◆第玖章 呼吸の歴史
貴女のお名前を教えてください
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〜250【添い遂げる資格】〜
「っ!..また、やめてちょうだいそういう事言うの...」
彼女は頬を染めて側にあったちゃぶ台にタンッと湯飲みを置いた。
我ながら変態じみた事を言ってしまった事に自己嫌悪しつつも、彼女の反応を見るとつい心が浮ついてしまう。
こんなにも意識してくれてると思うのに、何で素直に恋慕の情を抱いてくれないんだろうなぁ。
でも..前より確実に、少しずつだけど
己の努力と想いは実を結んでいるような、そんな気がするんだ。そう思うと嬉しくなった。
「ごめん。おかしいよな俺...今の忘れてくれ。水頂きます、ありがとう。」
そう言って彼女が注いで来てくれた水を煽る。
冷えた水を喉に通せば、理性的な自分を少し取り戻せたような気がした。
「前に日向子姉さんさ、巫一族の女性は、日の呼吸を継ぐ者と添い遂げる掟 があるんだって言ってたよな?」
「あぁ..うん。師範からそう言われたわ。」
「それを聞いて、俺がその【日の呼吸】を継ぐ者だったら良いのになぁって、ちょっと自分に期待してたんだ。
でも、煉獄さんに聞いてもしのぶさんに聞いても、確かな情報は得られなくて、生まれつき痣があるわけじゃないし...極め付けは時透君が、日の呼吸の使い手の子孫だと知って、あぁやっぱり俺は違うんだなって、それはもう落胆したんだよ。」
そこまで言葉を連ねると、炭治郎は辛そうに眉根を寄せ、ぐっと湯飲みをもつ手にも力が入った。
「貴女の側に居るべきなのは時透君なんじゃないか。はたまた別の誰かなのではないか。少なくとも、俺ではないんじゃないのかと思った時...もの凄い嫉妬心に駆られて、俺、自分を保てなくて。
だから、せめてもっと強くなりたいと、小鉄君にも背中を押されて死に物狂いで特訓してたけど....日向子姉さんにも迷惑をかけてしまった、本当にごめん。」
日向子は弱々しく肩を落とす炭治郎を見て、咄嗟に腕を掴んでそれは違うと首を横に振る。
「迷惑だなんて思ってないよ?それにね...」
日向子は日孁神社での事、そして日輪刀が白く染まり覚醒した理由を炭治郎に話した。
日の呼吸が復活を果たし、その使用者が
【炭治郎】であるかもしれない事を
彼は案の定目を大きく見開き、驚きを隠せない様子だった。
「そんな、そんな筈は...でも、それが本当なら俺」
ー貴方と添い遂げる資格があるかもしれないって事だよなー
それはそれは嬉しそうに語るのだった
ーーーーー
〜251【とびきり綺麗な簪を】〜
「そんなに嬉しいの?」
「え?」
「いや...日の呼吸を継ぐって事自体はとても誇らしい事だと思うけど、その...炭治郎添い遂げるって意味わかってる?」
ー結婚するって事だよ。一生夫婦として側で暮らしていくって意味だよ?ー
そう問いかけると、炭治郎はむすりと頬を膨らませた。
「わかってるよ。俺は..いつだって日向子姉さんの側に居たいんだ。それは今までも、これからもだ。支えてあげたいし守りたいんだよ。その資格があるかもって言われたら、そりゃ嬉しいに決まってるじゃないか。」
迷いのない真っ直ぐな眼でそう語る炭治郎。
ついドギマギしてしまい視線を逸らしそうになった所を止められる。
「俺を見て、日向子姉さん」
「っ....」
「今は気が早いってわかってる。俺はまだ15歳だし、力も不十分だ。でもいつか絶対に...貴女にとびきり綺麗な簪 を贈るから」
ーだから、それまで覚悟しててくださいねー
炭治郎のその言葉は、とても深く日向子の心に突き刺さった。
いつしか私が誠一郎さんから簪を贈られたのを見て、禰豆子がはしゃいでいた光景を思い出す。
ーいいなぁー、私もいつか姉ちゃんみたいに大切にしてくれる殿方と出会って、こんな素敵な簪を贈られてみたいわ!ー
女の子の誰しもが憧れる、そんな告白....求婚。
今思えば、炭治郎はその頃から心に決めていたのかもしれない。
なんて健気な事だろうか。あの時まだ炭治郎は、齢9か10の頃だった。
「....はい」
日向子はそう返すのが精一杯だったが、それでも炭治郎は満足そうに優しい笑みを浮かべた。
「そう言えば、日孁神社ってどういう所だったんだ?巫一族と縁があるなら、日向子姉さんの本当の家族の手掛かりとか、何か残ってないのかな?」
「うーん、もう何十年も手入れがされてなくて、建物もボロボロだったよ。中も色々見て回ったけど、何も残されてなかった。」
そうかと残念そうに項垂れる炭治郎。
自分の事のように思い詰める彼を見て、優しい子だなぁと、それだけで救われるような気持ちになった。
「ありがとう炭治郎。でもいいんだ。色々考えたけど、今は貴方達と一緒の時間が過ごせているし、少しずつ巫一族の事もわかってきてるから。前よりも私全然自分を保ててるよ。」
そうお礼を言ったら、安心したように彼は目を細めた。
「何か少しでも辛い事があったら俺に言ってくれ。日向子姉さんが心から笑った顔を、見てたいんだ」
ーーーーー
〜252【研ぎ澄まされた】〜
ー翌日ー
小鉄君は宣言通り絡繰人形に刀を持たせていた。
昨夜の時間が夢見心地過ぎて一瞬忘れかけていたけれど、炭治郎は何が何でもこの絡繰人形に一太刀入れなければならない。
日向子姉さんのお陰で食事も睡眠も十分取れた。体力は戻っている筈だ。
今日こそはっ...
炭治郎は柄を握る腕に力を込め深呼吸する。
この人形は、どんなに打ち込んでも隙の糸の匂いが全くしない。
それは即ち、今の炭治郎の力ではこの人形から隙を奪い取る事が出来ないという事だ。
一体どうすれば、この人形よりも早く動く事が出来るのだろう...今の炭治郎が反応し得る方法とはー
「私は五感が凄く敏感になるんだ。匂いも音も、色んな情報が体を伝わって雪崩れ込んで来るような感覚。巫の異能を発動している時だけだけど...炭治郎が言う隙の糸の匂いっていうのも、何となくわかる。」
「日向子姉さんもわかるのか!それって、ある時いきなりわかるようになったのか?」
昨夜、そう問いかけると彼女はこう答えた。
「...夢の中で、眩しいくらいに光ってる、大きな石を眺めてた。それがなんだったのかはわからないけど、多分きっかけはそれだよ。」
【光る大きな石】
さっぱりわからない....
俺は夢でもそんな石を見た事はなくて、戦闘中隙の糸以外の匂いを嗅いだ事はない。
「っ!!」
ーしまったー
訓練中だというのに考え事をし過ぎていたようだ。
一本の刀が眼前に迫っていた。
昨日までの木刀ではない、真剣の刃だ。
小鉄君と日向子姉さんの叫び声が聞こえる。
このままの軌道で当たれば、間違いなく脳天諸共引き裂かれてしまう...。
間一髪、態勢を反らして攻撃を避ける事が出来たが、無理な動きをしたせいで大きく身体がぐらついた。
「うっ...」
空を見上げた瞬間、日本晴れの眩しい太陽光がもろに視界に入り、反射的に目をつむった。
その時、今まで嗅いだ事ない匂いが炭治郎の鼻を掠める。
なんだろう、これは...
即座に態勢を整えて絡繰人形を見やった。
次なる攻撃体制に入っている人形、どの腕がどこの部位を狙って打ち込んでくるかまるで読めなかったのに、今は違った。
全て...どの順番でどこを狙ってくるかがわかる。
凄い、わかるぞ
行けるこれならっ!
炭治郎は攻撃を見極め、渾身の一撃入れるべく刀を構えた。しかしある不安がよぎりその動きが鈍ってしまう。
ー...壊してしまったら、小鉄君が悲しむかもしれないではないかーと
ーーーーー
〜253【幸せで溢れる世界を】〜
絡繰人形の刃が炭治郎に迫った瞬間、日向子は咄嗟に身体が動いていた。駄目だ...間に合わな
「炭治郎っ!!」
日向子の腕が届く前に、彼は自身で体を捻り、間一髪一撃を避けたが、バランスを崩し足を滑らせてしまう。一度仕切り直させないと次の攻撃はもろにくらってしまうかもしれない。
しかしそんな心配もよそに、炭治郎の動きは飛躍的に良くなり、明らかに人形の動きを先読みして、攻撃を繰り出している反応速度に変わった。
彼の中で、何かが変化したのか?
人形と互角に刀を打ち合っている炭治郎を見ていると、何故だか一筋の涙が頬を伝った。
時代を経て、相見 えることのない二人が今、日輪刀を併せている。
その光景はまるで、師から弟子へと....継承を行なっているような、そんな不思議な感覚がした。
日向子はこの絡繰人形に見覚えがあった。
炭治郎も夢の中で見た事があるような気がすると言っていたが...
炭治郎と同じ、花札の耳飾り
人形故に無機質な表情であるが、面影はしかとこの身の細胞が覚えている。
もちろん日向子の記憶ではない。小鉄君の言葉を借りるならば、記憶の遺伝というものだろう。
ーこれは、祖先である日寄さんの記憶だ....
激しい打ち合いの中、ついに炭治郎が人形の懐に入り込んだ。
この間合いならば確実に一本取る事ができるだろう。
けれど一瞬、彼は腕の振りを躊躇 う素振りを見せる。
それは、炭治郎の優しい性格故のものだった。
きっとここで腕を振り上げれば、人形は大きなダメージを受ける。場合によっては再起不能な程に破壊されてしまうかもしれない。
そうしたら、小鉄君が悲しむことを危惧 しているのだ...
「日向子、これが修行で無ければ貴女は死んでいますよ。生きるか死ぬかの、鬼との戦闘においては一瞬の躊躇いが命取りなのです。」
ー自分を殺す優しさは、戦いの場では捨てなさいー
日向子は師範からそう学んできた。最もだと思った。
鬼は確実に自分達鬼狩りを殺しに来る。慈悲の情を見せた時点で足元を救われる。それは己の死に繋がり、そして、大切な人達や仲間の死へと連鎖する。
でも私は.....
「斬ってーーーっ!壊れてもいい!絶対【俺が治す】からッ!」
小鉄君が叫ぶ。その声が届いたのか、人形の刀が炭治郎の毛先を掠めたと同時に、彼は思い切り刀を振るい上げた。
ーそんな優しさを捨てずとも、幸せになれる世界を創り出したいー
ーーーーー
「っ!..また、やめてちょうだいそういう事言うの...」
彼女は頬を染めて側にあったちゃぶ台にタンッと湯飲みを置いた。
我ながら変態じみた事を言ってしまった事に自己嫌悪しつつも、彼女の反応を見るとつい心が浮ついてしまう。
こんなにも意識してくれてると思うのに、何で素直に恋慕の情を抱いてくれないんだろうなぁ。
でも..前より確実に、少しずつだけど
己の努力と想いは実を結んでいるような、そんな気がするんだ。そう思うと嬉しくなった。
「ごめん。おかしいよな俺...今の忘れてくれ。水頂きます、ありがとう。」
そう言って彼女が注いで来てくれた水を煽る。
冷えた水を喉に通せば、理性的な自分を少し取り戻せたような気がした。
「前に日向子姉さんさ、巫一族の女性は、日の呼吸を継ぐ者と添い遂げる
「あぁ..うん。師範からそう言われたわ。」
「それを聞いて、俺がその【日の呼吸】を継ぐ者だったら良いのになぁって、ちょっと自分に期待してたんだ。
でも、煉獄さんに聞いてもしのぶさんに聞いても、確かな情報は得られなくて、生まれつき痣があるわけじゃないし...極め付けは時透君が、日の呼吸の使い手の子孫だと知って、あぁやっぱり俺は違うんだなって、それはもう落胆したんだよ。」
そこまで言葉を連ねると、炭治郎は辛そうに眉根を寄せ、ぐっと湯飲みをもつ手にも力が入った。
「貴女の側に居るべきなのは時透君なんじゃないか。はたまた別の誰かなのではないか。少なくとも、俺ではないんじゃないのかと思った時...もの凄い嫉妬心に駆られて、俺、自分を保てなくて。
だから、せめてもっと強くなりたいと、小鉄君にも背中を押されて死に物狂いで特訓してたけど....日向子姉さんにも迷惑をかけてしまった、本当にごめん。」
日向子は弱々しく肩を落とす炭治郎を見て、咄嗟に腕を掴んでそれは違うと首を横に振る。
「迷惑だなんて思ってないよ?それにね...」
日向子は日孁神社での事、そして日輪刀が白く染まり覚醒した理由を炭治郎に話した。
日の呼吸が復活を果たし、その使用者が
【炭治郎】であるかもしれない事を
彼は案の定目を大きく見開き、驚きを隠せない様子だった。
「そんな、そんな筈は...でも、それが本当なら俺」
ー貴方と添い遂げる資格があるかもしれないって事だよなー
それはそれは嬉しそうに語るのだった
ーーーーー
〜251【とびきり綺麗な簪を】〜
「そんなに嬉しいの?」
「え?」
「いや...日の呼吸を継ぐって事自体はとても誇らしい事だと思うけど、その...炭治郎添い遂げるって意味わかってる?」
ー結婚するって事だよ。一生夫婦として側で暮らしていくって意味だよ?ー
そう問いかけると、炭治郎はむすりと頬を膨らませた。
「わかってるよ。俺は..いつだって日向子姉さんの側に居たいんだ。それは今までも、これからもだ。支えてあげたいし守りたいんだよ。その資格があるかもって言われたら、そりゃ嬉しいに決まってるじゃないか。」
迷いのない真っ直ぐな眼でそう語る炭治郎。
ついドギマギしてしまい視線を逸らしそうになった所を止められる。
「俺を見て、日向子姉さん」
「っ....」
「今は気が早いってわかってる。俺はまだ15歳だし、力も不十分だ。でもいつか絶対に...貴女にとびきり綺麗な
ーだから、それまで覚悟しててくださいねー
炭治郎のその言葉は、とても深く日向子の心に突き刺さった。
いつしか私が誠一郎さんから簪を贈られたのを見て、禰豆子がはしゃいでいた光景を思い出す。
ーいいなぁー、私もいつか姉ちゃんみたいに大切にしてくれる殿方と出会って、こんな素敵な簪を贈られてみたいわ!ー
女の子の誰しもが憧れる、そんな告白....求婚。
今思えば、炭治郎はその頃から心に決めていたのかもしれない。
なんて健気な事だろうか。あの時まだ炭治郎は、齢9か10の頃だった。
「....はい」
日向子はそう返すのが精一杯だったが、それでも炭治郎は満足そうに優しい笑みを浮かべた。
「そう言えば、日孁神社ってどういう所だったんだ?巫一族と縁があるなら、日向子姉さんの本当の家族の手掛かりとか、何か残ってないのかな?」
「うーん、もう何十年も手入れがされてなくて、建物もボロボロだったよ。中も色々見て回ったけど、何も残されてなかった。」
そうかと残念そうに項垂れる炭治郎。
自分の事のように思い詰める彼を見て、優しい子だなぁと、それだけで救われるような気持ちになった。
「ありがとう炭治郎。でもいいんだ。色々考えたけど、今は貴方達と一緒の時間が過ごせているし、少しずつ巫一族の事もわかってきてるから。前よりも私全然自分を保ててるよ。」
そうお礼を言ったら、安心したように彼は目を細めた。
「何か少しでも辛い事があったら俺に言ってくれ。日向子姉さんが心から笑った顔を、見てたいんだ」
ーーーーー
〜252【研ぎ澄まされた】〜
ー翌日ー
小鉄君は宣言通り絡繰人形に刀を持たせていた。
昨夜の時間が夢見心地過ぎて一瞬忘れかけていたけれど、炭治郎は何が何でもこの絡繰人形に一太刀入れなければならない。
日向子姉さんのお陰で食事も睡眠も十分取れた。体力は戻っている筈だ。
今日こそはっ...
炭治郎は柄を握る腕に力を込め深呼吸する。
この人形は、どんなに打ち込んでも隙の糸の匂いが全くしない。
それは即ち、今の炭治郎の力ではこの人形から隙を奪い取る事が出来ないという事だ。
一体どうすれば、この人形よりも早く動く事が出来るのだろう...今の炭治郎が反応し得る方法とはー
「私は五感が凄く敏感になるんだ。匂いも音も、色んな情報が体を伝わって雪崩れ込んで来るような感覚。巫の異能を発動している時だけだけど...炭治郎が言う隙の糸の匂いっていうのも、何となくわかる。」
「日向子姉さんもわかるのか!それって、ある時いきなりわかるようになったのか?」
昨夜、そう問いかけると彼女はこう答えた。
「...夢の中で、眩しいくらいに光ってる、大きな石を眺めてた。それがなんだったのかはわからないけど、多分きっかけはそれだよ。」
【光る大きな石】
さっぱりわからない....
俺は夢でもそんな石を見た事はなくて、戦闘中隙の糸以外の匂いを嗅いだ事はない。
「っ!!」
ーしまったー
訓練中だというのに考え事をし過ぎていたようだ。
一本の刀が眼前に迫っていた。
昨日までの木刀ではない、真剣の刃だ。
小鉄君と日向子姉さんの叫び声が聞こえる。
このままの軌道で当たれば、間違いなく脳天諸共引き裂かれてしまう...。
間一髪、態勢を反らして攻撃を避ける事が出来たが、無理な動きをしたせいで大きく身体がぐらついた。
「うっ...」
空を見上げた瞬間、日本晴れの眩しい太陽光がもろに視界に入り、反射的に目をつむった。
その時、今まで嗅いだ事ない匂いが炭治郎の鼻を掠める。
なんだろう、これは...
即座に態勢を整えて絡繰人形を見やった。
次なる攻撃体制に入っている人形、どの腕がどこの部位を狙って打ち込んでくるかまるで読めなかったのに、今は違った。
全て...どの順番でどこを狙ってくるかがわかる。
凄い、わかるぞ
行けるこれならっ!
炭治郎は攻撃を見極め、渾身の一撃入れるべく刀を構えた。しかしある不安がよぎりその動きが鈍ってしまう。
ー...壊してしまったら、小鉄君が悲しむかもしれないではないかーと
ーーーーー
〜253【幸せで溢れる世界を】〜
絡繰人形の刃が炭治郎に迫った瞬間、日向子は咄嗟に身体が動いていた。駄目だ...間に合わな
「炭治郎っ!!」
日向子の腕が届く前に、彼は自身で体を捻り、間一髪一撃を避けたが、バランスを崩し足を滑らせてしまう。一度仕切り直させないと次の攻撃はもろにくらってしまうかもしれない。
しかしそんな心配もよそに、炭治郎の動きは飛躍的に良くなり、明らかに人形の動きを先読みして、攻撃を繰り出している反応速度に変わった。
彼の中で、何かが変化したのか?
人形と互角に刀を打ち合っている炭治郎を見ていると、何故だか一筋の涙が頬を伝った。
時代を経て、
その光景はまるで、師から弟子へと....継承を行なっているような、そんな不思議な感覚がした。
日向子はこの絡繰人形に見覚えがあった。
炭治郎も夢の中で見た事があるような気がすると言っていたが...
炭治郎と同じ、花札の耳飾り
人形故に無機質な表情であるが、面影はしかとこの身の細胞が覚えている。
もちろん日向子の記憶ではない。小鉄君の言葉を借りるならば、記憶の遺伝というものだろう。
ーこれは、祖先である日寄さんの記憶だ....
激しい打ち合いの中、ついに炭治郎が人形の懐に入り込んだ。
この間合いならば確実に一本取る事ができるだろう。
けれど一瞬、彼は腕の振りを
それは、炭治郎の優しい性格故のものだった。
きっとここで腕を振り上げれば、人形は大きなダメージを受ける。場合によっては再起不能な程に破壊されてしまうかもしれない。
そうしたら、小鉄君が悲しむことを
「日向子、これが修行で無ければ貴女は死んでいますよ。生きるか死ぬかの、鬼との戦闘においては一瞬の躊躇いが命取りなのです。」
ー自分を殺す優しさは、戦いの場では捨てなさいー
日向子は師範からそう学んできた。最もだと思った。
鬼は確実に自分達鬼狩りを殺しに来る。慈悲の情を見せた時点で足元を救われる。それは己の死に繋がり、そして、大切な人達や仲間の死へと連鎖する。
でも私は.....
「斬ってーーーっ!壊れてもいい!絶対【俺が治す】からッ!」
小鉄君が叫ぶ。その声が届いたのか、人形の刀が炭治郎の毛先を掠めたと同時に、彼は思い切り刀を振るい上げた。
ーそんな優しさを捨てずとも、幸せになれる世界を創り出したいー
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