◆第捌章 渇求
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜202【手料理】〜
「ねぇ炭治郎、起きて何か不自由な事はない?アオイさん達にお願いしてこようか?」
そう問いかけられた炭治郎は、しばらく考え込んだ後こう発した。
「...お腹空いたなぁ」
日向子はそう呟いた彼を一瞬きょとんと見たが、それはそれは喜んで何が食べたい?アオイさんにお願いしてくるよと言ってぐいっと身を乗り出してくる。
余程、炭治郎が食欲を訴えた事が嬉しかったのだろう。そんな彼女を真っ直ぐ見つめ、あるお願いをした。
「日向子姉さんの手料理が食べたい」
「え..」
数秒間固まっていた日向子だったが、やがて自信無さげな表情で眉をハの字にする。
「でも、私よりアオイさんの方がきっと美味しいよ?せっかく食欲があるんだもの。今の炭治郎には精がつくものを食べて貰わないといけないし
「嫌だ、日向子姉さんのがいい」
日向子はテコでも動かなそうな弟にたじたじになるも、やっぱりこう言われたら嬉しいものだなぁとしみじみ思った。
それに..
目覚めたばかりだからか、いつにも増して甘えたな彼が可愛いらしいなと感じる。
普段は何かと、長男だから、もう子供じゃないからと言って毅然 とした態度を取ることが多いものだから、やけに新鮮に映った。
たまにこうして甘えてきてくれると、【姉として】は安心するのだ。
「わかったよ、何が食べたい?」
「..タラの芽の天ぷらがいいな」
「んー、天ぷらは油物だからまだ駄目ね?消化のいい物何か作ってくるから、少し待ってて」
そう言って部屋を後にする彼女の背を、内心有頂天になりながら見送った。
ー日向子姉さんの手料理、楽しみだなー
普段はお互い鬼殺の任務で忙しいし、たまに蝶屋敷にお世話になる時と言えば、どちらか或いは両方が怪我を負ってて、それどころではなかったのだから。
少し甘え過ぎたかもしれない、でも..こういう時くらいしか彼女にお願いなんて出来ないし、許されると思う事にする。
しばらくして、日向子姉さんが湯気がたつお盆を手に戻ってきた。
もう少し時間がかかるかなと思っていたが、手際がいいのだなと感心してしまう。
「粥は熱いから気をつけてね」
いざ食べ物を目の前にしたら、腹の虫が鳴った。美味しそうだ...
食器を手に取って粥を口を運ぼうとするが、思うようにまだ肩が上がらず四苦八苦してしまう。
「無理しないで、貸して?」
そんな炭治郎を見かねると、彼女が代わりにレンゲを手に取った。
ーーーーー
〜203【狂おしき愛】〜
日向子姉さんは上手く食べられない俺を気遣ってくれた。慣れた手付きで、ふぅっと粥に息を吹きかけゆっくりと口まで運んでくれる。
こんな風に手取り足取り面倒を見てくれたのは、炭治郎が幼い頃に風邪で熱を出した時以来だった。
レンゲが近づいて来る毎 に、心臓が高鳴る。
ーあぁ...バレてないかな、音ー
顔がすっかり赤くなっているだろう事はもう諦めた。
せめて、こんなにも激しく打ち付ける心臓の音だけは、彼女に悟られまいとなるだけ平静を装う。
食べやすい温度に調整してくれたたまご粥を、口に入れ咀嚼 した瞬間、懐かしい味に感極まった。
日向子姉さんの、味だ...
薄味なはずなのに、ダシが効いてるからか程よく旨味があって、噛む毎にどんどんはまっていく、そんな味。幼少の頃の記憶が蘇っていく。
「...ぇ、どうしたの?あまり口に合わなかった?」
焦ったような声色でそう語りかける彼女。
そこで、初めて炭治郎は自分が涙を流してる事に気付いた。
袖で涙を拭いふるふると首を横に振る。
「違う、違うんだ...ただ、美味しくて。懐かしいなと思って」
そう言えば、彼女は安心したようにそっかと微笑んだ。
炭治郎の様子とペースを見ながら、食べ物を運んでくれる。
そんな些細なところにも気遣いを感じて、きゅうっと胸が締め付けられた。
やがて、すっかり腹も満たされ粥もおかずも全て平らげてしまった。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「お粗末様。全部食べれてよかったよ、これだけ食べれればすぐによくなるね」
にこりと微笑む日向子姉さんを見て、ふと思った。
今思えば、彼女の手料理の魅力はまるで彼女そのもののようだ。
側にいればいる程に、彼女の優しさに触れる度に、いつの間にか魅力に引き込まれていって
気付けばこんなにも、大きく膨れ上がっていた。
食事と唯一異なる点があるとすれば、食べても食べても【腹が満たされない】というところ。
この空腹と喉の渇きは、どうしたら満たされるのか。
答えは何となく、炭治郎にはわかっていた。
「あらあら、お粥が口についちゃったね」
彼女はおしぼりの端を炭治郎の口元に当てて拭う。
必然的に縮まる距離、日向子姉さんが髪の毛を耳にかけ直した。その時露わになった首筋を見た時、炭治郎の中で何かが弾けた。
「っ!」
彼女の体を抱き寄せ首筋に唇を這わせる。
ちうっと音を立てて吸い上げた。
それは、狂おしい程の愛情の現れだった
ーーーーー
〜204【欲望】〜
「っま...待って炭治郎、どうし..」
急に前のめりに倒した形だったので、上手く状態を起こすのが困難であるのに加え、怪我人の炭治郎を無理に押したり抑えたり出来ないだろう彼女の優しさにつけ込み、更に唇を彼女の耳元へ這わしていく。
あぁ、ここ...日向子姉さんの匂いが強い。
興奮する
炭治郎はぞわぞわと体の奥からこみ上げてくる感覚にめまいがした。
一連の衝撃でからんと箸が茶碗から落ちたけれど、そんな事はもうどうでも良かった。
睡眠欲と食欲が満たされたからなのか、或いは
溢れかえる直前まで辛抱していた欲が、ここにきて牙を剥いたからなのか。
とうとう体の中で燻 る熱が無視出来ないものになってしまった。
ーどうしよう...
抗える気がしない、今日はおかしい..ー
耳の輪郭をなぞるように舌を這わせると、彼女はびくりと体を震わせてくぐもった声を出す。
ここを攻めた途端、体に力が入らなくなっている様子に気付いた。
ー耳が弱いのか..
なんて可愛いらしいんだー
わざとらしく音を立てながら耳の中を舌で蹂躙 すると、嬌声にも似た声を漏らすので、炭治郎はとうとうなけなしの理性を手放した。
「っ...は...」
もっと触れたい
声が聞きたい
日向子姉さんを俺で一杯に満たしたい
そんな欲求が波のように押し寄せる。
もういいよな..
俺はきっと充分我慢したよ。
俺の気持ちに気付いていながら、変わらぬ笑顔を振りまく日向子姉さんが悪いんだよ。
もう可愛い無害な弟じゃないのに、
受け入れる気なんてない癖に、あんまりだ。
何で、私はこんな事になってるのだろう。
どうにかして目の前の彼を止めたいのに、体は力が抜けきって思うように動かせない。
炭治郎はと言うと表情こそ見えないものの、熱い息が首筋や耳に当たるのでいつもと様子が違うのは明らかだった。
いつもなら日向子を気遣ってくれるのに、そんな気は微塵 も無さそうだ。
「炭..じろ...」
駄目だよ
やめてよ
そんな日向子の切なる願いも虚しく、炭治郎は更に体を引き寄せてくる。
アオイさんと後藤さんの言葉を思い返した。
ー彼が目覚めたら、少し向き合ってあげたらどうです?ー
ー炭治郎の気持ちに寄り添ってあげてくださいー
私は..あなたにそんなに【我慢】させてたのかな
「っ!..」
腰の部分を弄 る手付きに気付き、ついに日向子は耐えきれず、渾身の力で炭治郎を押し戻した。
ーーーーー
〜205【溢す】〜
炭治郎の体を突き放し咄嗟に距離を取る。
彼に触れられた箇所は未だに熱を帯びていて、日向子はバクバクと脈打つ心臓を抑えるように、きゅっと胸の前で両手を握り締めた。
炭治郎は無言で、俯いている為表情もわからない。
お互いの間に気まずい空気が流れた。
こういう時に限って、無情にも誰も部屋に訪れてこない。
「...ごめん。突き放してくれて、ありがとう」
弱々しい声色で彼はそう呟く。
依然として顔を俯かせたままだったが、彼の心境がひしひしと伝わってきて日向子は心を痛ませた。そして、己を責め立てる。
私は結局、いまだに彼の気持ちから目を背けていた。
逃げていた。
理性的な炭治郎の配慮に甘え、彼と向き合う事を先延ばしにしていた。
そして、結果的に今日のような事が起きた。
何より辛かったのは、元々我慢強い炭治郎をここまで
苦しめていたという事実だった。
彼は、長男だからと何でも我慢して堪え忍ぶ癖がある。
そんな事はわかっていた筈なのに、でも
じゃあわかりましたと全てを捧げる事が出来ない事も事実。私には...
「炭治郎....謝らないで。ごめんね?貴方をこんなにも苦しませているとは思わなかった。私のせいだね」
そう伝えると、初めて彼は顔を上げた。
その表情は酷く怯えた様子で、嫌われたくないという思いが有りありと見えていた。
まるで、おいたが過ぎると叱られるのを恐怖している幼子のようで、そんな顔を見たら何も言えなくなってしまった。
「日向子姉さんは悪くない。俺が...堪え性がないから。こんなの、あり得ない。もっと怒られても仕方ない事したんだ..俺。」
最低なやつだと自分を責め始めたので、日向子は己の頬を殴ろうとした彼の腕を掴んだ。
「っ!」
「...お願いだから、こんな事で自分を責めないで。私、ちゃんと向き合うよ貴方に」
「....ぇ」
日向子は、いたって真剣な思いでそう彼に告げた。
今の私に出来るのは、受け入れるか否かは別として、炭治郎の気持ちを否定しない事。弟としてじゃなく、1人の男の子としてその想いを聞いてあげる事、そう思ったのだ。
「私は炭治郎の姉だけど、竈門家の長女には変わりないと思ってるけど。今は..【竈門日向子】として、あなたの気持ちを聞きたいなと思う。我慢しなくていいよ、だから...曝け出してくれて構わない。」
そう優しく語りかけると、彼は泣きそうな程に顔を歪めて、やがて想いの丈を溢し始めた。
ーーーーー
「ねぇ炭治郎、起きて何か不自由な事はない?アオイさん達にお願いしてこようか?」
そう問いかけられた炭治郎は、しばらく考え込んだ後こう発した。
「...お腹空いたなぁ」
日向子はそう呟いた彼を一瞬きょとんと見たが、それはそれは喜んで何が食べたい?アオイさんにお願いしてくるよと言ってぐいっと身を乗り出してくる。
余程、炭治郎が食欲を訴えた事が嬉しかったのだろう。そんな彼女を真っ直ぐ見つめ、あるお願いをした。
「日向子姉さんの手料理が食べたい」
「え..」
数秒間固まっていた日向子だったが、やがて自信無さげな表情で眉をハの字にする。
「でも、私よりアオイさんの方がきっと美味しいよ?せっかく食欲があるんだもの。今の炭治郎には精がつくものを食べて貰わないといけないし
「嫌だ、日向子姉さんのがいい」
日向子はテコでも動かなそうな弟にたじたじになるも、やっぱりこう言われたら嬉しいものだなぁとしみじみ思った。
それに..
目覚めたばかりだからか、いつにも増して甘えたな彼が可愛いらしいなと感じる。
普段は何かと、長男だから、もう子供じゃないからと言って
たまにこうして甘えてきてくれると、【姉として】は安心するのだ。
「わかったよ、何が食べたい?」
「..タラの芽の天ぷらがいいな」
「んー、天ぷらは油物だからまだ駄目ね?消化のいい物何か作ってくるから、少し待ってて」
そう言って部屋を後にする彼女の背を、内心有頂天になりながら見送った。
ー日向子姉さんの手料理、楽しみだなー
普段はお互い鬼殺の任務で忙しいし、たまに蝶屋敷にお世話になる時と言えば、どちらか或いは両方が怪我を負ってて、それどころではなかったのだから。
少し甘え過ぎたかもしれない、でも..こういう時くらいしか彼女にお願いなんて出来ないし、許されると思う事にする。
しばらくして、日向子姉さんが湯気がたつお盆を手に戻ってきた。
もう少し時間がかかるかなと思っていたが、手際がいいのだなと感心してしまう。
「粥は熱いから気をつけてね」
いざ食べ物を目の前にしたら、腹の虫が鳴った。美味しそうだ...
食器を手に取って粥を口を運ぼうとするが、思うようにまだ肩が上がらず四苦八苦してしまう。
「無理しないで、貸して?」
そんな炭治郎を見かねると、彼女が代わりにレンゲを手に取った。
ーーーーー
〜203【狂おしき愛】〜
日向子姉さんは上手く食べられない俺を気遣ってくれた。慣れた手付きで、ふぅっと粥に息を吹きかけゆっくりと口まで運んでくれる。
こんな風に手取り足取り面倒を見てくれたのは、炭治郎が幼い頃に風邪で熱を出した時以来だった。
レンゲが近づいて来る
ーあぁ...バレてないかな、音ー
顔がすっかり赤くなっているだろう事はもう諦めた。
せめて、こんなにも激しく打ち付ける心臓の音だけは、彼女に悟られまいとなるだけ平静を装う。
食べやすい温度に調整してくれたたまご粥を、口に入れ
日向子姉さんの、味だ...
薄味なはずなのに、ダシが効いてるからか程よく旨味があって、噛む毎にどんどんはまっていく、そんな味。幼少の頃の記憶が蘇っていく。
「...ぇ、どうしたの?あまり口に合わなかった?」
焦ったような声色でそう語りかける彼女。
そこで、初めて炭治郎は自分が涙を流してる事に気付いた。
袖で涙を拭いふるふると首を横に振る。
「違う、違うんだ...ただ、美味しくて。懐かしいなと思って」
そう言えば、彼女は安心したようにそっかと微笑んだ。
炭治郎の様子とペースを見ながら、食べ物を運んでくれる。
そんな些細なところにも気遣いを感じて、きゅうっと胸が締め付けられた。
やがて、すっかり腹も満たされ粥もおかずも全て平らげてしまった。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「お粗末様。全部食べれてよかったよ、これだけ食べれればすぐによくなるね」
にこりと微笑む日向子姉さんを見て、ふと思った。
今思えば、彼女の手料理の魅力はまるで彼女そのもののようだ。
側にいればいる程に、彼女の優しさに触れる度に、いつの間にか魅力に引き込まれていって
気付けばこんなにも、大きく膨れ上がっていた。
食事と唯一異なる点があるとすれば、食べても食べても【腹が満たされない】というところ。
この空腹と喉の渇きは、どうしたら満たされるのか。
答えは何となく、炭治郎にはわかっていた。
「あらあら、お粥が口についちゃったね」
彼女はおしぼりの端を炭治郎の口元に当てて拭う。
必然的に縮まる距離、日向子姉さんが髪の毛を耳にかけ直した。その時露わになった首筋を見た時、炭治郎の中で何かが弾けた。
「っ!」
彼女の体を抱き寄せ首筋に唇を這わせる。
ちうっと音を立てて吸い上げた。
それは、狂おしい程の愛情の現れだった
ーーーーー
〜204【欲望】〜
「っま...待って炭治郎、どうし..」
急に前のめりに倒した形だったので、上手く状態を起こすのが困難であるのに加え、怪我人の炭治郎を無理に押したり抑えたり出来ないだろう彼女の優しさにつけ込み、更に唇を彼女の耳元へ這わしていく。
あぁ、ここ...日向子姉さんの匂いが強い。
興奮する
炭治郎はぞわぞわと体の奥からこみ上げてくる感覚にめまいがした。
一連の衝撃でからんと箸が茶碗から落ちたけれど、そんな事はもうどうでも良かった。
睡眠欲と食欲が満たされたからなのか、或いは
溢れかえる直前まで辛抱していた欲が、ここにきて牙を剥いたからなのか。
とうとう体の中で
ーどうしよう...
抗える気がしない、今日はおかしい..ー
耳の輪郭をなぞるように舌を這わせると、彼女はびくりと体を震わせてくぐもった声を出す。
ここを攻めた途端、体に力が入らなくなっている様子に気付いた。
ー耳が弱いのか..
なんて可愛いらしいんだー
わざとらしく音を立てながら耳の中を舌で
「っ...は...」
もっと触れたい
声が聞きたい
日向子姉さんを俺で一杯に満たしたい
そんな欲求が波のように押し寄せる。
もういいよな..
俺はきっと充分我慢したよ。
俺の気持ちに気付いていながら、変わらぬ笑顔を振りまく日向子姉さんが悪いんだよ。
もう可愛い無害な弟じゃないのに、
受け入れる気なんてない癖に、あんまりだ。
何で、私はこんな事になってるのだろう。
どうにかして目の前の彼を止めたいのに、体は力が抜けきって思うように動かせない。
炭治郎はと言うと表情こそ見えないものの、熱い息が首筋や耳に当たるのでいつもと様子が違うのは明らかだった。
いつもなら日向子を気遣ってくれるのに、そんな気は
「炭..じろ...」
駄目だよ
やめてよ
そんな日向子の切なる願いも虚しく、炭治郎は更に体を引き寄せてくる。
アオイさんと後藤さんの言葉を思い返した。
ー彼が目覚めたら、少し向き合ってあげたらどうです?ー
ー炭治郎の気持ちに寄り添ってあげてくださいー
私は..あなたにそんなに【我慢】させてたのかな
「っ!..」
腰の部分を
ーーーーー
〜205【溢す】〜
炭治郎の体を突き放し咄嗟に距離を取る。
彼に触れられた箇所は未だに熱を帯びていて、日向子はバクバクと脈打つ心臓を抑えるように、きゅっと胸の前で両手を握り締めた。
炭治郎は無言で、俯いている為表情もわからない。
お互いの間に気まずい空気が流れた。
こういう時に限って、無情にも誰も部屋に訪れてこない。
「...ごめん。突き放してくれて、ありがとう」
弱々しい声色で彼はそう呟く。
依然として顔を俯かせたままだったが、彼の心境がひしひしと伝わってきて日向子は心を痛ませた。そして、己を責め立てる。
私は結局、いまだに彼の気持ちから目を背けていた。
逃げていた。
理性的な炭治郎の配慮に甘え、彼と向き合う事を先延ばしにしていた。
そして、結果的に今日のような事が起きた。
何より辛かったのは、元々我慢強い炭治郎をここまで
苦しめていたという事実だった。
彼は、長男だからと何でも我慢して堪え忍ぶ癖がある。
そんな事はわかっていた筈なのに、でも
じゃあわかりましたと全てを捧げる事が出来ない事も事実。私には...
「炭治郎....謝らないで。ごめんね?貴方をこんなにも苦しませているとは思わなかった。私のせいだね」
そう伝えると、初めて彼は顔を上げた。
その表情は酷く怯えた様子で、嫌われたくないという思いが有りありと見えていた。
まるで、おいたが過ぎると叱られるのを恐怖している幼子のようで、そんな顔を見たら何も言えなくなってしまった。
「日向子姉さんは悪くない。俺が...堪え性がないから。こんなの、あり得ない。もっと怒られても仕方ない事したんだ..俺。」
最低なやつだと自分を責め始めたので、日向子は己の頬を殴ろうとした彼の腕を掴んだ。
「っ!」
「...お願いだから、こんな事で自分を責めないで。私、ちゃんと向き合うよ貴方に」
「....ぇ」
日向子は、いたって真剣な思いでそう彼に告げた。
今の私に出来るのは、受け入れるか否かは別として、炭治郎の気持ちを否定しない事。弟としてじゃなく、1人の男の子としてその想いを聞いてあげる事、そう思ったのだ。
「私は炭治郎の姉だけど、竈門家の長女には変わりないと思ってるけど。今は..【竈門日向子】として、あなたの気持ちを聞きたいなと思う。我慢しなくていいよ、だから...曝け出してくれて構わない。」
そう優しく語りかけると、彼は泣きそうな程に顔を歪めて、やがて想いの丈を溢し始めた。
ーーーーー