◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
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〜274【応えてくれた】〜
「ぐっ、小賢しい術を!」
鬼の肉体を焼き焦がす、禰豆子の血が相当効いていた。
日向子姉さんの巫の異能と似ている力。
どういうわけなのか、ずっと不思議だったが、今は彼女達の力を借りる事が鬼討伐の1番の近道かもしれない。
「炭治郎!この四体の鬼は分身よ。本体が他にいる!そいつの首を取らない限り私達はジリ貧になってしまうわ」
「!やっぱりそうか、俺も別の匂いを感じて..」
ぞわりと上空から殺気の匂いを感じる。
バッと見ると団扇鬼が大きく飛び上がり右腕を振りかざしていた。
「楽しそうだのう!俺も仲間に入れてくれ!」
「「!!」」
鬼がブォンと八つ手の葉を振り下ろすと、とてつもない風圧が眼下の炭治郎達に迫ってくる。
ー避けられないっー
直後、グンと体が引っ張られる感覚がして、ドォンと凄まじい音と共に目の前の床がひしゃげ落ちた。
一寸先の畳の破片がボロリと崩れかけている。
炭治郎と禰豆子の体には、星屑が散りばめられたような霧の帯が巻かれており、日向子の星の呼吸によるものであるとわかった。
「助かった日向子姉さん...ありがとう」
「いいえ、でもすぐに次が来るわ。気をつけて」
炭治郎達の眼前には、既に3匹の鬼が集結していた。刀を構え直したと同時に容赦なく攻撃が降ってくる。
3人は建物の視界に身を隠しつつ掻い潜った。
「炭治郎」
「...何だ」
日向子は一切迷いのない目で前を見据えている。
嫌な、予感がした。
彼女がこういう目をする時は、決まって無茶をしようとする時だ。
「私は本体の場所も特徴もわかる。だから、私が本体の頚を切りに行くから。炭治郎達はこの四体の足止めをお願いしたい。」
「...っそれは一人でか。悪いが了承出来ない。禰豆子か玄弥と一緒に行ってくれ!こいつらは俺が何とかするから」
炭治郎はぶんぶんと首を横に振って拒否の意を示したが、いつもの和 かな笑顔を浮かべ、炭治郎の胸をトンと軽く叩く。
「私は貴方を信じてる。だから貴方も私を信じて。この戦闘を出来るだけ早く終わらせる事を優先して考えよう。それに...」
彼女は少し照れ臭そうに頬を染め、こう発した。
「もし、こいつらの隙をつけたなら、貴方は匂いを辿って駆けつけてくれるんでしょう?」
炭治郎はその言葉を聞いた時、こんな状況にもかかわらず目頭が熱くなった。
何故なら、初めて彼女の方から、炭治郎の想いに応えてくれた気がしたから。
ーーーーー
〜275【赫い日輪刀】〜
炭治郎はぎゅっと拳を握り締めた。
本来なら星の呼吸は、他の呼吸の能力を引き出しサポートする方に長けていると、彼女はそう言っていた。
巫一族である日向子姉さんだからこそ、上弦の鬼を単体で追い詰める事が出来るものの、
【頚を切る】その最後のとどめが叶わず苦戦したと、吉原の戦いの後に言っていた。
ー私が本体の頚を切りに行くー
ー私は貴方を信じてる、だから貴方も私を信じてー
本音を言うなら日向子姉さん、貴方を危険に晒したくはない。
何があっても片時も側を離れたくはない。
俺はいい、男だから。長男だから。でも貴女は女の子だから。
本当なら刀なんて握らせる筈じゃなかった。
けど...
貴女が俺を信じると言ってくれるのに、俺が信じないわけにはいかない。
そんな風に頼ってくれるのに、首を横に振るなんて俺には、出来なかった。
「あぁ...もちろんだ。こっちの鬼は何とかする。その代わり、死なないでくれ。それだけは約束して欲しい。必ず、貴女の元へ行くから」
そう言えば、日向子姉さんは戦場にそぐわぬ蔓延の笑みで頷いた。
ーーーーー
「ええいまだるっこしいっ!!可楽!この建物ごと吹き飛ばしてしまえ!死角が多すぎて狙いが定まらん!」
「カカカっ!言われなくてもそのつもりじゃ!」
可楽が葉を振ると、強風に煽られた木造の建物がメキメキと音を立てて剥がれていく。
凄まじい圧に翻弄されながらも、炭治郎は必死に頭を回転させた。
どうしたら敵に大打撃を与えられるか
すぐに回復させない為の攻撃とは
日向子姉さんは混戦に乗じて【本体】の方へ向かった。
敵鬼にはまだ気付かれていないだろうが、建物が吹き飛ばされた今、それも自ずと勘付かれてしまう。
ー絶対に、彼女の元へは行かせないっー
「っ!」
禰豆子が必死に炭治郎の日輪刀を掴んでいる事に気付いた。じわりと血が滲む。
やめるんだ禰豆子!そう叫ぶ前にガラガラと瓦礫が視界を阻んだ。
「ふんっ、随分と見晴らしが良くなったのう。これでちょこまかと隠れる場所はなくなった」
辺りは瓦礫が散乱し、不幸にも禰豆子はその下敷きになっていた。炭治郎がそれをどかせようにも、彼女は刀を握って離さない。何故だ、何で離そうとしないのか。
「禰豆子!指が千切れてしまう。見捨てたりしないから離すんだ、禰豆子!」
その時、禰豆子の血が爆ぜ、黒の日輪刀は赫い日輪刀へとその姿を変えていった。
ーーーーー
〜276【憧憬】〜
ー赤くなるんですねぇ。
お侍様の刀、戦う時だけ赤くなるのね。
普段は黒曜石のような漆黒なのにー
この女の人は、誰だろう..
これは..遺伝した記憶?
お侍様というのは、耳飾りの剣士の事だろうか。
ー彼の刀も元は黒かったのか?ー
俺の刀も同じ黒刀だが、今それはたちまち燃え上がり赫く赫く爆ぜていく。
「もしかしたら、貴方が日の呼吸の使い手なのかもしれないわ」
不意に日向子姉さんの言葉を思い出した。
本当に、そうだというのだろうか?
妓夫太郎の首を切った時は、彼女の日輪刀と共鳴し、今回は禰豆子の血で俺の刀は色を変えた。
きっとその剣士とはやり方は違うだろうが、
今、刀は同じ状態になっている。
俺一人の力では敵わなかった。沢山の人達が力を貸してくれたから、きっとここまで来れた。
ーその人達の思いに応えなければー
ー愛する人を守らなければー
揺らめくような紅炎の痣が、炭治郎の額を侵食していく。積怒はその光景を見た時、ある記憶と情景が重なった。かつて、主の頚を切りかけ追い詰めた唯一の剣士。
そんな筈はないのだ。日の呼吸は滅んだ筈。
こんな童 が...
痣が完全に浮き出た時、炭治郎の意思に呼応するように、刀がより一層大きく火を吹いた。
「ーヒノカミ神楽!日暈 の龍 頭 舞いっ!ー」
目にも止まらぬ速さで駆け巡った炎龍の牙が、鬼の頚を狩り獲る。
灼け痕は凄まじい激痛を伴い、回復を著しく遅らせていた。
それでいい..
もっと、もっと、再起不能になるくらいっ!
「ぐあぁっ!何だこの斬撃は、再生できぬ!」
「落ち着け見苦しい!遅いが再生自体は出来ている!それよりも、あの巫の娘が見当たらん。ちっ...小賢しい真似をしおって...許さんぞ!回復したら儂がっ
ザンッ
容赦なく炎の斬撃が降り注ぐ。
炭治郎の眼差しは冷徹で、怒りの感情に満ちていた。
「お前達の相手は俺だ。これ以上、日向子姉さんには指一本触れさせない」
ドクン...
ーお前の相手は私だ。この女性 には、指一本触れさせはせぬー
人間は何故、何かを必死に守ろうとするのか。
鬼の我らには到底理解が出来ない。
けれどその思いは、強く逞しく地に根を張り、時に目まぐるしい成長と爆発的な力を生み出す。
目の前に立ちはだかり鋼を振るう人間に、足が竦むような威圧感を感じた。
なのに何故
憧憬 にも似た念を抱くのだ。
ーーーーー
〜277【窮地の嫉鬼】〜
日向子は日輪刀を携え、全速力で林の中を駆け抜けた。
この戦いの幕引きは、彼女の手にかかっている。そう思うと、僅かに指の先が震えるようだった。
鬼は数字が低ければ低いほど、頚は固く強固になり、並半端な威力では断ち切れない。
でも頚を切れないなら、そもそも炭治郎達が足止めしてくれている意味も無くなってしまう。
ーやらなければ、私がっー
本当ならば、炭治郎のヒノカミ神楽との共闘が望ましかった。
しかし、事態が悪い方に向かっている今、この選択はやむを得なかったと思う。
....これ以上、彼等に血を流させたくはないから。
彼等と言うのは何も炭治郎達だけではなかった。この鬼達は、里全体を襲っている。
逃げ惑う人々、泣き叫ぶ子供、もう何人の命が血潮を流し、息絶えていっただろうか....
惨い光景、阿鼻叫喚を全身で感じているようで、酷い吐き気すら催す。
彼等の命を救えるのは私達鬼殺隊だけだ。
一刻も早く助けに行かなければ...
微かに草木の揺れる音がした。
日向子の気配に気付いた【本体】が慌てて場所を変えた証拠だ。
「逃がさない!」
日向子は体制を低く保ちながら柄を握り締めた。ホォォォォと息を吸い上げ空気を肺へと送り込むと同時に、体の芯から熱を発現させていく。
まだだ、もっと、もっと!
もっと熱くッーーー!!
無惨の呪いを灼き尽くした、あの感覚と似ているような気がする。
あの時は自我すら保てず、内なる神力に身を呑まれてしまった。
でも今は....
大丈夫、ちゃんと冷静に場を観れてる。
夜風に白練色の髪をきらめかせ、日向子が白銀の刃を振り上げると半天狗の背を熱波が襲った。
まるで高温の太陽風を浴びせたように、小さな鬼の体は黒く焼き焦げ、更に追い詰めるように刃を頚にかける。
「斬れろぉぉぉーーーっ!!」
ズズッと刃が徐々にめり込む。
このまま振り切れると思われたが、直後、耳をつんざくような叫び声が辺りにこだました。
鬼の身体がぶくぶくと膨張し質量を増していく。日向子は咄嗟にのけぞった。それはみるみるうちに醜き海蛇のような化け物へと変貌していった。
「おのれェェ...巫一族めェェェ...生身の人間如きである貴様が、何故太陽の力を使役出来るのだ...儂も日の下を歩きたかったァァ..嫉ましい、嫉ましィィィィィィ!!!」
激しく咆哮 するその長い舌には、嫉 と刻まれていた。
ーーーーー
「ぐっ、小賢しい術を!」
鬼の肉体を焼き焦がす、禰豆子の血が相当効いていた。
日向子姉さんの巫の異能と似ている力。
どういうわけなのか、ずっと不思議だったが、今は彼女達の力を借りる事が鬼討伐の1番の近道かもしれない。
「炭治郎!この四体の鬼は分身よ。本体が他にいる!そいつの首を取らない限り私達はジリ貧になってしまうわ」
「!やっぱりそうか、俺も別の匂いを感じて..」
ぞわりと上空から殺気の匂いを感じる。
バッと見ると団扇鬼が大きく飛び上がり右腕を振りかざしていた。
「楽しそうだのう!俺も仲間に入れてくれ!」
「「!!」」
鬼がブォンと八つ手の葉を振り下ろすと、とてつもない風圧が眼下の炭治郎達に迫ってくる。
ー避けられないっー
直後、グンと体が引っ張られる感覚がして、ドォンと凄まじい音と共に目の前の床がひしゃげ落ちた。
一寸先の畳の破片がボロリと崩れかけている。
炭治郎と禰豆子の体には、星屑が散りばめられたような霧の帯が巻かれており、日向子の星の呼吸によるものであるとわかった。
「助かった日向子姉さん...ありがとう」
「いいえ、でもすぐに次が来るわ。気をつけて」
炭治郎達の眼前には、既に3匹の鬼が集結していた。刀を構え直したと同時に容赦なく攻撃が降ってくる。
3人は建物の視界に身を隠しつつ掻い潜った。
「炭治郎」
「...何だ」
日向子は一切迷いのない目で前を見据えている。
嫌な、予感がした。
彼女がこういう目をする時は、決まって無茶をしようとする時だ。
「私は本体の場所も特徴もわかる。だから、私が本体の頚を切りに行くから。炭治郎達はこの四体の足止めをお願いしたい。」
「...っそれは一人でか。悪いが了承出来ない。禰豆子か玄弥と一緒に行ってくれ!こいつらは俺が何とかするから」
炭治郎はぶんぶんと首を横に振って拒否の意を示したが、いつもの
「私は貴方を信じてる。だから貴方も私を信じて。この戦闘を出来るだけ早く終わらせる事を優先して考えよう。それに...」
彼女は少し照れ臭そうに頬を染め、こう発した。
「もし、こいつらの隙をつけたなら、貴方は匂いを辿って駆けつけてくれるんでしょう?」
炭治郎はその言葉を聞いた時、こんな状況にもかかわらず目頭が熱くなった。
何故なら、初めて彼女の方から、炭治郎の想いに応えてくれた気がしたから。
ーーーーー
〜275【赫い日輪刀】〜
炭治郎はぎゅっと拳を握り締めた。
本来なら星の呼吸は、他の呼吸の能力を引き出しサポートする方に長けていると、彼女はそう言っていた。
巫一族である日向子姉さんだからこそ、上弦の鬼を単体で追い詰める事が出来るものの、
【頚を切る】その最後のとどめが叶わず苦戦したと、吉原の戦いの後に言っていた。
ー私が本体の頚を切りに行くー
ー私は貴方を信じてる、だから貴方も私を信じてー
本音を言うなら日向子姉さん、貴方を危険に晒したくはない。
何があっても片時も側を離れたくはない。
俺はいい、男だから。長男だから。でも貴女は女の子だから。
本当なら刀なんて握らせる筈じゃなかった。
けど...
貴女が俺を信じると言ってくれるのに、俺が信じないわけにはいかない。
そんな風に頼ってくれるのに、首を横に振るなんて俺には、出来なかった。
「あぁ...もちろんだ。こっちの鬼は何とかする。その代わり、死なないでくれ。それだけは約束して欲しい。必ず、貴女の元へ行くから」
そう言えば、日向子姉さんは戦場にそぐわぬ蔓延の笑みで頷いた。
ーーーーー
「ええいまだるっこしいっ!!可楽!この建物ごと吹き飛ばしてしまえ!死角が多すぎて狙いが定まらん!」
「カカカっ!言われなくてもそのつもりじゃ!」
可楽が葉を振ると、強風に煽られた木造の建物がメキメキと音を立てて剥がれていく。
凄まじい圧に翻弄されながらも、炭治郎は必死に頭を回転させた。
どうしたら敵に大打撃を与えられるか
すぐに回復させない為の攻撃とは
日向子姉さんは混戦に乗じて【本体】の方へ向かった。
敵鬼にはまだ気付かれていないだろうが、建物が吹き飛ばされた今、それも自ずと勘付かれてしまう。
ー絶対に、彼女の元へは行かせないっー
「っ!」
禰豆子が必死に炭治郎の日輪刀を掴んでいる事に気付いた。じわりと血が滲む。
やめるんだ禰豆子!そう叫ぶ前にガラガラと瓦礫が視界を阻んだ。
「ふんっ、随分と見晴らしが良くなったのう。これでちょこまかと隠れる場所はなくなった」
辺りは瓦礫が散乱し、不幸にも禰豆子はその下敷きになっていた。炭治郎がそれをどかせようにも、彼女は刀を握って離さない。何故だ、何で離そうとしないのか。
「禰豆子!指が千切れてしまう。見捨てたりしないから離すんだ、禰豆子!」
その時、禰豆子の血が爆ぜ、黒の日輪刀は赫い日輪刀へとその姿を変えていった。
ーーーーー
〜276【憧憬】〜
ー赤くなるんですねぇ。
お侍様の刀、戦う時だけ赤くなるのね。
普段は黒曜石のような漆黒なのにー
この女の人は、誰だろう..
これは..遺伝した記憶?
お侍様というのは、耳飾りの剣士の事だろうか。
ー彼の刀も元は黒かったのか?ー
俺の刀も同じ黒刀だが、今それはたちまち燃え上がり赫く赫く爆ぜていく。
「もしかしたら、貴方が日の呼吸の使い手なのかもしれないわ」
不意に日向子姉さんの言葉を思い出した。
本当に、そうだというのだろうか?
妓夫太郎の首を切った時は、彼女の日輪刀と共鳴し、今回は禰豆子の血で俺の刀は色を変えた。
きっとその剣士とはやり方は違うだろうが、
今、刀は同じ状態になっている。
俺一人の力では敵わなかった。沢山の人達が力を貸してくれたから、きっとここまで来れた。
ーその人達の思いに応えなければー
ー愛する人を守らなければー
揺らめくような紅炎の痣が、炭治郎の額を侵食していく。積怒はその光景を見た時、ある記憶と情景が重なった。かつて、主の頚を切りかけ追い詰めた唯一の剣士。
そんな筈はないのだ。日の呼吸は滅んだ筈。
こんな
痣が完全に浮き出た時、炭治郎の意思に呼応するように、刀がより一層大きく火を吹いた。
「ーヒノカミ神楽!
目にも止まらぬ速さで駆け巡った炎龍の牙が、鬼の頚を狩り獲る。
灼け痕は凄まじい激痛を伴い、回復を著しく遅らせていた。
それでいい..
もっと、もっと、再起不能になるくらいっ!
「ぐあぁっ!何だこの斬撃は、再生できぬ!」
「落ち着け見苦しい!遅いが再生自体は出来ている!それよりも、あの巫の娘が見当たらん。ちっ...小賢しい真似をしおって...許さんぞ!回復したら儂がっ
ザンッ
容赦なく炎の斬撃が降り注ぐ。
炭治郎の眼差しは冷徹で、怒りの感情に満ちていた。
「お前達の相手は俺だ。これ以上、日向子姉さんには指一本触れさせない」
ドクン...
ーお前の相手は私だ。この
人間は何故、何かを必死に守ろうとするのか。
鬼の我らには到底理解が出来ない。
けれどその思いは、強く逞しく地に根を張り、時に目まぐるしい成長と爆発的な力を生み出す。
目の前に立ちはだかり鋼を振るう人間に、足が竦むような威圧感を感じた。
なのに何故
ーーーーー
〜277【窮地の嫉鬼】〜
日向子は日輪刀を携え、全速力で林の中を駆け抜けた。
この戦いの幕引きは、彼女の手にかかっている。そう思うと、僅かに指の先が震えるようだった。
鬼は数字が低ければ低いほど、頚は固く強固になり、並半端な威力では断ち切れない。
でも頚を切れないなら、そもそも炭治郎達が足止めしてくれている意味も無くなってしまう。
ーやらなければ、私がっー
本当ならば、炭治郎のヒノカミ神楽との共闘が望ましかった。
しかし、事態が悪い方に向かっている今、この選択はやむを得なかったと思う。
....これ以上、彼等に血を流させたくはないから。
彼等と言うのは何も炭治郎達だけではなかった。この鬼達は、里全体を襲っている。
逃げ惑う人々、泣き叫ぶ子供、もう何人の命が血潮を流し、息絶えていっただろうか....
惨い光景、阿鼻叫喚を全身で感じているようで、酷い吐き気すら催す。
彼等の命を救えるのは私達鬼殺隊だけだ。
一刻も早く助けに行かなければ...
微かに草木の揺れる音がした。
日向子の気配に気付いた【本体】が慌てて場所を変えた証拠だ。
「逃がさない!」
日向子は体制を低く保ちながら柄を握り締めた。ホォォォォと息を吸い上げ空気を肺へと送り込むと同時に、体の芯から熱を発現させていく。
まだだ、もっと、もっと!
もっと熱くッーーー!!
無惨の呪いを灼き尽くした、あの感覚と似ているような気がする。
あの時は自我すら保てず、内なる神力に身を呑まれてしまった。
でも今は....
大丈夫、ちゃんと冷静に場を観れてる。
夜風に白練色の髪をきらめかせ、日向子が白銀の刃を振り上げると半天狗の背を熱波が襲った。
まるで高温の太陽風を浴びせたように、小さな鬼の体は黒く焼き焦げ、更に追い詰めるように刃を頚にかける。
「斬れろぉぉぉーーーっ!!」
ズズッと刃が徐々にめり込む。
このまま振り切れると思われたが、直後、耳をつんざくような叫び声が辺りにこだました。
鬼の身体がぶくぶくと膨張し質量を増していく。日向子は咄嗟にのけぞった。それはみるみるうちに醜き海蛇のような化け物へと変貌していった。
「おのれェェ...巫一族めェェェ...生身の人間如きである貴様が、何故太陽の力を使役出来るのだ...儂も日の下を歩きたかったァァ..嫉ましい、嫉ましィィィィィィ!!!」
激しく
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