◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
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〜290【恋の呼吸】〜
日向子が柄から手を離すと、すぐさま鬼は攻撃を仕掛けてきた。
再び木の竜は動力を持つと禰豆子達の体を絡めとり、反応して距離を取った炭治郎をも手に掛ける。そのままギュンと縮み、バクンと大口の中へと彼を引き込んだ。
「た、炭治郎っーーー!!」
助けに向かおうにも日輪刀は奴の背中に刺さったままだし、駆けつけられたとして先に彼の体が圧迫死してしまう。
日向子は必死に考えを巡らせたが、有効な手立てが思い付かず、はくはくと息急く。
ーどうしよう、どうしたらっー
その時、後ろからふおっと微かに風が靡 いてきた。
何かが横切った?..
それは鮮やかな光景だった。炭治郎を飲み込んでいた竜の体に細かい斬撃が走り、バラバラと崩れ落ちていく。遥か上空に飛び上がった影を見て日向子は泣きそうになった。
「甘露寺様だ」
桃色と若草色の三つ編みをなびかせて、背中に炭治郎を背負っていた。
「きゃあーー!凄いお化けなあにあれ!」
蜜璃は悲鳴をあげ眼下の憎鬼を見下ろすと、遅れてしまってごめんねぇと言いながら炭治郎の状態を気遣った。
炭治郎は絶体絶命の時に突如として現れた彼女を見て、思わず安堵した表情を見せる。
華麗に着地した蜜璃はてきぱきとした動作で彼を下ろして後は任せてねと胸を叩いた。
「まっ、待って!ッ上弦です!上弦の肆で..」
炭治郎が説明する前に、彼女はダンッと地を蹴り憎鬼の前に立ちはだかった。
「ちょっと君おいたが過ぎるわよ!禰豆子ちゃんと玄弥君、日向子ちゃん達はまとめて返して貰うからね!」
ぷんすこと怒りながら刀を持つ右手を突き出す。悪い事をした子供を叱るように蜜璃がそう言うと、憎鬼は忌々しそうな眼差しを向け、日向子の日輪刀をずるりと抜き取り真っ二つにへし折った。
「黙れあばずれがっ、儂に命令して良いのはこの世でお一方のみぞ」
その言葉遣いに衝撃を受けていたようだが、鬼は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
炭治郎が危ないと叫ぶと、蜜璃は眼の色を変えた。
日向子が彼女と共に温泉に入った時、岩を粉々にした際に見せたあの表情だった。
今の甘露寺様は【凄く怒ってらっしゃる】
ー恋の呼吸 参ノ型
恋猫しぐれッー!!
彼女の斬撃は非常にしなやかで速く、攻撃そのものを断ち切った。その光景に炭治郎も日向子もあいた口が塞がらず度肝を抜かれる。
「私怒ってるから。見た目が子供でも許さないわよ!!」
ーーーーー
〜291【蜜璃の秘事】〜
激しい技の打ち合いが繰り広げられている。
鬼の攻撃は呼吸の暇さえ与えてくれない程速いが、蜜璃の恋の呼吸はその速さに対抗出来ていた。
体操選手のリボンのように舞う刃が、ぐるぐると鬼の頚へ巻かれ王手がかけられたかのように見えたが..
「甘露寺さん!そいつは本体じゃないっ!頚を斬っても死なない!」
「えっ!?嘘!」
彼女はさぁっと顔面を青くさせた。何かしようとしていたのは気付いていたが、頚を斬ってしまえば問題ないと思った。
ー判断を間違えたっー
瞬時に全身を硬直させて筋肉を硬らせる。しかし、至近距離で受けた音波の血鬼術は、容易に蜜璃の意識を奪い膝をつかせた。
一方憎鬼は彼女の見た目に納得がいってない素振りを見せたが、一人でに何かの結論に至るとにやりと笑い拳を握り締めた。そしてそれは、彼女の頭部に狙いを定める。
「甘露寺さんっ!」
炭治郎と日向子はほぼ同時に駆け出した。
ー【間に合え、間に合えッ!!!】ー
ーーーーー
蜜璃は走馬灯の記憶を見た。
あれは梅の花が芽吹く、初春の頃だった。
「君と結婚出来るなど熊か猪か牛くらいでしょう。そのおかしな頭の色も、子供に遺伝したらと思うとゾッとします」
この見合い は無かったことにと、心無い言葉を吐き捨てられて、目の前から彼は去っていった。
女性は、か弱くて小食で、男性の後を控えめについていき立てるような、そんな人が理想とされる時代。
自分はと言うと、大和撫子とは正反対。
そりゃあ見合いも破談になるかと、蜜璃はじわりと滲む涙を拭うしか無かった。
ーこんな自分は隠さないといけないー
その後は、世間一般的に言う理想の女性になろうと努力した。食べるのも我慢、髪の毛も暗く染めて、力も人並みに弱いフリをした。
やがてそんな彼女を貰いたいという男性が現れた。
けれど、本当の自分を隠せば隠すほど、周りに嘘を吐けば吐くほど、蜜璃の気持ちは重く沈んでいく。
一生こんな仮面を被って生きていかなければいけないのかと思うと、酷く辛かった。
ーこの世には本当の私を愛してくれる人は居ないのだろうか?ー
ー本当の自分が役に立てる事って無いのだろうか?ー
もしそれらがあるなら、私は私として生きていく価値だってあるんじゃないのか?
嘘偽りで塗り固められた私を、私自身が好きになれないのなら、この先の人生に意味なんてないから。
だから私は
自分自身の居場所を求め続けた。
ーーーーー
〜292【信頼】〜
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
「っ!」
勢い良く地面に雪崩れ込んだ衝撃で蜜璃はハッと目を覚ました。
胸元には炭治郎達4人が乗っかっていて、彼等が懸命に鬼の攻撃から守ってくれていたのだと分かった。
「立て立て立てッ!次の攻撃来るぞ!」
「うるせぇ!言われなくてもわかってるっつの!」
「甘露寺さんを守るんだ!希望の光だ!この人が生きていてくれさえすれば必ず勝てるっ!」
「そうだよ!皆で勝とう!私達は誰も死なない!生きて帰るんだから!」
炭治郎と玄弥の喧嘩越しな会話でさえも、蜜璃の心にはじんわりと温かさが染み渡っていくようだった。
鬼殺隊に入る前までは、皆が自分の事を遠巻きに恐れていた。
けれど、彼等は頼ってくれている。希望を託してくれる。
嬉しい...凄く嬉しい。
私が私で居てもいいのだと、肯定してくれる。
ー鬼殺隊...ー
ここが本当の私の居場所
なら私は
【この場所を守る為に全力で戦う】
ピシャリと雷鳴が轟いた。
凄まじい衝撃であたりに砂埃が立ち昇る。炭治郎達は皆何が起きたのか一瞬わからないまま、徐々に目を開いていった。
目線を僅か上に向けると、片っ端から雷鳴を切り裂いた蜜璃の愛刀がゆらりと揺れていた。
「皆ありがとうーー!柱なのにヘマしちゃってごめんねぇ~~!仲間は絶対死なせないから!鬼殺隊 は私の大切な居場所なんだから上弦だろうが関係ないわよー!私悪い奴には絶対負けない!覚悟しなさいよ本気出すから~~っ!!」
女の子なのにこんな強くなっていいのかなって、また人間じゃないって言われるんじゃないのかなって、そう思ったことも正直あった。
けど..きっと私が丈夫な体で産まれてきた意味はあったんだ。だってそうじゃなきゃ皆を守れないものね。
蜜璃はキッと鋭い目線を向け言い放つ。
「任せといて、皆私が守るからね」
ここは任せてくれと彼女は勢いよく憎鬼の元へ駆けて行った。
炭治郎らは蜜璃にこの場を託し、本体鬼の討伐へと向かう。
「本体の入ってる玉は何処だ?!炭治郎わかるか!」
「わかる!こっちだ!」
憎鬼は彼等を逃すまいとすかさず竜の頭を飛ばそうとするが、先刻よりも素早さが増した蜜璃の技が行手を阻む。
「貴方の相手は私よ、あの子達の所へは行かせないんだから!」
炭治郎達が頼ってくれたように、彼女もまた彼等に託した。
ー必ず、彼等が本体の頚を斬る事を信じてー
ーーーーー
〜293【罪の重さ】〜
「見つけた!あれだ!」
炭治郎が指差した方向には大きな木の玉がぽっこりと地面に突き出ていた。禍々しい生命を宿しているかのようなオーラを感じ、日向子はゴクリと唾を飲む。
「よし、さっさと切っちまうぞ!」
玄弥の掛け声に力強く頷いた炭治郎が、思い切り腕を振りかざした瞬間、妙な気配を察知した日向子が声を張り上げる。
「駄目!枝に掴まって!!」
突如木の玉が浮き上がり、ボコボコと豆の木のようにせり上がる植物に、炭治郎らは必死にしがみついて振り落とされないよう踏ん張っていた。
本体が隠れている木の玉は目と鼻の先にあるのに、木の幹が邪魔をして彼等は思うように刀を振れない。
少しでも気を抜けば思い切り地面に体を叩きつけられてしまう。
無茶であるのを承知で日向子は咄嗟に巫の異能を発動した。
彼女が触れているその箇所から徐々に木が焼け焦げていく。やがて比重に耐えきれなくなった幹はぐらりと大きく傾いて倒れた。
「今よ炭治郎っ!」
木の玉を抱え込むようにしていた炭治郎が、すかさず刀を構え直すも、ビュルビュルと新たに生えてきた枝の鞭 によって攻撃を阻まれる。
「ぐあぁっ」
兄に群がる枝を見た禰豆子はバッと腕を広げて血鬼術を発動させる。
禰豆子の炎が幹全体を包み込んだ。怯んだ一瞬の隙を狙い、再び赫く爆ぜた炭治郎の日輪刀が火を噴きあげる。
「ヒノカミ神楽ッ 炎舞!!」
彼等の見事な連携により木の玉を斬る事が出来た。そしてついに、本体と相見えるところまで漕ぎ付けられた筈だったが...
ー居ない?ー
確かにこの木の玉に本体が隠されたところをこの目で見た。しかし現に奴の姿はどこにもない。
【また逃げた】
そうみなす他ない。炭治郎は悔しさに歯がみし、すぐに辺りの気配を探る。
絶対に逃しはしない。数多くの罪無き命を手にかけた、そして何より、愛する人を絶望の淵に突き落とし哀しみの涙を流させた。
炭治郎にとって、その罪の重さは計り知れない。
ー何処だ、何処にいるっ!ー
近くなっていく匂いの先に目を向けると、怯えた声を上げながら一目散に逃げていく鬼の背中を見つけた。
散々な罪を犯しておきながら、その情け無く臆病な様に、再び炭治郎の怒りは頂点に達する。
「貴様ァァ逃げるなァァ!!責任から逃げるなァァ!!お前が今まで犯した罪、悪業!そのすべての責任は絶対に取らせるッ!」
絶対に逃がさないからなッ
ーーーーー
日向子が柄から手を離すと、すぐさま鬼は攻撃を仕掛けてきた。
再び木の竜は動力を持つと禰豆子達の体を絡めとり、反応して距離を取った炭治郎をも手に掛ける。そのままギュンと縮み、バクンと大口の中へと彼を引き込んだ。
「た、炭治郎っーーー!!」
助けに向かおうにも日輪刀は奴の背中に刺さったままだし、駆けつけられたとして先に彼の体が圧迫死してしまう。
日向子は必死に考えを巡らせたが、有効な手立てが思い付かず、はくはくと息急く。
ーどうしよう、どうしたらっー
その時、後ろからふおっと微かに風が
何かが横切った?..
それは鮮やかな光景だった。炭治郎を飲み込んでいた竜の体に細かい斬撃が走り、バラバラと崩れ落ちていく。遥か上空に飛び上がった影を見て日向子は泣きそうになった。
「甘露寺様だ」
桃色と若草色の三つ編みをなびかせて、背中に炭治郎を背負っていた。
「きゃあーー!凄いお化けなあにあれ!」
蜜璃は悲鳴をあげ眼下の憎鬼を見下ろすと、遅れてしまってごめんねぇと言いながら炭治郎の状態を気遣った。
炭治郎は絶体絶命の時に突如として現れた彼女を見て、思わず安堵した表情を見せる。
華麗に着地した蜜璃はてきぱきとした動作で彼を下ろして後は任せてねと胸を叩いた。
「まっ、待って!ッ上弦です!上弦の肆で..」
炭治郎が説明する前に、彼女はダンッと地を蹴り憎鬼の前に立ちはだかった。
「ちょっと君おいたが過ぎるわよ!禰豆子ちゃんと玄弥君、日向子ちゃん達はまとめて返して貰うからね!」
ぷんすこと怒りながら刀を持つ右手を突き出す。悪い事をした子供を叱るように蜜璃がそう言うと、憎鬼は忌々しそうな眼差しを向け、日向子の日輪刀をずるりと抜き取り真っ二つにへし折った。
「黙れあばずれがっ、儂に命令して良いのはこの世でお一方のみぞ」
その言葉遣いに衝撃を受けていたようだが、鬼は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
炭治郎が危ないと叫ぶと、蜜璃は眼の色を変えた。
日向子が彼女と共に温泉に入った時、岩を粉々にした際に見せたあの表情だった。
今の甘露寺様は【凄く怒ってらっしゃる】
ー恋の呼吸 参ノ型
恋猫しぐれッー!!
彼女の斬撃は非常にしなやかで速く、攻撃そのものを断ち切った。その光景に炭治郎も日向子もあいた口が塞がらず度肝を抜かれる。
「私怒ってるから。見た目が子供でも許さないわよ!!」
ーーーーー
〜291【蜜璃の秘事】〜
激しい技の打ち合いが繰り広げられている。
鬼の攻撃は呼吸の暇さえ与えてくれない程速いが、蜜璃の恋の呼吸はその速さに対抗出来ていた。
体操選手のリボンのように舞う刃が、ぐるぐると鬼の頚へ巻かれ王手がかけられたかのように見えたが..
「甘露寺さん!そいつは本体じゃないっ!頚を斬っても死なない!」
「えっ!?嘘!」
彼女はさぁっと顔面を青くさせた。何かしようとしていたのは気付いていたが、頚を斬ってしまえば問題ないと思った。
ー判断を間違えたっー
瞬時に全身を硬直させて筋肉を硬らせる。しかし、至近距離で受けた音波の血鬼術は、容易に蜜璃の意識を奪い膝をつかせた。
一方憎鬼は彼女の見た目に納得がいってない素振りを見せたが、一人でに何かの結論に至るとにやりと笑い拳を握り締めた。そしてそれは、彼女の頭部に狙いを定める。
「甘露寺さんっ!」
炭治郎と日向子はほぼ同時に駆け出した。
ー【間に合え、間に合えッ!!!】ー
ーーーーー
蜜璃は走馬灯の記憶を見た。
あれは梅の花が芽吹く、初春の頃だった。
「君と結婚出来るなど熊か猪か牛くらいでしょう。そのおかしな頭の色も、子供に遺伝したらと思うとゾッとします」
この
女性は、か弱くて小食で、男性の後を控えめについていき立てるような、そんな人が理想とされる時代。
自分はと言うと、大和撫子とは正反対。
そりゃあ見合いも破談になるかと、蜜璃はじわりと滲む涙を拭うしか無かった。
ーこんな自分は隠さないといけないー
その後は、世間一般的に言う理想の女性になろうと努力した。食べるのも我慢、髪の毛も暗く染めて、力も人並みに弱いフリをした。
やがてそんな彼女を貰いたいという男性が現れた。
けれど、本当の自分を隠せば隠すほど、周りに嘘を吐けば吐くほど、蜜璃の気持ちは重く沈んでいく。
一生こんな仮面を被って生きていかなければいけないのかと思うと、酷く辛かった。
ーこの世には本当の私を愛してくれる人は居ないのだろうか?ー
ー本当の自分が役に立てる事って無いのだろうか?ー
もしそれらがあるなら、私は私として生きていく価値だってあるんじゃないのか?
嘘偽りで塗り固められた私を、私自身が好きになれないのなら、この先の人生に意味なんてないから。
だから私は
自分自身の居場所を求め続けた。
ーーーーー
〜292【信頼】〜
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
「っ!」
勢い良く地面に雪崩れ込んだ衝撃で蜜璃はハッと目を覚ました。
胸元には炭治郎達4人が乗っかっていて、彼等が懸命に鬼の攻撃から守ってくれていたのだと分かった。
「立て立て立てッ!次の攻撃来るぞ!」
「うるせぇ!言われなくてもわかってるっつの!」
「甘露寺さんを守るんだ!希望の光だ!この人が生きていてくれさえすれば必ず勝てるっ!」
「そうだよ!皆で勝とう!私達は誰も死なない!生きて帰るんだから!」
炭治郎と玄弥の喧嘩越しな会話でさえも、蜜璃の心にはじんわりと温かさが染み渡っていくようだった。
鬼殺隊に入る前までは、皆が自分の事を遠巻きに恐れていた。
けれど、彼等は頼ってくれている。希望を託してくれる。
嬉しい...凄く嬉しい。
私が私で居てもいいのだと、肯定してくれる。
ー鬼殺隊...ー
ここが本当の私の居場所
なら私は
【この場所を守る為に全力で戦う】
ピシャリと雷鳴が轟いた。
凄まじい衝撃であたりに砂埃が立ち昇る。炭治郎達は皆何が起きたのか一瞬わからないまま、徐々に目を開いていった。
目線を僅か上に向けると、片っ端から雷鳴を切り裂いた蜜璃の愛刀がゆらりと揺れていた。
「皆ありがとうーー!柱なのにヘマしちゃってごめんねぇ~~!仲間は絶対死なせないから!
女の子なのにこんな強くなっていいのかなって、また人間じゃないって言われるんじゃないのかなって、そう思ったことも正直あった。
けど..きっと私が丈夫な体で産まれてきた意味はあったんだ。だってそうじゃなきゃ皆を守れないものね。
蜜璃はキッと鋭い目線を向け言い放つ。
「任せといて、皆私が守るからね」
ここは任せてくれと彼女は勢いよく憎鬼の元へ駆けて行った。
炭治郎らは蜜璃にこの場を託し、本体鬼の討伐へと向かう。
「本体の入ってる玉は何処だ?!炭治郎わかるか!」
「わかる!こっちだ!」
憎鬼は彼等を逃すまいとすかさず竜の頭を飛ばそうとするが、先刻よりも素早さが増した蜜璃の技が行手を阻む。
「貴方の相手は私よ、あの子達の所へは行かせないんだから!」
炭治郎達が頼ってくれたように、彼女もまた彼等に託した。
ー必ず、彼等が本体の頚を斬る事を信じてー
ーーーーー
〜293【罪の重さ】〜
「見つけた!あれだ!」
炭治郎が指差した方向には大きな木の玉がぽっこりと地面に突き出ていた。禍々しい生命を宿しているかのようなオーラを感じ、日向子はゴクリと唾を飲む。
「よし、さっさと切っちまうぞ!」
玄弥の掛け声に力強く頷いた炭治郎が、思い切り腕を振りかざした瞬間、妙な気配を察知した日向子が声を張り上げる。
「駄目!枝に掴まって!!」
突如木の玉が浮き上がり、ボコボコと豆の木のようにせり上がる植物に、炭治郎らは必死にしがみついて振り落とされないよう踏ん張っていた。
本体が隠れている木の玉は目と鼻の先にあるのに、木の幹が邪魔をして彼等は思うように刀を振れない。
少しでも気を抜けば思い切り地面に体を叩きつけられてしまう。
無茶であるのを承知で日向子は咄嗟に巫の異能を発動した。
彼女が触れているその箇所から徐々に木が焼け焦げていく。やがて比重に耐えきれなくなった幹はぐらりと大きく傾いて倒れた。
「今よ炭治郎っ!」
木の玉を抱え込むようにしていた炭治郎が、すかさず刀を構え直すも、ビュルビュルと新たに生えてきた枝の
「ぐあぁっ」
兄に群がる枝を見た禰豆子はバッと腕を広げて血鬼術を発動させる。
禰豆子の炎が幹全体を包み込んだ。怯んだ一瞬の隙を狙い、再び赫く爆ぜた炭治郎の日輪刀が火を噴きあげる。
「ヒノカミ神楽ッ 炎舞!!」
彼等の見事な連携により木の玉を斬る事が出来た。そしてついに、本体と相見えるところまで漕ぎ付けられた筈だったが...
ー居ない?ー
確かにこの木の玉に本体が隠されたところをこの目で見た。しかし現に奴の姿はどこにもない。
【また逃げた】
そうみなす他ない。炭治郎は悔しさに歯がみし、すぐに辺りの気配を探る。
絶対に逃しはしない。数多くの罪無き命を手にかけた、そして何より、愛する人を絶望の淵に突き落とし哀しみの涙を流させた。
炭治郎にとって、その罪の重さは計り知れない。
ー何処だ、何処にいるっ!ー
近くなっていく匂いの先に目を向けると、怯えた声を上げながら一目散に逃げていく鬼の背中を見つけた。
散々な罪を犯しておきながら、その情け無く臆病な様に、再び炭治郎の怒りは頂点に達する。
「貴様ァァ逃げるなァァ!!責任から逃げるなァァ!!お前が今まで犯した罪、悪業!そのすべての責任は絶対に取らせるッ!」
絶対に逃がさないからなッ
ーーーーー