◆第弐章 そして少年達は
貴女のお名前を教えてください
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〜14【鍛錬の先へ】〜
鱗滝さんの元で、文字通り血の滲むような修行を行った炭治郎は、遂に鬼殺隊に入るための最終段階。
藤襲山の最終選別に行くことを許された。
あの惨劇から、かれこれ2年余り
禰豆子を人間に戻す方法もまだ見つからないし、日向子姉さんの消息も依然として知れない。
それでも、着実に一歩また一歩と..前進していると思う。
今に至るまで様々な事があった、鬼と対峙した事もあるし厳しい現実を突きつけられた事も数多。
死にかけた事すら何度もある。
それでも炭治郎は決して挫 けなかった。
ここで諦めたら..戻れない過去を受け入れる事になってしまう。
それは、大切な家族が居なくなった事を炭治郎自身が肯定してしまうことに他ならない。
それだけは、死んでも嫌だ
その気持ちは1日足りとも忘れる事はなく、
今日この日までを乗り越える事が出来た。
「よく頑張った..炭治郎。お前は、凄い子だ。」
鱗滝さんのその言葉を聞いた時、自然と涙が溢れた。
彼は、当初炭治郎を最終選別に行かせるつもりはなかったようだ。
数多くの弟子達が帰らぬ人となっているらしい。これ以上の犠牲を増やしたくないという鱗滝さんの優しさと、厳しい修行によく耐えたという彼なりの労いが、抱き締めてくれた瞬間に流れ伝わってきたから。
「鱗滝さん。ご指導ご鞭撻 ありがとうございました」
炭治郎は精一杯の感謝の意を込めて伝えた。
その日の夜、長い歳月を経て伸びきった髪の毛をばさりと切っている時にふと気付き落胆した事がある。
鍛錬に明け暮れた日々を物語る、服の劣化だった。すそは端切れ状態で泥や土埃を被った後が多々ある。
おまけに、2年が過ぎたのだから当然だが、炭治郎は身長も幾分伸びた。
膝丈まであった羽織りの裾は、今はもう腰より僅か下の位置だ。
一見するともう着れたものではないが...
「その羽織りは、そんなにお前にとって大事なものなのか」
鱗滝さんにそう問われ、こくりと頷く。
「今は..行方知れずの姉が、こしらえてくれた物なんです。もう着れないかもしれないけれど、捨てる事は絶対に出来ません。」
愛おしそうにボロボロになった羽織りを抱く炭治郎を見て、鱗滝はそうかと短く呟くと奥から真新しい和服を取り出してきた。
「その羽織りはここに置いていきなさい。身につけておきたい気持ちはわかるが、大事な物なら無くすわけにはいかんだろう」
それは、炭治郎への
生きて戻れという使命のような気がした。
ーーーーー
〜15【藤襲山の誘い】〜
夜更けの異様な空気の中、炭治郎は藤襲山の中腹へと差し掛かる階段を上がっていた。
鱗滝さんから貰った服と厄徐の面を身につけて、刀の柄に手を置けば、何だか力がみなぎるようだ。
季節外れの藤の花が、妖しく光り、
まるで誘い込むかのように咲き乱れている。
不思議な山だなぁと思う。
ずっと眠り続けている禰豆子は鱗滝さんの元へ預けた。
何があろうとこの最終選別を生き残らなければ
姉を見つける事も禰豆子を元に戻す事も出来やしない。
日向子姉さんは何処へいるのだろう?
まだこの世界の何処かで生きているのだろうか。はたまた、殺されてしまったのか。
だとしたらその亡骸 は何処に?魂は何処へ?
そう考える度に、炭治郎は呼吸もままならなくなってくる程の苦しみを味わってきた。
俺は
まだ、何も日向子姉さんに伝えちゃいなかった
伝えたいことなんて、山ほどあったし
話したい事も、一緒に行きたいところも、食べたい物も、してあげたい事もたくさんあった。
けれど、今の炭治郎には未来を信じ
突き進む他道は残されてなどいないのだから。
刀を再度握りしめて、やがて中腹の開けた場所へと足を踏み入れた。
「凄い..こんなにいるのか」
辺りを見回すと、同じ年頃の男女がどれも神妙な面持ちで来る時を待っていた。
身体に古傷を負っている者や、表情一つ変えずに佇む者様々。
あぁ、空気感でわかる。鬼を滅するべく血反吐 を吐くような修行を積んで来た者は、何も炭治郎だけではないようだ。
「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださりありがとうございます。」
可愛らしい日本人形のようないで立ちの少女達が、りんと鈴が鳴るような声色で発した。
その声の持ち主を座標とし、その場にいた者達の視線を一様に介す。
彼女達が科したこの最終選別の合格条件。
それは、
【鬼共の巣食うこの山の中で7日間生き延びることだった】
「「では、行ってらっしゃいませ」」
双子のちょうちんを持った腕が、山頂へと続く荒れ果てた道へと彼等を誘う。
炭治郎は鋭い眼差しを山へ向け、いざ脚を踏み出した。
....
「っあの!まだ最終選別には間に合いますでしょうか!」
炭治郎達が山へ繰り出したほんの少し後の出来事。遅れてやってきた人物が乱れた呼吸を整えながらそう問いかける。市女傘 のせいで顔はわからない、だが双子は、口元に笑みを浮かべた。
「...お待ちしておりました。」
ーーーーー
〜16【因果】〜
山に入るやいなや二体の鬼と出会して、対峙した炭治郎は滲む汗を袖で拭いながら思う。
開始早々遭遇したところを考えると、少なくとも夜の間中は警戒を一時たりとも解く事は出来ないだろうと。
しかし、鍛錬はしっかりと己の中に染みつき力になっていた。2年前までは、鬼の頚を切るどころか触れる事すら出来ずにやられていただろう。
もう苦汁を舐めるだけの自分じゃないんだ...
禰豆子、日向子姉さん
待っていてくれ
「うっ!」
突然何かが腐敗したような臭いが鼻についた。
直後茂みの奥から叫び声が聞こえたかと思うと
少年が飛び出してきた。かなり、混乱していた。
ただごとではないと思った。
刀を構えた瞬間、少年の後ろから無数の腕を生やした異形の鬼が現れる。既に息絶えている人間を握りつぶして...
伸縮自在と思われる鬼の一部が、瞬時に少年の体を捉えた。助けを乞う叫び声、人が死にゆく今際 などもう見たくない。
俺はもう無力じゃないんだ
ー水の呼吸 弐ノ型 水車ー
鬼の身体は少年を捉えていた大木ほどの腕の根本から切り落ち地面へ落ちた。
鬼の眼が、少年から炭治郎へと標的を変えた。
血走った眼がギロリと奇妙に動き、濁声が響く。
「また来たなぁ。俺の可愛い【狐】が」
狐?..
やつは確かにそう言った。
この、厄除の面の事を言っているのか?
また来たとは..
異形の鬼は年号を問うた。大正だと答えれば、明らかに憎悪の匂いが増し、狂い出した。
そして鱗滝さんの名を連呼する。鬼が忌々しそうに、かと思えば快楽殺人鬼のように笑いながら語る過去の記憶。
やがて、一つまた一つと
炭治郎の中で全ての合点がいく...
あの時、俺を変えてくれた
錆兎は..
優しく諭してくれた
真菰は..
全身の血が沸沸と煮えたぎっていく感覚
これほどまでに、純粋な怒りを感じた事はない。
乱れていく呼吸を止められない。
だって奴は..あぁ、クソ..
なんで、なんでお前らはこうも、何の罪も感じず懺悔 もせずに
【当然のように人の幸せを奪っていくんだ】
なんの権利があって
お前らは
乱れた呼吸のまま、炭治郎は異形の鬼に突っ込んでいき、がむしゃらに刀を振り落とす。
理性が飛び切った炭治郎を、錆兎が抑えた
「落ちつけ炭治郎、呼吸が乱れている」
もういいんだ、俺たちの事は...
その時、鈍い音を立てて、鬼の拳が炭治郎の身体に入り衝撃で木の幹にぶち当たった。
その拍子に音を立て厄除の面が砕け散った
ーーーーー
〜17【追憶の焦がれ】〜
俺は何をしているんだ..
鱗滝さんにあれだけ呼吸を乱すなと言われていたのに。錆兎に己を律しろと訓練されたのに..
これでは何も変わっちゃいないじゃないか。
「炭治郎、お前は優し過ぎるのだ。怒りも憂 いも情けも全て、掌握 してこその真の剣士だ」
鱗滝さんに言われた言葉を、暗い闇の中で思い出す。
俺は優しいんじゃない..
ただ、弱いだけだ。いくら身体を鍛えたからとて..
動け...
呼吸を整えろ
目を覚ますんだ..
「炭治郎」
こちらに笑いかける愛しい影。
...日向子姉さんの匂いだ。
あぁ、ずっと会いたかったんだ。
姉さん、俺は..
「っ!」
目を覚ました瞬間、
炭治郎は時が止まったかのような感覚に陥る。
咄嗟に身体を捻り敵の攻撃を避けたのだが、奴の腕は既に斬り落とされていた。
懐かしい匂いがする...
そんな、あり得ない
ましてやこんな場所に居るはずもない
なのに
「...日向子姉さん」
頭上を見上げた時、垂衣の裾が舞った。
月明かりを背にたなびく絹糸のような髪と、
きらめく刀の切っ先が、炭治郎の視界に写る。
「私の弟に、手を出すな化け物っー!」
鮮やかに鬼の身体が宙に舞う。
炭治郎はへたりとその場に膝をついていたが、
即座に刀を構え直して援護するように
間合いをつめる。
土壌からの気配に気づいた炭治郎は瞬時に飛び上がったが、彼女は一瞬動作が遅れた。
突き出た腕に片足を取られ、痛みに顔を歪める。
「っぁ!..」
悲痛な日向子姉さんの叫びを聞いた時、
再び激しい怒りの感情に蝕まれていく。
でも、単純なそれでは彼女を守る事は出来ないんだ。
冷静になれ炭治郎。
大切なものを守れる力を
手に入れろ
「日向子姉さんを、離せっーーーーっ!!」
空中で躱 せない攻撃を、炭治郎は力一杯頭突きに込めた。一瞬怯んだ鬼の身体は護りの体制。
相当防御に自信があるのか攻撃態勢には入らない。
ここで
ーーー討ち取るーーー
全集中 水の呼吸
壱ノ型 水面斬り‼
「あぁぁぁぁっーー!!!」
今まで決して刃を突き立てることの出来なかった硬化な鬼の頚を、炭治郎の刃が斬り裂く。
鬼の身体はボロボロと崩れていった。
炭治郎の捨身の攻撃によって開放され、一部始終を目の当たりにした日向子は、その光景を涙ぐみながら見届けた。
「強くなったのね、炭治郎。」
せっかく追い付いたと思ったけど
やっぱり炭治郎は凄い子だね
ーーーーー
鱗滝さんの元で、文字通り血の滲むような修行を行った炭治郎は、遂に鬼殺隊に入るための最終段階。
藤襲山の最終選別に行くことを許された。
あの惨劇から、かれこれ2年余り
禰豆子を人間に戻す方法もまだ見つからないし、日向子姉さんの消息も依然として知れない。
それでも、着実に一歩また一歩と..前進していると思う。
今に至るまで様々な事があった、鬼と対峙した事もあるし厳しい現実を突きつけられた事も数多。
死にかけた事すら何度もある。
それでも炭治郎は決して
ここで諦めたら..戻れない過去を受け入れる事になってしまう。
それは、大切な家族が居なくなった事を炭治郎自身が肯定してしまうことに他ならない。
それだけは、死んでも嫌だ
その気持ちは1日足りとも忘れる事はなく、
今日この日までを乗り越える事が出来た。
「よく頑張った..炭治郎。お前は、凄い子だ。」
鱗滝さんのその言葉を聞いた時、自然と涙が溢れた。
彼は、当初炭治郎を最終選別に行かせるつもりはなかったようだ。
数多くの弟子達が帰らぬ人となっているらしい。これ以上の犠牲を増やしたくないという鱗滝さんの優しさと、厳しい修行によく耐えたという彼なりの労いが、抱き締めてくれた瞬間に流れ伝わってきたから。
「鱗滝さん。ご指導ご
炭治郎は精一杯の感謝の意を込めて伝えた。
その日の夜、長い歳月を経て伸びきった髪の毛をばさりと切っている時にふと気付き落胆した事がある。
鍛錬に明け暮れた日々を物語る、服の劣化だった。すそは端切れ状態で泥や土埃を被った後が多々ある。
おまけに、2年が過ぎたのだから当然だが、炭治郎は身長も幾分伸びた。
膝丈まであった羽織りの裾は、今はもう腰より僅か下の位置だ。
一見するともう着れたものではないが...
「その羽織りは、そんなにお前にとって大事なものなのか」
鱗滝さんにそう問われ、こくりと頷く。
「今は..行方知れずの姉が、こしらえてくれた物なんです。もう着れないかもしれないけれど、捨てる事は絶対に出来ません。」
愛おしそうにボロボロになった羽織りを抱く炭治郎を見て、鱗滝はそうかと短く呟くと奥から真新しい和服を取り出してきた。
「その羽織りはここに置いていきなさい。身につけておきたい気持ちはわかるが、大事な物なら無くすわけにはいかんだろう」
それは、炭治郎への
生きて戻れという使命のような気がした。
ーーーーー
〜15【藤襲山の誘い】〜
夜更けの異様な空気の中、炭治郎は藤襲山の中腹へと差し掛かる階段を上がっていた。
鱗滝さんから貰った服と厄徐の面を身につけて、刀の柄に手を置けば、何だか力がみなぎるようだ。
季節外れの藤の花が、妖しく光り、
まるで誘い込むかのように咲き乱れている。
不思議な山だなぁと思う。
ずっと眠り続けている禰豆子は鱗滝さんの元へ預けた。
何があろうとこの最終選別を生き残らなければ
姉を見つける事も禰豆子を元に戻す事も出来やしない。
日向子姉さんは何処へいるのだろう?
まだこの世界の何処かで生きているのだろうか。はたまた、殺されてしまったのか。
だとしたらその
そう考える度に、炭治郎は呼吸もままならなくなってくる程の苦しみを味わってきた。
俺は
まだ、何も日向子姉さんに伝えちゃいなかった
伝えたいことなんて、山ほどあったし
話したい事も、一緒に行きたいところも、食べたい物も、してあげたい事もたくさんあった。
けれど、今の炭治郎には未来を信じ
突き進む他道は残されてなどいないのだから。
刀を再度握りしめて、やがて中腹の開けた場所へと足を踏み入れた。
「凄い..こんなにいるのか」
辺りを見回すと、同じ年頃の男女がどれも神妙な面持ちで来る時を待っていた。
身体に古傷を負っている者や、表情一つ変えずに佇む者様々。
あぁ、空気感でわかる。鬼を滅するべく
「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださりありがとうございます。」
可愛らしい日本人形のようないで立ちの少女達が、りんと鈴が鳴るような声色で発した。
その声の持ち主を座標とし、その場にいた者達の視線を一様に介す。
彼女達が科したこの最終選別の合格条件。
それは、
【鬼共の巣食うこの山の中で7日間生き延びることだった】
「「では、行ってらっしゃいませ」」
双子のちょうちんを持った腕が、山頂へと続く荒れ果てた道へと彼等を誘う。
炭治郎は鋭い眼差しを山へ向け、いざ脚を踏み出した。
....
「っあの!まだ最終選別には間に合いますでしょうか!」
炭治郎達が山へ繰り出したほんの少し後の出来事。遅れてやってきた人物が乱れた呼吸を整えながらそう問いかける。
「...お待ちしておりました。」
ーーーーー
〜16【因果】〜
山に入るやいなや二体の鬼と出会して、対峙した炭治郎は滲む汗を袖で拭いながら思う。
開始早々遭遇したところを考えると、少なくとも夜の間中は警戒を一時たりとも解く事は出来ないだろうと。
しかし、鍛錬はしっかりと己の中に染みつき力になっていた。2年前までは、鬼の頚を切るどころか触れる事すら出来ずにやられていただろう。
もう苦汁を舐めるだけの自分じゃないんだ...
禰豆子、日向子姉さん
待っていてくれ
「うっ!」
突然何かが腐敗したような臭いが鼻についた。
直後茂みの奥から叫び声が聞こえたかと思うと
少年が飛び出してきた。かなり、混乱していた。
ただごとではないと思った。
刀を構えた瞬間、少年の後ろから無数の腕を生やした異形の鬼が現れる。既に息絶えている人間を握りつぶして...
伸縮自在と思われる鬼の一部が、瞬時に少年の体を捉えた。助けを乞う叫び声、人が死にゆく
俺はもう無力じゃないんだ
ー水の呼吸 弐ノ型 水車ー
鬼の身体は少年を捉えていた大木ほどの腕の根本から切り落ち地面へ落ちた。
鬼の眼が、少年から炭治郎へと標的を変えた。
血走った眼がギロリと奇妙に動き、濁声が響く。
「また来たなぁ。俺の可愛い【狐】が」
狐?..
やつは確かにそう言った。
この、厄除の面の事を言っているのか?
また来たとは..
異形の鬼は年号を問うた。大正だと答えれば、明らかに憎悪の匂いが増し、狂い出した。
そして鱗滝さんの名を連呼する。鬼が忌々しそうに、かと思えば快楽殺人鬼のように笑いながら語る過去の記憶。
やがて、一つまた一つと
炭治郎の中で全ての合点がいく...
あの時、俺を変えてくれた
錆兎は..
優しく諭してくれた
真菰は..
全身の血が沸沸と煮えたぎっていく感覚
これほどまでに、純粋な怒りを感じた事はない。
乱れていく呼吸を止められない。
だって奴は..あぁ、クソ..
なんで、なんでお前らはこうも、何の罪も感じず
【当然のように人の幸せを奪っていくんだ】
なんの権利があって
お前らは
乱れた呼吸のまま、炭治郎は異形の鬼に突っ込んでいき、がむしゃらに刀を振り落とす。
理性が飛び切った炭治郎を、錆兎が抑えた
「落ちつけ炭治郎、呼吸が乱れている」
もういいんだ、俺たちの事は...
その時、鈍い音を立てて、鬼の拳が炭治郎の身体に入り衝撃で木の幹にぶち当たった。
その拍子に音を立て厄除の面が砕け散った
ーーーーー
〜17【追憶の焦がれ】〜
俺は何をしているんだ..
鱗滝さんにあれだけ呼吸を乱すなと言われていたのに。錆兎に己を律しろと訓練されたのに..
これでは何も変わっちゃいないじゃないか。
「炭治郎、お前は優し過ぎるのだ。怒りも
鱗滝さんに言われた言葉を、暗い闇の中で思い出す。
俺は優しいんじゃない..
ただ、弱いだけだ。いくら身体を鍛えたからとて..
動け...
呼吸を整えろ
目を覚ますんだ..
「炭治郎」
こちらに笑いかける愛しい影。
...日向子姉さんの匂いだ。
あぁ、ずっと会いたかったんだ。
姉さん、俺は..
「っ!」
目を覚ました瞬間、
炭治郎は時が止まったかのような感覚に陥る。
咄嗟に身体を捻り敵の攻撃を避けたのだが、奴の腕は既に斬り落とされていた。
懐かしい匂いがする...
そんな、あり得ない
ましてやこんな場所に居るはずもない
なのに
「...日向子姉さん」
頭上を見上げた時、垂衣の裾が舞った。
月明かりを背にたなびく絹糸のような髪と、
きらめく刀の切っ先が、炭治郎の視界に写る。
「私の弟に、手を出すな化け物っー!」
鮮やかに鬼の身体が宙に舞う。
炭治郎はへたりとその場に膝をついていたが、
即座に刀を構え直して援護するように
間合いをつめる。
土壌からの気配に気づいた炭治郎は瞬時に飛び上がったが、彼女は一瞬動作が遅れた。
突き出た腕に片足を取られ、痛みに顔を歪める。
「っぁ!..」
悲痛な日向子姉さんの叫びを聞いた時、
再び激しい怒りの感情に蝕まれていく。
でも、単純なそれでは彼女を守る事は出来ないんだ。
冷静になれ炭治郎。
大切なものを守れる力を
手に入れろ
「日向子姉さんを、離せっーーーーっ!!」
空中で
相当防御に自信があるのか攻撃態勢には入らない。
ここで
ーーー討ち取るーーー
全集中 水の呼吸
壱ノ型 水面斬り‼
「あぁぁぁぁっーー!!!」
今まで決して刃を突き立てることの出来なかった硬化な鬼の頚を、炭治郎の刃が斬り裂く。
鬼の身体はボロボロと崩れていった。
炭治郎の捨身の攻撃によって開放され、一部始終を目の当たりにした日向子は、その光景を涙ぐみながら見届けた。
「強くなったのね、炭治郎。」
せっかく追い付いたと思ったけど
やっぱり炭治郎は凄い子だね
ーーーーー