◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜160【連撃】〜
日向子姉さんを喰う...だと?
どうやら帯鬼は、彼女に個人的な恨みがあるようで、取り逃した事を異様なまでに悔いていた。
「あの女は八つ裂きにしても良かったが、不細工じゃなかった。だから機を待って食ってやるつもりだったのよ、この鯉夏みたいにね。なのに...どこのどいつが逃したのかしら。全く...最近はごちゃごちゃ街も五月蝿いしほんとに腹が立つわっ!」
キーーッと奇声を上げて地団駄を踏む帯鬼に、炭治郎は怯む事なく食いかかる。
「日向子姉さんはここにはもういない!そうでなくともお前なんかに絶対に渡すものか!その人を離せ!」
彼女はピクリと反応し、首を傾げて舐めつけるように炭治郎を睨む。
「..お前..あの女の弟か?はーん..そうなのね」
なら、今ここで死ね
帯が凄まじい勢いでなぶりかかって来る。
炭治郎は咄嗟に刀を振り上げたが、気付けば通りの反対側の屋根瓦に背中を打ち付けていた。
体を打った衝撃でゲホリと咳き込む。
速い
視えなかった
これが上弦の力...
でも、反応出来ていないわけじゃない、でなければ今自分は生きてない。
敵は確実に炭治郎を殺しにかかってきている。反応出来なければ待っているのは、死...
炭治郎は肩紐の千切れた木箱をゴトリと置く。
このまま背負って戦っても返って禰豆子を危険に晒すだけだった。
「禰豆子、箱から出るな。自分の命が危ない時以外は」
炭治郎は箱の中の禰豆子にそう言い聞かせた。
その兄の声色を聞き、禰豆子は心配そうに胸の前で手をギュッと握りしめる。
ー自分の命が危ない時ー
では、他の人が危険に晒されたら?
もしも【兄】が、絶体絶命の時は...私は
炭治郎と墜姫、両者一斉に宙に舞い、互いに技を繰り出しぶつけ合う。
その攻撃の最中炭治郎は、囚われていた鯉夏の帯部分を切り取った。
その光景を見た墜姫はびきりと青筋を立てる。
ー本当に、癪に触る鼠だなー
炭治郎は、今の時点で辛うじて帯鬼についてはいけているものの、刃こぼれしている日輪刀を見て悔しさに唇を噛んだ。
刀は申し分ない。けど、完全に宝の持ち腐れだ。
俺が、使いこなせていない。
どうしても、水の呼吸よりヒノカミ神楽の威力の方が勝るのだ。
ー竈門少年、心を燃やせー
不意に煉獄さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
今の俺なら、やれる。
(ヒノカミ神楽の連撃)
炭治郎は自身の呼吸を、熱気を纏うものへと変えた。
ーーーーー
〜161【狂気と臨界点】〜
炭治郎はヒノカミ神楽の連撃で、墜姫に応戦する。
敵の帯は強靭で当たればひとたまりもないし、接近戦ではヒノカミ神楽の呼吸でやっと避けられる程度。
それでも、一切の油断も許さずに技を繰り出す。隙の糸が見える
けれど...
「おっそいわね。欠伸が出るわ」
ブツリと糸が切れた
咄嗟に受け身を取って数尺先の地面に転がり込んだ。
瞬間、思い出したように体がヒノカミ神楽の連撃による疲労に襲われた。
ドクドクと心臓が激しく鳴り響く、しかし敵は待ってなどくれない。
早く回復しなければっ
間一髪、帯の追撃を避けて体制を整えた。
少し前ならば..この時点で筋一つ足りとも動かせていなかったかもしれない。
でも、炭治郎はある方法でヒノカミ神楽の持続法を見いだした。
ー体温の上昇ー
散々、きよちゃんにはこの鍛錬をやめろと言われていたが、1番効率良く体が動かせる方法だった。
ただ、その仕組みはわからない故に、何らかの代償もあるかもしれないけれど...
大切な物を、二度と奪わせない。守り抜きたい。
その思いが今を突き動かしているから、そんな事考えてなどいられない。
その時、遠くから微かに雄叫びが聞こえてきた。
帯鬼は瞬時に自分の体に帯を取り込み始める。
一瞬ではあるが、攻撃の手がやんだ。
この機を逃しはしまいと炭治郎が刀を鬼の頚に向かって振り切るが、瞬きをした後には忽然と姿を消していた。
刀の感触が無い、空ぶった。
「やっぱり、柱が来てたのね。あの方に喜んで頂けるわぁ」
墜姫はうっとりと恍惚とした表情で屋根から天を見上げていた。その姿は先程までとは異なり、匂いも禍々しいものへと変貌していた。
「おいお前ら!人の家の前で騒ぎ立てるんじゃねぇ!」
一般人の男性が家から外へと出てしまった。
それを境に何事かとザワザワ人が起き始める。
しまった..
「駄目だ下がってください!建物から出るな!!」
咄嗟にそう叫び注意喚起するも、遅かった。
五月蝿いの物を嫌う墜姫は、ビュンと帯を操る。
それは一瞬の出来事だった。
炭治郎が反応出来たのは、目の前の男性を庇う事だけ。しかし、攻撃を見切れたわけではなく
男の腕は切断され、炭治郎自身も肩に深い斬撃を食らってしまう。
「っ!」
速い
それも先程の比ではない
悠然と立ち去ろうとする鬼を呼び止める。
人々の苦しみの声が、匂いが炭治郎を絶え間なく責め立てる。
許せない...
視界が血に滲む程の激しい怒りが、炭治郎の心を奮い立たせた
ーーーーー
〜162【流星の救済】〜
槇寿郎さんは、俺には凄い力があると言ってくれた。
しかし、日の呼吸の使い手に、代々生まれつきあると言われる赤い痣、それは俺の場合、後天的に出来たものだった。
選ばれし日の使い手の条件に、俺は合わない。
それでも、力が足らなくても選ばれた者で無くとも、
人にはどうしても、退けない時があります
それは、理不尽に幸せを奪い去ろうとする禍者がこの世界に蔓延っているから。
罪なき人を傷付ける傲 りがまかり通っていい訳がない。
日向子姉さんも、そんな世界を嘆いていた。
俺も
絶対に許さない
墜姫は彼が纏う空気感が変わったことに気付いた。
脚を取られた。その瞬間凄まじく灼けるような痛みが襲う。
だが、彼女にとっては【この程度】のダメージ等造作も無い事。すぐさま切り離された脚を取り戻す。
その光景を、炭治郎は血の涙を流しながら憐れ見る。
「生身の人間は、鬼の様にはいかない。奪われたものは二度と戻らない。失われたものは二度と還らない。
奪った罪の重さは計り知れない。それを、お前達は何故わからない?」
灼熱に揺らめく幻影を、少年に重ね見た。
自分の記憶で無くも、身体の奥底に染み付いているヴィジョン。
これは...
ドゴッ‼
景色を振り切るように、墜姫の強烈な鉄槌が屋根瓦を粉砕する。
自分よりもちっぽけな存在の癖に、ごちゃごちゃと説教垂れるのが非常に気に入らない。
鬼となった私は、生命維持活動にも困る事はない。我々鬼こそが、この星における最強の生命体であり、頂点に君臨するべき存在。
お前達人間は、鬼に跪き平伏すべき弱い存在なのだ。
「何をしてもいいのよ。強く美しい鬼はね」
炭治郎はその言葉を皮切りに地を蹴った。
まるで反省の色も見えない。変わらない。
この鬼にこれ以上何を話しても、無駄。
日向子姉さん、悪い。
貴女なら、もう少し粘るかな。
聖女のように優しいお人だから、こんな救いようのない奴等にも慈悲を持てるかもしれないな。
でも、俺は無理だ。
この怒りを鎮められる程俺は
出来た人間じゃない
敵鬼との攻防戦。不思議と、冷静かつ的確に状況を判別している自分がいた。そして、情景が遅く映るのだ。
見える、反応出来る、勝てる
このまま行けば.....
「駄目」
直後、辺り一面隕石が落下したのかと思う位に明るくなった。
墜姫は夜が明けたと錯覚したが、真上には月の形。
その瞬間、無数の流れ星に裂かれるように、帯が布切れとなって宙を舞う。
ーーーーー
〜163【星の巡り】〜
ー星の呼吸 参ノ型
流星 斬り (連郡 )ー
幾星が駆け巡り、血鬼術の帯を次々と切り裂いていく。光速のごとく速い斬撃。
その幻想的な光景は美しくすらあり、墜姫自身も目を奪われた。
この女、見間違えでなければ
ーときと屋の..こいつ、鬼狩りだったのー
墜姫はハッとする。私とした事が、この程度で狼狽えている場合ではない。
帯を分厚く寄り集めるようにしならせたその時、妙に息苦しい感覚を覚えた。
息が...っ
こいつの仕業か?
人間の分際で、妙な技を使ってんじゃないよ
墜姫が日向子に向かって素早く帯を差し向けた、しかし、彼女はそれをかわして懐に詰め入る。
「馬鹿な」
あり得ない..
一反に集約した帯は空気抵抗もない分速い
街中の帯を身体に取り込んだ今、人間がついてこれる速さではない
男の鬼狩りもそうだが、人間ではないのかこいつらっ!
ー星の呼吸 伍ノ型薄明光線 ー
日向子が日輪刀を振り上げると、
いくつもの光の筋が降り注ぐように、墜姫の体が穿たれる。
「っが!」
その傷らは灼けるように熱く上手く再生が出来なかった。さっきの鬼狩りの男と同じだ。
墜姫は気付く。
この女が人並外れて速くなったわけではない。
ー自分の動きが鈍くなったのだとー
トン
日向子は炭治郎を正面から抱え込む体勢で、彼の胸元にぐっと手を当てた。
「大丈夫、もう無理はさせないから」
炭治郎は日向子を見つめる。しかし紅く燃える眼からは血が滴り、その瞳は何処を見ているのかわからない。
心臓ははち切れんばかりに動いているのにも関わらず、彼は肺呼吸をしていなかった。
生命維持活動を停止させ、全て身体能力向上に注いでいる。いわば身体の限界値を超えている状態
日向子は険しい表情を作る。
「自分を殺してはいけない!息をして炭治郎!」
ゴホッ
ひゅっと喉が鳴る音と共に彼は息を吹き返した。
途端に、日向子にもたれかかりながら激しく咳き込む。痛々しいその有り様に、日向子は悔やむ。
わかってたんだ。
炭治郎達が、いくら宇随様に退けと言われたとて、安否が知れない人達がいて、それが鬼の仕業かもしれない事を知って尚、退くのはあり得ない事を。彼は、そういう子だ。
自分のせいで、傷付いてはいけない人々を巻き込むくらいならと、一度は吉原を出た。
けれど
「死ななければいいのでしょう。誰一人として」
その為に私は
ここに戻ってきた
ーーーーー
日向子姉さんを喰う...だと?
どうやら帯鬼は、彼女に個人的な恨みがあるようで、取り逃した事を異様なまでに悔いていた。
「あの女は八つ裂きにしても良かったが、不細工じゃなかった。だから機を待って食ってやるつもりだったのよ、この鯉夏みたいにね。なのに...どこのどいつが逃したのかしら。全く...最近はごちゃごちゃ街も五月蝿いしほんとに腹が立つわっ!」
キーーッと奇声を上げて地団駄を踏む帯鬼に、炭治郎は怯む事なく食いかかる。
「日向子姉さんはここにはもういない!そうでなくともお前なんかに絶対に渡すものか!その人を離せ!」
彼女はピクリと反応し、首を傾げて舐めつけるように炭治郎を睨む。
「..お前..あの女の弟か?はーん..そうなのね」
なら、今ここで死ね
帯が凄まじい勢いでなぶりかかって来る。
炭治郎は咄嗟に刀を振り上げたが、気付けば通りの反対側の屋根瓦に背中を打ち付けていた。
体を打った衝撃でゲホリと咳き込む。
速い
視えなかった
これが上弦の力...
でも、反応出来ていないわけじゃない、でなければ今自分は生きてない。
敵は確実に炭治郎を殺しにかかってきている。反応出来なければ待っているのは、死...
炭治郎は肩紐の千切れた木箱をゴトリと置く。
このまま背負って戦っても返って禰豆子を危険に晒すだけだった。
「禰豆子、箱から出るな。自分の命が危ない時以外は」
炭治郎は箱の中の禰豆子にそう言い聞かせた。
その兄の声色を聞き、禰豆子は心配そうに胸の前で手をギュッと握りしめる。
ー自分の命が危ない時ー
では、他の人が危険に晒されたら?
もしも【兄】が、絶体絶命の時は...私は
炭治郎と墜姫、両者一斉に宙に舞い、互いに技を繰り出しぶつけ合う。
その攻撃の最中炭治郎は、囚われていた鯉夏の帯部分を切り取った。
その光景を見た墜姫はびきりと青筋を立てる。
ー本当に、癪に触る鼠だなー
炭治郎は、今の時点で辛うじて帯鬼についてはいけているものの、刃こぼれしている日輪刀を見て悔しさに唇を噛んだ。
刀は申し分ない。けど、完全に宝の持ち腐れだ。
俺が、使いこなせていない。
どうしても、水の呼吸よりヒノカミ神楽の威力の方が勝るのだ。
ー竈門少年、心を燃やせー
不意に煉獄さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
今の俺なら、やれる。
(ヒノカミ神楽の連撃)
炭治郎は自身の呼吸を、熱気を纏うものへと変えた。
ーーーーー
〜161【狂気と臨界点】〜
炭治郎はヒノカミ神楽の連撃で、墜姫に応戦する。
敵の帯は強靭で当たればひとたまりもないし、接近戦ではヒノカミ神楽の呼吸でやっと避けられる程度。
それでも、一切の油断も許さずに技を繰り出す。隙の糸が見える
けれど...
「おっそいわね。欠伸が出るわ」
ブツリと糸が切れた
咄嗟に受け身を取って数尺先の地面に転がり込んだ。
瞬間、思い出したように体がヒノカミ神楽の連撃による疲労に襲われた。
ドクドクと心臓が激しく鳴り響く、しかし敵は待ってなどくれない。
早く回復しなければっ
間一髪、帯の追撃を避けて体制を整えた。
少し前ならば..この時点で筋一つ足りとも動かせていなかったかもしれない。
でも、炭治郎はある方法でヒノカミ神楽の持続法を見いだした。
ー体温の上昇ー
散々、きよちゃんにはこの鍛錬をやめろと言われていたが、1番効率良く体が動かせる方法だった。
ただ、その仕組みはわからない故に、何らかの代償もあるかもしれないけれど...
大切な物を、二度と奪わせない。守り抜きたい。
その思いが今を突き動かしているから、そんな事考えてなどいられない。
その時、遠くから微かに雄叫びが聞こえてきた。
帯鬼は瞬時に自分の体に帯を取り込み始める。
一瞬ではあるが、攻撃の手がやんだ。
この機を逃しはしまいと炭治郎が刀を鬼の頚に向かって振り切るが、瞬きをした後には忽然と姿を消していた。
刀の感触が無い、空ぶった。
「やっぱり、柱が来てたのね。あの方に喜んで頂けるわぁ」
墜姫はうっとりと恍惚とした表情で屋根から天を見上げていた。その姿は先程までとは異なり、匂いも禍々しいものへと変貌していた。
「おいお前ら!人の家の前で騒ぎ立てるんじゃねぇ!」
一般人の男性が家から外へと出てしまった。
それを境に何事かとザワザワ人が起き始める。
しまった..
「駄目だ下がってください!建物から出るな!!」
咄嗟にそう叫び注意喚起するも、遅かった。
五月蝿いの物を嫌う墜姫は、ビュンと帯を操る。
それは一瞬の出来事だった。
炭治郎が反応出来たのは、目の前の男性を庇う事だけ。しかし、攻撃を見切れたわけではなく
男の腕は切断され、炭治郎自身も肩に深い斬撃を食らってしまう。
「っ!」
速い
それも先程の比ではない
悠然と立ち去ろうとする鬼を呼び止める。
人々の苦しみの声が、匂いが炭治郎を絶え間なく責め立てる。
許せない...
視界が血に滲む程の激しい怒りが、炭治郎の心を奮い立たせた
ーーーーー
〜162【流星の救済】〜
槇寿郎さんは、俺には凄い力があると言ってくれた。
しかし、日の呼吸の使い手に、代々生まれつきあると言われる赤い痣、それは俺の場合、後天的に出来たものだった。
選ばれし日の使い手の条件に、俺は合わない。
それでも、力が足らなくても選ばれた者で無くとも、
人にはどうしても、退けない時があります
それは、理不尽に幸せを奪い去ろうとする禍者がこの世界に蔓延っているから。
罪なき人を傷付ける
日向子姉さんも、そんな世界を嘆いていた。
俺も
絶対に許さない
墜姫は彼が纏う空気感が変わったことに気付いた。
脚を取られた。その瞬間凄まじく灼けるような痛みが襲う。
だが、彼女にとっては【この程度】のダメージ等造作も無い事。すぐさま切り離された脚を取り戻す。
その光景を、炭治郎は血の涙を流しながら憐れ見る。
「生身の人間は、鬼の様にはいかない。奪われたものは二度と戻らない。失われたものは二度と還らない。
奪った罪の重さは計り知れない。それを、お前達は何故わからない?」
灼熱に揺らめく幻影を、少年に重ね見た。
自分の記憶で無くも、身体の奥底に染み付いているヴィジョン。
これは...
ドゴッ‼
景色を振り切るように、墜姫の強烈な鉄槌が屋根瓦を粉砕する。
自分よりもちっぽけな存在の癖に、ごちゃごちゃと説教垂れるのが非常に気に入らない。
鬼となった私は、生命維持活動にも困る事はない。我々鬼こそが、この星における最強の生命体であり、頂点に君臨するべき存在。
お前達人間は、鬼に跪き平伏すべき弱い存在なのだ。
「何をしてもいいのよ。強く美しい鬼はね」
炭治郎はその言葉を皮切りに地を蹴った。
まるで反省の色も見えない。変わらない。
この鬼にこれ以上何を話しても、無駄。
日向子姉さん、悪い。
貴女なら、もう少し粘るかな。
聖女のように優しいお人だから、こんな救いようのない奴等にも慈悲を持てるかもしれないな。
でも、俺は無理だ。
この怒りを鎮められる程俺は
出来た人間じゃない
敵鬼との攻防戦。不思議と、冷静かつ的確に状況を判別している自分がいた。そして、情景が遅く映るのだ。
見える、反応出来る、勝てる
このまま行けば.....
「駄目」
直後、辺り一面隕石が落下したのかと思う位に明るくなった。
墜姫は夜が明けたと錯覚したが、真上には月の形。
その瞬間、無数の流れ星に裂かれるように、帯が布切れとなって宙を舞う。
ーーーーー
〜163【星の巡り】〜
ー星の呼吸 参ノ型
幾星が駆け巡り、血鬼術の帯を次々と切り裂いていく。光速のごとく速い斬撃。
その幻想的な光景は美しくすらあり、墜姫自身も目を奪われた。
この女、見間違えでなければ
ーときと屋の..こいつ、鬼狩りだったのー
墜姫はハッとする。私とした事が、この程度で狼狽えている場合ではない。
帯を分厚く寄り集めるようにしならせたその時、妙に息苦しい感覚を覚えた。
息が...っ
こいつの仕業か?
人間の分際で、妙な技を使ってんじゃないよ
墜姫が日向子に向かって素早く帯を差し向けた、しかし、彼女はそれをかわして懐に詰め入る。
「馬鹿な」
あり得ない..
一反に集約した帯は空気抵抗もない分速い
街中の帯を身体に取り込んだ今、人間がついてこれる速さではない
男の鬼狩りもそうだが、人間ではないのかこいつらっ!
ー星の呼吸 伍ノ型
日向子が日輪刀を振り上げると、
いくつもの光の筋が降り注ぐように、墜姫の体が穿たれる。
「っが!」
その傷らは灼けるように熱く上手く再生が出来なかった。さっきの鬼狩りの男と同じだ。
墜姫は気付く。
この女が人並外れて速くなったわけではない。
ー自分の動きが鈍くなったのだとー
トン
日向子は炭治郎を正面から抱え込む体勢で、彼の胸元にぐっと手を当てた。
「大丈夫、もう無理はさせないから」
炭治郎は日向子を見つめる。しかし紅く燃える眼からは血が滴り、その瞳は何処を見ているのかわからない。
心臓ははち切れんばかりに動いているのにも関わらず、彼は肺呼吸をしていなかった。
生命維持活動を停止させ、全て身体能力向上に注いでいる。いわば身体の限界値を超えている状態
日向子は険しい表情を作る。
「自分を殺してはいけない!息をして炭治郎!」
ゴホッ
ひゅっと喉が鳴る音と共に彼は息を吹き返した。
途端に、日向子にもたれかかりながら激しく咳き込む。痛々しいその有り様に、日向子は悔やむ。
わかってたんだ。
炭治郎達が、いくら宇随様に退けと言われたとて、安否が知れない人達がいて、それが鬼の仕業かもしれない事を知って尚、退くのはあり得ない事を。彼は、そういう子だ。
自分のせいで、傷付いてはいけない人々を巻き込むくらいならと、一度は吉原を出た。
けれど
「死ななければいいのでしょう。誰一人として」
その為に私は
ここに戻ってきた
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