◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜176【男の矜恃】〜
ガキィィィンと鋭い金属音が響く。
肩で息をする日向子を横目に見て宇随は舌打ちした。
「ちっ..こっちは仕留め損なったぜ」
妓夫太郎は首から滴り落ちる血を拭い、宇随達へ視線を移した。
「お前もしかして気付いてるな?」
「何に?」
こちらの目論見がバレない様に攻め立てたつもりだったが、彼の頚を仕留め損なった時点でそれは水の泡となった。
...警戒される。
しかも、この毒はかなり強力で俺とした事が、正直どこまで身体が持つかわからない。
それでも、やり遂げなければならない。
ーこいつらの為にー
「俺らを忘れちゃいけねぇぜ!」
2人の姿を見た日向子は、安心した様にがくりと膝を折る。宇随は咄嗟に彼女の体を支えた。
みるみるうちに彼女の髪色と日輪刀が、元の紺桔梗色に染まっていく。
時間切れだー
疲労が半端ではない。胡蝶から話は聞いてはいたが、ここからまともに戦うのはまず難しいだろう。だが、良くやってくれた。
パラパラと上の階から瓦礫 が落ちてきて、続けて力強い脚で降り立って来たのは炭治郎。
彼は、宇随と日向子を守るようにして日輪刀を構える。
「...炭治郎」
彼女の声に答えるように、彼は柔らかい笑顔を向けた。
「待たせて済まなかった。今度は俺が守るから」
「はっ!!」
急に大きな声を上げ天を仰ぐ宇随に、その場にいた者はどきりとして彼を見る。
「どいつもこいつも、皆優秀な俺の継子だ!逃げねぇ根性、そして..」
宇随は炭治郎の頭をぐしゃりと撫でた。
「大切なものを守ろうという覚悟がある」
炭治郎は何かを悟ったように目を見開いた。
その空気を妓夫太郎が土足で踏みにじる。
「下っ端が何人来たところで幸せな未来なんて待ってねぇ、どうせ全員死ぬんだからなぁ」
「勝つぜ!俺達鬼殺隊は!」
「勝てないわよ!頼みの綱の柱が毒に侵されて、異能使いの小娘も使えなさそうじゃない!」
炭治郎は動揺する。2人の様子を見るに、かなりの死闘が繰り広げられていただろう事がわかる。まさか宇随さんが毒に、日向子姉さんもやはり巫の効力が切れている。
那田蜘蛛山の記憶が蘇り、嫌な汗が伝う。
そんな炭治郎の様子を見て彼女はからりと笑った。
「心配しないで、前の私とは違う。少し呼吸を整えればまた戦えるから」
日向子姉さん...
「竈門炭治郎、意地を見せろ!惚れた女は守りきれよ!」
「っな!...」
赤面する炭治郎に日向子を預けると、宇随は再び日輪刀をかざした。
ーーーーー
〜177【守れ】〜
宇随さんにはバレていた、俺が日向子姉さんの事..
はたと目線が彼女とかち合う。途端に耳がカっと熱くなり視線をそらした。
駄目だ、こんな時に動揺している場合じゃない。
彼女はしばらく動けないのだから、俺が守らないと。
日向子姉さんの肩をぎゅっと引き寄せた時、激しい地鳴りが響く。
敵の帯鬼が動き善逸を攫 ったのだ。
「善逸っ!!」
「こっちは俺と寝坊助丸に任せろ!お前らはそのカマキリを倒せ、わかったな!」
兄鬼と妹鬼、二手に分かれての戦闘が勃発 する。
宇随いわく、同時に頚を落とさなければ倒す事が出来ないと言うが
そうなると頚を斬るタイミングが非常に厄介だ。こちらの統制の取り方が重要になってくるけれど、日向子姉さんの壱ノ型が失われている今、付け焼き刃でどこまで対抗できるか..
自分にできる最大限で皆を守らねば、俺がここにいる意味はなくな
「っ!」
突如ぞわりと鳥肌が立つ。
一瞬にして間合いを詰めて来た鬼は、あろう事か動けない日向子姉さんの頚に狙いを定めてきた。
炭治郎は頭で動くよりも先に体を反応させ刀を引く。キィンと嫌な金属音が空気を震わし、鎌の切っ先を食い止めた。
「よく反応したなぁ、よっぽどその女が大事なのかぁ?...なら取り立ててやる。たてつく奴からは根こそぎ取り立ててやるぞ俺はぁ!」
辛うじて止めた攻撃が突如重くなり、力負けするのを炭治郎は悟る。
だが、ここで負けたら日向子姉さんがやられてしまうから、引く事なんて出来ない。
「ぐっ...」
重い...
それに、威圧感が凄くて正直、押さえているのだけでも精一杯だ
このままではまずい
押し返さなければ
その時急に襟首を掴み上げられ、日向子姉さん諸共ぐるんと上へ放り出される。
眼下には宇随さんと鎌鬼が激しい乱闘を繰り広げていた。
「動けない奴を先に狙うたぁお前...派手に狡いやつだな!」
「関係ねぇよ!いつだって悪知恵が働く奴が生き残る。世の中そういう風にしか出来てねぇんだよなぁ!」
炭治郎達はどさりと床に倒れ込む。
「っー日向子姉さんっ!」
顔を歪めてはいるものの彼女は意識がある。あれ以上の外傷も負ってない。少し安堵したが、休む間も無く帯の雨が降りかかる。
反射的に彼女を守るように覆いかぶさり日輪刀で塞ぐが..
くそっ、完全に足手まといだ。
敵は阿吽の呼吸なのに俺達ときたら、
日向子姉さんならもっと宇随さんの力を最大限に引き出せるのだろうか....
ーーーーー
〜178【最善の策】〜
墜姫が無数の帯を操り、兄の眼で識別した敵を建物を巻き込み切り刻む。
足下がぐらつき瓦礫が視界を阻 んだ。
宇随は多方面からの血鎌と帯を避けながら、妓夫太郎の攻撃を防いでいる。
このままでは毒に侵されている彼も危ない..
体が動く限り少しでもいいから、彼の助けとならなければと、炭治郎は焼けるような左肩の激痛に耐えながら日向子を右肩に持ち上げる。
この猛攻の中では、どうしても彼女を抱えながら戦うのは難しい。
どこか安全な場所に...
ガッ
「!っ」
見ると日向子姉さんが自分の羽織を掴んでいた。彼女はまだ瞳に強い生気を宿している。
でも、腕は傷口がずたずただし、隊服のあちらこちらからは血が滲んでいる。もしかすると炭治郎以上に外傷を負っているこんな状況で
それでも戦う気でいるのだ
「ありがとう炭治郎。もう大丈夫、闘える。」
彼女は炭治郎の腕から這 い出ると、彼の傷を辛そうに見つめた。
「ごめんね...漆ノ型を使ってあげたいところだけど
「使ってくれ」
炭治郎は彼女を真っ直ぐに見据えると、力強くこう告げる。
「日向子姉さんの漆ノ型なら、逆に【貴女の傷を俺に移し替える】事も出来るんだろう?
もし出来るならやってくれ。今1番宇随さんの助けになれるのは、日向子姉さんの力なんだ」
「炭治郎...それ本気で言ってるんだったr
「それに!貴女の傷なら俺はいくらだって
全てを伝え切る前に口を無理やり手の平で塞がれた。
なんて事を言うんだとばかりに、目の前の彼女は悔しげに眉根を寄せて、身体をふるふると震わせる。
「私の中にその選択肢は絶対ないわ。何があっても、貴方を傷つけてまでそんな事したくない。今度それ言ったら、怒るわよ炭治郎」
彼女は首を横に振りながらそう話す。泣きそうな目をしていた。
この状況で何が最善かどうかはわからない。
でもただ一つ、大切な人を傷つけたくない。
その思いだけは、炭治郎も日向子も、お互いが同様に思っていることだった。
「ごめん..浅はかだった、もう言わないから。
でも、早く宇随さんに助太刀しないと危ないんだ。伊之助と善逸も戦ってる」
お互い2人とも、既に無数の外傷を負っていて重症だ。異能もこの状態で発揮出来るか
どこまで出来るか..
【彼】の力を、私がどこまで引き出せるか..
ーそれでもやるしかないー
「わかった。炭治郎、もう少しだけ動けるかな。貴方の力が必要なの」
ーーーーー
〜179【満月に吠えろ】〜
くそっ!...
本体は勿論、帯と血の鎌も四方八方から攻撃を仕掛けてくる。それらを避けながら攻撃を相殺するので精一杯だ。
音柱ゆえに守備範囲の広い宇随でも、さすがに万全でない状態では攻めあぐねてしまう。
せめてもう一度日向子の壱ノ型と共闘出来れば...もしくは【譜面】さえ完成すれば
しかし現実は厳しく、彼女は力尽きて今は炭治郎に預けている。
俺が毒さえ食らってなけりゃあ...
今頃戦闘を終えていたはずが、情けねぇ。
「っ!」
背後から血鎌の攻撃が迫ってくる。
逃げ道がない
その時、炭治郎が間に入り込み鎌の攻撃をギリギリの所で受け流した。
呼吸の特徴を掴み、学んだ技術を叩き上げで我がモノにしている。成長速度には目を見張るものがあった。
しかし、彼は限界を超えている。それは、呼吸音が物語っていた。
ジャキ
屋根の上で何が(装填 される音が聞こえ、直後、雛鶴が幾つものクナイを一斉に鬼目掛けて放った。
大した攻撃ではないと一瞥した妓夫太郎だったが、咄嗟 に大がかりな血鬼術の発動に切り替える。
こちらの目的を勘づかれた事に宇随は舌打ちするも、想定の範囲内として、一瞬の隙をつきクナイを鬼の頸動脈へと突き刺した。
と同時に両脚を削ぎ落とす。
鬼の足は再生しない。
分解できない事はないだろうが、時間稼ぎ程度にはなってくれと雛鶴は願った。
妓夫太郎はすぐ様毒の分解に取り掛かったが、突如として猛烈な息苦しさと頭痛に襲われる。
「なんだ..」
ふと空を見上げると、真夜中のはずが白夜のように白んでいる。俺達鬼にとってみれば、異様な雰囲気だった。
墜姫の中で眠っていた時、この攻撃を俺は食らった。
ーあの女の能力かー
憎しみの篭った眼差しで、満月を背に現れたその対象を睨み付けたが、この好機を逃しはしまいと宇随と炭治郎が刃を振るう。
「ちっ...」
足の再生が間に合っていないが、刃を防ぐべく妓夫太郎は血鬼術を放つ。
広範囲に渡る無差別攻撃と悟り、宇随は咄嗟に炭治郎と日向子を諸共蹴り飛ばした。
数尺先の家屋に叩きつけられた炭治郎の元へ、後から日向子が折り重なるようにして飛ばされる。
「っぅ...ごめ、炭治郎」
「..っ...大丈夫か日向子姉さ..!」
屋根の上の光景を見た時、炭治郎は大きく目を見開いた。
鎌鬼が殺気を帯びた形相で、雛鶴の口を乱暴に塞いでいたのだ。
まずい..
また
ーまた目の前で人が殺されてしまうー
ーーーーー
ガキィィィンと鋭い金属音が響く。
肩で息をする日向子を横目に見て宇随は舌打ちした。
「ちっ..こっちは仕留め損なったぜ」
妓夫太郎は首から滴り落ちる血を拭い、宇随達へ視線を移した。
「お前もしかして気付いてるな?」
「何に?」
こちらの目論見がバレない様に攻め立てたつもりだったが、彼の頚を仕留め損なった時点でそれは水の泡となった。
...警戒される。
しかも、この毒はかなり強力で俺とした事が、正直どこまで身体が持つかわからない。
それでも、やり遂げなければならない。
ーこいつらの為にー
「俺らを忘れちゃいけねぇぜ!」
2人の姿を見た日向子は、安心した様にがくりと膝を折る。宇随は咄嗟に彼女の体を支えた。
みるみるうちに彼女の髪色と日輪刀が、元の紺桔梗色に染まっていく。
時間切れだー
疲労が半端ではない。胡蝶から話は聞いてはいたが、ここからまともに戦うのはまず難しいだろう。だが、良くやってくれた。
パラパラと上の階から
彼は、宇随と日向子を守るようにして日輪刀を構える。
「...炭治郎」
彼女の声に答えるように、彼は柔らかい笑顔を向けた。
「待たせて済まなかった。今度は俺が守るから」
「はっ!!」
急に大きな声を上げ天を仰ぐ宇随に、その場にいた者はどきりとして彼を見る。
「どいつもこいつも、皆優秀な俺の継子だ!逃げねぇ根性、そして..」
宇随は炭治郎の頭をぐしゃりと撫でた。
「大切なものを守ろうという覚悟がある」
炭治郎は何かを悟ったように目を見開いた。
その空気を妓夫太郎が土足で踏みにじる。
「下っ端が何人来たところで幸せな未来なんて待ってねぇ、どうせ全員死ぬんだからなぁ」
「勝つぜ!俺達鬼殺隊は!」
「勝てないわよ!頼みの綱の柱が毒に侵されて、異能使いの小娘も使えなさそうじゃない!」
炭治郎は動揺する。2人の様子を見るに、かなりの死闘が繰り広げられていただろう事がわかる。まさか宇随さんが毒に、日向子姉さんもやはり巫の効力が切れている。
那田蜘蛛山の記憶が蘇り、嫌な汗が伝う。
そんな炭治郎の様子を見て彼女はからりと笑った。
「心配しないで、前の私とは違う。少し呼吸を整えればまた戦えるから」
日向子姉さん...
「竈門炭治郎、意地を見せろ!惚れた女は守りきれよ!」
「っな!...」
赤面する炭治郎に日向子を預けると、宇随は再び日輪刀をかざした。
ーーーーー
〜177【守れ】〜
宇随さんにはバレていた、俺が日向子姉さんの事..
はたと目線が彼女とかち合う。途端に耳がカっと熱くなり視線をそらした。
駄目だ、こんな時に動揺している場合じゃない。
彼女はしばらく動けないのだから、俺が守らないと。
日向子姉さんの肩をぎゅっと引き寄せた時、激しい地鳴りが響く。
敵の帯鬼が動き善逸を
「善逸っ!!」
「こっちは俺と寝坊助丸に任せろ!お前らはそのカマキリを倒せ、わかったな!」
兄鬼と妹鬼、二手に分かれての戦闘が
宇随いわく、同時に頚を落とさなければ倒す事が出来ないと言うが
そうなると頚を斬るタイミングが非常に厄介だ。こちらの統制の取り方が重要になってくるけれど、日向子姉さんの壱ノ型が失われている今、付け焼き刃でどこまで対抗できるか..
自分にできる最大限で皆を守らねば、俺がここにいる意味はなくな
「っ!」
突如ぞわりと鳥肌が立つ。
一瞬にして間合いを詰めて来た鬼は、あろう事か動けない日向子姉さんの頚に狙いを定めてきた。
炭治郎は頭で動くよりも先に体を反応させ刀を引く。キィンと嫌な金属音が空気を震わし、鎌の切っ先を食い止めた。
「よく反応したなぁ、よっぽどその女が大事なのかぁ?...なら取り立ててやる。たてつく奴からは根こそぎ取り立ててやるぞ俺はぁ!」
辛うじて止めた攻撃が突如重くなり、力負けするのを炭治郎は悟る。
だが、ここで負けたら日向子姉さんがやられてしまうから、引く事なんて出来ない。
「ぐっ...」
重い...
それに、威圧感が凄くて正直、押さえているのだけでも精一杯だ
このままではまずい
押し返さなければ
その時急に襟首を掴み上げられ、日向子姉さん諸共ぐるんと上へ放り出される。
眼下には宇随さんと鎌鬼が激しい乱闘を繰り広げていた。
「動けない奴を先に狙うたぁお前...派手に狡いやつだな!」
「関係ねぇよ!いつだって悪知恵が働く奴が生き残る。世の中そういう風にしか出来てねぇんだよなぁ!」
炭治郎達はどさりと床に倒れ込む。
「っー日向子姉さんっ!」
顔を歪めてはいるものの彼女は意識がある。あれ以上の外傷も負ってない。少し安堵したが、休む間も無く帯の雨が降りかかる。
反射的に彼女を守るように覆いかぶさり日輪刀で塞ぐが..
くそっ、完全に足手まといだ。
敵は阿吽の呼吸なのに俺達ときたら、
日向子姉さんならもっと宇随さんの力を最大限に引き出せるのだろうか....
ーーーーー
〜178【最善の策】〜
墜姫が無数の帯を操り、兄の眼で識別した敵を建物を巻き込み切り刻む。
足下がぐらつき瓦礫が視界を
宇随は多方面からの血鎌と帯を避けながら、妓夫太郎の攻撃を防いでいる。
このままでは毒に侵されている彼も危ない..
体が動く限り少しでもいいから、彼の助けとならなければと、炭治郎は焼けるような左肩の激痛に耐えながら日向子を右肩に持ち上げる。
この猛攻の中では、どうしても彼女を抱えながら戦うのは難しい。
どこか安全な場所に...
ガッ
「!っ」
見ると日向子姉さんが自分の羽織を掴んでいた。彼女はまだ瞳に強い生気を宿している。
でも、腕は傷口がずたずただし、隊服のあちらこちらからは血が滲んでいる。もしかすると炭治郎以上に外傷を負っているこんな状況で
それでも戦う気でいるのだ
「ありがとう炭治郎。もう大丈夫、闘える。」
彼女は炭治郎の腕から
「ごめんね...漆ノ型を使ってあげたいところだけど
「使ってくれ」
炭治郎は彼女を真っ直ぐに見据えると、力強くこう告げる。
「日向子姉さんの漆ノ型なら、逆に【貴女の傷を俺に移し替える】事も出来るんだろう?
もし出来るならやってくれ。今1番宇随さんの助けになれるのは、日向子姉さんの力なんだ」
「炭治郎...それ本気で言ってるんだったr
「それに!貴女の傷なら俺はいくらだって
全てを伝え切る前に口を無理やり手の平で塞がれた。
なんて事を言うんだとばかりに、目の前の彼女は悔しげに眉根を寄せて、身体をふるふると震わせる。
「私の中にその選択肢は絶対ないわ。何があっても、貴方を傷つけてまでそんな事したくない。今度それ言ったら、怒るわよ炭治郎」
彼女は首を横に振りながらそう話す。泣きそうな目をしていた。
この状況で何が最善かどうかはわからない。
でもただ一つ、大切な人を傷つけたくない。
その思いだけは、炭治郎も日向子も、お互いが同様に思っていることだった。
「ごめん..浅はかだった、もう言わないから。
でも、早く宇随さんに助太刀しないと危ないんだ。伊之助と善逸も戦ってる」
お互い2人とも、既に無数の外傷を負っていて重症だ。異能もこの状態で発揮出来るか
どこまで出来るか..
【彼】の力を、私がどこまで引き出せるか..
ーそれでもやるしかないー
「わかった。炭治郎、もう少しだけ動けるかな。貴方の力が必要なの」
ーーーーー
〜179【満月に吠えろ】〜
くそっ!...
本体は勿論、帯と血の鎌も四方八方から攻撃を仕掛けてくる。それらを避けながら攻撃を相殺するので精一杯だ。
音柱ゆえに守備範囲の広い宇随でも、さすがに万全でない状態では攻めあぐねてしまう。
せめてもう一度日向子の壱ノ型と共闘出来れば...もしくは【譜面】さえ完成すれば
しかし現実は厳しく、彼女は力尽きて今は炭治郎に預けている。
俺が毒さえ食らってなけりゃあ...
今頃戦闘を終えていたはずが、情けねぇ。
「っ!」
背後から血鎌の攻撃が迫ってくる。
逃げ道がない
その時、炭治郎が間に入り込み鎌の攻撃をギリギリの所で受け流した。
呼吸の特徴を掴み、学んだ技術を叩き上げで我がモノにしている。成長速度には目を見張るものがあった。
しかし、彼は限界を超えている。それは、呼吸音が物語っていた。
ジャキ
屋根の上で何が(
大した攻撃ではないと一瞥した妓夫太郎だったが、
こちらの目的を勘づかれた事に宇随は舌打ちするも、想定の範囲内として、一瞬の隙をつきクナイを鬼の頸動脈へと突き刺した。
と同時に両脚を削ぎ落とす。
鬼の足は再生しない。
分解できない事はないだろうが、時間稼ぎ程度にはなってくれと雛鶴は願った。
妓夫太郎はすぐ様毒の分解に取り掛かったが、突如として猛烈な息苦しさと頭痛に襲われる。
「なんだ..」
ふと空を見上げると、真夜中のはずが白夜のように白んでいる。俺達鬼にとってみれば、異様な雰囲気だった。
墜姫の中で眠っていた時、この攻撃を俺は食らった。
ーあの女の能力かー
憎しみの篭った眼差しで、満月を背に現れたその対象を睨み付けたが、この好機を逃しはしまいと宇随と炭治郎が刃を振るう。
「ちっ...」
足の再生が間に合っていないが、刃を防ぐべく妓夫太郎は血鬼術を放つ。
広範囲に渡る無差別攻撃と悟り、宇随は咄嗟に炭治郎と日向子を諸共蹴り飛ばした。
数尺先の家屋に叩きつけられた炭治郎の元へ、後から日向子が折り重なるようにして飛ばされる。
「っぅ...ごめ、炭治郎」
「..っ...大丈夫か日向子姉さ..!」
屋根の上の光景を見た時、炭治郎は大きく目を見開いた。
鎌鬼が殺気を帯びた形相で、雛鶴の口を乱暴に塞いでいたのだ。
まずい..
また
ーまた目の前で人が殺されてしまうー
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