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◆第玖章 呼吸の歴史

貴女のお名前を教えてください

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〜210【里長からの手紙】〜





「か...からかわないの!」


日向子姉さんは赤面しながら、はだけた寝着を寄せるとずんずんと去っていった。
匂いからして、怒らせた訳ではない事は分かっているので、炭治郎は満足だった。
ああいう反応をすると言うことは、ちゃんと意識してくれてるんだ。



「可愛いなぁ...」


無意識にそう言葉が漏れてしまう。
まだまだ、俺の知らない表情も感情も、たくさんあるんだろうなぁ






ーあぁ!もうなんなのあの子は!ー


どうやら昨夜の出来事は日向子の思い違いではないようだ。であれば確かに、彼の気持ちに向き合うと言ったし、受け入れる努力をすると言った。

言ったけど!


あんなに変わるものなのか
別に私は鼻も効かないし、耳もいい訳ではないけど、彼を纏う空気が今までのものとは全く違う事くらいは私でもわかる。



彼は、【あわよくば】を
虎視眈々こしたんたんと狙っているんだと思う。
こんな状況が、これから先ずっと続くのだろうか。




日向子は廊下のど真ん中で盛大な溜息をついた。



日向子さん溜息なんてついてどうされたんです?」


「っ!」



びくりと肩を震わせて後ろを振り向くと、きよちゃん達が洗濯物を大量に抱えながら心配そうに首を傾げていた。



「いえ..大丈夫。重そうね?いくらか持ちましょうか?」



最初は遠慮がちにしていたが、なかなか折れない日向子にようやく観念して、籠を分けてくれた。



「炭治郎さん目覚めて良かったですねぇ日向子さん」


っ!


「そうだね!本当に良かった!」



明らかに狼狽ている様子の日向子を見て、不思議そうに互いに顔を見合わせていたきよちゃん達だったが、すみちゃんが思い出したようにそう言えばと日向子の袖をついつい引いた。



日向子さん宛にお手紙が届いていましたよ。刀鍛冶の里をご存知ですか?」


「刀鍛冶の里?」



彼女達は、刀鍛冶達が集う里であり、日々日輪刀の作成や修復をしたり、見習い達が修行を行なっている場所であると説明してくれた。



「驚く事にですね、その里長である鉄地河原鉄珍様から、直々のお手紙なんですよ。まだ封は開けてませんので、後でお読みになってくださいね」



洗濯物を部屋に置くと、奥からすみちゃんがとことこやってきて例の手紙を持ってきてくれた。
皆で額を寄せ合って慎重にその文を開封する。
そこに書かれていた内容を要約すると、こうだった。



「刀鍛冶の里へ参り候へ。日輪刀について、我、鉄地河原鉄珍より直々に申し伝えたし..」



ーーーーー


〜211【刀鍛冶の里へ】〜




里長から直々の呼び出し等前代未聞だとすみちゃん達は沸き立った。何でも、例え剣士でも本来は里へ訪れることさえままならない特別な場所だと言う。



ー日輪刀について...ー


胡蝶様が、日向子の日輪刀が銀白色から色が戻らない現象について刀鍛冶が精査中であると言っていた。
その結果が出たという事なのだろうか?
とにかく、その刀鍛冶の里とやらに行ってみない事には先に進むことは出来なそうだ。



「明日、案内人の隠を向かわせるとありますね。日向子さん、行かれますか?」


「はい..多分大事な事なので、行きます」



日向子はその夜、炭治郎には行き先と理由を告げた。
驚いていたけれど、踏み込める余地はないと察したようで、渋々彼は頷く。




「気を付けて日向子姉さん。道中隠の人がいるとは言え、武器もないのは心配だ。」



「大丈夫だよ、日中に着く場所みたいだから。それより、炭治郎は早く体の調子を取り戻してね。」



そう身を案じると、彼は嬉しそうに笑ってありがとうと言った。
今夜は禰豆子も起きていたので、彼女の頭をよしよしと撫でる。
多分だけど、禰豆子や他の人が側にいる時は炭治郎は妙な気を出してこない。



それは少し有り難いかもしれない...







ー翌日ー


案内役の隠の女性が定刻通りに蝶屋敷にやってきた。
さて方向はどちらだろうと伺うと、おもむろに彼女は日向子に目隠しの布を巻き始めた。
すみちゃん達が、場所は秘密裏にされていると言っていたのを思い出す。徹底されているな...



途中何人かに案内役を交代してもらいながら、ようやく目隠しを取って貰い目に入った光景は、工房らしい厳粛げんしゅくな空気の漂う山の集落だった。
ほぅーと呆けていると、里長の屋敷の場所を案内された。



「では私はここで失礼致しますね」


「はい!ありがとうございました」



ぺこりと頭を下げて彼を見送り、いざ一際大きな館の敷地内へと足を踏み入れる。



「ごめんくださいー!」



声を張り上げると中からお決まりのひょっとこ面を被った和服姿の男性が現れた。



「よくぞおいでくださいました。さぁどうぞ中へ日向子様。鉄珍様がお待ちでございます」



恭しく彼は頭を下げるので、日向子はそんなにかしこまらないで欲しいと慌てる。何より様付けされる程私は偉くもなんともないのだと主張すると、彼はこう話した。



「いいえ。巫一族の末裔、星詠みの巫女様である貴女に失礼があってはいけませんので。どうかお許しくださいませ」



ーーーーー


〜212【日輪刀の伝承記】〜




「....っ」


ここまで敬愛の意を示されたのは、師範くらいだったので、日向子は気恥ずかしい気持ちになった。
巫一族はこの里と懇意にしていた歴史でもあるのだろうか?...



やがて広間へと案内された日向子は、この里の長らしき人物と対面した。


真ん中にちょこんと座っている老人。一見可愛らしく見えるこの人がきっと鉄珍様。
両脇に控えているのは恐らく小姓こしょうのような存在の人達だろう。
故に、身分の高さが伺い知れる。



「はじめまして、私竈門日向子と申します。直々に頂きました文を拝見しお伺い致しました。宜しくお願いします」



その場で礼儀正しく端座たんざし、頭を下げる日向子。その様子を見た鉄珍様は、ほっほと上機嫌に笑った。



「ええ子やのう。こんにちは、ワシはこの里の長、鉄地河原鉄珍。さぁさぁこちらにおいで、かりんとうは好きかの?」



あれよといううちにかりんとうとお茶を差し出されたので、摘まみつつお話を伺う事になった。
鉄珍様は両脇の小姓に退座するように指示すると、本題に移る。
気のせいでなければ、彼から先程までのひょうきんさは無くなっていた。



「君をここへ呼んだのは他でもない。君の日輪刀については既に話は聞いておる。刃こぼれはちゃんと修復済みや。ほれ」



そう言って鉄珍様は後ろ手から刀を取り出す。
鞘から抜いてみると、確かに綺麗に刃が整っていた。



「凄い..ありがとうございます!」


「君の刀鍛冶は蛍やったなぁ。すまんが今、彼は行方知れずでの。これも蛍が修復したが刀だけ置いていきよってからに。当の本人は姿をくらましたまま戻らんのや。今も里総出で探しとるから、後で礼は彼に言ったってや。」




鉄珍様が言う蛍と言う人物。恐らく鋼鐡塚さんの事だろう。行方知れずと言うのが気になったが、昔から癇癪かんしゃくを起こすとよくある事なのだと言う。




「君の日輪刀やけどな、銀白色から紺桔梗色に色が戻らん理由について...心当たりがある」
 


そう言うと鉄珍様は、奥から古びた書物を取り出してきた。



「...それは」


「これは、この里で古くから伝わる日輪刀の伝承記や。代々星の呼吸剣士の刀は、紺桔梗色の刃に変わったが...ただ1人だけは例外やった。その人物は、日の呼吸の剣士、継国縁壱と時を同じくして鬼殺隊に身を置いていたという。
その者こそ君と同じ...【銀白色の7色に輝く日輪刀】の持ち主や」



それはまるで、太陽光そのものを擬したようであったと



ーーーーー


〜213【継国一族の末裔】〜




ーこの刀と..全く同じ物を扱っていた剣士がいた..ー



日向子はじっと自らの日輪刀を見つめる。
いくら別名色変わりの刀と呼ばれている日輪刀でも、本来は途中で色が変動する事はないといわれてきた。



ただ今回のように、日向子の日輪刀
そして..炭治郎の日輪刀



この短期間で、日輪刀の常識をくつがえす例外が2つも発生している。




「これは憶測やけどな、星の呼吸の剣士が銀白色の日輪刀を手にする時。それは、日の呼吸と触れ合った時なのでは無いか?そこで初めて、真の色を取り戻すのではないかとワシは考えた。これが正しければど偉いことや。それは...」




ー【日の呼吸の復活】ーを意味するからのー




っ!



日向子は彼の言葉を聞いて、まず頭に浮かんだのは炭治郎の事であった。



彼は元々水の呼吸の使い手であったが、独自の呼吸法であるヒノカミ神楽を会得している。


思えば那田蜘蛛山での戦闘から、日向子は僅かな違和感をずっと抱えてきた。
彼のヒノカミ神楽は、どうしても日向子に遠い過去の記憶を重ねさせるのだ。




切なく美しい、懐かしき記憶


母なる星はやがてはあらゆる万象を生み出し歴史を創り出していく。
その全ての先駆けとなる存在、
それは...【太陽の息吹】



やはり、彼のヒノカミ神楽こそが
日の呼吸なのではないだろうか?
そう思えば全てがしっくりくる。




日向子ちゃんや。心当たりがあるんやな?
日の呼吸と密接な関わりを持つ者に」



「....っはい。根拠はまだないですが..私の弟です」



日向子は事細かに彼のことを説明した。
耳飾りの事、ヒノカミ神楽の事、彼の日輪刀の事、鉄珍様は興味深く頷きながら耳を傾けてくれた。




「ふむ、なるほどな。今の話を聞くとこの伝承記にある文言との共通点がある。ただ、残念ながら刀以外の情報はいささか薄くての、堪忍なぁ」



ともかくとして、日向子の日輪刀は決して害のある者ではなく、寧ろ鬼殺隊としては喜ばしい兆しであるとの事なので、ひとまずは一安心だが..今の時点では全てが憶測に過ぎないのが残念だ。



「まぁそう気を落とさんとべっぴんが台無しや。あぁ、もし継国一族の事が気になるようなら霞柱の少年に会ってみるといい。
今ちょうどこの里に来ておる。聞くところによると、彼は継国一族の末裔らしゅうてな。少し記憶に難ありだが..何かわかるかもしれんの」




日向子は何度も目をパチクリさせた。




「ええぇーーー!!??」


それは、知らなかった



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