◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
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〜286【護りたいものがある】〜
ーーーーー
「日向子姉さん。どうしたんだ?」
「...炭治郎」
ある日、日向子が悩むそぶりをしていると、その心境を匂いで感じ取った炭治郎が、何かあったのかと気にかけてくれた事があった。一瞬ためらったが、日向子は胸の内をそっと打ち明けた。
「今まで炭治郎と一緒に闘ってきた鬼、十二鬼月の鬼は、私自身の力だけで...頚を切れた事がないの。
いつも最後には貴方が斬ってくれていた。
でも、この先更に強い鬼と遭遇したら、それじゃ駄目でしょう?いつまでも炭治郎に頼ってばかりじゃ...」
もしかしたら、炭治郎の危機に私がやらなければいけないって状況が、来ない事も無きにしもあらずだ。
私は、下の子達をいざと言う時に守れる力をつけなきゃいけない立場だから。
女体であるが故、腕力が劣るのは仕方がない事だと思うし、星の呼吸の特性を考えても主力で前線に出るというのは難しいのかもしれない。
でも、それを補うべく巫の異能を使いこなす為に訓練してる。
なのに、なかなか実践では思うようにいかない。最近はそんな状況に悪戦苦闘していた。
そんな悩みを溢すと、彼は何だそんな事悩んでたのか?と笑って返すものだから、私は真剣なのよと頬を膨らませる。
けど、返ってきたのは日向子にとって意外な言葉だった。
「日向子姉さんが頚を斬れないのは、寧ろ俺としては安心、かな」
「...それって、どういう意味なの?」
日向子は首を傾げる。
安心?とは本当に意味がわからなかった。
そんなの、足手纏いじゃないか。
そう口にしようとすると、彼はこう続ける。
「鬼の頚を斬る事は、鬼を殺すって事だろ?
例え相手が鬼でも、俺は出来るだけ【日向子姉さんにそういう行為】をさせたくはないんだ。そんな汚れ役は、純粋な貴女には似合わないから。俺に引き受けさせて欲しい。それに...」
ー日向子姉さんに頼られるのは俺の本望だから、それでいいんだー
少し照れ臭そうにして、炭治郎はそう言ったのだった。
きっと頭の良い彼は、先程の日向子の様子を見て、上弦の肆の鬼が【日向子の両親の仇である】事を察したのだろう。
だからあえて炭治郎は、俺に任せてくれと言った。
日向子の手を復讐の色に染めさせない為に....なるだけ普通の女の子でいさせようとしてくれてる。
優しいね、炭治郎
貴方は本当に
でもね
私も、貴方には普通の男の子でいて欲しいと願ってるんだ
ーーーーーー
〜287【独りじゃなくて】〜
あぁ..炭治郎、私が我を失ってしまったばかりに、1人で戦わせてしまっている。
1人じゃ、まずい。
早くしないと彼も父さんのようになってしまう。嫌だ、絶対にそんな事させな
「ガハッ!...うっ、ゲホゲホ」
激しく咳き込むと、吐血した血液がパタパタと手の平から漏れ出た。
呼吸が苦しく重い、ぐらりと視界が歪む。
巫の異能を暴走させてしまった反動だ。
日向子は荒い息を吐きながら、ぎゅっと地面の土を掻いた。
ごめんね、ごめんなさい炭治郎。
貴方は前に私にだけ背負わせないと言ったけど、
私だってそう、炭治郎にだけ背負わせたくない。そう思っていたのに..
危うく彼との約束を破るところだった。
復讐の炎に焼かれ、冷静さを欠いた私は自分の命の事なんてすっかり頭からすっ飛んでいた。
炭治郎が身を呈して守ってくれなければ
今頃私は..
ー貴方をもっと悲しませていたし、かえって一生苦しみを背負わせる事になっていたのだろうー
いつしか、2人でならもっと強くなれると、共に在ろうと言葉を交わした時があった。
私1人で頚を斬ろうとしたのも、ただ貴方に負担をかけたくない一心だったけど、それも今思えば浅はかだったね。
こんなになってからそれに気付くんだもの。
私は本当に情けない姉だ。後で、うんと謝るから。どんな小言も甘んじて受け入れるから。だから
【今はこの闘いに勝って生き残らなければ、1人の力ではなく、私達皆の力で】
燃える心とは裏腹に、体は限界を訴えていた。
先ほどから咳き込む度に口内に新たな血の味が滲み出て、酷い倦怠感から体が思うように動かない。
回復の呼吸ではもうどうにもならなそうだった。
何か手立ては...
今この瞬間、炭治郎の元へ行かないといけないのにっ
ふわり
固く目を瞑 っていると、不意に禰豆子の香りが鼻をかすめた。
朦朧 とする意識の中、確かに彼女に抱きしめられている感触を感じ取った瞬間、ぼうっと炎が2人を包み込んだ。
ー禰豆子の炎..ー
それは身体の芯から暖まるようで、驚く事に、たちまち息苦しさや混濁した意識が回復していくような気がした。
凄い...心地良い...
やがて炎が小さくなると、禰豆子は日向子の瞳を真っ直ぐ見据える。
その瞳は、もう大丈夫だと微笑んでくれているような気がした。
「禰豆子...」
【ありがとう】
日向子は眼に焔 を宿すと、再び日輪刀を手にする為駆け出した。
ーーーーー
〜288【仲間と共に】〜
一方炭治郎は、すんでの所で攻撃を避けつつ攻めの頃合いを図っていた。
術が放たれる方向等は匂いで嗅ぎ分けられているのに、いよいよ体がそれに追いついて来なくなってきた事に小さく舌打ちする。
ー息が続かないっー
息を吸い上げたと同時に何かしらの攻撃が飛んでくる。この鬼が操る広範囲に及ぶ血鬼術は非常に厄介だった。
日向子姉さんに任せろと言った癖に、この様は笑えない。このままでは、生身の体であるこちらが先に倒れてしまう。
考えろっ..この攻撃を掻い潜り本体を討つ方法っ!相手の動向や癖を探るんだ!
はっとして頭上を見やると、大きく振り被った木の竜が突進してくる。
ー当たるっー
もろに食らうと思われた瞬間、禰豆子が横から炭治郎を掻っさらい間一髪で回避した。
「禰豆子っ!」
続いて玄弥もやってきてくれて、炭治郎は思わず涙しそうになる。
そうだ、俺は1人で闘っていたわけではないのだ。【皆で力を合わせて】悪鬼を倒す。
日向子姉さんの為にも、そして、これから先この鬼による新たな犠牲が生まれない為にも
「ほう..これでもその腹立たしい眼の色を変えぬか。ならば」
ドドンと憎鬼は太鼓を激しく打ち鳴らす。
すると、憎鬼を軸に、竜の頭が直線を貫くように体当たりしてくる。
「ぐっ!」
先程までの速さと比べ物にならない。
背後に迫った竜の牙が、鬼の爪でも引き裂けないとされている隊服の襟をなんなく引きちぎる。
先程の太鼓で更に術の練度が上がった気がした。でもここまでの戦いで、竜の頭は五本と、可動域がそれぞれ約66尺だという情報は掴めた。
三人がかりなら何とか押し込める筈。
チャキと刀の構えを変え、大きく息を吸い上げた。
ーヒノカミ神楽、碧羅の..ー
炭治郎がヒノカミ神楽を出す直前、目の前の竜の頭が大きく口を開く。
まずいと悟った時にはもう遅かった。
物理攻撃でない音波は空中で避けようもなく、炭治郎は体のバランスを崩し、勢いよく地に側面から落下した。
こみ上げる胃液を吐き出す。ぐにゃりと歪む視界と音が消えた世界。
鼓膜が破れた事を理解した。
凄まじい威力だ。まさか喜怒哀楽鬼の術も併用出来るとは想定外だった。
ーまずい、立てない..けど早くしないと次の攻撃がっー
目の前に容赦無く立ちはだかる木の竜、とにかくこの場から脱出すべく脚に力を込めたが、待てど暮らせど攻撃は降って来なかった。
どういう、事だ..?
ーーーーー
〜289【ただ一つの願い】〜
炭治郎は依然として回る視界を必死に凝らし、状況の確認を試みる。
竜の頭はピタリとその場に止まったまま彫刻のように動かない。
憎鬼の方を見やると光輝く枝が無数に現れ鬼の動きを封じ込めていた。太鼓を叩く腕をギリギリと抑えている。それが何なのか、炭治郎は瞬時に理解した。
「日向子姉さん..」
「....小娘。あれだけ人外の力を暴走させまだ動けたか、難儀な事だの。」
憎鬼は冷ややかな表情で真後ろにいる日向子に向かってそう発した。
見ると彼女は銀白色の日輪刀をしっかりと握り締め、鬼の体に突き刺している。
日向子の表情はもう先程の無機的なものではない。
力強い光をその瞳に宿し、凛とした神々しささえ感じられるようだった。
「人外とか化け物とか煩いわよ。そんなまどろっこしい事はもうどうだっていい。守ってくれた人達がいるから、繋いでくれた人達がいるから、その人達の為に私も闘いたい!!」
今まで支えてくれた人達
家族を護る為に賭してくれた父さんと母さん
繋いでくれた禰豆子
そして...
道を誤らぬよう止めてくれた、自らの命を顧みず守ってくれた炭治郎
その人達の想いと努力を無駄にはしたくない、裏切りたくない。今の日向子を突き動かす思いはただ一つ【皆の笑顔を守りたい】その為には
「人の思いは語り継がれ連鎖する。幸福も悲しみも全てよ。だから貴方は今ここで【私達】が討つ!」
枝葉が更に輝きを増し、まばゆい光が鬼を圧倒していた。
今、攻撃の手はやんでいる。彼女のお陰でようやくまともに回復の呼吸に集中する事が出来た。
生憎 鼓膜がやられたせいで、何と叫んでいたかわからなかったけど、多分こう言ったんだと思う。
ー皆で協力して、この鬼を倒すのだとー
「戯 けが...!」
ビキビキと血管を浮き立たせた憎鬼が力付くで枝葉を引き千切ろうとしている。
彼女も負けじと刀に力を込め、必死に攻防を続けていたが、槍鬼にやられた腹部の傷からは鮮血が滲み始めていた。
「限界だッ!日向子姉さん逃げてくれ!!」
炭治郎の叫び声が響き彼女はやむなく柄を手離した。鬼の枹 の先端が、まさに一寸先の日向子の鼻先をかすめる。
ドドン!と皮を打つ音と共に再び木の竜が動き出した。炭治郎はさっと66尺の距離を取るが、入子人形のように飛び出してきた竜の頭に腕を掴まれてしまう。
「ッ!」
技を出す暇もなく、炭治郎は竜の内部に全身を引き込まれた。
ーーーーー
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「日向子姉さん。どうしたんだ?」
「...炭治郎」
ある日、日向子が悩むそぶりをしていると、その心境を匂いで感じ取った炭治郎が、何かあったのかと気にかけてくれた事があった。一瞬ためらったが、日向子は胸の内をそっと打ち明けた。
「今まで炭治郎と一緒に闘ってきた鬼、十二鬼月の鬼は、私自身の力だけで...頚を切れた事がないの。
いつも最後には貴方が斬ってくれていた。
でも、この先更に強い鬼と遭遇したら、それじゃ駄目でしょう?いつまでも炭治郎に頼ってばかりじゃ...」
もしかしたら、炭治郎の危機に私がやらなければいけないって状況が、来ない事も無きにしもあらずだ。
私は、下の子達をいざと言う時に守れる力をつけなきゃいけない立場だから。
女体であるが故、腕力が劣るのは仕方がない事だと思うし、星の呼吸の特性を考えても主力で前線に出るというのは難しいのかもしれない。
でも、それを補うべく巫の異能を使いこなす為に訓練してる。
なのに、なかなか実践では思うようにいかない。最近はそんな状況に悪戦苦闘していた。
そんな悩みを溢すと、彼は何だそんな事悩んでたのか?と笑って返すものだから、私は真剣なのよと頬を膨らませる。
けど、返ってきたのは日向子にとって意外な言葉だった。
「日向子姉さんが頚を斬れないのは、寧ろ俺としては安心、かな」
「...それって、どういう意味なの?」
日向子は首を傾げる。
安心?とは本当に意味がわからなかった。
そんなの、足手纏いじゃないか。
そう口にしようとすると、彼はこう続ける。
「鬼の頚を斬る事は、鬼を殺すって事だろ?
例え相手が鬼でも、俺は出来るだけ【日向子姉さんにそういう行為】をさせたくはないんだ。そんな汚れ役は、純粋な貴女には似合わないから。俺に引き受けさせて欲しい。それに...」
ー日向子姉さんに頼られるのは俺の本望だから、それでいいんだー
少し照れ臭そうにして、炭治郎はそう言ったのだった。
きっと頭の良い彼は、先程の日向子の様子を見て、上弦の肆の鬼が【日向子の両親の仇である】事を察したのだろう。
だからあえて炭治郎は、俺に任せてくれと言った。
日向子の手を復讐の色に染めさせない為に....なるだけ普通の女の子でいさせようとしてくれてる。
優しいね、炭治郎
貴方は本当に
でもね
私も、貴方には普通の男の子でいて欲しいと願ってるんだ
ーーーーーー
〜287【独りじゃなくて】〜
あぁ..炭治郎、私が我を失ってしまったばかりに、1人で戦わせてしまっている。
1人じゃ、まずい。
早くしないと彼も父さんのようになってしまう。嫌だ、絶対にそんな事させな
「ガハッ!...うっ、ゲホゲホ」
激しく咳き込むと、吐血した血液がパタパタと手の平から漏れ出た。
呼吸が苦しく重い、ぐらりと視界が歪む。
巫の異能を暴走させてしまった反動だ。
日向子は荒い息を吐きながら、ぎゅっと地面の土を掻いた。
ごめんね、ごめんなさい炭治郎。
貴方は前に私にだけ背負わせないと言ったけど、
私だってそう、炭治郎にだけ背負わせたくない。そう思っていたのに..
危うく彼との約束を破るところだった。
復讐の炎に焼かれ、冷静さを欠いた私は自分の命の事なんてすっかり頭からすっ飛んでいた。
炭治郎が身を呈して守ってくれなければ
今頃私は..
ー貴方をもっと悲しませていたし、かえって一生苦しみを背負わせる事になっていたのだろうー
いつしか、2人でならもっと強くなれると、共に在ろうと言葉を交わした時があった。
私1人で頚を斬ろうとしたのも、ただ貴方に負担をかけたくない一心だったけど、それも今思えば浅はかだったね。
こんなになってからそれに気付くんだもの。
私は本当に情けない姉だ。後で、うんと謝るから。どんな小言も甘んじて受け入れるから。だから
【今はこの闘いに勝って生き残らなければ、1人の力ではなく、私達皆の力で】
燃える心とは裏腹に、体は限界を訴えていた。
先ほどから咳き込む度に口内に新たな血の味が滲み出て、酷い倦怠感から体が思うように動かない。
回復の呼吸ではもうどうにもならなそうだった。
何か手立ては...
今この瞬間、炭治郎の元へ行かないといけないのにっ
ふわり
固く目を
ー禰豆子の炎..ー
それは身体の芯から暖まるようで、驚く事に、たちまち息苦しさや混濁した意識が回復していくような気がした。
凄い...心地良い...
やがて炎が小さくなると、禰豆子は日向子の瞳を真っ直ぐ見据える。
その瞳は、もう大丈夫だと微笑んでくれているような気がした。
「禰豆子...」
【ありがとう】
日向子は眼に
ーーーーー
〜288【仲間と共に】〜
一方炭治郎は、すんでの所で攻撃を避けつつ攻めの頃合いを図っていた。
術が放たれる方向等は匂いで嗅ぎ分けられているのに、いよいよ体がそれに追いついて来なくなってきた事に小さく舌打ちする。
ー息が続かないっー
息を吸い上げたと同時に何かしらの攻撃が飛んでくる。この鬼が操る広範囲に及ぶ血鬼術は非常に厄介だった。
日向子姉さんに任せろと言った癖に、この様は笑えない。このままでは、生身の体であるこちらが先に倒れてしまう。
考えろっ..この攻撃を掻い潜り本体を討つ方法っ!相手の動向や癖を探るんだ!
はっとして頭上を見やると、大きく振り被った木の竜が突進してくる。
ー当たるっー
もろに食らうと思われた瞬間、禰豆子が横から炭治郎を掻っさらい間一髪で回避した。
「禰豆子っ!」
続いて玄弥もやってきてくれて、炭治郎は思わず涙しそうになる。
そうだ、俺は1人で闘っていたわけではないのだ。【皆で力を合わせて】悪鬼を倒す。
日向子姉さんの為にも、そして、これから先この鬼による新たな犠牲が生まれない為にも
「ほう..これでもその腹立たしい眼の色を変えぬか。ならば」
ドドンと憎鬼は太鼓を激しく打ち鳴らす。
すると、憎鬼を軸に、竜の頭が直線を貫くように体当たりしてくる。
「ぐっ!」
先程までの速さと比べ物にならない。
背後に迫った竜の牙が、鬼の爪でも引き裂けないとされている隊服の襟をなんなく引きちぎる。
先程の太鼓で更に術の練度が上がった気がした。でもここまでの戦いで、竜の頭は五本と、可動域がそれぞれ約66尺だという情報は掴めた。
三人がかりなら何とか押し込める筈。
チャキと刀の構えを変え、大きく息を吸い上げた。
ーヒノカミ神楽、碧羅の..ー
炭治郎がヒノカミ神楽を出す直前、目の前の竜の頭が大きく口を開く。
まずいと悟った時にはもう遅かった。
物理攻撃でない音波は空中で避けようもなく、炭治郎は体のバランスを崩し、勢いよく地に側面から落下した。
こみ上げる胃液を吐き出す。ぐにゃりと歪む視界と音が消えた世界。
鼓膜が破れた事を理解した。
凄まじい威力だ。まさか喜怒哀楽鬼の術も併用出来るとは想定外だった。
ーまずい、立てない..けど早くしないと次の攻撃がっー
目の前に容赦無く立ちはだかる木の竜、とにかくこの場から脱出すべく脚に力を込めたが、待てど暮らせど攻撃は降って来なかった。
どういう、事だ..?
ーーーーー
〜289【ただ一つの願い】〜
炭治郎は依然として回る視界を必死に凝らし、状況の確認を試みる。
竜の頭はピタリとその場に止まったまま彫刻のように動かない。
憎鬼の方を見やると光輝く枝が無数に現れ鬼の動きを封じ込めていた。太鼓を叩く腕をギリギリと抑えている。それが何なのか、炭治郎は瞬時に理解した。
「日向子姉さん..」
「....小娘。あれだけ人外の力を暴走させまだ動けたか、難儀な事だの。」
憎鬼は冷ややかな表情で真後ろにいる日向子に向かってそう発した。
見ると彼女は銀白色の日輪刀をしっかりと握り締め、鬼の体に突き刺している。
日向子の表情はもう先程の無機的なものではない。
力強い光をその瞳に宿し、凛とした神々しささえ感じられるようだった。
「人外とか化け物とか煩いわよ。そんなまどろっこしい事はもうどうだっていい。守ってくれた人達がいるから、繋いでくれた人達がいるから、その人達の為に私も闘いたい!!」
今まで支えてくれた人達
家族を護る為に賭してくれた父さんと母さん
繋いでくれた禰豆子
そして...
道を誤らぬよう止めてくれた、自らの命を顧みず守ってくれた炭治郎
その人達の想いと努力を無駄にはしたくない、裏切りたくない。今の日向子を突き動かす思いはただ一つ【皆の笑顔を守りたい】その為には
「人の思いは語り継がれ連鎖する。幸福も悲しみも全てよ。だから貴方は今ここで【私達】が討つ!」
枝葉が更に輝きを増し、まばゆい光が鬼を圧倒していた。
今、攻撃の手はやんでいる。彼女のお陰でようやくまともに回復の呼吸に集中する事が出来た。
ー皆で協力して、この鬼を倒すのだとー
「
ビキビキと血管を浮き立たせた憎鬼が力付くで枝葉を引き千切ろうとしている。
彼女も負けじと刀に力を込め、必死に攻防を続けていたが、槍鬼にやられた腹部の傷からは鮮血が滲み始めていた。
「限界だッ!日向子姉さん逃げてくれ!!」
炭治郎の叫び声が響き彼女はやむなく柄を手離した。鬼の
ドドン!と皮を打つ音と共に再び木の竜が動き出した。炭治郎はさっと66尺の距離を取るが、入子人形のように飛び出してきた竜の頭に腕を掴まれてしまう。
「ッ!」
技を出す暇もなく、炭治郎は竜の内部に全身を引き込まれた。
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