◆第玖章 呼吸の歴史
貴女のお名前を教えてください
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〜242【暫しの休息を】〜
ー今日でもう5日目だ...ー
小鉄君と炭治郎には留守番しててくれと言われたけれど、日向子はそわそわして居てもたってもいられず、彼等の特訓場所に今日も足を運ぶ。
スイッチの入った小鉄君の特訓内容は凄まじい。課題が達成出来なければ【食べ物も飲み物も与えない】というのは、最初冗談かと思ったがどうやら本気だったようだ。
現に、日が経つにつれ炭治郎はヘロヘロになっていった。
日向子は見ていられなくて、こっそり飲み物と握り飯を毎日持ち込んでいるけれど、与える隙は全くなくてもどかしい。
「駄目です炭治郎さん何回言えばわかるんですか!そんなんじゃあの糞ガキに勝つなんて夢のまた夢ですよ!」
「は、はい...!」
「日向子様が取られてもいいんですかー!?」
「っ!嫌ですッーーー!!」
日向子の名前を出された途端、炭治郎はうがぁぁと雄叫びを上げて腕を振るう。
勿論、強くなりたいと言う気持ちが根底にあるのだろうが...
【私の事】に関して言えば、体に鞭を打ってまで、そこまでしてまでそんなに彼の中では重要な事だと言うのか。
炭治郎の想いは、つい先日本人の口から聞いたばかりだけれど...
ーそんなに、私が他の人の所に行ったら嫌なの?ー
そう思うと少し、ほんの少し胸がきゅっと切なくしぼまる気がした。
この気持ちは、単にやきもち焼きな様子が可愛らしいなと思う、年長者の純粋なる愛情なのだろうか?
それとも...
「今日も飯抜きですっ!」
っ!
小鉄が意気揚々とそう告げる。それを聞いて絶望の眼差しで項垂れる炭治郎。
血走った眼は不眠不休の現れ、カサカサに乾燥した唇とふっと意識を手放しそうになるふらふらな様は脱水症状と栄養失調に陥っているのが見て取れる。
本当に真面目に、このままでは死んでしまう。
あぁ、もう耐えられない。駄目だ。私...
「お願い小鉄君っ!少し休ませてあげてよ!」
ダッと駆け寄りひしと炭治郎を掻き抱く。
図らずとも、うるうると瞳を潤ませてそう懇願すれば、小鉄君はうっと息を詰まらせてたじろいだ。
「鍛錬も大事よ!炭治郎の事を思って協力してもらってるのもわかる。感謝してるけどっ...飲まず食わずはさすがに可哀想だわ」
長女気質の自分はとうとう我慢出来ずに飛び出してしまった。
日向子の腕の中でぐったりしてる炭治郎を見て、小鉄は、仕方ないですねと唸った。
「日向子様に免じて、暫しの休息を許可しますよ、炭治郎さん」
ーーーーー
〜243【確信を得る】〜
人形と格闘中もしばしば意識を飛ばしそうになっていた炭治郎だったが、その度に無一郎よりも強くなる事、そして日向子姉さんが彼の方を選んで行ってしまう悪夢を思い描いた。
でもなかなか小鉄の言う動きが出来ず、飲食の機すら与えられないという拷問 のような暴挙を食らっているうちに、ついに生命の危機を感じ取る。
あれ?...これ、真面目に死ぬるんじゃないか...
今日も飯抜きという言葉の重みがのしかかった瞬間、何だか体がふわふわして、物凄い眠気が襲ってきた。
その時
日向子姉さんの匂いが鼻を掠め、柔らかい感触に体がぎゅうっと包まれた。現実味を帯びない朦朧とした意識では、ある錯覚を呼び起こす。
あぁ、俺は死んだのか?
だってここは天国なんじゃないか...と
「お願い小鉄君!少し休ませてあげてよ!」
涙ぐみながらそう懇願する日向子姉さんは、今の炭治郎にとっては命の恩人であり、救世主そのものであった。
彼も彼女のお願いとあっては否定出来なかったようで、ようやく炭治郎は5日ぶりのまともな水と食料にありつけたのだ。
日向子姉さんが密かに毎日持ち込んでいたという、冷えた玉露茶と温かい握り飯。
あまりの美味しさに感動してしまい、柄にもなくダーーと涙を零しながら必死に食らいつく。
そんな炭治郎を甘やかすように、彼女はおかわりを差し出そうとするが、小鉄に一蹴 されてしゅんとしていた。
うぅ...可愛い....
心臓がギュンと音を立てて悶え、思わず米を喉に詰まらせそうになった。
あぁ、本当にありがとう日向子姉さん。
貴女のお陰で命が繫りました。
ーーーーー
彼女の図らいで、ひとまず今日の訓練は夕方までで一区切りとされ、久々に宿で体を休めている。
衣食住があるってありがたいとしみじみ思う...
「具合はどう?炭治郎」
「っ!ありがとう日向子姉さん。お陰で復活したよ」
ぶんぶんと腕を振り健康アピールをすれば、彼女はほっとしたように笑みを溢した。
よっこらせと隣に腰掛けると、こう語り始めた。
「...頑張るのはいい事だけど、あまり焦らないで?炭治郎は炭治郎のペースで進むといいよ。無一郎君の事は、やっぱり気になるだろうけど」
少し瞳に陰りを見せた日向子を炭治郎は見逃しはしなかった。
「そりゃ気になるよ。でも、それは俺だけじゃない筈だ。日向子姉さん...時透君に告白されたよな?」
そう問えば、彼女はやはり動揺の匂いを放った。
ーーーーー
〜244【俺だけでいい】〜
「...気付いてたのね」
困ったように眉を下げる日向子姉さんを見て、覚悟はしてたけどガツンと殴られたようなショックを受ける。
別に誰に聞いたわけでもなかったけど、恐らくそうだろうと思い鎌をかけた。
時透君にあれだけ思わせぶりな事を言われても、あまり動揺はしてなかった。
「...いつされたんだ?それを聞いて日向子姉さんは...何て言ったの?他に何もされなかったよな?」
あぁ、こんなに余裕が持てないのは本当に格好悪い。
日向子姉さんは、俺に気遣ってこの事を伏せていたんだと思う。
俺が幼い子供のように感情に左右されがちだからだ。
でも、ごめん...どうしても気になってしまう。
観念したように、日向子姉さんは口を開く。
「無一郎君に告白されたのは、最初に機能回復訓練をした時に、私が泣き出しちゃった時だよ。丁重にお断りした。その時の私は少し情緒不安定で、彼の優しさを利用するみたいで嫌だったの。あとは...」
「あとは?」
ここまでは嘘の匂いは全くしない。全部真実だろう。しかし、その後に続くだろう言葉をなかなか彼女は口にしない。
「日向子姉さん俺、冷静に聞くから大丈夫だよ。内緒にされる方が辛い」
そう言えば彼女は伏し目がちに一言呟いた。
「接吻された。それだけよ。」
「....」
それだけ?..それだけって
炭治郎は必死に震えそうになる体を抑え込んだ。冷静に聞くからと言った手前だからだ。
って事は、魘夢戦よりも前の出来事だから。
ー俺より先に日向子姉さんに....ー
なんで...俺が1番が良かったのに。
あの時、俺が察しが悪くて彼女を傷付けたから、だから先を越されたんだ。自業...自得だ。
炭治郎は泣きそうな眼で日向子の顔を見つめ、おもむろに手を差し伸ばした。
「っ!...」
ツー..と唇を優しく撫でる。
柔らかくて、少ししっとりと湿ってる。美味しそうな赤の色。
ここに触れるのは、俺だけでいいのに。
炭治郎の色付いた気配を感じ取ったのか、日向子は体を退け反らせるが、それを追うように炭治郎も体を傾ける。
ついに床についていた手がずるりと滑ってしまったようで、小さな悲鳴を上げて彼女の上半身が倒れ込んだ。
今は誰の姿もない。日向子姉さんと二人きりだ。
「っ!ちょっと炭治郎!...何する気?」
焦ったように日向子姉さんは声を上げる。
それもその筈だった。
周りに自分達以外の匂いがないのを良いことに、炭治郎が彼女の上に覆い被さっている体制なのだから。
ーーーーー
〜245【愛とは】〜
「どうしたら...俺を好きになってくれますか?」
彼女の頬を手の平で包み、親指は桃色の唇を往復する。
今すぐにでもその唇に噛み付きたい衝動をすんでのところで耐えながらも、口から溢れたのはそんな純粋な問いかけだった。
柱と同等の強さを手に入れたら振り向いてくれるのか?
どろどろに優しく甘やかしたらいいのか?
荒々しく攻め立てればときめいてくれるのか?
ーどうしたら傷つける事なく、困らせる事もなく、貴女を手に入れる事が出来るのだろうか...こんなにも俺は愛していると言うのにー
優しくしたいけど、彼女の心に歩幅を合わせたいのは山々だけど、それとは反対にどんどん余裕を失っていく炭治郎の心。
感情がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなくなって、ポタリと一粒の涙がこぼれ落ち、真下にいる日向子の頬に滴り落ちる。
「....俺を好きになってよ...日向子さん」
ーーーーーーー
無一郎君に接吻された事を話せば、案の定炭治郎は動揺して不意に瞳の色をなくした。
その直後、瞳に涙を溜めた彼はすっと手を伸ばしてきた。
そして、日向子の唇をツーと撫でる。
「っ!」
突然の出来事にどきりと心臓が脈打った。
情欲を孕んだような瞳をぐっと近づけてきた彼から、逃げるように上半身を反らすも、炭治郎は距離を取る事を許してくれない。
体勢を崩して後ろに倒れ込んだ後、彼はするりと日向子に馬乗りになり愛おしそうに頬を撫でる。
彼の手の平はとても暖かくて、所作はどこまでも優しい。それと裏腹に、苦しそうに顔を歪める様は酷く痛ましかった。
自分を好きになって欲しいと、泣きながらに訴える彼を見ていたら、全身が痺れていくような疼きに苛まれた。
これは、今までに感じた事がない。日向子は自身の初めての感覚に困惑する。
不謹慎にも、欲望と理性の狭間で葛藤している炭治郎を見て、可愛らしいと感じてしまった。
これが恋情なのか、家族愛なのか、友愛なのかわからないけれど....
今この瞬間、彼の元へ手を差し伸ばしたい
「っ!..」
びくりと肩を震わせる炭治郎。
日向子のすらりと伸びた手が、炭治郎のこめかみ部分を撫でる。
「...私は、きっと炭治郎を好きになるよ」
「..それは、異性として?」
ゆっくりと頷くと彼は目を見開いて、もう我慢ならないと言うように一層熱い息を吐いた。
「日向子姉さん...口吸いしたいっ」
余裕の無い声色で、耳元で彼はそう呟いた。
ーーーーー
ー今日でもう5日目だ...ー
小鉄君と炭治郎には留守番しててくれと言われたけれど、日向子はそわそわして居てもたってもいられず、彼等の特訓場所に今日も足を運ぶ。
スイッチの入った小鉄君の特訓内容は凄まじい。課題が達成出来なければ【食べ物も飲み物も与えない】というのは、最初冗談かと思ったがどうやら本気だったようだ。
現に、日が経つにつれ炭治郎はヘロヘロになっていった。
日向子は見ていられなくて、こっそり飲み物と握り飯を毎日持ち込んでいるけれど、与える隙は全くなくてもどかしい。
「駄目です炭治郎さん何回言えばわかるんですか!そんなんじゃあの糞ガキに勝つなんて夢のまた夢ですよ!」
「は、はい...!」
「日向子様が取られてもいいんですかー!?」
「っ!嫌ですッーーー!!」
日向子の名前を出された途端、炭治郎はうがぁぁと雄叫びを上げて腕を振るう。
勿論、強くなりたいと言う気持ちが根底にあるのだろうが...
【私の事】に関して言えば、体に鞭を打ってまで、そこまでしてまでそんなに彼の中では重要な事だと言うのか。
炭治郎の想いは、つい先日本人の口から聞いたばかりだけれど...
ーそんなに、私が他の人の所に行ったら嫌なの?ー
そう思うと少し、ほんの少し胸がきゅっと切なくしぼまる気がした。
この気持ちは、単にやきもち焼きな様子が可愛らしいなと思う、年長者の純粋なる愛情なのだろうか?
それとも...
「今日も飯抜きですっ!」
っ!
小鉄が意気揚々とそう告げる。それを聞いて絶望の眼差しで項垂れる炭治郎。
血走った眼は不眠不休の現れ、カサカサに乾燥した唇とふっと意識を手放しそうになるふらふらな様は脱水症状と栄養失調に陥っているのが見て取れる。
本当に真面目に、このままでは死んでしまう。
あぁ、もう耐えられない。駄目だ。私...
「お願い小鉄君っ!少し休ませてあげてよ!」
ダッと駆け寄りひしと炭治郎を掻き抱く。
図らずとも、うるうると瞳を潤ませてそう懇願すれば、小鉄君はうっと息を詰まらせてたじろいだ。
「鍛錬も大事よ!炭治郎の事を思って協力してもらってるのもわかる。感謝してるけどっ...飲まず食わずはさすがに可哀想だわ」
長女気質の自分はとうとう我慢出来ずに飛び出してしまった。
日向子の腕の中でぐったりしてる炭治郎を見て、小鉄は、仕方ないですねと唸った。
「日向子様に免じて、暫しの休息を許可しますよ、炭治郎さん」
ーーーーー
〜243【確信を得る】〜
人形と格闘中もしばしば意識を飛ばしそうになっていた炭治郎だったが、その度に無一郎よりも強くなる事、そして日向子姉さんが彼の方を選んで行ってしまう悪夢を思い描いた。
でもなかなか小鉄の言う動きが出来ず、飲食の機すら与えられないという
あれ?...これ、真面目に死ぬるんじゃないか...
今日も飯抜きという言葉の重みがのしかかった瞬間、何だか体がふわふわして、物凄い眠気が襲ってきた。
その時
日向子姉さんの匂いが鼻を掠め、柔らかい感触に体がぎゅうっと包まれた。現実味を帯びない朦朧とした意識では、ある錯覚を呼び起こす。
あぁ、俺は死んだのか?
だってここは天国なんじゃないか...と
「お願い小鉄君!少し休ませてあげてよ!」
涙ぐみながらそう懇願する日向子姉さんは、今の炭治郎にとっては命の恩人であり、救世主そのものであった。
彼も彼女のお願いとあっては否定出来なかったようで、ようやく炭治郎は5日ぶりのまともな水と食料にありつけたのだ。
日向子姉さんが密かに毎日持ち込んでいたという、冷えた玉露茶と温かい握り飯。
あまりの美味しさに感動してしまい、柄にもなくダーーと涙を零しながら必死に食らいつく。
そんな炭治郎を甘やかすように、彼女はおかわりを差し出そうとするが、小鉄に
うぅ...可愛い....
心臓がギュンと音を立てて悶え、思わず米を喉に詰まらせそうになった。
あぁ、本当にありがとう日向子姉さん。
貴女のお陰で命が繫りました。
ーーーーー
彼女の図らいで、ひとまず今日の訓練は夕方までで一区切りとされ、久々に宿で体を休めている。
衣食住があるってありがたいとしみじみ思う...
「具合はどう?炭治郎」
「っ!ありがとう日向子姉さん。お陰で復活したよ」
ぶんぶんと腕を振り健康アピールをすれば、彼女はほっとしたように笑みを溢した。
よっこらせと隣に腰掛けると、こう語り始めた。
「...頑張るのはいい事だけど、あまり焦らないで?炭治郎は炭治郎のペースで進むといいよ。無一郎君の事は、やっぱり気になるだろうけど」
少し瞳に陰りを見せた日向子を炭治郎は見逃しはしなかった。
「そりゃ気になるよ。でも、それは俺だけじゃない筈だ。日向子姉さん...時透君に告白されたよな?」
そう問えば、彼女はやはり動揺の匂いを放った。
ーーーーー
〜244【俺だけでいい】〜
「...気付いてたのね」
困ったように眉を下げる日向子姉さんを見て、覚悟はしてたけどガツンと殴られたようなショックを受ける。
別に誰に聞いたわけでもなかったけど、恐らくそうだろうと思い鎌をかけた。
時透君にあれだけ思わせぶりな事を言われても、あまり動揺はしてなかった。
「...いつされたんだ?それを聞いて日向子姉さんは...何て言ったの?他に何もされなかったよな?」
あぁ、こんなに余裕が持てないのは本当に格好悪い。
日向子姉さんは、俺に気遣ってこの事を伏せていたんだと思う。
俺が幼い子供のように感情に左右されがちだからだ。
でも、ごめん...どうしても気になってしまう。
観念したように、日向子姉さんは口を開く。
「無一郎君に告白されたのは、最初に機能回復訓練をした時に、私が泣き出しちゃった時だよ。丁重にお断りした。その時の私は少し情緒不安定で、彼の優しさを利用するみたいで嫌だったの。あとは...」
「あとは?」
ここまでは嘘の匂いは全くしない。全部真実だろう。しかし、その後に続くだろう言葉をなかなか彼女は口にしない。
「日向子姉さん俺、冷静に聞くから大丈夫だよ。内緒にされる方が辛い」
そう言えば彼女は伏し目がちに一言呟いた。
「接吻された。それだけよ。」
「....」
それだけ?..それだけって
炭治郎は必死に震えそうになる体を抑え込んだ。冷静に聞くからと言った手前だからだ。
って事は、魘夢戦よりも前の出来事だから。
ー俺より先に日向子姉さんに....ー
なんで...俺が1番が良かったのに。
あの時、俺が察しが悪くて彼女を傷付けたから、だから先を越されたんだ。自業...自得だ。
炭治郎は泣きそうな眼で日向子の顔を見つめ、おもむろに手を差し伸ばした。
「っ!...」
ツー..と唇を優しく撫でる。
柔らかくて、少ししっとりと湿ってる。美味しそうな赤の色。
ここに触れるのは、俺だけでいいのに。
炭治郎の色付いた気配を感じ取ったのか、日向子は体を退け反らせるが、それを追うように炭治郎も体を傾ける。
ついに床についていた手がずるりと滑ってしまったようで、小さな悲鳴を上げて彼女の上半身が倒れ込んだ。
今は誰の姿もない。日向子姉さんと二人きりだ。
「っ!ちょっと炭治郎!...何する気?」
焦ったように日向子姉さんは声を上げる。
それもその筈だった。
周りに自分達以外の匂いがないのを良いことに、炭治郎が彼女の上に覆い被さっている体制なのだから。
ーーーーー
〜245【愛とは】〜
「どうしたら...俺を好きになってくれますか?」
彼女の頬を手の平で包み、親指は桃色の唇を往復する。
今すぐにでもその唇に噛み付きたい衝動をすんでのところで耐えながらも、口から溢れたのはそんな純粋な問いかけだった。
柱と同等の強さを手に入れたら振り向いてくれるのか?
どろどろに優しく甘やかしたらいいのか?
荒々しく攻め立てればときめいてくれるのか?
ーどうしたら傷つける事なく、困らせる事もなく、貴女を手に入れる事が出来るのだろうか...こんなにも俺は愛していると言うのにー
優しくしたいけど、彼女の心に歩幅を合わせたいのは山々だけど、それとは反対にどんどん余裕を失っていく炭治郎の心。
感情がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなくなって、ポタリと一粒の涙がこぼれ落ち、真下にいる日向子の頬に滴り落ちる。
「....俺を好きになってよ...日向子さん」
ーーーーーーー
無一郎君に接吻された事を話せば、案の定炭治郎は動揺して不意に瞳の色をなくした。
その直後、瞳に涙を溜めた彼はすっと手を伸ばしてきた。
そして、日向子の唇をツーと撫でる。
「っ!」
突然の出来事にどきりと心臓が脈打った。
情欲を孕んだような瞳をぐっと近づけてきた彼から、逃げるように上半身を反らすも、炭治郎は距離を取る事を許してくれない。
体勢を崩して後ろに倒れ込んだ後、彼はするりと日向子に馬乗りになり愛おしそうに頬を撫でる。
彼の手の平はとても暖かくて、所作はどこまでも優しい。それと裏腹に、苦しそうに顔を歪める様は酷く痛ましかった。
自分を好きになって欲しいと、泣きながらに訴える彼を見ていたら、全身が痺れていくような疼きに苛まれた。
これは、今までに感じた事がない。日向子は自身の初めての感覚に困惑する。
不謹慎にも、欲望と理性の狭間で葛藤している炭治郎を見て、可愛らしいと感じてしまった。
これが恋情なのか、家族愛なのか、友愛なのかわからないけれど....
今この瞬間、彼の元へ手を差し伸ばしたい
「っ!..」
びくりと肩を震わせる炭治郎。
日向子のすらりと伸びた手が、炭治郎のこめかみ部分を撫でる。
「...私は、きっと炭治郎を好きになるよ」
「..それは、異性として?」
ゆっくりと頷くと彼は目を見開いて、もう我慢ならないと言うように一層熱い息を吐いた。
「日向子姉さん...口吸いしたいっ」
余裕の無い声色で、耳元で彼はそう呟いた。
ーーーーー