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◆第拾章 未曾有の襲撃

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〜270【本体を突け】〜




「馬鹿な..」


この小娘、今の太刀筋、
まるで後ろにも目が付いているかのような反応速度だった。



ー星の呼吸 肆ノ型 天羽々矢あまのはばや



彼女の斬撃は周囲の間合いにいる鬼に放たれ無数の矢が刺す。そしてそれは、鬼の体を地に縛りつけるかのように動きを封じ込めた。

積怒は矢を抜こうと手にかけたが、非常に高温なそれは手に触れた瞬間、細胞がボロボロと崩れていった為不可能であった。




「舐めないで!大方呼吸の使い手と私を引き離したかったんでしょうけど、星の力はそんなにやわじゃないわ!」



真白の日輪刀をキッと構える。


今の日向子は鍛錬の末、自分の間合い360度どこからでも敵の気配を察知出来るようになっていた。

例えそれが死角であっても、彼女にとっては空気の揺らぎ、地の振動など、その空間全ての情報から正確に物体を捉える事が出来る。





おのれ巫一族め...



ー「巫一族の娘を見つけ次第抹殺しろ。奴の能力は、【私の血が濃ければ濃い程】威力を発揮する。お前達上弦の位が高くなれば高くなる程に、娘の力も比例するのだ。」ー




あの方は我々にそう忠告した。



巫一族の女児、また星の呼吸の剣士でもある。
あの方が何百年と生きてきて、前代未聞の事例。
能力の底力も明らかとされていない。
やはり早々に片付ける必要がある。




「可楽!何をしてる!鬼の小娘なんぞ早く手足をもいでこっちに加勢しろ!」


「くう..動けん。ならば」




哀絶は槍を玄弥から引き抜こうとしたがグッと抑えられ上手くいかない。



「っ!」


「お前の相手は俺だろうが」



バンという激しい音と共に哀絶の頭が吹き飛んだ。
急所を穿たれた筈の玄弥が放った銃の玉だ。

日向子は驚きに目を見開く。
あれほどの重症を負ってなお引き金を引く余力があるなどにわかには信じ難いが、何はともあれ絶命していない事に安堵した。
そして彼の攻撃のお陰である確信が得られた。





ー炭治郎と無一郎君が居なくても、今は私が玄弥君と禰豆子を守らないとー



「ー星の呼吸  参ノ型! 流星斬り(連郡)っ!ー」



日向子は三体の鬼に向かって無数の斬撃を放つ。それぞれ武器を持つ腕を落とし、玄弥と禰豆子を解放した。
日向子が繰り出した攻撃は巫の力が込められており、鬼達は焼け付くような痛みに呻き声を上げる。




ー攻撃の手を弱めろ

ー足止めでもいい



5体目ほんたい】が居る筈なんだ


ーーーーー


〜271【玄弥の特異体質】〜




「全集中 星の呼吸 拾ノ型 天照っー!」



カッと辺りが眩い光で満たされ、玄弥は思わず腕で視界を遮った。
直後、猛烈な熱さに苦悶の声を上げる。



「うあぁっ!」


「っ!」



彼女のこの攻撃により、その場にいた上弦の鬼は重度の熱傷を負ったようにくすぶっていた。

しかしこの型の範囲は無差別なようで、それは味方であり、【鬼の細胞を食った】玄弥にも甚大じんだいなダメージを負わせてしまう。

禰豆子に対して安全である事は確証済みだったが、彼の特異体質を知らなかった事は大きな盲点だった。
日向子は動揺を隠しきれない。




「玄弥君!何でっーあなたが」


「っー...俺は、鬼を食らう事で、鬼と同じ体質を得られる体だ。」



っ!

そういう事だったのだ。彼があれ程の致命傷を負わされて絶命しないのが不思議だった。鬼と同じ体質。




ー不死身体質

そして、【巫の力が有効となってしまう体質】ー




幸いにも実際の鬼と比べれば症状は軽いようだが、攻撃範囲の広い拾ノ型の使用ははばかられる..




「あんたは俺に構わず戦ってくれ!奴らの弱点を探るのはあんたの方が向いてる」


「!...」



迷いの色を見せた日向子に玄弥はそう告げた。


悔しいが..
彼女の巫の異能と星の呼吸の力を目の当たりにして、己との才能の差を歴然と感じてしまった。

噂に聞いた通りだった、ヒノカミを信仰しその身に宿すとされた一族。
対鬼の戦いにおいて、その効力は遺憾いかん無く発揮され、上弦の鬼が苦戦する程の力。


最も、その力を掌握しているのは彼女の血の滲むような努力の結果であろうが...

自分が皮肉にも足手まといになっている。
それは玄弥が最も腹正しく思う事の一つだった。
剣士としても男としても、そんな事はあり得てはいけない。




解放された禰豆子もさっと日向子の側に控え、着々と回復しつつある鬼に追い討ちの一撃を放つ。




「玄弥君、禰豆子よく聞いて。炭治郎が闘ってる鬼も含めて、四体の鬼は恐らく目眩めくらましだわ。頚はもちろん、どこを斬っても倒せない。本体は別にいると思う、【確かに気配が】するの。」


「別にもう一体いるって言うのか?!」


「うん、私がこいつらをひるませつつ居場所を探るから、援護をお願いしたいの。」



日向子は居合切りの構えをとる。

星々達よ..あなた方も私に力を貸してください。




ー星の呼吸 玖ノ型 昴宿識覚すばるぼししきかく



ーーーーー


〜272【刺突】〜




星の呼吸 玖ノ型 

自分を軸として、僅かな万物の変化を捉え、全方向の物体を識覚する技




「よし、やるっきゃねぇ。日向子さんを援護するぞ」


「ムッ!」



玄弥と禰豆子は彼女を守るように構え直す。
刻々と体が回復していく鬼達。


ー攻撃が来るー



1番早くに復活したのは団扇うちわの鬼だった。こちら側の意図を察したのか、大きく掲げた右腕は中心にいる日向子に狙いを定める。



「余計な事をするでない小娘ぇー!!」



グシャッ
 

一瞬のうちに禰豆子が懐に潜り込み、鬼の腕を蹴り落とした。
他の鬼達もまた同様に日向子を執拗に狙うが、その度に玄弥と禰豆子が彼女への攻撃の手を阻む。
しかし、攻撃を与えては受けの繰り返し。決定的な打撃はやはり与えられない。




ー早く見つけなければ..禰豆子達がもたないー



日向子は識覚の範囲を徐々に広げていく。

この建物内には、本体の気配は見つからない。
牛宮の方向、約一町先に炭治郎ともう一匹が交戦している。
無一郎君はどこまで飛ばされたのだろう。彼が戻れないという事は、新手の鬼がいる可能性も否定出来ない。


冷や汗が滴り落ちる。この型が最も神経を酷使する。呼吸が乱れてくる。


この鬼は...




ー先入観は捨てろ。姿見も大きさだって同じとも限らないのだからー




可楽と禰豆子、哀絶と玄弥が交戦し、一瞬日向子の近くがガラ空きとなった。

しめたとばかりに積怒は錫杖を掲げる。
恐らく血鬼術で放つ雷撃は彼女には通用しないだろう。
だが、物理攻撃なら、いくら人間離れした異能の持ち主であろうとも、滅びゆく肉体である限り致命傷は与えられる。



「死に腐れるがいいっ!」



錫杖の先が日向子の頚に迫りゆく

禰豆子はその様子を見て大きく目を見開いた。
竹筒を噛んでいる口を開き、何かを叫ぼうとするが..



「よそ見するでないぞ娘ェ!!」


「っーー!」









「見えた」
 


キィィンと甲高く響く金属音。
間一髪日向子は積怒の錫杖を刀ではね返し、そのまま頭の上から真っ二つに切り裂いた。




「っーーあぁぁぁ!灼けるぅっおのれ、おのれー!」



怒り狂ったように積怒が怒声をあげる中、日向子は禰豆子と玄弥を垣間見て眉間に皺を寄せた。
おびただしい血を流している。




「二人ともありがとう、お陰で本体を見つけっ...」



日向子が玖ノ型の力を解いた瞬間だった。
哀絶の槍が、彼女の横腹を切り裂き血飛沫が舞い上がった。



ーーーーー


〜273【燃え上がる炎】〜




油断...した


日向子はグッと傷口を押さえる。
玖ノ型は、識覚範囲が広く対象物が小さいほど、高度な集中力を要する型だ。

識覚に入っている間は、間合いに入った物体に反応出来る代わりに、他の型を瞬時に繰り出せない難点があった。
故に、彼女達の援護は必要不可欠だったのだ。


槍鬼は玄弥と交戦しつつ、日向子が型を解くその一瞬の隙を狙っていた。



「やはり人の子だな。もろい..脆すぎる」



続けて二撃目の態勢に入った哀絶に、血眼の玄弥が鉛玉を打ち込む。



「させるかっ!くそ..すまない日向子さん」


「大丈夫っ..これくらい」



そう虚勢を張るも、傷は決して浅くはなく日向子は片膝をつけたまま動けなかった。


本体は向こうの雑木林に身を隠している。
いつまでもここで闘ってる場合ではない、位置を把握している私が討伐しに行くべきなのに。
どうするのが最善か..考えろ、考え




ー炭治郎っー



「早く戻って来て..」





禰豆子の方を見ると、団扇鬼の体がぼうっと燃えている様子が目に入った。彼女の血鬼術だ。
敵が炎で怯んだ隙にもぎ取った団扇で、一匹を戦線離脱させることに成功する。


しかし、その状況を見過ごさなかった積怒が、回復後すかさず禰豆子に向かって錫杖を突き立てる。
バリバリと雷の轟音が辺りにこだまし、禰豆子は白目を向きながらガクガクと痙攣けいれんした。



「っやめてーー!」



呼吸による止血が間に合っていないまま、妹を助けようと日向子は足を踏み出した。




ーその時ー




土壁を突き破り、瓦礫がれきが散乱する激しい音と共に炭治郎が現れた。




「禰豆子!日向子姉さん!」


「っ炭治郎!」



炭治郎は瞬時に状況を把握する。目の前で攻撃を受け続けている妹と手負いの姉を見て、彼は怒りに身を任せ積怒に突進していく。



「やめろーーっ!!」


「くそ..空喜までも、随分と手を焼いたものだな。腹立たしい、腹立たしい!」



シャリン
鬼は新たな錫杖を手の平から出現させると、炭治郎目掛けて突き立てる。しかし、雷を通さない鬼の足でそれを受け止めた。




「っ!」



この短時間での炭治郎の洞察力と観察眼は見事なものだった。確実に鬼の意表をついており、目論見通り禰豆子の錫杖を抜き取りにかかるが、背後には鋭い殺気が迫りくる。




ーまずい、後ろっー



ドスッ



間一髪禰豆子が意識を取り戻し、貫通を阻止すると、鬼の体は一際大きく燃え上がった。



ーーーーー
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