◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜156【月夜の陳謝】〜
「やめて..時透様。こんなところで」
「こんなところじゃなかったら、いいの?」
彼は容赦なく首筋に顔を埋めてきて、続け様に耳を舐めてきた。
思わず上擦った声を上げてしまい咄嗟に手で口元を覆う。無一郎はぴくりと反応した。
その表情は情欲に充てられたようで、到底齢14の少年がするような顔ではない。
「...耳、弱いんだね、可愛いね」
日向子は泣きそうになる。
いくら見知った相手とはいえ、これはいけない事だ。私は最低だ。
じゃあ突き飛ばしてでも履いでればいい。
でも、彼はどういうつもりで私にこんな事するのだろう。
素知らぬ顔で男の人達の相手をしていた報いで、それを分からせるため?
本当に?...
「あのっ私が悪かったです!もう見世にも立ちません、だから....離して、時透様」
そう懇願するが、彼はなかなか引いてくれず、恍惚とした表情を崩す事なく無一郎は彼女の簪をシャラリと揺らした。
「日向子、綺麗だね。」
日向子は悟る。
目の前の彼は、ただ己の欲望のままに私を組み敷いていると。
決定的な意味では手を出して来ない所を見ると、理性はあるのだろうが
ただ、この展開はどうしたものかと..
そう思った時
「おい、その辺にしておけ、時透」
その声を聞くや否や、無一郎は無表情に戻り
声の主を見やる。
眼前には、宇随が前で両腕を組み2人を見下ろしていた。
無一郎は興が醒めたように日向子の上から退くと、宇随を睨みつけた。
「日向子は任務から外させます。彼女は純粋なんです、この街には合わない。理由が何であれ、彼女をこんな目に合わせた貴方を、俺は許せない。」
短気そうな印象を受けた宇随が、無一郎の言葉に一切反論も文句も言わなかった。それどころか彼は、こう語り始めたのだ。
「あぁ...済まなかったと思っている。俺は判断を誤った。時透、お前がすんでのところでこいつを救い出してくれていなければ、責任を負いきれなかったところだ。
日向子、お前はもうときと屋に戻らなくていい。このままこの街を去れ。明日、炭治郎達にも同じ事を伝えるつもりだ。」
...それは、つまり
「任務を離脱しろと言う事ですか?」
宇随はそうだと頷く。
「この街の鬼は、上弦の可能性がある。日向子、俺が言えた義理じゃないが、お前は有名になり過ぎた。鬼に狙われやすいかもしれない。もしもの事があったら、お前の弟に顔向けが出来ない」
彼は申し訳が立たないというように、
顔を歪めたのだった。
ーーーーー
〜157【責務と償い】〜
「..じゃあ、行方不明の奥さん達は?鬼の尻尾は掴めたんですか?」
そう問いかけると、宇随は表情を曇らせた。
「鬼の尻尾はまだ掴めてないが、この後に及んでは強硬手段を取る他ない、それは俺1人で対応する。消息が今日まで分からぬ者は...」
死んだとみなして動く
日向子は耳を疑った。
だって彼は、いたって冷静にそう言うのだ。
結局、奥さん達を亡くなった者とみなしている事に他ならない。
何を、言っているのかわからない。
覇気のない宇随を見て、日向子は心の底から怒りが込み上げる。
咄嗟に彼の胸ぐらを掴み、怒鳴った。
「...ふざけないでください。あなた、旦那さんでしょう!?大切なご家族の生存を、あなたが信じないでどうするんですか!」
目を見開いて呆気に取られる宇随に構う事なく、立て続けにまくし立てる。
ちょっと日向子と肩を掴む無一郎の腕も振り払う。
例え冗談でも、そんな言葉を彼の口から聞きたくなどなかった。
「私達の事を巻き込んだと思ってるんですか?それなら気に病む必要ありません。自分の意思でここにいます。それは、助けを求めてる人達を救いたい思いがあるからです。離脱だけは..嫌です。」
彼女は強い眼差しで宇随を見据えた。
そもそも、上弦の鬼だとしたなら彼等を任務続行させるのは危険過ぎると判断したのだ。
それは、階級が低い為対処できないだろうという理由もあるが、何より失って欲しくないのだ。
ーこいつらには、大切な家族を...仲間達をー
俺が巻き込んだ。そう思っているのは確かにそうなのかもしれない。
柱として失格だ。俺は、いくつもの判断を誤った。
消息の途絶えた嫁達の、安否を何とか確認したい。
救い出したい。その一心だった。
どうか無事でいてくれと願っていた。
人は、大切な物を傷付けられるかもしれないと、失うかもしれないと恐怖した時、
正常な判断ができなくなるものだ。
ここにいる時透も、彼女の弟の炭治郎もそう。
彼等には俺の二の舞になって欲しくない。
だから..
「いいや。やはりお前は降りてくれ日向子。頼む」
「宇随様...」
済まない。
乗り掛かった船だろうが、これだけは俺とて譲れないんだ。
「時透、彼女を吉原から連れて安全な場所まで送り出してくれ。炭治郎達には俺から話す。お前も、あまり烏を困らせるんじゃねぇぞ。指令、来てるんだろう。」
「...はい、わかりました」
無一郎は放心状態の日向子の手を取りその場を去った。
ーーーーー
〜158【血迷う】〜
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「大変よ大変よ!!だれかっ早く旦那さんと女将さん呼んできてー!」
朝方、慌ただしく廊下を駆ける少女達に、何事かと炭治郎は心をざわつかせた。
すれ違った禿の子に状況を確認すると、彼女は信じられない言葉を口にするのでみるみる血の気が引いた。
「炭ちゃん大変!日向子ちゃんがっ..もしかしたら足抜けか、それか..」
彼女に教えられた通り、すぐさま座敷の一郭の中を確認すると、そこはもぬけの殻だった。
先程まで中にいたという男は、昨日日向子姉さんが接客していた男だと言うが、気を失っており別の部屋に既に運ばれていた。
日向子姉さんだけが、居ない
ーそれか....【人攫い】かもしれないー
ドクン
禿の少女の言葉が、頭の中で響く。
もしそうだとしたなら、間違いなく鬼の仕業だ。
ちくしょうっ...
俺が、近くにいながら
昨夜鬼の気配には全く気付かなかった、日向子姉さんの匂いも辿れない。
「ごめん、私行くところが」
「え?ちょっと炭ちゃん!?」
この状況で一体何処へ行くのだと引き止められたが、炭治郎は構わずに屋敷を出て行った。
無我夢中で集合場所に向かった炭治郎、既に伊之助が到着していた。息を切らしながら現れた炭治郎を見て、伊之助は何事かと駆け寄る。
「っ!宇随さんは?!」
「は?まだ来てねぇよ。それよりお前、何でそんなに慌ててんだ?」
ガッと彼の肩を掴んで日向子が昨晩から行方不明になったことを告げると、伊之助は驚愕した。
「とりあえず、一旦落ち着け権八郎!」
「これが落ち着いてられるか!宇随さん達を待てない...俺、彼女を探しにっ
「日向子は大丈夫だ炭治郎」
音も気配もなくすっと現れた宇随は、炭治郎の腕を握りそう伝えた。
嘘の匂いは一切しない彼を見て、ようやく落ち着きを取り戻した炭治郎は、どういうことですか?と尋ねる。
「日向子は、俺が意図的に逃した。もう吉原には居ない。」
「....逃した」
「っ、あいつ..素直に従ったのか?」
宇随は、時透がここに来た事は伏せた上で、日向子の状況を端的に話し始める。
大方理解はした。なんだ...それなら、良かった。
元々、日向子姉さんには早々にこの任務からは引いて欲しがった炭治郎は、安堵する。
そんな、あからさまに感情に揺さぶられる炭治郎を見て、宇随は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
好いた女の為なら、男は強くもなれるが、弱くもなる。炭治郎はそれが、如実なのだ。
ーーーーー
〜159【上弦の陸】〜
「ただ...善逸は来ない。昨夜から連絡が途絶えている。」
彼は、確かにそう言った。二人は一気に絶望に突き落とされた気分だった。連絡が途絶えたという事はつまり...
「お前達には悪い事をしたと思っている。」
宇随は、炭治郎達に吉原から退くようにと告げた。
それでも食い下がろうとしたが、彼は命をみすみす捨てるような真似をするなと言いその場を去った。
宇随がああ言ったという事は、善逸も亡くなったと見做したという事だ。
にわかには信じられない。いや、信じたくない..。きっと何処かで生きている筈だ
俺達が助けないと...
炭治郎は潜入先で得た情報と推測を伊之助に説明する。互いに善逸達の無事を信じ、死なないと誓い合い、今夜、行動に移す事で合意した。
日向子姉さんは、無事に安全な場所まで逃げ切れただろうか?
宇随さんがどういう言い方をしたのかは分からないが、彼女の事だから意地でもここに留まると思っていたのだけど...
一先ずは、宇随さんの言う事を信じるしかない。無事でいてくれているのなら、それでいい。
ー夕暮れ時ー
炭治郎は元の鬼殺隊の隊服を身に纏い、長屋の屋根に舞い降りた。
久方ぶりに触れた日輪刀を握りあたりの気配を探る。伊之助の待つ荻本屋に向かわなければいけないが、既に日が落ちかけていた。
その時
「っ...甘い匂い」
ーー鬼だーー
鬼の匂いが鼻を掠める。そしてその匂いは、この長屋から発せられているようだった。
ほぼ真下....鯉夏花魁の部屋か?
そんなまさか
バッと屋根から窓枠へと飛び移ると、シュルシュルと生き物のようにうごめく帯が視界に入った。
「鬼狩りの子?来たのね」
艶気を含む低い声でそう呟いた女は、うごめく帯と同じ柄の物を纏っており、右側には帯に巻かれた鯉夏花魁が苦しそうに呻いている。
首から頭までしか確認出来ない。この帯は鬼の血鬼術か?
「何人で来たの?1人は黄色い頭の醜いガキでしょう?柱はもうすぐ来る?もう来てる?あんたは柱じゃないわね、弱そうだものね?」
立て続けに質問を投げかけてくる鬼からは、一切の質問返し等を許しはしないという覇気を感じた。
「柱じゃない者は要らないのよ。わかる?私は汚い年寄りと不細工は食べないし、ちょっと..気が立ってんのよ私。狙ってた獲物を食えなかったからね。」
そう言って鬼はギリィと鋭い八重歯を剥き出しにし、おどろおどろしい気を放つ。
「ときと屋の日向子は私が喰う筈だったのにっ!」
ーーーーー
「やめて..時透様。こんなところで」
「こんなところじゃなかったら、いいの?」
彼は容赦なく首筋に顔を埋めてきて、続け様に耳を舐めてきた。
思わず上擦った声を上げてしまい咄嗟に手で口元を覆う。無一郎はぴくりと反応した。
その表情は情欲に充てられたようで、到底齢14の少年がするような顔ではない。
「...耳、弱いんだね、可愛いね」
日向子は泣きそうになる。
いくら見知った相手とはいえ、これはいけない事だ。私は最低だ。
じゃあ突き飛ばしてでも履いでればいい。
でも、彼はどういうつもりで私にこんな事するのだろう。
素知らぬ顔で男の人達の相手をしていた報いで、それを分からせるため?
本当に?...
「あのっ私が悪かったです!もう見世にも立ちません、だから....離して、時透様」
そう懇願するが、彼はなかなか引いてくれず、恍惚とした表情を崩す事なく無一郎は彼女の簪をシャラリと揺らした。
「日向子、綺麗だね。」
日向子は悟る。
目の前の彼は、ただ己の欲望のままに私を組み敷いていると。
決定的な意味では手を出して来ない所を見ると、理性はあるのだろうが
ただ、この展開はどうしたものかと..
そう思った時
「おい、その辺にしておけ、時透」
その声を聞くや否や、無一郎は無表情に戻り
声の主を見やる。
眼前には、宇随が前で両腕を組み2人を見下ろしていた。
無一郎は興が醒めたように日向子の上から退くと、宇随を睨みつけた。
「日向子は任務から外させます。彼女は純粋なんです、この街には合わない。理由が何であれ、彼女をこんな目に合わせた貴方を、俺は許せない。」
短気そうな印象を受けた宇随が、無一郎の言葉に一切反論も文句も言わなかった。それどころか彼は、こう語り始めたのだ。
「あぁ...済まなかったと思っている。俺は判断を誤った。時透、お前がすんでのところでこいつを救い出してくれていなければ、責任を負いきれなかったところだ。
日向子、お前はもうときと屋に戻らなくていい。このままこの街を去れ。明日、炭治郎達にも同じ事を伝えるつもりだ。」
...それは、つまり
「任務を離脱しろと言う事ですか?」
宇随はそうだと頷く。
「この街の鬼は、上弦の可能性がある。日向子、俺が言えた義理じゃないが、お前は有名になり過ぎた。鬼に狙われやすいかもしれない。もしもの事があったら、お前の弟に顔向けが出来ない」
彼は申し訳が立たないというように、
顔を歪めたのだった。
ーーーーー
〜157【責務と償い】〜
「..じゃあ、行方不明の奥さん達は?鬼の尻尾は掴めたんですか?」
そう問いかけると、宇随は表情を曇らせた。
「鬼の尻尾はまだ掴めてないが、この後に及んでは強硬手段を取る他ない、それは俺1人で対応する。消息が今日まで分からぬ者は...」
死んだとみなして動く
日向子は耳を疑った。
だって彼は、いたって冷静にそう言うのだ。
結局、奥さん達を亡くなった者とみなしている事に他ならない。
何を、言っているのかわからない。
覇気のない宇随を見て、日向子は心の底から怒りが込み上げる。
咄嗟に彼の胸ぐらを掴み、怒鳴った。
「...ふざけないでください。あなた、旦那さんでしょう!?大切なご家族の生存を、あなたが信じないでどうするんですか!」
目を見開いて呆気に取られる宇随に構う事なく、立て続けにまくし立てる。
ちょっと日向子と肩を掴む無一郎の腕も振り払う。
例え冗談でも、そんな言葉を彼の口から聞きたくなどなかった。
「私達の事を巻き込んだと思ってるんですか?それなら気に病む必要ありません。自分の意思でここにいます。それは、助けを求めてる人達を救いたい思いがあるからです。離脱だけは..嫌です。」
彼女は強い眼差しで宇随を見据えた。
そもそも、上弦の鬼だとしたなら彼等を任務続行させるのは危険過ぎると判断したのだ。
それは、階級が低い為対処できないだろうという理由もあるが、何より失って欲しくないのだ。
ーこいつらには、大切な家族を...仲間達をー
俺が巻き込んだ。そう思っているのは確かにそうなのかもしれない。
柱として失格だ。俺は、いくつもの判断を誤った。
消息の途絶えた嫁達の、安否を何とか確認したい。
救い出したい。その一心だった。
どうか無事でいてくれと願っていた。
人は、大切な物を傷付けられるかもしれないと、失うかもしれないと恐怖した時、
正常な判断ができなくなるものだ。
ここにいる時透も、彼女の弟の炭治郎もそう。
彼等には俺の二の舞になって欲しくない。
だから..
「いいや。やはりお前は降りてくれ日向子。頼む」
「宇随様...」
済まない。
乗り掛かった船だろうが、これだけは俺とて譲れないんだ。
「時透、彼女を吉原から連れて安全な場所まで送り出してくれ。炭治郎達には俺から話す。お前も、あまり烏を困らせるんじゃねぇぞ。指令、来てるんだろう。」
「...はい、わかりました」
無一郎は放心状態の日向子の手を取りその場を去った。
ーーーーー
〜158【血迷う】〜
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「大変よ大変よ!!だれかっ早く旦那さんと女将さん呼んできてー!」
朝方、慌ただしく廊下を駆ける少女達に、何事かと炭治郎は心をざわつかせた。
すれ違った禿の子に状況を確認すると、彼女は信じられない言葉を口にするのでみるみる血の気が引いた。
「炭ちゃん大変!日向子ちゃんがっ..もしかしたら足抜けか、それか..」
彼女に教えられた通り、すぐさま座敷の一郭の中を確認すると、そこはもぬけの殻だった。
先程まで中にいたという男は、昨日日向子姉さんが接客していた男だと言うが、気を失っており別の部屋に既に運ばれていた。
日向子姉さんだけが、居ない
ーそれか....【人攫い】かもしれないー
ドクン
禿の少女の言葉が、頭の中で響く。
もしそうだとしたなら、間違いなく鬼の仕業だ。
ちくしょうっ...
俺が、近くにいながら
昨夜鬼の気配には全く気付かなかった、日向子姉さんの匂いも辿れない。
「ごめん、私行くところが」
「え?ちょっと炭ちゃん!?」
この状況で一体何処へ行くのだと引き止められたが、炭治郎は構わずに屋敷を出て行った。
無我夢中で集合場所に向かった炭治郎、既に伊之助が到着していた。息を切らしながら現れた炭治郎を見て、伊之助は何事かと駆け寄る。
「っ!宇随さんは?!」
「は?まだ来てねぇよ。それよりお前、何でそんなに慌ててんだ?」
ガッと彼の肩を掴んで日向子が昨晩から行方不明になったことを告げると、伊之助は驚愕した。
「とりあえず、一旦落ち着け権八郎!」
「これが落ち着いてられるか!宇随さん達を待てない...俺、彼女を探しにっ
「日向子は大丈夫だ炭治郎」
音も気配もなくすっと現れた宇随は、炭治郎の腕を握りそう伝えた。
嘘の匂いは一切しない彼を見て、ようやく落ち着きを取り戻した炭治郎は、どういうことですか?と尋ねる。
「日向子は、俺が意図的に逃した。もう吉原には居ない。」
「....逃した」
「っ、あいつ..素直に従ったのか?」
宇随は、時透がここに来た事は伏せた上で、日向子の状況を端的に話し始める。
大方理解はした。なんだ...それなら、良かった。
元々、日向子姉さんには早々にこの任務からは引いて欲しがった炭治郎は、安堵する。
そんな、あからさまに感情に揺さぶられる炭治郎を見て、宇随は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
好いた女の為なら、男は強くもなれるが、弱くもなる。炭治郎はそれが、如実なのだ。
ーーーーー
〜159【上弦の陸】〜
「ただ...善逸は来ない。昨夜から連絡が途絶えている。」
彼は、確かにそう言った。二人は一気に絶望に突き落とされた気分だった。連絡が途絶えたという事はつまり...
「お前達には悪い事をしたと思っている。」
宇随は、炭治郎達に吉原から退くようにと告げた。
それでも食い下がろうとしたが、彼は命をみすみす捨てるような真似をするなと言いその場を去った。
宇随がああ言ったという事は、善逸も亡くなったと見做したという事だ。
にわかには信じられない。いや、信じたくない..。きっと何処かで生きている筈だ
俺達が助けないと...
炭治郎は潜入先で得た情報と推測を伊之助に説明する。互いに善逸達の無事を信じ、死なないと誓い合い、今夜、行動に移す事で合意した。
日向子姉さんは、無事に安全な場所まで逃げ切れただろうか?
宇随さんがどういう言い方をしたのかは分からないが、彼女の事だから意地でもここに留まると思っていたのだけど...
一先ずは、宇随さんの言う事を信じるしかない。無事でいてくれているのなら、それでいい。
ー夕暮れ時ー
炭治郎は元の鬼殺隊の隊服を身に纏い、長屋の屋根に舞い降りた。
久方ぶりに触れた日輪刀を握りあたりの気配を探る。伊之助の待つ荻本屋に向かわなければいけないが、既に日が落ちかけていた。
その時
「っ...甘い匂い」
ーー鬼だーー
鬼の匂いが鼻を掠める。そしてその匂いは、この長屋から発せられているようだった。
ほぼ真下....鯉夏花魁の部屋か?
そんなまさか
バッと屋根から窓枠へと飛び移ると、シュルシュルと生き物のようにうごめく帯が視界に入った。
「鬼狩りの子?来たのね」
艶気を含む低い声でそう呟いた女は、うごめく帯と同じ柄の物を纏っており、右側には帯に巻かれた鯉夏花魁が苦しそうに呻いている。
首から頭までしか確認出来ない。この帯は鬼の血鬼術か?
「何人で来たの?1人は黄色い頭の醜いガキでしょう?柱はもうすぐ来る?もう来てる?あんたは柱じゃないわね、弱そうだものね?」
立て続けに質問を投げかけてくる鬼からは、一切の質問返し等を許しはしないという覇気を感じた。
「柱じゃない者は要らないのよ。わかる?私は汚い年寄りと不細工は食べないし、ちょっと..気が立ってんのよ私。狙ってた獲物を食えなかったからね。」
そう言って鬼はギリィと鋭い八重歯を剥き出しにし、おどろおどろしい気を放つ。
「ときと屋の日向子は私が喰う筈だったのにっ!」
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