◆第拾章 未曾有の襲撃
貴女のお名前を教えてください
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〜258【放たれし影】〜
ーからころ、 からころ...ー
静まりかえった山中に下駄の音が響く。男は上機嫌に鼻歌を歌いながら下っていった。
「いやぁ..やっぱこの時間に入る温泉は格別だなぁ。明日も早朝から作業だってのに、すっかり長湯しちまった。」
あたりはすっかり宵闇に包まれているが、まさか巧妙に外界から隠されたこの里に鬼が出る筈もない。
そんな事が起きるくらいなら、天と地がひっくりかえるに賭けてもいい。
「ん?」
男は道のど真ん中に置かれている壺に気付いた。
なんだこれは..人為的なものであろうか?
誰がこんなところに、危ないではないかとぶつくさ文句を垂れながら、その壺へと手を差し伸ばした。
その時
「っ!~っ」
それは一瞬の出来事であった。
ぎゅるりと男の手が壺の中へ引き込まれたかと思うと、バキボキと骨が砕ける嫌な音があたりに響き、血が飛び散る。
無残にも食い散らかされた男の体と衣服、そしてひょっとこの面がピシャリと吐き出された。
壺の中から現れたのは、奇妙に揺れ動く異形の鬼。
「不味い不味い、やはり山の中の刀鍛冶の肉など食えたものではないわ。だがそれもいい..
しかしこの里を潰せば鬼狩り共を..ヒョッ、確実に【弱体化】させられる。そしてあわよくば、巫一族の小娘を殺せば一気に..ヒョヒョッ」
ーさぁて、あのお方を邪魔する者共を殺し、私の芸術品にでもしてやろうか?いやぁ胸が躍る躍るー
「急がねば...早う早う..あのお方に盾付く者共を皆殺しにせねば、お怒りじゃ」
ー恐ろしや...ー
ーーー
ー無限城内ー
無惨はタンタンとテーブルを指で叩きながら、手元の洋風グラスをからりと揺らした。
今頃は玉壺と半天狗が刀鍛冶の里に到着し敵襲をかける頃だろう。
今度こそは、しくじりは許さない。
本当ならばあの鬼の小娘、禰豆子を辿りそこに共に居るであろう炭治郎と日向子を殺す事が出来れば随分違うが...
「ちっ...」
無惨は大きく舌打ちをしてグラスを思い切り壁に叩きつける。
何故、私の血を取り込んで尚追跡を逃れるのだ
何故、巫の血は私の血を拒むのだ
何故、炭治郎の刀は赤く爆ぜるのだ!
何もかもが思う通りにならない。予定が著しく狂っている。全てはあの忌々しい耳飾りの少年と、星詠みの巫女のせいだ!
上弦はもはや期待出来ない、私が動かなければ...
いや、黒死牟だけは他の上弦とは次元が違う。
だがあの男は..
ー期待はしているが、【信用】はしていないからなー
ーーーーー
〜259【無一郎の心理】〜
「あら、禰豆子寝ちゃったわ」
髪の毛を梳かされる感触が余程気持ち良かったのか、禰豆子は座ったままこっくりこっくりと頭を揺らし始める。
そんな妹の寝顔を微笑ましそうに見て、ゆっくりと横に寝かせた。
「本当だ。禰豆子、姉さんに髪弄ってもらうの好きだったもんなぁ。幸せそうだ...」
「ふふ、何だか昔を思い出すよね。...炭治郎?」
「...ん?」
日向子は炭治郎に近寄り、ぐいっと腕を引くと禰豆子の横にぽすんと彼を寝かせた。
「貴方も眠そうよ?寝ていいから。ずっとここ数日鍛錬してたから無理もないしね。」
ーバレてしまった...ー
確かにさっきから眠気が凄くて、度々目を擦っていたんだ。そして禰豆子の規則正しい寝息を聞いてたら、一気に睡魔が襲って来てしまった。
ここはお言葉に甘えて、少し寝させて貰う事にした。
「ありがとう、ちょっと寝させて貰うよ。日向子姉さんは?」
「私は大丈夫。ゆっくりお休み炭治郎」
彼女は自分の羽織をさっと脱いで、炭治郎と禰豆子の上に広げる。ふわりと姉さんの香りがして、とても心地が良い。
そして、炭治郎はあっという間に意識を手離した...
2人が寝入ったのを確認すると、日向子は出入り口の襖の方に向かって声を掛けた。
「無一郎君、いるんでしょう?」
問いかけに対する反応はないが、日向子がさっと襖を開けると、やはり彼が気まずそうにして目の前に佇んでいた。
「何で僕の気配わかったの?気付かせないようにしてたんだけど」
「さぁ..何でだろうね?じゃあ逆に聞くけど、何で気付いて欲しくなかったのに、入り口の前に居たの?」
そう問いかけると、彼は意地悪..と小さく呟いた。日向子はそんな彼が可愛くて、思わずくすくすと笑ってしまうと、無一郎は少しむっとして見せた。
「ごめんごめん、そんな顔しないでよ。申し訳ないけど、2人とも寝ちゃったから、起こさないように向こうで話そうか?」
彼女は微笑んで無一郎の手を引いた。
ーーーーー
多分、彼女には全部悟られているのかもしれない。
僕が何の為にあそこにいたのか..。
本当は、炭治郎とちゃんと話をしたくて来たんだ。
あの時、物凄く感情的になってしまって、理由はどうあれ彼を投げ飛ばして酷い事をしたのは事実だ。
ー炭治郎は..怒りなどでは無く、とても悲哀に満ちた瞳で僕を見ていたー
別に、炭治郎と仲違いしたいわけじゃないんだ。そんなつもり、なかったんだ。
ーーーーー
〜260【嫌われたくない】〜
「炭治郎に用があって来たんだよね?ごめんね、彼ずっとあの絡繰人形と手合わせしてて、ここ最近疲れが溜まってたの」
小鉄君の指導が厳しくて、本気で死ぬんじゃないかと思って冷や冷やしたよと、日向子はからからと笑いながら無一郎にそう話した。
そうだったんだ..。
「僕が、あんな事言ったからかな。そんなじゃ日向子の事守れる訳ないだろって、言ったから」
すると彼女は一瞬困ったような表情を見せた後、うーんと唸って思案し始めた。
「それは、本人に聞かないと私の口からは言えないけれど、ただ...強くなりたいって思ったのは事実だと思う。炭治郎、無一郎君の事純粋に尊敬してたよ?
自分よりもうんと優れてるって、だから、貴方に負けないくらい強くなりたいんだって」
ー男の子って、凄いねー
日向子は穏やかな笑みを浮かべてそう呟いた。
炭治郎は、本当に純粋で優しくて、真っ直ぐな人間なんだと思う。
まだまだ僕には理解が及ばないところはあるけど、きっとそんな裏表のない綺麗な人間だから、人が寄り付くんだろう。
あれから色々考えたんだ、【僕は彼の事をどう思っているんだろう】って、自問自答した。
彼は、僕の事を尊敬していると言うけれど...
それは僕もまた同じだった。
僕が、喉から手が出るほど欲しい物を既に持っている
いつか僕も、それを手に入れる事が出来るだろうか?取り戻す事が、出来るのだろうか?
炭治郎のようになりたい。
そう思う自分がいた事に気付いた。
最も、僕も炭治郎も人間性は尊重出来たとして、お互い日向子を諦められないのであれば、
恋敵としては平行線を辿るかもしれないけれど...
「ねぇ、日向子ってどんな人が好きなの?」
「え!..それは、藪 から棒ね。」
「気になるんだ、答えて欲しい。」
彼女は腕を組んでしばらく考えた末にこう返した。
「自然や生き物に慈しみを持てる人..かな?悪逆非道な人は嫌いだわ。」
..なるほど、星の呼吸を使う日向子らしい答えかもしれない。
でも待って..それじゃあ
僕が炭治郎や小鉄君に酷いことをしたの、あまり良く思われてないんじゃ
「..っえ、無一郎君?何で泣いて..私のせいかな。ご、ごめんね!」
気付けばぽろぽろと涙が溢れていた。
そんなつもりじゃないのだと、彼女は慌てて謝る。
あぁ、好いた人に嫌われると思うと、こんなに悲しく涙が出るものなのか..
「炭治郎にもちゃんと謝るから..。だから嫌わないで?日向子」
ーーーーー
〜261【私には..】〜
突然泣き出してしまった無一郎を見ておろおろと慌てたが、彼の心中を悟りこう伝える。
「嫌わないよ!無一郎君は優しい子だよ?銀子さんや師範も言ってたわ。ただ、今はちょっと不器用になっちゃってるだけだよ。
昔、何があったかはわからないけど、少しずつ..記憶や色んな感情を取り戻して行けばいいから。焦らないで、大丈夫だからね。」
よしよしと背中を撫でてやると、徐々に彼は落ち着きを取り戻した。
ありがとうと言って日向子の袖をぎゅっと握りしめ離さない。
「日向子...」
「ん?」
「好き」
美しい翡翠 色の瞳を潤ませて、彼は愛おしげに口から絞り出した。
一瞬時が止まったかのような空気が2人の間に流れる。
「ぁ...うん、ありがとう。」
面と向かって発された好意の言葉。
不意打ちだったので思わず赤面してしまった。
彼は炭治郎と似ていて、想いが一直線過ぎて、
こちらが戸惑ってしまう。
「僕は本気だよ。日向子の全部に、どうしようもなく惹かれるんだ」
っ...
無一郎の姿が、ある日の炭治郎と重なる。
彼等は私を好きだと言うが何故そんなにも...そんなにも執着する要素など、私にはないというのに
不思議なのだ。
私は飛び抜けて美人に産まれたわけでもなければ、鬼殺なんかやっているものだから、
手の平は豆だらけで、筋肉も普通の女子よりもある。
それに..それに、私は彼等よりも歳上だし。
全然、可愛くなんてないもの
「日向子今、何考えてる?」
「私は...」
ー彼等にはもっと相応しい子がいるんじゃないかって、ずっと思ってたからー
「日向子は可愛くて、とても綺麗だよ。だから自信持って。」
「..無一郎君」
それはね、僕も炭治郎と同意見だ。
そう言った彼の表情はとても穏やかだった。
「僕は諦められないよ。そしてそれは、恐らく炭治郎も同じだと思う」
あの時..炭治郎の目を見て感じた。
あの瞳は嘆きの眼差しだった。
何故、こうなってしまったんだろうという憂い。
炭治郎も一切身を引く事は出来ないのだと無一郎は悟った。それほどに彼も日向子の事を
欲して止 まないのだろう
「...いつか、君にはどちらかを選んで欲しいと思う。この闘いが終わってからでも構わないから。僕らは日向子じゃないと、駄目なんだ。
言っておくけど、どちらも選ばないとか他の奴を選ぶっていうのはあり得ないからね」
彼はきっぱりと日向子にそう告げたのだった。
ーーーーー
ーからころ、 からころ...ー
静まりかえった山中に下駄の音が響く。男は上機嫌に鼻歌を歌いながら下っていった。
「いやぁ..やっぱこの時間に入る温泉は格別だなぁ。明日も早朝から作業だってのに、すっかり長湯しちまった。」
あたりはすっかり宵闇に包まれているが、まさか巧妙に外界から隠されたこの里に鬼が出る筈もない。
そんな事が起きるくらいなら、天と地がひっくりかえるに賭けてもいい。
「ん?」
男は道のど真ん中に置かれている壺に気付いた。
なんだこれは..人為的なものであろうか?
誰がこんなところに、危ないではないかとぶつくさ文句を垂れながら、その壺へと手を差し伸ばした。
その時
「っ!~っ」
それは一瞬の出来事であった。
ぎゅるりと男の手が壺の中へ引き込まれたかと思うと、バキボキと骨が砕ける嫌な音があたりに響き、血が飛び散る。
無残にも食い散らかされた男の体と衣服、そしてひょっとこの面がピシャリと吐き出された。
壺の中から現れたのは、奇妙に揺れ動く異形の鬼。
「不味い不味い、やはり山の中の刀鍛冶の肉など食えたものではないわ。だがそれもいい..
しかしこの里を潰せば鬼狩り共を..ヒョッ、確実に【弱体化】させられる。そしてあわよくば、巫一族の小娘を殺せば一気に..ヒョヒョッ」
ーさぁて、あのお方を邪魔する者共を殺し、私の芸術品にでもしてやろうか?いやぁ胸が躍る躍るー
「急がねば...早う早う..あのお方に盾付く者共を皆殺しにせねば、お怒りじゃ」
ー恐ろしや...ー
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ー無限城内ー
無惨はタンタンとテーブルを指で叩きながら、手元の洋風グラスをからりと揺らした。
今頃は玉壺と半天狗が刀鍛冶の里に到着し敵襲をかける頃だろう。
今度こそは、しくじりは許さない。
本当ならばあの鬼の小娘、禰豆子を辿りそこに共に居るであろう炭治郎と日向子を殺す事が出来れば随分違うが...
「ちっ...」
無惨は大きく舌打ちをしてグラスを思い切り壁に叩きつける。
何故、私の血を取り込んで尚追跡を逃れるのだ
何故、巫の血は私の血を拒むのだ
何故、炭治郎の刀は赤く爆ぜるのだ!
何もかもが思う通りにならない。予定が著しく狂っている。全てはあの忌々しい耳飾りの少年と、星詠みの巫女のせいだ!
上弦はもはや期待出来ない、私が動かなければ...
いや、黒死牟だけは他の上弦とは次元が違う。
だがあの男は..
ー期待はしているが、【信用】はしていないからなー
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〜259【無一郎の心理】〜
「あら、禰豆子寝ちゃったわ」
髪の毛を梳かされる感触が余程気持ち良かったのか、禰豆子は座ったままこっくりこっくりと頭を揺らし始める。
そんな妹の寝顔を微笑ましそうに見て、ゆっくりと横に寝かせた。
「本当だ。禰豆子、姉さんに髪弄ってもらうの好きだったもんなぁ。幸せそうだ...」
「ふふ、何だか昔を思い出すよね。...炭治郎?」
「...ん?」
日向子は炭治郎に近寄り、ぐいっと腕を引くと禰豆子の横にぽすんと彼を寝かせた。
「貴方も眠そうよ?寝ていいから。ずっとここ数日鍛錬してたから無理もないしね。」
ーバレてしまった...ー
確かにさっきから眠気が凄くて、度々目を擦っていたんだ。そして禰豆子の規則正しい寝息を聞いてたら、一気に睡魔が襲って来てしまった。
ここはお言葉に甘えて、少し寝させて貰う事にした。
「ありがとう、ちょっと寝させて貰うよ。日向子姉さんは?」
「私は大丈夫。ゆっくりお休み炭治郎」
彼女は自分の羽織をさっと脱いで、炭治郎と禰豆子の上に広げる。ふわりと姉さんの香りがして、とても心地が良い。
そして、炭治郎はあっという間に意識を手離した...
2人が寝入ったのを確認すると、日向子は出入り口の襖の方に向かって声を掛けた。
「無一郎君、いるんでしょう?」
問いかけに対する反応はないが、日向子がさっと襖を開けると、やはり彼が気まずそうにして目の前に佇んでいた。
「何で僕の気配わかったの?気付かせないようにしてたんだけど」
「さぁ..何でだろうね?じゃあ逆に聞くけど、何で気付いて欲しくなかったのに、入り口の前に居たの?」
そう問いかけると、彼は意地悪..と小さく呟いた。日向子はそんな彼が可愛くて、思わずくすくすと笑ってしまうと、無一郎は少しむっとして見せた。
「ごめんごめん、そんな顔しないでよ。申し訳ないけど、2人とも寝ちゃったから、起こさないように向こうで話そうか?」
彼女は微笑んで無一郎の手を引いた。
ーーーーー
多分、彼女には全部悟られているのかもしれない。
僕が何の為にあそこにいたのか..。
本当は、炭治郎とちゃんと話をしたくて来たんだ。
あの時、物凄く感情的になってしまって、理由はどうあれ彼を投げ飛ばして酷い事をしたのは事実だ。
ー炭治郎は..怒りなどでは無く、とても悲哀に満ちた瞳で僕を見ていたー
別に、炭治郎と仲違いしたいわけじゃないんだ。そんなつもり、なかったんだ。
ーーーーー
〜260【嫌われたくない】〜
「炭治郎に用があって来たんだよね?ごめんね、彼ずっとあの絡繰人形と手合わせしてて、ここ最近疲れが溜まってたの」
小鉄君の指導が厳しくて、本気で死ぬんじゃないかと思って冷や冷やしたよと、日向子はからからと笑いながら無一郎にそう話した。
そうだったんだ..。
「僕が、あんな事言ったからかな。そんなじゃ日向子の事守れる訳ないだろって、言ったから」
すると彼女は一瞬困ったような表情を見せた後、うーんと唸って思案し始めた。
「それは、本人に聞かないと私の口からは言えないけれど、ただ...強くなりたいって思ったのは事実だと思う。炭治郎、無一郎君の事純粋に尊敬してたよ?
自分よりもうんと優れてるって、だから、貴方に負けないくらい強くなりたいんだって」
ー男の子って、凄いねー
日向子は穏やかな笑みを浮かべてそう呟いた。
炭治郎は、本当に純粋で優しくて、真っ直ぐな人間なんだと思う。
まだまだ僕には理解が及ばないところはあるけど、きっとそんな裏表のない綺麗な人間だから、人が寄り付くんだろう。
あれから色々考えたんだ、【僕は彼の事をどう思っているんだろう】って、自問自答した。
彼は、僕の事を尊敬していると言うけれど...
それは僕もまた同じだった。
僕が、喉から手が出るほど欲しい物を既に持っている
いつか僕も、それを手に入れる事が出来るだろうか?取り戻す事が、出来るのだろうか?
炭治郎のようになりたい。
そう思う自分がいた事に気付いた。
最も、僕も炭治郎も人間性は尊重出来たとして、お互い日向子を諦められないのであれば、
恋敵としては平行線を辿るかもしれないけれど...
「ねぇ、日向子ってどんな人が好きなの?」
「え!..それは、
「気になるんだ、答えて欲しい。」
彼女は腕を組んでしばらく考えた末にこう返した。
「自然や生き物に慈しみを持てる人..かな?悪逆非道な人は嫌いだわ。」
..なるほど、星の呼吸を使う日向子らしい答えかもしれない。
でも待って..それじゃあ
僕が炭治郎や小鉄君に酷いことをしたの、あまり良く思われてないんじゃ
「..っえ、無一郎君?何で泣いて..私のせいかな。ご、ごめんね!」
気付けばぽろぽろと涙が溢れていた。
そんなつもりじゃないのだと、彼女は慌てて謝る。
あぁ、好いた人に嫌われると思うと、こんなに悲しく涙が出るものなのか..
「炭治郎にもちゃんと謝るから..。だから嫌わないで?日向子」
ーーーーー
〜261【私には..】〜
突然泣き出してしまった無一郎を見ておろおろと慌てたが、彼の心中を悟りこう伝える。
「嫌わないよ!無一郎君は優しい子だよ?銀子さんや師範も言ってたわ。ただ、今はちょっと不器用になっちゃってるだけだよ。
昔、何があったかはわからないけど、少しずつ..記憶や色んな感情を取り戻して行けばいいから。焦らないで、大丈夫だからね。」
よしよしと背中を撫でてやると、徐々に彼は落ち着きを取り戻した。
ありがとうと言って日向子の袖をぎゅっと握りしめ離さない。
「日向子...」
「ん?」
「好き」
美しい
一瞬時が止まったかのような空気が2人の間に流れる。
「ぁ...うん、ありがとう。」
面と向かって発された好意の言葉。
不意打ちだったので思わず赤面してしまった。
彼は炭治郎と似ていて、想いが一直線過ぎて、
こちらが戸惑ってしまう。
「僕は本気だよ。日向子の全部に、どうしようもなく惹かれるんだ」
っ...
無一郎の姿が、ある日の炭治郎と重なる。
彼等は私を好きだと言うが何故そんなにも...そんなにも執着する要素など、私にはないというのに
不思議なのだ。
私は飛び抜けて美人に産まれたわけでもなければ、鬼殺なんかやっているものだから、
手の平は豆だらけで、筋肉も普通の女子よりもある。
それに..それに、私は彼等よりも歳上だし。
全然、可愛くなんてないもの
「日向子今、何考えてる?」
「私は...」
ー彼等にはもっと相応しい子がいるんじゃないかって、ずっと思ってたからー
「日向子は可愛くて、とても綺麗だよ。だから自信持って。」
「..無一郎君」
それはね、僕も炭治郎と同意見だ。
そう言った彼の表情はとても穏やかだった。
「僕は諦められないよ。そしてそれは、恐らく炭治郎も同じだと思う」
あの時..炭治郎の目を見て感じた。
あの瞳は嘆きの眼差しだった。
何故、こうなってしまったんだろうという憂い。
炭治郎も一切身を引く事は出来ないのだと無一郎は悟った。それほどに彼も日向子の事を
欲して
「...いつか、君にはどちらかを選んで欲しいと思う。この闘いが終わってからでも構わないから。僕らは日向子じゃないと、駄目なんだ。
言っておくけど、どちらも選ばないとか他の奴を選ぶっていうのはあり得ないからね」
彼はきっぱりと日向子にそう告げたのだった。
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