◆第玖章 呼吸の歴史
貴女のお名前を教えてください
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〜246【止まれない】〜
ー私は、きっと炭治郎を好きになるよー
その言葉は衝撃だった。
突然放たれた言葉がにわかには信じ難く、空耳かとすら思った。裏付けが欲しいあまり炭治郎は恐る恐るこう聞き返す。
「それは、異性として?」
すると彼女はゆっくりと首を縦に振る。
その表情は美しい笑みを称えていた。
それを見た瞬間ドクンと心臓が脈打ち、辛うじて繋ぎ止めていた理性が呆気なく抜け落ちていった。
抗いようのない熱が、炭治郎を容赦なく飲み込んでいく。
彼女の唇に貪 りつきたくて仕方なかった。呼吸を乱し、乱されたくて仕方なかった。
口吸いしたい
したい
シたい
「っ.....」
わざと日向子姉さんの耳元へ唇を近づけ、熱い息遣いと共に欲望を囁けば、案の定彼女はびくりと体を震わせた。
んっとくぐもった声を上げ身をよじる。
最低と思われるかもしれないが、彼女さえその気にさせてしまえば、そのまま行為に雪崩れこめると思った。
期待を裏切らない可愛らしい反応が、ビリビリと脳天を貫くような目眩を引き起こす。
「....可愛いなぁ」
無意識にそう溢れていた。
それは、自分が発しているとは到底思えない、欲に塗れた情けないものだった。
ー女の子を怖がらせちゃ駄目よ?ー
ふと甘露寺さんに言われた言葉を思い出す。
今、日向子姉さんはどんな思いをしてるだろうか。
恐怖してはいないか?
嫌悪してはいないか?
今にも彼女を襲ってしまいそうな己の体を必死に抑えこんで、注意深く感覚を研ぎ澄まし日向子姉さんの匂いを嗅ぐ。
そして安堵 した。
彼女から恐怖や嫌悪の匂いはしない。
それどころか
「....炭...治郎」
日向子姉さんはとろんとした眼差しで、ぼーっと炭治郎を見つめていた。
全く警戒のない仕草、期待が込められた眼差し、クラクラするような甘く芳 しい匂い。
それが、彼女の答えだった
「...失礼します」
緊張しながらも鼻先が触れ合う距離まで近付いた時、反射的にぎゅっと目を瞑り、体を硬らせた彼女をほぐしていくように、炭治郎は啄むような口吸いを落としていく。
改めて触れた彼女の唇は、やっぱり柔らかくて暖かい。あやすように彼女の頭を何度も優しく撫で、次第に密着する箇所を増やしていく。
「っん...ふ....」
「...は...っ」
彼女と口吸いしているなんて信じられない。
恐ろしく心地が良くて、このまま死んでしまっても構わないと思える位の快感。
もう..止まれない
ーーーーー
〜247【本能と欲求と優しさ】〜
彼女から漏れる息を逃すまいと、吸い付くように唇を重ねる。日向子姉さんと己の細胞をまじ合わせたくて仕方なくて、辛抱堪らず舌を差し入れれば、彼女は拒否する事なくそれを受け入れてくれた。
さらなる快感がビリビリと襲い、頭の中はもう真っ白だ。
ー何だ、これ...気持ち良すぎじゃないか...ー
人は何故異性を求めるのだろうと、日向子姉さんを意識し始めた頃から考えていた。
そりゃ昔からずっとこんな邪な気持ちを抱えていたわけではない。彼女の側にいれれば満足だったんだ。
けれど、いつの間にかそれでは飽きたらず、欲望は日増しに大きくなっていった。
彼女の側に【居たい】から【触れたい】に変わり、次第に【交わりたい】に変わっていく。
俺は彼女の家族、弟、純粋に守るべき存在だったのにもかかわらずだ。
彼女の期待を裏切るような真似をしたくなかった。汚くあさましい存在と思われたくなかった。
でもやっぱり人間の欲望とは抗えぬ物で、諦めるにも諦めきれず。
手を伸ばしたくても伸ばしちゃいけない。
美しく純粋な彼女を汚しちゃいけない。
してはいけない、
いけない...我慢.......我慢...
ずっと
ずっと苦しかった
誰にも悟らせなかったけど、彼女への想いに押し潰されそうになり、人知れず涙を流してしまった夜もあった。
善逸達のように、自分の願望を素直に口にできるような器用な生き方が出来たら良かったのに。
それでも、そんな不器用な自分を日向子姉さんは優しく受け入れようとしてくれてる。
あぁ....罪な人だ。どれだけ俺を夢中にさせたら気が済むのか。
日向子姉さんも気持ちいいのかな?
都合の良いように解釈してると言われればそれまでだけど、俺を受け入れて、匂いも態度も満更じゃないように思う。
炭治郎にとっては千載一遇のチャンスだった。今なら....きっと
「日向子さん...あのっ...」
熱に浮かされた頭で必死に言葉を絞り出す。
「あの....身体に触れても、良いだろうか..?」
真っ赤な顔でそう問えば、彼女は一瞬動揺したような匂いを醸し出し、恥ずかしそうに目線を泳がせる。
すかさず優しく口吸いを施せば、その動揺の匂いもどこかへ消え去っていった。
彼女の柔い太腿をそっと撫でる。拒否の匂いはない。
「っ....」
そのままぐっと力を込めようとした時だった。
「ウーー..」
「「っ!...」」
いつの間にか横に首を傾げた禰豆子が立っているのに気づき、2人はあまりの驚きに手を止め固まった。
ーーーーー
〜248【日溜りの香り】〜
お互い荒い呼吸を抑えきれず、熱を持った体も冷めやらぬまま、禰豆子を凝視する。
幸いにも禰豆子は2人が【どういう状況だったのか】まではよくわかっていないようで、キョトンとした眼差しでじーっと見つめていた。
トンっ!
「っ!..」
我に帰ったように日向子姉さんは炭治郎の胸板を押し戻し下から這い出る。
いや...まぁ、禰豆子が側に来てしまった以上はそれはそうなる、だろうけど...
「ね、禰豆子..。いつからそこにいたの?姉さんと部屋に戻ろう」
上擦った声色で禰豆子の肩に手を回し、部屋の外へと誘導しようとする彼女の浴衣の裾を、待ってくれと言わんばかりに炭治郎はひしと掴み引き止める。
「ぁ...そんな、日向子姉さん」
ここまで昂ぶった状態でおあずけだなんて、あんまりだというように必死に懇願の眼差しを向けるも、もう今の彼女には届かなかった。
「禰豆子がいるから...こんなの、教育上良くないでしょう?後で水持ってくるから、待っててね」
そんなのいいっ...いいから
炭治郎の訴えなど関係なく、困ったように眉をハの字に下げそれだけ伝えた彼女は、炭治郎の手をそっと解き部屋を出ていってしまった。
去り際禰豆子は、罰が悪そうに炭治郎を見やった。
サッと障子が閉じられた瞬間、炭治郎は言葉にならない声を漏らしその場にうずくまる。
急に行為を止められたせいで、興奮冷めやらぬ身体の異変が辛かった。
禰豆子も禰豆子だ..。いや、別に彼女が悪いわけでもないんだが、間が悪いとしか言いようがない。
ーあと、ちょっとだったのにー
「.......日向子姉さんの、羽織」
悶々としていると、彼女が先程まで浴衣の上から肩にかけていた羽織が目についた。畳の上に広げられたままのそれに、炭治郎はごくりと喉を鳴らし手を近付けていく。
まだ温もりも残っている。無意識に羽織に鼻を近付ければ、日向子姉さんの匂いがふわりと漂ってきた。
途端、ドクリと身体の芯が脈打つ。
ぁ...駄目なやつだ、これは
昔、まだ雲取山に住んでいた時、日向子姉さんの羽織がとてもいい匂いがしてたからという理由で、こっそり嗅いでいた記憶を思い出した。
度々どこにやったのかなー?と探し回っている彼女に罪悪感を抱きつつ、幼いながらにいけない事だと思いつつも止められなかったのだ。
いつ、彼女が帰ってくるかわからないんだ。
何とかしてこの火照った体は鎮めなきゃいけないのに...
炭治郎は泣く泣く誘惑に抗うしかなかった。
ーーーーー
〜249【拒否の理由】〜
日向子は治まらない鼓動を必死に整えていた。
炭治郎とあんなはしたない事をしてしまったという背徳感が襲い、顔面を蒼白させる。
不思議そうに見上げる禰豆子に気付き、何とか平常心を装った。
禰豆子がいつからあそこにいたのかはわからない。
本当に声を聞くまでは気付かなかったのだ。
鬼狩りの剣士として、姉として面目 ない。
それ程に私も...
ー私も、夢中になってしまってたんだと思うー
率直に言えば、炭治郎との口吸いは気持ちが良かった。
初めて人とあんなに濃厚な口吸いをしたから、行為に酔いしれてしまったのか?
それとも、
相手が炭治郎だったから....
先程までの行為を思い出して、再び顔に熱が集まってしまい廊下でうずくまってしまった。禰豆子が心配そうに顔を覗き見てくる。
「ウーー...」
「...ごめんね禰豆子、ごめん。」
兄ちゃんと姉ちゃんのあんな光景、きっと見たくなかっただろうに。
恋人じゃない上に、好きかもはっきりとわからない人と、あんな事を致してしまうだなんて。
例え相手が炭治郎だとしても...
私はとんだ痴女なのかもしれない
部屋に戻り、禰豆子が布団の上で戯れている光景を見ながら、2人分の水をとぽとぽと汲む。
グイッと冷たい水を喉に流し込めば、火照った体も少しは落ち着いた気がした。
「はぁー....禰豆子、ここにいる?姉さんは炭治郎の所に戻るけど」
そう問いかけると、禰豆子はむくりと起き上がりとてとてと日向子の元に駆け寄ってきた。どうやら自分も一緒に居ると言っているようだ。
本当に無邪気な様だ。鬼になって、精神面が幼くなってくれていたのだけは幸いした。それに、炭治郎の元に戻るにしても彼女が居てくれた方が安心する。
「わかった、一緒に戻ろう?」
日向子は禰豆子を連れ再び元来た道を辿っていった。
部屋に戻ると、炭治郎は膝を丸めて障子に背を向けた状態で座っていた。日向子達が部屋に入ってきたのを見て、隣に禰豆子がいる事も確認すると、少し残念そうにしかめっ面をする。
やっぱりさっき無理やり放置して来た事が不服なのだろうか。
「...お待たせ炭治郎。はい、お水持って来たから飲んで?」
湯呑みを差し出しても、彼は大丈夫と言い受け取ろうとしなかった。
「昼間はあんなに水分欲してたのに、どうしたの?」
そう問うと、炭治郎はとんでもない殺し文句を呟いた。
「....日向子姉さんと口吸いしたばかりだから、飲みたくない」
ーーーーー
ー私は、きっと炭治郎を好きになるよー
その言葉は衝撃だった。
突然放たれた言葉がにわかには信じ難く、空耳かとすら思った。裏付けが欲しいあまり炭治郎は恐る恐るこう聞き返す。
「それは、異性として?」
すると彼女はゆっくりと首を縦に振る。
その表情は美しい笑みを称えていた。
それを見た瞬間ドクンと心臓が脈打ち、辛うじて繋ぎ止めていた理性が呆気なく抜け落ちていった。
抗いようのない熱が、炭治郎を容赦なく飲み込んでいく。
彼女の唇に
口吸いしたい
したい
シたい
「っ.....」
わざと日向子姉さんの耳元へ唇を近づけ、熱い息遣いと共に欲望を囁けば、案の定彼女はびくりと体を震わせた。
んっとくぐもった声を上げ身をよじる。
最低と思われるかもしれないが、彼女さえその気にさせてしまえば、そのまま行為に雪崩れこめると思った。
期待を裏切らない可愛らしい反応が、ビリビリと脳天を貫くような目眩を引き起こす。
「....可愛いなぁ」
無意識にそう溢れていた。
それは、自分が発しているとは到底思えない、欲に塗れた情けないものだった。
ー女の子を怖がらせちゃ駄目よ?ー
ふと甘露寺さんに言われた言葉を思い出す。
今、日向子姉さんはどんな思いをしてるだろうか。
恐怖してはいないか?
嫌悪してはいないか?
今にも彼女を襲ってしまいそうな己の体を必死に抑えこんで、注意深く感覚を研ぎ澄まし日向子姉さんの匂いを嗅ぐ。
そして
彼女から恐怖や嫌悪の匂いはしない。
それどころか
「....炭...治郎」
日向子姉さんはとろんとした眼差しで、ぼーっと炭治郎を見つめていた。
全く警戒のない仕草、期待が込められた眼差し、クラクラするような甘く
それが、彼女の答えだった
「...失礼します」
緊張しながらも鼻先が触れ合う距離まで近付いた時、反射的にぎゅっと目を瞑り、体を硬らせた彼女をほぐしていくように、炭治郎は啄むような口吸いを落としていく。
改めて触れた彼女の唇は、やっぱり柔らかくて暖かい。あやすように彼女の頭を何度も優しく撫で、次第に密着する箇所を増やしていく。
「っん...ふ....」
「...は...っ」
彼女と口吸いしているなんて信じられない。
恐ろしく心地が良くて、このまま死んでしまっても構わないと思える位の快感。
もう..止まれない
ーーーーー
〜247【本能と欲求と優しさ】〜
彼女から漏れる息を逃すまいと、吸い付くように唇を重ねる。日向子姉さんと己の細胞をまじ合わせたくて仕方なくて、辛抱堪らず舌を差し入れれば、彼女は拒否する事なくそれを受け入れてくれた。
さらなる快感がビリビリと襲い、頭の中はもう真っ白だ。
ー何だ、これ...気持ち良すぎじゃないか...ー
人は何故異性を求めるのだろうと、日向子姉さんを意識し始めた頃から考えていた。
そりゃ昔からずっとこんな邪な気持ちを抱えていたわけではない。彼女の側にいれれば満足だったんだ。
けれど、いつの間にかそれでは飽きたらず、欲望は日増しに大きくなっていった。
彼女の側に【居たい】から【触れたい】に変わり、次第に【交わりたい】に変わっていく。
俺は彼女の家族、弟、純粋に守るべき存在だったのにもかかわらずだ。
彼女の期待を裏切るような真似をしたくなかった。汚くあさましい存在と思われたくなかった。
でもやっぱり人間の欲望とは抗えぬ物で、諦めるにも諦めきれず。
手を伸ばしたくても伸ばしちゃいけない。
美しく純粋な彼女を汚しちゃいけない。
してはいけない、
いけない...我慢.......我慢...
ずっと
ずっと苦しかった
誰にも悟らせなかったけど、彼女への想いに押し潰されそうになり、人知れず涙を流してしまった夜もあった。
善逸達のように、自分の願望を素直に口にできるような器用な生き方が出来たら良かったのに。
それでも、そんな不器用な自分を日向子姉さんは優しく受け入れようとしてくれてる。
あぁ....罪な人だ。どれだけ俺を夢中にさせたら気が済むのか。
日向子姉さんも気持ちいいのかな?
都合の良いように解釈してると言われればそれまでだけど、俺を受け入れて、匂いも態度も満更じゃないように思う。
炭治郎にとっては千載一遇のチャンスだった。今なら....きっと
「日向子さん...あのっ...」
熱に浮かされた頭で必死に言葉を絞り出す。
「あの....身体に触れても、良いだろうか..?」
真っ赤な顔でそう問えば、彼女は一瞬動揺したような匂いを醸し出し、恥ずかしそうに目線を泳がせる。
すかさず優しく口吸いを施せば、その動揺の匂いもどこかへ消え去っていった。
彼女の柔い太腿をそっと撫でる。拒否の匂いはない。
「っ....」
そのままぐっと力を込めようとした時だった。
「ウーー..」
「「っ!...」」
いつの間にか横に首を傾げた禰豆子が立っているのに気づき、2人はあまりの驚きに手を止め固まった。
ーーーーー
〜248【日溜りの香り】〜
お互い荒い呼吸を抑えきれず、熱を持った体も冷めやらぬまま、禰豆子を凝視する。
幸いにも禰豆子は2人が【どういう状況だったのか】まではよくわかっていないようで、キョトンとした眼差しでじーっと見つめていた。
トンっ!
「っ!..」
我に帰ったように日向子姉さんは炭治郎の胸板を押し戻し下から這い出る。
いや...まぁ、禰豆子が側に来てしまった以上はそれはそうなる、だろうけど...
「ね、禰豆子..。いつからそこにいたの?姉さんと部屋に戻ろう」
上擦った声色で禰豆子の肩に手を回し、部屋の外へと誘導しようとする彼女の浴衣の裾を、待ってくれと言わんばかりに炭治郎はひしと掴み引き止める。
「ぁ...そんな、日向子姉さん」
ここまで昂ぶった状態でおあずけだなんて、あんまりだというように必死に懇願の眼差しを向けるも、もう今の彼女には届かなかった。
「禰豆子がいるから...こんなの、教育上良くないでしょう?後で水持ってくるから、待っててね」
そんなのいいっ...いいから
炭治郎の訴えなど関係なく、困ったように眉をハの字に下げそれだけ伝えた彼女は、炭治郎の手をそっと解き部屋を出ていってしまった。
去り際禰豆子は、罰が悪そうに炭治郎を見やった。
サッと障子が閉じられた瞬間、炭治郎は言葉にならない声を漏らしその場にうずくまる。
急に行為を止められたせいで、興奮冷めやらぬ身体の異変が辛かった。
禰豆子も禰豆子だ..。いや、別に彼女が悪いわけでもないんだが、間が悪いとしか言いようがない。
ーあと、ちょっとだったのにー
「.......日向子姉さんの、羽織」
悶々としていると、彼女が先程まで浴衣の上から肩にかけていた羽織が目についた。畳の上に広げられたままのそれに、炭治郎はごくりと喉を鳴らし手を近付けていく。
まだ温もりも残っている。無意識に羽織に鼻を近付ければ、日向子姉さんの匂いがふわりと漂ってきた。
途端、ドクリと身体の芯が脈打つ。
ぁ...駄目なやつだ、これは
昔、まだ雲取山に住んでいた時、日向子姉さんの羽織がとてもいい匂いがしてたからという理由で、こっそり嗅いでいた記憶を思い出した。
度々どこにやったのかなー?と探し回っている彼女に罪悪感を抱きつつ、幼いながらにいけない事だと思いつつも止められなかったのだ。
いつ、彼女が帰ってくるかわからないんだ。
何とかしてこの火照った体は鎮めなきゃいけないのに...
炭治郎は泣く泣く誘惑に抗うしかなかった。
ーーーーー
〜249【拒否の理由】〜
日向子は治まらない鼓動を必死に整えていた。
炭治郎とあんなはしたない事をしてしまったという背徳感が襲い、顔面を蒼白させる。
不思議そうに見上げる禰豆子に気付き、何とか平常心を装った。
禰豆子がいつからあそこにいたのかはわからない。
本当に声を聞くまでは気付かなかったのだ。
鬼狩りの剣士として、姉として
それ程に私も...
ー私も、夢中になってしまってたんだと思うー
率直に言えば、炭治郎との口吸いは気持ちが良かった。
初めて人とあんなに濃厚な口吸いをしたから、行為に酔いしれてしまったのか?
それとも、
相手が炭治郎だったから....
先程までの行為を思い出して、再び顔に熱が集まってしまい廊下でうずくまってしまった。禰豆子が心配そうに顔を覗き見てくる。
「ウーー...」
「...ごめんね禰豆子、ごめん。」
兄ちゃんと姉ちゃんのあんな光景、きっと見たくなかっただろうに。
恋人じゃない上に、好きかもはっきりとわからない人と、あんな事を致してしまうだなんて。
例え相手が炭治郎だとしても...
私はとんだ痴女なのかもしれない
部屋に戻り、禰豆子が布団の上で戯れている光景を見ながら、2人分の水をとぽとぽと汲む。
グイッと冷たい水を喉に流し込めば、火照った体も少しは落ち着いた気がした。
「はぁー....禰豆子、ここにいる?姉さんは炭治郎の所に戻るけど」
そう問いかけると、禰豆子はむくりと起き上がりとてとてと日向子の元に駆け寄ってきた。どうやら自分も一緒に居ると言っているようだ。
本当に無邪気な様だ。鬼になって、精神面が幼くなってくれていたのだけは幸いした。それに、炭治郎の元に戻るにしても彼女が居てくれた方が安心する。
「わかった、一緒に戻ろう?」
日向子は禰豆子を連れ再び元来た道を辿っていった。
部屋に戻ると、炭治郎は膝を丸めて障子に背を向けた状態で座っていた。日向子達が部屋に入ってきたのを見て、隣に禰豆子がいる事も確認すると、少し残念そうにしかめっ面をする。
やっぱりさっき無理やり放置して来た事が不服なのだろうか。
「...お待たせ炭治郎。はい、お水持って来たから飲んで?」
湯呑みを差し出しても、彼は大丈夫と言い受け取ろうとしなかった。
「昼間はあんなに水分欲してたのに、どうしたの?」
そう問うと、炭治郎はとんでもない殺し文句を呟いた。
「....日向子姉さんと口吸いしたばかりだから、飲みたくない」
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