◆第玖章 呼吸の歴史
貴女のお名前を教えてください
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〜238【恋敵】〜
「っわ!」
「「っ!」」
二人の目もあり恥ずかしさから、離してくれと控えめに伝えるが、首を横に振りなおも抱き締めてくる炭治郎。押し返そうとするもあまり効果は得られなかった。そして彼は肩越しにこう呟く。
「日向子姉さんは誰にも渡さない...時透君にだって。他の人なんて見ないでくれ、お願いだ。」
切実にそう訴える彼に、なんて声をかけてあげたらいいかわからず、頭をフル回転させ言葉を選んでいた時だった。
ガッと炭治郎の襟首を無一郎君が掴み上げ、反対方向に放る。
突然の出来事に構えずらなく、勢いよく臀部を地面に打ち付けたらしい炭治郎は苦悶の声を上げた。
そこへ畳み掛けるように無一郎は炭治郎の羽織をわし掴みこう叫んだ。
「日向子に触らないでっ!!」
ーーーーーー
僕はあまり他人の気持ちがわからない。
今もそうだった。
何故、炭治郎達はこんなにも非合理的な事を頑なに守ろうとするのか?
残酷だとか、配慮に欠けるだとか、温いなぁと思う。そんなものは..
ーそんなものは、【こんなもんじゃない】ー
「いい加減にしなさい!貴方達!」
でも、日向子に止められた事はかなりショックだったんだ。
あくまで自分のこの対応が正しいって思っていただけに尚更。
僕はただ、もっと鍛え上げて日向子や周りの大切な人を守りたい、失いたくない、その一心なだけなのに。
でも、その思いだけじゃ駄目なんだと知った。
言い方って何?人への配慮って何だろう?
悶々 とそんな事を考えてたら、日向子が小鉄の頭を撫でていて、あれだけ俺に敵対心を向けていた彼も満更ではない様子で...
その光景が気に入らなくて、鍵を受け取る時にやっぱり無愛想な態度になってしまう。
あぁ...日向子、呆れたかな?
嫌われたらどうしよう。こんな子供っぽい男なんて嫌だろう。
全てが思うようにいかず泣きたくなる気持ちを抑えて、僕はその場を抜けたのだった。
この複雑な気持ちをどうにか発散したくて、すぐに絡繰人形との訓練を行なった。
やってみたらわかった、この人形はとても性能が良い。まるで生身の人間のような的確な太刀筋に、無一郎もようやく本腰を入れられる。
刀を奮っている時は、いらない煩悩 は切り捨てていられる
筈だったのに
ふと日向子達の方を垣間見ると、炭治郎が彼女に抱き付いているのが見えた。
その途端、力の加減が狂い感情任せにふるった斬撃が人形のヨロイを砕いた。
ーーーーー
〜239【争いたくなど】〜
無意識のうちに無我夢中で抱き付いた。小鉄君達が驚いた顔で見ていたけど、関係ない。
彼女を誘惑する者がいるのはどうしても受け入れられなかった。
俺だけを見て欲しい。
もはや、その独占欲は炭治郎自身も抑えがたい物になってしまっていた。
「っ!」
不意に体が軽くなったかと思うと、突如臀部に電撃のような痛みが走る。
そこでようやく自分が無一郎に投げ飛ばされたのだと分かった。
上を見上げ彼の表情を見た瞬間頭が真っ白になる。彼は瞳孔を開かせ泣きそうな眼差しでこちらを見下ろしていた。
「日向子に触らないでっ!!」
一言、彼はそう炭治郎に向かって叫んだ。
彼にしては珍しい、あまりにも真っ直ぐで感情的なその言葉は、痛い程に炭治郎にも響いてきた。
あぁ...でも
何で、よりにもよって日向子姉さんなんだ
君も彼女でなければいけないのは、何故なんだ。そう無一郎に問いかけたかったが、彼女の手前やめた。
そうでなければ、俺はもっと時透君の事を素直に尊敬できたと思う。
君の事、本当はこんな風に思いたくなんてないんだ。
ー時透君ー
両者複雑な面持ちで見つめ合っていると、小鉄が震えながら絡繰人形の方へと駆けていった。その背中を追うように、二人の様子を気にしつつも日向子は目をやる。
悲惨な状態の人形を見て、小鉄はその場に崩れるようにへたり込んだ。
無一郎は小鉄の方を一瞥し、気まずそうに顔をしかめた。はぁーとゆっくり溜息を吐くと、炭治郎に向かって鞘に収めた刀を放る。
「これ、処分しといて」
行くよ銀子と鎹烏を呼び寄せると、彼は小鉄の方へと歩み寄っていく。
「俺の刀折れちゃったからこれ貰っていくね。いい修行になったよ、それと...」
無一郎は日向子の方を見る。彼女は悲しそうにこちらを見つめていた。
「...っ人形の事は、ごめん。」
たどたどしくそう言うのが今の彼の精一杯で、スタスタとその場を去っていった。
その直後、声をかける間もないままに小鉄もどこかへ走り去っていく。
しばらく沈黙が続いたが、日向子は意を決して炭治郎に声をかけた。
「炭治郎!私はっ
「ごめん」
彼はすくりと立ち上がると、へらりとした笑みを浮かべて申し訳なさそうに謝った。
「日向子姉さんにも小鉄君にも、余計な気を使わせたな。これは、俺と時透君の問題だ。巻き込んですまなかった。」
さて、小鉄君はどこに行ったのだろうと探し始めた炭治郎は、いつもの彼だった。
ーーーーー
〜240【大きな決意】〜
彼女をこれ以上困らせたらいけないと、笑顔を取り繕 った。
時透君との事が解決したわけではないが、やる事は決まってる。
ー彼に負けないくらいに強くなる事ー
時透君の実力は純粋に尊敬に値するけれど、日向子姉さんの事に関して言えば、一歩たりとも引く気は無い。
【彼女の心は自分が射止める】
炭治郎は固く自分の心に誓ったのだった。
ーーーー
キョロキョロと辺りを見回しても小鉄君の姿は見えず、辛うじて匂いを捉えた先は、なんと高くそびえ立つ木の上だった。
「小鉄君ー!危ないから!」
「俺達にできる事があれば手伝うよ!諦めちゃ駄目だ!君には未来がある、きっと今出来ない事でも出来るようになるから!」
二人が必死に声をかけるも、彼は弱音を吐くばかりでひしと木の幹に抱きついて離れない。
日向子姉さんが不安気に見上げているのを横目に見て、炭治郎はさっと木を駆け上がり枝に手をかける。
そして..
ビチッとなるだけ控えめに彼の顎を弾いた。
「っ!」
突然の痛みにひくりと嗚咽を漏らしていた小鉄君は、パタリと泣き止んだ。
炭治郎は真剣な声色で淡々とこう告げる。
「そういう風に言っちゃ駄目だ。日向子姉さんにもさっき言われたろう?誰よりもあの人形が大切で、側で見てきた君ならきっと出来る。
仮に難しかったとしても、必ず他の誰かが引き継いでくれる。次に繋ぐための努力を怠ってはいけない。君に出来なくても、君の子供や孫なら出来るかもしれないだろう?」
つい拳に力が入ってしまうのは、ここで諦めて欲しくないという気持ちの現れだった。
人間一人に出来る事は限られているし、欲しいもの全てが手に入るとも限らなければ、目指すもの全てに辿り着けるとも限らない。
けれど...
例え可能性が低いとしても、今ここで歩みを止めたら全てが一瞬で途絶えてしまうから。
炭治郎自身、今までの人生の中で色んな人から学び、救われ、繋いで貰って今がある。
だから自分もそういう立場で在りたいと思うし、小鉄にもそうなって欲しいと願うのだ。
「だから、一緒に頑張ろう!」
ガシッと彼の手をつかめば再び彼はぶわりと涙を流したけれど、それでも力強くこくりと首を縦に振った。
「ありがとう..炭治郎さん、日向子様も!俺頑張るよ」
ようやく前向きな言葉を聞くことが出来、ほっと胸を撫で下ろした炭治郎は、彼を抱えてよっと木から降り立った。
「確認しよう、まだ動くかどうか」
ーーーーー
〜241【小鉄少年の熱血指導】〜
気付けばあたりは夕立による雨が降り注いでいた。
小鉄は無惨な姿の絡繰人形に寄り添い、コキコキ動きを確かめるも、無一郎に破壊されてしまった肢体はピクリとも動かない。
「やっぱり駄目か..」
三人が諦めかけていたその時、ギュルっと歯車が回転し、なんと人形は息を吹き返したように五本の刀をジャキリと構えた。
「やった!動いたね小鉄君!良かった...」
小鉄の様子が先程とは打って変わってやけにしんとしているので、炭治郎も日向子もじっと彼の背を見つめる。
「小鉄君?..」
人形は動いたのに歓喜もしない。今彼は何を考えているのだろう?
その時一際大きな雷が落ちた。
びくりと日向子は肩を震わせぎゅっと目をつむる。再び目を開くと、彼はゆっくりとこちらに顔を傾けた。
「炭治郎さん、これで修行して【あの澄ました顔の糞ガキ】よりも強くなってください」
ー全力で協力しますのでー
声変わりはまだしていない筈の彼が、恐ろしいほどどすの効いた声でそう発した。
修行に付き合ってくれるのはありがたい、ありがたいが...
今からかな?...
炭治郎は冷や汗を垂らした。
小鉄は無一郎に対する腹の虫が収まらないようで、ひたすらに罵っていたが不意にこう叫ぶ。
「日向子様の事も、あんな昆布頭になんか渡しちゃ駄目ですよ!!俺は、断然炭治郎さんの恋路を応援してますからね!」
「「っ!!」」
ぐっと拳を振り上げてそう鼓舞された炭治郎は、瞬時に顔を真っ赤に染め上げた。
いくら10歳の少年相手でも、あれだけ派手に彼女を巡って争っている姿を見れば、事情は一目瞭然だったようだ。
なんだか急に羞恥心がこみ上げてきた。あぁ...気まず過ぎて彼女の顔も見れない。
「がっ..頑張りますっ!!」
そう叫ぶのが今の炭治郎の精一杯だった。
ーーーーーーーーー
あれよといううちに戦闘訓練に突入した炭治郎と、指導係に転じた小鉄の姿を遠くから見守っていた日向子は、とんでもない状況になってしまったなと遠い目をする。
どうやら彼は元の性格はかなり熱血で、加えて毒舌という一面もあるようだ。
的確に炭治郎の弱点をついてるとこを見ると、素晴らしい分析能力の持ち主であると感心する。
まぁ展開はどうあれ、これも炭治郎にとってはいい修行になるのかもしれない。
いいなぁ、私も一緒に....
「全然駄目です!!俺の言ったことができるようになるまで食べ物あげませんから!!!」
あれ..?これ大丈夫かな?
ーーーーー
「っわ!」
「「っ!」」
二人の目もあり恥ずかしさから、離してくれと控えめに伝えるが、首を横に振りなおも抱き締めてくる炭治郎。押し返そうとするもあまり効果は得られなかった。そして彼は肩越しにこう呟く。
「日向子姉さんは誰にも渡さない...時透君にだって。他の人なんて見ないでくれ、お願いだ。」
切実にそう訴える彼に、なんて声をかけてあげたらいいかわからず、頭をフル回転させ言葉を選んでいた時だった。
ガッと炭治郎の襟首を無一郎君が掴み上げ、反対方向に放る。
突然の出来事に構えずらなく、勢いよく臀部を地面に打ち付けたらしい炭治郎は苦悶の声を上げた。
そこへ畳み掛けるように無一郎は炭治郎の羽織をわし掴みこう叫んだ。
「日向子に触らないでっ!!」
ーーーーーー
僕はあまり他人の気持ちがわからない。
今もそうだった。
何故、炭治郎達はこんなにも非合理的な事を頑なに守ろうとするのか?
残酷だとか、配慮に欠けるだとか、温いなぁと思う。そんなものは..
ーそんなものは、【こんなもんじゃない】ー
「いい加減にしなさい!貴方達!」
でも、日向子に止められた事はかなりショックだったんだ。
あくまで自分のこの対応が正しいって思っていただけに尚更。
僕はただ、もっと鍛え上げて日向子や周りの大切な人を守りたい、失いたくない、その一心なだけなのに。
でも、その思いだけじゃ駄目なんだと知った。
言い方って何?人への配慮って何だろう?
その光景が気に入らなくて、鍵を受け取る時にやっぱり無愛想な態度になってしまう。
あぁ...日向子、呆れたかな?
嫌われたらどうしよう。こんな子供っぽい男なんて嫌だろう。
全てが思うようにいかず泣きたくなる気持ちを抑えて、僕はその場を抜けたのだった。
この複雑な気持ちをどうにか発散したくて、すぐに絡繰人形との訓練を行なった。
やってみたらわかった、この人形はとても性能が良い。まるで生身の人間のような的確な太刀筋に、無一郎もようやく本腰を入れられる。
刀を奮っている時は、いらない
筈だったのに
ふと日向子達の方を垣間見ると、炭治郎が彼女に抱き付いているのが見えた。
その途端、力の加減が狂い感情任せにふるった斬撃が人形のヨロイを砕いた。
ーーーーー
〜239【争いたくなど】〜
無意識のうちに無我夢中で抱き付いた。小鉄君達が驚いた顔で見ていたけど、関係ない。
彼女を誘惑する者がいるのはどうしても受け入れられなかった。
俺だけを見て欲しい。
もはや、その独占欲は炭治郎自身も抑えがたい物になってしまっていた。
「っ!」
不意に体が軽くなったかと思うと、突如臀部に電撃のような痛みが走る。
そこでようやく自分が無一郎に投げ飛ばされたのだと分かった。
上を見上げ彼の表情を見た瞬間頭が真っ白になる。彼は瞳孔を開かせ泣きそうな眼差しでこちらを見下ろしていた。
「日向子に触らないでっ!!」
一言、彼はそう炭治郎に向かって叫んだ。
彼にしては珍しい、あまりにも真っ直ぐで感情的なその言葉は、痛い程に炭治郎にも響いてきた。
あぁ...でも
何で、よりにもよって日向子姉さんなんだ
君も彼女でなければいけないのは、何故なんだ。そう無一郎に問いかけたかったが、彼女の手前やめた。
そうでなければ、俺はもっと時透君の事を素直に尊敬できたと思う。
君の事、本当はこんな風に思いたくなんてないんだ。
ー時透君ー
両者複雑な面持ちで見つめ合っていると、小鉄が震えながら絡繰人形の方へと駆けていった。その背中を追うように、二人の様子を気にしつつも日向子は目をやる。
悲惨な状態の人形を見て、小鉄はその場に崩れるようにへたり込んだ。
無一郎は小鉄の方を一瞥し、気まずそうに顔をしかめた。はぁーとゆっくり溜息を吐くと、炭治郎に向かって鞘に収めた刀を放る。
「これ、処分しといて」
行くよ銀子と鎹烏を呼び寄せると、彼は小鉄の方へと歩み寄っていく。
「俺の刀折れちゃったからこれ貰っていくね。いい修行になったよ、それと...」
無一郎は日向子の方を見る。彼女は悲しそうにこちらを見つめていた。
「...っ人形の事は、ごめん。」
たどたどしくそう言うのが今の彼の精一杯で、スタスタとその場を去っていった。
その直後、声をかける間もないままに小鉄もどこかへ走り去っていく。
しばらく沈黙が続いたが、日向子は意を決して炭治郎に声をかけた。
「炭治郎!私はっ
「ごめん」
彼はすくりと立ち上がると、へらりとした笑みを浮かべて申し訳なさそうに謝った。
「日向子姉さんにも小鉄君にも、余計な気を使わせたな。これは、俺と時透君の問題だ。巻き込んですまなかった。」
さて、小鉄君はどこに行ったのだろうと探し始めた炭治郎は、いつもの彼だった。
ーーーーー
〜240【大きな決意】〜
彼女をこれ以上困らせたらいけないと、笑顔を取り
時透君との事が解決したわけではないが、やる事は決まってる。
ー彼に負けないくらいに強くなる事ー
時透君の実力は純粋に尊敬に値するけれど、日向子姉さんの事に関して言えば、一歩たりとも引く気は無い。
【彼女の心は自分が射止める】
炭治郎は固く自分の心に誓ったのだった。
ーーーー
キョロキョロと辺りを見回しても小鉄君の姿は見えず、辛うじて匂いを捉えた先は、なんと高くそびえ立つ木の上だった。
「小鉄君ー!危ないから!」
「俺達にできる事があれば手伝うよ!諦めちゃ駄目だ!君には未来がある、きっと今出来ない事でも出来るようになるから!」
二人が必死に声をかけるも、彼は弱音を吐くばかりでひしと木の幹に抱きついて離れない。
日向子姉さんが不安気に見上げているのを横目に見て、炭治郎はさっと木を駆け上がり枝に手をかける。
そして..
ビチッとなるだけ控えめに彼の顎を弾いた。
「っ!」
突然の痛みにひくりと嗚咽を漏らしていた小鉄君は、パタリと泣き止んだ。
炭治郎は真剣な声色で淡々とこう告げる。
「そういう風に言っちゃ駄目だ。日向子姉さんにもさっき言われたろう?誰よりもあの人形が大切で、側で見てきた君ならきっと出来る。
仮に難しかったとしても、必ず他の誰かが引き継いでくれる。次に繋ぐための努力を怠ってはいけない。君に出来なくても、君の子供や孫なら出来るかもしれないだろう?」
つい拳に力が入ってしまうのは、ここで諦めて欲しくないという気持ちの現れだった。
人間一人に出来る事は限られているし、欲しいもの全てが手に入るとも限らなければ、目指すもの全てに辿り着けるとも限らない。
けれど...
例え可能性が低いとしても、今ここで歩みを止めたら全てが一瞬で途絶えてしまうから。
炭治郎自身、今までの人生の中で色んな人から学び、救われ、繋いで貰って今がある。
だから自分もそういう立場で在りたいと思うし、小鉄にもそうなって欲しいと願うのだ。
「だから、一緒に頑張ろう!」
ガシッと彼の手をつかめば再び彼はぶわりと涙を流したけれど、それでも力強くこくりと首を縦に振った。
「ありがとう..炭治郎さん、日向子様も!俺頑張るよ」
ようやく前向きな言葉を聞くことが出来、ほっと胸を撫で下ろした炭治郎は、彼を抱えてよっと木から降り立った。
「確認しよう、まだ動くかどうか」
ーーーーー
〜241【小鉄少年の熱血指導】〜
気付けばあたりは夕立による雨が降り注いでいた。
小鉄は無惨な姿の絡繰人形に寄り添い、コキコキ動きを確かめるも、無一郎に破壊されてしまった肢体はピクリとも動かない。
「やっぱり駄目か..」
三人が諦めかけていたその時、ギュルっと歯車が回転し、なんと人形は息を吹き返したように五本の刀をジャキリと構えた。
「やった!動いたね小鉄君!良かった...」
小鉄の様子が先程とは打って変わってやけにしんとしているので、炭治郎も日向子もじっと彼の背を見つめる。
「小鉄君?..」
人形は動いたのに歓喜もしない。今彼は何を考えているのだろう?
その時一際大きな雷が落ちた。
びくりと日向子は肩を震わせぎゅっと目をつむる。再び目を開くと、彼はゆっくりとこちらに顔を傾けた。
「炭治郎さん、これで修行して【あの澄ました顔の糞ガキ】よりも強くなってください」
ー全力で協力しますのでー
声変わりはまだしていない筈の彼が、恐ろしいほどどすの効いた声でそう発した。
修行に付き合ってくれるのはありがたい、ありがたいが...
今からかな?...
炭治郎は冷や汗を垂らした。
小鉄は無一郎に対する腹の虫が収まらないようで、ひたすらに罵っていたが不意にこう叫ぶ。
「日向子様の事も、あんな昆布頭になんか渡しちゃ駄目ですよ!!俺は、断然炭治郎さんの恋路を応援してますからね!」
「「っ!!」」
ぐっと拳を振り上げてそう鼓舞された炭治郎は、瞬時に顔を真っ赤に染め上げた。
いくら10歳の少年相手でも、あれだけ派手に彼女を巡って争っている姿を見れば、事情は一目瞭然だったようだ。
なんだか急に羞恥心がこみ上げてきた。あぁ...気まず過ぎて彼女の顔も見れない。
「がっ..頑張りますっ!!」
そう叫ぶのが今の炭治郎の精一杯だった。
ーーーーーーーーー
あれよといううちに戦闘訓練に突入した炭治郎と、指導係に転じた小鉄の姿を遠くから見守っていた日向子は、とんでもない状況になってしまったなと遠い目をする。
どうやら彼は元の性格はかなり熱血で、加えて毒舌という一面もあるようだ。
的確に炭治郎の弱点をついてるとこを見ると、素晴らしい分析能力の持ち主であると感心する。
まぁ展開はどうあれ、これも炭治郎にとってはいい修行になるのかもしれない。
いいなぁ、私も一緒に....
「全然駄目です!!俺の言ったことができるようになるまで食べ物あげませんから!!!」
あれ..?これ大丈夫かな?
ーーーーー