◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜180【苛烈なる戦い】〜
宇随さんは帯に巻かれて近づけない。
俺がやらなきゃ..俺が
ヒノカミ神楽なら一瞬で辿り着ける。
でも、もう発動できる体力が..一体どうしたらいいのか、今の俺に出来る最大は
【いっそのこと星の呼吸と巫の異能を混ぜてみたらいいんじゃないかなーって思ったの】
修行中の、日向子姉さんの何気ない言葉を思い出す。
そうだ、彼女は自分に合った呼吸法を見出していた。
それぞれの弱点と特性を見極め、過去の剣士達も、きっとそうやって己に合った呼吸法を生み出してきたのだ。
炭治郎はぐっと足を踏み締めた。
ーやるしかないー
ダンッ
炭治郎が地を蹴った気配を感じ、日向子は追うように天を仰いだ。
その時視界に入ったのは、流れるような水とそれを取り巻く紅炎の渦だった。
決して織りなす事のない2つの精力。
相容れない(運命 。
けれど、各々が持つ長所もあり、炭治郎はそれを上手く操って見せたのだ。
一見単純に見えるが、自然界において
その【行為】は神々の御技 であり
創造主のみ成し得るもの
「...凄い..」
無意識のうちにそう言葉が漏れた。
この【力】に私も影響されたいと、そう強く願い体が打ち震える気がした。
けれど、そろそろ限界か....
止血していた裂傷箇所からは再び血が滲み出ており、玖ノ型の効果は消滅して暗闇に戻っている。
巫の異能は、仮に使用出来たとしても効果は薄いか持続しないかのどちらかだろう。上弦にとっては蚊がさす程度かも知れない。
炭治郎は、出来る最大の事を成し遂げた。
なら私も...
間一髪、妓夫太郎が雛鶴の喉を掻っ切る前に救う事に成功した炭治郎は、焼けるような肺の痛みに顔を歪めながらも何とか構えの体勢を保つ。
しかし容赦なく敵は攻撃を仕掛けてくる。
意表を突かれた鬼は、目の前の炭治郎しか見えていない。
「竈門炭治郎!お前に感謝する!」
「っ!」
背後から宇随が日輪刀を振るい頚を捉える。
炭治郎も素早く反応し、両方向から刃が迫った。
ガキィィィン!!
「くそっ、しぶと過ぎるんだよてめぇは!!」
あと一歩のところで防がれてしまう。怒りの余り宇随が吠えるが、妓夫太郎はにたりと笑うとビリビリ鎌を震わし始めた。
「っ竈門踏ん張れ!!」
宇随は炭治郎達に攻撃が向かないよう逸らしてくれた。しかし休む間も無く、伊之助達が帯の攻撃を避けると共にこちらへ雪崩れ込んできた。
事態は極めて苛烈 、かつ深刻だった。
ーーーーー
〜181【漲る】〜
「作戦変更を余儀なくされてるぜ!こっちは3人で、カマキリ鬼はおっさん一人で頑張って貰うしかねぇ!」
「鎌の鬼よりこっちの方が弱い!まずこっちの頚を切ろう!炭治郎まだ動けるか?」
当初の予定より大幅に時間がかかり過ぎた。
このまま戦闘を続けても確実に人の身であるこちらが不利だ。
宇随さんの方が気掛かりだが、致し方無い..
「あはは!だんだん動きが鈍くなってきてるわね!誰が最初に潰れるのかしらー?」
高みの見物だとでも言うように甲高い笑い声を上げる墜姫を見て、伊之助はやるせなさに唇を噛む。
宇随達はもうボロボロの状態だ。ほぼ無傷の自分と善逸がやらなければ
ほんの僅か
それでも、帯の攻撃対象が炭治郎にも向いたことで動きが緩くなった気がした。
「この鬼の頚は柔らか過ぎて斬れない!相当な速度もしくは複数の方向から斬らないと駄目だ!」
よしっ...!
「複数の方向なら二刀流の俺様に任せろコラァ!!」
伊之助は攻撃にのみ専念し、それを炭治郎と善逸が援護する形をとる。
「獣の呼吸 捌ノ牙 爆裂猛進‼」
「水の呼吸 参ノ型 流流舞い‼」
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・八連‼」
一斉にそれぞれの呼吸を放ち敵を追い詰めていく。その時だった。
「星の呼吸 壱ノ型
森羅万象・創世 の大樹 ‼」
!!
凄まじい勢いで光輝く大木 が、まるで炭治郎達の呼吸の波動をエネルギーとするかのように巻き込み大きく広がっていく。
炭治郎は不思議な感覚に囚われた、
こんなにも体はボロボロで重いけれど、体の芯から力が漲 るようで、羽が生えたように軽くなったのだ。
例えるならば、この星の一部と己が一体化したようなそんな感覚。
あっという間に帯は日向子の放った木々に引き裂かれ搾り取られる。
枝は墜姫本体にも迫りギュルギュルと絡み付いた。
びくともせず完全に動きを封じられた彼女は、
一寸先に迫った伊之助の威圧感にたじろぐ。
「獣の呼吸 陸ノ牙 乱杭っ!!」
伊之助が荒々しく墜姫の頚を刈り取った
やった...
日向子は伊之助が鬼の頚を取った様子を見て歓喜する。一か八かで放った壱ノ型の応用が上手くいった。
炭治郎のお陰だ。
放った大木は同時に鎌鬼にも伸びていった。
宇随様の音の波動を取り込めば、この闘いは私達の...
ーえ?ー
最後に見たのは、妓夫太郎が目の前で鎌を振りかざしている姿だった
ーーーーー
〜182【悪夢か吉夢か】〜
「俺はとりあえず頚持って逃げ回るからな!お前らはおっさんに加勢しろ!」
墜姫の頚を抱え込み猛スピードで去っていく伊之助。
どうやら日向子姉さんのこの呼吸は、発動中は大木の具現化を保つらしく、胴体と帯は依然として動きを封じられている。
「日向子さんの星の呼吸か..凄いな。なんだか体が熱くなる感じだ。呼吸が楽になった。まるで酸素を直接肺に取り込んでるみたいだ」
「あぁ..俺も同じだ。凄い」
彼女のこの呼吸は炭治郎達に有利に働く。
ボーッとしては居られない。宇随さん達に加勢しなければ
その時、突如大樹が崩れ去った。
同時に体は鉛 のように重くなり、忘れていた体の痛みが蘇る。
ーこれはー
急いで彼女の方に目を向けると、前に倒れ込んでいる姿が目に入った。炭治郎はさぁっと血の気が引いていく。
「日向子姉さんっ!!」
「伊之助っー!!」
炭治郎と善逸の叫び声はほぼ同時で、暗くてはっきりとは見えないが、伊之助は鎌鬼に後ろから胸辺りを貫かれていた。
まずい、毒にやられる。いや、その前に傷の場所が悪い。心臓?だとしたら伊之助は..
何でだ..何が起きている
宇随さんはっ
戦闘を行なっていた場所を見る。目に映ったのは、腕はもがれ血だらけで倒れている変わり果てた彼の姿だった。
炭治郎は絶望感に苛 まれた。
状況は転じて最悪だ
「炭治郎危ない!」
「っ!」
自由を取り戻した帯が再度暴れ始め、炭治郎を狙う。善逸が咄嗟に駆け寄り、間一髪接触を防いだものの、攻撃は建物を切断し、足元から二人は崩れ落ちて行った..
俺のせいだ
皆、俺が弱いばかりに巻き込んだ、守れなかった。
ごめんな、日向子姉さん
ごめんな、禰豆子
「謝らないでよお兄ちゃん」
禰豆子..怒ってるのか
「精一杯頑張って駄目だったんだから仕方ないじゃない。人間なんだから、誰でも何でも思い通りには行かないわ。幸せかどうかは自分で決める。大切なのは、今なんだよ。前を向こう、一緒に闘おうよ。お兄ちゃんなら、【私の気持ち】を分かってよ」
目に涙を溜めながらそう訴える妹を見て、酷く情けない気持ちになった。
俺は..勝手に否定して、勝手に責任を背負って
そんなのは独りよがりだ..
禰豆子に寄り添うように微笑みながら日向子姉さんが口を開く。
「約束したじゃない炭治郎。あなたの道を辿らせて欲しい、共に在ろうって。何があっても、私は貴方の味方だし受け入れる。だから諦めないで」
ーーーーー
〜183【哀れな利己主義】〜
...
禰豆子と日向子姉さんが夢の中で語りかけてくる...
あれ?でも俺は今
「っ!」
意識を取り戻したが、現実世界の状況に頭が追いつかない。
ただ、酷いめまいと痺れのみが徐々に最悪な展開を呼び起こしていく。
「何だお前、まだ生きてんのか?運のいい奴だなぁ」
ゆっくり首を上げると、妓夫太郎が死にかけの鼠を見るような眼差しで見下ろしていた。しかしそれよりも、彼がその手に掴んでいる物を見て絶望する。
「..っ..日向子姉さん」
まるで死んだ獣の首根っこを掴むように引きずられている。
本当ならば掴みかかって声を張り上げたいのに、思うように動かせない己の体に悔しさを覚える。
麻痺した神経では、彼女が生きているのか死んでいるのかすらわからない。
そんな炭治郎を妓夫太郎は哀れんだ。
「可哀想になぁ。お前以外の奴はもう駄目だろうしな、信頼してる仲間は皆お陀仏だ。ただ..こいつは生かしてやる。不本意だがなぁ」
「!」
そう言って日向子の顔をぐいと掴んで見せる。
意識はない。けれど..生かすという事は殺してはいないのか。
良かった..良かった、けれど何故
「ちょっとお兄ちゃん!私聞いてないわよ!【あの方】の命令に背くの?冗談じゃないわ、私達が殺されちゃうじゃない!」
焦ったように声を荒げる墜姫に対して、妓夫太郎がギロリとした目を向けると彼女はぐっと言葉をつぐんだ。
「何よ...。まだあの女の事忘れられないのお兄ちゃん。もう仕方ないじゃない!私達は鬼なのよ、こいつらは鬼狩り、皆私達の敵なのよ。その小娘に重ねてるの?【同じ巫一族】だからって!」
ー巫一族...ー
炭治郎はその言葉に反応した。
妓夫太郎は黙ったまま動かない。
先刻、彼は殺すつもりで日向子の目の前で鎌を振り上げた。
その瞬間彼女は大きく目を見開いたが、直後、人格が変わったように目を細めこう言ったのだ。
「何故鬼になってしまったの」
鎌が突き刺さるすんでの所で妓夫太郎はピタリと動きを止めた。
「...日寄」
その名前で呼ぶと、彼女はゆっくりと首を縦に振った。
彼女は悲しげな眼差しを向けた。
その顔を見たら、どうしても居た堪れず気絶させてしまったのだ。
やめろ..そんな目で見ないでくれ日寄。
あんたの思うような人になれたら、どんなに良かっただろうか。
でももう俺は後戻り出来ねぇ所まで来ちまった。
だけどどうしても、あんただけは手に掛けられない。
なら、お天道を闇に染め上げるしかないだろう
ーーーーー
宇随さんは帯に巻かれて近づけない。
俺がやらなきゃ..俺が
ヒノカミ神楽なら一瞬で辿り着ける。
でも、もう発動できる体力が..一体どうしたらいいのか、今の俺に出来る最大は
【いっそのこと星の呼吸と巫の異能を混ぜてみたらいいんじゃないかなーって思ったの】
修行中の、日向子姉さんの何気ない言葉を思い出す。
そうだ、彼女は自分に合った呼吸法を見出していた。
それぞれの弱点と特性を見極め、過去の剣士達も、きっとそうやって己に合った呼吸法を生み出してきたのだ。
炭治郎はぐっと足を踏み締めた。
ーやるしかないー
ダンッ
炭治郎が地を蹴った気配を感じ、日向子は追うように天を仰いだ。
その時視界に入ったのは、流れるような水とそれを取り巻く紅炎の渦だった。
決して織りなす事のない2つの精力。
相容れない(
けれど、各々が持つ長所もあり、炭治郎はそれを上手く操って見せたのだ。
一見単純に見えるが、自然界において
その【行為】は神々の
創造主のみ成し得るもの
「...凄い..」
無意識のうちにそう言葉が漏れた。
この【力】に私も影響されたいと、そう強く願い体が打ち震える気がした。
けれど、そろそろ限界か....
止血していた裂傷箇所からは再び血が滲み出ており、玖ノ型の効果は消滅して暗闇に戻っている。
巫の異能は、仮に使用出来たとしても効果は薄いか持続しないかのどちらかだろう。上弦にとっては蚊がさす程度かも知れない。
炭治郎は、出来る最大の事を成し遂げた。
なら私も...
間一髪、妓夫太郎が雛鶴の喉を掻っ切る前に救う事に成功した炭治郎は、焼けるような肺の痛みに顔を歪めながらも何とか構えの体勢を保つ。
しかし容赦なく敵は攻撃を仕掛けてくる。
意表を突かれた鬼は、目の前の炭治郎しか見えていない。
「竈門炭治郎!お前に感謝する!」
「っ!」
背後から宇随が日輪刀を振るい頚を捉える。
炭治郎も素早く反応し、両方向から刃が迫った。
ガキィィィン!!
「くそっ、しぶと過ぎるんだよてめぇは!!」
あと一歩のところで防がれてしまう。怒りの余り宇随が吠えるが、妓夫太郎はにたりと笑うとビリビリ鎌を震わし始めた。
「っ竈門踏ん張れ!!」
宇随は炭治郎達に攻撃が向かないよう逸らしてくれた。しかし休む間も無く、伊之助達が帯の攻撃を避けると共にこちらへ雪崩れ込んできた。
事態は極めて
ーーーーー
〜181【漲る】〜
「作戦変更を余儀なくされてるぜ!こっちは3人で、カマキリ鬼はおっさん一人で頑張って貰うしかねぇ!」
「鎌の鬼よりこっちの方が弱い!まずこっちの頚を切ろう!炭治郎まだ動けるか?」
当初の予定より大幅に時間がかかり過ぎた。
このまま戦闘を続けても確実に人の身であるこちらが不利だ。
宇随さんの方が気掛かりだが、致し方無い..
「あはは!だんだん動きが鈍くなってきてるわね!誰が最初に潰れるのかしらー?」
高みの見物だとでも言うように甲高い笑い声を上げる墜姫を見て、伊之助はやるせなさに唇を噛む。
宇随達はもうボロボロの状態だ。ほぼ無傷の自分と善逸がやらなければ
ほんの僅か
それでも、帯の攻撃対象が炭治郎にも向いたことで動きが緩くなった気がした。
「この鬼の頚は柔らか過ぎて斬れない!相当な速度もしくは複数の方向から斬らないと駄目だ!」
よしっ...!
「複数の方向なら二刀流の俺様に任せろコラァ!!」
伊之助は攻撃にのみ専念し、それを炭治郎と善逸が援護する形をとる。
「獣の呼吸 捌ノ牙 爆裂猛進‼」
「水の呼吸 参ノ型 流流舞い‼」
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・八連‼」
一斉にそれぞれの呼吸を放ち敵を追い詰めていく。その時だった。
「星の呼吸 壱ノ型
森羅万象・
!!
凄まじい勢いで光輝く
炭治郎は不思議な感覚に囚われた、
こんなにも体はボロボロで重いけれど、体の芯から力が
例えるならば、この星の一部と己が一体化したようなそんな感覚。
あっという間に帯は日向子の放った木々に引き裂かれ搾り取られる。
枝は墜姫本体にも迫りギュルギュルと絡み付いた。
びくともせず完全に動きを封じられた彼女は、
一寸先に迫った伊之助の威圧感にたじろぐ。
「獣の呼吸 陸ノ牙 乱杭っ!!」
伊之助が荒々しく墜姫の頚を刈り取った
やった...
日向子は伊之助が鬼の頚を取った様子を見て歓喜する。一か八かで放った壱ノ型の応用が上手くいった。
炭治郎のお陰だ。
放った大木は同時に鎌鬼にも伸びていった。
宇随様の音の波動を取り込めば、この闘いは私達の...
ーえ?ー
最後に見たのは、妓夫太郎が目の前で鎌を振りかざしている姿だった
ーーーーー
〜182【悪夢か吉夢か】〜
「俺はとりあえず頚持って逃げ回るからな!お前らはおっさんに加勢しろ!」
墜姫の頚を抱え込み猛スピードで去っていく伊之助。
どうやら日向子姉さんのこの呼吸は、発動中は大木の具現化を保つらしく、胴体と帯は依然として動きを封じられている。
「日向子さんの星の呼吸か..凄いな。なんだか体が熱くなる感じだ。呼吸が楽になった。まるで酸素を直接肺に取り込んでるみたいだ」
「あぁ..俺も同じだ。凄い」
彼女のこの呼吸は炭治郎達に有利に働く。
ボーッとしては居られない。宇随さん達に加勢しなければ
その時、突如大樹が崩れ去った。
同時に体は
ーこれはー
急いで彼女の方に目を向けると、前に倒れ込んでいる姿が目に入った。炭治郎はさぁっと血の気が引いていく。
「日向子姉さんっ!!」
「伊之助っー!!」
炭治郎と善逸の叫び声はほぼ同時で、暗くてはっきりとは見えないが、伊之助は鎌鬼に後ろから胸辺りを貫かれていた。
まずい、毒にやられる。いや、その前に傷の場所が悪い。心臓?だとしたら伊之助は..
何でだ..何が起きている
宇随さんはっ
戦闘を行なっていた場所を見る。目に映ったのは、腕はもがれ血だらけで倒れている変わり果てた彼の姿だった。
炭治郎は絶望感に
状況は転じて最悪だ
「炭治郎危ない!」
「っ!」
自由を取り戻した帯が再度暴れ始め、炭治郎を狙う。善逸が咄嗟に駆け寄り、間一髪接触を防いだものの、攻撃は建物を切断し、足元から二人は崩れ落ちて行った..
俺のせいだ
皆、俺が弱いばかりに巻き込んだ、守れなかった。
ごめんな、日向子姉さん
ごめんな、禰豆子
「謝らないでよお兄ちゃん」
禰豆子..怒ってるのか
「精一杯頑張って駄目だったんだから仕方ないじゃない。人間なんだから、誰でも何でも思い通りには行かないわ。幸せかどうかは自分で決める。大切なのは、今なんだよ。前を向こう、一緒に闘おうよ。お兄ちゃんなら、【私の気持ち】を分かってよ」
目に涙を溜めながらそう訴える妹を見て、酷く情けない気持ちになった。
俺は..勝手に否定して、勝手に責任を背負って
そんなのは独りよがりだ..
禰豆子に寄り添うように微笑みながら日向子姉さんが口を開く。
「約束したじゃない炭治郎。あなたの道を辿らせて欲しい、共に在ろうって。何があっても、私は貴方の味方だし受け入れる。だから諦めないで」
ーーーーー
〜183【哀れな利己主義】〜
...
禰豆子と日向子姉さんが夢の中で語りかけてくる...
あれ?でも俺は今
「っ!」
意識を取り戻したが、現実世界の状況に頭が追いつかない。
ただ、酷いめまいと痺れのみが徐々に最悪な展開を呼び起こしていく。
「何だお前、まだ生きてんのか?運のいい奴だなぁ」
ゆっくり首を上げると、妓夫太郎が死にかけの鼠を見るような眼差しで見下ろしていた。しかしそれよりも、彼がその手に掴んでいる物を見て絶望する。
「..っ..日向子姉さん」
まるで死んだ獣の首根っこを掴むように引きずられている。
本当ならば掴みかかって声を張り上げたいのに、思うように動かせない己の体に悔しさを覚える。
麻痺した神経では、彼女が生きているのか死んでいるのかすらわからない。
そんな炭治郎を妓夫太郎は哀れんだ。
「可哀想になぁ。お前以外の奴はもう駄目だろうしな、信頼してる仲間は皆お陀仏だ。ただ..こいつは生かしてやる。不本意だがなぁ」
「!」
そう言って日向子の顔をぐいと掴んで見せる。
意識はない。けれど..生かすという事は殺してはいないのか。
良かった..良かった、けれど何故
「ちょっとお兄ちゃん!私聞いてないわよ!【あの方】の命令に背くの?冗談じゃないわ、私達が殺されちゃうじゃない!」
焦ったように声を荒げる墜姫に対して、妓夫太郎がギロリとした目を向けると彼女はぐっと言葉をつぐんだ。
「何よ...。まだあの女の事忘れられないのお兄ちゃん。もう仕方ないじゃない!私達は鬼なのよ、こいつらは鬼狩り、皆私達の敵なのよ。その小娘に重ねてるの?【同じ巫一族】だからって!」
ー巫一族...ー
炭治郎はその言葉に反応した。
妓夫太郎は黙ったまま動かない。
先刻、彼は殺すつもりで日向子の目の前で鎌を振り上げた。
その瞬間彼女は大きく目を見開いたが、直後、人格が変わったように目を細めこう言ったのだ。
「何故鬼になってしまったの」
鎌が突き刺さるすんでの所で妓夫太郎はピタリと動きを止めた。
「...日寄」
その名前で呼ぶと、彼女はゆっくりと首を縦に振った。
彼女は悲しげな眼差しを向けた。
その顔を見たら、どうしても居た堪れず気絶させてしまったのだ。
やめろ..そんな目で見ないでくれ日寄。
あんたの思うような人になれたら、どんなに良かっただろうか。
でももう俺は後戻り出来ねぇ所まで来ちまった。
だけどどうしても、あんただけは手に掛けられない。
なら、お天道を闇に染め上げるしかないだろう
ーーーーー