◆第弐章 そして少年達は
貴女のお名前を教えてください
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〜18【温もり】〜
無駄のない流れるような動きで、鬼の頚を刈り取り炭治郎は静かに刀を鞘に収めた。これで終わったという安心感と達成感に身体の力が抜けるような感覚と共に、湧き上がった気持ち。
刃が鬼を斬り裂いた時、感じ取ってしまった。
なんとも形容しがたい悲しい匂いを...
眉根を寄せて振り向いた炭治郎は、
先刻まで憎しみの感情しか向けていなかった鬼へと近づく。
まるで温もりを求めるかのように差し出された手の平を、崩れ去る瞬間まで握り締めた。
こんな変わり果てた姿になったとしても...
そう、元は俺たちと同じ人間だったから。
きっとこの鬼にも過去には、
暖かな日々があり、愛しいと思える家族がいたのだろう...
「神様どうか、この人が今度生まれてくる時は、鬼になんてなりませんように」
そう祈りを捧げた炭治郎を
日向子はひたすらに見守った。
この世界はなんて
不条理に塗れているのだろう...
日向子自身もそれは身に染みて感じる事だった。
2年前..思い出すのも悍ましい記憶は
また後に語ることとするが、
家族と引き裂かれ、自分の生きる意味を知った今の私は、こうして鬼殺隊を目指しこの山へ来た。
もしも...せめて
生き別れた家族と再会できるとしたなら
【ここ】であると思ったから。
日向子は僅かに右足を引きながら、最愛の弟へと近づく。
炭治郎、あなたはこの2年間どんな景色を見て来たのだろう。
辛い思いをして来たろう。
お姉ちゃんが...
守りきれなくてごめんね。
「炭治郎...」
そう名前を呼び掛けると、彼は目に涙を溜めて
こちらへ振り返った。
言葉を発すれば嗚咽 を漏らしそうな程に、肩を震わせて。
日向子は両の手を広げて思い切り彼の身体を抱き締める。
途端、堰を切ったように泣き崩れた。
「日向子姉さんっ!...会いたかったっーー
もう死んでしまったかとばかり思ってた」
「うん、うん..ごめんなさい。
私もずっと会いたかったよ..炭治郎。
随分と背が伸びたねぇ。私よりも大きくなった。成長したんだね..」
再会を喜び合う2人はいつまでも重なり合っているかと思われた。
しかし不意にがくりと炭治郎は力を失い、日向子の肩にもたれ掛かる。
「炭治郎!!」
急いで彼を横たわらせて呼吸と脈を測る。
息はある...気絶しているのか。
それはそうだ。あれだけ激しい戦闘を繰り広げたのだから
もう少しで夜明け..でも何処にも安全な場所などない。
私が守らないと。
日向子は息を深く吸い込んだ
ーーーーー
〜19【夜明けと束の間の語らい】〜
「ーっ!」
炭治郎は不意に覚醒し飛び起きる。
まだ僅かな目眩の残る頭を押さえて、隣を見やると日向子姉さんが起きたのねと微笑んでいた。
「良かった..。どうかな、やっぱり身体痛むよね?」
そんな事はどうでもいい。
俺の体よりも
「日向子姉さんは...足は、大丈夫なのか?
ごめん俺、気絶なんかしてた」
太陽はもう峠 を超えている。
それまでずっと日向子姉さんが付きっきりで側にいてくれたのだろう。
その間鬼の襲撃はなかっただろうか?もし、最悪襲われたとして俺を守りながら..
情けない
炭治郎は下唇を噛む思いだったが、彼女はそんな胸の内など知ってか知らずかのようだ。
「大丈夫だよ、運がよかったみたい
あの後は鬼にも遭遇しなかったし、
今日は晴天だから昼間の内は安全だと思う。」
そう答えながら、すぐ近くに小川を見つけたのだと言って濡らした手拭いで炭治郎の土塗れの顔を拭う。
腕やら脚やらを動かされ、痛みの度合い等を確認すると安堵した様子を見せた。
「骨は折れてないみたいね。頭は...もう
炭治郎は昔から無茶をする子なんだから、
しばらくこのたんこぶは残るわね。」
コロコロと変わる表情や、安らぐ匂い。
あぁ..昔からあなたも変わらない。
でも、手は豆だらけで白魚のような腕には、無数の細かい生傷の痕。
昔の日向子姉さんではあり得ないのに。
炭治郎は眉根を寄せた。
なんで彼女は鬼殺隊を志すんだろう。
いや、その前にあの夜、家族に一体何があったのか。
今まで彼女は何処に居て、
誰と過ごし、
何が
日向子姉さんを変えたのだろうか?
昨日の晩はとてもじゃないが、そんな会話も何も出来たものではない。色々と聞きたい事はあるけれど..
「日向子姉さん。俺はもう大丈夫だから少し寝てくれ。また夜になれば鬼が動き始めるから、体がもたない..今度は俺が見ているから」
彼女の目元をよく見ると、うすら隈が出来ており、普段は透き通るような瞳も充血している。
寝ずに炭治郎を四六時中見てくれていたのだから、当たり前だが...痛々しい。
彼女は少し考えると、じゃあお言葉に甘えようかと言い、市女傘を深く被り直す。
「また、落ち着いたらたくさん積もる話をしましょう。炭治郎..」
そう言うと日向子姉さんは、
すぐに意識を手放したようだった。
隣で小さな寝息が聞こえてくる
改めて実感した、姉さんはここにいる。
ちゃんと生きてる...
炭治郎は堪らず、彼女の頬に手を伸ばした。
ーーーーー
〜20【衝動】〜
垂衣 をかき分けて、彼女の頬に手を触れると、ほのかに暖かいその温もりが、じんわりと心地よい。
「安心して眠ってくれよ..日向子姉さん」
今度はずっと側にいるから
片時も離れたりしないから
何があっても俺が守るから
もうあんな胸が張り裂ける思いはしたくない..
熟睡し切ってる彼女の頬や髪の毛を、飽きる事なく撫でていた。
物心ついた時にはもう、彼女の体に触れるなんて事出来なかったから、もう本当に久方ぶりだろう。
女の子らしい..
曲線やふっくらとした肌感触、滑るような髪質。
年頃の女性特有の、匂いを感じて
炭治郎は柄にもなく鼓動が早くなり
やがて、何かの衝動が湧き上がってくる。
この感覚は...何なのだろか
これから数日間
野山で彼女と昼夜を共にする
はたと気づいた途端、ぶわっと
全身の血が濃く早くなるのを感じた。
待て待て落ち着け炭治郎..
遊びに来てるのではないんだから、気を緩めちゃいけない。けど..
お互い歳を重ねて成長したからこそ
数年離れ離れになっていた愛しい人と
四六時中一緒にいるというのは、嬉しい反面もあり気まずさ反面という感じだ。
どうやら炭治郎は別の意味でも、この数日を乗り切るべく戦わなければいけないらしかった...。
辺りが夕焼け色になり始めた頃、彼女はもぞもぞとしだして、やがて眠そうにまぶたを擦る。
「ありがとう炭治郎。お陰で体力回復したよ。」
「それなら良かった。あんまりいい寝床じゃなかったから快適ではなかっただろうけど」
彼女は違いないねと笑うと、腰を持ち上げてすくりと立つ。心配していた足も、問題なさそうだ。
日向子姉さんは、この場所を拠点にしていこうと言った。無駄な体力消費は避けたかったのもあるし、近くに水場もあるから凌ぐにはちょうどいい。
なるべく瞬時に対応出来る構えで、また永い夜が明けるのを待つ。
炭治郎は、ずっと気になっていた事を、意を決して聞くことにした。
「日向子姉さん...」
そしてその空気感はすぐに伝わったらしい。
彼女もまた、頃合いだとでも言うように炭治郎に向き直る。
「うん。話そうか、あの日何があったのかも
今まで何処にいたのかも、何故私がここにいるのかも..それと」
日向子姉さんは、少し決まりが悪そうにしてこう続けた。
「私がまだ炭治郎に話してないことがあるんだ」
ーーーーー
〜21【招かれざる影】〜
ー2年前ー
寒空の下、炭治郎を町へ見送ったその日
竈門家の幸せは突如として奪われた
「お兄ちゃん遅いね..いつもならとっくに帰ってるのに」
六太を寝かしつけながら禰豆子が不安気に呟いた。
既に亥の刻に差し迫ろうとしている。
辺りは真っ暗闇で、目視で何かを認識するのは極めて困難な時刻。
日が沈む前には家の中にいる事
それは昔からの父の教えで、いくら鼻が効くからといえ従順な性格の炭治郎が約束事を破ることはなかった
兄の帰りを待ち続け、頑なに夕餉を食べようとしなかった下の子達だったが、とうとう空腹に耐え切れず箸を取ると、その後はあっという間に夢の中だ。
家族に心配をかける事を嫌がった炭治郎が..
日向子はこれは道中何かあったに違いないと思った。
「母さん、やっぱり私、探しにいってくるよ。
いつも炭治郎が通ってる道は決まっているし、
こちらから辿れば会えるかもしれないから、
きっと何かあったんだわ。」
急いで外着を羽織ろうとした彼女の手を葵枝が止めた。首を横に振り制しする。
「こんな真夜中に、あなたにまで何かあったらどうするの。炭治郎ならきっと大丈夫..もしかしたら、何処か、宿を探して明日帰ってくるのかもしれない。あの子を信じましょう。」
そう言った母の様子は毅然 としていたが手が震えていた。
「明日の朝..戻らなかったら探してくる」
...
明かりを消して、子供達が寝静まってからも
母は一切眠らずに戸の外を見つめ続けていた。
日向子も床についたはいいが、眠れずに母の様子を見守る。
炭治郎..今どこにいるの?
まさかこの冬山で雪に足を取られ滑落 なんて事になってないだろうか。
はたまた獣に襲われたなんて事に。
みんな帰りを待っているから、どうか無事でいてちょうだい。
心の中で祈っていたその時
ビシャ
ゴトッ..
液体が飛び散る音と、何かが床に叩きつけられる音が聞こえて、同時に凍りつくような外気が家の中に吹き付けた。
今夜は月明かりもない、真っ暗でほとんど何も見えない中混乱した頭で戸の方を見やる。
真っ黒い影が立っているのがわかった。
一体何なの
そして気付く。先程落ちた物が何なのか..
「っ!!」
寒さに身動ぎ目を覚ました茂が、兄ちゃん?と呟く。
「禰豆子!竹雄!みんなを連れて逃げなさい!」
日向子は咄嗟に側にあった斧を引っ掴み
黒い影に向かって大きく振り被った。
ーーーーー
無駄のない流れるような動きで、鬼の頚を刈り取り炭治郎は静かに刀を鞘に収めた。これで終わったという安心感と達成感に身体の力が抜けるような感覚と共に、湧き上がった気持ち。
刃が鬼を斬り裂いた時、感じ取ってしまった。
なんとも形容しがたい悲しい匂いを...
眉根を寄せて振り向いた炭治郎は、
先刻まで憎しみの感情しか向けていなかった鬼へと近づく。
まるで温もりを求めるかのように差し出された手の平を、崩れ去る瞬間まで握り締めた。
こんな変わり果てた姿になったとしても...
そう、元は俺たちと同じ人間だったから。
きっとこの鬼にも過去には、
暖かな日々があり、愛しいと思える家族がいたのだろう...
「神様どうか、この人が今度生まれてくる時は、鬼になんてなりませんように」
そう祈りを捧げた炭治郎を
日向子はひたすらに見守った。
この世界はなんて
不条理に塗れているのだろう...
日向子自身もそれは身に染みて感じる事だった。
2年前..思い出すのも悍ましい記憶は
また後に語ることとするが、
家族と引き裂かれ、自分の生きる意味を知った今の私は、こうして鬼殺隊を目指しこの山へ来た。
もしも...せめて
生き別れた家族と再会できるとしたなら
【ここ】であると思ったから。
日向子は僅かに右足を引きながら、最愛の弟へと近づく。
炭治郎、あなたはこの2年間どんな景色を見て来たのだろう。
辛い思いをして来たろう。
お姉ちゃんが...
守りきれなくてごめんね。
「炭治郎...」
そう名前を呼び掛けると、彼は目に涙を溜めて
こちらへ振り返った。
言葉を発すれば
日向子は両の手を広げて思い切り彼の身体を抱き締める。
途端、堰を切ったように泣き崩れた。
「日向子姉さんっ!...会いたかったっーー
もう死んでしまったかとばかり思ってた」
「うん、うん..ごめんなさい。
私もずっと会いたかったよ..炭治郎。
随分と背が伸びたねぇ。私よりも大きくなった。成長したんだね..」
再会を喜び合う2人はいつまでも重なり合っているかと思われた。
しかし不意にがくりと炭治郎は力を失い、日向子の肩にもたれ掛かる。
「炭治郎!!」
急いで彼を横たわらせて呼吸と脈を測る。
息はある...気絶しているのか。
それはそうだ。あれだけ激しい戦闘を繰り広げたのだから
もう少しで夜明け..でも何処にも安全な場所などない。
私が守らないと。
日向子は息を深く吸い込んだ
ーーーーー
〜19【夜明けと束の間の語らい】〜
「ーっ!」
炭治郎は不意に覚醒し飛び起きる。
まだ僅かな目眩の残る頭を押さえて、隣を見やると日向子姉さんが起きたのねと微笑んでいた。
「良かった..。どうかな、やっぱり身体痛むよね?」
そんな事はどうでもいい。
俺の体よりも
「日向子姉さんは...足は、大丈夫なのか?
ごめん俺、気絶なんかしてた」
太陽はもう
それまでずっと日向子姉さんが付きっきりで側にいてくれたのだろう。
その間鬼の襲撃はなかっただろうか?もし、最悪襲われたとして俺を守りながら..
情けない
炭治郎は下唇を噛む思いだったが、彼女はそんな胸の内など知ってか知らずかのようだ。
「大丈夫だよ、運がよかったみたい
あの後は鬼にも遭遇しなかったし、
今日は晴天だから昼間の内は安全だと思う。」
そう答えながら、すぐ近くに小川を見つけたのだと言って濡らした手拭いで炭治郎の土塗れの顔を拭う。
腕やら脚やらを動かされ、痛みの度合い等を確認すると安堵した様子を見せた。
「骨は折れてないみたいね。頭は...もう
炭治郎は昔から無茶をする子なんだから、
しばらくこのたんこぶは残るわね。」
コロコロと変わる表情や、安らぐ匂い。
あぁ..昔からあなたも変わらない。
でも、手は豆だらけで白魚のような腕には、無数の細かい生傷の痕。
昔の日向子姉さんではあり得ないのに。
炭治郎は眉根を寄せた。
なんで彼女は鬼殺隊を志すんだろう。
いや、その前にあの夜、家族に一体何があったのか。
今まで彼女は何処に居て、
誰と過ごし、
何が
日向子姉さんを変えたのだろうか?
昨日の晩はとてもじゃないが、そんな会話も何も出来たものではない。色々と聞きたい事はあるけれど..
「日向子姉さん。俺はもう大丈夫だから少し寝てくれ。また夜になれば鬼が動き始めるから、体がもたない..今度は俺が見ているから」
彼女の目元をよく見ると、うすら隈が出来ており、普段は透き通るような瞳も充血している。
寝ずに炭治郎を四六時中見てくれていたのだから、当たり前だが...痛々しい。
彼女は少し考えると、じゃあお言葉に甘えようかと言い、市女傘を深く被り直す。
「また、落ち着いたらたくさん積もる話をしましょう。炭治郎..」
そう言うと日向子姉さんは、
すぐに意識を手放したようだった。
隣で小さな寝息が聞こえてくる
改めて実感した、姉さんはここにいる。
ちゃんと生きてる...
炭治郎は堪らず、彼女の頬に手を伸ばした。
ーーーーー
〜20【衝動】〜
「安心して眠ってくれよ..日向子姉さん」
今度はずっと側にいるから
片時も離れたりしないから
何があっても俺が守るから
もうあんな胸が張り裂ける思いはしたくない..
熟睡し切ってる彼女の頬や髪の毛を、飽きる事なく撫でていた。
物心ついた時にはもう、彼女の体に触れるなんて事出来なかったから、もう本当に久方ぶりだろう。
女の子らしい..
曲線やふっくらとした肌感触、滑るような髪質。
年頃の女性特有の、匂いを感じて
炭治郎は柄にもなく鼓動が早くなり
やがて、何かの衝動が湧き上がってくる。
この感覚は...何なのだろか
これから数日間
野山で彼女と昼夜を共にする
はたと気づいた途端、ぶわっと
全身の血が濃く早くなるのを感じた。
待て待て落ち着け炭治郎..
遊びに来てるのではないんだから、気を緩めちゃいけない。けど..
お互い歳を重ねて成長したからこそ
数年離れ離れになっていた愛しい人と
四六時中一緒にいるというのは、嬉しい反面もあり気まずさ反面という感じだ。
どうやら炭治郎は別の意味でも、この数日を乗り切るべく戦わなければいけないらしかった...。
辺りが夕焼け色になり始めた頃、彼女はもぞもぞとしだして、やがて眠そうにまぶたを擦る。
「ありがとう炭治郎。お陰で体力回復したよ。」
「それなら良かった。あんまりいい寝床じゃなかったから快適ではなかっただろうけど」
彼女は違いないねと笑うと、腰を持ち上げてすくりと立つ。心配していた足も、問題なさそうだ。
日向子姉さんは、この場所を拠点にしていこうと言った。無駄な体力消費は避けたかったのもあるし、近くに水場もあるから凌ぐにはちょうどいい。
なるべく瞬時に対応出来る構えで、また永い夜が明けるのを待つ。
炭治郎は、ずっと気になっていた事を、意を決して聞くことにした。
「日向子姉さん...」
そしてその空気感はすぐに伝わったらしい。
彼女もまた、頃合いだとでも言うように炭治郎に向き直る。
「うん。話そうか、あの日何があったのかも
今まで何処にいたのかも、何故私がここにいるのかも..それと」
日向子姉さんは、少し決まりが悪そうにしてこう続けた。
「私がまだ炭治郎に話してないことがあるんだ」
ーーーーー
〜21【招かれざる影】〜
ー2年前ー
寒空の下、炭治郎を町へ見送ったその日
竈門家の幸せは突如として奪われた
「お兄ちゃん遅いね..いつもならとっくに帰ってるのに」
六太を寝かしつけながら禰豆子が不安気に呟いた。
既に亥の刻に差し迫ろうとしている。
辺りは真っ暗闇で、目視で何かを認識するのは極めて困難な時刻。
日が沈む前には家の中にいる事
それは昔からの父の教えで、いくら鼻が効くからといえ従順な性格の炭治郎が約束事を破ることはなかった
兄の帰りを待ち続け、頑なに夕餉を食べようとしなかった下の子達だったが、とうとう空腹に耐え切れず箸を取ると、その後はあっという間に夢の中だ。
家族に心配をかける事を嫌がった炭治郎が..
日向子はこれは道中何かあったに違いないと思った。
「母さん、やっぱり私、探しにいってくるよ。
いつも炭治郎が通ってる道は決まっているし、
こちらから辿れば会えるかもしれないから、
きっと何かあったんだわ。」
急いで外着を羽織ろうとした彼女の手を葵枝が止めた。首を横に振り制しする。
「こんな真夜中に、あなたにまで何かあったらどうするの。炭治郎ならきっと大丈夫..もしかしたら、何処か、宿を探して明日帰ってくるのかもしれない。あの子を信じましょう。」
そう言った母の様子は
「明日の朝..戻らなかったら探してくる」
...
明かりを消して、子供達が寝静まってからも
母は一切眠らずに戸の外を見つめ続けていた。
日向子も床についたはいいが、眠れずに母の様子を見守る。
炭治郎..今どこにいるの?
まさかこの冬山で雪に足を取られ
はたまた獣に襲われたなんて事に。
みんな帰りを待っているから、どうか無事でいてちょうだい。
心の中で祈っていたその時
ビシャ
ゴトッ..
液体が飛び散る音と、何かが床に叩きつけられる音が聞こえて、同時に凍りつくような外気が家の中に吹き付けた。
今夜は月明かりもない、真っ暗でほとんど何も見えない中混乱した頭で戸の方を見やる。
真っ黒い影が立っているのがわかった。
一体何なの
そして気付く。先程落ちた物が何なのか..
「っ!!」
寒さに身動ぎ目を覚ました茂が、兄ちゃん?と呟く。
「禰豆子!竹雄!みんなを連れて逃げなさい!」
日向子は咄嗟に側にあった斧を引っ掴み
黒い影に向かって大きく振り被った。
ーーーーー