◆第拾壱章 吊り合いゆく天秤
貴女のお名前を教えてください
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〜303【太陽を克服せし者】〜
バサバサバサ...
屋敷内に大量の本がばら撒かれる音が響く。
そこへ上品な笑みを浮かべる初老の女性と、給仕係の女が訪ねて来た。
「あら俊國、こんなに散らかしてどうしたの?」
子がこんな乱雑な事をしたなら本来叱ってやるのが教育というものだろうが、実子を設けられない体の彼女にとって、目の前の少年は目の中に入れても痛くない程に可愛いらしい存在。彼にはめっぽう甘く、そのような【育てられ方】をしてきた。
俊國と呼ばれた少年はふるふると小刻みに震えて、こう呟く。
「ついにっ..太陽を克服するものが現れた。よくやった半天狗っ!」
育て親の問いにも答えずただただ感激に身を震わす少年。その意味を単なる子供の戯 れとしてしか捉えない彼女がまた一歩、少年へ近づいた瞬間。ビシャリと鮮血が部屋に飛び散った。
隣にいた給仕係の女は、何が起きたのか理解が追いつかずさっと顔を青くして恐る恐る主人の方へ目を向ける。
「奥様...?」
「ククク..これでもう青い彼岸花を探す必要はない。永かった、しかし全てこの為..この為千年、増やしたくもない同類を増やし続けたのだ。あの娘を喰って取り込めば!」
「!」
目の前の見慣れた少年が、メキメキと音を立てて成人男性の姿へ変わっていく。にわかには信じ難い光景に女は恐怖でわなわなと震えた。
【私も太陽を克服出来る!!】
バッと両腕を掲げて歓喜の雄叫びをあげる男。女は弾けるように悲鳴を上げて助けを求めるようと身を翻した。
「キャアァァァァッ人殺し!!化け物化け物ーーーッ!!旦那さ
悲鳴は不自然に止み、人の身だったそれはグシャリと音を立てて床に倒れ込んだ。
二人の亡骸には一切目もくれず、男はギロリとした眼を忌々しげに夜空へ向けていた。
永かった。
この千代、一切太陽に触れる事が叶わなかった。それは無惨にとって、屈辱であり、激しい憎悪を抱かせるものでもあった。
当初はその身に太陽そのものを宿す巫一族の女子を上手く使おうと試みたが、それも失敗に終わり。
何百年ぶりに、私をかつて追い詰めた耳飾りの剣士が新たに目の前に現れた。
それからというもの番狂わせ続きで、無惨の怒りが頂点に達していた矢先の吉報。
ー太陽を克服した鬼の出現ー
その鬼は、無惨を翻弄する張本人達の妹。
前代未聞の、何か特別な作用を経て構築された特異体質に違いない。期待値は大きかった。
「必ずや手に入れて見せよう」
ーーーーー
〜304【明けぬ夜などないから】〜
更なる苛烈 な闘いへの序章。
人々は愛する人や物を失った哀しみを悼 む暇も無く、前を向き歩き続けるしかないのだ。
生滅流転 、無情にも世の中は廻っていく。明けぬ夜などない。
それをひたすら信じて...彼等は各々、自ら再び剣を取るのだった。
「そうなんですね。また拠点移して..」
あの未曾有の襲撃から早1週間が過ぎた。炭治郎はすっかり意識を取り戻して、一早く体を動かせるようにとモリモリ飯を口に運んでいた。
その横で見舞いに来た後藤が呆れるようにため息をつく。
「おいおい、お前また7日も意識なかったのにいきなりそんな食って大丈夫?」
「はい!甘露寺さんもいっぱい食べるって言ってたので!」
彼女はちょっと原理の外側にいる感じだから、あまり参考にしない方がいいと思うけどなぁ...後藤はそう思ったけれど、あまり細かい事は言わないでおいた。
柱の時透無一郎と甘露寺蜜璃、この2人も先日の戦闘において大きな怪我を負ったらしいが、
さすがは柱といったところか、丸2日眠ってその後3日程で全回復したのだと言うから驚きだ。
ーお前もだんだんと近づいてんな、だんだんと..ー
「あ!そうだこれ一番聞きたかったんだわ!妹がど偉い事になってるらしいじゃねぇか!」
太陽を克服したらしいと聞いたが、炭治郎に尋ねるとどうやら誠のようで、目下原因を模索中なのだと言う。彼は握り飯を皿に置くと、少し心許なそうに語り始めた。
「今珠世さんに調べて貰ってますが、恐らく..日向子姉さんの血が関係してる可能性があるんじゃないかと」
「日向子さんの?」
今までの鬼の戦闘を経て、要は禰豆子と日向子はお互いの血の成分を交換し合っている状況である。それがきっかけであったのだろうか...様々な仮定を視野に入れて珠世が原因を探っているところだ。
ーこれが、禰豆子が人間に戻る方法へと繋がればいいのだけどー
「そっか、まぁ...理由がどうあれ皆が五体満足で生きて帰れて、妹も日の下を歩けるようになったなら良かったじゃねぇか。そういや、その日向子さんは目が醒めたのか?」
「あ、はい!彼女も目が醒めたみたいです。ただ、両脚を骨折してるみたいで、すみちゃん達が交互につきっきりで診てくれてます。」
「まじか...女の子なのに可哀想だなぁ。」
その言葉をどう捉えたかわからないが、炭治郎は辛そうに眉を寄せて俯いた。
ーーーーー
〜305【一生涯彼女を】〜
「本当に、日向子姉さんには無茶をさせてばかりで...申し訳が立たない。俺の、責任です。」
炭治郎はぎゅっと拳を握り締める。
彼女が負った腹の傷も、痕が残るのは確実であるとしのぶさんに言われた。それを聞いた時、激しい自責の念に駆られたのだ。
嫁入り前の彼女を、取り返しのつかない傷物にしてしまった事。まだ目覚めてから彼女に会ってはいないけれど、どんな顔をして会えばいいのか...分からない。
ご両親の事も、まさかこんな最悪の形で知る事になろうとは、世の中はなんて残酷なのだろうか。
体は勿論だけれど、彼女の心が....心配でならない。
善良な人間に対してもこんな仕打ちなんて
「後藤さん...この世に神様って本当にいるんですかね。」
炭治郎が気弱な声色でそう問いかけた時、後藤は思い切り彼の頭をぶっ叩いた。
「いっ!..」
「馬鹿野郎お前がそんな弱腰でどうすんだよ!何があったかなんて詳しく俺にはわからないけどな、そんなんじゃ日向子さんだって頼りたくても頼れないだろうが!傷物にした事を悔いてるなら、お前が全力で責任取ってやれ!間違っても悲運を彼女と一緒になって哀れむんじゃねぇぞ!」
後藤が一息にそう気持ちをぶつけると、炭治郎ははっとして目が覚めたように瞳に色を取り戻した。
「すみません..。そうですよね、俺がこんなんじゃ駄目だ。俺!もっと彼女に頼られる男になりたいです。責任だって無論取るつもりです、他の男に彼女はやりませんから!俺がっ...」
普段気怠そうにしている後藤さんの目が、驚きに見開かれている。自分が放った発言に対してだと気付くと、炭治郎はかぁっと顔を赤くした。
慌てて食べかけの握り飯にかぶり付くと、もろに気管支に入ったのかうっと息がつまり盛大に咳き込んで米を撒き散らした。
ドンドンと胸板を叩き慌てて差し出された水を飲んでしばらくし、ようやく調子を取り戻せた。
「いきなりがっつくからだ。大丈夫か?」
「ぅ....ゲホッ、あい..大丈夫です」
炭治郎は背中をさすられながら、先程発しようとした言葉を思い返す。
俺が娶 ります
例え彼女が傷物になって嫁の貰い手がない状況でも、そうでなかったとしても、炭治郎の中で昔から答えは揺るがない。
それは単に責任感からというだけではなく、純粋に、日向子姉さんの事を異性として慕っているから。
例え傷痕があろうと、五体満足でなかろうとも
俺は一生涯、彼女を愛し通す自信がある
ーーーーー
〜306【純粋なる愛】〜
「ねぇねぇお母さん!お母さんは何でお父さんと結婚したの?結婚する時お父さんに何て言われたの?」
昔、花子が興味本位で母にそう聞いていた事があった。この頃の女の子というのはそういう話題に敏感なようだ。その場に居合わせたいた父は勢いよく麦茶を吹いていたのを思い出す。母は少し照れ臭そうに笑いながら、こう言った。
「父さんと一緒になったのは、母さんの心が、この人の側にずっと居たいって叫んでたからなのよ。何があっても、側で支えたいと思ったから。結婚する時は....」
「父さんから母さんに求婚したんだ。父さん駄目なところはたくさんあるけどね、それでも母さんを一生愛する自信だけは在った。そんな俺の手を取ってくれた母さんには、感謝してもしきれないよ。花子も、いつかそういう人を見つけられるといいね。」
顔を真っ赤にしながら、それでも父さんは自らの口で俺達にそう教えてくれた。
女子は浪漫ちっくねと沸き立ち、男子は炭治郎も含め照れ臭く複雑な顔をしていたけど、母さんは改めて父さんからその言葉を聞いて、それはそれは嬉しそうに微笑んでいた。
父さんは生まれつき体が弱くて、もう満足に体を動かせない日も多くなってきていた。例え周りから何を言われても、父さんと母さんはお互いを信じ支え合って来たのだ。
そんな相思相愛な両親を見て育ったからか、夫婦になるというのは、凄く幸せで素晴らしい事なのだと知っていた。憧れは強くあった。
ー愛っていうのは、きっと見返りを求めず相手を深く慈しむ事なんだー
父さんと母さんは、そう思える人と出会ったのだ。
俺は.....
彼女の為なら..何でも出来るし耐えられる自信がある。
幼くしてそう思えるくらい、炭治郎にとって日向子はかけがえのない女性で、陳腐と思われるかもしれないが、この人が運命の人だとすれば、全てがしっくりくるのだ。
俺も、例え日向子さんが病を患っても、体の一部を失っても、それでも迷わず彼女の手を引くだろう。
炭治郎を構築する全てが、彼女を求めてやまないのがわかる。これが愛ではなくして何であると言うのか。
「...俺、体が動くようになったらやりたい事があるんです。勿論、お館様に許可を得ないといけないんですけど」
「そうかい。何かは聞かねぇけどよ、どうしてもやらなきゃいけない事なら頼み込んででもやり遂げろよ。一生、後悔しないようにな。」
そう言った後藤はどこか優しげな目をしていた。
ーーーーー
バサバサバサ...
屋敷内に大量の本がばら撒かれる音が響く。
そこへ上品な笑みを浮かべる初老の女性と、給仕係の女が訪ねて来た。
「あら俊國、こんなに散らかしてどうしたの?」
子がこんな乱雑な事をしたなら本来叱ってやるのが教育というものだろうが、実子を設けられない体の彼女にとって、目の前の少年は目の中に入れても痛くない程に可愛いらしい存在。彼にはめっぽう甘く、そのような【育てられ方】をしてきた。
俊國と呼ばれた少年はふるふると小刻みに震えて、こう呟く。
「ついにっ..太陽を克服するものが現れた。よくやった半天狗っ!」
育て親の問いにも答えずただただ感激に身を震わす少年。その意味を単なる子供の
隣にいた給仕係の女は、何が起きたのか理解が追いつかずさっと顔を青くして恐る恐る主人の方へ目を向ける。
「奥様...?」
「ククク..これでもう青い彼岸花を探す必要はない。永かった、しかし全てこの為..この為千年、増やしたくもない同類を増やし続けたのだ。あの娘を喰って取り込めば!」
「!」
目の前の見慣れた少年が、メキメキと音を立てて成人男性の姿へ変わっていく。にわかには信じ難い光景に女は恐怖でわなわなと震えた。
【私も太陽を克服出来る!!】
バッと両腕を掲げて歓喜の雄叫びをあげる男。女は弾けるように悲鳴を上げて助けを求めるようと身を翻した。
「キャアァァァァッ人殺し!!化け物化け物ーーーッ!!旦那さ
悲鳴は不自然に止み、人の身だったそれはグシャリと音を立てて床に倒れ込んだ。
二人の亡骸には一切目もくれず、男はギロリとした眼を忌々しげに夜空へ向けていた。
永かった。
この千代、一切太陽に触れる事が叶わなかった。それは無惨にとって、屈辱であり、激しい憎悪を抱かせるものでもあった。
当初はその身に太陽そのものを宿す巫一族の女子を上手く使おうと試みたが、それも失敗に終わり。
何百年ぶりに、私をかつて追い詰めた耳飾りの剣士が新たに目の前に現れた。
それからというもの番狂わせ続きで、無惨の怒りが頂点に達していた矢先の吉報。
ー太陽を克服した鬼の出現ー
その鬼は、無惨を翻弄する張本人達の妹。
前代未聞の、何か特別な作用を経て構築された特異体質に違いない。期待値は大きかった。
「必ずや手に入れて見せよう」
ーーーーー
〜304【明けぬ夜などないから】〜
更なる
人々は愛する人や物を失った哀しみを
それをひたすら信じて...彼等は各々、自ら再び剣を取るのだった。
「そうなんですね。また拠点移して..」
あの未曾有の襲撃から早1週間が過ぎた。炭治郎はすっかり意識を取り戻して、一早く体を動かせるようにとモリモリ飯を口に運んでいた。
その横で見舞いに来た後藤が呆れるようにため息をつく。
「おいおい、お前また7日も意識なかったのにいきなりそんな食って大丈夫?」
「はい!甘露寺さんもいっぱい食べるって言ってたので!」
彼女はちょっと原理の外側にいる感じだから、あまり参考にしない方がいいと思うけどなぁ...後藤はそう思ったけれど、あまり細かい事は言わないでおいた。
柱の時透無一郎と甘露寺蜜璃、この2人も先日の戦闘において大きな怪我を負ったらしいが、
さすがは柱といったところか、丸2日眠ってその後3日程で全回復したのだと言うから驚きだ。
ーお前もだんだんと近づいてんな、だんだんと..ー
「あ!そうだこれ一番聞きたかったんだわ!妹がど偉い事になってるらしいじゃねぇか!」
太陽を克服したらしいと聞いたが、炭治郎に尋ねるとどうやら誠のようで、目下原因を模索中なのだと言う。彼は握り飯を皿に置くと、少し心許なそうに語り始めた。
「今珠世さんに調べて貰ってますが、恐らく..日向子姉さんの血が関係してる可能性があるんじゃないかと」
「日向子さんの?」
今までの鬼の戦闘を経て、要は禰豆子と日向子はお互いの血の成分を交換し合っている状況である。それがきっかけであったのだろうか...様々な仮定を視野に入れて珠世が原因を探っているところだ。
ーこれが、禰豆子が人間に戻る方法へと繋がればいいのだけどー
「そっか、まぁ...理由がどうあれ皆が五体満足で生きて帰れて、妹も日の下を歩けるようになったなら良かったじゃねぇか。そういや、その日向子さんは目が醒めたのか?」
「あ、はい!彼女も目が醒めたみたいです。ただ、両脚を骨折してるみたいで、すみちゃん達が交互につきっきりで診てくれてます。」
「まじか...女の子なのに可哀想だなぁ。」
その言葉をどう捉えたかわからないが、炭治郎は辛そうに眉を寄せて俯いた。
ーーーーー
〜305【一生涯彼女を】〜
「本当に、日向子姉さんには無茶をさせてばかりで...申し訳が立たない。俺の、責任です。」
炭治郎はぎゅっと拳を握り締める。
彼女が負った腹の傷も、痕が残るのは確実であるとしのぶさんに言われた。それを聞いた時、激しい自責の念に駆られたのだ。
嫁入り前の彼女を、取り返しのつかない傷物にしてしまった事。まだ目覚めてから彼女に会ってはいないけれど、どんな顔をして会えばいいのか...分からない。
ご両親の事も、まさかこんな最悪の形で知る事になろうとは、世の中はなんて残酷なのだろうか。
体は勿論だけれど、彼女の心が....心配でならない。
善良な人間に対してもこんな仕打ちなんて
「後藤さん...この世に神様って本当にいるんですかね。」
炭治郎が気弱な声色でそう問いかけた時、後藤は思い切り彼の頭をぶっ叩いた。
「いっ!..」
「馬鹿野郎お前がそんな弱腰でどうすんだよ!何があったかなんて詳しく俺にはわからないけどな、そんなんじゃ日向子さんだって頼りたくても頼れないだろうが!傷物にした事を悔いてるなら、お前が全力で責任取ってやれ!間違っても悲運を彼女と一緒になって哀れむんじゃねぇぞ!」
後藤が一息にそう気持ちをぶつけると、炭治郎ははっとして目が覚めたように瞳に色を取り戻した。
「すみません..。そうですよね、俺がこんなんじゃ駄目だ。俺!もっと彼女に頼られる男になりたいです。責任だって無論取るつもりです、他の男に彼女はやりませんから!俺がっ...」
普段気怠そうにしている後藤さんの目が、驚きに見開かれている。自分が放った発言に対してだと気付くと、炭治郎はかぁっと顔を赤くした。
慌てて食べかけの握り飯にかぶり付くと、もろに気管支に入ったのかうっと息がつまり盛大に咳き込んで米を撒き散らした。
ドンドンと胸板を叩き慌てて差し出された水を飲んでしばらくし、ようやく調子を取り戻せた。
「いきなりがっつくからだ。大丈夫か?」
「ぅ....ゲホッ、あい..大丈夫です」
炭治郎は背中をさすられながら、先程発しようとした言葉を思い返す。
俺が
例え彼女が傷物になって嫁の貰い手がない状況でも、そうでなかったとしても、炭治郎の中で昔から答えは揺るがない。
それは単に責任感からというだけではなく、純粋に、日向子姉さんの事を異性として慕っているから。
例え傷痕があろうと、五体満足でなかろうとも
俺は一生涯、彼女を愛し通す自信がある
ーーーーー
〜306【純粋なる愛】〜
「ねぇねぇお母さん!お母さんは何でお父さんと結婚したの?結婚する時お父さんに何て言われたの?」
昔、花子が興味本位で母にそう聞いていた事があった。この頃の女の子というのはそういう話題に敏感なようだ。その場に居合わせたいた父は勢いよく麦茶を吹いていたのを思い出す。母は少し照れ臭そうに笑いながら、こう言った。
「父さんと一緒になったのは、母さんの心が、この人の側にずっと居たいって叫んでたからなのよ。何があっても、側で支えたいと思ったから。結婚する時は....」
「父さんから母さんに求婚したんだ。父さん駄目なところはたくさんあるけどね、それでも母さんを一生愛する自信だけは在った。そんな俺の手を取ってくれた母さんには、感謝してもしきれないよ。花子も、いつかそういう人を見つけられるといいね。」
顔を真っ赤にしながら、それでも父さんは自らの口で俺達にそう教えてくれた。
女子は浪漫ちっくねと沸き立ち、男子は炭治郎も含め照れ臭く複雑な顔をしていたけど、母さんは改めて父さんからその言葉を聞いて、それはそれは嬉しそうに微笑んでいた。
父さんは生まれつき体が弱くて、もう満足に体を動かせない日も多くなってきていた。例え周りから何を言われても、父さんと母さんはお互いを信じ支え合って来たのだ。
そんな相思相愛な両親を見て育ったからか、夫婦になるというのは、凄く幸せで素晴らしい事なのだと知っていた。憧れは強くあった。
ー愛っていうのは、きっと見返りを求めず相手を深く慈しむ事なんだー
父さんと母さんは、そう思える人と出会ったのだ。
俺は.....
彼女の為なら..何でも出来るし耐えられる自信がある。
幼くしてそう思えるくらい、炭治郎にとって日向子はかけがえのない女性で、陳腐と思われるかもしれないが、この人が運命の人だとすれば、全てがしっくりくるのだ。
俺も、例え日向子さんが病を患っても、体の一部を失っても、それでも迷わず彼女の手を引くだろう。
炭治郎を構築する全てが、彼女を求めてやまないのがわかる。これが愛ではなくして何であると言うのか。
「...俺、体が動くようになったらやりたい事があるんです。勿論、お館様に許可を得ないといけないんですけど」
「そうかい。何かは聞かねぇけどよ、どうしてもやらなきゃいけない事なら頼み込んででもやり遂げろよ。一生、後悔しないようにな。」
そう言った後藤はどこか優しげな目をしていた。
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