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◆第玖章 呼吸の歴史

貴女のお名前を教えてください

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〜222【恋愛相談】〜





一緒に宿舎へと戻り夕餉を共にしている最中も、日向子は甘露寺から質問攻めにあっていた。



「血は繋がってないって聞いたけど、日向子ちゃんと炭治郎君は姉弟なのよね?小さい頃は一緒に暮らしてたの?」


「えぇ、そうです」



やだー禁断の恋って感じ!恋愛小説みたいでロマンチックだわぁとキラキラした瞳で両手を合わせる彼女を見て、日向子はこの手の話は彼女の前でもうしないと密かに誓った。
他人の恋話ならまだしも..



蜜璃は口も止まらなければ、先程から米やおかずをつつく箸も止まらない。
気付けばおかわりを繰り返す彼女の目の前には、いくつもの茶碗やどんぶりが積み重なっていた。日向子は口をあんぐり開ける。



凄い食欲だなぁ..



こんなに細い体のどこに食べ物が消えていくのかわからない。でも、彼女の強さの理由が少し分かったような気もする。こんな体質もちょっぴり羨ましいなぁと思った。



「私実を言うとね、無一郎君を応援してたのよ。だって、あんなに独占欲丸出しで皆の前で僕の継子にするからって言うもんだから、もー私キュンキュンしちゃってね!すると、日向子ちゃんは今2人の殿方に好意を寄せられてるのねー」



彼の名前を聞いてぴくりと反応する。
日向子の様子をみて、彼女は途端に優しい笑みを浮かべる。



「私は、日向子ちゃんにはどっちもお似合いだと思うわ。告白されたの?貴女はどう思ってるのかしら?」



この事は誰にも相談出来なかったし、不思議と彼女にはすんなり気持ちが吐き出せそうな気がして、日向子は一つ一つこれまでの経緯を伝え始めた。



「..というわけで、無一郎君からも炭治郎からも、告白はされました。ただ、今はどうしてもすぐに前向きに考えられなくて、無一郎君に至ってはきっぱり断ってしまいましたし」




彼等の気持ちに応えてあげたいのと、自分の気持ちがそこまで追いつかないもどかしさ。


そもそも、2人を受け入れる事は出来ないので、どうしたらいいかわからない複雑な心境。
自分は最低なんじゃないかという罪悪感。


それらを真剣に蜜璃に話すと、彼女は意外にも高らかに笑い飛ばした。




「甘露寺様?」


「ごめんなさい、でも...そりゃそうよ。気持ちが追いつかなければ当然。彼等に急かされる気持ちもわかるけど、焦らずゆっくり、日向子ちゃんのペースで進んだらいいわ」




もし、それでも待てないって言うんなら、今度こそ私が一撃喰らわすからね!


彼女はそう冗談ぽく笑うのだった。



ーーーーー


〜223【ヒノカミ神の祀り】〜





蜜璃から解放された日向子は、あてがわれた部屋に戻り明日以降の予定をどうしようかと首を捻っていた。
指令もまだなく、日向子の鎹烏も退屈そうにあくびをしていた。



「とりあえず、鋼鐡塚さんを探そうか?明日は聞き込みして付近の土地も探してみよう。このままじゃ炭治郎の日輪刀を打ってもらえないからね」




そう烏に話しかけながら首元を擽ってやると、気持ちよさそうに羽を震わした。
その直後、何かを察知したようにバサッと窓際に飛び移る。




「どうしたの?」


しきりにガラス窓をこつこつ突くので、慌てて窓を開けてやると、外から別の鎹烏が滑り込んできた。


白い烏.....師範の烏だ!



前足をくいっと差し出すので、そこにくくりつけてある文を日向子は丁寧に解いてやる。手紙の内容はこうだった。




日向子


返事が遅れてしまい申し訳ありません。
残念ながら日の呼吸については、既に私が持ち得る知識は全てあなたに話しています。
ただ、巫一族は日の呼吸と密接な関係にあった事は違いありません。
そして実は、霞柱の時透無一郎、彼は日の呼吸の一族唯一の末裔です。ただ、本人は記憶喪失を患っており、それ以上の情報はわかりかねます...




その内容を見て落胆した。


それに...
無一郎君、記憶喪失というのは恐らく【鬼殺隊に入る以前の記憶】だろう。
結局深く聞き出す事は叶わなかったが...
彼にも彼なりの複雑な事情があるようだ。



裏を捲ると手紙には続きが記されていた。




ー陽光山の頂上にある、日孁ひるめ神社の跡地を訪れてみて下さい。
その神社は、巫一族が繁栄していた時代にヒノカミ神がまつられていた場所です。
確証はありませんが、何かわかるかもしれません。幸運を祈ります。




日孁ひるめ神社...あなたが案内してくれるの?」



師範の烏に問いかけると、肯定の意を示すように一鳴きした。






ー翌朝ー



「あぁ、陽光山ならこの里から僅か一里いちり先や。気をつけてな?」


 

鉄珍様に事情を話すと、あっけらかんとそう返され日向子は拍子抜けする。里の場所が割れてはならないと聞いていたし、てっきり里を出ることすらままならないと思っていた。
なのに、彼は陽光山の距離感も包み隠さず話してくれたのだ。



「良いのですか?」



そう聞くと彼は感慨深くこう答える。



「巫一族の君やからこそや。ここだけの話な、ワシら刀鍛冶とは古くからゆかりがある。もう何百年も前からなぁ」



ーーーーー


〜224【祭壇の祠へと】〜





師範の烏に案内されながら登っては下りを繰り返し歩いていると、やがて山道口らしき場所へ差し掛かった。
腰を屈めて指で乾土かんどをいじると、僅かに鉄の匂いが鼻を掠める。



「ここが陽光山..」



日輪刀の材質は、一年中陽光が差すと言われるこの山でしか採取出来ないという。
我々剣士にとっても重要な役割を果たしている山だ。

まさか、ここにヒノカミ神が祀られていた神社が存在していたなんて...




再び歩を進めていくが、カンカンと照りつける日光に思わずだる。
雨が全く降らないため、当然だが草木は一本も生えておらず生き物の気配さえない、辺りは岩だらけの殺風景で異様な山だった。




こんな辺鄙へんぴな場所に、当時の巫一族の人間は神社を建ててヒノカミ様を祀ったらしい。



日向子は市女傘を深く被り直して、山の頂上を再び目指して行った。




「はぁ...着いた」



辿り着いた場所は、岩壁の間の向こうにポツリと佇む廃屋だった。
近寄って見ると、木造の建物自体は劣化が進んでおり、野ざらしの部分も多くボロボロの状態だった。



だが、残されていた造形の面影を見て、日向子はある記憶の情景と重なる。
天に伸びていくような長い階段。その上に佇む祭壇跡らしき場所。




「...私、ここ..知ってる」



勿論見たことはない筈だった。存在すらも知らなかった。けれど...

これが、先祖から受け継がれてきた記憶なのか。




ー日寄さんー



彼女もかつてはこの神社に通ったことがあるのだろうか?




本殿に入るにはこの階段を上がらなければいけないようだ。幸い階段は丈夫な材質で出来ていた為、足を踏み入れることが出来た。


これは憶測だが、恐らく当時の人々は、陽光山の頂上であるこの場所こそ、【最も太陽に近い場所】だったと考えたのかもしれない。




登り切った場所には祭壇跡があり、その奥に岩戸で固く閉ざされたほこららしき物があった。



そこに手を伸ばそうとした時




「誰だっ!!!」



ビクッと身体を跳ねさせて後ろを振り向くと
逆光でよく姿が識別出来ないが、何者かの人影がこちらを見ていた。
咄嗟に日向子は日輪刀の鞘に手をかけた。




「お前...竈門日向子か?」



「え?」



30代半ば程の屈強な男性がゆっくりと近づいて来た。
筋肉隆々の身体にうねった黒髪をたなびかせた端正な顔つき、その男性に見覚えはなかったが声は聞いた事がある。


彼はもしかして...




「鋼鐵塚さん?」



ーーーーー


〜225【先祖の願いたるや】〜





驚いた。いつものお面が無くて最初は誰かわからなかった。彼は一体ここで何を?...



「何故、鋼鐵塚さんがここにいるんですか?皆様探されていますよ。どうか里へお戻りください」



「そりゃこっちのセリフだ。何故お前がここにいる?」



ギロリとした眼差しを向けられて日向子は怯んでしまう。らちがあかない為こう切り返す。



「私は、日の呼吸について何かわかるかもしれないと思いここに来ました。鋼鐵塚さん、少し話をしませんか?」



そう促すと彼はようやく聞き入れてくれた。
お互いの目的を伝え合ったところ、ようやく納得がいった。



彼は、どうも拗ねて姿をくらましたわけではなく、自分の打った刀で炭治郎が傷付いた事に責任を感じ、ここで山籠りの修行をしていたのだと言う。


もう二度と剣士を傷付けたくないという、彼の思いを感じた。
一見不器用でも、この人がとても心優しくて義理難い人なのがわかる。




「お前は、日の呼吸について知りたいが為にここに来たと言ったが、ここにはもう何も残されておらん。ただ..そこの祠はここ何百年の間ずっと閉ざされたままだがな。」




そう言って鋼鐵塚さんは先程日向子が手を触れようとした祠を指差した。




「この神社にヒノカミが祀られていたのは俺も知っている。里の人間も含めて、今まで何人かがこの祠を開け放とうと試みたが結局開かずのままだ。岩戸はびくともしない。その内、時代が経つにつれてここの存在意義を知る者も少なくなっていった。」



「..そうなんですか。鋼鐵塚さんは、この神社についてほかに知っている事はありませんか?何でもいいんです。まだ巫一族が繁栄していた時代の事を」




そう尋ねると彼はしばらく考えこみ、やがてこう語り始めた。




「俺も代々教えられてきた知識しかないが、この神社は巫一族の巫女が年に一度、奉納ほうのうの儀を行なっていたと伝えられている。
元々は、農作物や鋼などを献上し、太陽や自然の恵みに感謝する儀式だった。
ただ、当時【何があって一族が衰退したのか】はどこにも記されていないし、語り継ぐ者は残っていない。それ以上は俺もわからん。」




彼は申し訳なさそうに顔をしかめた。
日の呼吸との関係性もそうだが、日向子が何より知りたい事、それは




日寄さんが、何を私に託そうとしているのかという事だ。

記憶や夢の彼女は、いつも悲しげだった。
彼女は何かを伝えたがっている。



それは、きっと過去に何らかの未練を抱えてきたから...


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