◆第拾壱章 吊り合いゆく天秤
貴女のお名前を教えてください
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〜307【星と日の運命】〜
ー産屋敷邸・緊急柱合会議ー
「あーぁ羨ましいことだぜぇ。何で俺は上弦に遭遇しないのかねぇ。」
「こればかりはな。遭わない者はとんとない。甘露寺、時透、その後体の方はどうだ?」
伊黒が二人に対しそう問いかけると、蜜璃は頬を染め、時透はいつもの無表情で問題無いことを主張した。そう言えば気になっている事があると、横に控えていたしのぶが手をあげる。
「今回の二人ですが、傷の治りが異常に早い。何があったんですか?」
二人の治療を施した彼女は、どうしてもこの事に違和感を覚えていた。すると、今まで無言を貫いていた冨岡が口を開く。
「その件も含めてお館様からお話があるだろう」
間も無く奥から現れたのは、当主である産屋敷輝哉ではなく、その奥方であるあまねと子供達であった。誰一人動揺した素振りを見せるものはなく、今目に入っている光景が全てを物語っている事を悟る。
あまねは毅然 とした態度で、淡々と現状を報告すると、本題へと移った。
「上弦の肆及び伍との戦いで、甘露寺様と時透様のお二人に独特な紋様の痣が発言したとの報告が上がっております。お二人には【痣の発現】について、ご教授いただきたく思います。」
彼女の言葉を聞いた二人は、明らかな反応を見せる。
あまねはかつて戦国の世で、はじまりの剣士達に鬼の紋様と似た痣が発現していた例がある事を語り始めた。
その場に居た柱の面々の殆どが、そのような歴史は初耳であり、何故固く伏せられ続けてきたのかを問うたが、あまりにも痣者について(不確定要素)が多い為であるとあまねは続ける。
「ただ一つ、はっきりと記し残されてきた言葉があります。それは..」
ー【痣の者が一人現れると、共鳴するように周りの者達にも痣が現れる】ー
しのぶは何かが合致したようにハッとすると、続いて深刻そうな表情を浮かべ顎に指を当てた。
「今、この世代で最初に痣が現れた方はお二人おります。柱の階級ではありませんでしたが、竈門炭治郎様、そして竈門日向子様。このお二人が最初の痣の者。」
あまねは思案する。彼等が痣を発現したのは、上弦の陸の頚を切った際、炭治郎と日向子の両者の日輪刀を重ね合わせた時だったらしい。
ー星と日は共に在らん、さすれば禍は退けりー
これは記述に残されている言葉ではない。ただ、代々産屋敷一族に伝えられる、公にして来なかった伝承。
今まさに、それが現実になろうとしているのか..
ーーーーー
〜308【無情な響き】〜
ー時透sideー
無一郎はまさかの事実に驚きを隠せずにいた。
まず、自分が痣を発現させていたという事も自覚はなかったし、何より...炭治郎と日向子が先に痣を発現させていたという事も知らされていなかったからだ。
お館様の事だ。水面下で事を動かしていた理由はある筈だが、痣の発現が僕ら剣士にどういう効果をもたらすのか、或いは、それがどんな意味を持つのか?
今のあまね様の言う事を加味しても、謎に包まれている現象という事しかわからない。
少なくとも、【日向子達を巻き込むような】重大な何かが起きているということ...
「痣の発現条件については、お二人に確認したところいまいち当人達もわからぬようでした。ただ、これは鬼殺隊にとって、命運を大きく分ける重要な事例なのです。お二人に続き覚醒された、甘露寺様、時透様」
ー何卒、ご教授願いますー
あまね様は手を揃え深々と頭を下げた。
その優美な姿にあてられたらしく、甘露寺さんが興奮気味に語り出したけれど...
「あの時はですね!確かにすっごく体が軽かったです!えーと、えーっと...ぐあぁぁぁ!ってきました!心臓とかがばくんばくんして耳もキーンとして!メキメキメキィッて!!」
どうやら彼女は説明の才能が皆無のようだ。
収集がつかないので、仕方なく代わりに無一郎が引き継ぐことにした。
「あの時の戦闘を思い返した時に、思い当たる事がいくつかあります。【その条件】を満たせば、皆痣が浮き出すかもしれない。」
無一郎は、当時自分の身に起きていた事象を語る。絶体絶命の状況、記憶を取り戻し鬼に対する激しい怒りの感情を剥き出しにした事。極め付けは、心拍数と体温の上昇。
彼の話を聞いた柱の反応は様々だったが、目下柱の急務として、【痣の発現と持続】それに尽きるだろうという事で落ち着いたかに見えた。
だがその後、あまね様は衝撃の事実を口にしたのだ。
「痣の訓練につきましては、一つ皆様にお伝えしておかなければいけない事があります。」
「...何でしょうか?」
甘露寺さんがきょとんとした顔で尋ねる。
普段感情を表に出さないあまね様の顔が、僅かに暗い色を帯びた気がしたのは..きっと気のせいではなかったに違いない。
「痣が発現した方はどなたも例外なく...二十五の歳を迎える迄に寿命が尽きるのです」
さすがの彼等も言葉を失う。それが誠であるのなら、
あぁ..あまりにも無情な響きであった。
日向子....
ーーーーー
〜309【託された命運】〜
「あの、あまね様」
「何でしょうか、時透様」
無一郎は不躾とは承知ながらも、こう訊 ねずにはいれられなかった。
「この事は...炭治郎と日向子には知らされているのですか?それとも、伏せておくおつもりですか」
柱の何人かは険しい表情を保ったまま、無一郎と共にあまねの発言を待った。彼女はどうやら聞かれぬ限りはこの話題に触れないつもりであったらしいが、無一郎の目を真っ直ぐ見つめ返すと、観念したように口を開いた。
「炭治郎様と日向子様には、痣の副作用の件はお伝えしておりませんし、今後も話す予定はございません。現時点では、あなた方柱の階級の剣士達には、取り急ぎ報告する必要があるというお館様のご判断です。この意味がお分かりでしょうか?」
しばらく彼等は黙っていたが、口を開いたのは柱のリーダー格である悲鳴嶼であった。
「お館様は恐らく、この副作用を知り得ても尚、我々が痣を発現させる事をお望みなのでしょう。そして、柱の我々のみにそれを伝えるという事は、【時間】が無いのですね」
「....お話が早くて助かります。最も、我々産屋敷家の人間としては、あなた方にそれを強要する事は大変不本意です。それでも鬼舞辻は今後総力を上げて我々を潰しにかかってくる。遠回りをしている暇 は残されていないのです。」
ー痣の副作用ー
自らの寿命を縮めるという決定的な難点があるという。それが広く隊士に知れれば知れる程、多くの反感を招く事は不可避である。
今こそ、鬼殺隊は互いに同じ方向を向き、結束力を持たなければならないというこの状況下で、それは避けねばならない。
故に、最高階級の柱の隊士にのみ、この事実は知らされた。私利私欲よりも鬼を滅することに全てを捧げられる精鋭達だからだ。
限られた時間で、いかにして無惨に打ち勝つ為の術を身につけられるか。鬼殺隊の命運を託されたのだ。
この場にいた柱の全員が、それを理解していた。例え、個々は意思や感情を持つ1人の人間であったとしても...
「私 からは以上です。失礼致します。」
あまねと子は恭しく頭を下げ退座した。
残された柱達は、皆今後の立ち回りを検討するつもりでいたが、冨岡だけはその話し合いに参加することを拒否した。
「おい待てェ、失礼すんじゃねぇ」
不死川が咎めると、冨岡は節目がちにこう返す。
「六人で話し合うといい、俺には関係ない。」
ーーーーー
〜310【冨岡の心情】〜
ーしのぶsideー
不死川さんや伊黒さんが不穏になるのも無理はない。6人で話せばいいと言い捨てた冨岡さんは、相変わらずその表情からは心情が読めないのだ。
彼は以前より、私達他の柱とは異なりどこか浮いた存在だった。
前に、私は彼の事を嫌われていると言ったが、心の底から忌み嫌っているわけでもない。
勿論あの時は、鬼を擁護するような言動を容認出来なかった気持ちの方が大きかった為、一体この人は何を考えてるのかと本気で激怒したのは事実だけれど...
冨岡さんは私の挑発に乗らず、一切口を割らなかった。炭治郎君達を売るような真似をしなかったのだ。
今思えば、あれが冨岡さんなりの仁義であり優しさであったのかもしれない。
救いようのない口下手なのは確かだが...
私はどうしても彼が人でなしには思えなかった。
それに彼もまた何か、何かを胸の内に抱えているようなそんな気がして、放っておけない。
「冨岡さん、理由を説明してください。さすがに言葉が足りませんよ」
血の気盛んに声を荒げる不死川達を制し、しのぶはいたって冷静にそう問いかけたが、彼から発せられる言葉はやはり皆の反感を買いかねないものであった。
「...俺は、お前たちとは違う」
その言葉を聞いて我慢ならないと不死川が立ち上がる。一触即発の状況となり、喧嘩は駄目だと間でおろおろする甘露寺に構うことなく彼が拳に血管を浮き立たせたその時。
パァァァァァン!!
ビリビリと空気が震える。仲違いと不毛を嫌う悲鳴嶼は、言葉や暴力とは別の手段でその場の空気を一掃する。
「座れ....話を進める...私から一つ提案がある。要するに鬼殺隊の総力を上げる事が目的だ。加えて時間がないのなら、答えは決まりきっている」
ー我々【柱】が直接隊員達に稽古をつけるー
彼の言うその提案は、邪道とも言える方法であった。柱が継子以外に稽古をつけるなど前代未聞、しかし確かに、それが最も妥当であるのかもしれない。
概ね悲鳴嶼に賛同を示したが、冨岡だけはやはり参加を拒否しその場を去った。その背中を、しのぶは複雑な表情で見つめる。
「あんな奴は放っておけ。自分で柱ではないと言っているんだ、その通りなんだろう。」
伊黒は怒りを通り越して呆れかえっていた。
気まずい雰囲気ではあったが、しのぶはその場ですっと手を上げる。
「あの...申し訳ありません。柱稽古の件ですが」
ー私も今回参加は致しかねますー
ー産屋敷邸・緊急柱合会議ー
「あーぁ羨ましいことだぜぇ。何で俺は上弦に遭遇しないのかねぇ。」
「こればかりはな。遭わない者はとんとない。甘露寺、時透、その後体の方はどうだ?」
伊黒が二人に対しそう問いかけると、蜜璃は頬を染め、時透はいつもの無表情で問題無いことを主張した。そう言えば気になっている事があると、横に控えていたしのぶが手をあげる。
「今回の二人ですが、傷の治りが異常に早い。何があったんですか?」
二人の治療を施した彼女は、どうしてもこの事に違和感を覚えていた。すると、今まで無言を貫いていた冨岡が口を開く。
「その件も含めてお館様からお話があるだろう」
間も無く奥から現れたのは、当主である産屋敷輝哉ではなく、その奥方であるあまねと子供達であった。誰一人動揺した素振りを見せるものはなく、今目に入っている光景が全てを物語っている事を悟る。
あまねは
「上弦の肆及び伍との戦いで、甘露寺様と時透様のお二人に独特な紋様の痣が発言したとの報告が上がっております。お二人には【痣の発現】について、ご教授いただきたく思います。」
彼女の言葉を聞いた二人は、明らかな反応を見せる。
あまねはかつて戦国の世で、はじまりの剣士達に鬼の紋様と似た痣が発現していた例がある事を語り始めた。
その場に居た柱の面々の殆どが、そのような歴史は初耳であり、何故固く伏せられ続けてきたのかを問うたが、あまりにも痣者について(不確定要素)が多い為であるとあまねは続ける。
「ただ一つ、はっきりと記し残されてきた言葉があります。それは..」
ー【痣の者が一人現れると、共鳴するように周りの者達にも痣が現れる】ー
しのぶは何かが合致したようにハッとすると、続いて深刻そうな表情を浮かべ顎に指を当てた。
「今、この世代で最初に痣が現れた方はお二人おります。柱の階級ではありませんでしたが、竈門炭治郎様、そして竈門日向子様。このお二人が最初の痣の者。」
あまねは思案する。彼等が痣を発現したのは、上弦の陸の頚を切った際、炭治郎と日向子の両者の日輪刀を重ね合わせた時だったらしい。
ー星と日は共に在らん、さすれば禍は退けりー
これは記述に残されている言葉ではない。ただ、代々産屋敷一族に伝えられる、公にして来なかった伝承。
今まさに、それが現実になろうとしているのか..
ーーーーー
〜308【無情な響き】〜
ー時透sideー
無一郎はまさかの事実に驚きを隠せずにいた。
まず、自分が痣を発現させていたという事も自覚はなかったし、何より...炭治郎と日向子が先に痣を発現させていたという事も知らされていなかったからだ。
お館様の事だ。水面下で事を動かしていた理由はある筈だが、痣の発現が僕ら剣士にどういう効果をもたらすのか、或いは、それがどんな意味を持つのか?
今のあまね様の言う事を加味しても、謎に包まれている現象という事しかわからない。
少なくとも、【日向子達を巻き込むような】重大な何かが起きているということ...
「痣の発現条件については、お二人に確認したところいまいち当人達もわからぬようでした。ただ、これは鬼殺隊にとって、命運を大きく分ける重要な事例なのです。お二人に続き覚醒された、甘露寺様、時透様」
ー何卒、ご教授願いますー
あまね様は手を揃え深々と頭を下げた。
その優美な姿にあてられたらしく、甘露寺さんが興奮気味に語り出したけれど...
「あの時はですね!確かにすっごく体が軽かったです!えーと、えーっと...ぐあぁぁぁ!ってきました!心臓とかがばくんばくんして耳もキーンとして!メキメキメキィッて!!」
どうやら彼女は説明の才能が皆無のようだ。
収集がつかないので、仕方なく代わりに無一郎が引き継ぐことにした。
「あの時の戦闘を思い返した時に、思い当たる事がいくつかあります。【その条件】を満たせば、皆痣が浮き出すかもしれない。」
無一郎は、当時自分の身に起きていた事象を語る。絶体絶命の状況、記憶を取り戻し鬼に対する激しい怒りの感情を剥き出しにした事。極め付けは、心拍数と体温の上昇。
彼の話を聞いた柱の反応は様々だったが、目下柱の急務として、【痣の発現と持続】それに尽きるだろうという事で落ち着いたかに見えた。
だがその後、あまね様は衝撃の事実を口にしたのだ。
「痣の訓練につきましては、一つ皆様にお伝えしておかなければいけない事があります。」
「...何でしょうか?」
甘露寺さんがきょとんとした顔で尋ねる。
普段感情を表に出さないあまね様の顔が、僅かに暗い色を帯びた気がしたのは..きっと気のせいではなかったに違いない。
「痣が発現した方はどなたも例外なく...二十五の歳を迎える迄に寿命が尽きるのです」
さすがの彼等も言葉を失う。それが誠であるのなら、
あぁ..あまりにも無情な響きであった。
日向子....
ーーーーー
〜309【託された命運】〜
「あの、あまね様」
「何でしょうか、時透様」
無一郎は不躾とは承知ながらも、こう
「この事は...炭治郎と日向子には知らされているのですか?それとも、伏せておくおつもりですか」
柱の何人かは険しい表情を保ったまま、無一郎と共にあまねの発言を待った。彼女はどうやら聞かれぬ限りはこの話題に触れないつもりであったらしいが、無一郎の目を真っ直ぐ見つめ返すと、観念したように口を開いた。
「炭治郎様と日向子様には、痣の副作用の件はお伝えしておりませんし、今後も話す予定はございません。現時点では、あなた方柱の階級の剣士達には、取り急ぎ報告する必要があるというお館様のご判断です。この意味がお分かりでしょうか?」
しばらく彼等は黙っていたが、口を開いたのは柱のリーダー格である悲鳴嶼であった。
「お館様は恐らく、この副作用を知り得ても尚、我々が痣を発現させる事をお望みなのでしょう。そして、柱の我々のみにそれを伝えるという事は、【時間】が無いのですね」
「....お話が早くて助かります。最も、我々産屋敷家の人間としては、あなた方にそれを強要する事は大変不本意です。それでも鬼舞辻は今後総力を上げて我々を潰しにかかってくる。遠回りをしている
ー痣の副作用ー
自らの寿命を縮めるという決定的な難点があるという。それが広く隊士に知れれば知れる程、多くの反感を招く事は不可避である。
今こそ、鬼殺隊は互いに同じ方向を向き、結束力を持たなければならないというこの状況下で、それは避けねばならない。
故に、最高階級の柱の隊士にのみ、この事実は知らされた。私利私欲よりも鬼を滅することに全てを捧げられる精鋭達だからだ。
限られた時間で、いかにして無惨に打ち勝つ為の術を身につけられるか。鬼殺隊の命運を託されたのだ。
この場にいた柱の全員が、それを理解していた。例え、個々は意思や感情を持つ1人の人間であったとしても...
「
あまねと子は恭しく頭を下げ退座した。
残された柱達は、皆今後の立ち回りを検討するつもりでいたが、冨岡だけはその話し合いに参加することを拒否した。
「おい待てェ、失礼すんじゃねぇ」
不死川が咎めると、冨岡は節目がちにこう返す。
「六人で話し合うといい、俺には関係ない。」
ーーーーー
〜310【冨岡の心情】〜
ーしのぶsideー
不死川さんや伊黒さんが不穏になるのも無理はない。6人で話せばいいと言い捨てた冨岡さんは、相変わらずその表情からは心情が読めないのだ。
彼は以前より、私達他の柱とは異なりどこか浮いた存在だった。
前に、私は彼の事を嫌われていると言ったが、心の底から忌み嫌っているわけでもない。
勿論あの時は、鬼を擁護するような言動を容認出来なかった気持ちの方が大きかった為、一体この人は何を考えてるのかと本気で激怒したのは事実だけれど...
冨岡さんは私の挑発に乗らず、一切口を割らなかった。炭治郎君達を売るような真似をしなかったのだ。
今思えば、あれが冨岡さんなりの仁義であり優しさであったのかもしれない。
救いようのない口下手なのは確かだが...
私はどうしても彼が人でなしには思えなかった。
それに彼もまた何か、何かを胸の内に抱えているようなそんな気がして、放っておけない。
「冨岡さん、理由を説明してください。さすがに言葉が足りませんよ」
血の気盛んに声を荒げる不死川達を制し、しのぶはいたって冷静にそう問いかけたが、彼から発せられる言葉はやはり皆の反感を買いかねないものであった。
「...俺は、お前たちとは違う」
その言葉を聞いて我慢ならないと不死川が立ち上がる。一触即発の状況となり、喧嘩は駄目だと間でおろおろする甘露寺に構うことなく彼が拳に血管を浮き立たせたその時。
パァァァァァン!!
ビリビリと空気が震える。仲違いと不毛を嫌う悲鳴嶼は、言葉や暴力とは別の手段でその場の空気を一掃する。
「座れ....話を進める...私から一つ提案がある。要するに鬼殺隊の総力を上げる事が目的だ。加えて時間がないのなら、答えは決まりきっている」
ー我々【柱】が直接隊員達に稽古をつけるー
彼の言うその提案は、邪道とも言える方法であった。柱が継子以外に稽古をつけるなど前代未聞、しかし確かに、それが最も妥当であるのかもしれない。
概ね悲鳴嶼に賛同を示したが、冨岡だけはやはり参加を拒否しその場を去った。その背中を、しのぶは複雑な表情で見つめる。
「あんな奴は放っておけ。自分で柱ではないと言っているんだ、その通りなんだろう。」
伊黒は怒りを通り越して呆れかえっていた。
気まずい雰囲気ではあったが、しのぶはその場ですっと手を上げる。
「あの...申し訳ありません。柱稽古の件ですが」
ー私も今回参加は致しかねますー