◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜164【守るべき契り】〜
宇随に頭を下げられた時、日向子はそれ以上何も言えなかった。
彼のこの判断は、きっと正しいのだろう。
犠牲者を最小限にする事を優先すれば、日向子達は離脱すべきだと思う。
しかし、いくら上官の指示でも鬼殺隊員として任務離脱は恥ずべき行為である。
最後までやり遂げたい、でもそれで宇随の足を引っ張る形となっては、元も子もない。
ーもしもの事があったら、
お前の弟に顔向け出来ないー
これは、宇随の切実な思いだった。
今回の任務は、烏の指令ではない。私達に何かあると、彼に責任を負わせてしまうんだ。
私達がいくら気にしないと言っても、
彼は一生この出来事を悔いて生きるだろう、
そうはなって欲しくない。
様々な思いがこみ上げて、結局結論も出ないまま、日向子は無一郎に手を引かれて吉原の街を出た。
放心状態の彼女を、無一郎は心配そうに見つめる。
「あの人はね、生きている者が勝ちだっていう価値観なんだ。そして命に優先順位を決めている。今回は、仕方ないよ。君の気持ちはわかるけどね..。俺も、日向子にはなるだけ危ない目に遭って欲しくないと思うし」
無一郎は哀しげな眼差しでそう呟く。
ー生きている者が勝ちー
もし、炭治郎達が吉原に留まったら?
仮に今回の鬼が上弦だとしたら?
生きて帰れるだろうか
私は、何をやっているんだろう。
炭治郎達を置いて一人先に抜けるだなんて....
留まったら、じゃない。
炭治郎は間違いなく
【留まるだろう】
いつだってあの子は、自分の力以上の事をやろうとするんじゃないか。
昔からそうだった。長男だからと泣き事一つ言わずに、そんなところがとても危なっかしくて、
でも....誇らしくて。
私が支えになってあげたいと思うんだ。
「....日向子。戻るんだね」
無一郎はそう問いかけた。
日向子の瞳は、いつの間にか虚 なものから、燃えるような瞳に変わっていた。
彼女はこくりと大きく頷く。
「はい。申し訳ありません。私はやっぱり下の子達を放っては行けない。どう立ち回るにしろ、彼等と一緒にいたいから。
でも、みすみす死ににいくわけじゃありませんから、必ず、皆で生きて帰ります。
その為に鍛錬を重ねてきたから。」
日向子は決意の笑みを無一郎へと向ける。
そんな様子を見て、ふと思い返した。
彼女のそんな強い心に、惹かれたんだったなと。
あぁ、やっぱり好きだなぁ
「わかったよ。そのかわり、絶対に死なないでね日向子。」
彼はそっと髪に口付けを落とした。
ーーーーー
〜165【還る】〜
激しい咳が止まらない。呼吸をしようにも胸と喉が焼けるように痛くて、口元からは肺から吐き出された血が流れ出てくる。
俺は今【命の一線】を超えかけていた。
それを間一髪、花子と日向子姉さんが引き戻してくれたんだ。
ー日向子姉さん
戻って来てくれたのかー
呼吸もままならなくて、言葉を投げかけるどころではないのだが、そんな状況をわかった上で彼女は優しい言葉をかけてくれる。
「よく頑張ったね炭治郎。ごめんね...遅くなってしまった。私が守るから、絶対に生きて帰ろう。」
日向子はキッとした表情に直り、墜姫に向き合った。
未だ完全には塞がりきっていない刀傷からは、シュウゥと熱気が立ち上っており、帯も細切れのままだ。
相当、日向子の攻撃が効いていた。
墜姫は凄まじい形相でこちらを睨みつけてくる。
「お前ェ..さてはあの方の血を拒絶した巫の生き残りだな..?傷がなかなか治らないわ..許さない..許さない、そこの鼠も柱も後だ。お前からなぶり殺してやるっ」
怒りに全身を震えさせそう叫ぶ墜姫を見て、日向子は僅かに冷や汗を垂らした。
「交渉の余地は無さそうね。」
ー数週間前・蝶屋敷ー
「え、今日も外で鍛錬するのか?」
主に蝶屋敷の敷地内で鍛錬していた炭治郎達とは違い、日向子は意図的に外で鍛錬する事が多かった。
その場所は、山の中や川べり、さら地の岩場など様々だ。
毎回炭治郎は鍛錬に誘ってくれる、そのたびに私が断るから、彼は寂しそうに口を尖らせる。
日向子はこう伝えた。
「ごめんね。でも星の呼吸って、なんだか自然の中で鍛錬した方が合ってる気がするの。
それに、珠世さんが打ってくれた禰豆子の血で精製した薬、あれ以来身体の調子が良くて。
何か、拓けそうな気がするんだ」
自然の中に身を置いていると、星の力を感じられる。
私自身の能力は、多分そんな高くない。けど、教えてくれるんだ。
数多の自然と生き物の鼓動が...【呼吸の仕方】を。
五感に頼らずとも、自然と体をどう動かすのがいいのかわかる。
あとは
ーそれに身体がついていければいいのだが..ー
でなければ、この先上弦の鬼や鬼舞辻と渡り合えない。
....
「死に腐れ小娘ぇぇぇっ!!」
完全に回復した墜姫が、日向子目掛けて血鬼術を放つ。
日向子は刀身を傾け受け流す。それは川の流れのように。
例えその川の水が嵐のような濁流だとしても...
自然の摂理を理解している彼女にとっては、清らかな小川に過ぎない。
ーーーーー
〜166【禰豆子の怒り】〜
星の呼吸は、全ての呼吸の特徴を併せ持ってはいるが、決して単体での火力は高い方ではない。
日向子が十二鬼月以上の鬼と戦闘を行ってきた際、必然と巫の異能に頼らざるを得ない場面が多々あった。
しかし力不足の為、異能の扱いも不得手で消耗が著しかった。燃費が悪過ぎたのだ。
今は、鍛錬の甲斐あって身体能力は向上したし、禰豆子の薬の影響も少なからずあると思われるが、消耗スピードも前より抑えられてる。
加えて日向子は
【巫の異能と星の呼吸をうまく織り交ぜて技を繰り出す術】を見出した。
必要最低限の動きで、的確な技を繰り出す星の呼吸と、鬼の弱点をつく巫の異能。
身体能力に限界がある分、鬼を弱体化させる。
それが、彼女なりに編み出した対十二鬼月戦の戦法だ。
現時点では日向子の方が押してるくらいに通用している。敵も思うように行かずにやけになり始めた好機だ。
墜姫の攻撃を掻い潜り、ついに日輪刀の刀身で頚を捉えるところまでいった。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なっ!」
全集中の呼吸で、全身の力を刀にこめる。
しかし、刀はある一定以上先に進む事はなく振り切れない。日向子は舌打ちする。
ーどうしてよ、これでも火力が足らないの!ー
間を開け過ぎた。まずい、反撃がくる。
墜姫はにやりと笑った。
「ふふふ、あんたじゃあ私の頚は切れないみたいねっ!」
咄嗟に距離を取ったが、背中から伸びたいくつかの帯が日向子の体を斬り裂いた。
「ぅっ!...」
体勢を崩しドサリと屋根瓦に身体が打ち付けられた。
裂傷による激しい痛みが襲う。すぐに呼吸で止血するが、今の一撃でかなりの重症を負ってしまう。
やはり..
【他の呼吸と合わせなければ】頚までは取れないのか
背後の炭治郎は既に意識がない。
私が倒れたら、2人とも助からない。
せめて宇随様達が来てくれるまではと思ったが、向こうも戦闘を行なっている様子だ。
何とか、持ち堪えないと、私が守るんだ。生きて帰るんだからっ!
日向子は柄を握り直す。
大きく肩で呼吸している彼女をみて、墜姫は蔑んだ眼差しを向ける。
「そんな目をしても無駄よ。今ので右上腕、左脇腹、左大腿部を切り裂いたわ。
異能持ちの癖に、私の血鬼術食らうなんて阿呆よね?人間は本当..脆いわ」
終わりだと言わんばかりに帯を頭上に振り翳す。
その時、鬼の背後に黒い影が舞った。
ドゴォォと激しい地鳴りが響き、気付けば激昂した禰豆子が彼女達を守るように立っていた。
ーーーーー
〜167【私達の最愛の妹】〜
「ね...禰豆...子?」
威嚇しているような荒い息、身体中にビキビキと浮き出る血管、瞳孔の開けた目。
日向子が今まで見た事ない禰豆子だった。
怒りで、我を失っている...
禰豆子は、炭治郎に自分の命が危ない時以外は、絶対に箱から出るなと言われていた。しかし、無惨の血の匂いがより濃くなった時、耐え切れず外の様子を覗き見てしまったのだ。
そして、兄と姉が傷付けられた現状を目の当たりにし、【人間だった時の悲惨な記憶】が思い起こされる。
ー私の家族を、これ以上殺さないでー
傷だらけの腕をひしと伸ばす姉の記憶
血だらけでピクリとも動かぬ弟達の記憶
私の家族を傷付けたのは、誰だ?
ドンっ
一瞬にして地を蹴り墜姫に向かって飛んでいく禰豆子。凄まじい蹴りを叩き込むが、攻撃が単調である為すぐに帯で応戦されてしまう。
遠距離戦では断然墜姫の方が有利である為、間合いに入った禰豆子は次々と腕脚が切断されていき、ついに胴体までもが引き裂かれてしまった。
「禰豆子っ!!」
叫ぶ日向子の声も虚しく響き、禰豆子はとてつもない速さで建物へ叩きつけられた。
墜姫がその体たらくをふんと鼻で笑う。
「弱いわね。大して人を食ってない。動かない方がいいわよ?胴体が泣き別れになってるでしょ?あんたみたいな半端者じゃ、それだけの傷すぐには再生出来ないだろうし」
鬼はコツコツと靴を鳴らして歩み寄っていく。
そこで違和感に気付いた。
「は?」
切断した筈の胴体と脚、腕が、くっついてる。
馬鹿な、この回復再生速度は、上弦に匹敵するものだ。
急激に変わった彼女の威圧感に、墜姫は目を見開く。
またも蹴りの体制で向かってくる禰豆子の脚を帯で斬り裂く。いくら再生速度が上がろうとも関係ない。
対処できる。次は頚を狙って...
「げぅっ‼!」
禰豆子は切られた筈の脚で墜姫の背中を貫通させる。
再生なんてレベルではない。切った側から、血液が接着剤のような役割を果たし四肢を結合している。
にたりと笑った禰豆子は、まるで快楽殺人鬼のように繰り返し激しい音を立てながら滅多打ちにする。
返り血が爆ぜて、断末魔をあげる墜姫。
こんな、
妹はこんな風じゃない
このままじゃ、私達家族を殺した【鬼】と同じになっちゃう。やめて...
「お願いやめて禰豆子ぉぉっ!!」
日向子が駆け出す。
ー....兄ちゃん
助けて、姉ちゃんが姉ちゃんじゃなくなるよー...
「っ!」
炭治郎もその瞬間ようやく目を醒した。
ーーーーー
宇随に頭を下げられた時、日向子はそれ以上何も言えなかった。
彼のこの判断は、きっと正しいのだろう。
犠牲者を最小限にする事を優先すれば、日向子達は離脱すべきだと思う。
しかし、いくら上官の指示でも鬼殺隊員として任務離脱は恥ずべき行為である。
最後までやり遂げたい、でもそれで宇随の足を引っ張る形となっては、元も子もない。
ーもしもの事があったら、
お前の弟に顔向け出来ないー
これは、宇随の切実な思いだった。
今回の任務は、烏の指令ではない。私達に何かあると、彼に責任を負わせてしまうんだ。
私達がいくら気にしないと言っても、
彼は一生この出来事を悔いて生きるだろう、
そうはなって欲しくない。
様々な思いがこみ上げて、結局結論も出ないまま、日向子は無一郎に手を引かれて吉原の街を出た。
放心状態の彼女を、無一郎は心配そうに見つめる。
「あの人はね、生きている者が勝ちだっていう価値観なんだ。そして命に優先順位を決めている。今回は、仕方ないよ。君の気持ちはわかるけどね..。俺も、日向子にはなるだけ危ない目に遭って欲しくないと思うし」
無一郎は哀しげな眼差しでそう呟く。
ー生きている者が勝ちー
もし、炭治郎達が吉原に留まったら?
仮に今回の鬼が上弦だとしたら?
生きて帰れるだろうか
私は、何をやっているんだろう。
炭治郎達を置いて一人先に抜けるだなんて....
留まったら、じゃない。
炭治郎は間違いなく
【留まるだろう】
いつだってあの子は、自分の力以上の事をやろうとするんじゃないか。
昔からそうだった。長男だからと泣き事一つ言わずに、そんなところがとても危なっかしくて、
でも....誇らしくて。
私が支えになってあげたいと思うんだ。
「....日向子。戻るんだね」
無一郎はそう問いかけた。
日向子の瞳は、いつの間にか
彼女はこくりと大きく頷く。
「はい。申し訳ありません。私はやっぱり下の子達を放っては行けない。どう立ち回るにしろ、彼等と一緒にいたいから。
でも、みすみす死ににいくわけじゃありませんから、必ず、皆で生きて帰ります。
その為に鍛錬を重ねてきたから。」
日向子は決意の笑みを無一郎へと向ける。
そんな様子を見て、ふと思い返した。
彼女のそんな強い心に、惹かれたんだったなと。
あぁ、やっぱり好きだなぁ
「わかったよ。そのかわり、絶対に死なないでね日向子。」
彼はそっと髪に口付けを落とした。
ーーーーー
〜165【還る】〜
激しい咳が止まらない。呼吸をしようにも胸と喉が焼けるように痛くて、口元からは肺から吐き出された血が流れ出てくる。
俺は今【命の一線】を超えかけていた。
それを間一髪、花子と日向子姉さんが引き戻してくれたんだ。
ー日向子姉さん
戻って来てくれたのかー
呼吸もままならなくて、言葉を投げかけるどころではないのだが、そんな状況をわかった上で彼女は優しい言葉をかけてくれる。
「よく頑張ったね炭治郎。ごめんね...遅くなってしまった。私が守るから、絶対に生きて帰ろう。」
日向子はキッとした表情に直り、墜姫に向き合った。
未だ完全には塞がりきっていない刀傷からは、シュウゥと熱気が立ち上っており、帯も細切れのままだ。
相当、日向子の攻撃が効いていた。
墜姫は凄まじい形相でこちらを睨みつけてくる。
「お前ェ..さてはあの方の血を拒絶した巫の生き残りだな..?傷がなかなか治らないわ..許さない..許さない、そこの鼠も柱も後だ。お前からなぶり殺してやるっ」
怒りに全身を震えさせそう叫ぶ墜姫を見て、日向子は僅かに冷や汗を垂らした。
「交渉の余地は無さそうね。」
ー数週間前・蝶屋敷ー
「え、今日も外で鍛錬するのか?」
主に蝶屋敷の敷地内で鍛錬していた炭治郎達とは違い、日向子は意図的に外で鍛錬する事が多かった。
その場所は、山の中や川べり、さら地の岩場など様々だ。
毎回炭治郎は鍛錬に誘ってくれる、そのたびに私が断るから、彼は寂しそうに口を尖らせる。
日向子はこう伝えた。
「ごめんね。でも星の呼吸って、なんだか自然の中で鍛錬した方が合ってる気がするの。
それに、珠世さんが打ってくれた禰豆子の血で精製した薬、あれ以来身体の調子が良くて。
何か、拓けそうな気がするんだ」
自然の中に身を置いていると、星の力を感じられる。
私自身の能力は、多分そんな高くない。けど、教えてくれるんだ。
数多の自然と生き物の鼓動が...【呼吸の仕方】を。
五感に頼らずとも、自然と体をどう動かすのがいいのかわかる。
あとは
ーそれに身体がついていければいいのだが..ー
でなければ、この先上弦の鬼や鬼舞辻と渡り合えない。
....
「死に腐れ小娘ぇぇぇっ!!」
完全に回復した墜姫が、日向子目掛けて血鬼術を放つ。
日向子は刀身を傾け受け流す。それは川の流れのように。
例えその川の水が嵐のような濁流だとしても...
自然の摂理を理解している彼女にとっては、清らかな小川に過ぎない。
ーーーーー
〜166【禰豆子の怒り】〜
星の呼吸は、全ての呼吸の特徴を併せ持ってはいるが、決して単体での火力は高い方ではない。
日向子が十二鬼月以上の鬼と戦闘を行ってきた際、必然と巫の異能に頼らざるを得ない場面が多々あった。
しかし力不足の為、異能の扱いも不得手で消耗が著しかった。燃費が悪過ぎたのだ。
今は、鍛錬の甲斐あって身体能力は向上したし、禰豆子の薬の影響も少なからずあると思われるが、消耗スピードも前より抑えられてる。
加えて日向子は
【巫の異能と星の呼吸をうまく織り交ぜて技を繰り出す術】を見出した。
必要最低限の動きで、的確な技を繰り出す星の呼吸と、鬼の弱点をつく巫の異能。
身体能力に限界がある分、鬼を弱体化させる。
それが、彼女なりに編み出した対十二鬼月戦の戦法だ。
現時点では日向子の方が押してるくらいに通用している。敵も思うように行かずにやけになり始めた好機だ。
墜姫の攻撃を掻い潜り、ついに日輪刀の刀身で頚を捉えるところまでいった。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なっ!」
全集中の呼吸で、全身の力を刀にこめる。
しかし、刀はある一定以上先に進む事はなく振り切れない。日向子は舌打ちする。
ーどうしてよ、これでも火力が足らないの!ー
間を開け過ぎた。まずい、反撃がくる。
墜姫はにやりと笑った。
「ふふふ、あんたじゃあ私の頚は切れないみたいねっ!」
咄嗟に距離を取ったが、背中から伸びたいくつかの帯が日向子の体を斬り裂いた。
「ぅっ!...」
体勢を崩しドサリと屋根瓦に身体が打ち付けられた。
裂傷による激しい痛みが襲う。すぐに呼吸で止血するが、今の一撃でかなりの重症を負ってしまう。
やはり..
【他の呼吸と合わせなければ】頚までは取れないのか
背後の炭治郎は既に意識がない。
私が倒れたら、2人とも助からない。
せめて宇随様達が来てくれるまではと思ったが、向こうも戦闘を行なっている様子だ。
何とか、持ち堪えないと、私が守るんだ。生きて帰るんだからっ!
日向子は柄を握り直す。
大きく肩で呼吸している彼女をみて、墜姫は蔑んだ眼差しを向ける。
「そんな目をしても無駄よ。今ので右上腕、左脇腹、左大腿部を切り裂いたわ。
異能持ちの癖に、私の血鬼術食らうなんて阿呆よね?人間は本当..脆いわ」
終わりだと言わんばかりに帯を頭上に振り翳す。
その時、鬼の背後に黒い影が舞った。
ドゴォォと激しい地鳴りが響き、気付けば激昂した禰豆子が彼女達を守るように立っていた。
ーーーーー
〜167【私達の最愛の妹】〜
「ね...禰豆...子?」
威嚇しているような荒い息、身体中にビキビキと浮き出る血管、瞳孔の開けた目。
日向子が今まで見た事ない禰豆子だった。
怒りで、我を失っている...
禰豆子は、炭治郎に自分の命が危ない時以外は、絶対に箱から出るなと言われていた。しかし、無惨の血の匂いがより濃くなった時、耐え切れず外の様子を覗き見てしまったのだ。
そして、兄と姉が傷付けられた現状を目の当たりにし、【人間だった時の悲惨な記憶】が思い起こされる。
ー私の家族を、これ以上殺さないでー
傷だらけの腕をひしと伸ばす姉の記憶
血だらけでピクリとも動かぬ弟達の記憶
私の家族を傷付けたのは、誰だ?
ドンっ
一瞬にして地を蹴り墜姫に向かって飛んでいく禰豆子。凄まじい蹴りを叩き込むが、攻撃が単調である為すぐに帯で応戦されてしまう。
遠距離戦では断然墜姫の方が有利である為、間合いに入った禰豆子は次々と腕脚が切断されていき、ついに胴体までもが引き裂かれてしまった。
「禰豆子っ!!」
叫ぶ日向子の声も虚しく響き、禰豆子はとてつもない速さで建物へ叩きつけられた。
墜姫がその体たらくをふんと鼻で笑う。
「弱いわね。大して人を食ってない。動かない方がいいわよ?胴体が泣き別れになってるでしょ?あんたみたいな半端者じゃ、それだけの傷すぐには再生出来ないだろうし」
鬼はコツコツと靴を鳴らして歩み寄っていく。
そこで違和感に気付いた。
「は?」
切断した筈の胴体と脚、腕が、くっついてる。
馬鹿な、この回復再生速度は、上弦に匹敵するものだ。
急激に変わった彼女の威圧感に、墜姫は目を見開く。
またも蹴りの体制で向かってくる禰豆子の脚を帯で斬り裂く。いくら再生速度が上がろうとも関係ない。
対処できる。次は頚を狙って...
「げぅっ‼!」
禰豆子は切られた筈の脚で墜姫の背中を貫通させる。
再生なんてレベルではない。切った側から、血液が接着剤のような役割を果たし四肢を結合している。
にたりと笑った禰豆子は、まるで快楽殺人鬼のように繰り返し激しい音を立てながら滅多打ちにする。
返り血が爆ぜて、断末魔をあげる墜姫。
こんな、
妹はこんな風じゃない
このままじゃ、私達家族を殺した【鬼】と同じになっちゃう。やめて...
「お願いやめて禰豆子ぉぉっ!!」
日向子が駆け出す。
ー....兄ちゃん
助けて、姉ちゃんが姉ちゃんじゃなくなるよー...
「っ!」
炭治郎もその瞬間ようやく目を醒した。
ーーーーー