◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜184【途絶えぬ焔】〜
「お前も鬼になったらどうだ?妹の為にも。それがいい、そうしたら助けてやるよ【仲間】だからなぁ」
お兄ちゃんいい加減にしてよと叫ぶ墜姫の言葉には耳を貸さずに、妓夫太郎は炭治郎をただ見つめる。
日寄の言葉を裏切った罪から目を背けるように
どん底に落ち切った自分の道連れとするかのように...
彼女と出会ったその時から、勘付いていたんだ。
俺とは生きる世界がそもそも違うと。
日寄は綺麗だった。
見てくれの問題以前に、心が清らかで強い人だったのだ。
血縁を継いだ子孫が今俺の手にいると言うことは、彼女は吉原の街を出て、いい人と出会い、子を成したのだろう。
当たり前だ。
世界はそういう風にも出来ている。
ー俺は単に嫉妬してるんだろうー
道を誤って落ちぶれて、日の下を歩けなくなった自分に劣等感を抱き、かたやこの少年のように正義感を胸に人々から尊敬される者達がいる。
人間という脆く弱い存在にもかかわらず、強く清らかな心を持つ者達が、ただただ妬 ましい。
だから、なぁ...俺と同じ鬼に成り下がれ。
【最愛の人】から蔑 まれ失望されてしまえばいいのだ
バッと天を仰ぐ炭治郎を見て、ひひひとほくそ笑む。
「悔しいんだなぁ自分の弱さが、人は嘆く時天を仰ぐんだぜ。涙が溢れないようになぁ」
「俺は...俺は、【準備してたんだ】」
天を仰いだのは己の運命に嘆いていたからだと思っていた。しかし彼はその瞳に焔 を失っていなかった。
炭治郎は思い切り頭を振り被り、妓夫太郎に頭突きをかます。
「っ!」
大した攻撃ではないと思ったが、上手く動かせない体に気付き悟る。
こいつは...
ここまで力の差を見せつけても尚
揺らぎもしなかった、諦めていなかった。
独りきりなんだぞ
絶望的なこの状況下でっ
ドンッ!!
炭治郎は日輪刀の柄をしっかりと握り締め、ついに妓夫太郎の頚を捕らえた。
ー斬れろ!!斬れろ!!
必ず勝つんだ俺達はっ!!ー
絶対に皆で生きて帰ろうと言った日向子姉さんとの約束は叶わないかもしれない。
だが俺達は負けない。
彼等の意思は、まだ生きている俺が今、継がなければいけない。
謝ったり気負ってる暇があるくらいなら、身体が動くなら迷わず刃を振るえ!
【諦めちゃいけないんだ】
自分の命が大事なわけじゃない
例え立場が逆だったとしても変わりはない。
俺達の守るべき物は決まっている。
だからこそ、希望を失わずにいられるんだ
ーーーーー
〜185【太陽の女神】〜
炭治郎の意思に呼応するかのように善逸が瓦礫から
抜け出した。
捨身で千載一遇を作り出した..
友の攻撃を無駄にはしまいと彼もまた日輪刀を振り上げる。
ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃
技の速度を見切っている墜姫は、余裕の表情で返り討ちにすべく帯を操る。
しかし..それは彼女の先入観に過ぎなかった。
神速‼ー
「なっ!」
先程の比じゃない速度で加速した一太刀が、墜姫の頚を捕らえピリと帯に亀裂が走った。
思い掛けない反撃、お互い両者一歩も譲らぬ攻防戦。
しかし、僅差 の力で徐々に炭治郎らは劣勢に追い込まれていく。
あぁ、もうどう足掻いても後が無いと言うのにっ、
ガッ!!
「っ!」
血鎌の刃が炭治郎の喉笛 を掠めようとした瞬間、心臓が止まり倒れていた筈の宇随が現れ間一髪攻撃を防いだ。
激しい爆音爆風の中、妓夫太郎に掴まれていた日向子は戦禍 から投げ出される。
「譜面が完成した!!勝ちに行くぞぉぉぉっ!!!」
ここから炭治郎達の怒涛 の巻き返しが始まった。
皆、一見すると瀕死の状態だったにもかかわらず、各々が鬼の頚を討ち取る機会を伺い、一寸の狂いもない最善のタイミングで刀を再び手に取った。
妓夫太郎達が驚愕 するのも無理はなく、普通ならば有り得ない光景。
ー一体何が、彼等をここまで突き動かすのかー
鎌が宇随の頭を斬り裂く。
「宇随さんっ!!!」
「止まるな跳べェェェッ!!!」
炭治郎はダンッと地を蹴り日輪刀を構える。
しかし妓夫太郎にとってはあまりにも遅い攻撃で、上から振りかぶってくる彼の下顎を勢いよく鎌の切っ先が貫いた。
この体勢から思い切り刀を斬りつけるのは不可能。
振れば下顎が裂ける。
おまけに毒が回ればこいつは今度こそお陀仏。お終いだ。
いくら気力を振り絞ろうとも、ダメージの蓄積された体では
ガキンッ!
「っ!?」
七色に輝く真白の日輪刀が妓夫太郎の鎌を押し戻す。
じわりと滲み出る毒さえもシュウウと焼けるように蒸発していった。
あり得ない...ここに来てお前も【これ程の力】を
日向子の姿は暗い闇の中で一際輝きを放つようだった。
まるで、この世界の全ての禍を退ける力を持った、天岩戸 から現れし太陽の女神のように..
その右額には
鮮やかな痣 が浮き出ていた。
「私達は負けないっ!ここで断ち切って見せる!」
ーーーーー
〜186【終焉】〜
日向子の刀が炭治郎の顎を突き刺していた鎌をどろりと溶かし切る。
解放された炭治郎は思い切り振りかぶって妓夫太郎の頚に刀を突き立てた。
くそっ!
だがこの男は先程も俺の頚を切れなかった。
問題は何も..
ダンッと強い衝撃が重なる。
炭治郎の刀と交差するように日向子が妓夫太郎の頚へと日輪刀を重ね打った。
直後、連鎖するように炭治郎の日輪刀が、黒刀から赤色に爆ぜていく。
まるで深い眠りから目覚めたように、炭治郎の刀は息吹を返した。
彼の左額の痣が新たに形を変える。
唸 るような、太陽の紅炎にも似た痣が、自我を失わす程の強大な力を呼び起こす。
「「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」
まるで歯が立たなかった頚が、徐々に2人の手によって斬られ始めている。
ーまずい...ー
悪夢のような展開に焦りを覚えるも、まだ妹の頚が繋がっていれば良いと、妓夫太郎はそちらを始末すべく墜姫の眼に乗り移った。
「アンタが私の頚を切るより早く私がアンタを細切れにするわっ
しかしここにも思わぬ横入りが入ってしまう。
妓夫太郎が心臓を一突きした筈の猪頭の鬼狩り。
彼もまた転んでもただでは起きない、並外れた身体能力と強靭な魂の持ち主であった。
「俺の体の柔らかさをみくびるんじゃねぇ!!内臓をズラすなんてお茶の子さいさいだぜ!険しい山で育った俺には毒もぎがねぇ!」
ー効いてない筈ないだろうがっー
ごふりと血を吐き出す伊之助を見て、墜姫はついそう叫びたくなる。どいつもこいつも人間離れした奇人ばかり、何なのもうっ正気の沙汰じゃない
それぞれの刀が火を噴いて、今この瞬間の一撃に全集中を込めた。
格上の敵に対して、何度も何度も追い詰められて、その度にギリギリの所で誰かが繋いできた。守り守られ、奪われ傷付けられた物は計り知れない。
だからこそ
もうここで終わらせよう
【こんな悲劇はもう】
ほぼ同時期に彼等の刀は振り切られる。
宙を舞いゴロゴロと地を転がる2人の鬼の頚は、ようやく訪れた、長い今宵の終焉 を示していた。
「やったー!斬りましたよ鬼の頚を!」
有頂天で騒ぐ須磨に突っ込みを入れるまきを。そして満更でもなくグラグラと肩を揺すられていた雛鶴だったが、彼等の様子に違和感を覚える。
「何か様子が変だわ」
ーーーーー
〜187【満ち足りた幸せ】〜
はぁはぁと短い細切れの呼吸音。炭治郎は己を急速に蝕 む毒の気配を感じ取る。
ーまずい..何とか..
呼吸で毒を、毒が回るのを遅らせないと..ー
烈しい目眩に襲われながらも呼吸を必死に正そうとした時、目の前に日向子姉さんが現れ炭治郎の下顎を手の平で抑え込む。
「大丈夫だからね。死なせないから、私が絶対に」
にわかには信じ難いが、彼女の温もりが徐々に鬼の毒を灼き溶かしていく。
痛みすらもう感じているのかいないのかわからないくらいには、神経がズタボロにされているにもかかわらず、触れられている箇所から暖かさを感じる。
しかし皮肉にも、炭治郎自身の呼吸による血の巡りによって全身に回りつつある毒ばかりは、それでも払いきれない。
あぁ...日向子姉さんの顔が、霞 んできたな
今貴女は、どんな顔をしているんだ?
それすらだんだん
わからなく...
はむと唇に柔らかい感触が広がる。
それが、彼女の唇だと気付くのには、不思議とそう時間はかからなかったように思える。
少しの隙間もなく当てられた口。一切漏らす事なく、彼女の息が、肺一杯に入り込んでくる。
全身に暖かさが広がっていくようだ。
なんだか凄く気持ちが良くて、無意識に涙が頬を伝った。
身体はボロボロでも、こんなにも幸せで満ち足りた瞬間が、この世に存在するのかと思った。
あぁでも、なんて勿体無いんだろうって考えてしまう。
よりにもよって、いつもこんな時なんだろう。
血の味はするし、感覚は麻痺してるし、
本当ならもっと味わいたい、彼女の香りも今は...
せっかくの愛している人との口吸いだと言うのに、この様だ。情けないなぁ...
遠い場所で、宇随さんがこちらに向かって何かを叫んだ。
もう鬼の頚をとったのに、何故そんな焦った顔をしてるんですか?ひょっとして、斬れてなかったですか?..
外の音は凄まじさを増していた。
それに気付いていない日向子でもなかった。
彼の毒を中和している最中だと言うのに、この期に及んでまだ暴れたらないと言うのか。
日向子は炭治郎を守るように上から覆いかぶさった。
最後の牙だと言わんばかりに、四方八方に広がる血の鎌は、炭治郎達を八つ裂きにせんとわななく。
ーでも
貴方達の思い通りにはなってやらないー
どんなに殺傷能力を伴った攻撃であっても、血鬼術である以上は、今の日向子には効かない。
血鎌はただただ滴り崩れ落ちていった。
ーーーーー
「お前も鬼になったらどうだ?妹の為にも。それがいい、そうしたら助けてやるよ【仲間】だからなぁ」
お兄ちゃんいい加減にしてよと叫ぶ墜姫の言葉には耳を貸さずに、妓夫太郎は炭治郎をただ見つめる。
日寄の言葉を裏切った罪から目を背けるように
どん底に落ち切った自分の道連れとするかのように...
彼女と出会ったその時から、勘付いていたんだ。
俺とは生きる世界がそもそも違うと。
日寄は綺麗だった。
見てくれの問題以前に、心が清らかで強い人だったのだ。
血縁を継いだ子孫が今俺の手にいると言うことは、彼女は吉原の街を出て、いい人と出会い、子を成したのだろう。
当たり前だ。
世界はそういう風にも出来ている。
ー俺は単に嫉妬してるんだろうー
道を誤って落ちぶれて、日の下を歩けなくなった自分に劣等感を抱き、かたやこの少年のように正義感を胸に人々から尊敬される者達がいる。
人間という脆く弱い存在にもかかわらず、強く清らかな心を持つ者達が、ただただ
だから、なぁ...俺と同じ鬼に成り下がれ。
【最愛の人】から
バッと天を仰ぐ炭治郎を見て、ひひひとほくそ笑む。
「悔しいんだなぁ自分の弱さが、人は嘆く時天を仰ぐんだぜ。涙が溢れないようになぁ」
「俺は...俺は、【準備してたんだ】」
天を仰いだのは己の運命に嘆いていたからだと思っていた。しかし彼はその瞳に
炭治郎は思い切り頭を振り被り、妓夫太郎に頭突きをかます。
「っ!」
大した攻撃ではないと思ったが、上手く動かせない体に気付き悟る。
こいつは...
ここまで力の差を見せつけても尚
揺らぎもしなかった、諦めていなかった。
独りきりなんだぞ
絶望的なこの状況下でっ
ドンッ!!
炭治郎は日輪刀の柄をしっかりと握り締め、ついに妓夫太郎の頚を捕らえた。
ー斬れろ!!斬れろ!!
必ず勝つんだ俺達はっ!!ー
絶対に皆で生きて帰ろうと言った日向子姉さんとの約束は叶わないかもしれない。
だが俺達は負けない。
彼等の意思は、まだ生きている俺が今、継がなければいけない。
謝ったり気負ってる暇があるくらいなら、身体が動くなら迷わず刃を振るえ!
【諦めちゃいけないんだ】
自分の命が大事なわけじゃない
例え立場が逆だったとしても変わりはない。
俺達の守るべき物は決まっている。
だからこそ、希望を失わずにいられるんだ
ーーーーー
〜185【太陽の女神】〜
炭治郎の意思に呼応するかのように善逸が瓦礫から
抜け出した。
捨身で千載一遇を作り出した..
友の攻撃を無駄にはしまいと彼もまた日輪刀を振り上げる。
ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃
技の速度を見切っている墜姫は、余裕の表情で返り討ちにすべく帯を操る。
しかし..それは彼女の先入観に過ぎなかった。
神速‼ー
「なっ!」
先程の比じゃない速度で加速した一太刀が、墜姫の頚を捕らえピリと帯に亀裂が走った。
思い掛けない反撃、お互い両者一歩も譲らぬ攻防戦。
しかし、
あぁ、もうどう足掻いても後が無いと言うのにっ、
ガッ!!
「っ!」
血鎌の刃が炭治郎の
激しい爆音爆風の中、妓夫太郎に掴まれていた日向子は
「譜面が完成した!!勝ちに行くぞぉぉぉっ!!!」
ここから炭治郎達の
皆、一見すると瀕死の状態だったにもかかわらず、各々が鬼の頚を討ち取る機会を伺い、一寸の狂いもない最善のタイミングで刀を再び手に取った。
妓夫太郎達が
ー一体何が、彼等をここまで突き動かすのかー
鎌が宇随の頭を斬り裂く。
「宇随さんっ!!!」
「止まるな跳べェェェッ!!!」
炭治郎はダンッと地を蹴り日輪刀を構える。
しかし妓夫太郎にとってはあまりにも遅い攻撃で、上から振りかぶってくる彼の下顎を勢いよく鎌の切っ先が貫いた。
この体勢から思い切り刀を斬りつけるのは不可能。
振れば下顎が裂ける。
おまけに毒が回ればこいつは今度こそお陀仏。お終いだ。
いくら気力を振り絞ろうとも、ダメージの蓄積された体では
ガキンッ!
「っ!?」
七色に輝く真白の日輪刀が妓夫太郎の鎌を押し戻す。
じわりと滲み出る毒さえもシュウウと焼けるように蒸発していった。
あり得ない...ここに来てお前も【これ程の力】を
日向子の姿は暗い闇の中で一際輝きを放つようだった。
まるで、この世界の全ての禍を退ける力を持った、
その右額には
鮮やかな
「私達は負けないっ!ここで断ち切って見せる!」
ーーーーー
〜186【終焉】〜
日向子の刀が炭治郎の顎を突き刺していた鎌をどろりと溶かし切る。
解放された炭治郎は思い切り振りかぶって妓夫太郎の頚に刀を突き立てた。
くそっ!
だがこの男は先程も俺の頚を切れなかった。
問題は何も..
ダンッと強い衝撃が重なる。
炭治郎の刀と交差するように日向子が妓夫太郎の頚へと日輪刀を重ね打った。
直後、連鎖するように炭治郎の日輪刀が、黒刀から赤色に爆ぜていく。
まるで深い眠りから目覚めたように、炭治郎の刀は息吹を返した。
彼の左額の痣が新たに形を変える。
「「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」
まるで歯が立たなかった頚が、徐々に2人の手によって斬られ始めている。
ーまずい...ー
悪夢のような展開に焦りを覚えるも、まだ妹の頚が繋がっていれば良いと、妓夫太郎はそちらを始末すべく墜姫の眼に乗り移った。
「アンタが私の頚を切るより早く私がアンタを細切れにするわっ
しかしここにも思わぬ横入りが入ってしまう。
妓夫太郎が心臓を一突きした筈の猪頭の鬼狩り。
彼もまた転んでもただでは起きない、並外れた身体能力と強靭な魂の持ち主であった。
「俺の体の柔らかさをみくびるんじゃねぇ!!内臓をズラすなんてお茶の子さいさいだぜ!険しい山で育った俺には毒もぎがねぇ!」
ー効いてない筈ないだろうがっー
ごふりと血を吐き出す伊之助を見て、墜姫はついそう叫びたくなる。どいつもこいつも人間離れした奇人ばかり、何なのもうっ正気の沙汰じゃない
それぞれの刀が火を噴いて、今この瞬間の一撃に全集中を込めた。
格上の敵に対して、何度も何度も追い詰められて、その度にギリギリの所で誰かが繋いできた。守り守られ、奪われ傷付けられた物は計り知れない。
だからこそ
もうここで終わらせよう
【こんな悲劇はもう】
ほぼ同時期に彼等の刀は振り切られる。
宙を舞いゴロゴロと地を転がる2人の鬼の頚は、ようやく訪れた、長い今宵の
「やったー!斬りましたよ鬼の頚を!」
有頂天で騒ぐ須磨に突っ込みを入れるまきを。そして満更でもなくグラグラと肩を揺すられていた雛鶴だったが、彼等の様子に違和感を覚える。
「何か様子が変だわ」
ーーーーー
〜187【満ち足りた幸せ】〜
はぁはぁと短い細切れの呼吸音。炭治郎は己を急速に
ーまずい..何とか..
呼吸で毒を、毒が回るのを遅らせないと..ー
烈しい目眩に襲われながらも呼吸を必死に正そうとした時、目の前に日向子姉さんが現れ炭治郎の下顎を手の平で抑え込む。
「大丈夫だからね。死なせないから、私が絶対に」
にわかには信じ難いが、彼女の温もりが徐々に鬼の毒を灼き溶かしていく。
痛みすらもう感じているのかいないのかわからないくらいには、神経がズタボロにされているにもかかわらず、触れられている箇所から暖かさを感じる。
しかし皮肉にも、炭治郎自身の呼吸による血の巡りによって全身に回りつつある毒ばかりは、それでも払いきれない。
あぁ...日向子姉さんの顔が、
今貴女は、どんな顔をしているんだ?
それすらだんだん
わからなく...
はむと唇に柔らかい感触が広がる。
それが、彼女の唇だと気付くのには、不思議とそう時間はかからなかったように思える。
少しの隙間もなく当てられた口。一切漏らす事なく、彼女の息が、肺一杯に入り込んでくる。
全身に暖かさが広がっていくようだ。
なんだか凄く気持ちが良くて、無意識に涙が頬を伝った。
身体はボロボロでも、こんなにも幸せで満ち足りた瞬間が、この世に存在するのかと思った。
あぁでも、なんて勿体無いんだろうって考えてしまう。
よりにもよって、いつもこんな時なんだろう。
血の味はするし、感覚は麻痺してるし、
本当ならもっと味わいたい、彼女の香りも今は...
せっかくの愛している人との口吸いだと言うのに、この様だ。情けないなぁ...
遠い場所で、宇随さんがこちらに向かって何かを叫んだ。
もう鬼の頚をとったのに、何故そんな焦った顔をしてるんですか?ひょっとして、斬れてなかったですか?..
外の音は凄まじさを増していた。
それに気付いていない日向子でもなかった。
彼の毒を中和している最中だと言うのに、この期に及んでまだ暴れたらないと言うのか。
日向子は炭治郎を守るように上から覆いかぶさった。
最後の牙だと言わんばかりに、四方八方に広がる血の鎌は、炭治郎達を八つ裂きにせんとわななく。
ーでも
貴方達の思い通りにはなってやらないー
どんなに殺傷能力を伴った攻撃であっても、血鬼術である以上は、今の日向子には効かない。
血鎌はただただ滴り崩れ落ちていった。
ーーーーー