◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜262【素直】〜
日向子は真っ赤になってこくこくと頷くしかなかった。
こんな巷 で流行ってる恋愛小説のヒロインみたいな役回り、
私はどうしても性に合わない。気恥ずかしい..。
そう言っても、彼等は聞き入れてくれないのだろうけど。
ただ、日向子の反応に無一郎は満足そうに広角を上げる。
「俺、日向子のそういう顔見ると、ちょっと興奮するんだよね」
ー君の心を掻き乱してるみたいでさー
あぁ...わかってはいたけど、彼は存外サディスト気質なのかもしれない。私の反応や表情を見て、楽しんでいる節がある。
ただそれは純粋に、無邪気で、本能の赴くままに、あどけない顔をして、とんでもない。
日向子は諦めたように小さくため息をついたのだった....
「ところで、鉄穴森って刀鍛冶知ってる?どこにいるか探してたんだけど、見つからなくて」
炭治郎達のいる部屋に戻る途中に、彼はそう尋ねた。無一郎の以前の刀鍛冶が持病で亡くなった為、鉄穴森さんが新しい刀鍛冶となったらしい。
会ったことがあるし知ってはいるが、今どこにいるかまではわからなかった。
「...ごめんね。あ、炭治郎なら知ってるかも。多分、日輪刀を持ってたって事は鋼鐡塚さんには会ってる筈なんだ。」
そうこうしているうちに部屋に辿り着いたが、炭治郎と禰豆子は今もなお仲良く夢の中。
よっぽど疲れていたのだろう、日向子達の気配に気付く事なく、熟睡している。
そんな光景を見て、日向子はふっと笑みを溢 した。
無一郎は彼女の柔らかい空気に気付き、少しだけむっとして見せて、炭治郎の鼻をつまんだ。
「っ!」
勢いよく身を起こした炭治郎は、突然眼前に現れた無一郎と日向子の両者を見て、状況がわからずあたふたしていた。
「日向子姉さん、それに..時透君。何で君がここに」
「...炭治郎」
小さく頑張れと日向子が囁くと、彼は意を決してこう発した。
「この前は、投げ飛ばしたりしてごめん。」
炭治郎は大きく目を見開きしばらく無一郎を見つめていたが、やがて穏やかな眼差しに変わる。
「そんな事はもう俺気にしてないよ。俺も...ちゃんと君に謝りたかったんだ。大人気ない事たくさんしたし言ってしまった。ごめんね。」
炭治郎は日向子の方へちらりと目線をよこす。
その意図を察した彼女はすくりとその場で立ち上がった。
「私は席外すね。また後で来るよ」
多分、私抜きの方が2人は素直に胸の内をさらけ出せるだろう
ーーーーー
〜263【好敵手】〜
日向子が部屋を出て行ったのを見計らうと、炭治郎はこう続けた。
「俺、時透君の強さを素直に尊敬してるんだ。あの人形と戦えば戦う程、こんなに隙のない相手から呆気なく一本取ってしまった君の実力が、身に染みてわかった。凄い子なんだなと思った。才能もあるかもしれないけど、君も..相当な鍛錬を積んで来たんじゃないのか?」
無一郎は瞳を揺らす。
今まで接してきた人間の殆どが、選ばれた人間だから次元が違うのだと決めつけた。
まるで苦労などしてこなかったような言い草をされてきた。
でも、そんな事は言わせておけば良かったし、どうでもよかった。
僕には過去の記憶が無かったから...感情もどこかに置き去りにしてきたような人間だ。
でも本当は誰かに、霞を吹き払うきっかけを与えて欲しかったのかもしれない。
ー視界を阻 んで何も見えない。だから、明るく道を照らし出してくれる太陽を発したのだー
「今のままじゃ、日向子姉さんを守るどころの話じゃない事も真摯 に受け止めたつもりだ。
だから、もっと強くなりたい。俺も、彼女を諦めるつもりは毛頭ないんだ。それは、君も同じなんだな?」
「...そうだね。日向子の事に関して言えば、僕も炭治郎と同じだ」
そうはっきりと告げれば、炭治郎はそうかと少し寂しそうに呟いた。だが、すぐに前向きな表情に戻り力強い眼差しで無一郎を射抜く。
「じゃあ、俺と時透君は好敵手 だな、これから宜しく頼む!」
ぺこりと勢いよく頭を下げる炭治郎を見て、なんて誠実で律儀なんだろうと面食らった。なんて、晴れ晴れした笑顔を向けるのだろうと。
「ん..うん。」
そう返答するのが精一杯だった。
ーーーーー
日向子は部屋を出たはいいが、手持ち無沙汰のまま周りをキョロキョロと見回した。
「静かだなぁ...」
しんと静まり返る夜の里。それは、とても不気味な程に。
星の呼吸と異能を極めれば極める程、日向子は五感が冴え渡るようになっていった。
それこそ、鬼の気配が分かるほどに。
正確には、鬼の気配というより、それ以外の自然や生き物の様子が変わる。
鬼が出る夜は、生き物の気配がふつりと消失し、風や大地が不穏にざわめく。
今夜は、そんな予兆を感じるような気がする..。
「まさかね、この里は巧妙に隠されているって言ってたもの」
独り言を呟いた先に、見覚えのある人物が目に入った。
あれは...
ー不死川玄弥君ー?
ーーーーー
〜264【情けは人の為ならず】〜
「おーい、玄弥君!あなたもこの里に来てたのね!」
日向子がたたっと駆け寄り呼びかけると、あからさまに肩を跳ねさせ、ギギギと音が鳴りそうな程ぎごちない動きで首をこちらに向けた。
「あんたっ、何の用だよ」
彼はぶっきらぼうにそう突っぱねる。
日向子がずいっと顔を寄せると、寄せた分の距離を離される。
前に会った好戦的な態度とは打って変わり、顔が赤くなり挙動不審な様は一瞬別人なのではと思ってしまったくらいだ。
思春期というやつだろうか?
不思議な態度に日向子は首を傾げるが、ハッとして頭をぺこりと下げる。
「最終選別の時は、弟が失礼をしてごめんなさい。腕...折れたでしょう?あの時」
「あぁ、別に、あ...あんたは悪くないだろ。」
彼はそう言うが、もしその折れた腕のせいでその後の鬼殺の任務や彼の出世に影響が出ていたらと思うと、申し訳が立たない。
確かに何の罪もない子供を殴った事はいけない事だが、それ相応の罰を炭治郎が下したのだとしても、彼には彼の事情があったのでは..
「玄弥君は何でこの里に来たの?」
そう問いかけた途端、ピタリと今までの挙動不審が止んだ。
「俺はもっと強くならなきゃいけねぇんだ。俺は兄貴と違って...才能があるわけじゃない。手段を選んでる暇はねぇんだよ」
彼はぎゅっと己の拳を握り締める。
その声色は決意を胸に秘めたように凛としていた。
「...君は」
バキバキィィィッ!!
「「っ!!」」
突然鳴り響いた家屋が吹き飛ばされたような轟音 。一体何が起きたのかわからず、2人とも顔を見合わせる。
「炭治郎達がいる部屋からだ、行かなきゃっ」
ーーーーー
ー数分前ー
「そう言えば、時透君他に用事あった?わざわざ謝りに来てくれただけ?」
きょとんとした表情で炭治郎が訪ねると、思い出したように無一郎が口を開く。
「鉄穴森を探してたんだけど、炭治郎どこにいるか知ってる?」
すると一瞬間を置いて、彼はこう言った。
「多分鋼鐡塚さんと一緒にいるんじゃないかな?俺一緒に探そうか?」
....
曇りなき眼でそう提案する炭治郎に、無一郎はこう返す。
「だって..君には君のやるべき事があるんじゃないの?なんでそんなに、人に構うの?」
純粋にそう尋ねると、彼はこう教えてくれた。
「人の為にする事は結局、巡り巡って自分の為にもなってるものだし、俺も行こうと思ってたからちょうどいいんだよ」
ーーーーー
〜265【敵襲】〜
無一郎は徐々に目を見開いていった。
「今..何て言ったの?」
「え?ちょうどいいよって、いでっ!」
ガンという鈍い音と共に禰豆子が覚醒し炭治郎の顎に頭突きする。あははと無邪気に笑う炭治郎と元気アピールをする禰豆子を、どこか虚に見ていた。
違う
そこじゃない
今炭治郎が言った言葉
ーどこかで昔僕は..誰かとこんな話をしたような気がするー
誰だ?いつだ?あぁ...思い出せない。
「大丈夫?時透君」
こめかみを抑えて黙り込む無一郎を心配し、炭治郎が声をかけた。
「..大丈夫。」
その時だった
障子の向こう側に気配がする。炭治郎も無一郎もほぼ一斉にそちらに目線を向けた。
「誰か来てます?日向子姉さんでは無さそうだけど」
「うん。そうだね」
スッと障子が横に引かれて、暗がりの向こうから【それ】はぬらりと現れた。
「ヒィィィィ....」
這いずるように部屋の中へと、指の爪の先端が入った瞬間、二人は刀を抜き戦闘態勢に入った。
気配のとぼけ方が尋常ではなかった。間違いなくこいつは【上弦の鬼だ】
ー霞の呼吸 肆ノ型 移流斬りー
素早く無一郎が呼吸の技を放つ、しかし鬼は致命傷を回避して天井へとへばりついた。
酷く怯えた様子で嘆き声を上げる鬼は、一見すると今までのどの鬼よりも弱そうな印象を受けるが...
炭治郎も自らの日輪刀を構える。
鬼は見た目で判断は出来ない。何より柱である時透の先手を避けられる鬼はそう居ないだろう。心して掛からなければ、こちらが殺 られるっ
ーヒノカミ神楽‼ 陽華突‼ ー
一切無駄な動きのない素早い型で、鬼の急所目掛けて穿 つとバタンと音を立て床に落ちる。
当たったか?
何で奴は【反撃】してこない
ただただ先程から一方的に攻撃を受け回避して、反撃をしてこようとはしない。
この鬼の特性が全くわからない。
床に落ちた鬼を、間髪入れず戦闘態勢の禰豆子が蹴り上げる。
「禰豆子っその姿になるな!!」
上弦の陸との戦闘のように、また彼女の自我が失われて人の血肉を欲するだなんて事になったら敵わない。
しかし、禰豆子のお陰で一気に怯んだ鬼の頚を、今度は無一郎が捉えんとする。
霞柱故だろうか、欺 き方と素早さは今まで炭治郎が目にしてきたどの剣士と比べても群を抜いている。
見事な太刀筋で、彼は鬼の頚を刈った。
けど...
「時透君油断しないで!」
倒すには何らかの条件が必要かもしれない
ーーーーー
日向子は真っ赤になってこくこくと頷くしかなかった。
こんな
私はどうしても性に合わない。気恥ずかしい..。
そう言っても、彼等は聞き入れてくれないのだろうけど。
ただ、日向子の反応に無一郎は満足そうに広角を上げる。
「俺、日向子のそういう顔見ると、ちょっと興奮するんだよね」
ー君の心を掻き乱してるみたいでさー
あぁ...わかってはいたけど、彼は存外サディスト気質なのかもしれない。私の反応や表情を見て、楽しんでいる節がある。
ただそれは純粋に、無邪気で、本能の赴くままに、あどけない顔をして、とんでもない。
日向子は諦めたように小さくため息をついたのだった....
「ところで、鉄穴森って刀鍛冶知ってる?どこにいるか探してたんだけど、見つからなくて」
炭治郎達のいる部屋に戻る途中に、彼はそう尋ねた。無一郎の以前の刀鍛冶が持病で亡くなった為、鉄穴森さんが新しい刀鍛冶となったらしい。
会ったことがあるし知ってはいるが、今どこにいるかまではわからなかった。
「...ごめんね。あ、炭治郎なら知ってるかも。多分、日輪刀を持ってたって事は鋼鐡塚さんには会ってる筈なんだ。」
そうこうしているうちに部屋に辿り着いたが、炭治郎と禰豆子は今もなお仲良く夢の中。
よっぽど疲れていたのだろう、日向子達の気配に気付く事なく、熟睡している。
そんな光景を見て、日向子はふっと笑みを
無一郎は彼女の柔らかい空気に気付き、少しだけむっとして見せて、炭治郎の鼻をつまんだ。
「っ!」
勢いよく身を起こした炭治郎は、突然眼前に現れた無一郎と日向子の両者を見て、状況がわからずあたふたしていた。
「日向子姉さん、それに..時透君。何で君がここに」
「...炭治郎」
小さく頑張れと日向子が囁くと、彼は意を決してこう発した。
「この前は、投げ飛ばしたりしてごめん。」
炭治郎は大きく目を見開きしばらく無一郎を見つめていたが、やがて穏やかな眼差しに変わる。
「そんな事はもう俺気にしてないよ。俺も...ちゃんと君に謝りたかったんだ。大人気ない事たくさんしたし言ってしまった。ごめんね。」
炭治郎は日向子の方へちらりと目線をよこす。
その意図を察した彼女はすくりとその場で立ち上がった。
「私は席外すね。また後で来るよ」
多分、私抜きの方が2人は素直に胸の内をさらけ出せるだろう
ーーーーー
〜263【好敵手】〜
日向子が部屋を出て行ったのを見計らうと、炭治郎はこう続けた。
「俺、時透君の強さを素直に尊敬してるんだ。あの人形と戦えば戦う程、こんなに隙のない相手から呆気なく一本取ってしまった君の実力が、身に染みてわかった。凄い子なんだなと思った。才能もあるかもしれないけど、君も..相当な鍛錬を積んで来たんじゃないのか?」
無一郎は瞳を揺らす。
今まで接してきた人間の殆どが、選ばれた人間だから次元が違うのだと決めつけた。
まるで苦労などしてこなかったような言い草をされてきた。
でも、そんな事は言わせておけば良かったし、どうでもよかった。
僕には過去の記憶が無かったから...感情もどこかに置き去りにしてきたような人間だ。
でも本当は誰かに、霞を吹き払うきっかけを与えて欲しかったのかもしれない。
ー視界を
「今のままじゃ、日向子姉さんを守るどころの話じゃない事も
だから、もっと強くなりたい。俺も、彼女を諦めるつもりは毛頭ないんだ。それは、君も同じなんだな?」
「...そうだね。日向子の事に関して言えば、僕も炭治郎と同じだ」
そうはっきりと告げれば、炭治郎はそうかと少し寂しそうに呟いた。だが、すぐに前向きな表情に戻り力強い眼差しで無一郎を射抜く。
「じゃあ、俺と時透君は
ぺこりと勢いよく頭を下げる炭治郎を見て、なんて誠実で律儀なんだろうと面食らった。なんて、晴れ晴れした笑顔を向けるのだろうと。
「ん..うん。」
そう返答するのが精一杯だった。
ーーーーー
日向子は部屋を出たはいいが、手持ち無沙汰のまま周りをキョロキョロと見回した。
「静かだなぁ...」
しんと静まり返る夜の里。それは、とても不気味な程に。
星の呼吸と異能を極めれば極める程、日向子は五感が冴え渡るようになっていった。
それこそ、鬼の気配が分かるほどに。
正確には、鬼の気配というより、それ以外の自然や生き物の様子が変わる。
鬼が出る夜は、生き物の気配がふつりと消失し、風や大地が不穏にざわめく。
今夜は、そんな予兆を感じるような気がする..。
「まさかね、この里は巧妙に隠されているって言ってたもの」
独り言を呟いた先に、見覚えのある人物が目に入った。
あれは...
ー不死川玄弥君ー?
ーーーーー
〜264【情けは人の為ならず】〜
「おーい、玄弥君!あなたもこの里に来てたのね!」
日向子がたたっと駆け寄り呼びかけると、あからさまに肩を跳ねさせ、ギギギと音が鳴りそうな程ぎごちない動きで首をこちらに向けた。
「あんたっ、何の用だよ」
彼はぶっきらぼうにそう突っぱねる。
日向子がずいっと顔を寄せると、寄せた分の距離を離される。
前に会った好戦的な態度とは打って変わり、顔が赤くなり挙動不審な様は一瞬別人なのではと思ってしまったくらいだ。
思春期というやつだろうか?
不思議な態度に日向子は首を傾げるが、ハッとして頭をぺこりと下げる。
「最終選別の時は、弟が失礼をしてごめんなさい。腕...折れたでしょう?あの時」
「あぁ、別に、あ...あんたは悪くないだろ。」
彼はそう言うが、もしその折れた腕のせいでその後の鬼殺の任務や彼の出世に影響が出ていたらと思うと、申し訳が立たない。
確かに何の罪もない子供を殴った事はいけない事だが、それ相応の罰を炭治郎が下したのだとしても、彼には彼の事情があったのでは..
「玄弥君は何でこの里に来たの?」
そう問いかけた途端、ピタリと今までの挙動不審が止んだ。
「俺はもっと強くならなきゃいけねぇんだ。俺は兄貴と違って...才能があるわけじゃない。手段を選んでる暇はねぇんだよ」
彼はぎゅっと己の拳を握り締める。
その声色は決意を胸に秘めたように凛としていた。
「...君は」
バキバキィィィッ!!
「「っ!!」」
突然鳴り響いた家屋が吹き飛ばされたような
「炭治郎達がいる部屋からだ、行かなきゃっ」
ーーーーー
ー数分前ー
「そう言えば、時透君他に用事あった?わざわざ謝りに来てくれただけ?」
きょとんとした表情で炭治郎が訪ねると、思い出したように無一郎が口を開く。
「鉄穴森を探してたんだけど、炭治郎どこにいるか知ってる?」
すると一瞬間を置いて、彼はこう言った。
「多分鋼鐡塚さんと一緒にいるんじゃないかな?俺一緒に探そうか?」
....
曇りなき眼でそう提案する炭治郎に、無一郎はこう返す。
「だって..君には君のやるべき事があるんじゃないの?なんでそんなに、人に構うの?」
純粋にそう尋ねると、彼はこう教えてくれた。
「人の為にする事は結局、巡り巡って自分の為にもなってるものだし、俺も行こうと思ってたからちょうどいいんだよ」
ーーーーー
〜265【敵襲】〜
無一郎は徐々に目を見開いていった。
「今..何て言ったの?」
「え?ちょうどいいよって、いでっ!」
ガンという鈍い音と共に禰豆子が覚醒し炭治郎の顎に頭突きする。あははと無邪気に笑う炭治郎と元気アピールをする禰豆子を、どこか虚に見ていた。
違う
そこじゃない
今炭治郎が言った言葉
ーどこかで昔僕は..誰かとこんな話をしたような気がするー
誰だ?いつだ?あぁ...思い出せない。
「大丈夫?時透君」
こめかみを抑えて黙り込む無一郎を心配し、炭治郎が声をかけた。
「..大丈夫。」
その時だった
障子の向こう側に気配がする。炭治郎も無一郎もほぼ一斉にそちらに目線を向けた。
「誰か来てます?日向子姉さんでは無さそうだけど」
「うん。そうだね」
スッと障子が横に引かれて、暗がりの向こうから【それ】はぬらりと現れた。
「ヒィィィィ....」
這いずるように部屋の中へと、指の爪の先端が入った瞬間、二人は刀を抜き戦闘態勢に入った。
気配のとぼけ方が尋常ではなかった。間違いなくこいつは【上弦の鬼だ】
ー霞の呼吸 肆ノ型 移流斬りー
素早く無一郎が呼吸の技を放つ、しかし鬼は致命傷を回避して天井へとへばりついた。
酷く怯えた様子で嘆き声を上げる鬼は、一見すると今までのどの鬼よりも弱そうな印象を受けるが...
炭治郎も自らの日輪刀を構える。
鬼は見た目で判断は出来ない。何より柱である時透の先手を避けられる鬼はそう居ないだろう。心して掛からなければ、こちらが
ーヒノカミ神楽‼ 陽華突‼ ー
一切無駄な動きのない素早い型で、鬼の急所目掛けて
当たったか?
何で奴は【反撃】してこない
ただただ先程から一方的に攻撃を受け回避して、反撃をしてこようとはしない。
この鬼の特性が全くわからない。
床に落ちた鬼を、間髪入れず戦闘態勢の禰豆子が蹴り上げる。
「禰豆子っその姿になるな!!」
上弦の陸との戦闘のように、また彼女の自我が失われて人の血肉を欲するだなんて事になったら敵わない。
しかし、禰豆子のお陰で一気に怯んだ鬼の頚を、今度は無一郎が捉えんとする。
霞柱故だろうか、
見事な太刀筋で、彼は鬼の頚を刈った。
けど...
「時透君油断しないで!」
倒すには何らかの条件が必要かもしれない
ーーーーー