるみたいだと考えたら終わりだ。一気に持ってかれる。
自分の理性は失ってはいけない。じゃないと...確認ではなくなってしまうから。
俺はちゃんと、健全に日向子姉さんに向き合いたい。
「日向子姉さん、俺の事まだ弟みたいだと思ってる?」
「...っ」
「こういう事されて、嫌悪するか?」
「炭治郎、やめて...」
「俺は、今も貴女を一人の女の子として恋い慕ってる。だから...こういう雰囲気になるのは凄く嬉しいし、興奮だってする。日向子さんはどう?俺の事一人の男として好いてくれてるのか?答えてくれ。」
「私は....っぅ.....私も」
お互いはっとして、不意に目をかち合わせる。
薄暗がりでもわかるくらき真っ赤になった彼女の顔が視界に映った。
「今、私もって言った..」
「い、言ってな」
「言った!..あぁ...もうっ」
本当は匂いで大体分かってた。それが確信に変わった。紛れもなく今の彼女からは、恋慕の情特有の甘い匂いが放たれている。正直あまりいい思い出のなかった匂いだったけど、日向子姉さんから俺に、放たれているのなら話は別だ。
どれほど【この時】を待っただろう
嬉し過ぎて涙が滲む思いだ。
ーーーーー
〜318【どうか俺の】〜
「日向子さん、貴女の口からはっきり聞きたい。聞きたいよ...」
炭治郎の強請るような視線を受けた彼女は優しい手つきで彼の胸板に手を添えた。
促がされるままに体を起こし、日向子もまたゆっくりと上体を起こす。
お互いの顔が面と向かって見れる程よい距離感。
少し緊張しているように見えるが、彼女はいつの間にか普段と同じような優しい笑みを浮かべていた。そして、意を決したようにすぅっと息を吸い上げる。
「ずっと、貴方への気持ちが...どんなものなのか分からなかった。昔から家族として一緒に育ったから、最初はそれ以上でも以下でもなかったけど。いつの間にか逞しくなった背中を見て...気付かされたの。私は、これからもずっとこの人の隣に居たいって」
「...日向子姉さん」
「その意味は、私も炭治郎と同じです。貴方の事、一人の男の子として好きなんだって分かったから、だから..」
彼女の言葉を待てる余裕も無く、炭治郎は無我夢中で日向子の体を搔き抱いた。
まだお互い本調子ではないので出来るだけ優しく、優しく....無茶苦茶に抱き締めたい欲を懸命に抑え、彼女の首元に顔を埋めた。
やっと気持ちを通わせることが出来たという歓びに目頭が熱くなる。ずっと俺ばかりが彼女を求め続けていて、切ない片想いの日々だった。
けど今は..
「じゃあ..俺達両想いなんだよな?」
「うん、そうだね」
日向子が肯定の意を示すと、炭治郎はそっか..そっかと現実を噛みしめるように呟き、やがて幸福に満ちた笑みを浮かべた。
「ありがとう。嬉しい..物凄く嬉しいよ。ずっと待ち焦がれてた。貴女の心が欲しくて仕方なかった」
炭治郎は愛おしそうな眼で、さらさらと日向子の髪を何度も梳いた。その度に香る、石鹸と彼女の香りが入り混じった匂い。もっと近くに感じたいと身体を寄せると、彼女はびくりと肩を震わせて小さく手で制する。その手を己の掌でやんわり包み込んだ。
ー小さい..可愛らしいー
あぁ...体はこんなに華奢なのに、頑張り屋で、自分の事よりも他人優先で、頼りになるけどどこか儚気で放っておけない人。
彼女の気持ちの拠り所になりたい。安心出来る居場所でありたい。他でもない俺が彼女の...
(言え..言うんだ、炭治郎)
炭治郎は震える手を抑え、真剣な眼差しを日向子に向けた。
「日向子さん、俺の恋人になってください。貴女が安心出来る場所で居られるよう尽くします。だからどうか..お願いします。」
ーーーーー
辛うじて表情には出さないものの、心と頭の中はパニックだった。
そんな日向子の様子を知ってか知らずか、炭治郎は先程日向子が述べたどうぞという入室許可を受けて、部屋の中に体を滑り込ませてきた。
松葉杖片手に少しずつベッドの方へ近づいてくる炭治郎。
日向子は咄嗟に掛け布団を頭まですっぽりずり上げる。
ーだって...恥ずかしいものー
ずっと寝たきりだったから頭もボサボサだし、顔も
足も未だに牽引してて情けない姿だし、最悪だ。
【こんな姿、炭治郎に見られたくない】
「ど、どうしたの炭治郎。まだ動き回れるくらい怪我治ってないって胡蝶様言ってたよ。大人しく寝てないと駄目じゃない..。怪我悪化するから、早く部屋に戻って?」
明らかに動揺しているのが自分でもわかり、開口一番に声が裏返ってしまって泣きそうになった。
その癖何故か口だけはべらべらと回り、何とか部屋に戻って貰おうとお願いするも、炭治郎は一向に了承の意を示さない。
「突然すまない。日向子姉さんが目覚めたって聞いて一刻も早く顔が見たかったんだ。勿論すぐ戻るけど...俺ずっと貴女の事、考えてて...心配で仕方なかった。大丈夫か?」
側でギィッと木椅子が軋む音が聞こえる。恐らく炭治郎が腰掛けた音。完全に長居する気じゃないか、と密かに心の中で突っ込んだ。
そして、恥ずかしげもなく殺し文句を言うものだから、日向子は布団の中で顔を真っ赤に染め上げてしまう。
あぁ...尚更、顔なんて出せなくなってしまった。
「ねぇ日向子姉さん。布団邪魔だ、顔見せてよ。」
「...嫌。」
「どうして?」
「....だって...ずっと寝てたから。顔とか浮腫んでるし」
ぼそぼそと篭った音でそう伝えると、炭治郎はくすりと笑いこう返した。
「恥ずかしがってるのか?嬉しいなぁ。日向子姉さんがそんな風に照れてくれるなんて、あんまりなかったから。でも、心配しなくても日向子姉さんはいつ見ても可愛らしいし、綺麗だよ。だから...顔見せてくれないか?」
「....っ」
「俺はずっと貴女に会いたかったんだけど、日向子姉さんは違うのか?」
あぁ、この聞き方はずるい。
そんなわけない、私だってずっと...
日向子は恐る恐る掛け布団から顔を出した。
思いの外炭治郎の顔が近くにあって、どきりとする。
彼は微笑んで、愛おしそうに日向子の前髪を繰り返し撫でた。
「ほら、日向子姉さんはやっぱり可愛い。」
ーーーーー
〜316【異性として】〜
何故かすっぽりと頭まで布団被ってしまった日向子。不思議な行動に炭治郎は僅かに違和感を覚える。
しかし、よくよく理由を伺ってみれば何とも可愛らしく、ギュンと心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
(照れてるんだ、可愛いなぁ...)
この掛け布団の下にはどんな表情が隠れているのかと思うと、今すぐにでもこの布を引き剥がしてしまいたい衝動に駆られたが、そんな無体はとても働けない。
その代わり、炭治郎はこれでもかと甘い誘い文句を彼女の横で囁いた。
するとしばらくして、ようやく日向子は自分から顔を彼の前に曝け出す。
その表情を見て、匂いを嗅いで、炭治郎は瞬時に固まる。
ふしゅうぅと音が立ちそうなくらいに赤くなった顔。
困ったように下がっている眉。
今まで彼女から感じた事のない、めまいがしそうな程の甘く立ち込めた匂い。
すぐに上弦の肆を倒したあの朝を思い出した。
あの時は、匂いを嗅がないでと手の平で抑えられてしまったからよくわからなかった。
けど...
【この匂い...まさか】
動揺した気持ちをひた隠して、炭治郎は日向子の前髪を優しく撫でる。びくりと体を反応させてますます赤くなる頬。ついにはぎゅっと目つむり、必死にこの時間を耐えるような仕草をする。
それは、完全に【異性を意識している女性の反応】だった。
期待に胸が膨らみ、乾いた喉がこくりと音を立てて上下した。
「日向子姉さん。前と少し、違わないか?」
「え...どういう意味?」
「その...匂いが全然違う。甘いんだ凄く。ねぇ、自覚してる?」
そう言った炭治郎の目は、いつの間にか獲物を捉えて逃がさない肉食動物のようになっていた。
彼は昔から、日向子から発せられる匂いを嗅ぎ分けようとする癖がある。
理由は単純、自分の言動に対してどう彼女が感じているのかが気になった。
あわよくば意識して欲しいので、鈍感な彼女に対し少し大胆に誘うような事を言ったりもした。
ただ、今の言葉に失礼がなかったか?嫌な思いをさせなかったか?その確認だけは、決して怠らなかった。好きな相手に嫌われたくない、好かれたいと思うのはごく当たり前の心理だ。
そんなわけで自分に対し発せられる彼女の匂いの傾向は、ずっと前から記憶されている。
その香りが、ここに来て一気に甘く芳しい物に変化した...
「前に尋ねた事、もう一度問うてもいいだろうか?貴女の今の気持ちが知りたい。俺の事、異性として意識してくれてますか?」
ーーーーー
〜317【積年の想い】〜
炭治郎は期待を込めてそう問いかけるが、日向子はただ黙って視線をうろうろとさせるばかり。
明らかに動揺はしているけれど、それが肯定か否定かまではよくわからない。
ー仕方ない...ー
「いいよ、自分で確かめるから」
「ぇ....きゃっ...」
こうなったら強硬手段だ。炭治郎はギシリと音を立てて彼女が横たわるベッドに乗りあげる。
逃げ出す事は許さないという圧力を遠回しにかける目的もあるが、この体制の方がある確認がしやすい。
ゆっくりと体の負担にならない程度に上体を下ろし、ベッドに散らばる日向子の髪の毛をさらりとよける。
耳にほんの僅か指先が触れただけでも、あからさまに反応するのだから堪らない。
ーもうここまで来たら、彼女の気持ちを確認するまでは引き下がれないー
炭治郎はぐっと鼻を彼女の首元、耳の裏側にと近付ける。彼女の匂いが強く香るこの場所を狙ったのは、僅かな感情の変化さえ逃さない為。
口で何と言おうが言うまいが、炭治郎には一切通用はしない。
全て....拾い上げてやるから。
「日向子姉さん」
「ッ....ぅ....そこで喋るのやめて..」
「!...」
思いの外可愛らしい反応をするので、一気に興奮が全身を駆け巡る。息が乱れそうになるのを炭治郎は必死に堪えた。
まるで襲ってるみたいだと考えたら終わりだ。一気に持ってかれる。
自分の理性は失ってはいけない。じゃないと...確認ではなくなってしまうから。
俺はちゃんと、健全に日向子姉さんに向き合いたい。
「日向子姉さん、俺の事まだ弟みたいだと思ってる?」
「...っ」
「こういう事されて、嫌悪するか?」
「炭治郎、やめて...」
「俺は、今も貴女を一人の女の子として恋い慕ってる。だから...こういう雰囲気になるのは凄く嬉しいし、興奮だってする。日向子さんはどう?俺の事一人の男として好いてくれてるのか?答えてくれ。」
「私は....っぅ.....私も」
お互いはっとして、不意に目をかち合わせる。
薄暗がりでもわかるくらき真っ赤になった彼女の顔が視界に映った。
「今、私もって言った..」
「い、言ってな」
「言った!..あぁ...もうっ」
本当は匂いで大体分かってた。それが確信に変わった。紛れもなく今の彼女からは、恋慕の情特有の甘い匂いが放たれている。正直あまりいい思い出のなかった匂いだったけど、日向子姉さんから俺に、放たれているのなら話は別だ。
どれほど【この時】を待っただろう
嬉し過ぎて涙が滲む思いだ。
ーーーーー
〜318【どうか俺の】〜
「日向子さん、貴女の口からはっきり聞きたい。聞きたいよ...」
炭治郎の強請るような視線を受けた彼女は優しい手つきで彼の胸板に手を添えた。
促がされるままに体を起こし、日向子もまたゆっくりと上体を起こす。
お互いの顔が面と向かって見れる程よい距離感。
少し緊張しているように見えるが、彼女はいつの間にか普段と同じような優しい笑みを浮かべていた。そして、意を決したようにすぅっと息を吸い上げる。
「ずっと、貴方への気持ちが...どんなものなのか分からなかった。昔から家族として一緒に育ったから、最初はそれ以上でも以下でもなかったけど。いつの間にか逞しくなった背中を見て...気付かされたの。私は、これからもずっとこの人の隣に居たいって」
「...日向子姉さん」
「その意味は、私も炭治郎と同じです。貴方の事、一人の男の子として好きなんだって分かったから、だから..」
彼女の言葉を待てる余裕も無く、炭治郎は無我夢中で日向子の体を搔き抱いた。
まだお互い本調子ではないので出来るだけ優しく、優しく....無茶苦茶に抱き締めたい欲を懸命に抑え、彼女の首元に顔を埋めた。
やっと気持ちを通わせることが出来たという歓びに目頭が熱くなる。ずっと俺ばかりが彼女を求め続けていて、切ない片想いの日々だった。
けど今は..
「じゃあ..俺達両想いなんだよな?」
「うん、そうだね」
日向子が肯定の意を示すと、炭治郎はそっか..そっかと現実を噛みしめるように呟き、やがて幸福に満ちた笑みを浮かべた。
「ありがとう。嬉しい..物凄く嬉しいよ。ずっと待ち焦がれてた。貴女の心が欲しくて仕方なかった」
炭治郎は愛おしそうな眼で、さらさらと日向子の髪を何度も梳いた。その度に香る、石鹸と彼女の香りが入り混じった匂い。もっと近くに感じたいと身体を寄せると、彼女はびくりと肩を震わせて小さく手で制する。その手を己の掌でやんわり包み込んだ。
ー小さい..可愛らしいー
あぁ...体はこんなに華奢なのに、頑張り屋で、自分の事よりも他人優先で、頼りになるけどどこか儚気で放っておけない人。
彼女の気持ちの拠り所になりたい。安心出来る居場所でありたい。他でもない俺が彼女の...
(言え..言うんだ、炭治郎)
炭治郎は震える手を抑え、真剣な眼差しを日向子に向けた。
「日向子さん、俺の恋人になってください。貴女が安心出来る場所で居られるよう尽くします。だからどうか..お願いします。」
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