◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜278【怒りの矛先】〜
先程の老体鬼とは似ても似つかぬ怪獣の鬼。
舌には嫉 とある。
本体ではない
本体ではないが..
カチカチと鋭い歯を鳴らし、目玉はぐるぐると四方八方に動き回る。
なんて悍 しいのか。
手足が竦みそうな威圧感を、目の前の怪物からひしひしと感じた。
「儂は何も嘘はついてないィィ....なのに皆儂を貶 める。暖かな眼差しなど誰一人として向けてはくれなかったァァァ何故だ、何故だ何故だ!!儂が醜いからか?厄介者だからか?!」
ダンッッ!!!
蛇鬼は鋭い尾びれを激しく地に叩きつけたが、日向子はさっと飛び上がり攻撃を避けた。
本体は恐らく、あのとぐろの奥深くに身を潜めている。
この鬼の本体は...ブルブルと怯えるだけで、何故か攻撃を繰り出してこない。
常に新たに生み出した分身を使って攻撃を仕掛けてくるのだ。
救済の余地は...あるのか?
その考えが一瞬でもよぎらなかったわけではない。
だが少なくとも、今日に至るまで相当な数の人間を食ってきたからこそ、上弦の数字を与えられているのだろう。
ー自分の過ちを認め、己を戒 める勇気と覚悟なき者に、同情の余地はないー
ー奪った罪は消えないし、なおも奪おうとするのなら、私達は守る為に全力で戦わなければならないからー
「貴方が人間の時、真っ当な生き方をしていたなら、必ず誰かが優しさを与えてくれた筈よ。
でも、そうではなかったのね。【その姿】が証だわ」
「っ~~黙れェェェェ貴様に儂の何がわかる!あの童共もそうだ!何一つ不自由もなく恵まれのうのうと生きてきた奴らにっ、」
蛇鬼の言葉が不自然に途切れる。
日向子の日輪刀が瞬く間に頭を刈り取ったからであった。
彼女は揺らめく髪を振り上げ、蔑むような眼差しと刀の切っ先を向ける。
「私達がそう見えるのなら、貴方は幸せ者ね」
日向子は、ただ自分を可哀想だと決めつけ、何の努力もせず嘆くばかりの生き物が嫌いだ。
何の苦労もせず、楽をして生きながらえようとする生き物が嫌いだ。
いつも他人任せ、自分を棚上げ、それでは飽き足らず攻撃しようとするのなら、それはもはや救いようがない。
そんな者に、他人は手を差し伸べてくれなくて当然だ。
「悪いけど、今私凄く怒ってるのよ。私だけじゃなく、炭治郎達をも貶したのだから。」
あの子達の痛みこそ、お前にわかるものか
ーーーーー
〜279【子の怒り】〜
日向子の額に籠目模様の痣がじわりと浮き出ていく。それを見た蛇鬼は、すっと僅かに目を細めた。
「その痣の紋様...見覚えがある」
ー痣?見覚え?ー
わけがわからず日向子は怪訝な眼差しで目の前の鬼を見据えた。
「何を言ってるの?」
そう問い掛けると、鬼は急に牙を剥き出しにし大きく首をもたげる。
「あァァァァ思い出した。その模様の鍔 の刀を振るう人間と昔やり合った事がある。鬼狩りではなかったようだがすこぶる強かった。
一人で儂に勝つなど無謀だのに、側にいた女と赤子を逃してこの嫉 を引きずり出しおった男だァァァ...あの男も、【貴様と同じ星の眼】をしていた」
「!!」
いや、まさか...
そう己を納得させようとするも、動揺からか体がカタカタと震えた。
「その人達は、今」
俯いたままそう問うと、優越感からか、してやったとばかりに蛇鬼はニタリと笑う。
「男はズタズタに噛み殺し、女はその後丸呑みにして殺した。そうか、貴様...」
ーあの時の赤子だなァァ...?ー
ドクリ..
言いようのない怒りが全身を駆け巡る。
ずっと、ずっと探し求めてきた答え。
私があの星の夜に一人雪山に埋もれていた理由。今、目の前の鬼が嬉々とした語った事が真実だと言うのなら...
「貴様諸共喰おうとしたのにあの女が隠したんだなァ。あの方の怒りを買ってしまったのはあの女のせいだ。貴様を取り逃したせいで、儂は..儂はァァァァ!」
ア
目の前を光線が横切ったかと思えば、頭がぐらりと傾き視界が反転していた。日向子が一瞬のうちに刃を振り抜いたのだ。
ーこの小娘、先程までと動きがー
彼女の纏う雰囲気そのものが変わった。
嫉鬼は耐え難い眩しさに思わず目をつむる。
彼女を包むように七色の光の幕がゆらゆらと揺れ、プラズマが辺りに散る。それらに僅かに触れるだけで、分厚く強固な皮膚でさえも、じゅわりと焼け焦げた。
人間の少女が醸し出すような気ではなかった。
異常に【狂気的】なまでのオーラを放ちながら、日向子はゆっくりと鬼に近づいていく。
「来るなァ...」
鬼は後退し距離を離したがった。しかし構う事なく彼女は歩を進める。地面を踏み締める度に、辺りの雑草は燃え上がり黒い炭と化した。
あり得ぬ..こやつ本当に、
本当に人間か?
「っ化物ではないかァァァ!」
鬼の叫び声が木霊した瞬間、日向子は勢いよく地を蹴った。
ーーーーー
〜280【約束を】〜
三体の鬼を炭治郎が、槍鬼は玄弥によって頚を同時に切り落としたが体が崩れない。
やはり彼女の言う通り、本体の方を斬らなければ意味がないのだ。
「あーーっ!しつけぇんだよてめぇらっ!」
玄弥が怒り心頭で銃を連発する。
彼と禰豆子には、鬼の弱点と日向子の状況を伝えた。
玄弥に関しては僅かに不服の色を見せたが、彼女の考えである事で飲み込んでくれたようで、彼等は、炭治郎に協力し目の前の喜怒哀楽鬼を彼女の元へ行かせないよう踏ん張ってくれている。
「っ!」
突如ぐわんと体の重心が揺れ激しい強風が吹き荒れる。炭治郎は飛ばされまいと必死に側の木に食らいついた。本体と日向子が戦っている方面とは、反対方向に吹き飛ばそうとしてくるのは分かっていた。図られているのだ。
ー絶対にこの場から離れる訳にはいかないー
追い詰めるように雷鬼が攻撃態勢に入る。ここで雷撃を喰らえば、この均衡はひとたまりもない。
暴風に耐えるように細めていた目を見開いた瞬間、禰豆子が空へ飛び跳ねた。
雷鬼に向かって、爪を立てた右腕を大きく振り上げたが、それは届かず槍鬼の矛が彼女の腹を貫く。
ーあぁ!禰豆子の血がまたー
怒りが振り切れた炭治郎は、漏出 したその感情を己の刃に込めた。
素早い動きで赫刀を操り、敵によるとどめの攻撃をことごとく断ち切っていく。
その光景に敵は盛大に舌打ちした。
炭治郎の戦闘下においての爆発的な成長は、敵鬼にとってもまた番狂わせな状況であったからだ。
しかし、戦闘が長引き時間が経過すればする程に、炭治郎は焦り始めた。
ー日向子姉さんを一人で行かすことが、本当に最善だったのか?ー
目の前で攻撃を放ってくる鬼達は、未だに消滅する気配はない。まだ本体の頚を切れていないのだ。
ざわざわとした胸騒ぎが止まらなかった。
まさか、本体が更に分身を作り出して彼女を手こずらせているのでは?
いや、それよりももっと最悪な事態になってなければよいが...
嫌な想像をしてしまい、頭をぶんぶんと横に振った。
ある訳ない、俺は彼女を信じてる。
約束してくれたのだから【絶対に死なない】と
あぁ、早く日向子姉さんの元へ行きたい。今すぐにでも飛んで行きたいけど...
炭治郎は苦しげに顔を歪めた。
この状況でそれは出来ない。
禰豆子達を放っては...
「炭治郎ーーー!」
「!」
「お前が日向子さんの所に行け!ここは俺達で何とかする!」
ーーーーー
〜281【背中を蹴って】〜
「玄弥...でも」
「でもじゃねぇっ!お前俺をみくびるなよ。それに、鬼を倒す依然に日向子さんの命が危ねぇかもしれねぇんだろ?大切なんだろ!まごついてねぇでとっとと行けやーー!!」
玄弥は機関銃の如く叫ぶと、側に倒れていた大木 をむんずと掴み鬼に向かって投げつけた。禰豆子もまた炭治郎の背中を押すように鬼の攻撃を迎え撃つ。
二人の覚悟に、目頭が熱くなった。
「ありがとう二人とも、必ず本体の頚を切るから。それまでもう少し辛抱してくれ!」
炭治郎はそう言い残すと、彼女の匂いを辿るようにその場から駆け出した。
さて、炭治郎を送り出したはいいもののどうするか...
しかし後には退けない、やるしかない。
呼吸の使えない自分は、今まで大きな劣等感を抱いてきた。
柱である実兄には、鬼殺隊に入った事すら好ましく思われていないようだったし、それどころか弟は居ないなんて言われる始末だ。
酷く悲しかった。
それでも、今まで一人で苦労を抱えて来た兄の為に、ほんの少しでもいいから助けになりたいという思いがぶれる事は一度たりともなかった。
ーこの闘いに勝利すれば、きっと兄は俺を認めてくれる...ー
本音を言えば、本体の頚を切る大役は俺が全うしたかったが、【彼等】を見ていると、そんなものは実に甘ったれた我儘に思えた。共に戦っているとわかる。
ーこれは生きるか死ぬかだー
俺と同期の癖に、そんな死線を彼等はいくつも乗り越えてきたのだろう。
互いを信じ合い、助け、少しでも多くの仲間や人を救いたい一心で。
【家族を...大切な人を守りたい今度こそは】
その気持ちは、不本意だが俺にも痛い程よくわかるのだ。だからこそ、あいつを送り出した。
「お前ら二人きりで儂らの相手をする気か?笑止。」
「雑魚はさっさと殺してしまおうぞ!!」
哀絶と空喜が我先にと攻撃体制に入った瞬間、積怒が待てと制する。
「何だ積d」
それは瞬く間の出来事だった。
積怒は両手を掲げると、鬱陶しそうに後ろを振り返った空喜と隣にいた可楽を巻き込み、彼等の肉が怒鬼の体へと吸収された。
何が起きて..
状況に追いつけないまま、計三体の鬼を吸収した核となる怒鬼は、みるみるうちに姿を変えていく。
現れたのは小さな子供鬼だったが、纏う空気は信じられない程重苦しい。
「極悪人共めが...」
そう低い声で呟いたかと思えば、玄弥達には目もくれずに林の向こうへと飛んでいった。
ーーーーー
先程の老体鬼とは似ても似つかぬ怪獣の鬼。
舌には
本体ではない
本体ではないが..
カチカチと鋭い歯を鳴らし、目玉はぐるぐると四方八方に動き回る。
なんて
手足が竦みそうな威圧感を、目の前の怪物からひしひしと感じた。
「儂は何も嘘はついてないィィ....なのに皆儂を
ダンッッ!!!
蛇鬼は鋭い尾びれを激しく地に叩きつけたが、日向子はさっと飛び上がり攻撃を避けた。
本体は恐らく、あのとぐろの奥深くに身を潜めている。
この鬼の本体は...ブルブルと怯えるだけで、何故か攻撃を繰り出してこない。
常に新たに生み出した分身を使って攻撃を仕掛けてくるのだ。
救済の余地は...あるのか?
その考えが一瞬でもよぎらなかったわけではない。
だが少なくとも、今日に至るまで相当な数の人間を食ってきたからこそ、上弦の数字を与えられているのだろう。
ー自分の過ちを認め、己を
ー奪った罪は消えないし、なおも奪おうとするのなら、私達は守る為に全力で戦わなければならないからー
「貴方が人間の時、真っ当な生き方をしていたなら、必ず誰かが優しさを与えてくれた筈よ。
でも、そうではなかったのね。【その姿】が証だわ」
「っ~~黙れェェェェ貴様に儂の何がわかる!あの童共もそうだ!何一つ不自由もなく恵まれのうのうと生きてきた奴らにっ、」
蛇鬼の言葉が不自然に途切れる。
日向子の日輪刀が瞬く間に頭を刈り取ったからであった。
彼女は揺らめく髪を振り上げ、蔑むような眼差しと刀の切っ先を向ける。
「私達がそう見えるのなら、貴方は幸せ者ね」
日向子は、ただ自分を可哀想だと決めつけ、何の努力もせず嘆くばかりの生き物が嫌いだ。
何の苦労もせず、楽をして生きながらえようとする生き物が嫌いだ。
いつも他人任せ、自分を棚上げ、それでは飽き足らず攻撃しようとするのなら、それはもはや救いようがない。
そんな者に、他人は手を差し伸べてくれなくて当然だ。
「悪いけど、今私凄く怒ってるのよ。私だけじゃなく、炭治郎達をも貶したのだから。」
あの子達の痛みこそ、お前にわかるものか
ーーーーー
〜279【子の怒り】〜
日向子の額に籠目模様の痣がじわりと浮き出ていく。それを見た蛇鬼は、すっと僅かに目を細めた。
「その痣の紋様...見覚えがある」
ー痣?見覚え?ー
わけがわからず日向子は怪訝な眼差しで目の前の鬼を見据えた。
「何を言ってるの?」
そう問い掛けると、鬼は急に牙を剥き出しにし大きく首をもたげる。
「あァァァァ思い出した。その模様の
一人で儂に勝つなど無謀だのに、側にいた女と赤子を逃してこの
「!!」
いや、まさか...
そう己を納得させようとするも、動揺からか体がカタカタと震えた。
「その人達は、今」
俯いたままそう問うと、優越感からか、してやったとばかりに蛇鬼はニタリと笑う。
「男はズタズタに噛み殺し、女はその後丸呑みにして殺した。そうか、貴様...」
ーあの時の赤子だなァァ...?ー
ドクリ..
言いようのない怒りが全身を駆け巡る。
ずっと、ずっと探し求めてきた答え。
私があの星の夜に一人雪山に埋もれていた理由。今、目の前の鬼が嬉々とした語った事が真実だと言うのなら...
「貴様諸共喰おうとしたのにあの女が隠したんだなァ。あの方の怒りを買ってしまったのはあの女のせいだ。貴様を取り逃したせいで、儂は..儂はァァァァ!」
ア
目の前を光線が横切ったかと思えば、頭がぐらりと傾き視界が反転していた。日向子が一瞬のうちに刃を振り抜いたのだ。
ーこの小娘、先程までと動きがー
彼女の纏う雰囲気そのものが変わった。
嫉鬼は耐え難い眩しさに思わず目をつむる。
彼女を包むように七色の光の幕がゆらゆらと揺れ、プラズマが辺りに散る。それらに僅かに触れるだけで、分厚く強固な皮膚でさえも、じゅわりと焼け焦げた。
人間の少女が醸し出すような気ではなかった。
異常に【狂気的】なまでのオーラを放ちながら、日向子はゆっくりと鬼に近づいていく。
「来るなァ...」
鬼は後退し距離を離したがった。しかし構う事なく彼女は歩を進める。地面を踏み締める度に、辺りの雑草は燃え上がり黒い炭と化した。
あり得ぬ..こやつ本当に、
本当に人間か?
「っ化物ではないかァァァ!」
鬼の叫び声が木霊した瞬間、日向子は勢いよく地を蹴った。
ーーーーー
〜280【約束を】〜
三体の鬼を炭治郎が、槍鬼は玄弥によって頚を同時に切り落としたが体が崩れない。
やはり彼女の言う通り、本体の方を斬らなければ意味がないのだ。
「あーーっ!しつけぇんだよてめぇらっ!」
玄弥が怒り心頭で銃を連発する。
彼と禰豆子には、鬼の弱点と日向子の状況を伝えた。
玄弥に関しては僅かに不服の色を見せたが、彼女の考えである事で飲み込んでくれたようで、彼等は、炭治郎に協力し目の前の喜怒哀楽鬼を彼女の元へ行かせないよう踏ん張ってくれている。
「っ!」
突如ぐわんと体の重心が揺れ激しい強風が吹き荒れる。炭治郎は飛ばされまいと必死に側の木に食らいついた。本体と日向子が戦っている方面とは、反対方向に吹き飛ばそうとしてくるのは分かっていた。図られているのだ。
ー絶対にこの場から離れる訳にはいかないー
追い詰めるように雷鬼が攻撃態勢に入る。ここで雷撃を喰らえば、この均衡はひとたまりもない。
暴風に耐えるように細めていた目を見開いた瞬間、禰豆子が空へ飛び跳ねた。
雷鬼に向かって、爪を立てた右腕を大きく振り上げたが、それは届かず槍鬼の矛が彼女の腹を貫く。
ーあぁ!禰豆子の血がまたー
怒りが振り切れた炭治郎は、
素早い動きで赫刀を操り、敵によるとどめの攻撃をことごとく断ち切っていく。
その光景に敵は盛大に舌打ちした。
炭治郎の戦闘下においての爆発的な成長は、敵鬼にとってもまた番狂わせな状況であったからだ。
しかし、戦闘が長引き時間が経過すればする程に、炭治郎は焦り始めた。
ー日向子姉さんを一人で行かすことが、本当に最善だったのか?ー
目の前で攻撃を放ってくる鬼達は、未だに消滅する気配はない。まだ本体の頚を切れていないのだ。
ざわざわとした胸騒ぎが止まらなかった。
まさか、本体が更に分身を作り出して彼女を手こずらせているのでは?
いや、それよりももっと最悪な事態になってなければよいが...
嫌な想像をしてしまい、頭をぶんぶんと横に振った。
ある訳ない、俺は彼女を信じてる。
約束してくれたのだから【絶対に死なない】と
あぁ、早く日向子姉さんの元へ行きたい。今すぐにでも飛んで行きたいけど...
炭治郎は苦しげに顔を歪めた。
この状況でそれは出来ない。
禰豆子達を放っては...
「炭治郎ーーー!」
「!」
「お前が日向子さんの所に行け!ここは俺達で何とかする!」
ーーーーー
〜281【背中を蹴って】〜
「玄弥...でも」
「でもじゃねぇっ!お前俺をみくびるなよ。それに、鬼を倒す依然に日向子さんの命が危ねぇかもしれねぇんだろ?大切なんだろ!まごついてねぇでとっとと行けやーー!!」
玄弥は機関銃の如く叫ぶと、側に倒れていた
二人の覚悟に、目頭が熱くなった。
「ありがとう二人とも、必ず本体の頚を切るから。それまでもう少し辛抱してくれ!」
炭治郎はそう言い残すと、彼女の匂いを辿るようにその場から駆け出した。
さて、炭治郎を送り出したはいいもののどうするか...
しかし後には退けない、やるしかない。
呼吸の使えない自分は、今まで大きな劣等感を抱いてきた。
柱である実兄には、鬼殺隊に入った事すら好ましく思われていないようだったし、それどころか弟は居ないなんて言われる始末だ。
酷く悲しかった。
それでも、今まで一人で苦労を抱えて来た兄の為に、ほんの少しでもいいから助けになりたいという思いがぶれる事は一度たりともなかった。
ーこの闘いに勝利すれば、きっと兄は俺を認めてくれる...ー
本音を言えば、本体の頚を切る大役は俺が全うしたかったが、【彼等】を見ていると、そんなものは実に甘ったれた我儘に思えた。共に戦っているとわかる。
ーこれは生きるか死ぬかだー
俺と同期の癖に、そんな死線を彼等はいくつも乗り越えてきたのだろう。
互いを信じ合い、助け、少しでも多くの仲間や人を救いたい一心で。
【家族を...大切な人を守りたい今度こそは】
その気持ちは、不本意だが俺にも痛い程よくわかるのだ。だからこそ、あいつを送り出した。
「お前ら二人きりで儂らの相手をする気か?笑止。」
「雑魚はさっさと殺してしまおうぞ!!」
哀絶と空喜が我先にと攻撃体制に入った瞬間、積怒が待てと制する。
「何だ積d」
それは瞬く間の出来事だった。
積怒は両手を掲げると、鬱陶しそうに後ろを振り返った空喜と隣にいた可楽を巻き込み、彼等の肉が怒鬼の体へと吸収された。
何が起きて..
状況に追いつけないまま、計三体の鬼を吸収した核となる怒鬼は、みるみるうちに姿を変えていく。
現れたのは小さな子供鬼だったが、纏う空気は信じられない程重苦しい。
「極悪人共めが...」
そう低い声で呟いたかと思えば、玄弥達には目もくれずに林の向こうへと飛んでいった。
ーーーーー