◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
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〜282【暴走】〜
炭治郎は無我夢中で駆け抜けた。
ー無事でいてくれよ、日向子姉さんっー
すん..
「ッ!」
不意に鼻を掠めた匂いに動揺が走った。
これは、この匂いは...
彼女の匂いであるのは確かなのだ。血の匂いではない。新たに怪我を負ったわけではなさそうだ。でも...かといって今まで嗅いだことがない。
例えるならば、怒りや悲しみといった負の感情を混沌 とさせたような、あまりに悲痛なその匂いを、彼女が発しているとは俄 かには信じ難かった。
ー何が、あったんだー
暗闇の向こうに七色に揺れ動く光が見える。
急いで目視できる所までやってきて、目の当たりにした光景に炭治郎は言葉を失う。
「っ....」
隊士の武器である日輪刀を捨て、大きく掲げた生身の両手で首を締め上げる動作をしている。
彼女を中心に出現している大樹の枝が、その動きと連動するように蛇鬼の巨体をぎちぎちと締め上げていたのだ。
彼女が....自らの意思で、意図的に操っていると言うのか?
その様は、もはや鬼と鬼殺隊の戦闘と言うより、一方的な神の裁きを目の当たりにしているようだった。
やがて断末魔をあげながらぼろぼろと体が崩れていった鬼は跡形もなく、灼け落ちていく。
「日向子姉さん...なのか?」
炭治郎が震えそうになる声で問いかけると、彼女がゆっくりとこちらへ振り向く。
ー【それ】は、いつもの穏やかな笑みを浮かべる彼女とは、似ても似つかなかったー
瞳孔 の開き切った目が、果たして炭治郎を認識しているのかすらわからない。
息一つ乱れていない、生命活動が為されているのかすらもわからない。
彼女から人外のような、無機的な眼差しを向けられた時、言いようのない恐怖感が炭治郎を襲った。
ー【日向子姉さんはこんなではない】
やめてくれ、戻ってくれー
「ヒィィィィお助けッ!」
本体らしき鬼が、自分を守ってくれていた防壁を無くし、悲鳴をあげながらその場から逃げ去っていこうとする。
その気配に気づいた彼女は、炭治郎を無視して本体の後を追おうと体の重心を傾ける。
それを見ていてもたってもいられず日向子の体を引き寄せた。
「っ日向子姉さん駄目だ!こんなのは違う。何があったんだ?お願いだから元の貴女にっ」
しかし、彼女は鬱陶しそうに炭治郎の腕を払い除けると、冷え冷えとした声色でこう発した。
「邪魔しないで。あいつだけは」
【私が殺すのよ】
ーーーーー
〜283【犠牲】〜
「ッ...」
ー殺すー
そのたった3文字の言葉が衝撃的過ぎて、
日向子姉さんが発した言葉であると、信じたくなかった。
だって、だって彼女は
いつだって清らかな暖かさで包み込んでくれるような人だから。
きっと、何かの間違いに違いない...
炭治郎がその場に立ち尽くしている間に、日向子は本体目掛けて枝を伸ばす。
上弦の陸との戦闘に見た光輝くそれとは正反対に、黒く染まった枝葉は、彼女の心の闇を模しているかのようだった。
「ギャアァァァァッ!!」
恐ろしい速さで巻きついた枝が締まり、徐々に鬼の頚を灼き切れていく。
彼女の今の力なら、本体の頚を取る事が出来るだろう。長かった戦闘も終わらせる事が出来るのだろう。
だが...
【止めなければ】
炭治郎は直感的にそう思った。でないと、取り返しのつかない事になってしまうと。
日向子の背を追いかけようとぐっと地を踏み込んだ、
その時。
ゾワリ..
突如として、肺が押し潰されそうになる殺気を感じた。
この気配は、先程の喜怒哀楽鬼とは全く異なるもので、その四体の気配が消失している変わりに、恐ろしく凶悪な重圧を放っている。
振り返ると、そこに佇んでいたのは子供のような容姿に、憎 と書かれた雷神の雷鼓のような武器を背負った鬼だった。
そしてその鬼は、射抜くような視線を日向子に定め、鼓を叩こうと手を掲げる。
ー攻撃をしかける気だ、彼女にっー
「日向子姉さん後ろだっ!危ない!」
彼女は後ろを一瞥 する。
自分に向けられているその殺気に気付いている筈なのに、表情を一切変えず再び前方の本体に視線を戻してしまった。守りに移行するどころか、攻撃の手を緩めようとしない。
何、してるんだ...
馬鹿ッ!!!
ドンッと鬼が鼓を叩くと激しい地鳴りと共に大木が地面から突き出てきた。それは日向子に向かって一直線に放たれゆく。
間一髪、炭治郎が彼女の体を抱えその場から引き剥がし、ゴロゴロと地面を転がるようにして攻撃を回避した。しかし日向子はそれに対し不服な態度を示す。
「何するのっ!もう少しで本体の頚を切れたのにっ」
彼女は炭治郎に向かって声を荒げるが、対し炭治郎もまた怒声をあげずにはいられなかった。日向子の両肩をぎりと掴む。
「それはこっちの台詞だっ!さっき相打ちでもいいと考えなかったか?自分の死と引き換えにしても鬼の頚を取りたいのか?!そんな事、俺は絶対許さないっ」
ーーーーー
〜284【涙の理由】〜
約束したのに俺と、
死なないと約束してくれたのに、
なのにそんな簡単に命を投げ打って、たった先刻前に交わした言葉でさえも忘れてしまったのか?
彼女を失う事が、離れる事が、
今の俺にとって何より恐怖するものだった。けど日向子姉さんは、それよりも鬼の頚を切る方が優先とみなした。
そんなのって、ないだろう
悲しかった。恐ろしかった。
そんな負の感情ばかりが先走って、つい彼女に向かって大声をあげてしまう。
どんな理由があれど、命を軽んじた行為は見過ごせなかった。
炭治郎の表情を見た日向子は、何かに気付いたようにふるふると小刻みに体を震わせ、やがてポロポロと大粒の涙を流し始めた。
彼女からは、激しく波打つ苦しみと哀しみ、後悔、自責の念が入り混じった匂いが、後から後から止め処なく溢れてくる。
ーなんて、匂いだろうか...ー
そんな様子があまりにも気の毒過ぎて、炭治郎は堪らず日向子の頬に手を伸ばす。
「日向子姉さん...本当に何があった?何がきっかけで、貴女はこんなにも悲しんでる?何が貴女をこんなにも苦しめてるんだ。俺に話してくれ。」
先程の声色とは裏腹に、炭治郎は優しく語りかけるように問うた。すると彼女は泣き腫らした目で炭治郎をすがるように見上げると、衝撃的な言葉を発したのだ。
「私の、父さんと母さんは.....もう居ない...」
「っ....それは」
ーーー
「私の本当の親はどんな人だったのかなぁって思った。まだ生きてるのかも死んでいるのかも、わからないけれどね。」
「姉さんの本当のご両親、俺が探すよ。きっと、この日本の何処かで生きてる。」
ー【俺はそう信じてる】ー
今まで人知れず寂しい思いをさせて来た。
強がって見せるけど、その実は、何処にでもいるごく普通の女の子で、俺が守ってあげないと、いつかきっとこの手で彼女を幸せにするんだと...そう誓ったあの夜。
彼女が見せた、心底嬉しそうだったあの微笑みを、炭治郎は片時も忘れた事はなかった。
それなのに
今、現実の彼女は絶望に打ちひしがれている。
炭治郎が切望していた表情とは真逆のものだ。
体も身なりもボロボロになってまで、彼女が刃を振るう理由は、何も復讐の為なんかじゃない。
奪わせない、守る為だ。
負の連鎖 を生み出す感情を、彼女は心底嫌う。
その思いを奴らは踏みにじった。
「日向子姉さん、辛かったよな。済まなかった..。後は俺に任せてくれ。」
ーーーーー
〜285【沈みきる前に】〜
炭治郎は未だに嗚咽 を漏らしながら泣きじゃくる日向子の背を一撫ですると、憎鬼をギロリと睨みつけた。
許せない..
日向子姉さんを傷付ける者、彼女の大切なものを奪う者、笑顔や幸福を取り上げる者
手を...汚 させる者。
【それらは例え何であろうと許せない】
全身の血液が煮えたぎるような怒りが、沸沸と込み上げる。
感情的になる度に、鱗滝さんに叱られた言葉を思い出し己を律してきたが、この激しい怒りは制御しきれそうも無かった。
「よくも...日向子姉さんにこんな顔をさせたな、許さない。俺が彼女の代わりにお前の頚を斬る!死をもって償え悪鬼めッ!!」
炭治郎はドスの利いた声でそう放ち、ビキビキと額に青筋を立てながら刀の切っ先を憎鬼に差し向ける。
しかし、相手は炭治郎から放たれる殺気を押し返すように対抗してきた。
ドンっと太鼓を打ち鳴らすと、本体を血鬼術で作られた太い枝が囲い込んでいく。
「!待てっ」
その瞬間、心臓が痛む程、重く息の詰まるような威圧感が向けられた。
しかしそれでも炭治郎は怯まず、鋭い視線を投げ続ける。そんな彼の態度が気に喰わないのか、憎鬼の顔が陰 り始めた。
「その目、気に入らぬ。小さく弱き者をいたぶる者は皆極悪人、鬼畜の所業だ。儂らからして見ればその小娘の方こそ悪鬼だ。人間とは思えぬ、妙な力を操る【化け物】よ。」
「ッ!黙れぇぇぇっーー!!」
炭治郎は反射的に地を蹴る。
すかさず敵も鼓を叩き、先程よりも強大な木の竜を出現させた。
禰豆子の血の効力はとうに途切れていたが、構わず攻撃をしかけていく。
日向子は炭治郎の激昂 ぶりを見て、その目線を己の震える手へと移す。
私は...化け物なのか?
こんな、筈じゃなかった。
いつの間にか握り締めていた筈の日輪刀が無くなっていた。あの時炭治郎に止められていなければ、私はきっと....
自分が自分で無くなる感覚が鮮明に蘇り、日向子は耐えきれず己の体を抱き締める。
がくがくと震え、心臓が嫌な音を立てて響いた。
ぎゅっと目を瞑った、その時
「彼女は化け物なんかじゃないっ!そもそもお前等鬼が生まれなければ、奪いさえしなければ普通の女の子でいられたんだっ!傷付かなくて済んだんだ!
それを、その物言い何様のつもりだーーッ!」
「ッ!」
彼の思いは、どん底に沈みきっていた日向子を引き上げてくれるような気がした。
ーーーーー
炭治郎は無我夢中で駆け抜けた。
ー無事でいてくれよ、日向子姉さんっー
すん..
「ッ!」
不意に鼻を掠めた匂いに動揺が走った。
これは、この匂いは...
彼女の匂いであるのは確かなのだ。血の匂いではない。新たに怪我を負ったわけではなさそうだ。でも...かといって今まで嗅いだことがない。
例えるならば、怒りや悲しみといった負の感情を
ー何が、あったんだー
暗闇の向こうに七色に揺れ動く光が見える。
急いで目視できる所までやってきて、目の当たりにした光景に炭治郎は言葉を失う。
「っ....」
隊士の武器である日輪刀を捨て、大きく掲げた生身の両手で首を締め上げる動作をしている。
彼女を中心に出現している大樹の枝が、その動きと連動するように蛇鬼の巨体をぎちぎちと締め上げていたのだ。
彼女が....自らの意思で、意図的に操っていると言うのか?
その様は、もはや鬼と鬼殺隊の戦闘と言うより、一方的な神の裁きを目の当たりにしているようだった。
やがて断末魔をあげながらぼろぼろと体が崩れていった鬼は跡形もなく、灼け落ちていく。
「日向子姉さん...なのか?」
炭治郎が震えそうになる声で問いかけると、彼女がゆっくりとこちらへ振り向く。
ー【それ】は、いつもの穏やかな笑みを浮かべる彼女とは、似ても似つかなかったー
息一つ乱れていない、生命活動が為されているのかすらもわからない。
彼女から人外のような、無機的な眼差しを向けられた時、言いようのない恐怖感が炭治郎を襲った。
ー【日向子姉さんはこんなではない】
やめてくれ、戻ってくれー
「ヒィィィィお助けッ!」
本体らしき鬼が、自分を守ってくれていた防壁を無くし、悲鳴をあげながらその場から逃げ去っていこうとする。
その気配に気づいた彼女は、炭治郎を無視して本体の後を追おうと体の重心を傾ける。
それを見ていてもたってもいられず日向子の体を引き寄せた。
「っ日向子姉さん駄目だ!こんなのは違う。何があったんだ?お願いだから元の貴女にっ」
しかし、彼女は鬱陶しそうに炭治郎の腕を払い除けると、冷え冷えとした声色でこう発した。
「邪魔しないで。あいつだけは」
【私が殺すのよ】
ーーーーー
〜283【犠牲】〜
「ッ...」
ー殺すー
そのたった3文字の言葉が衝撃的過ぎて、
日向子姉さんが発した言葉であると、信じたくなかった。
だって、だって彼女は
いつだって清らかな暖かさで包み込んでくれるような人だから。
きっと、何かの間違いに違いない...
炭治郎がその場に立ち尽くしている間に、日向子は本体目掛けて枝を伸ばす。
上弦の陸との戦闘に見た光輝くそれとは正反対に、黒く染まった枝葉は、彼女の心の闇を模しているかのようだった。
「ギャアァァァァッ!!」
恐ろしい速さで巻きついた枝が締まり、徐々に鬼の頚を灼き切れていく。
彼女の今の力なら、本体の頚を取る事が出来るだろう。長かった戦闘も終わらせる事が出来るのだろう。
だが...
【止めなければ】
炭治郎は直感的にそう思った。でないと、取り返しのつかない事になってしまうと。
日向子の背を追いかけようとぐっと地を踏み込んだ、
その時。
ゾワリ..
突如として、肺が押し潰されそうになる殺気を感じた。
この気配は、先程の喜怒哀楽鬼とは全く異なるもので、その四体の気配が消失している変わりに、恐ろしく凶悪な重圧を放っている。
振り返ると、そこに佇んでいたのは子供のような容姿に、
そしてその鬼は、射抜くような視線を日向子に定め、鼓を叩こうと手を掲げる。
ー攻撃をしかける気だ、彼女にっー
「日向子姉さん後ろだっ!危ない!」
彼女は後ろを
自分に向けられているその殺気に気付いている筈なのに、表情を一切変えず再び前方の本体に視線を戻してしまった。守りに移行するどころか、攻撃の手を緩めようとしない。
何、してるんだ...
馬鹿ッ!!!
ドンッと鬼が鼓を叩くと激しい地鳴りと共に大木が地面から突き出てきた。それは日向子に向かって一直線に放たれゆく。
間一髪、炭治郎が彼女の体を抱えその場から引き剥がし、ゴロゴロと地面を転がるようにして攻撃を回避した。しかし日向子はそれに対し不服な態度を示す。
「何するのっ!もう少しで本体の頚を切れたのにっ」
彼女は炭治郎に向かって声を荒げるが、対し炭治郎もまた怒声をあげずにはいられなかった。日向子の両肩をぎりと掴む。
「それはこっちの台詞だっ!さっき相打ちでもいいと考えなかったか?自分の死と引き換えにしても鬼の頚を取りたいのか?!そんな事、俺は絶対許さないっ」
ーーーーー
〜284【涙の理由】〜
約束したのに俺と、
死なないと約束してくれたのに、
なのにそんな簡単に命を投げ打って、たった先刻前に交わした言葉でさえも忘れてしまったのか?
彼女を失う事が、離れる事が、
今の俺にとって何より恐怖するものだった。けど日向子姉さんは、それよりも鬼の頚を切る方が優先とみなした。
そんなのって、ないだろう
悲しかった。恐ろしかった。
そんな負の感情ばかりが先走って、つい彼女に向かって大声をあげてしまう。
どんな理由があれど、命を軽んじた行為は見過ごせなかった。
炭治郎の表情を見た日向子は、何かに気付いたようにふるふると小刻みに体を震わせ、やがてポロポロと大粒の涙を流し始めた。
彼女からは、激しく波打つ苦しみと哀しみ、後悔、自責の念が入り混じった匂いが、後から後から止め処なく溢れてくる。
ーなんて、匂いだろうか...ー
そんな様子があまりにも気の毒過ぎて、炭治郎は堪らず日向子の頬に手を伸ばす。
「日向子姉さん...本当に何があった?何がきっかけで、貴女はこんなにも悲しんでる?何が貴女をこんなにも苦しめてるんだ。俺に話してくれ。」
先程の声色とは裏腹に、炭治郎は優しく語りかけるように問うた。すると彼女は泣き腫らした目で炭治郎をすがるように見上げると、衝撃的な言葉を発したのだ。
「私の、父さんと母さんは.....もう居ない...」
「っ....それは」
ーーー
「私の本当の親はどんな人だったのかなぁって思った。まだ生きてるのかも死んでいるのかも、わからないけれどね。」
「姉さんの本当のご両親、俺が探すよ。きっと、この日本の何処かで生きてる。」
ー【俺はそう信じてる】ー
今まで人知れず寂しい思いをさせて来た。
強がって見せるけど、その実は、何処にでもいるごく普通の女の子で、俺が守ってあげないと、いつかきっとこの手で彼女を幸せにするんだと...そう誓ったあの夜。
彼女が見せた、心底嬉しそうだったあの微笑みを、炭治郎は片時も忘れた事はなかった。
それなのに
今、現実の彼女は絶望に打ちひしがれている。
炭治郎が切望していた表情とは真逆のものだ。
体も身なりもボロボロになってまで、彼女が刃を振るう理由は、何も復讐の為なんかじゃない。
奪わせない、守る為だ。
負の
その思いを奴らは踏みにじった。
「日向子姉さん、辛かったよな。済まなかった..。後は俺に任せてくれ。」
ーーーーー
〜285【沈みきる前に】〜
炭治郎は未だに
許せない..
日向子姉さんを傷付ける者、彼女の大切なものを奪う者、笑顔や幸福を取り上げる者
手を...
【それらは例え何であろうと許せない】
全身の血液が煮えたぎるような怒りが、沸沸と込み上げる。
感情的になる度に、鱗滝さんに叱られた言葉を思い出し己を律してきたが、この激しい怒りは制御しきれそうも無かった。
「よくも...日向子姉さんにこんな顔をさせたな、許さない。俺が彼女の代わりにお前の頚を斬る!死をもって償え悪鬼めッ!!」
炭治郎はドスの利いた声でそう放ち、ビキビキと額に青筋を立てながら刀の切っ先を憎鬼に差し向ける。
しかし、相手は炭治郎から放たれる殺気を押し返すように対抗してきた。
ドンっと太鼓を打ち鳴らすと、本体を血鬼術で作られた太い枝が囲い込んでいく。
「!待てっ」
その瞬間、心臓が痛む程、重く息の詰まるような威圧感が向けられた。
しかしそれでも炭治郎は怯まず、鋭い視線を投げ続ける。そんな彼の態度が気に喰わないのか、憎鬼の顔が
「その目、気に入らぬ。小さく弱き者をいたぶる者は皆極悪人、鬼畜の所業だ。儂らからして見ればその小娘の方こそ悪鬼だ。人間とは思えぬ、妙な力を操る【化け物】よ。」
「ッ!黙れぇぇぇっーー!!」
炭治郎は反射的に地を蹴る。
すかさず敵も鼓を叩き、先程よりも強大な木の竜を出現させた。
禰豆子の血の効力はとうに途切れていたが、構わず攻撃をしかけていく。
日向子は炭治郎の
私は...化け物なのか?
こんな、筈じゃなかった。
いつの間にか握り締めていた筈の日輪刀が無くなっていた。あの時炭治郎に止められていなければ、私はきっと....
自分が自分で無くなる感覚が鮮明に蘇り、日向子は耐えきれず己の体を抱き締める。
がくがくと震え、心臓が嫌な音を立てて響いた。
ぎゅっと目を瞑った、その時
「彼女は化け物なんかじゃないっ!そもそもお前等鬼が生まれなければ、奪いさえしなければ普通の女の子でいられたんだっ!傷付かなくて済んだんだ!
それを、その物言い何様のつもりだーーッ!」
「ッ!」
彼の思いは、どん底に沈みきっていた日向子を引き上げてくれるような気がした。
ーーーーー