◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜172【星の呼吸 壱ノ型】〜
「妬ましいなぁお前..いい男じゃねぇかよ。人間庇ってなぁぁ、格好つけてなぁぁ、いいなぁ」
ボリボリと首を掻きむしりながら、嫉 みの眼差しを向ける妓夫太郎。
これは憶測だが..この鬼はさぞや人間時の頃に酷い仕打ちを受けたものと思われる。
いわゆる【成功者】への嫉妬心が半端ではなかった。
しかし、宇随は堂々とした構えでこう返す。
「まぁな。俺は派手で華やかな色男だし当然だろ。女房も3人いるからな」
しばしの沈黙の後、妓夫太郎は血走った眼で殺気を放った。
「お前女房3人もいるのかよぉ、ふざけるなよなぁぁ!!」
血で出来た斬撃が襲いかかってきた。
人を庇いながら全て捌 くのは難しく、宇随は懐から火薬玉を取り出して対抗する。
僅かな摩擦で爆ぜた火薬は、大きな爆音を発し脆 い長屋の床を吹き飛ばした。
人間を囲い階下に降り立った宇随は、間一髪敵の血鎌を避ける。
「逃がさなぇからなぁ」
クイッと妓夫太郎が指を操ると、放たれた斬撃が角度を変え宇随に向かっていく。
ー斬撃自体を操れるのかー
避けられないなら、斬るしかない。
宇随が日輪刀を構えた時、視界が白く染まった。
「宇随様、火薬を上へ放って下さい!」
「っ!お前」
突然現れた日向子の姿に驚いたが、彼はすぐさま火薬を数発階上へ投げ込んだ。
それと、彼女が呼吸を放ったのはほぼ同時であった。
ー星の呼吸 壱ノ型
森羅万象 ー
彼女の刀の刃が宇随の火薬玉を撫ぜた瞬間、爆発によって弾け飛ぶ。
しかし、単なる爆発の威力にとどまらなかった。
ーこれこそ、巫一族の星の呼吸剣士が、鬼殺隊の切り札たる所以 ーである
「おい..なんだこりゃあ」
妓夫太郎はバタバタと垂れる血を手で拭う。
その血は体中の至る場所から垂れており、主に内臓がやられた。音がまったく聞こえず恐らく鼓膜が破れているのだろう。
あまりにも強い衝撃波に骨も砕け、鎌は後ろの壁にがっつり突き刺さっている。
先程の威力を見た限り、あの火薬玉にこれほどの威力が備わっているとは思えなかった。
ー下に新手の鬼狩りがいるー
単体の攻撃ではない、これは【相乗攻撃】
恐らく、あの火薬玉の爆音を利用して超音波と莫大な衝撃波を生み出した。
袖無し野郎と組まれると、厄介この上ない能力だ。
どんな野郎だ?皆殺しにしてやる
妓夫太郎はまだ見ぬ敵に怒りを露 わにした。
ーーーーー
〜173【面影】〜
「うおぉぉぉ!ドンドンボムボムすんじゃねぇよ入れねぇじゃねぇか!」
炭治郎に啖呵 切ってやってきたはいいが、まるで付け入る隙がなく伊之助はやきもきする。
その戦闘の様子を黙ってみていた日向子は、寧ろ好機だとばかりに口元を吊り上げた。
宇随のあの火薬玉は、脅威 じゃない。
【寧ろ利用しない手はない】
「私行くね。伊之助達は隙を見て来て」
爆発と敵の攻撃が絶えない場所へと歩み出ようとする日向子の腕を、善逸がひしと掴んだ。
「勝算はあるのか?日向子さんをみすみす危険には晒せない」
眠りこけた状態だが、それでも凛とした声色でそう問いかける善逸にきっぱりとこう告げた。
「大丈夫。宇随様の【音】は、私に味方してくれるから」
日向子はすぐさま日輪刀を構え、ダッと駆け出したのだった。
宇随と日向子の連携により、立て続けに攻撃を放ち敵を追い詰める。
宇随は不思議な感覚に囚われた。
こいつの動きが手に取るようにわかる。いや...日向子が、俺の動きを瞬時に悟 れるのだ。
己の周囲の音全てを味方につけて、清き者には恵みを、悪しき者には脅威を与える。
即席だが阿吽 の呼吸が確立できている。
凄い...これが、巫一族の星の呼吸の力なのか。
シュウウウとあたりに煙が立ち昇った。
「まぁ、一筋縄にはいかねぇわな」
あの爆撃から兄を守るように帯が幾重にも重なっている。
こちらが阿吽であれば、敵も同じように対抗してくるという事だ。
2人で一つ..それは文字通りだ。
【同時に頚を切らなければいけない】という任務を達成しなければこの兄妹は倒せない。
やがて、帯がシュルシュルと剥がれ落ちていく。
日向子は敵の全貌を明らかに見る。それは、相手方も同じであったが
日向子の姿を見た途端、僅かに妓夫太郎の顔色が変わった。
「どうしたのお兄ちゃん?」
怪訝 そうに兄を見る妹。彼はボソリと口を開く。
「お前...日寄 か?」
ー日寄ー
どこかで聞いた名前。
日向子自身も動揺の色を見せる。彼は明らかに自分を見てそう言った。
幾年もこの時を渇望してきたのだとばかりに、妓夫太郎は手を伸ばす。
「その髪色、珍しい瞳の色...間違いねぇ。何であんたが」
ドンっ!
彼女の前に宇随が立ちはだかり、敵の腕を切り落とす。
「こいつは竈門日向子だ。なんだか知らねぇが、気安く寄ってんじゃねぇよ」
ーーーーー
〜174【妓夫太郎の記憶】〜
妓夫太郎は長年見ていなかった日の光を思い出すように、食い入るように日向子を見つめた。
記憶の中の【あの人】に瓜二つの容姿。
面影が重なる。
朧 げな記憶。今から数百年前に遡る、あれはまだ人間だった頃の...
ー江戸時代・吉原遊郭ー
俺は、都合悪く子を孕んでしまった女の行き着く果て、吉原の最下層で生まれた。
親からの愛情は一切受けず、その辺で野垂れ死のうが構わない、厄介者扱いされる日々。
この世界は残酷で不条理だ。
子供は大人の都合に振り回され、神に見放された人間は容赦なく【取り立てられる】。
嘆 くのはやめた。
そんな事したって誰も助けてくれない。自分の身は自分で守る。手段は選ばない。
ある冬の日。
もう何日もろくに食べ物を口にしておらず、何でもいいから食える物をと探すも季節が悪く、生き物や昆虫すら見当たらなかった。
やがて力尽きた俺は、寒空の下倒れ込んだ。
ついに餓死 の2文字が脳裏にチラつく。
俺は、結局こんなつまらない死に方をするのかと、渇いた笑いが漏れる。
白い息が登っていくのを客観視しながら追っていくと、誰かが見下ろしているのが見えた。
誰だ、また汚物を見るような目で俺を見るんだろう、どうせ...
すると、その人は自ら身につけていた襟巻きを取り、妓夫太郎にかけた。
「ごめんなさいね。今はこれくらいしか無くて」
穏やかな声色の、優しい笑みを浮かべる女性だった。
白練色の髪色に、向日葵 ような瞳。
美しい容姿に、柄にもなく妓夫太郎は見惚れた。
見た目は小綺麗なので恐らくこの街の遊女の1人だろうが、しかし何故、こんなみすぼらしい餓鬼 に優しく出来るのか理解できなかった。
何の得にもならないというのに。
「お腹を空かせているの?これを食べなさい。」
彼女は懐から笹の葉で包まれた握り飯を取り出した。
彼は無我夢中でそれを受け取ると、ガツガツと食らい付いた。
米は冷え切っていたし、塩味の質素な物でも、妓夫太郎にとっては生まれて初めて食べたご馳走 だったのだ。
なんて旨いのだろう、生きている実感が湧いた。そんな様子を彼女は微笑みながら見ていた。
「どうか絶望しないで、強い心を持って歩いていきなさい。そうすればきっと報われるから」
そう言い残し彼女は去って行こうとしたので、咄嗟に後ろから呼びかけた。
「あんた、名前は」
「私、私の名前は...
日寄よ
ーーーーー
〜175【時を超えて】〜
宇随が間に入り込んだ事で、日向子はハッとする。
今はとにかくこの鬼をどうにかしないと。
それに、私は彼の事を知らない、人違いに決まっている....
妓夫太郎は宇随の攻撃で切り落ちた腕をすぐに回復させ、日向子を守るように立ちはだかる宇随を妬ましげに睨みつけた。
「まぁ、この時代に生きているわけねぇよなぁ。鬼じゃないならの話だが」
「わ、私は鬼じゃない!れっきとした人間よ!」
心外だとばかりに声を荒げる日向子を見て、あの人はこんな野蛮な小娘ではなかっただのとぶつぶつ呟き始めた。
なんだか非常に失礼な事を言われている気がして、日向子は怒りが込み上げる。
この鬼が言う日寄という人物が誰なのかは、後で調べることにする。
「宇随様、一気にかたをつけましょう。私のこの姿もあまり待ちませんので。音の呼吸を....宇随様?」
彼の様子がおかしい。
荒く不規則な息遣いに、青白く冷や汗が滲む顔色。
元々色白の端正な顔だちではあったと思うけれど、これは病的な..
こちらのやり取りを見て、妓夫太郎はニヤリと笑う。
「やっぱり毒が効いてるじゃねぇか。効かないなんて虚勢張ってみっともねぇなぁ」
ー毒?ー..
あの鎌鬼、毒を使うのか。
日向子は心配そうに瞳を揺らし宇随を見上げた。
しかし彼は心配無用だというように、勢いよく日輪刀を床に突き刺す。
「いいや全然効いてないね踊ってやろうか。絶好調で天丼百杯食えるわ派手になぁ!!日向子、俺は忍の家系だ、このくらいの毒屁でもねぇ。お前はやれるか?」
「...っはい!」
彼はぐんと身体をのけぞらせて突き刺した刀を勢いよく抜き取り、その勢いで回し斬る。
日向子の刀は音の衝撃波を纏い、それと合わさる事で宇随の斬撃は威力を増す。
例え斬撃を避けても、かまいたちの様に切り裂き、圧倒的なリーチと毒を食らっているとは思えない素早さに、墜姫は必死に守りに徹するも隙を与えてしまう。
「ぎゃっ!!」
「!」
こいつら...
柱はそれなりに腕が立つのはわかる。しかしこの娘..あの方からはここまで【動ける】とは話に聞いてなかった。巫一族は、女児に関してはあの方さえ知り得る情報が少ない謎に包まれた一族だ。
一瞬日寄かと思ったが...恐らく別人。
しかし、彼女と何らかの関わりがあるのは間違いない。
妓夫太郎は舌打ちする。相手は自分達を殺しにかかってきている。彼女の面影はもう何処にもないのだと言い聞かせ、彼もまた鎌を大きく振るった。
ーーーーー
「妬ましいなぁお前..いい男じゃねぇかよ。人間庇ってなぁぁ、格好つけてなぁぁ、いいなぁ」
ボリボリと首を掻きむしりながら、
これは憶測だが..この鬼はさぞや人間時の頃に酷い仕打ちを受けたものと思われる。
いわゆる【成功者】への嫉妬心が半端ではなかった。
しかし、宇随は堂々とした構えでこう返す。
「まぁな。俺は派手で華やかな色男だし当然だろ。女房も3人いるからな」
しばしの沈黙の後、妓夫太郎は血走った眼で殺気を放った。
「お前女房3人もいるのかよぉ、ふざけるなよなぁぁ!!」
血で出来た斬撃が襲いかかってきた。
人を庇いながら全て
僅かな摩擦で爆ぜた火薬は、大きな爆音を発し
人間を囲い階下に降り立った宇随は、間一髪敵の血鎌を避ける。
「逃がさなぇからなぁ」
クイッと妓夫太郎が指を操ると、放たれた斬撃が角度を変え宇随に向かっていく。
ー斬撃自体を操れるのかー
避けられないなら、斬るしかない。
宇随が日輪刀を構えた時、視界が白く染まった。
「宇随様、火薬を上へ放って下さい!」
「っ!お前」
突然現れた日向子の姿に驚いたが、彼はすぐさま火薬を数発階上へ投げ込んだ。
それと、彼女が呼吸を放ったのはほぼ同時であった。
ー星の呼吸 壱ノ型
彼女の刀の刃が宇随の火薬玉を撫ぜた瞬間、爆発によって弾け飛ぶ。
しかし、単なる爆発の威力にとどまらなかった。
ーこれこそ、巫一族の星の呼吸剣士が、鬼殺隊の切り札たる
「おい..なんだこりゃあ」
妓夫太郎はバタバタと垂れる血を手で拭う。
その血は体中の至る場所から垂れており、主に内臓がやられた。音がまったく聞こえず恐らく鼓膜が破れているのだろう。
あまりにも強い衝撃波に骨も砕け、鎌は後ろの壁にがっつり突き刺さっている。
先程の威力を見た限り、あの火薬玉にこれほどの威力が備わっているとは思えなかった。
ー下に新手の鬼狩りがいるー
単体の攻撃ではない、これは【相乗攻撃】
恐らく、あの火薬玉の爆音を利用して超音波と莫大な衝撃波を生み出した。
袖無し野郎と組まれると、厄介この上ない能力だ。
どんな野郎だ?皆殺しにしてやる
妓夫太郎はまだ見ぬ敵に怒りを
ーーーーー
〜173【面影】〜
「うおぉぉぉ!ドンドンボムボムすんじゃねぇよ入れねぇじゃねぇか!」
炭治郎に
その戦闘の様子を黙ってみていた日向子は、寧ろ好機だとばかりに口元を吊り上げた。
宇随のあの火薬玉は、
【寧ろ利用しない手はない】
「私行くね。伊之助達は隙を見て来て」
爆発と敵の攻撃が絶えない場所へと歩み出ようとする日向子の腕を、善逸がひしと掴んだ。
「勝算はあるのか?日向子さんをみすみす危険には晒せない」
眠りこけた状態だが、それでも凛とした声色でそう問いかける善逸にきっぱりとこう告げた。
「大丈夫。宇随様の【音】は、私に味方してくれるから」
日向子はすぐさま日輪刀を構え、ダッと駆け出したのだった。
宇随と日向子の連携により、立て続けに攻撃を放ち敵を追い詰める。
宇随は不思議な感覚に囚われた。
こいつの動きが手に取るようにわかる。いや...日向子が、俺の動きを瞬時に
己の周囲の音全てを味方につけて、清き者には恵みを、悪しき者には脅威を与える。
即席だが
凄い...これが、巫一族の星の呼吸の力なのか。
シュウウウとあたりに煙が立ち昇った。
「まぁ、一筋縄にはいかねぇわな」
あの爆撃から兄を守るように帯が幾重にも重なっている。
こちらが阿吽であれば、敵も同じように対抗してくるという事だ。
2人で一つ..それは文字通りだ。
【同時に頚を切らなければいけない】という任務を達成しなければこの兄妹は倒せない。
やがて、帯がシュルシュルと剥がれ落ちていく。
日向子は敵の全貌を明らかに見る。それは、相手方も同じであったが
日向子の姿を見た途端、僅かに妓夫太郎の顔色が変わった。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「お前...
ー日寄ー
どこかで聞いた名前。
日向子自身も動揺の色を見せる。彼は明らかに自分を見てそう言った。
幾年もこの時を渇望してきたのだとばかりに、妓夫太郎は手を伸ばす。
「その髪色、珍しい瞳の色...間違いねぇ。何であんたが」
ドンっ!
彼女の前に宇随が立ちはだかり、敵の腕を切り落とす。
「こいつは竈門日向子だ。なんだか知らねぇが、気安く寄ってんじゃねぇよ」
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〜174【妓夫太郎の記憶】〜
妓夫太郎は長年見ていなかった日の光を思い出すように、食い入るように日向子を見つめた。
記憶の中の【あの人】に瓜二つの容姿。
面影が重なる。
ー江戸時代・吉原遊郭ー
俺は、都合悪く子を孕んでしまった女の行き着く果て、吉原の最下層で生まれた。
親からの愛情は一切受けず、その辺で野垂れ死のうが構わない、厄介者扱いされる日々。
この世界は残酷で不条理だ。
子供は大人の都合に振り回され、神に見放された人間は容赦なく【取り立てられる】。
そんな事したって誰も助けてくれない。自分の身は自分で守る。手段は選ばない。
ある冬の日。
もう何日もろくに食べ物を口にしておらず、何でもいいから食える物をと探すも季節が悪く、生き物や昆虫すら見当たらなかった。
やがて力尽きた俺は、寒空の下倒れ込んだ。
ついに
俺は、結局こんなつまらない死に方をするのかと、渇いた笑いが漏れる。
白い息が登っていくのを客観視しながら追っていくと、誰かが見下ろしているのが見えた。
誰だ、また汚物を見るような目で俺を見るんだろう、どうせ...
すると、その人は自ら身につけていた襟巻きを取り、妓夫太郎にかけた。
「ごめんなさいね。今はこれくらいしか無くて」
穏やかな声色の、優しい笑みを浮かべる女性だった。
白練色の髪色に、
美しい容姿に、柄にもなく妓夫太郎は見惚れた。
見た目は小綺麗なので恐らくこの街の遊女の1人だろうが、しかし何故、こんなみすぼらしい
何の得にもならないというのに。
「お腹を空かせているの?これを食べなさい。」
彼女は懐から笹の葉で包まれた握り飯を取り出した。
彼は無我夢中でそれを受け取ると、ガツガツと食らい付いた。
米は冷え切っていたし、塩味の質素な物でも、妓夫太郎にとっては生まれて初めて食べたご
なんて旨いのだろう、生きている実感が湧いた。そんな様子を彼女は微笑みながら見ていた。
「どうか絶望しないで、強い心を持って歩いていきなさい。そうすればきっと報われるから」
そう言い残し彼女は去って行こうとしたので、咄嗟に後ろから呼びかけた。
「あんた、名前は」
「私、私の名前は...
日寄よ
ーーーーー
〜175【時を超えて】〜
宇随が間に入り込んだ事で、日向子はハッとする。
今はとにかくこの鬼をどうにかしないと。
それに、私は彼の事を知らない、人違いに決まっている....
妓夫太郎は宇随の攻撃で切り落ちた腕をすぐに回復させ、日向子を守るように立ちはだかる宇随を妬ましげに睨みつけた。
「まぁ、この時代に生きているわけねぇよなぁ。鬼じゃないならの話だが」
「わ、私は鬼じゃない!れっきとした人間よ!」
心外だとばかりに声を荒げる日向子を見て、あの人はこんな野蛮な小娘ではなかっただのとぶつぶつ呟き始めた。
なんだか非常に失礼な事を言われている気がして、日向子は怒りが込み上げる。
この鬼が言う日寄という人物が誰なのかは、後で調べることにする。
「宇随様、一気にかたをつけましょう。私のこの姿もあまり待ちませんので。音の呼吸を....宇随様?」
彼の様子がおかしい。
荒く不規則な息遣いに、青白く冷や汗が滲む顔色。
元々色白の端正な顔だちではあったと思うけれど、これは病的な..
こちらのやり取りを見て、妓夫太郎はニヤリと笑う。
「やっぱり毒が効いてるじゃねぇか。効かないなんて虚勢張ってみっともねぇなぁ」
ー毒?ー..
あの鎌鬼、毒を使うのか。
日向子は心配そうに瞳を揺らし宇随を見上げた。
しかし彼は心配無用だというように、勢いよく日輪刀を床に突き刺す。
「いいや全然効いてないね踊ってやろうか。絶好調で天丼百杯食えるわ派手になぁ!!日向子、俺は忍の家系だ、このくらいの毒屁でもねぇ。お前はやれるか?」
「...っはい!」
彼はぐんと身体をのけぞらせて突き刺した刀を勢いよく抜き取り、その勢いで回し斬る。
日向子の刀は音の衝撃波を纏い、それと合わさる事で宇随の斬撃は威力を増す。
例え斬撃を避けても、かまいたちの様に切り裂き、圧倒的なリーチと毒を食らっているとは思えない素早さに、墜姫は必死に守りに徹するも隙を与えてしまう。
「ぎゃっ!!」
「!」
こいつら...
柱はそれなりに腕が立つのはわかる。しかしこの娘..あの方からはここまで【動ける】とは話に聞いてなかった。巫一族は、女児に関してはあの方さえ知り得る情報が少ない謎に包まれた一族だ。
一瞬日寄かと思ったが...恐らく別人。
しかし、彼女と何らかの関わりがあるのは間違いない。
妓夫太郎は舌打ちする。相手は自分達を殺しにかかってきている。彼女の面影はもう何処にもないのだと言い聞かせ、彼もまた鎌を大きく振るった。
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