◆第玖章 呼吸の歴史
貴女のお名前を教えてください
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〜214【公私の揺らぎ】〜
「時透様は恐らく離れの森で鍛錬しておられます。顔見知りであれば大丈夫かと思いますが...」
ー鍛錬中の彼は少々気が立ちがちですので、お気をつけてー
「....」
なんて忠告されたものだから、日向子は内心ドキドキしながら森へと赴 いた。けど、よくよく考えれば鍛錬中なら声かけない方がいいのでは...
初絡みの時の彼を思い出す。
自分で言うのもなんだが、今だからこそ好意を持たれてはいるけれど、当時は瞳に全く光がない、射すような威圧感を向けられていたのを覚えている。
あれは怖かったな..。
鍛錬中の彼を見た事がないので、何とも想像し難いが、あんな感じなのだろうか
ドゴォォォォォンッ!!!
「っひ....!」
突如、切るような風圧と轟音が目の前を通った。煙が立ち込める方を見ると、破壊された大木が無残な状態でなぎ倒されていた。
ーなんて破壊力だろうかー
日向子は冷や汗を垂らす。
これを一見か細そうに見える彼がやったなんて、誰が聞いて信じるだろうか
駄目だな...こうじゃない、もっと..と1人ぶつぶつ呟きながら刀を構え直す無一郎は、確かに真剣な面持ちでピリピリとした空気感が漂っていた。
「...あのー..」
恐る恐る彼に話しかけると、日向子の声を拾った無一郎がくるりと振り向く。
「日向子?」
無一郎は一瞬きょとんとした表情で日向子の名前を呼んだが、彼女がひらひらと手を振ると、一目散に駆け寄ってきた。
彼はずいっと迫り、まさかこんな所で会えるなんて、体は大丈夫なの?吉原の事聞いたよ、と泣きそうな顔で縋 ってくる。
そんな姿が、何だか炭治郎と重なって見えてしまった。
「私も時透様がこの里にいらっしゃると聞いて驚きました。体はもう回復してますから大丈夫ですよ。」
だからご心配無くと、にこりと笑って言えば、彼は心底ほっとしたようにゆっくり息を吐いた。
「やっぱり上弦だったんだ..」
「時透様?..」
無一郎は悔しげに唇を噛み締めた。彼等の事後を聞いたのはおよそ2ヶ月前。
宇随さんは片腕と片目を失くした為柱を退任。
日向子達も意識不明の重体で治療中と聞いて以来、自分があの時、任務を放棄してでも彼等についていたら、結果が少しでも変わってたのかと考えない日はなかった。
だから...
もっと強くならないと、守りたい人達を守れないのでは、意味がないんだ
無一郎は、目の前で大きな瞳を悲しげに揺らす愛しい人を見つめた
ーーーーー
〜215【忘れモノ】〜
「僕は...いつも君が傷付く前に駆け付けられない。常に側に居られればいいけど、そうじゃないから。
だから、鬼を根絶やしに出来るくらい、強くならないと」
彼は俯きながらぎゅっと日向子の肩を掴む。
日向子は無一郎の様子がおかしい事に気付いていた。
彼は、焦っているのだ。そして後悔して、責任を感じている。
彼がそんなものを背負う必要など、どこにもないと言うのに..
「時透様、少し休憩しましょう。何か甘い物でも食べに行きましょうか?」
日向子が突拍子もない提案をすると、彼は俯かせていた顔をようやく上げた。
彼の手を引くと素直に歩みを進めてくれたので安心する。
しばらくして街中へ出ると、通りすがりの男性に甘味処の場所を聞いてやってきた。
先程とは打って変わり物静かな無一郎に、注文したあんみつをどうぞと手渡す。
無一郎は日向子から器を受け取ると、じっとそれを見つめた。
「美味しいですね!ここの銀食器は職人さんが手作りしてるんですって、さすがは刀鍛冶の里って感じですね」
彼女は、あんみつをぱくりと口に運んで微笑みながらそう言う。
さっきまで鍛錬に明け暮れていた自分が、こんな所で甘味を前にしているのが信じられなかった。
彼女につられてあんみつを口に運ぶと、甘い黒蜜の風味が口内にじんわりと広がっていった。
それと同時に、不思議と心がすーっと軽くなっていくのを感じる。
日向子の幸せそうな笑顔を見ていると、心が暖かくなって胸が締め付けられた。
「うん..美味しいね」
無一郎がそう呟くと、日向子は嬉しそうに良かったとはにかむ。
「少し、お話をしても宜しいですか?」
「うん」
彼女は無一郎に確認を取ると、こう語り始めた。
「時透様は、たくさんの物を背負って、守らなきゃいけない柱という立場だから、大変だと思います。でも、まだ貴方は14歳の少年なんですから、そんなに一気に頑張らなくても、いいんじゃないでしょうか?でないと、壊れてしまいそうで心配です」
「....」
「あまり自分を追い込み過ぎないでくださいね。私...時透様のもっと年相応な所が見たいです。笑ったり泣いたり、怒ったっていいんですよ」
無一郎は、日向子の言葉を聞いて目頭が熱くなった。
忘れていた大事な【何か】を、思い出したような感覚がしたのだ。
でも、長年それを忘れていたからすぐに順応は出来なくて..
「わからないんだ。どうしたら僕は、そういう人間になれるだろう。ねぇ日向子」
教えて?
ーーーーー
〜216【取り戻したいから】〜
「...ねぇ時透様、差し支えなければあなたの生い立ちをお伺いしてもいいですか?家族は?何故あなたは、鬼殺隊に入ったんでしょうか」
日向子は真剣な面持ちで彼にそう尋ねた。
彼が時折見せる虚 な眼差し、その違和感の原因が何なのかを日向子はどうしても突き止めたかった。
鉄珍様の、彼の事を【少々記憶に難ありだが】そう表現していたのも気になる。
継国一族の末裔である事が関係しているのか?
それともまた別の原因があるのだろうか...
私が踏み込む事ではないのかもしれない。でも、彼と初めて会話をした日の事をふと思い出す。
時透無一郎は非常に
【理知的 】な人間だった。
よく言えば、冷静かつ論理的な思考が出来るので、物事を客観視して、常に最善の選択をする事は得意なのかもしれない。
ただ、その分人間的な感情や本能とはかけ離れていた。
日向子は思う。
普通に親や周りに愛され、一般的な幸せに囲まれて育った子は、こんな瞳を向けはしない。
過去に必ず何かあったに違いない。
それらが彼を苦しめた結果、今を形作ってしまったのなら...
どうにかその靄 をかき消してあげたい。
そして元の、時透無一郎という1人の人間を取り戻してあげたい。
お節介かもしれないけれど、そう思うのだ。
彼は、家族...僕は..と呟き目を閉じる。
必死に記憶を辿っているように見えたが、ふるふると首を横に振って眉を下げてしまった。
「ごめん、思い出せないんだ。
刀を握る以前の記憶は、全く思い出せない。
最初は、そんな筈ないって毎日必死に記憶を手繰り寄せようとしたけどね、その度に頭痛がしてしまうから、思い出すのを辞めたんだ。
あんまり..いい記憶じゃない気がするし、僕にとっては昔の事はどうでもいいんだよ。」
「...いいえ、それは違います」
「え?」
予想だにしない返しが来たことにきょとんとした表情で日向子を見る無一郎に対し、彼女はこう口を開いた。
「例えどうでもいい過去でも、苦しい過去だとしても、それを時透様の中で消化できなければ、この先に進む事は出来ないと思います。
だから..一緒に頑張りましょう?あなたは笑顔の方がお似合いです」
ありのままの心境を伝えれば、彼は元々大きな目を見開き、しばらく惚けたように日向子を見つめていた。
そんな様子に気づき、しまったと口を噤む。
私は、柱に向かってなんて無礼を..
「日向子...ありがとう。僕、君と出逢えて良かった」
ーーーーー
〜217【仲人?】〜
「ねぇ」
「っ...」
座る距離を縮めるようにすり寄ってきた無一郎に思わずどきりと肩が跳ねる。
わざとなのか素なのかわからないが、日向子の顔を覗き込むようにしてくる。
距離、近っ...
いくら歳下の男の子であるとは言え、彼は前科があるので内心穏やかではいられない。
純粋な親しみなのか、或いは下心なのか..彼の場合はいまいちよくわからないのだ。
「今度から敬語じゃなくていいよ。名前も呼び捨てでいい。僕の方が歳下だし。それに..日向子に敬語使われると、何だかよそよそしくて寂しいから。」
「..でも、柱に向かってさすがに普通の話し言葉というのも」
遠慮する仕草を見せると、彼はあからさまにしゅんとして、途端に瞳が暗い色を帯びる。
「...炭治郎は呼び捨てで話す癖に、ずるい」
どうやら自分と炭治郎への態度を比較しているようだ。その差に納得がいってないらしい。
散々考えた末に、彼のお願いを了承するとぱぁっと蔓延の笑みを浮かべた。
コロコロと感情が揺れ動く様は、人間味溢れる一面が垣間見れたようで嬉しいのだが...
時折見せる、不意に光を失くした瞳だけはどうにも慣れない。こういう目をする時は、大体炭治郎が絡む。日向子は途方に暮れた。
ー彼と炭治郎の鉢 合わせだけは、もう避けたいー...
「そう言えば、僕が何故鬼殺隊に入ったかって言ってたね?それなら答えられるよ。昔アマネ様に言われたんだ。僕は、継国一族っていう
「コノ子は日ノ呼吸の末裔ナノヨ!!凄イ子何ダカラ!!!」
「っ!」
バサバサと羽を煽 って鼻高々にそう言う烏。こら銀子、あの子と遊んでろって言ったじゃないかと無一郎が注意しているのを見ると、この鎹烏は彼のお供なんだなと言う事がわかる。
「ダッテアノ女、澄マシテテ私苦手ダワ!」
あの女と言うのは、多分私の鴉だな...。そう言えばしばらく側に居なかったと思えばそう言う事か。
銀子はくるんと日向子に向き直る。
「日向子ッテ貴女ネ!コノ子ガ何時モ貴女ノコト話スノヨ!星ノ呼吸ノ末裔何デスッテ?無一郎トオ似合イジャナイノ!貴女ナラ私認メテアゲテモイイワ!祝言は何時二シマ
「っおい銀子!!!」
顔を真っ赤にさせた無一郎は烏の口をばっと押さえる。
そのやり取りを見ていて、日向子も僅かに頬を染めだんまりになってしまった。
なんだろ、例えるならお節介の叔母様にあれよといううちに縁談を組まされるような、そんな甘酸っぱい気分。
ーーーーー
「時透様は恐らく離れの森で鍛錬しておられます。顔見知りであれば大丈夫かと思いますが...」
ー鍛錬中の彼は少々気が立ちがちですので、お気をつけてー
「....」
なんて忠告されたものだから、日向子は内心ドキドキしながら森へと
初絡みの時の彼を思い出す。
自分で言うのもなんだが、今だからこそ好意を持たれてはいるけれど、当時は瞳に全く光がない、射すような威圧感を向けられていたのを覚えている。
あれは怖かったな..。
鍛錬中の彼を見た事がないので、何とも想像し難いが、あんな感じなのだろうか
ドゴォォォォォンッ!!!
「っひ....!」
突如、切るような風圧と轟音が目の前を通った。煙が立ち込める方を見ると、破壊された大木が無残な状態でなぎ倒されていた。
ーなんて破壊力だろうかー
日向子は冷や汗を垂らす。
これを一見か細そうに見える彼がやったなんて、誰が聞いて信じるだろうか
駄目だな...こうじゃない、もっと..と1人ぶつぶつ呟きながら刀を構え直す無一郎は、確かに真剣な面持ちでピリピリとした空気感が漂っていた。
「...あのー..」
恐る恐る彼に話しかけると、日向子の声を拾った無一郎がくるりと振り向く。
「日向子?」
無一郎は一瞬きょとんとした表情で日向子の名前を呼んだが、彼女がひらひらと手を振ると、一目散に駆け寄ってきた。
彼はずいっと迫り、まさかこんな所で会えるなんて、体は大丈夫なの?吉原の事聞いたよ、と泣きそうな顔で
そんな姿が、何だか炭治郎と重なって見えてしまった。
「私も時透様がこの里にいらっしゃると聞いて驚きました。体はもう回復してますから大丈夫ですよ。」
だからご心配無くと、にこりと笑って言えば、彼は心底ほっとしたようにゆっくり息を吐いた。
「やっぱり上弦だったんだ..」
「時透様?..」
無一郎は悔しげに唇を噛み締めた。彼等の事後を聞いたのはおよそ2ヶ月前。
宇随さんは片腕と片目を失くした為柱を退任。
日向子達も意識不明の重体で治療中と聞いて以来、自分があの時、任務を放棄してでも彼等についていたら、結果が少しでも変わってたのかと考えない日はなかった。
だから...
もっと強くならないと、守りたい人達を守れないのでは、意味がないんだ
無一郎は、目の前で大きな瞳を悲しげに揺らす愛しい人を見つめた
ーーーーー
〜215【忘れモノ】〜
「僕は...いつも君が傷付く前に駆け付けられない。常に側に居られればいいけど、そうじゃないから。
だから、鬼を根絶やしに出来るくらい、強くならないと」
彼は俯きながらぎゅっと日向子の肩を掴む。
日向子は無一郎の様子がおかしい事に気付いていた。
彼は、焦っているのだ。そして後悔して、責任を感じている。
彼がそんなものを背負う必要など、どこにもないと言うのに..
「時透様、少し休憩しましょう。何か甘い物でも食べに行きましょうか?」
日向子が突拍子もない提案をすると、彼は俯かせていた顔をようやく上げた。
彼の手を引くと素直に歩みを進めてくれたので安心する。
しばらくして街中へ出ると、通りすがりの男性に甘味処の場所を聞いてやってきた。
先程とは打って変わり物静かな無一郎に、注文したあんみつをどうぞと手渡す。
無一郎は日向子から器を受け取ると、じっとそれを見つめた。
「美味しいですね!ここの銀食器は職人さんが手作りしてるんですって、さすがは刀鍛冶の里って感じですね」
彼女は、あんみつをぱくりと口に運んで微笑みながらそう言う。
さっきまで鍛錬に明け暮れていた自分が、こんな所で甘味を前にしているのが信じられなかった。
彼女につられてあんみつを口に運ぶと、甘い黒蜜の風味が口内にじんわりと広がっていった。
それと同時に、不思議と心がすーっと軽くなっていくのを感じる。
日向子の幸せそうな笑顔を見ていると、心が暖かくなって胸が締め付けられた。
「うん..美味しいね」
無一郎がそう呟くと、日向子は嬉しそうに良かったとはにかむ。
「少し、お話をしても宜しいですか?」
「うん」
彼女は無一郎に確認を取ると、こう語り始めた。
「時透様は、たくさんの物を背負って、守らなきゃいけない柱という立場だから、大変だと思います。でも、まだ貴方は14歳の少年なんですから、そんなに一気に頑張らなくても、いいんじゃないでしょうか?でないと、壊れてしまいそうで心配です」
「....」
「あまり自分を追い込み過ぎないでくださいね。私...時透様のもっと年相応な所が見たいです。笑ったり泣いたり、怒ったっていいんですよ」
無一郎は、日向子の言葉を聞いて目頭が熱くなった。
忘れていた大事な【何か】を、思い出したような感覚がしたのだ。
でも、長年それを忘れていたからすぐに順応は出来なくて..
「わからないんだ。どうしたら僕は、そういう人間になれるだろう。ねぇ日向子」
教えて?
ーーーーー
〜216【取り戻したいから】〜
「...ねぇ時透様、差し支えなければあなたの生い立ちをお伺いしてもいいですか?家族は?何故あなたは、鬼殺隊に入ったんでしょうか」
日向子は真剣な面持ちで彼にそう尋ねた。
彼が時折見せる
鉄珍様の、彼の事を【少々記憶に難ありだが】そう表現していたのも気になる。
継国一族の末裔である事が関係しているのか?
それともまた別の原因があるのだろうか...
私が踏み込む事ではないのかもしれない。でも、彼と初めて会話をした日の事をふと思い出す。
時透無一郎は非常に
【
よく言えば、冷静かつ論理的な思考が出来るので、物事を客観視して、常に最善の選択をする事は得意なのかもしれない。
ただ、その分人間的な感情や本能とはかけ離れていた。
日向子は思う。
普通に親や周りに愛され、一般的な幸せに囲まれて育った子は、こんな瞳を向けはしない。
過去に必ず何かあったに違いない。
それらが彼を苦しめた結果、今を形作ってしまったのなら...
どうにかその
そして元の、時透無一郎という1人の人間を取り戻してあげたい。
お節介かもしれないけれど、そう思うのだ。
彼は、家族...僕は..と呟き目を閉じる。
必死に記憶を辿っているように見えたが、ふるふると首を横に振って眉を下げてしまった。
「ごめん、思い出せないんだ。
刀を握る以前の記憶は、全く思い出せない。
最初は、そんな筈ないって毎日必死に記憶を手繰り寄せようとしたけどね、その度に頭痛がしてしまうから、思い出すのを辞めたんだ。
あんまり..いい記憶じゃない気がするし、僕にとっては昔の事はどうでもいいんだよ。」
「...いいえ、それは違います」
「え?」
予想だにしない返しが来たことにきょとんとした表情で日向子を見る無一郎に対し、彼女はこう口を開いた。
「例えどうでもいい過去でも、苦しい過去だとしても、それを時透様の中で消化できなければ、この先に進む事は出来ないと思います。
だから..一緒に頑張りましょう?あなたは笑顔の方がお似合いです」
ありのままの心境を伝えれば、彼は元々大きな目を見開き、しばらく惚けたように日向子を見つめていた。
そんな様子に気づき、しまったと口を噤む。
私は、柱に向かってなんて無礼を..
「日向子...ありがとう。僕、君と出逢えて良かった」
ーーーーー
〜217【仲人?】〜
「ねぇ」
「っ...」
座る距離を縮めるようにすり寄ってきた無一郎に思わずどきりと肩が跳ねる。
わざとなのか素なのかわからないが、日向子の顔を覗き込むようにしてくる。
距離、近っ...
いくら歳下の男の子であるとは言え、彼は前科があるので内心穏やかではいられない。
純粋な親しみなのか、或いは下心なのか..彼の場合はいまいちよくわからないのだ。
「今度から敬語じゃなくていいよ。名前も呼び捨てでいい。僕の方が歳下だし。それに..日向子に敬語使われると、何だかよそよそしくて寂しいから。」
「..でも、柱に向かってさすがに普通の話し言葉というのも」
遠慮する仕草を見せると、彼はあからさまにしゅんとして、途端に瞳が暗い色を帯びる。
「...炭治郎は呼び捨てで話す癖に、ずるい」
どうやら自分と炭治郎への態度を比較しているようだ。その差に納得がいってないらしい。
散々考えた末に、彼のお願いを了承するとぱぁっと蔓延の笑みを浮かべた。
コロコロと感情が揺れ動く様は、人間味溢れる一面が垣間見れたようで嬉しいのだが...
時折見せる、不意に光を失くした瞳だけはどうにも慣れない。こういう目をする時は、大体炭治郎が絡む。日向子は途方に暮れた。
ー彼と炭治郎の
「そう言えば、僕が何故鬼殺隊に入ったかって言ってたね?それなら答えられるよ。昔アマネ様に言われたんだ。僕は、継国一族っていう
「コノ子は日ノ呼吸の末裔ナノヨ!!凄イ子何ダカラ!!!」
「っ!」
バサバサと羽を
「ダッテアノ女、澄マシテテ私苦手ダワ!」
あの女と言うのは、多分私の鴉だな...。そう言えばしばらく側に居なかったと思えばそう言う事か。
銀子はくるんと日向子に向き直る。
「日向子ッテ貴女ネ!コノ子ガ何時モ貴女ノコト話スノヨ!星ノ呼吸ノ末裔何デスッテ?無一郎トオ似合イジャナイノ!貴女ナラ私認メテアゲテモイイワ!祝言は何時二シマ
「っおい銀子!!!」
顔を真っ赤にさせた無一郎は烏の口をばっと押さえる。
そのやり取りを見ていて、日向子も僅かに頬を染めだんまりになってしまった。
なんだろ、例えるならお節介の叔母様にあれよといううちに縁談を組まされるような、そんな甘酸っぱい気分。
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