◆第拾壱章 吊り合いゆく天秤
貴女のお名前を教えてください
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〜311【朝日が差す】〜
「禰豆子さん!これはなんでしょう?」
「....ま、り?」
「っそうですそうです!」
アオイがそう言って取り出したのは女の子がよく遊びに使用する手毬。禰豆子が太陽を克服してからというもの、こうして手があいた時には彼女の遊び相手になり言葉を覚えさせたりしているが、少しずつそれが身になって来ていることに感激した。
炭治郎さんと日向子さんはまだ目を覚まさないけれど、彼等が起きたらうんと喋れる所見せてあげるんだと密かに意気込んでいた。
「これはこうして地面についたり、跳ねさせたりして遊ぶんですよ?やってみますか?」
まずは手本を見せてそう促せば、禰豆子は目を輝かせてこくこくと頷いた。最初はおぼつかないかなと思ったけれど、思いの外センスがあり、楽しそうに遊んでいた。こうしてみると一見普通の人間の女の子なのに
【鬼なんだなぁ....】
それがにわかには信じ難いと、無邪気にすみ達と遊んでいる様を見て思う。
最初は鬼と知ってそれはそれは驚き、嫌悪さえ感じていたけれど、しのぶに彼女は無害である事を知らされ受け入れるようになった。
今も炭治郎さんと日向子さんが、必死に彼女を人間に戻す術を探しているという。
ー早く、戻れるといいわねー
アオイもまたそう願っていた。
「!」
不意に禰豆子がキョロキョロと辺りを見渡し始めたので、どうしたのだろうかと首を傾げていると、受け取った鞠を置き屋敷の方へと歩き始める。
禰豆子の突然の不可解な行動に、残された彼女達は互いに顔を見合わせた。
ーどうしたのだろうか....ー
日向子が目覚めたのは、上弦の肆に勝利した朝からまる6日経っての事であった。
ふと開いた目に眩しい朝日が入り込んできてすかさずぎゅっと目を瞑った。
光に慣れていく為に再び目蓋を開いたその時、すっと影が重なる。
誰か、窓際に立ってる..
白く霞む先に見えたのは
「禰豆子..」
口から漏れ出た妹を呼ぶ声は、驚く程小さく掠れていたけれど、彼女には確かに届いたらしい。
禰豆子は和かに微笑みながら日向子を見下ろしていた。
「おは...はよう、おねぇちゃ」
太陽光を背に佇むその姿に、懲りずにまたも涙ぐみそうになる。あぁ...夢みたいだ。でも、夢じゃない。
点滴管が繋がれた右腕をそろりと上げて、彼女の頬へ近付ける。しっかり彼女の温もりが感じられる、そこに存在するのだと教えてくれる。
「良かったね禰豆子。太陽の下歩けるようになって」
ーーーーー
〜312【会いたいけど】〜
ー本当に良かった...ー
日向子の思いが伝わったのだろうか。禰豆子もまた瞳を潤ませ、伸ばされた姉の手を優しく包み込んだ。
禰豆子が鬼に変えられ、自分が鬼の血を退ける巫の末裔である事を知り、どれほど運命を呪ったかしれない。
しかし、禰豆子は徐々に一般的な鬼とは異なる体質を現にし始めた。
彼女の体に触れられるようになり、やがては太陽の光を克服するに至って、たどたどしくも人の言葉を発するまでになった。
禰豆子自身が必死に抗おうとしているのだと思う。鬼となった運命から...
そして、へこたれそうな私達を何とか励まそうとしてくれているのだ。
この子は本当に優しい子だから
「日向子さん、目覚めたのですね。禰豆子さんもここに居たのですか。」
「!..胡蝶様」
不意に声がする方へ目を向けると、しのぶがちょうどベッド脇に近づいてくる所で、その顔には安堵したような笑みが浮かんでいた。
「また無茶をしましたね。両脚は複雑骨折です。当分は自力で動く事は難しいと思いますので、すみ達に世話係をさせますからそのつもりでいてください。」
「わかりました。お手数お掛けして申し訳ないです。その...炭治郎達は..」
そう問いかけると、彼女はしっかりと首を縦に振った。
「柱の2人は既に回復してます。玄弥君ももう食事が摂れるまでになってますし、【一番貴女が気がかりな】炭治郎君も、つい先程目覚めました。最もお二人とも傷は浅いわけではないですから体はしばらく動かさない方が良いです。会いたい気持ちはわかりますが、ダメですよ。」
しのぶにはお見通しのようで、日向子はぎくりと肩を硬らせた。
ただ...会いたい気持ちとはまた別に、気まずい気持ちも正直ある。
原因はやはり、【自分自身の気持ちの変化】であった。
日向子は、炭治郎への気持ちが恋慕に近いものである事を自覚してしまった。
今まで彼から向けられてきた、あの吸い込まれるような赫灼色の眼を思い出すと、心臓が早鐘のように鳴り響くのだ。
一度意識してしまえば、まさかこんなにも制御出来なくなってしまうものだとは思わなかった。
ーあぁ..何で私、あれ程の感情を向けられていて、普通に彼と接する事が出来ていたんだろうかー
今までどんな顔を向けていた?どんな会話をしていた?どんな風に私、笑っていたっけ?...
これまでの【普通】ですらも思い出せない。
しばらく気持ちの整理がつくまでは、会えそうもないわ...
会いたいけど、会えない
ーーーーー
〜313【御膳立て】〜
ー玄弥sideー
後藤っていう隠の人が炭治郎が目覚めたと聞いて見舞いにやってきたが、何となく話の方向性が立ち入った
流れになってきて、現在俺は狸寝入りを決め込んでいるところだ。
こいつが日向子さんをどう思っているかは、鬼との戦闘時から薄々気づいていた。
炭治郎は基本誰にでも優しさを与えるが、彼女だけは特別なのだ。良い意味でも悪い意味でも素直過ぎる炭治郎は、その表情、言動を見れば一目瞭然。
さっきも、言いかけた言葉は何となくこれだろうなというのは想像がついたけど...
炭治郎はきっと俺が隣で寝ているって事忘れてるんだろう。
でなきゃ...【そんな小っ恥ずかしい事】俺だって口が裂けても言えねぇ。
ー慕ってる相手と何があっても添い遂げたいー
普通そんなん声を大にして言える方がどうかしてるんだから....
今はようやく日も沈み、昼間の騒がしい雰囲気は嘘のようだった。ちらりと炭治郎の方を見ると、ただただ天井をぼうっと見つめている横顔が目に入る。
その横顔には、様々な思いが現れているような気がする。合同強化訓練も今日から始まった。体だけが追いついていない状況に焦りはあるだろう。
あとは...
「おい」
「ん?...何だ玄弥。あぁ、昼間騒がしくした事まだ怒ってるのか?本当にあれは済まなか
「違ぇよ」
的外れな返答に間髪入れず否定の言葉を滑り込ませる。きょとんとしながら顔ごとこちらへ向ける炭治郎に、本当に世話の焼けるやつだと玄弥はあからさまに溜息をついてやった。
「しのぶさんには黙っておいてやる。」
「え」
「だからさっさと会いに行けよ。隣の部屋だって事はわかってんだろ?」
そこまで言ってやれば流石に意味が通じたのか、炭治郎はこれでもかと丸い目を見開いた。
目覚めてから色んな人がこいつの見舞いに来たが、同じくベッドから動けずにいる日向子さんとは、未だに会う事は叶っていない。
昨日までは会う事事態を躊躇っていたようだが、後藤さんに背中を押されたからか、それからは俺にはこいつが会いたくて会いたくてうずうずしているようにしか見えないのだ。
お互い目覚めているのに、壁を隔てているとはいえ僅かな距離の向こうに居るのに、言葉を交わす事も出来ない。しのぶさんには体を無理やり動かす事は止められているようだけど、もう無理だろう。
「行けよ。骨折悪化しても知らねぇけどな」
素っ気なく言ってやったのに、彼はにこりと笑い礼を述べたのだった。
ーーーーー
〜314【心の準備】〜
目覚めて数日。胡蝶様の言う通り体は全く自由が効かなくて、起き上がる事すらも難儀だった。心苦しくもすみちゃん達や禰豆子の手を借りないと殆ど何も出来ない。着替えも厠に行くことも1人じゃ出来ないので、本当に辛い。
車椅子という画期的な移動器具をあてがわれたので、せめて移乗さえ一人でスムーズに出来れば行動範囲も広がるのだが、足の骨がある程度くっつくにはあと1週間は安静にと言われている。
こればかりはじっと待つしか無い..
色んな人が見舞いに訪れてくれたが、夜は一人きり部屋で過ごさなければいけない。
一応、何かあったら伝えるようにと遠隔式ボタンのような物を渡されたけれど、申し訳ないのでひたすら朝を待つ日々だった。
一人でいると、どうしても色んなことを考えてしまう。本当の両親はどんな最期だったのかと、想像すると気を病みそうになるが、ただ一つ...知れてよかった事もある。
【私は、捨てられたわけじゃなかった..】
実は竈門家に拾われ物心がついてからというもの、私は、(両親に捨てられたに違いない)と、そう思い込んでいた部分があった。
冬山に赤子を放って置くなんて、それしかないだろうと思っていたから。
でも違った。父さんも母さんも、私を守る為に必死に鬼から庇い戦ってくれたのだ。
本当はこの日本のどこかで生きていて欲しかった。成長した自分を見て欲しかった。会って思い切り抱きつきたかった。
でももう...それは叶わない
もう、この手は届かない。
二人は遥か遠くの星となってしまったのだから。
ただ、私は今一人じゃないし、気心の知れた仲間もたくさん出来た。大切な人もたくさん...。もう失わない。誰かを不幸にはしたくない。
二人が生きた証であるこの身は、そういう事の為に尽くそうと決めた。
「だからどうか、天 から見守っていてください」
ー父さん、母さんー
コンコン..
控えめに戸を叩く音が聞こえ、さっとそちらに意識を向けた。戸が開く気配がない。こちらの返答を待っているのだろうか?...
「どうぞ」
扉に向かってそう伝えれば、ゆっくりと戸が開き廊下の明かりが漏れた。そこに立っている姿を見て、信じられないとばかりに目をぱちくりさせる。
「炭治郎..」
彼は目が合うと気まずそうに少し目線を斜めに逸らしたが、すぐに真っ直ぐ向き直った。炭治郎もまだ怪我が治らず寝たきりと聞いていたのに。
いや、それもそうだが
ちょっと....心の準備がっ
ーーーーー
「禰豆子さん!これはなんでしょう?」
「....ま、り?」
「っそうですそうです!」
アオイがそう言って取り出したのは女の子がよく遊びに使用する手毬。禰豆子が太陽を克服してからというもの、こうして手があいた時には彼女の遊び相手になり言葉を覚えさせたりしているが、少しずつそれが身になって来ていることに感激した。
炭治郎さんと日向子さんはまだ目を覚まさないけれど、彼等が起きたらうんと喋れる所見せてあげるんだと密かに意気込んでいた。
「これはこうして地面についたり、跳ねさせたりして遊ぶんですよ?やってみますか?」
まずは手本を見せてそう促せば、禰豆子は目を輝かせてこくこくと頷いた。最初はおぼつかないかなと思ったけれど、思いの外センスがあり、楽しそうに遊んでいた。こうしてみると一見普通の人間の女の子なのに
【鬼なんだなぁ....】
それがにわかには信じ難いと、無邪気にすみ達と遊んでいる様を見て思う。
最初は鬼と知ってそれはそれは驚き、嫌悪さえ感じていたけれど、しのぶに彼女は無害である事を知らされ受け入れるようになった。
今も炭治郎さんと日向子さんが、必死に彼女を人間に戻す術を探しているという。
ー早く、戻れるといいわねー
アオイもまたそう願っていた。
「!」
不意に禰豆子がキョロキョロと辺りを見渡し始めたので、どうしたのだろうかと首を傾げていると、受け取った鞠を置き屋敷の方へと歩き始める。
禰豆子の突然の不可解な行動に、残された彼女達は互いに顔を見合わせた。
ーどうしたのだろうか....ー
日向子が目覚めたのは、上弦の肆に勝利した朝からまる6日経っての事であった。
ふと開いた目に眩しい朝日が入り込んできてすかさずぎゅっと目を瞑った。
光に慣れていく為に再び目蓋を開いたその時、すっと影が重なる。
誰か、窓際に立ってる..
白く霞む先に見えたのは
「禰豆子..」
口から漏れ出た妹を呼ぶ声は、驚く程小さく掠れていたけれど、彼女には確かに届いたらしい。
禰豆子は和かに微笑みながら日向子を見下ろしていた。
「おは...はよう、おねぇちゃ」
太陽光を背に佇むその姿に、懲りずにまたも涙ぐみそうになる。あぁ...夢みたいだ。でも、夢じゃない。
点滴管が繋がれた右腕をそろりと上げて、彼女の頬へ近付ける。しっかり彼女の温もりが感じられる、そこに存在するのだと教えてくれる。
「良かったね禰豆子。太陽の下歩けるようになって」
ーーーーー
〜312【会いたいけど】〜
ー本当に良かった...ー
日向子の思いが伝わったのだろうか。禰豆子もまた瞳を潤ませ、伸ばされた姉の手を優しく包み込んだ。
禰豆子が鬼に変えられ、自分が鬼の血を退ける巫の末裔である事を知り、どれほど運命を呪ったかしれない。
しかし、禰豆子は徐々に一般的な鬼とは異なる体質を現にし始めた。
彼女の体に触れられるようになり、やがては太陽の光を克服するに至って、たどたどしくも人の言葉を発するまでになった。
禰豆子自身が必死に抗おうとしているのだと思う。鬼となった運命から...
そして、へこたれそうな私達を何とか励まそうとしてくれているのだ。
この子は本当に優しい子だから
「日向子さん、目覚めたのですね。禰豆子さんもここに居たのですか。」
「!..胡蝶様」
不意に声がする方へ目を向けると、しのぶがちょうどベッド脇に近づいてくる所で、その顔には安堵したような笑みが浮かんでいた。
「また無茶をしましたね。両脚は複雑骨折です。当分は自力で動く事は難しいと思いますので、すみ達に世話係をさせますからそのつもりでいてください。」
「わかりました。お手数お掛けして申し訳ないです。その...炭治郎達は..」
そう問いかけると、彼女はしっかりと首を縦に振った。
「柱の2人は既に回復してます。玄弥君ももう食事が摂れるまでになってますし、【一番貴女が気がかりな】炭治郎君も、つい先程目覚めました。最もお二人とも傷は浅いわけではないですから体はしばらく動かさない方が良いです。会いたい気持ちはわかりますが、ダメですよ。」
しのぶにはお見通しのようで、日向子はぎくりと肩を硬らせた。
ただ...会いたい気持ちとはまた別に、気まずい気持ちも正直ある。
原因はやはり、【自分自身の気持ちの変化】であった。
日向子は、炭治郎への気持ちが恋慕に近いものである事を自覚してしまった。
今まで彼から向けられてきた、あの吸い込まれるような赫灼色の眼を思い出すと、心臓が早鐘のように鳴り響くのだ。
一度意識してしまえば、まさかこんなにも制御出来なくなってしまうものだとは思わなかった。
ーあぁ..何で私、あれ程の感情を向けられていて、普通に彼と接する事が出来ていたんだろうかー
今までどんな顔を向けていた?どんな会話をしていた?どんな風に私、笑っていたっけ?...
これまでの【普通】ですらも思い出せない。
しばらく気持ちの整理がつくまでは、会えそうもないわ...
会いたいけど、会えない
ーーーーー
〜313【御膳立て】〜
ー玄弥sideー
後藤っていう隠の人が炭治郎が目覚めたと聞いて見舞いにやってきたが、何となく話の方向性が立ち入った
流れになってきて、現在俺は狸寝入りを決め込んでいるところだ。
こいつが日向子さんをどう思っているかは、鬼との戦闘時から薄々気づいていた。
炭治郎は基本誰にでも優しさを与えるが、彼女だけは特別なのだ。良い意味でも悪い意味でも素直過ぎる炭治郎は、その表情、言動を見れば一目瞭然。
さっきも、言いかけた言葉は何となくこれだろうなというのは想像がついたけど...
炭治郎はきっと俺が隣で寝ているって事忘れてるんだろう。
でなきゃ...【そんな小っ恥ずかしい事】俺だって口が裂けても言えねぇ。
ー慕ってる相手と何があっても添い遂げたいー
普通そんなん声を大にして言える方がどうかしてるんだから....
今はようやく日も沈み、昼間の騒がしい雰囲気は嘘のようだった。ちらりと炭治郎の方を見ると、ただただ天井をぼうっと見つめている横顔が目に入る。
その横顔には、様々な思いが現れているような気がする。合同強化訓練も今日から始まった。体だけが追いついていない状況に焦りはあるだろう。
あとは...
「おい」
「ん?...何だ玄弥。あぁ、昼間騒がしくした事まだ怒ってるのか?本当にあれは済まなか
「違ぇよ」
的外れな返答に間髪入れず否定の言葉を滑り込ませる。きょとんとしながら顔ごとこちらへ向ける炭治郎に、本当に世話の焼けるやつだと玄弥はあからさまに溜息をついてやった。
「しのぶさんには黙っておいてやる。」
「え」
「だからさっさと会いに行けよ。隣の部屋だって事はわかってんだろ?」
そこまで言ってやれば流石に意味が通じたのか、炭治郎はこれでもかと丸い目を見開いた。
目覚めてから色んな人がこいつの見舞いに来たが、同じくベッドから動けずにいる日向子さんとは、未だに会う事は叶っていない。
昨日までは会う事事態を躊躇っていたようだが、後藤さんに背中を押されたからか、それからは俺にはこいつが会いたくて会いたくてうずうずしているようにしか見えないのだ。
お互い目覚めているのに、壁を隔てているとはいえ僅かな距離の向こうに居るのに、言葉を交わす事も出来ない。しのぶさんには体を無理やり動かす事は止められているようだけど、もう無理だろう。
「行けよ。骨折悪化しても知らねぇけどな」
素っ気なく言ってやったのに、彼はにこりと笑い礼を述べたのだった。
ーーーーー
〜314【心の準備】〜
目覚めて数日。胡蝶様の言う通り体は全く自由が効かなくて、起き上がる事すらも難儀だった。心苦しくもすみちゃん達や禰豆子の手を借りないと殆ど何も出来ない。着替えも厠に行くことも1人じゃ出来ないので、本当に辛い。
車椅子という画期的な移動器具をあてがわれたので、せめて移乗さえ一人でスムーズに出来れば行動範囲も広がるのだが、足の骨がある程度くっつくにはあと1週間は安静にと言われている。
こればかりはじっと待つしか無い..
色んな人が見舞いに訪れてくれたが、夜は一人きり部屋で過ごさなければいけない。
一応、何かあったら伝えるようにと遠隔式ボタンのような物を渡されたけれど、申し訳ないのでひたすら朝を待つ日々だった。
一人でいると、どうしても色んなことを考えてしまう。本当の両親はどんな最期だったのかと、想像すると気を病みそうになるが、ただ一つ...知れてよかった事もある。
【私は、捨てられたわけじゃなかった..】
実は竈門家に拾われ物心がついてからというもの、私は、(両親に捨てられたに違いない)と、そう思い込んでいた部分があった。
冬山に赤子を放って置くなんて、それしかないだろうと思っていたから。
でも違った。父さんも母さんも、私を守る為に必死に鬼から庇い戦ってくれたのだ。
本当はこの日本のどこかで生きていて欲しかった。成長した自分を見て欲しかった。会って思い切り抱きつきたかった。
でももう...それは叶わない
もう、この手は届かない。
二人は遥か遠くの星となってしまったのだから。
ただ、私は今一人じゃないし、気心の知れた仲間もたくさん出来た。大切な人もたくさん...。もう失わない。誰かを不幸にはしたくない。
二人が生きた証であるこの身は、そういう事の為に尽くそうと決めた。
「だからどうか、
ー父さん、母さんー
コンコン..
控えめに戸を叩く音が聞こえ、さっとそちらに意識を向けた。戸が開く気配がない。こちらの返答を待っているのだろうか?...
「どうぞ」
扉に向かってそう伝えれば、ゆっくりと戸が開き廊下の明かりが漏れた。そこに立っている姿を見て、信じられないとばかりに目をぱちくりさせる。
「炭治郎..」
彼は目が合うと気まずそうに少し目線を斜めに逸らしたが、すぐに真っ直ぐ向き直った。炭治郎もまだ怪我が治らず寝たきりと聞いていたのに。
いや、それもそうだが
ちょっと....心の準備がっ
ーーーーー