◆第玖章 呼吸の歴史
貴女のお名前を教えてください
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〜218【末恐ろしい子】〜
「ごめんね日向子...気にしないで」
暴れる銀子を無理やり制して、無一郎は彼女に咄嗟にそう伝えた。
普段から口が達者な子だからこそ、あえて離れているように伝えたのに、まさかよりにもよって【あんな事】を暴露されると思わなかった。
これじゃまるで僕が、いつも日向子の事を考えてる腑抜けみたいじゃないか?
いざ思い返してみると間違ってはいないのだけど、だからこそ、もの凄く恥ずかしい。
おまけに祝言だなんて、そもそも日向子と僕は、まだそんな関係ですらないというのに...
ちらりと日向子の様子を盗み見ると、彼女は僅かに頬を染めて固まっていた。
予想外の反応にどきりと胸が高鳴る。
あれ、僕はさっきまで何言おうとしてたんだっけ?
何の話してたんだっけ?
珍しく頭の中がグルグルしてどうにかなりそうだ。
もうそれどころでは無くなってしまったよ。
ー日向子の一挙一動から、目が離せない...ー
「わ、私が時透様となんて恐れ多いです【無い】です!!」
「....」
ぐさりと鋭利な刃物で胸を突き刺された気分だった。全力でそう否定されたものだから、あからさまに落ち込み、気のせいか視界がじんわり霞む。
謙遜してそう言っているのは分かっていても、正直辛いものがある。
銀子はそんな僕の心境を察してくれているのはいいが、ここで彼女の悪い癖が出てしまう。
「チョット何テコト言ウノ!!無一郎ノ好意ヲ無我二スル気?!継国一族ト巫一族ハ昔カラ結バレル運命ナノヨ!コノ子ハ強クテ優シクテ可愛イラシイ、申シ分ナイデショ?ソレトモ別二良イ人ガイル訳?」
あぁ...もう頼むから
「銀子もういいから!!」
頼むからもうこれ以上居た堪れなくさせないで..
フシューと湯気が立ちそうなくらいに顔を真っ赤にして縮こまる彼。
もう何を言っても堂々巡りな気がしたので、今日のところはこれ以上踏み込んで伺う事は難しいかなと思った。
「時透様はいつまでこの里に?」
「...それ嫌だ」
「ぁ...無一郎君?は、いつまでこの里にいるの?」
ちゃんと言い直せば機嫌は戻り、彼はこう告げた。
「もっと強くなる為に、その為の修行になる武器がこの里にあるって聞いて来たんだ。指令が入るまでは、ここにいるつもり。日向子もしばらくこの里に留まるんでしょ?」
ーならもう少し一緒に居られるよね?嬉しいー
無一郎はにこりと微笑んで、最後のあんみつをぱくりと口に運んだ。
あぁ..末恐ろしい子だ。
ーーーーー
〜219【先約】〜
「さて、僕はそろそろ行くよ。日向子のお陰で気分転換出来た、ありがとう。
早く、他の柱と肩を並べられるくらいに強くなりたい。そうすればもっと多くの命が救える、君の事ももう傷付けなくて済む。」
無一郎はすくりと立ち上がると、刀の柄に手を置き強い眼差しで空を仰いだ。
不覚にも、どきりと胸が高鳴った。
「私も、もっともっと強くなって救える命を救いたいです。そして、いつかこの世界を変えるのが私の夢だから。」
俄然 やる気で無一郎に同調すれば、彼はツンっと日向子の頬をつついた。
先程までとは少し雰囲気が異なり、涼しげな目の色をしていた。
「君の夢はとっても素敵だけど、女の子なんだからあまり無茶しないで。大人しく俺に守られてなよ。これ以上、身体に生傷作ったら許さないからね」
「...はい」
わかればよろしいと彼は優しく日向子の頭を一撫でして去っていった。その背を見つめながら、頭に手をやる。
可愛らしいのか逞 しいのか、わからないなぁー...
日輪刀は手元に戻ってきたが、せっかくだから私もその強くなる武器とやらを探してみようか?
後は鋼鐡塚さんの行方を探すのも手伝わないと、何でも炭治郎の日輪刀はまだ彼の元にあるらしく、ここだけの話、このまま行方不明だと刀鍛冶を交代せざるをえないのだと言う。
確かに刀をしょっちゅう折るのは宜しくない事だけど、それでも炭治郎は自分の不甲斐なさが原因だとして何度も鋼鐡塚さんに頭を下げて打ってもらっていた。
それを知っているから、今回の事は非常に胸が痛む。
きっと、きっと話せばわかってもらえる筈だ...
滞在中厄介になる宿舎へ戻ると、給仕の女性にこう案内された。
「日向子様、裏手の山を少し登った先に温泉が湧き出てございますので、宜しければ日が暮れる前にそちらで湯浴みなさってはいかがですか?」
「え!温泉があるんですか?!凄い..是非頂きます」
日向子はわくわくしながら湯浴みの準備をして外へと繰り出した。
温泉なんてものは生まれてこの方初めての体験だ。
炭治郎達も来れたらいいのになぁ...
今頃彼は、なまった体の調子を取り戻そうと機能回復訓練に明け暮れている頃合いだろう。
自分ばかり美味しい思いをして申し訳ないと思いつつしばらく歩いていると、硫黄の独特な香りが漂ってきた。
そろそろかな...
温泉に近付くと、ちゃぷりと水面が揺れる音がした。
「っ!」
誰か先に入ってるようだ
ーーーーー
〜220【予想外の再会】〜
「あら、どなた?」
姿は見せてないものの、どうやら気配で察知されたようだ。びくりと肩を揺らし反応する。
可憐 な声だ、若い女性だろうか?
「すみません!先約が居るとは思わなくて、私また後で来ます」
そそくさとその場を離れようとすると、待ってと止められた。女性同士なら何も問題ないじゃないといい、一緒にどうかと誘われたので、緊張に震えた指で脱衣していく。
「失礼します..」
身体にタオルを巻きつけてそろりと顔を出すと、相手が誰かがわかり日向子は目を見開く。
この方は...
「あ!あなた竈門日向子ちゃんじゃない?奇遇ねぇ、まさかこんな所で会うなんてびっくりしちゃったわ!」
ふふふと微笑んだ彼女は、恋柱の甘露寺蜜璃さんだった。桃色と若草色の目立つ髪色を持つ彼女の姿は見間違おう筈もない。
びっくりしたのはこっちの方だ。まさか..柱と一緒に温泉に入る展開など誰が予想しただろうか。
日向子が固まっていると、蜜璃はぶんぶんと手招く。
「遠慮しないでこっちいらっしゃいよ、実は私あなたとずっとお話してみたかったのー!」
「!...失礼します」
こう言われては断るのも気が引けたので、恐る恐る温泉の湯に足を踏み入れた。
肌に伝わる温度は何とも気持ちがよくて、思わずほぅーっと息が漏れる。
「ここの温泉の効能はとっても身体にいいんですって、吉原の事聞いたわ。大変だったわね..。今はゆっくり体を癒してね」
「ありがとうございます。あの、甘露寺様はなぜここに?」
「あら嫌だわ、様付けなんてよそよそしいからやめてよー。歳も近いんだし仲良くしましょう?私は、先日の鬼狩りで刀が刃こぼれしちゃって、それで打ち終わるまでここにいるの。日向子ちゃんは?」
里長に呼ばれてここに来た経緯を伝えると、彼女は驚いたように手を口元に当てた。
「それって凄いわね!そう..日の呼吸が復活したのかもしれないの。何だか最近、鬼達の動きが活発になってきてる気がするわ。
あなたの星の呼吸も、日の呼吸の復活も鬼殺隊にとってはいい傾向だけど、気が抜けないわね。」
すると彼女はざぶりと湯から立ち上がり、岩に腰掛けた。
一糸纏わぬ姿を堂々と見せつけられて、同性の日向子でも思わず、その豊満なメリハリのある身体つきに釘付けになってしまう。
「あら...。あらあらあら?」
「?」
彼女は興奮したように日向子にずいっと顔を近づける。その目線は日向子の首元に向けられていた。
ーーーーー
〜221【赤い痕の正体】〜
「その首筋の赤い痕 。もしかして、口吸い痕じゃない?」
一瞬きょとりとした後、ぶわりと顔に血が昇り瞬時に首元を手で押さえ付けた。
最初彼女は何を言っているんだと思ったが、よくよく考えたら心当たりがあった。
ー炭治郎に迫られたあの夜ー
彼に唇を寄せられた瞬間、ちくりとした鈍い痛みを感じたのを思い出す。恐らくあの時に....
顔を真っ赤にしてまごついていたら、蜜璃はによによとした笑みを浮かべ見つめてくる。
「もうー日向子ちゃんたらっ【そういう】殿方がいるのね羨ましいわぁ。で、誰なの?同じ鬼殺隊士かしら?それとも一般の方?」
「い、いません!私別にお付き合いしてる方は...」
興奮したような面持ちでそう問いかけて来る蜜璃に対し、どれも違うと全力で否定する。
すると、それならその痕はどういう訳なのかと突っ込んで聞いてきたので、それは..と口篭ってしまった。
正直に言ったら、まずいと思う。
いや、間違いなく色々とまずい。
どう切り返すべきか考えていると、彼女は突然怒り出してしまった。
「まさか...襲われたんじゃないでしょうね!?日向子ちゃん可愛いもの、殿方達が放って置く筈がないけれど。でも同意も無しは駄目よ、乙女の敵だわ!誰なの?私がけちょんけちょんのぎったぎったにしてあげる!」
ガンッ!と音を立てて蜜璃は拳を岩に叩きつけた。
すると信じ難い事に、硬い岩が飴細工のように粉々に崩れたのだ。
思わず目玉が飛び出そうな程の衝撃を受ける。
可憐な彼女に、こんな力があるとは...
「...えっと、付き合ってる人ではないですが、知らない人でもないので大丈夫です。それに私はもう気にしてないので、本当に..」
ここで炭治郎の名前を出したら、彼が彼女の拳の餌食にされてしまうのではと内心ヒヤヒヤしながらそう答える。
腑に落ちない表情だったけど、ようやく彼女は落ち着きを取り戻してくれた。
「そうなの?でも、誰なのかは純粋に気になるわ。何もしないから、教えてくれない?私この手の話とっても大好きなの!」
元の愛らしい笑みを浮かべる蜜璃。
逃げ切れないなと悟り、やがて日向子はか細い声で発した。
「..炭治郎です」
「ぇ...あら、炭治郎君って、そうだったの..」
予想外の名前だったようで、俯き黙り込んでしまった。手を触れようとした途端、突然顔を上げ爛々 とした眼差しを向けてくる。
あぁこれは、変なスイッチを入れてしまったかもしれない
ーーーーー
「ごめんね日向子...気にしないで」
暴れる銀子を無理やり制して、無一郎は彼女に咄嗟にそう伝えた。
普段から口が達者な子だからこそ、あえて離れているように伝えたのに、まさかよりにもよって【あんな事】を暴露されると思わなかった。
これじゃまるで僕が、いつも日向子の事を考えてる腑抜けみたいじゃないか?
いざ思い返してみると間違ってはいないのだけど、だからこそ、もの凄く恥ずかしい。
おまけに祝言だなんて、そもそも日向子と僕は、まだそんな関係ですらないというのに...
ちらりと日向子の様子を盗み見ると、彼女は僅かに頬を染めて固まっていた。
予想外の反応にどきりと胸が高鳴る。
あれ、僕はさっきまで何言おうとしてたんだっけ?
何の話してたんだっけ?
珍しく頭の中がグルグルしてどうにかなりそうだ。
もうそれどころでは無くなってしまったよ。
ー日向子の一挙一動から、目が離せない...ー
「わ、私が時透様となんて恐れ多いです【無い】です!!」
「....」
ぐさりと鋭利な刃物で胸を突き刺された気分だった。全力でそう否定されたものだから、あからさまに落ち込み、気のせいか視界がじんわり霞む。
謙遜してそう言っているのは分かっていても、正直辛いものがある。
銀子はそんな僕の心境を察してくれているのはいいが、ここで彼女の悪い癖が出てしまう。
「チョット何テコト言ウノ!!無一郎ノ好意ヲ無我二スル気?!継国一族ト巫一族ハ昔カラ結バレル運命ナノヨ!コノ子ハ強クテ優シクテ可愛イラシイ、申シ分ナイデショ?ソレトモ別二良イ人ガイル訳?」
あぁ...もう頼むから
「銀子もういいから!!」
頼むからもうこれ以上居た堪れなくさせないで..
フシューと湯気が立ちそうなくらいに顔を真っ赤にして縮こまる彼。
もう何を言っても堂々巡りな気がしたので、今日のところはこれ以上踏み込んで伺う事は難しいかなと思った。
「時透様はいつまでこの里に?」
「...それ嫌だ」
「ぁ...無一郎君?は、いつまでこの里にいるの?」
ちゃんと言い直せば機嫌は戻り、彼はこう告げた。
「もっと強くなる為に、その為の修行になる武器がこの里にあるって聞いて来たんだ。指令が入るまでは、ここにいるつもり。日向子もしばらくこの里に留まるんでしょ?」
ーならもう少し一緒に居られるよね?嬉しいー
無一郎はにこりと微笑んで、最後のあんみつをぱくりと口に運んだ。
あぁ..末恐ろしい子だ。
ーーーーー
〜219【先約】〜
「さて、僕はそろそろ行くよ。日向子のお陰で気分転換出来た、ありがとう。
早く、他の柱と肩を並べられるくらいに強くなりたい。そうすればもっと多くの命が救える、君の事ももう傷付けなくて済む。」
無一郎はすくりと立ち上がると、刀の柄に手を置き強い眼差しで空を仰いだ。
不覚にも、どきりと胸が高鳴った。
「私も、もっともっと強くなって救える命を救いたいです。そして、いつかこの世界を変えるのが私の夢だから。」
先程までとは少し雰囲気が異なり、涼しげな目の色をしていた。
「君の夢はとっても素敵だけど、女の子なんだからあまり無茶しないで。大人しく俺に守られてなよ。これ以上、身体に生傷作ったら許さないからね」
「...はい」
わかればよろしいと彼は優しく日向子の頭を一撫でして去っていった。その背を見つめながら、頭に手をやる。
可愛らしいのか
日輪刀は手元に戻ってきたが、せっかくだから私もその強くなる武器とやらを探してみようか?
後は鋼鐡塚さんの行方を探すのも手伝わないと、何でも炭治郎の日輪刀はまだ彼の元にあるらしく、ここだけの話、このまま行方不明だと刀鍛冶を交代せざるをえないのだと言う。
確かに刀をしょっちゅう折るのは宜しくない事だけど、それでも炭治郎は自分の不甲斐なさが原因だとして何度も鋼鐡塚さんに頭を下げて打ってもらっていた。
それを知っているから、今回の事は非常に胸が痛む。
きっと、きっと話せばわかってもらえる筈だ...
滞在中厄介になる宿舎へ戻ると、給仕の女性にこう案内された。
「日向子様、裏手の山を少し登った先に温泉が湧き出てございますので、宜しければ日が暮れる前にそちらで湯浴みなさってはいかがですか?」
「え!温泉があるんですか?!凄い..是非頂きます」
日向子はわくわくしながら湯浴みの準備をして外へと繰り出した。
温泉なんてものは生まれてこの方初めての体験だ。
炭治郎達も来れたらいいのになぁ...
今頃彼は、なまった体の調子を取り戻そうと機能回復訓練に明け暮れている頃合いだろう。
自分ばかり美味しい思いをして申し訳ないと思いつつしばらく歩いていると、硫黄の独特な香りが漂ってきた。
そろそろかな...
温泉に近付くと、ちゃぷりと水面が揺れる音がした。
「っ!」
誰か先に入ってるようだ
ーーーーー
〜220【予想外の再会】〜
「あら、どなた?」
姿は見せてないものの、どうやら気配で察知されたようだ。びくりと肩を揺らし反応する。
「すみません!先約が居るとは思わなくて、私また後で来ます」
そそくさとその場を離れようとすると、待ってと止められた。女性同士なら何も問題ないじゃないといい、一緒にどうかと誘われたので、緊張に震えた指で脱衣していく。
「失礼します..」
身体にタオルを巻きつけてそろりと顔を出すと、相手が誰かがわかり日向子は目を見開く。
この方は...
「あ!あなた竈門日向子ちゃんじゃない?奇遇ねぇ、まさかこんな所で会うなんてびっくりしちゃったわ!」
ふふふと微笑んだ彼女は、恋柱の甘露寺蜜璃さんだった。桃色と若草色の目立つ髪色を持つ彼女の姿は見間違おう筈もない。
びっくりしたのはこっちの方だ。まさか..柱と一緒に温泉に入る展開など誰が予想しただろうか。
日向子が固まっていると、蜜璃はぶんぶんと手招く。
「遠慮しないでこっちいらっしゃいよ、実は私あなたとずっとお話してみたかったのー!」
「!...失礼します」
こう言われては断るのも気が引けたので、恐る恐る温泉の湯に足を踏み入れた。
肌に伝わる温度は何とも気持ちがよくて、思わずほぅーっと息が漏れる。
「ここの温泉の効能はとっても身体にいいんですって、吉原の事聞いたわ。大変だったわね..。今はゆっくり体を癒してね」
「ありがとうございます。あの、甘露寺様はなぜここに?」
「あら嫌だわ、様付けなんてよそよそしいからやめてよー。歳も近いんだし仲良くしましょう?私は、先日の鬼狩りで刀が刃こぼれしちゃって、それで打ち終わるまでここにいるの。日向子ちゃんは?」
里長に呼ばれてここに来た経緯を伝えると、彼女は驚いたように手を口元に当てた。
「それって凄いわね!そう..日の呼吸が復活したのかもしれないの。何だか最近、鬼達の動きが活発になってきてる気がするわ。
あなたの星の呼吸も、日の呼吸の復活も鬼殺隊にとってはいい傾向だけど、気が抜けないわね。」
すると彼女はざぶりと湯から立ち上がり、岩に腰掛けた。
一糸纏わぬ姿を堂々と見せつけられて、同性の日向子でも思わず、その豊満なメリハリのある身体つきに釘付けになってしまう。
「あら...。あらあらあら?」
「?」
彼女は興奮したように日向子にずいっと顔を近づける。その目線は日向子の首元に向けられていた。
ーーーーー
〜221【赤い痕の正体】〜
「その首筋の赤い
一瞬きょとりとした後、ぶわりと顔に血が昇り瞬時に首元を手で押さえ付けた。
最初彼女は何を言っているんだと思ったが、よくよく考えたら心当たりがあった。
ー炭治郎に迫られたあの夜ー
彼に唇を寄せられた瞬間、ちくりとした鈍い痛みを感じたのを思い出す。恐らくあの時に....
顔を真っ赤にしてまごついていたら、蜜璃はによによとした笑みを浮かべ見つめてくる。
「もうー日向子ちゃんたらっ【そういう】殿方がいるのね羨ましいわぁ。で、誰なの?同じ鬼殺隊士かしら?それとも一般の方?」
「い、いません!私別にお付き合いしてる方は...」
興奮したような面持ちでそう問いかけて来る蜜璃に対し、どれも違うと全力で否定する。
すると、それならその痕はどういう訳なのかと突っ込んで聞いてきたので、それは..と口篭ってしまった。
正直に言ったら、まずいと思う。
いや、間違いなく色々とまずい。
どう切り返すべきか考えていると、彼女は突然怒り出してしまった。
「まさか...襲われたんじゃないでしょうね!?日向子ちゃん可愛いもの、殿方達が放って置く筈がないけれど。でも同意も無しは駄目よ、乙女の敵だわ!誰なの?私がけちょんけちょんのぎったぎったにしてあげる!」
ガンッ!と音を立てて蜜璃は拳を岩に叩きつけた。
すると信じ難い事に、硬い岩が飴細工のように粉々に崩れたのだ。
思わず目玉が飛び出そうな程の衝撃を受ける。
可憐な彼女に、こんな力があるとは...
「...えっと、付き合ってる人ではないですが、知らない人でもないので大丈夫です。それに私はもう気にしてないので、本当に..」
ここで炭治郎の名前を出したら、彼が彼女の拳の餌食にされてしまうのではと内心ヒヤヒヤしながらそう答える。
腑に落ちない表情だったけど、ようやく彼女は落ち着きを取り戻してくれた。
「そうなの?でも、誰なのかは純粋に気になるわ。何もしないから、教えてくれない?私この手の話とっても大好きなの!」
元の愛らしい笑みを浮かべる蜜璃。
逃げ切れないなと悟り、やがて日向子はか細い声で発した。
「..炭治郎です」
「ぇ...あら、炭治郎君って、そうだったの..」
予想外の名前だったようで、俯き黙り込んでしまった。手を触れようとした途端、突然顔を上げ
あぁこれは、変なスイッチを入れてしまったかもしれない
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